第12回レジュメ

『不動産のための計量分析』レジュメ
クラス担当教員名※1
NO.1 0
学籍番号※2
学部・学科名
氏
名※2
提出日
※1:履修登録したクラスの担当教員名を書く ※2:学籍番号及び氏名が未記入のもの,また授業終了後に提出されたものは採点しないので,注意すること.
6.重回帰分析の応用-地代関数を推計しよう
6.1
データ加工1-変数変換
これまでの講義では,回帰分析は線形関係(分布図を用いると直線に近い関係になっている)を想定していますが,実際には多種多
様な非線形関係(直線ではない)があり,むしろ線形関係の方が少ないぐらいです.例えば,この講義で目的としている地価関数も線
形関係ではないことが分かっています.図 6- 1は東京 23 区の公示地価と都心からの距離をプロットしたものです.何となく関係があ
りそうですが,直線ではなさそうですね.
図 6- 1
円/㎡
中央線沿線の地価と新宿駅からの距離
何となくこんな曲線が見
えませんか
40000000
東京23区
35000000
30000000
25000000
こんな曲線も
ありそう
20000000
15000000
10000000
5000000
0
0
5
10
15
都心からの距離(km)
20
このような線形関係ではない,非線形関係の変数を回帰分析する場合は,データを変換することによって,回帰式を線形関係で表現
して回帰分析を行います.
(1) 簡単な事例
図 6- 2は日本の物価上昇率と完全失業率をプロットしたものです.何となく,赤線のような関係が見て取れます(直線の緑線よりは
当てはまりが良さそうです).
図 6- 2 日本の物価上昇率と完全失業率
消費者物価上昇率(%)
6
5
4
何となく緑では
なく赤の関係が
あるような
3
2
1
完全失業率
0
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
5.5
-1
-2
一般的には物価上昇率と完全失業率には下式(1)のような関係があるといわれています(フィリップス曲線と呼ばれている).
P =α + β
この場合は,
1
+u
U
(Pは物価上昇率,Uは完全失業率)
X =
1
U
となる変数Xを作ると,((1)式に
(1)
X =
1
1
U
を代入してください)
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クラス担当教員名※1
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学籍番号※2
学部・学科名
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提出日
※1:履修登録したクラスの担当教員名を書く ※2:学籍番号及び氏名が未記入のもの,また授業終了後に提出されたものは採点しないので,注意すること.
P = α + βX + u
(2)
と線形式になることが分かります.これで,5.で学んだ重回帰分析が可能となります.
作業1 Ecoome_06_10.xls のシート名“フィリップス曲線”を用いて,基のデータを線形で推計し,変数変換して分数関数で推計した
結果を比較しよう.
1) 変数を変換するなど加工する場合は基のデータを崩さず取っておきましょう.この場合,推計作業をする場所を右側に作り,被説
明変数の横の行に説明変数(1/u)の行を作ります.
図 6- 3 作業スペースの作成
作業スペース
I列に1/Uを数式
(+1/h5)を入れて下
にドラッグコピー
G列に物価上昇率を
数式(+d5)を入れて
下にドラッグコピー
H列に完全失業率数
式(+E5)を入れて下
にドラッグコピー
2) 被説明変数を p,説明変数を u として回帰分析をしてください.
3) 次に,被説明変数を p,説明変数を 1/u として回帰分析をして,2)の結果と比較してください.
(2) 主な変数変換
このような,非線形式への変数変換の主なものをまとめたものが,表 6- 1です.分数関数と二次関数はだいたいおわかりだと思いま
すが,図 6- 4が分数関数
y=
1
と二次関数
x
y = x 2 のグラフです.理論的にこのような関数になる場合や,プロットしてこのよう
な図になっていれば,(1)でやったように変数変換を行って推計しましょう.
