平成22年度共同研究プロジェクト活動実施報告書

大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
本学の健康教育に資するための身体健康調査
Physical Health Study for Health Promotion and Education in Otsuma Women’s University
井上榮 1),大澤清二 2),明渡陽子 1),金澤章 3),小林実夏 1),堀口美恵子 4)
1)
家政学部食物学科,2)家政学部被服学科,3)人間関係学部人間福祉学科,4)短期大学部家政科
キーワード:健康教育,疲労,ストレス,生活習慣,骨量
1.研究目的
「女性の健康力は国家の活力に通じる」という
観点から、女性の QOL や AOL を生涯にわたって維
持向上するための健康教育は重要である。特に、
自立した女性の育成を継承している歴史ある本学
においては、学生が生涯を通じて充実した日々を
過ごすための「健康的な自分づくり」を支援する
必要がある。本研究では、本学における全学的な
健康教育システムの構築に資することを目的とし
て身体健康調査を行い、青年期女子の心身の健康
にかかわる要因について解析した。
平成 20 年度からの本研究では、調査票の選定や
開発から取り組み、家政系学生を対象として調査
を行い、身体計測値と生活習慣との関連について
新規な知見を得ることが出来た。本年度は対象を
文系学生にも広げるとともに、食事調査、生活習
慣調査の他、学習意欲に直結する心身の疲労やス
トレスの評価に関する詳細な検討も行い、全学的
な健康教育に向けた具体的な課題を明らかにする。
2.活動実施報告
1)調査対象者
平成 22 年度前期の教養選択科目「女性と健康」
を受講した文系学生(1 年)約 150 名を対象とし、
平成 22 年 6 月から 7 月に狭山台キャンパスで身体
健康調査を行った。受講生に対しては、担当教員
がインフォームド・コンセントを行い、同意を得
た受講生のみを対象とした。なお、本調査は大妻
女子大学家政学部教育・研究倫理委員会の承認を
得て行った。調査による個人情報は、大妻女子大
学の個人情報保護規定に則り、プライバシーポリ
シーを遵守した。
2)調査方法
①身体計測
10
体重、筋肉量は体組成計インナースキャン
(BC-522、TANITA)を、骨量は踵骨超音波測定装
置(AOS-100、ALOKA)を、推定ヘモグロビン値は
末梢血管モニタリング装置(ASTRIM、SYSMEX)を、
血圧はデジタル自動血圧計(HEM-700、OMRON)を、
握力は握力計(GRIP-D、TAKEI KIKI)を用いてそれ
ぞれ測定した。
②食事調査
食事調査には坪野らが 2003 年に開発した半定
量式食物摂取頻度調査票(FFQ)を用い、150 の食
品項目について、摂取頻度と 1 回あたりの摂取量
に関する回答、及び付随する 15 の質問に対する回
答により、食品群と栄養素の摂取量を推定した。
③生活習慣調査
独自に作成した生活習慣調査票としては、喫煙、
飲酒、便通、睡眠時間等の健康度を評価する項目、
朝食摂取状況、外食利用状況等の食生活状況を評
価する項目、居住状態、生活の満足度等の社会的
要因を評価する項目を含めて検討した。
④疲労、ストレスに関する調査
用いたアンケートは主に、疲労度チェックリス
ト(倉恒弘彦:2005 年)、大学生日常生活ストレ
ッサー尺度短縮版(嶋信宏:1992 年)、情動語に
よるストレス診断テスト J-SACL (八田武志:1995
年)の 3 種類である。疲労の指標となる疲労度チェ
ックリストは、身体、及び精神・神経症状の各 10
項目について 5 段階の点数化を行い、各々の合計
点を「身体疲労得点」、
「精神疲労得点」
、両者の合
計点を「総合疲労得点」とする。ストレッサー尺
度は、23 項目のストレッサー(自己、対人、学業、
身体的)について 5 段階の点数化を行い、各々の
合計点を算出する。J-SACL は、気分について 4 段
階の点数化を行い、各々の合計点から重圧感や生
き生き感を評価する。このように点数化した疲労、
及びストレスの各指標間の関連を検討した。
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る」の頻度が食物系で高く、「しょっぱい味付けを
食べる」の頻度が文系で高かったことが、特徴を
裏づける要因の一つとして示唆された。
