主流派プロテスタント教会におけるスピリチュアリティ -スピリットとスピリチュアリティの間で- 藤野陽平 후지노 료헤이 <요지> 현재 영성・붐이라 일컬어지는 상황이 전세계에 퍼지고 있다. 종교학에서도 그 모든 상이 보고 되면서, 지금까지 종교의 개념으로 파악되지 않았던 새로운 영역으로 그 대상을 확대시키고 있다. 이러한 현대사회의 종교성을 고찰하고, 종교와 종교관이라는 것을 다시 봐야하는 것이 급선무이다. 하지만 영성운동의 연구는 개념의 확대에 의해서 그 대상이 애매모호하게 되어있는 현상이기도 하다. 본 연구에서는 종교인류학적으로 현지의 소리를 모우는 작업으로 연구를 실시하였다. 또한 기독교를 영성운동의 관점에서 고찰 할 때 특유의 어려움이 존재한다. 그것은 영성이라고 번역되는 ‘스피리츄어리티’로 크리스트교 전통에 준한 성령개념인 ‘스피리트’와는 다르다. 양자를 잘 분류한 후 분석하지 않으면, 후자가 전자를 삼켜 영성연구라기 보다는 크리스트교 연구에 있어서 현재의 성령연구가 되어버린다. 크리스트교라는 문맥상의 영성을 이해하기 위해서는, 양자를 풀어서 다시 생각해야 한다. 본 연구에서는 영성에 중점을 두고 있는 주류파 프로테스탄트 교회를 들어서, ‘성령’과 ‘영성’이라는 두 영성의 차이를 고려하면서, 장로교회 속에서도 영성적인 여러 활동을 중요시하고 있는 교회를 열거하여 그 여러 가지 모습을 고찰하였. 주제어:스피리츄어리티(Spirituality), 프로테스탄트(Protestant), 대만(Taiwan), 장로교회(The Presbyterian denomination church) 1.はじめに 現在スピリチュアリティと呼ぶべき現象は世界的に広がっており、日本でもスピ リチュアル・ブームと言われるような状況を呈している。宗教学でもその諸相が報 告され、対象はニューエイジから、新宗教、占い、医療、死生観、漫画やドラマな どとそれまでの宗教の概念ではとらえきれない新たな領域へと広がっている。この 世界的な動向は当然それまでも宗教学の対象であった狭義の宗教にも影響しており、 慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻、博士課程単位取得退学、現在(財)国際宗教 研究所宗教情報リサーチセンター研究員 - 253 - 宗教や宗教観といった概念そのものの問い直しが急務となっている。 しかし、その新しさや多岐にわたる研究対象から研究対象としての範疇の不確定 や、スピリチュアリティ概念の曖昧さなど多くの問題を抱えている。本邦における スピリチュアリティ研究の第一人者でもある島薗進でさえも「新しいスピリチュア リティには実はさまざまな運動や文化が含まれており、その輪郭を定めるのは容易 ではない。ここ数年の間に、いくつも研究書が出ているが、なかなかその姿が明確 にならない【島薗 2007:ⅴ-ⅵ】」と実に手厳しい。 実際このような批判は多くのスピリチュアリティ研究に当てはまり、タイトルに 「スピリチュアリティ」とあるだけで、その内容がどうスピリチュアリティである のか、そもそもスピリチュアリティの何を解明しているのか首を傾げたくなる研究 も少なくない。現代社会におけるスピリチュアリティとは魅力的な対象でありなが ら、これまでの学術の方法論では扱いにくい対象でもある。 このような「方向を見定めかねているように見える【島薗 ibid.:ⅵ】」現代スピ リチュアリティ研究に対して矢野秀武は自身の調査地であるタイ社会の事例から批 判的でありながら建設的な提言をしている【矢野 2006】。その結論部をまとめるな らば第一にスピリチュアリティであるとされているものの中心的な体験が異なり、 互いに接点が見えない。さらに「個人を超えた大いなるものへの志向性」というス ピリチュアリティの定義にはそぐわない事例が扱われている。第二には第一で上げ たように相違を持つものが共通に語れるのか。各人がそれぞれ異なる使用目的をも って一般的宗教イメージから差異化されたスピリチュアリティを語っているのでは ないか。第三にタイの上座部仏教ではスピリチュアリティを個人的に求めるタイ人 求道者はいないのにも関わらず、外国人や研究者が持ち込んでいるにすぎない。こ うしたうえで「スピリチュアリティという言葉の前提や使用文脈にも注意をはらう べきであるし、スピリチュアリティといった用語を持ち出さない場の特性について も、きめ細かな理解が必要であろう」と論を締めくくっている【矢野 ibid.】。 この矢野の提言は現在のスピリチュアリティ研究の現状をうまく言い表しており、 筆者は同意する。学術研究として取り扱う以上、方法論やその対象を確定しなくて はならないだろう。ひとまず本論において筆者は宗教人類学の方法論をとり、現地 の知識としてのスピリチュアリティ拾い上げいくこととする。しかし、同時にそこ で暮らす人々がそうよばなくても他の場面ではスピリチュアリティであるとされて いるものをも取り組んでいく必要がある。 さらに、キリスト教をスピリチュアリティの観点から考察する際に特有の難しさ - 254 - が存在する。それは霊性と訳される「スピリチュアリティ」とキリスト教伝統に則 った聖霊概念である「スピリット」の違いである。両者をうまく分類した上で分析 しなければ後者が前者をのみこみスピリチュアリティ研究というよりはキリスト教 における現代の聖霊研究となってしまう。