ペットボトルリサイクル - econ.keio.ac.jp

ペットボトルリサイクル
∼クローズド・ループを目指して∼
経済学部
山口光恒研究会
この論文は、現状のペットボトルリサイクルの問題点を認識し、その解決策
としてペットボトルをペットボトルに戻すリサイクル(PET to PET)を提案
すると同時に、いかに取り入れるべきかを検証するものである。
1.容器包装リサイクル法とは
容器包装リサイクル法(正式名称:容器包装に係る分別収集及び再商品化の
促進などに関する法律、以下:容リ法)は、処分場が逼迫し、また新設が困難
である現状をふまえた上で平成7年に制定された。その目的は、一般廃棄物の
容積比で約 6 割を占める容器包装廃棄物のリサイクルを推進し、廃棄量を抑制
するというものである。平成9年から部分施行され、びん、缶、ペットボトル
の分別収集が始まった。そして、平成 12 年 4 月からは対象品目が紙製容器、
その他プラスチック容器に広がり本格施行となった。同法は消費者、自治体、
事業者の役割分担を規定している。従来、一般廃棄物(ここでは家庭ごみ)処理
に関して事業者の負担は一切なかったが、同法では事業者に再商品化義務を負
わせた点で画期的である。これは、部分的拡大生産者責任(EPR)といえる。
図1
容リ法における 廃棄物とお金の流れ
通産省資料より作成
具体的には消費者が分別排出した PET ボトルを自治体が分別収集し、その後
自治体の施設で選別・圧縮・保管する。容リ法への参加は自治体の任意である
が、平成 12 年 11 月現在 1214 の自治体が同法のもとでペットボトルの分別収集
を行っている。自治体の負担が重すぎるとの批判も多くあるが、実際には通常
1
のごみ処理よりも少ないコストで分別収集を行っている自治体もある。また現
時点で焼却・埋立て処分の方が低コストであっても、処分場逼迫による埋立て料
の高騰を危惧し、同法に参加する自治体は年々増えている。
自治体の費用負担で圧縮されたペットボトルの塊(ベール)は再商品化事業者
が引き取る。再商品化事業者はベールを細かく砕いてフレークというものにす
る。これを再商品化利用事業者が買うところまでが、容リ法のスキームである。
再商品化事業者は指定法人である財団法人日本容器包装リサイクル協会から
委託料金を受け取る。委託料金というのは飲料・容器メーカーなどの特定事業
者がリサイクル委託金という形で払うものである。この委託料金は再商品化義
務量に委託単価を乗じた値である。再商品化義務量というのは、毎年の自治体
の分別収集見込量と、再商品化事業者のキャパシティである再商品化見込量と
の小さいほうの値で決定される。近年では図2のように再商品化見込量のほう
が小さいので、こちらが再商品化義務量となっている。昨年度、回収されたペ
ットボトルが再商品化能力を超えたため容リ協会に引取りを拒否され、一時自
治体に保管する事態になった。今年度も当初の引取り契約量を超えた回収量が
見込まれるが、再商品化能力が大幅に上がったため全量引取れる見通しである。
つまり、現在容リ法のスキームで分別収集されたペットボトルは全て順調にフ
レーク化されているのである。
再商品化
見込量
平成9年度 1 7 , 5 0 0
平成10年度 3 0 , 4 0 0
平成11年度 4 6 , 6 0 0
平成12年度 7 2 , 7 0 0
図2
2
分別収集
見込量 引取り量
21,361 14014
47,620 35664
75,811 55675
103,491 92948
再商品化見込量と分別収集見込量
PETボトルリサイクルの現状と問題点
ここでは研究対象としてペットボトルを取り上げる。その理由は以下の問題。
1 つは生産量とリサイクル量との乖離である(図 3)。生産量は今後伸びると懸
念されている。なぜならば、平成 8 年の自主規制が廃止されて以来、500ml
のペットボトルの生産量が急増し続け、さらに最近では 350ml や、ホット専
用のペットボトルまで売られ始めているからである。透明で軽く、リキャップ
可能という利便性を持ち、ビンに取って代わると思われていたが、最近では自
動販売機にまで置かれるようになり、ペットボトルが缶飲料をも駆逐しつつあ
る。リサイクル量は増えてきてはいるが、生産量には到底追いつかず、結局廃
棄される量自体多く、増え続けている。
この乖離の問題の解決法としては二つある。一つは生産量を抑えること。も
う一つはリサイクル量を上げることである。改正リサイクル法で唱えられてい
るリサイクルの優先順位の 3R(Reduce、Reuse、Recycle)でいえば、前者の
解決法は Reduce(発生抑制)である。しかし、近年のペットボトルの需要を
考慮すると実現可能性は極めて低く、また、ペットボトルの利便性を無視して
まで一方的に規制するのも適切ではない。Reuse(再使用)はドイツでデポジ
