マレーシア 後編 間にすでに進出を果たした日系 に着目すべきかを、ここ数年の を検討する際、どういうところ そこで今回は、マレーシア進出 前編では、マレーシアの魅力、 日 本 の ク ラ ス タ ー を 紹 介 し た。 レーシアへの評価が高まってき どの自然災害がほとんどないマ の発生で、台風、地震、火山な 東日本大震災やタイの洪水被害 を高めている。さらに最近では、 の増加が消費市場としての魅力 るといった要素も見逃せない。 の事業展開の足かがりになりう 国やアセアン・イスラム諸国へ 品の認証制度の充実で、中東諸 のイスラム金融制度やハラル食 た。そして、イスラム国として 加え、マレーシアの中間所得層 企業の事例から探っていく。 マレーシアに進出した 日系企業の動向 日 系 企 業 に 目 を 向 け る 前 に、 まず、マレーシアにおける投資 GDPが八四二三米ドル︵約六 ず、外資の一〇〇%出資が可能 んどの業種では輸出比率を問わ 〇三年六月から、製造業のほと 優遇策を打ち出しており、二〇 マレーシアはこれまで諸外国 からの投資に対していろいろな ル州に集中している一方、非製 ランゴル州、ペナンとジョホー は、首都クアラルンプール、セ ている日系企業のうち、製造業 ろうか。現在、この国に進出し にチャンスを見出しているのだ 環境の変化をつかんでおこう。 レ ー シ ア を 訪 れ た 際、 空 六万円︶であることを考えると、 になった。非製造業、とくに販 造業は約九〇%が首都に集中し では、こうした環境から、日 系企業がどのようにマレーシア 港から市内まで車で走っ なぜ、こんなに高級車が多いの 売会社や流通業には、これまで 路がよく整備され、街道沿いに くないだろう。 当たりにするが、これをどう解 と統計データのギャップを目の 企業は、常にこうした実体経済 マレーシアをはじめ、アセア ン諸国に進出しようとする日系 参入が可能になった。 分野への外国資本一〇〇%での インを発表し、流通・サービス 合・消費者省は新たなガイドラ 一〇年五月に国内取引・協同組 店が多いのが特徴だ。 多く、非製造業では販売・代理 車かもしれない。 は、BMWやベンツなどの高級 マレーシアで販売される自動 車の価格は、日本に比べて二倍 釈するかによって、ビジネスチ 次ページに掲げた事例は、〇 九年∼一一年までの間に、マレ ①製造業の進出事例 から三倍高くなる。大卒の初任 このような政府の規制緩和に ャンスの感触も違ってくる。 給が約六万円で、一人あたりの そして次第に目に付いてくるの は樹木が並び、 緑が多いことだ。 マ てまず印象に残るのは、高速道 かと不思議に思われる方も少な て い る。 業 種 の 内 訳 を 見 る と、 才川哲治 製造業では電機・電子業が最も 日本能率協会コンサルティング (JMAC) アジア化支援センター EPマネジャー 資 本 が 三 〇% 必 要 で あ っ た が、 アジア進出するなら自社に適した 国はどこか。豊富な資源と各種の 優遇措置を背景に、日系企業の生産 拠点が増えてきた「マレーシア」 では、最近、飲食業やサービス業で の進出が相次いでいる。 そしていま、 ジョホール州での大規模開発が始 まった。 ﹁ブミプトラ︵生粋のマレー人︶﹂ アジア進出 成功MAP ニュートップ L. 2012.April.No.31 =VS カントリーリスクを 最小化する! アジア進出成功MAP どの大手企業のほか、プラスチ クヤマ、アサヒ、キューピーな 製造業では、パナソニック、ト 話 題 と な っ た 日 系 企 業 で あ る。 ーシアへの新規進出︵投資︶で 手である太陽光発電にかかわる パナソニックとトクヤマの場 合は、再生可能エネルギーの旗 真空化学が好例といえよう。 部品の製造加工を手がける大阪 板︶から、セル、モジュールま ると発表。太陽電池のウエハ︵基 億円を投じて、新工場を設立す アの北部西岸のクダ州に四五〇 クは、一一年一一月にマレーシ 達する。すでに建設を開始して た。投資金額は六五〇億円にも ための工場を建設すると発表し アに多結晶シリコンを製造する トクヤマは、〇九年にマレーシ 2009年 した。この買収は、マレーシア あ る ペ ル マ ニ ス︵ Permanis ︶ を二二〇億円で買収すると発表 レーシアの飲料業界の第二位で そして一一年七月には、アサ ヒグループホールディングがマ 給を受けることになっている。 るバクンダム発電所から電力供 南アジアの最大水力発電所であ ーシア東部のサラワク州で、東 を挙げている。投資先は、マレ といった資源が豊富であること く、水力による発電、工業用水 政府の手厚い優遇策だけでな レーシアに投資を決めた要因は 待されている。トクヤマは、マ いく見通しで、需要の拡大が期 度、電力買取制度が導入されて アン諸国においても補助金制 太陽光発電は、これからの新 しいエネルギー源として、アセ 投資案件となった。 マレーシアにとって久々の大型 予定だ。