しかし、一度キリスト教会に足を踏み入 れるならば伝統的な聖霊概念というよりはスピリチュアリティと呼んだほうがふさ わしい現象を多く目の当たりにする。それでいてこういった現象を当事者は聖霊と 呼んでいることも多く、渾然一体となっている。スピリチュアリティという概念が 一人歩きし、様々な立場からそれぞれの文脈で語られ概念のあいまいさが指摘され ている現在。キリスト教という文脈上のスピリチュアリティを理解するために、両 者を解きほぐして考え直すべきである。 それではスピリチュアリティとは何なのであろうか。本研究ではキリスト教の内 部で起きるスピリチュアリティとは何なのかという問題意識に基づいているために その答えは結論部で考察せざるを得ないが、作業仮説として一時的に定義をしてお く必要がある。大谷栄一はそれまでのルックマンの議論を援用し、スピリチュアリ ティを実体的にとらえるのではなく、 「超越的な(あるいは自己内在的な)存在や力と のつながりによって、自己変容をもたらす体験や意識、感覚」と機能的に定義すべ きであると提唱している【大谷 2004】。本研究でも基本的にこの機能的な定義に同 意し、スピリチュアリティを「何かと繋がっているという感覚、またそれにともな う自己の変容」と定義しておく。そしてこのようなスピリチュアリティとは世界的 な動向を受けて地域に導入されるが、一度導入されれば地域の文脈で捉えなおされ るので、グローバルな文脈とローカルな文脈の両方から理解される必要がある。 一方キリスト教の聖霊観は「神である聖霊が共にいるという感覚」としておく。 ともに自己を超えた何かにつながっている感覚であるが、つながるべき対象は後者 のほうが狭く神である聖霊のみであるのに対して、前者は神を含みながら他の者を も含みうる広い概念である。 これまで筆者はキリスト教のスピリチュアリティ研究をペンテコステ・カリスマ 運動にみられる「異言」や「癒し」などを中心に研究が進めてきた【藤野 2005,2006 等】。 実際にペンテコステ派のキリスト教会では多くのスピリチュアルな現象が起 きている。しかし、そのペンテコステ派の中ではあまりにもスピリチュアルなもの の頻度が高いために、スピリチュアリティと聖霊概念が渾然一体となりすぎて両者 の違いがわかりにくくなっている。 - 255 - そこで本研究ではスピリチュアリテ ィに重きをおいている主流派プロテス タント教会をとり上げて、 「聖霊」と「霊 性」という二つのスピリチュアリティの 違いに気を配りながらその特徴を考察 することとしたい。事例として台湾基督 教長老教会(以下長老教会)の P 教会での 活動を紹介する。長老教会の現状は信者 数の増加も頭打ちで宣教の面では落ち 着いてしまっているといえる。しかし、 そのなかでも P 教会は現在の牧師が赴任 してから急激に会員数を伸ばしている。 この牧師と他の教会の牧師が大きく異 なることはそのスピリチュアルな諸活 動である。実際当事者らも聖霊充満と呼 ばれるペンテコステ的な恍惚状態を経 験し、重要視している。しかし、長老教 会では「異言」と呼ばれる聖霊の臨在に よって語る意味不明の言葉を語ったり、 礼拝中に恍惚状態になったり、按手によ って倒れてしまうような礼拝の仕方は 道教 仏教 一貫道 プロテスタント カトリック 天帝教 天徳教 理教 軒轅教 イスラム教 天理教 バハーイー教 真光 中国儒教会 亥子道 太易教 弥勒大道 中華聖教 宇宙弥勒皇教 先天救教 黄中 サイエントロジー 寺廟教会数 信者数 18274 4038 3218 3609 1139 50 14 138 22 6 150 13 9 136 30 1 2150 7 7 7 1 7 7600000 5486000 791000 605000 298451 279232 200000 182000 152500 58000 30000 16000 1000 13000 2300 1000 110000 3200 3000 5000 850 16000 表 1. 台湾の宗教別、寺廟教会数・信者数 (【The Government Information Office (ROC) 2005】をもとに作成) 認められていない。そこで、当事者らは教会の規則に抵触しない方法でさまざまな スピリチュアルな活動を模索しつつ行っている。本研究ではそのような活動の中で も特徴的なものをとりあげ考察する。 2.長老教会と P 教会 2.1 台湾の宗教の概要とプロテスタントの概要 台湾の宗教の概要として、まず表 1 をご覧いただきたい。2005 年現在台湾のプロ - 256 - テ ス タ ン ト 信 者 (605,000 名 ) は 道 教 年 主日礼拝出 席者数 信者数 教会数 1989 200470 426775 2666 (7,600,000 名)、仏教(5,486,000 名)、 一貫道(791,000 名)に続く勢力で、カト 1990 201543 422357 2785 リック(298,451 名)とあわせたキリス 1991 213583 443750 2927 ト教徒全体では 903,451 名となり、仏 1992 222519 472894 3056 教、一貫道をしのぐ。台湾の人口は 2007 1993 235651 501662 3099 1994 225595 477438 3317 1995 232725 493577 3361 スタントの占める割合は 2.6%、カトリ 1996 237051 499387 3411 ックとあわせると 3.9%程となる。 