非線形関数
分数関数
(a)
(b)
(c)
(d)
y =α +
β
x
二次関数
y = α + β 0 x + β1 x 2
対数関数
y = αx β
半対数関数
y = eα + βx
ロジスティック関数
(e)
y=
e α + βx
1 + eα + βx
表 6- 1 主な非線形式の変数変換
線形化変換
線形式
X =
1
x
y = α + βX
制約条件
(x ≠ 0)
z = x2
y = α + β 0 x + β1 z
Y = log y, X = log x
Y = logα + βx
(x > 0, y > 0,α > 0)
Y = log y
Y = α + βx
( y > 0)
⎛ y ⎞
⎟⎟
Y = log ⎜⎜
⎝1− y ⎠
Y = α + βx
(0 < y < 1)
2
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図 6- 4
分数関数と二次関数
二次関数(y)
分数関数(y)
12
30
25
10
8
分数関数
y=
6
1
x
二次関数
20
y = x2
15
4
10
2
5
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
0
(3) 対数関数の意味
さて,表 6- 1の中で最も使うのが対数関数です.これは,「不動産のための応用経済」で学んだ弾力性と関係があります.
例えば,需要の価格弾力性とは,需要量の変化率と価格の変化率の割合でした.式で表すと,
需要の価格弾力性=-
需要の変化率
(新しい需要量-元の 需要量)/(元の需要 量)
=-
価格の変化率
(新しい価格-元の価 格)/(元の価格)
となります.
ここで,計算式は省きますが(詳しく知りたい人は各担任か,基礎数学の先生に聞こう),
変数変換 Y = log y, X = log x を行って,推計した, Y = log α + β X ,の回帰係数βは基のデータ xy(大文字の XY ではないことに
注意)の弾力性を示します.
ここでは,弾力性が β となりますので,弾力性一定を仮定していることになります.
図 6- 5
弾力性一定の対数関数
弾力性1.5
弾力性0.75
y
y
x
x
3
『不動産のための計量分析』レジュメ
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学籍番号※2
学部・学科名
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では,対数変換は今後使う公示地価データを用いてやってみましょう.Ecoome_06_land.xls のシート名“住宅地”は 1997~2005 年の
公示地価の実際のデータです.公示地価データは http://tochi.mlit.go.jp/ からDLすることができます.今回は講義で使いやすいよう
に中央線沿線だけをまとめています.
図 6- 6
地価データファイル
データの内容
ファイルは住宅地とそれ以外でシートを分けています.各々には下記のデータが入っています.
A.no
G.形状
M.整備の状況
S.容積率(%)
作業2
B.都道府県名
H.比率
N.最寄りの駅
T.防火地域
C.区町村名
D.住居表示
E.価格(円/㎡)
I.利用の現況
J.構造
K.周辺の現況
O.新宿から時間(分)P.距離(㎞) Q用途地域
U.調査年度
F.地積(㎡)
L.道路の状況
R.建ぺい率(%)
Ecoome_06_land.xls のシート名“住宅地”を用いて,簡単な地価関数を推計しましょう.ここでは,被説明変数を単位面積あ
たりの地価とし,説明変数を地積(土地の面積),新宿からの時間と,最寄り駅からの距離,容積率,建ぺい率の5変数の重
回帰分析にしましょう.
1) ここでも,変数を変換するなど加工する場合は基のデータを崩さず取っておきましょう.まず,線形で推計するために,被説明変
数(単位面積あたりの地価)を W 行に,説明変数を X,Y,Z,AA,AB の行に作ります.
2) 線形関数の地価関数を推計してください.出力はシート名“レポート”にしてください.
3) 次に,被説明変数を対数にしたデータを AD 行に,説明変数を対数にしたデータを AE,AF,AG,AH,AI 行に作成し,対数変換
した地価関数を推計して下さい.出力はシート名“レポート”にしてください.
対数への変換は,セル ad5 に以下の関数を代入してください.
+ln(w5)
他の変数も同様に対数変換を行ってください.
4) さて,この線形関数による地価関数の推計結果と,対数変換した地価関数の推計結果から何が言えるか“レポート”に簡単に記し
てください.また,地積の係数がマイナスになっている意味を考えてみましょう.
☆注意☆推計の結果,容積率と建ぺい率の係数が,対数と実数で違っていることが分かります.追って説明しますが,容積率と建ぺ
い率の間に関係があるからです.