両社の投資はいずれも、 おり、一三年の春から稼働する 2010年 マヨネーズ等の調味料の製造販売を 行なう会社を設立 キューピー マラッカ州 (100%日本出資) 6月 (合弁) 多結晶シリコンの製造工場を新設。 2013年春に完成予定 サラワク州 トクヤマ 6月 (100%日本出資) で の 一 貫 生 産 を 行 な う。 一 方、 セランゴル州 アサヒグループ ホールディング 自動車部品向けメッキ加工工場 大きな投資である。パナソニッ (フランチャイズ) 2011年 セランゴル州 マレーシアの大 手 飲 料 会 社である Permanis Sdn. Bhd.の発行済株式 のすべてを、 その完 全 親 会 社である C.I. Holdings Bhd.から取得 (M&A) 運営するミスタードーナツの事業におい て、 イオンの子会社・イオンマレーシアと の間でフランチャイズ契約を締結 ダスキン 8月 ニュートップ L. 2012.April.No.31 大阪真空化学 セランゴル州 6月 (100%日本出資) 4月 マレーシアに会社を設立し、 ファースト リテイリングは55%の株を所有。 現地 パートナーであるDNP Clothing Sdn. Bhd.は45% ファースト リテイリング クアラルン プール (フランチャイズ) 7月 パナソニック クダ州 マレーシアにおける居食屋「和民」 に 関わるフランチャイズを行なう契約を マレーシア現地企業のChas Wood Resources Sdn. Bhd.と締結 ワタミ クアラルン プール (100%日本出資) 11月 7月 内容 企業名(形態) 進出エリア 時期 現地会社を設立し、太陽電池の生産、 ウエハからセル、 モジュールまで一貫 生産を行なう新工場を建設。年間生産 能力は300MWを予定 ックをベースに装飾部品、機能 図表1■ 日系企業のマレーシア新規進出事例 コストダウン、 サプライチェーン改革などの支援を手がける。 06年より戦略コンサルタントとして、 事業再編・再生、 中期戦略 さいかわ てつじ 1969年生まれ。95年JMAC入社。生産コンサルタントとして、国内外100社を超える企業の生産性向上、 構築の支援を行なうほか、 アジア化支援センターでは東南アジアを主に担当。 11年よりシンガポール支店長兼務。 で の 拠 点 を 確 保 す る と と も に、 東南アジア市場全体への進出の 足がかりとする計画である。こ れは、日系企業の海外進出の形 態が多様化してきていることを 意味する。ゼロから会社の設立 をするよりもスピーディーに効 果が期待できるといえよう。 府の規制緩和がさらに加われ ば、こうした流通・サービス業 方、ミスター ド ー ナ ツ は、 の進出は加速するだろう。 シンガポールとマレーシアの ジ ョ ホ ー ル 州 は、﹁ コ ー ズ ウ ェ 注目の最新工業団地の 総合開発プロジェクト イオンの子会 社であるイオ ンマレーシア とフランチャ イズ契約を締 結して、一一 年八月に同じ のアセアン地域への輸出がしや して、タイ、インドネシアなど クロージング︵ DNP Clothing ︶ と合弁会社ユニクロマレーシア 料金所と国境検問所が設けら イ﹂ ﹁ セ カ ン ド・ リ ン ク ﹂ と 呼 ッ カ に あ る ハ ラ ル 工 業 団 地 に、 すくなるからだという。さらに、 くワンウタマに出店した。 外食産業向けのマヨネーズやタ 現地の優秀な人材も大きな決め れ、平日の朝夕はマレーシア人 AFTAの自由貿易協定を活用 ルタルソースといった卵加工食 を立ち上げ、資本金約五億四〇 がシンガポールの職場や学校へ キューピーは、〇九年にマレ ーシア政府が奨励しているマラ 品の生産工場を設立すると発表 手となった。やはり自動車産業 〇〇万円のうち、ユニクロが五 通い、週末や休日になると、シ ンガポール人がマレーシアまで に な っ て い る。 橋 の 両 側 に は、 り、簡単に行き来ができるよう ばれる二本の橋でつながってお した。進出の理由は、イスラム にとっては、取引先の立地が重 五%のマジョリティ出資を行な った。そして、一〇年一〇月以 食事や買い物をしにやって来 もの人々が往来するという。 降、買い物客で賑わう人気のシ 、スリアKLCC、ワ る。多いときで一日に三〇万人 ハイト ョッピングモール、ファーレン そして、ユニクロは、現地の ファッション流通大手のDNP 圏で食品などを販売する際にカ 要となってくる。 最近、クアラルンプールの大 型商業施設に、日本の﹁ワタミ﹂ ②非製造業の進出事例 ギ と な る 政 府 の ハ ラ ル 認 証 が、 マレーシア以外のイスラム諸国 にも評価が高いため、近隣のイ ンドネシアや中東諸国に輸出す る際、 有利に働くと見たからだ。 ンウタマに立て続けに三店舗を そしていま、このジョホール 州の南エリアにある広大なパー スクが低いフランチャイズ形態 この三社の進出事例からわか るように、大手といえども、リ も力を注いでいる総合開発プロ つつある。マレーシア政府が最 が切り拓かれて、急速に変貌し ム椰子プランテーションの土地 を採ったり、自社の出資比率を ジェクト﹁イスカンダルマレー 出店している。 