1997 248122 537774 3519 1998 257976 556445 3589 1999 265555 570027 3609 年 6 月現在 2290 万人であるので1プロテ また、プロテスタントは 1989 年から 2005 年にかけて教会数、信者数、礼拝 2000 283645 590222 3658 参加者数ともに増加傾向にある(表 2)2。 2001 302291 610444 3710 台湾における主要教派として信者が一 2003 335863 701761 3679 万 人 以 上 の 教 派 は 長 老 教 会 (222,381 2005 291205 569169 3056 名 ) 、 召 会 (99,374 名 ) 、 真 耶 穌 教 会 表 2. 台湾のプロテスタント (70,618 名)、霊糧堂(33,132 名)、浸信会(バプテスト 26,205 名)、信義会(ルーテル 13,732 名)、聖教会(ホーリネス 11,582 名)である。 2.2 長老教会簡史 台湾における長老教会は南部にて 1846 年イギリス長老教会によって、 北部は 1872 年カナダ長老教会によって宣教が始められた。初期の代表的な宣教師として医療宣 教を行ったマックスウェル、台湾に関する研究や盲人、聾唖者への教育を行ったキ ャンベル、台湾初の西洋教育(台南神学院)や出版社(新楼書房)を設立したバークレ ー(以上南部長老教会)や医療宣教や教育活動を行ったマカイ(北部長老教会)等が上 げられる。日本統治期に入り特に太平洋戦争期には日本基督教団に組み込まれ(1941 年)るが、戦後の 1951 年には南北の長老教会が合併し台湾基督長老教会として現在 1 2 外務省のウェブサイトによる http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taiwan/data.html 本表は台灣基督教會教勢報告(http://www.ccea.org.tw/church/adlink/ statics/about1. htm)をもとに作成した。本サイトを運営する基督教資料中心は中華基督教浸宣会(バプテス ト)系の団体で浸宣会を引退した朱三才牧師を中心に活動している。インターネット上の情 報ではあるが、信用に足り、また、他に同程度の水準の情報がないだけに、利用すること とした。 - 257 - に至る。台湾最大のプロテスタント教会で歴史も最も古く、宗教活動以外にも政治、 医療、教育など台湾社会的に広く影響を及ぼしてきた3。 台湾のプロテスタント信者は 1989 年には 426,775 名であったものが 2005 年には 569,169 名と増加傾向であるところ(表 2)、長老教会は 1985 年に信者数が 200,591 名で、2005 年には 222,381 名と微増にとどまっている(表 3)。長老教会は台湾にお ける最大の教派であるものの、世界的 な主流派プロテスタントの宣教面での 年 主日礼拝 出席者数 信者数数 教会数 行き詰まりと動向を同じくして、信者 1985 89561 200591 1043 の増加の面では頭打ち感は否めない。 1986 93510 205352 1058 1987 95125 208211 1070 1988 94044 211531 1094 1989 94323 209227 1104 1990 93757 206922 1119 1991 94352 208249 1126 1992 93766 215613 1147 1993 99844 229588 1160 たとえば本発表で取り上げる P 教会は 1994 95835 217218 1171 2001 年には成人会員が 52 名だったと 1995 96869 221374 1172 ころ、2007 年現在で 134 名、主日礼拝 1996 97905 224635 1183 1997 98953 227032 1191 2.3 長老教会内の新たな動き しかし、長老教会の中でもいくつか の教会は着実に教勢を伸ばしている。 参加者も 35 名から 80 名へと膨れ上が 1998 98953 224817 1202 っている(表 4.5)。そのほかにも近年 1999 98953 224817 1208 信者数を伸ばしている教会があり、 「霊 2000 102337 224679 1203 的」と彼らがよんでいる側面を強調し 2001 112114 227939 1203 2003 102990 217280 1218 2005 101245 222381 1193 ているという共通点がある。そこで本 発表では P 教会内で行われる霊的な諸 表 3. 台湾基督長老教会 活動を考察することで、主流派プロテ スタント教会内部のスピリチュアリティのあり方を考えていきたい。 P 教会は台湾の南部、台南市に位置し、2001 年から現在の L 牧師が担当している。 前身は S 教会で L 牧師の赴任後信者数が急増し、手狭になったために 2004 年の 5 月 15 日、数百メートル離れた現在の P 教会に移転した。 3 台湾のプロテスタント教会や長老教会の詳細に関しては別稿を用意しているのでそちらを 参照していただきたい。 - 258 - 3.牧師と信者のライフヒストリー 3.1 L 牧師(1951 年 2 月 26 日生) 第 4 代のクリスチャンで、 籍 在 人 在 | 小 児 会 員 籍 在 人 不 在 | 小 児 会 員 小 児 会 員 合 計 会 籍 転 入 会 籍 転 出 死 亡 慕 道 友 教 勢 籍 在 人 在 | 成 人 籍 在 人 不 在 成 人 会 員 合 計 ト教徒の第一世代となった。 