4
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クラス担当教員名※1
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学部・学科名
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6.2 ダミー変数
公示地価の変数には量的な変数だけではなく,定性的な変数(質変数とも言います)が入っています.
前回用いた価格,地積,新宿からの時間や,最寄り駅からの距離は量で表すことができる量的変数です.そのほかに容積率や建ぺい
率も量的変数です.ところが,用途地域はどうでしょうか.
☆用途地域の復習(知らないなんて言うと阪本先生に怒られますよ.)★
用途地域は,住居,商業,工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもので,12 種類あります.用途地域が指定されると,そ
れぞれの目的に応じて,建てられる建物の種類が決められます.地域の目指すべき土地利用の方向を考えて,いわば色塗りが行われる
わけです.
表 6- 2 用途地域(()内はエクセルデータ内表記)
第一種低層住居専用地域(1低専)
第二種低層住居専用地域(2低専)
第一種中高層住居専用地域(1中専)
低層住宅のための地域です.小規模なお店や事務
所をかねた住宅や,小中学校などが建てられます.
主に低層住宅のための地域です.小中学校などの
ほか,150 ㎡までの一定のお店などが建てられま
す.
中高層住宅のための地域です.病院,大学,500 ㎡ま
での一定のお店などが建てられます.
第二種中高層住居専用地域(2中専)
第一種住居地域(1住居)
第二種住居地域(2住居)
主に中高層住宅のための地域です.病院,大学など
のほか,1,500 ㎡までの一定のお店や事務所など
必要な利便施設が建てられます.
住居の環境を守るための地域です.3,000 ㎡まで
の店舗,事務所,ホテルなどは建てられます.
主に住居の環境を守るための地域です.店舗,事務
所,ホテル,カラオケボックスなどは建てられま
す.
準住居地域
近隣商業地域
商業地域
道路の沿道において,自動車関連施設などの立地
と,これと調和した住居の環境を保護するための
地域です.
まわりの住民が日用品の買い物などをする地域
です.住宅や店舗のほかに小規模の工場も建てら
れます.
銀行,映画館,飲食店,百貨店などが集まる地域で
す.住宅や小規模の工場も建てられます.
準工業地域
工業地域
工業専用地域
主に軽工業の工場やサービス施設等が立地する
地域です.環境悪化が大きい工場のほかは,ほとん
ど建てられます.
どんな工場でも建てられる地域です.住宅やお店
は建てられますが,学校,病院,ホテルなどは建て
られません.
工場のための地域です.どんな工場でも建てられ
ますが,住宅,お店,学校,病院,ホテルなどは建てら
れません
このような量では表すことができないが,そのデータの質を表す変数のことを質的変数といいます.回帰分析の説明変数としては,
量的変数だけではなく,定性的な要因で変動する質的変数も使うことが出来ます.クロスセクションでは用途や構造,その他特別な地域
(田園調布や,大久保など特別な地域を表す変数)変数,タイムシリーズ(時系列分析)では季節要因や構造変化を表す変数がある.
これらの質的変数を回帰分析するときには質的変数を数値化する必要があり,質的変数を数値に変換した変数をダミー変数と言いま
す.
図 6- 7
クロスセクションとタイムシリーズ
クロスセクションデータ
空間(グループ
属性等)
・
・
・
市川市
浦安市
船橋
・
・・・・・ t-1
t
タイムシリーズ
t+1 t+2・・・・・
時間
(1) 定数項ダミー
地価関数で,第一種低層住居専用地域が他の地域より一律地価が高くなっているかを検討しましょう.ここで,第一種低層住居専用
地域の土地には 1,その他の土地には 0 となる変数 dh1 を導入してみよう.excel では if 関数を使うと簡単にダミー変数を作ることがで
きます.セル aj5に以下の関数を入れてみてください.
+if($q5=”1低専”,1,0) ここで,1低専以外は半角で入力してください.
この関数はセル q5 が1低専であれば1を,それ以外であれば0を返す関数です.
これをドラッグして全データにコピーしてください.変数名は dh1 としましょう(セル ad4 に書き込む).