ワタミは、一〇年七月に現地 の大手外食企業チャスウッド 高めて、実質的な経営の主導権 シア︵IM︶﹂だ。 話題となっている。 大 阪 真 空 化 学 は 一 〇 年 四 月、 ﹁ミスタードーナツ﹂﹁ユニクロ﹂ セランゴル州の州都シャー・ア の出店が相次いでおり、現地で ︵ Chas Wood ︶とフランチャイ ズ契約を締結して、現在、ショ を 握 る よ う に し て い る。 今 後、 ラムに自動車部品のメッキ加工 金は約二億円だ。マレーシアに ッピングモールのパビリオンと 現地の中間所得層の増加に、政 進出形態は一〇〇%独資、出資 にとって、 初の海外生産拠点で、 を行なう会社を設立した。同社 は、顧客となる日系部品メーカ ワンウタマに二店舗を出店。一 開発予定地の総面積は、約二 ー が 集 積 し て い る だ け で な く、 ニュートップ L. 2012.April.No.31 スーパーの売り場に設けた キューピーの試食コーナー (右下にハラル認証のマーク) 88 アジア進出成功MAP 政府も協力し合 ムも導入される予定だという。 検査を自動的に行なえるシステ だ少ないようである。 これを取得した日系企業は、ま ここで取り上げた事例のよう に、マレーシアへの進出は、製 造業のみならず、流通サービス な ど の 非 製 造 業 も 増 え て い る。 年二月には投資 なうため、〇七 投資を円滑に行 らに、IMへの タートした。さ ロジェクトはス 社﹂を設立。プ 外、外為取引の自由化、外国労 いう資格を与え、外資規制の除 対して﹁IDRステータス﹂と うな産業に進出している企業に スベースの関連産業だ。このよ ア、物流、観光といったサービ ツ創出、教育、金融、ヘルスケ IMが目玉誘致産業の一つと してあげているのは、コンテン マレーシアを進出先の有力候補 れ て い る 日 本 の サ ー ビ ス 業 は、 する評価も高い。海外進出が遅 マレーシアはもともと親日的 で、日本の商品・サービスに対 製造業も歓迎しているのだ。 IMのような工業団地には、非 きた。実際、マレーシア政府は、 チャイズ、合弁など多様化して 日系企業の多様化と 進出の可能性 っている。 〇六年一一 月、IMの基本 計画を発表する と同時に﹁イス 者向けの窓口と 働者雇用の自由化、税金優遇と の一つとして検討すべきであろ 進出形態もM&Aから、フラン して﹁イスカン いったインセンティブを与えよ う。 カンダル投資公 ダル地域開発庁 うとしているが、現在のところ、 いう専門機関を ︵IRDA︶﹂と 工 業 団 地、 住 宅 地、 教 育 機 関、 の国土の三倍の広さ︶ 。ここに、 ④パシル・グダン港周辺区、⑤ タンジョン・プルパス港周辺区、 IMは、①ジョホール・バル 都市部、②ヌサジャヤ地区、③ 新設した。 医 療 セ ン タ ー、 金 融 セ ン タ ー、 セナイ空港周辺区という五つの ニュートップ L. 2012.April.No.31 二一七平方キロ︵シンガポール レジャーランドなどの商業施 旗艦開発区から成る。近い将来、 アジア化支援センター (東京・マレーシアデスク) 東京都港区芝公園三丁目1番22号 日本能率協会ビル1階 TEL:03-3434-0982 FAX:03-3434-2963 http://www.jmac.co.jp/special/asianization/ シンガポール 設、高級住宅地区などを配置す 日本能率協会コンサルティング (JMAC) セカンド・リンク橋 この開発区とシンガポールを結 大阪事務所 3 る。シンガポール経済の活力を 大阪市北区梅田3-4-5 毎日インテシオ18階 TEL:06-6451-6661 FAX:06-6451-6626 コーズウェイ橋 ぶMRT︵高速鉄道︶を通す計 東京事務所 2 画もあり、両国間を頻繁に往来 東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー32階 TEL:03-5777-8808 FAX:03-5777-8809 ジョホール州 マレーシアにも呼び込み、中国 マレーシア工業開発庁 (MIDA) 4 1 (マレー半島南部) の香港と深圳のような補完関係 9th Floor, Chulan Tower, No.3 Jalan Conlay, 50450 Kuala Lumpur, MALAYSIA TEL:60-3-2171-6100 (東京・総合案内:03-3582-5511) 5 マレーシア する人が、国境でのパスポート 日本貿易振興機構JETRO クアラルンプール事務所 ①:ジョホール・バル都市部 ②:ヌサジャヤ地区 ③:ダンジョン・プルパス港周辺区 ④:パシル・グダン港周辺区 ⑤:セナイ空港周辺区 を築くことをめざして、両国の ▶マレーシアの 情報収集・コンタクト先 図表2 ■イスカンダルマレーシア (IM) 5つの旗艦開発区
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