2
ット制のリターナブルペットボトルが流通しているが、日本人が多く消費する
緑茶やウーロン茶等で取り入れる場合、茶渋が洗浄しても落ちないうえ、一般
的に潔癖といわれる日本の消費者は受け入れないだろう(つまり買わない)と考
えられる。リターナブルペットボトルに入った製品ができたとしても消費者が
買わないとなると、新たな回収ルートのシステム作りは困難である。つまり、
“Recycle”の手段を用いて、後者の“リサイクル量”をどのように上げてい
き、廃棄量を減らしていくかが検討課題となる。
単位:トン
400000
350000
300000
生産量
リサイクル量
250000
200000
150000
100000
50000
0
平成
平成
7年
図3
平成
8年
度
度
平成
9年
度
平成
10
年度
平成
11
年度
12
年度
ペットボトルの生産量とリサイクル量の推移
容リ協会資料より作成 (平成12年は予測値)
我々の考える問題点の2つ目は再生製品の需要が十分でないということであ
る。現在、ペットボトルの主な再生製品としてはワイシャツ、靴下等の繊維製
品や箱の中仕切り等シート類が挙げられる。また、ペットボトルメーカーなど
から構成されるペットボトル協議会は、再生製品の販売を促進するためにペッ
トボトルリサイクル推進マークを作成し(図5)、容リ協会ルートで再商品化され
たペットボトルのフレークまたはペレットを 25%以上含む製品(ワイシャツや
靴下など)を「ペットボトル再生品」として認定している。
成型品
7%
シート類
29%
非食品ボト
ル
1%
繊維製
品
63%
図4フレークの用途・需要(平成 11 年度)
図5
再生マーク
しかし再生品の用途は限られており、まだ一般消費者に浸透しているとは言
い難い。再生品マークをつけたペットボトル再生ワイシャツと靴下を扱う大手
スーパー数社によると、バージン樹脂からの商品と同価格であるが品質の面で
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劣るうえ、「再生品」ということで消費者から敬遠されていて売れ行きは良くな
いということである。消費者の環境意識に訴え、購入を促進させるために再生
品マークを付けたことが裏目に出てしまったと言える。フリースジャケットを
扱うあるスーパー(1 社)では、バージン樹脂からの商品(1900 円)より再生品(1000
円)を安く売っているので、ペットボトル再生フリースは順調に売れているとい
う。しかし、売る側としては、再生品は作る工程でコストがかかり仕入れ値が
高いため利益が低く、あまり多く売りたくないというのが本音のようであった。
ビジネスというよりある種社会的責任で再生品を取り扱っているようである。
このように、現在でさえ主要な用途である繊維製品の需要が十分ではない。
ペットボトル協議会は繊維製品、シート類、その他再生品の需要はやがて頭打
ちになると予想している。つまり、リサイクルルートを規定する法律があって
も、現在の用途だけでは、完結しない見かけだけの「循環型社会」に陥ってしま
うだろう。再生製品の需要・用途拡大が急務なのである。
つまり、今までの問題点を整理すると、再生製品の需要・拡大が必要であり、
これが達成されれば、フレークの需要も必然的に増え再商品化能力が拡大する。
そのことによって、自治体は安心してペットボトルを分別回収できるようにな
り、リサイクル量の向上となる。こうして、1点目の問題点である生産量とリ
サイクル量との乖離の問題が解決される。
したがって、2点目の問題点として挙げた「再生製品の用途・需要拡大」を図れ
ばよいのである。
3.PET to PET
そこで我々は新しい再生品の用途として再びペットボトルへ戻すことを提案
する。これを行えば最終処分場の延命効果となるだけでなく、資源の節約にも
なる。 このリサイクルの技術は以前から飲料メーカーやペットボトル協議会に
よって研究されており、①3 層構造②超洗浄③モノマー化の 3 つが考えられてき
た。
①の3層構造とは、再生ペット樹脂の内側と外側をバージン樹脂で包む手法
で、オーストラリア、スイスなどで実施されている。②の超洗浄は強力な洗剤
でペットボトルを洗浄する手法で、ドイツ、オランダなどで行われている。①
は衛生上問題なく、食品衛生法の規定を満たしている。平成 10 年には容器メー
カー最大手の東洋製罐と三菱ガス化学の両社が3層構造ボトルの開発にあたり
試作を行ったが、外見がバージンペットボトルに劣るため、売れないだろうと
いうことで実用化されていない。②も外見上の問題や、また成形工程で異物が
混入し、安全面での問題もあるので日本での実現可能性は極めて低い。③のモ
ノマー化というのは回収されたペットボトルを化学的に分解して原料を分子レ