5
『不動産のための計量分析』レジュメ
クラス担当教員名※1
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学籍番号※2
学部・学科名
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※1:履修登録したクラスの担当教員名を書く ※2:学籍番号及び氏名が未記入のもの,また授業終了後に提出されたものは採点しないので,注意すること.
さて,ここでは y を単位あたりの地価(以下地価と記す),x1 を新宿からの時間,x2 を最寄りからの距離とすると
y = α + β 1 x 1 + β 2 x 2 + γ dh 1 + u
(以後uは省略)
(1)
となります.
これは
第一種低層住居専用地域:
そ
の
他
地
域:
y = (α + γ ) + β 1 x 1 + β 2 x 2
y = α + β 1 x1 + β 2 x 2
(3)
(4)
ガンマ
として,その違いを切片に反映させたことになり,切片の差 γ は第一種低層住居専用地域と,その他の土地の地価の差となります.
で,この変数 dh1 を定数項ダミーと呼びます.
さて,Ecoome_06_land.xls のシート名“住宅地”では住宅地のデータを集めましたので,上記の用途地域のうち住居系の6地域のう
ち第二種低層住居専用地域がありませんので,第一種低層住居専用地域(1低専)
,第一種中高層住居専用地域(1中専)
,第二種中高
層住居専用地域(2中専)
,第一種住居地域(1住居),第二種住居地域(2住居)の5地域があります.
さて,ここで用途地域の質を地価関数に導入するためには幾つのダミー変数が必要か考えてみましょうか.
上記では,第一種低層住居専用地域(dh1=1)とその他地域(dh1=0)の2地域でダミー変数は1個でした.ここで,その他地域のダ
ミー変数 dh0(第一種低層住居専用地域(dh0=0)とその他地域(dh0=1))を導入すると,完全な多重共線性(追って説明します)とな
りますので dh0 を入れることはできません.
このおうに,ある質的要因(ここでは用途地域)でn種類の質(ここでは,5種類の用途)があれば,ダミー変数は n-1 個で良いこ
とになります.
この地価データでは1低専,1中専,2中専,1住居,2住居の5地域ですから,ダミー変数は4つ必要になります.
ここでは1低専ダミー(dh1),1中専ダミー(dh2),2中専ダミー(dh3),1住居ダミー(dh4)の4つを作りますので,基準(ダ
ミーなし)は2住居となります.
作業3
シート“住宅地”の AJ から AN にダミー変数を作りましょう.ダミー変数の作り方は前ページに記した+if($q5=”1低専”,1,0)
を使います.
1) 対数変換したデータに1低専ダミー(dh1),1中専ダミー(dh2),2中専ダミー(dh3),1住居ダミー(dh4)を加えて推計してく
ださい.
2) 推計結果から全く説明力がないダミー変数がありますので,これらを除いて再推計し,推計結果から何が言えるかシート“レポー
ト”に書き込んでください.
図 6- 8が用途別の地域関数をプロットした図です.(3),(4)式では切片がγだけ乖離すると記しましたが,地価関数は両辺対数に変
換していますので,変換後の ln(地価)はγ分乖離しますが,元の地価はγだけ平行移動するのではなく,ある割合分乖離することに
なります.(詳しく知りたい人は基礎数学の先生に聞こう.)
図 6- 8
用途地域別地価関数
単位あたり地価(円/㎡)
6,000
5,000
4,000
その他=基準値
3,000
2中専
2,000
1,000
1低専
0
4
8
12
16
20
24
28
32
新宿からの時間距離(分)
6
36
40
44
48
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地価データの中でもう一つ質的要因があります.防火地域指定(T 列)で,都市計画区域内で都市防災上の観点から建物の構造に制
限が加えられる指定です.『防火地域』と『準防火地域』に分けられ,その基準は下記のようになっています(計画系の先生方は教え
ているかな???).