2001 41 11 52 8 3 11 3 0 - 20 その後教会が手狭になった 2002 37 15 52 11 0 11 6 5 - 20 2003 48 14 62 15 0 15 3 1 1 20 2004 66 20 86 12 14 26 12 1 2 7 雲林県 R 郷出身。1999 年に 神学院を卒業し、伝道者にな り、2001 年より牧師となる。 第一世代である曽祖父は S 村の人で、隣村の X 教会の O さんが伝道し、S 村のキリス ので 5 キロほど離れた R 郷の 劇場を買って教会にした。 2005 81 20 101 20 6 26 4 0 0 15 L 牧師は 1996 年 8 月から 2006 83 25 108 26 2 28 6 5 2 15 1999 年 6 月まで神学院に通 2007 102 32 134 23 10 33 13 2 0 15 表 4. P 教会教勢 ったが、それ以前にも 20 年 間の牧師夫人の経験があり、 ※籍在人不在とは教会法規行政法第二章第十五条、選挙規 夫である C 牧師を支えてき た。1982 年から K 教会、1983 則第一章第五条の規定により、一年以上礼拝に参加してい ない者、兵役中のもの、海外旅行中など不可抗力で出席で きないものは不在会員とし、人数から除いている。 年には B 教会、1997 年 1 月 から 2000 年 12 月は Z 教会、2001 年から S 教会(後の P 教会)等で宣教してきた。 彼女は初めて聖霊充満を受けたときのことについて以下のように語った 1983 年 1 月 30 日から 2 月 2 日に K 教会で培霊会を開催し、このときに聖霊充満を受け た。その時はこの教会の牧師夫人だった。2 月 1 日の朝、聖霊充満を受けた。そのころは 警察署で仕事をしていたが翌日 2 月 2 日辞職して全身全霊神のために仕事をすると決心 した。辞職届を出して午後 4 時ごろ教会に戻るとまだ培霊会の途中だった。問題がひと つあり、仕事を辞めるということを夫に言えずにいた。昨日、辞職届を書いた後にその 届に按手して「私は仕事を辞めると夫にいえないので、神様から直接言ってください」 と祈った。教会に戻って会場に入ると夫が私を呼んだ。仕事のことはまだ何も伝えてい ないのに夫は「あなたは仕事を辞めなさい」と言った。私はもう勝手に仕事を辞めてき - 259 - てしまったので、とても感動して涙を流しながら夫を抱きしめた。 礼 拝 出 席 状 況 | 年 平 均 主 日 学 査 経 祈 祷 会 家 庭 礼 拝 家 庭 細 胞 小 組 | 仁 愛 組 主 日 上 午 礼 拝 2001 家 庭 細 胞 小 組 | 喜 楽 組 家 庭 細 胞 小 組 | 和 平 組 聖 歌 隊 婦 女 団 契 青 年 団 契 T. K. C 夫 婦 団 契 兄 弟 団 契 35 5 6 13 - - - 11 10 8 - - - 2002 45 5 17 28 - - - 12 16 13 - - - 2003 53 5 17 28 - - - 12 16 - 12 - - 2004 53 8 28 - 5 12 - 12 16 - 12 15 - 2005 72 11 28 - 5 14 8 20 16 - 10 18 - 2006 75 11 26 - - - - 25 16 - 6 18 - 2007 80 12 26 - - - - 25 16 - 10 - 16 表 5. P 教会出席数 ※T.K.C とは社青団契のことで、高校生以上の青年層 3.2 T 氏(1934 年 11 月 25 日生まれ 1982 年 11 月 28 日受洗) 国民学校 4 年生の途中で終戦をむ かえる。キリスト教の前は道教の家庭 だったが、宗教はあまり好きではなか 主日礼拝 日 午前 9 時 30 分から 児童主日学 日 午前 9 時 30 分から 月-金 午前 5 時 30 分から 早祷会 ったという。 仕事は設計士で、工場 青年団契 木 午後 7 時から を経営していたが景気が悪くなり、う 査経祈祷会 木 午後 8 時から まくいかなかったという。商売に失敗 長執造就会 金 午後 8 時から したときに息子が友達から宣教され 聖歌隊練習 土 午後 8 時から 提摩太団契 土 午後 8 時から 主日事工協調会 土 午後 9 時から て、クリスチャンになり、1981 年日 本のものが好きで日本の聖書をみる 表 6. P 教会集会時間 ためと息子に誘われて浸信会の(バプ テスト)S 教会に通い始めた。 T さん夫婦も L 牧師と同じく培霊会の時に初めて聖霊充満を受けた。バプテスマ - 260 - を受けて 2 ヵ月後のことで、事業に失敗し、その問題の解決を祈るために参加した。 J 老師という聖霊を説いて回っている人に娘が接触し、この会を知って両親に勧め た。当時全くお金がなかったので、息子に電車代を出してもらって参加した。ここ で L 牧師と出会いとてもよくしてくれたので、一緒に教会のために働きたいと思い、 S 教会に L 牧師が赴任する際に転会してきた。洗礼は母、娘とともに D 教会で受け た。その後長老教会の T 教会、独立教会の F 教会にも 6 年ほど通った。聖書の学び は F 教会で、T 教会では聖霊の賜物を受けた。2001 年 S 教会の設立とともに移った。 S 教会、P 教会では教会の諸活動に積極的に参加し、教会内で重要な位置を占めて いる。実際執事を 2 度務め、P 教会としては長老にしたかったのだが、年齢の問題 でなれなかった。そこで教会内では彼を「長老」と呼ぶ人もいる。