ベルのモノマーにまで戻し、ペット樹脂に再び戻すというもので①②と異なり
ケミカルリサイクルに分類される。これにより高純度かつ高品位のペット樹脂
が得られ繰り返しペットボトルへのリサイクルが可能になる。モノマー化以外
にもケミカルリサイクルは研究されているが、実用化への進み具合ではモノマ
ー化技術が現在首位を走っている。この技術については通産省が NEDO へ委託、
NEDO が CJC に再委託という形で研究が着々と進められており、平成 14 年度
にはまず 2 万 5 千トンの規模で実現する見通しである。
ペットボトルへのリサイクルは現行のマテリアルリサイクルと比べて多くの
利点が考えられる。
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まず何よりも大きな利点として挙げられるのは、やはり真の意味での循環型
リサイクルシステムが構築できることである。従来のリサイクルは確かにその
まま焼却・埋め立てされるよりは資源の有効活用をしていると言えるのだが、そ
れらの製品を更に分別収集するシステムは必ずしも確立されておらず、結局は
捨てられる運命にある一過性のもので、ただの延命措置に過ぎない。しかし PET
to PET で、再生されたものが再び同じ製品として、何度も生まれ変わることが
可能になると1つの循環の輪が完成する。更に重要な点は、これにより再生品
のマーケットが大きく広がるということである。先述の通り、ペットボトルの
生産量は急増を続けている。これが再生品にとっての市場となるわけである。
2つ目の利点は、モノマー化技術は原料となるペットボトルの質を問わない
ので、リサイクル原料の対象が拡大されることである。従来の技術では、再生
可能なペットボトルは第二種指定容器(清涼飲料、酒、醤油用)のみで、着色
ボトルや食用油、マヨネーズなどのペットボトルは不可能である。しかし、モ
ノマー化技術ではこれらも原料として使うことができ、さらなる資源の有効利
用につながる。
3つ目の利点は、回収の時点で粉砕し容積を減らして輸送することが可能に
なるため、運搬コスト削減が見込めることである。モノマー化技術では異物の
混入がある程度許容されるので、従来必要であった収集後の選別を省くことが
できる。また、コンビニやスーパーに粉砕機付き回収箱が登場し、店頭回収に
よる回収量増加も見込まれる。
4.PET to PET を円滑に回すためには
技術的にはペットボトルへのリサイクルは可能ということであるが、従来の
ペットボトルと品質が変わらないということだけで再生ペットボトルは本当に
売れるのだろうか。
コスト面について言及すると、現在バージン樹脂の値段(樹脂メーカーからペ
ットボトル容器メーカーに売られる値段)が 1 キログラムあたり 125 円(500ml
ペットボトル 1 本あたり約 4.1 円)で、容器メーカーは飲料メーカーに1本約
20円で売っている。再生ペット樹脂がバージン樹脂より安ければ容器メーカ
ーが買う可能性があるといえる。モノマー化技術を開発した(株)アイエスでは、
独自に再商品化を行う場合、採算を合わせるためには年間最低でも15万トン
の原料が必要である。しかし現時点でのペットボトル回収量が約 10 万トンであ
るので、たとえこの全てがアイエスに回ったとしても再生ペット樹脂の値段は
高くなる。さらに当初の実用化規模が 2 万 5 千トンということを考慮するとア
イエスの再生ペット樹脂がバージン樹脂と競争することは不可能となる。しか
し、容リ法上の「再商品化事業者」に認定され、特定事業者から1トンあたり約
8万円のリサイクル料金を受け取れば、価格競争力がついて他の再商品化事業
者と十分に渡り合えるようになるのである。
5
図4
クローズド・ループ
次にアイエスが再商品化事業者として認められ、再生ペット樹脂がバージン
樹脂と競争できる価格になれば、再生ペットボトルは売れるのだろうか。再生
ペット樹脂からできたペットボトルをワイシャツのようにマークをつけて「再
生品」として売るべきかどうか考える。外観も同じで衛生面にも問題がないが、
「再生品」のペットボトルを潔癖といわれる日本人が買うだろうか。モノマー化
技術では従来と異なり品質が劣ることはないが、飲料に用いるとなると消費者
の環境意識を高める以前に消費者から敬遠される恐れがある。
そこで我々は実態を把握するため電話によるアンケートを行った。ペットボ
トルの消費の中心と言われる 10 代後半から 20 代前半の 300 人を対象とし有効
回答は 280 得られた。質問は 2 問である。
見かけも値段も同じ(140 円)500ml ペットボトルが 2 本あり、片方
だけに「再生品」と表示してあったらどちらを買うか。
2. 1.で再生品でない方を買うと答えた場合、再生品がそうでないものより
何円安ければ再生品を買うか。
1.