防火地域
準防火地域内
表 6- 3 防火地域
主に商業地域において指定されます.この地域内では,地階を含む階数が3以上か,または延べ面積が 100 平方メー
トルを超える建物は耐火建築物とし,それ以外の小規模な建物でも耐火建築物もしくは準耐火建築物としなければな
りません.防火地域内での建物は,鉄筋コンクリート造,鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄骨造などとし,小規模であっ
ても(準耐火建築物に該当しない)一般の木造建物は禁止されます.ただし,高さが2メートル以下の門または塀,
延面積が 50 平方メートル以内の平家建付属建物で外壁及び軒裏が防火構造のものなど,例外的に木造が認められる
ものもあります.
建物の規模に応じて耐火建築物としなければならないもの,耐火建築物または準耐火建築物にするもの,木造建築物
でも良いものが規定されています.準防火地域内で可能な一般の木造建築物は,延べ面積が 500 平方メートルまでで,
かつ3階建て以下となっていますが,この場合も主要構造部や延焼の恐れのある部分などについて,防火の基準など
が細かく定められています.
作業4 作業3で推計した地価関数(両辺対数)に,新たに準防火地域ダミーを導入して地価関数を推計してください.
1) ここでは,両地域に指定されていない地域を基準として準防火ダミー(db1)を加えましょう.当該地域には,防火地域は9件し
かないので,ここでは推計に用いません.
(2) 係数ダミー
用途地域によって,地価の差が定数項ではなく,新宿からの距離にも影響するかもしれません.これを考慮するのが係数ダミーです.
ここで,新宿からの距離 x1 と用途地域ダミー変数 dh1 をかけあわせた,新たな説明変数 dh
y = α + γ dh 1 + β 1 x 1 + β 2 x 2 + δ (dh 1 × x 1 )
1 × x 1 を取り入れ
(8)
とします.
すると,第一種低層住居専用地域では,dh1=1 ですから,
y = α + γ + (β 1 + δ )x 1 + β 2 x 2
(9)
第一種低層住居専用地域以外の地域では,dh1=0 ですから,
y = α + β 1 x1 + β 2 x 2
(10)
となります.
デルタ
これは,新宿からの距離(変数 x1)の係数が,第一種低層住居専用地域では(β1+ δ )で,その他地域では β1 となっていることに
なります.(1)で学んだ定数項ダミーが切片の違いだったのに対して,ここでは傾きが違うことになります.この場合の変数 dh
1 × x1
を係数ダミーと呼び,用途地域と新宿からの距離の相乗効果を表します.
作業5
1)
作業4で推計した地価関数(両辺対数)に,用途別地域に新宿からの距離および最寄り駅からの距離を乗じた係数ダミーを導
入して地価関数を推計してください.
ここで,新たに導入する説明変数は dh1×(ln(新宿からの距離)),dh3×(ln(新宿からの距離)),dh1×(ln(最寄り駅からの距離)),dh3×(ln(最
寄り駅からの距離))の4つです.
(3) 構造変化ダミー
作業5までである程度説明力の高い地価関数が推計できました.さて,地価はここで説明変数として入れた都心(新宿)からの距離,
最寄り駅からの距離,用途地域,容積率・建ぺい率以外にも様々な要因で決まってきます(“都市の経済学”の宅間先生や“環境と経
済”の加藤先生に聞こう).都市のアメニティ(利便性)や都市環境も地価を決定する要因になります.これらの要因が同じ最寄り駅
なら等しいと考えると,最寄り駅によって構造が違っていると考えることも可能です.あるいは,作業5で使った説明変数以外で重要
な変数が何か分からないが,最寄り駅によって置き換えが可能だと考えても結構です.
このように考えると,最寄り駅によって地価決定の構造が異なっているとして,構造変化ダミーを用いることができます.構造変化
ダミーの使い方は(1)定数項ダミーや(2)係数ダミーと同じです.このように,駅間で構造変化ダミーを導入するときは,既に推計してい
る地価関数の駅別の残差と標準偏差を参考にすると役立ちます(表 6- 4参照).表 6- 4から,高円寺,高尾,中野が理論値より実績値
が安くなり,立川,国立,豊田などが理論値より高くなっていることが分かります.これはかなり問題です.高円寺と中野は新宿駅か
ら近く,立川,国立,豊田は新宿駅から遠く隣接した駅です.これらの影響で“新宿からの距離”の回帰係数に重要な問題をもたらし
ている可能性があります.高円寺や中野は新宿からの距離が近いので,宅間先生の“都市の経済学”で学んだように,新宿からの外部
7
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クラス担当教員名※1
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学部・学科名
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不経済かもしれません.立川,国立,豊田が高いのは,立川がもう一つの都心になっている可能性や,都市環境の問題化もしれません.