家族全員がクリ スチャンでそれぞれの教会で重要な役割を担っているという。特に娘は花蓮の霊糧 堂で牧師夫人として伝道している。 4.スピリチュアルな諸活動 4.1 礼拝 一般に長老教会の礼拝中には行われないプレイズ・アンド・ワーシップ4形式での 賛美が式文中の「敬拝賛美」の時に行われる。ペンテコステ派の教会のように異言 を語ったり、恍惚状態にはいることはないものの、参加者たちは自由に賛美をする ことができるので、手拍子を打ったり、手を上げて賛美したりする参加者もある(写 真 1)。歌われる曲も長老教会で利用される『聖詩』に掲載されていない曲を利用す ることもある。また、途中に希望があれば按手の祈りも行われる。この時間の最後 には参加者全員が子供達の為に手を上げて祝福をする。この 30 分ほどの敬拝賛美の 時はまるでカリスマ派の礼拝に参加しているような雰囲気であるのだが、この時間 が終わると一般的な長老教会の礼拝と同じ形式になる。それ以降、賛美歌を歌う時 4 一概に定義するのは難しいが、クラシックではなく現代キリスト教音楽、CCM と呼ばれるポ ピュラーミュージックを用いて、賛美リーダーと呼ばれる係りの導きによってより自由な 形式で行われる礼拝の一形式。多くの場合、ドラムや電子系の楽器を用い、神とのつなが りを感じ取ることに主眼が置かれる。カリスマ派のキリスト教の特徴のひとつでもあるが、 最近では広くさまざまな立場の教会が導入している。 - 261 - にも手拍子もなく、手を上げる人もなく、曲も長老教会が利用する『聖詩』の中か ら選ばれる。そもそも他の長老教会で式文の中に敬拝賛美という時間が設けられる ことはごく稀である(表 8)。一部台東市の T 教会の中国語礼拝に見られるが、台湾 語での礼拝を重要視している長老教会において中国語礼拝は台湾語の不自由な若者 に対する補助的な礼拝という位置づけで、正式な礼拝は台湾語礼拝であるという意 識がある。それは簡略された式文からも見て取れる。また、長老教会の礼拝式文を 定めた『教会礼拝與聖礼典』にも敬拝賛美という項目は記載がない(表 7-1・2)。 4.2 中保代祷 中保とは神と人を離してしまう罪の 間に入りとりなすイエスのように、そ の中間の保証人として祈るもので、 2007 年から始められた。時間を決めて 個室で祈りを必要とする人のために祈 る。 代祷を依頼するには教会の後方に 設置されている代祷カードに必要事項 5 を記入しポストに入れる。祈りの内容 には守秘義務が伴い、調査に全面的な 写真 1 協力が得られていた本教会においても この様子だけは見学の許可がおりなか った。 韓国の E 教会(独立教会、長老教会系 ではない)の主任牧師 G と 30 人の役員 が韓国から来台して 3 日間の講習をし た際に P 教会からも 9 人の信者が参加 して身につけた。その内容は教会とし てどのように代祷すべきか、どのよう 写真 2 5 代祷カードには申請者の氏名、電話番号、E メールアドレス、住所、祈られる対象者、申請 者と対象者の関係、対称者の年齢、教会員であるか、救いの確信を得ているか、祈祷の手 紙を送ってよいか、教会内で公開してもよいか、申請日、期限、祈りを必要とする内容を 記入する。 - 262 - に団体を組織していくべきなのかというようなものであったという。生命更新した 信徒がこの代祷の係りを担うことが出来るとされ、P 教会ではこの講習の参加者 9 人と T さん、合わせて 10 人が担当している。 主日礼拝程序(1) 主日礼拝程序(2) (一) 静候 序楽 主日礼拝程序(3) 序楽 宣召 三一頌 宣召 (一) 静候 話 序楽 宣召 聖詩 祈祷 祈祷 懺悔的祈祷 聖詩 祈祷 (二)恭受 上帝的話 聖詩 認罪文 赦罪文 啓応 栄耀頌 旧約経文 詩篇 啓応文 栄耀頌 祈祷 (二)恭受 新約経文 信仰告白 聖詩 読経 聖経 聖詩 賛美 講道 信仰告白 祈祷 聖経 信経 (三)応答 上帝的話 奉献 求充祷文 1.賛美主的祈祷文 頌讃 講道 祈祷 聖詩 祝祷 殿楽 上帝的話 2.感謝万有天父的祷文 3.保守眷顧祷文 (三)応答 聖詩 4.為国家、教会、人民、世界求福祷文 報告 報告 奉献 頌讃 講道 奉献祈祷 聖詩 奉献 聖詩 祝祷 阿們頌 祈祷 1.求恩祷文 殿楽 2.求平安祷文 3.教会合一祷文 4,求結好果子祷文 5.凡事求助祷文 祝祷 殿楽 表 7-1. 主日礼拝の式文『教会礼拝與聖礼典』より - 263 - 上帝的 上帝的話 上帝的話 4.3 癒しのための祈り P 教会では病いや怪我を負っている ものに対して按手をして癒しのために 祈ることがある(写真 2)。 すべての病気は悪魔が引き起こして いる可能性があり、もし祈って治るな らばその病いの原因は悪魔が引き起こ したものであると考えられている。悪 魔を追い出すには手を置いて「奉耶穌 的名離開他的身上。不可再近来。(主イ エスの名によって彼の体から離れよ。 二度と近づくな。)」と祈る。必ずこの フレーズが必要で、特に「耶穌的名(イ エスの名)」が強調される。もし、悪魔 を追い出したいときには、まず教会に つれてきて、牧師に相談する。集会中 に行うときには信者全員で祈るが、そ うでなければ牧師だけのこともある。 家庭訪問の時には参加者が おこなう。強い信仰が必要で決して 恐れてはいけないという。 主日礼拝程序(4) 主日礼拝程序(5) 序楽 宣召 宣召 聖詩 聖詩 児童礼拝 祈祷 主祷文 ①児童聖詩 ②児童講章 聖経 信仰告白 ③祈祷 聖詩 聖詩 講道 啓応 祈祷 聖詩 奉献 聖経 聖詩 報告 聖詩 聖経 信経 祝祷 黙祷散会 聖詩 報告 奉献 頌讃 講道 聖詩 祝祷 殿楽 表 7-2. 