結果は以下の通りである。
1. 再生品を買う…133 人(47.5%)
理由:どうせすぐごみになるから。
環境にいいから。
再生品でない方を買う…109 人(38.9%)
理由:同じ値段なら新しい方がいい。
なんとなく再生品は不潔そう。
どちらでも良い…38 人(13.6%)
理由:同じ値段なら気にしない。
最初に手にとったほうを買う。
6
2.
少し(1円)でも安ければ買う・・・42 人
10 円
・・・22 人
20 円
・・・13 人
30 円以上
・・・16 人
絶対買わない
・・・3 人
無回答
・・・13 人
およそ半数の人が再生品を選んで購入するとの結果が出た。しかし再生品を敬
遠する人は依然多く、実際「再生品」の表示があるペットボトルが出回るよう
になると衣料品以上に敬遠する消費者は増えると予想される。一方、再生品に
入った飲料を買わないという人もそちらが安ければ購入する傾向にある。
それでは「再生品」と表示の付したペットボトル飲料を売るために価格を下
げることは可能だろうか。アイエスが再生ペット樹脂をバージン樹脂の 1 キロ
グラム当たり 125 円よりも多少安く供給できたとしても、500ml1 本あたりの
33 グラムに及ぼす影響は考えられない上、例えこの 4.1 円が安くなったとし
ても飲料メーカーのペットボトル買値は現在約 20 円、ペットボトル飲料の価格
は 140 円であるので、価格に反映される可能性は低い。現在のワイシャツや靴
下のように、高い仕入れ値にもかかわらず流通業者が無理をして価格を下げる
という手もあるが、今のような「社会的責任」で再生製品の市場拡大は見込め
ないので適切とはいえない。つまり、消費者が再生ペットボトルを進んで買わ
ない限り、飲料メーカーは再生品を利用せず、容器メーカーも再生ペット樹脂
を買わなくなってしまうので、衛生面や安全性において問題がないならば、び
んや缶と同様「再生品」との表示を付して売る必要性はないと考える。
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結論
モノマー化技術を使用することにより、ペットボトルを再びペットボトルに
戻すことが可能となる。しかし、再生ペットボトルが生産されるだけでは真の
リサイクルである「クローズド・ループ」は完成しない。
我々がこれまで述べてきたように、アイエスなどのケミカルリサイクルで再
生ペット樹脂を生産する企業が再商品化事業者に認定されること、消費者が再
生ペットボトルを購入することなど、技術以外の面でも課題はある。しかしこ
うして新しい技術によるペットボトルリサイクルが実用化されると、同時に再
商品化可能量が増え、回収量も増え、やがて現在の一番の問題である生産量と
リサイクル量の乖離も解消されてゆくだろう。平成 12 年 12 月、通産省と厚生
省はともにモノマー化技術の実用化にともなうリサイクル量増加を見越して平
成 16 年度にはリサイクル率 50 パーセントという見通しをたてた。さらに今回
紹介したアイエス以外に、ペットボトルをペットボトルに戻すための技術開発
に着手している企業もある。PET to PET が実現し、リサイクルの輪が閉じれば
ペットボトルは「便利で環境にも優しい容器」として定着していくだろう。
PET to PET リサイクル、すなわち「クローズド・ループ」の早期実現を期待
したい。
《お世話になった方》
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・株式会社アイエス社長 稲田修司様
・日本ペットボトルリサイクル株式会社 潮崎昌弘様
・ペットボトルリサイクル推進協議会事務局長 三輪玄修様
・太誠産業株式会社 山崎朗様
・通産省電気機器課 信谷和重様
・慶應義塾大学経済学部教授 細田衛士先生
・同志社大学経済学部教授
郡嶌孝先生
・三星化学研究所 開発部 三宅隆敏様
《参考文献》
・山口光恒「地球環境問題と企業」岩波書店、2000 年
・松田美夜子「本当のリサイクルが分かる本」ワニ NEW 新書、2000 年
・「日経エコ 21」 2000 年 5 月号、11 月号
・「都市清掃」2000 年第 53 巻第 237 号、2000 年
・財団法人日本容器包装リサイクル協会
「容器包装リサイクル法相談支援システムマニュアル」1999 年
・「INDUST」2000 年 3 月号
・「地球環境」2000 年 10 月号
・厚生省容器包装リサイクルシステム検討会資料
・その他ホームページ多数
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