駅
データ数
高円寺
高尾
中野
西八王子
荻窪
八王子
東小金井
西荻窪
国分寺
表 6- 4 駅別残差平均と標準偏差
平均残差 標準偏差
駅
データ数
36
175
54
104
63
365
58
99
71
-0.3215
-0.1864
-0.1796
-0.1135
-0.1042
-0.0737
-0.0526
-0.0513
-0.0147
立川
国立
豊田
三鷹
吉祥寺
日野
武蔵境
西国分寺
武蔵小金井
0.1135
0.2974
0.1524
0.3149
0.0854
0.3120
0.1666
0.1202
0.1260
平均残差
標準偏差
0.1982
0.1858
0.1657
0.1052
0.1049
0.0690
0.0661
0.0218
0.0138
0.1373
0.1555
0.1938
0.1432
0.1323
0.2093
0.1251
0.1472
0.1607
101
135
98
183
93
86
129
63
155
作業5で推計した地価関数(両辺対数)に,最寄り駅が中野・高円寺のダミー変数 dnk と,最寄り駅が立川・国立・豊田のダ
ミー変数 dt を,定数項ダミーのように説明変数として地価関数を推計してください.
ダミー変数を作成する関数は+if($n5=”中野”,1, if($n5=”高円寺”,1,0)), +if($n5=”立川”,1, if($n5=”国立”,1,if($n5=”豊田”,1,0)))を使いま
す.
この駅ダミーを入れると,説明力が無くなる変数があります.なぜ説明力が無くなるのかを考えてレポートに記入してください.
作業6
1)
2)
6.3 推計上の問題点
(1) 多重共線性
5章で述べたように,重回帰分析に用いる説明変数は独立であることが必要です.
y = α + β 1 x1 + β 2 x 2 + u
において
x 2 = λ x1
という関係であれば(x1 と x2 が従属)
y = α + (β 1 + λβ
2
)x 1
+ u
となり,x2 は意味を持たなくなります.このような完全な従属関係でなくても,説明変数間に高い相関関係が有れば同じような問題
が生じます.このような関係を多重共線性といいます.多重共線性への対処はかなり高度なテクニックが必要で,excel では困難です
ので,以下では簡単な検討方法を記します.
多重共線性は説明変数間で高い相関関係がある場合に生じるので,説明変数間の相関係数を精査する必要があります.表 6- 5は今回
推計に使った変数間の相関係数です.これは excel の分析ツールにある相関で簡単に求められます.また,接面道路はL列にある道路
の状況から取ったものです.さて,この表を見ると,相関係数が高いのは建ぺい率と容積率が互いに相関が強いとともに,用途地域と
も相関が高いことが分かります.また,これらは後述の外生性の問題も含んでいます.
多重共線性があるかどうかの判断は非常に難しいのですが,個別に説明変数を入れて推計すると決定係数の符号や t 値に問題がない
のに,同時に説明変数に入れた場合に t 値が小さくなったり,符号が変わったりした場合は多重共線性があると判断して良いでしょう.
まず,容積率と建ぺい率の関係を考えましょう.建ぺい率はある土地に,建物(住宅)を建てることができる面積の比率で,容積率
はある土地に建てることが出来る建物の床面積の比率なので,建ぺい率が高い土地は容積率が高くなっています.そこで,建ぺい率を
建物の広さを表す変数として,(容積率/建ぺい率)を高さを表す変数として導入するもできる.ただし,これでも両変数の相関係数
は 0.723 と高いままである.このような対処の方法はマンションの賃貸料,分譲価格でも使えます.マンションの賃貸料や分譲価格の
推計を行う際には,そのマンションの総階数と部屋が入っている階数を入れる場合がありますが,これも容積率と建ぺい率と同様,多
重共線性,外生性の問題があり,総階数と(入っている階数/総階数)とすると問題が少し解消されます.