主日礼拝の式文『教会礼拝與聖礼典』 より 人間ができる悪魔への対抗手段は祈りだけで、祈る時には「イエスの名」以外に も「天地創造の前に、神はわたしたちを愛して、御自分の前で聖なる者、汚れのな い者にしようと、キリストにおいてお選びになりました」(エフェソの信徒への手紙 1 章 4 節)等の聖書の言葉をつたえることもあるという。 - 264 - P 教会 台北市 B 教会 台南県 X 教会 台東市 T 教会 (台湾語礼拝) 台東市 T 教会 (中国語礼拝) 奏楽 奏楽 敬拝賛美 宣召 宣召 歓迎介紹 国度代祷 ・静候 上帝 的話 奏楽 聖詩 信仰告白 頌讃 宣召 聖詩 祈祷 聖詩 信仰告白 奉献 証道 啓応文 聖経 聖詩 使徒信経 啓応文 詩歌 啓応 聖詩 差遣祝福 献詩 信息 信経 聖経 公祷 聖経 賛美 賛美 回応詩 奉献 啓応 聖詩 ・恭受 上帝 的話 祈祷 聖経 講道 聖詩 証道 聖詩 報告 祝福詩歌 賛美 証道 奉献 報告 代祷・奉献・平安礼 頌栄 祝祷 祈祷 ・啓応 上帝 的話 聖詩 頌栄 祝祷 祝祷 祝福 敬拝賛美 祈祷 阿們頌 感謝奉献 報告 頌讃 祝祷 阿們頌 殿楽 表 8. P 教会とそれ以外の長老教会の式文(各教会の週報をもとに作成) T さんの例 T さんは自らの癒しの経験について以下のように語った。 第一に 10 年ほど前、まだ P 教会の会員ではなく、別の教会に所属しているときの出来 事だが、知り合いの女性の孫(台南人)の肛門が閉じなくなってしまった。この人は台北 や高雄の病院に通っていた。手術が必要だったのだが 3 日前に聖霊充満の状態で祈った ところ完治して手術の必要はなくなった。 - 265 - 第二に R さんの子供が左腕の 関節が外れてしまった。その子供 の伯母が床屋を開いていて、私は そこで散髪していた。そこで 3 回 ほど祈ってみたところ自然に腕 が動くようになって、箒を使って 6 遊びだした。国術 の予約をいれ ていたのだが、いく必要がなくな った。三回目は以前知人に悪魔が 入ってしまった。彼の悪魔を追い 出してもまた戻ってきてしまう。 それは彼に聖霊がないからであ った。悪魔を追い出しても教会に も通わずタバコや酒、檳榔樹の実 新生命課程 序言:開始你的新生命 (新しい生命を始める) 第一単元:開始你與上帝的新関係 (神との新しい関係を始める) 第二単元:開始你與上帝的家的新関係 (神の家との新しい関係を始める) 第三単元:建立你與上帝的新関係(聴) (神との新しい関係を築く(聴く)) 第四単元:建立你與上帝的新関係(説) (神との新しい関係を築く(話す)) 第五単元:処理你的罪 (罪を処理する) 第六単元:跟隨主耶蘇 (主イエスについて行く) をかじることをやめようとしな い。彼に悪魔が入ってしまうと、 茁苗養育課程 くもの巣をとるような動作をす 1.得救的確據(救いの証拠) る。そうすると家族はクリスチャ 2.生命的主(生命の主) ンなので教会に連れてくるが、ま 3.霊修生活(霊を修める生活) たすぐ悪魔がきてしまう。この人 4.教会集会(教会での集会) は信じる前に酒を飲み、家で暴れ 5.主内交通(主にある交わり) ていた。信じて悪魔を追い出して 6.為主作見証(主のために証する) も、心に聖霊がなければ悪魔が入 7.聖霊的果子(聖霊の果実) ってきてしまう。こういった奇跡 8.読経生活(聖書を読む生活) は本人の力ではなく、聖霊の働き 9.祈祷生活(祈る生活) によるものである。悪魔が人には 10.金銭的使用(金銭の使用) いるとヨダレを流したり、涙を流 11.明白神的旨意(明白な神の意図) したり、いつも眠たくなったりす 12.得勝的生活(勝利を得た生活) る。 13.回顧與前膽(回顧と展望) 表 9. 新生命課程と茁苗養育課程テキスト目次 4.4 新生命課程と茁苗養育課程 P 教会では数週間に一度、日曜日の礼拝の後、6 回で一課程の「新生命課程」の講 義を行う。これは入門講座で、 「新生命課程」を修了したものは半年の「茁苗養育課 程」に進む。「新生命課程」はクラス形式で、「茁苗養育課程」は牧師と受講者の一 6 武術家による外科治療。日本のほねつぎに相当する。 - 266 - 対一で行われる。表 9 に記した目次の一覧からも分かるように新生命課程では命を 新たにすることに主眼が置かれ、茁苗養育課程ではより実践的な内容が取り上げら れる。 これらの講座について聖霊充満を受けると生命が作り変えられるが、この課程で は異言を語ったりはしないが、まったく同じことが起き、内と外が作り変えられる とされている。内とは心のことであり、外とは行為のことであると L 牧師はいう。 創始者は高雄にある聖光神学院の教授で K という韓国人のメソジスト系の牧師。 現在は自分で開拓した Y 教会(長老教会系)の牧師でもある。台湾では 20 名ほどの牧 師が彼から方法を学んでいるという。聖書の学びを通じて生命を作り変えることを 目的としている。内在課程というものがあり、心の中の悪いものを聖書の引用で、 外に出すことができるという。 両課程を終えた会員数名に感想を聞いた。 G さん 新生命過程、茁苗養育課程に参加して永遠の命を理解することが出来た。それまでは この世のことを愛していたけれども、今は生命に関する事柄のほうに興味がある。世の ことを愛することは少なくなり、人を憐れむ心が育った。生活や仕事で神を中心にする ようになり、仕事上神から祝福された。もともと早起きが苦手だったのだが、生命が変 えられて朝 5 時半からの早天祈祷会にも参加できるようになった。