作業7
作業6で推計した地価関数の容積率を(容積率/建ぺい率)に替えて推計してください.
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『不動産のための計量分析』レジュメ
クラス担当教員名※1
学籍番号※2
学部・学科名
NO.1 0
氏
名※2
提出日
※1:履修登録したクラスの担当教員名を書く ※2:学籍番号及び氏名が未記入のもの,また授業終了後に提出されたものは採点しないので,注意すること.
表 6- 5
地積
新宿からの時間
最寄り駅からの距離
建ぺい率
容積率
接面道路
1低専ダミー
1中専ダミー
2中専ダミー
1住居ダミー
準防災ダミー
中野・高円寺ダミー
国立・立川・豊田ダミー
平米あたり
地価
-0.4018
-0.6462
-0.4894
0.4094
0.3237
0.1395
-0.2406
0.3020
0.0399
-0.0781
0.3626
0.2610
0.0812
接面道路
1低専ダミー
1中専ダミー
2中専ダミー
1住居ダミー
準防災ダミー
中野・高円寺ダミー
国立・立川・豊田ダミー
-0.3829
0.0638
0.5555
0.1269
0.2253
-0.0793
0.0371
変数間の相関係数表
新宿から
最寄り駅か
地積
の時間
らの距離
-0.1257
0.0605
0.0420
0.0199
-0.0497
0.0042
-0.0323
0.0553
-0.0173
0.1174
0.0326
-0.1006
0.5345
-0.4056
-0.2487
0.0035
0.1201
-0.2351
0.0602
0.1135
-0.4440
-0.3795
0.1051
1低専ダ
ミー
1中専ダ
ミー
-0.5918
-0.2684
0.0370
0.4414
0.3605
0.0067
-0.4540
-0.2636
-0.0527
0.1444
-0.2039
0.0705
-0.0153
-0.3208
-0.1557
-0.1654
2中専ダ
ミー
0.2656
-0.0339
-0.0421
建ぺい率
0.8850
0.3234
-0.7378
0.5546
0.3269
0.2461
0.7586
0.3269
0.0868
1住居ダ
ミー
0.1999
-0.0343
-0.0453
容積率
0.3848
-0.9524
0.7195
0.4184
0.3151
0.7153
0.3507
-0.0064
準防災ダミ
ー
0.2219
0.0081
(2) 外生性
この講義では単一の方程式を推計してきましたが,経済モデルでは複数の方程式体系になっていることが多くなります.例えば,ミ
クロ経済学で習った市場分析を思い出してください.マンション市場でも,少なくとも,需要関数と供給関数の2本の方程式があった
はずです.しかも,需要関数ではマンション価格の係数がマイナス(右下がりでしたね)になり,供給関数ではマンション価格の係数
がプラス(右上がりでしたね)になっていました.それで,均衡価格と均衡取引量が同時に決まると習いました.このような同時方程
式モデルの推計が必要で,操作変数法などが用いられます(大学院で教えています).この時,変数は,モデルの外で決定される外生変
数(先決変数とも言います)
,モデルの中で決定される内生変数に分けて考えなければなりません.マンション市場では,価格と販売
数量は内生変数となりますが,需要者数やマンション建設に使うコンクリートの価格などは外生変数と考えます.外生変数はモデルの
誤差項とは独立になっていることが必要です.このように,外生変数として扱っている変数が誤差項と独立になっているかという問題
を外生性の問題と言います.
外生性の問題は同時方程式モデルだけではなく,今回推計した単一方程式の地価関数でも問題になってきます.
例えば,地価が高い地域を容積率を上げたり,用途を緩和している可能性は無いのでしょうか? 最寄り駅が近いところは用途を緩
和し,遠い地域を厳しくするようなことは無いのでしょうか?もし,このような因果関係があるなら容積率や用途地域は内生変数とな
り操作変数法を用いて推計する必要が出てきます.まだ,まだ学ぶことが多いようですね.p(^^)q
6.4 地価関数の応用
(1) 応用例1
不動産学部では,さまざまな科目において国立マンション問題を例として学んでいます.この問題は,景観や住環境が良い高級住宅
地に高層マンションが建設されてしまい,外部不経済が過度に発生したことに起因していることは,
“不動産のための応用経済”や“都
市の経済学”などで学びましたね.外部不経済があるときには,供給量が最適な水準を上回り,死加重が発生して,社会的総余剰が最
大にならない市場の失敗が生じていました.このようなときには,政府がピグー税を課税することで,供給量を最適な水準まで抑制し
て,社会的総余剰を最大にすることができると学びました.しかし,ピグー税政策は,外部不経済の金銭価値を正しく把握して,正確
に課税しないと,社会的総余剰が最大になりません.すなわち,ピグー税政策によって外部不経済の問題を解決するためには,外部不
経済の金銭価値をどのようにして正確に把握するかが重要になります.
さて,この外部不経済の金銭価値を把握するにはどうすれば良いのでしょうか?
そうです,すでに本科目で学んだ重回帰分析で,地価関数を推計してあげればいいのです.ただし,高層マンションの近隣であるか
どうかによって地価がどう変化しているかを調べるわけですから,地価は,高層マンションと公示地価地点の距離が影響すると考えら
れます.また,高層マンションの北側は日照も悪くなりますので,高層マンションからみた公示地価地点の方位も影響すると考えられ
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『不動産のための計量分析』レジュメ
クラス担当教員名※1
学部・学科名
学籍番号※2
NO.1 0
氏
名※2
提出日
※1:履修登録したクラスの担当教員名を書く ※2:学籍番号及び氏名が未記入のもの,また授業終了後に提出されたものは採点しないので,注意すること.
ます.これらを考慮すると,推計する地価関数は,(8)式に,最寄りの高層マンションからの距離 x3 と高層マンションの北側に位置し
ているかどうかのダミー変数 Dum を新しく説明変数として取り入れ,
y = α + γ dh 1 + β 1 x 1 + β 2 x 2 + δ (dh 1 × x 1 ) + θ 1 x 3 + θ 2 Dum
(8)’
を推計することで,高層マンションの建設による外部不経済の金銭価値を把握することが可能になります.外部不経済を適切に把握で
きれば,ピグー税を課税することで社会的総余剰を最大にすることが可能になりますね(^^)
(2) 応用例2
不動産学部では,国立マンション以外でもさまざまな住環境についていくつかの科目で学びます.例えば,
“環境と経済”の科目で
は,公共財として供給される公園が及ぼす外部性を学びました.公共財である公園は,当然,税金を使って整備されます.そうです,
皆さんが納税した税金が使われているわけですから,無駄な公園が整備されることは納得がいきませんね.それでは,公園を整備する
かどうかはどうやって考えればよいのでしょうか?
そうです,これも地価関数を推計してあげれば考えることができます.公園には,緑豊かな木々・草花があり,散歩やジョギングも
しやすく,休日には日向ぼっこもできます.近隣住宅に住んでいる人は,このような外部経済を得る一方で,もしかすると次のような
外部不経済も受けているかもしれません.例えば,公園に併設してある野球場やテニスコートで生じる騒音・砂埃,またホームレスが
住み着いている公園も問題がありますね.このように公園で発生する外部経済や外部不経済を地価関数で推計することができれば,公
園を整備することで生じる便益を推計することができます.その便益額が公園の整備費用をうわまわっていれば,公園を整備すること
に問題はなさそうです.このような整備事業に必要な費用とその便益額を比較して,整備することに意味があるのかどうかを考える方
法は費用便益分析といいます.整備事業の便益額は地価関数から推計できるため,さまざまな事業評価に使われています.
せっかく,不動産学部で理論と実証分析を学んだのですから,政策担当者(公務員ですね)になって,より良い住環境を作る職業に
就いてみませんか?
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