早天祈祷会に参加し てから、中保代祷の講座も受けた。教会の中に祈祷室をつくって祈祷の仕事をするよう になり、私も祈ってもらった。不動産の関係の仕事をしているが、この祈ってもらった 日に抱えていた 3 つの物件のうち NT2000 万元7ほどの物件 2 つが売れてしまった。身体 も健康になった。もともと病気はなかったのだが、より元気になったような気がする。 Z さん 元高校の体育教師で学生時代は自転車競技に出場し、現在アジアの陸上競技の台湾委 員を務めている。 父が牧師で小さいころから聖書に親しんできたが、父はあまりに厳しかった。7 時に学 校に向けて出発しないと行けなかったので、5 時半に起こされて聖書を読まなくてはなら なかった。父は日本時代の人間なので、出来ないと「日本精神」だといって殴られた。 そのせいで P 教会に来るまでは教会に行くのは好きではなかったので、しばらく足が遠 のいていた。教会になど行かない方が自由であるとさえ思っていた。ただしそれでは生 活を楽しむことは出来なかった。 7 NT1 元=3.51 日本円(2007 年 9 月 28 日現在) - 267 - 最初は李牧師に頼まれて教会のビデオを撮っていたのだが、L 牧師にあって生活が楽し くなった。自分は全く楽しくなかった教会の仕事をしているのに L 牧師や会員たちは楽 しそうである。今私はどうしてそんなに楽しそうなのか彼女たちを観察している。 C さん 1993 年にイエスを信じた。イエスを信じてから神がいることを感じることが出来るよ うになり、真剣に祈り聖書を読むようになった。この祈りの機会は神がくれたものだと 思っている。この機会は遅すぎたと感じている。もっとはやく与えてほしかった。イエ スを信じたときには P 教会の会員ではなく H 教会に通っていたのだが、祈りの中で L 牧 師にコンタクトをとりなさいと示された。そのとき耐えられないほどつらいことがあり、 苦しくて死にたかったが L 牧師はとてもよくしてくれて一緒に祈ってくれた。祈祷会に 参加するようになってから感動して涙が止まらなかった。牧師たちが韓国に行って祈り を学んできたが、それ以来さらに祈りが良くなった。新生命課程を受講するうちに神と の関係の中で中心にイエスがいると感じることが出来るようになり、自分の持っていた 悪いものが皮を剥くようになくなり、内側の自分が出てくるような感じがした。 4.5 2 つの団体と聖霊充満 長老教会では聖霊充満による異言や癒しは認められていないので、P 教会でも礼 拝中は行わないが、L 牧師や教会の中心メンバーらは聖霊充満の経験があり、他の 会員らにも経験させたいと思っている。そこで、聖霊充満をともなう礼拝は特別な 集会を開いて行う。長老教会では礼拝中に長老教会以外の牧師が説教することを認 めていない。そこで教会の中に Z 協会と S 協会の事務所をつくり、事務所は無償で 貸し出している。表面上は事務所を貸しているだけで無関係の団体ということにな っているが、実際は同じ教会と言う事ができる。Z、S の両協会ともに 2005 年 9 月 25 日に P 教会に事務所を作った。こういった見かけ上の別団体に教会を貸し出し、 P 教会内で礼拝を行わせ、会員らにはこの礼拝に参加させ聖霊充満を行っている。 霊命更新(Spiritual Renewal) 霊命更新とは S 協会の中心的な考え方で、霊を癒すことで魂(考え方)を変え、身 体を癒すことを目的とする。現在は台湾で 4 名の牧師(2 名は有給、2 名はボランテ ィア)が行っている。そのほかに数人のボランティアが活動を支えている。20 年前 ぐらいから始まったのだが、まだ普及はしていない。台湾で組織を作って活動し始 めたのは 5 年前からで超教派の活動を行っている。もともとはカナダの団体で、こ - 268 - の活動をするためにはカナダの本部で 20 時間、10 課の講習を受けなくてはならな い。 5.分析 それでは、これまで 簡単に紹介してきた P D 教会における諸活動 を以下の図のように 分析したい。まず、A A C B E は主流派プロテスタ ント的スピリチュア リティである。これは 心の内部を変えてい くこと等、アレンジし ないそのままの形で A:主流派キリスト教的スピリチュアリティ B:ペンテコステ的スピリチュアリティ C:A と B の積集合 D:台湾の民俗宗教的スピリチュアリティ E:P 教会のスピリチュアリティ 長老教会の教義と抵 触しないもので、本稿での新生命課程、茁苗養育課程、代祷などがそれにあたる。B はペンテコステ的スピリチュアリティであり、聖霊充満、異言等で長老教会の教義 とは相容れない部分が多いので教会内に事務所を貸し出していた 2 つの他団体を通 じて実現されていた。C は A と B の積集合で、カリスマ派の影響が見られるが、長 老教会の教義的に問題がないようにアレンジされていたもので、本発表では祈りに よる癒し、プレイズ・アンド・ワーシップ、会員による按手などがあたる。D は台 湾の民俗宗教的スピリチュアリティで、本稿では紙幅の関係で取り上げなかったが、 台湾の民俗宗教に見られる霊との直接交流やその癒しの能力といったものである 8。 これらは本発表でみられたような事例と断絶状態にあるというよりは連続性の中で 考察することによってより説得力を増すであろう。癒しのための按手や新生命課程 に参加した人たちの感想などから考えても、両者は融和性が高いと考えられる。こ 8 台湾の宗教研究において道教的民俗宗教が扱われることは非常に多く、文献リストをあげ ることはできないが、筆者もすでに発表しているものがあるので、参考していただきたい 【藤野 2005b】 。 - 269 - のカテゴリーを点線にしたのは民俗宗教的な世界観は他の社会的要因の影響にさら され続け、つねに構築され続けるため実線をもちいなかった。もちろんこの意味で は A から C も変容しているといえるが、ABC は理念形として設定しやすいために実 線とした。E であるが、P 教会に見られたスピリチュアリティである。こちらも点線 にし、現在構築中であることを示し、楕円にしたことによって中心が複数あるとい うことを意味させた。そして D からはみ出ている部分は台湾社会にとどまらないグ ローバルな動向ということになる。本稿の内容では台湾語ではなく中国語の歌を利 用することがあること9、長老教会上層部の指導よりも韓国のカリスマ派から学んで いること、そしてこういった動向の大きな背景にアメリカのキリスト教の影響が直 接的にも間接的にも見られることなどがあげられるし、この流れは一般的な意味で のスピリチュアリティとのつながりも無視できない。特に韓国との精神的結びつき は強く、東アジアのキリスト教という文脈からの研究が待たれるところである。 P 教会では A-D やそこには収まりきれないさまざまな状況をうまく利用し、出来 るだけ自分たちの求めるに近い形でスピリチュアリティを目指し試行錯誤を続けて いるといえよう。 6.結論 長老教会は長い神学的伝統10から現代的に展開してきているペンテコステ的な聖 霊運動は容易に受け入れられるものではない。しかし、主流派プロテスタントの信 者であっても「霊的な飢え渇き」といった現代的な問題を共有していないというこ とでもない。とはいえ、それまでの自らの信仰やその実践を否定してペンテコステ 的な礼拝を実施したり、そのために教会の上層部と対立したりするようなことはリ スクが大きすぎる。そこで教会内では聖霊充満をしないなどの長老教会が妥協でき る範囲で、霊を新たにするというようなスピリチュアルな実践をおこなっている姿 が明らかになった。現在クローズアップされながらもつかみ所のないスピリチュア リティを考察していくにはその複雑に絡み合った実践を細かく丹念に解きほぐして 9 その独立派の政治的立場から特に漢人地域の長老教会では台湾語が利用され、国語と呼ば れる中国語の利用は避けられる。 10 長老教会では使徒信条、ニケア信条、ウエストミンスター信仰告白に基づいた台湾基督長 老教会信仰告白を採用している。 - 270 - いく必要があるであろう。 <参考文献> ・五十嵐真子(2006)『現代台湾宗教の諸相―台湾漢族に関する文化人類学的研究―』人文書 院. ・池上良正(1991)『悪霊と聖霊の舞台 沖縄の民衆キリスト教に見る救済世界』どうぶつ社. ・_______(1999)『民間巫者信仰の研究-宗教学の視点から-』未来社. ・_______(2006)『近代日本の民衆キリスト教―初期ホーリネスの宗教学的研究―』東北大 学出版会. ・大谷栄一(2004)「スピリチュアリティ研究の最前線―二十世紀の宗教研究から二十一世紀 の新しい宗教研究へ―」伊藤雅之、樫尾直樹、弓山達也編『スピリチュアリティの社会学』 世界思想社. ・樫尾直樹編(2002)『スピリチュアリティを生きる-新しい絆を求めて』せりか書房. ・_________(2004)『スピリチュアリティの社会学-現代社会の宗教性の探求-』世界思想社. ・_________(2006)『アジア遊学 特集アジアのスピリチュアリティ-精神的基層を求めて』 84 勉誠出版. ・樫尾直樹(2004)「現代世界の絆―スピリチュアリティの諸相を描く」池上良正他編『岩波 講座 宗教〈第六巻〉絆―共同性を問い直す―』岩波書店. ・_______(2006)「現代日本のスピリチュアリティ―健康の霊性的次元を中心に-」『アジ ア遊学 特集アジアのスピリチュアリティ―精神的基層を求めて』84 勉誠出版. ・島薗進(1996)『精神世界のゆくえ―現代社会と新霊性運動』東京堂. ・_____(2007)『スピリチュアリティの興隆-新霊性文化とその周辺』岩波書店. ・藤野陽平(2005 a)「癒しの民俗宗教としての台湾キリスト教―真耶蘇教会を事例として―」 『日本台湾学会報』第 7 号. ・_______(2005b)「病いの災因論から健康の福因論へ―スピリチュアリティからみる民俗的 健康観―」『人間と社会の探求(慶應義塾大学大学院社会学研究科紀要)』第 60 号. ・_______(2006)「台湾のキリスト教にみるスピリットとスピリチュアリティ」『アジア遊 学 特集アジアのスピリチュアリティ―精神的基層を求めて』84 勉誠出版. ・_______印刷中「台湾のキリスト教の奉献行為とその構造―真耶蘇教会を事例として―」 科研費報告書『中国東南部における宗教の市場経済化に関する調査研究』(研究代表者:佐々 木伸一、課題番号:15401036). ・台湾総督府編(1919)『台湾宗教調査報告書 第一巻』台湾総督府. ・鄭児玉(1981)「台湾のキリスト教」『アジア・キリスト教史』教文館. ・矢野秀武(2006)「スピリチュアリティの位相に関する覚書―タイを通して見た眺め―」『ア ジア遊学』No.84. ・Mursell, Gordon (2005)“Story of Christian Spirituality” Lion Hudson Plc, Oxford, England(青山学院総合研究所訳(2006)『キリスト教のスピリチュアリティ』新教出版) - 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