② 疲労、及びストレスの評価について
3)調査結果
上記 3 種のアンケートから算出された各項目の
本報告では、3 年間の本研究で行った調査のう
関連を解析した結果、物理・身体的ストレッサー
ち、短期大学部家政科食物栄養専攻 1 年生と文学
は身体疲労に、自己ストレッサーは精神疲労に、
部 1 年生、各 150 名前後の調査による結果の比較
学業ストレッサーは重圧感に最も影響を与えてい
(①)、及び家政系学生約 340 名における疲労・ス
トレスに関する調査の結果(②)を示した。
ることが示唆された。また、疲労度チェックリス
① 食物系と文系の学生における調査結果の比較
トによる対象者の疲労得点は、
身体疲労 11.5±6.7、
食物系学生(食物系)と文系学生(文系)の身
精神疲労 15.4±7.6、
総合疲労 26.9±13.5 であり、
体計測における各測定値の平均値を比較した結果
精神疲労得点の方が身体疲労得点より高かった。
なお、疲労得点と日常生活の状況との関連を検討
を表 1 に示す。両者の身長、筋肉量、及び推定ヘ
した結果、総合疲労得点と現在の生活への満足度、
モグロビン値に差異は認められなかったが、その
他の項目では食物系の方が有意に高い値を示した。 睡眠で休養がとれている度合い、健康状態やスト
なお、BMI の平均値は両者ともに適正値(18.5 以
レスを自覚する度合いとの間で有意な関連が認め
られた。
上 25.0 未満)に入っていたが、18.5 未満のやせ
は食物系に 11.6%、文系に 20.0%、25.0 以上の
肥満は食物系に 9.0%、文系に 1.5%存在した。骨
3.研究目標の達成状況
本研究では独自に開発した調査票等も用い、疲
量の平均値は両者ともに適正値(骨粗鬆症の指標
労やストレス、及びそれらに影響を及ぼす身体組
となる音響的骨評価値における 20~44 歳女性
-6
成や体力、生活習慣の状況を把握して心身の健康
の平均値(2.698 X10 )を上回っていたが、そ
状態と生活環境との関連を明らかにするという目
の値 より低い学生は食物系に 28.4%、文系に
標が達成された。特に今まで対象とすることが困
34.0%存在した。推定血中ヘモグロビンの平均値
難であった文系学生についても、健康状態の実態
は両者ともに 鉄欠乏性貧血の判定基準( 12.0
調査を行い、全学的な健康教育に向けた具体的な
g/dl 以下)より高かったが、12.0 g/dl 以下の
学生は食物系に 23.9%、文系に 36.6%存在した。 課題を明らかにすることができたことは大変意義
深いものである。
なお、これらの統計解析には SAS(Ver.9.2)を使用
した。
表1
対象者の身体計測値 1)
4.まとめと今後の課題
本研究により、心の健康力を高めるための生活
環境改善、及び自分の心身に対する正しい意識啓
発を含む全学的な健康教育が必要であることが再
認識された。今後は「女性と健康」を中心とした
教養科目の中で、栄養や臨床心理等の講義をより
充実させ、学生に継続的に本研究の成果を還元す
ることを目指す。継続的な支援は学生自身の行動
変容に対する意欲を促し、自らの健康を意識的に
守るための健全な生活習慣の確立に寄与する。
また、食事調査の結果から、両者間にエネルギ
ー、及び糖質、脂質、たんぱく質の各摂取量に差
異は認められなかったが、文系ではナトリウム摂
取量が、食物系ではα-カロテンの摂取量がそれ
ぞれ有意に多いという特徴が認められた。これは
生活習慣調査によって得られた結果と一致するも
のと思われる。すなわち、
「栄養のバランスを考え
て食事をする」、「果物を食べる」、「野菜を食べ
5.研究成果
学会発表
堀口美恵子,小林実夏,明渡陽子,井上榮 (2010)
青年期女子の健康教育におけるストレス,及び疲
労の評価に関する検討,第 19 回日本健康教育学会,
京都大学.
11
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女子大学卒業生の起業志向と起業経験者の実態に関する調査
Qualitative Research on Entrepreneur-Oriented Activities of Graduates from Women’s
University, focusing on Otsuma School
大出春江1),宮田安彦2),榮光子3)
1)
人間関係学部人間関係学科,2)家政学部ライフデザイン学科,3)人間生活文化研究所
キーワード:起業,女性,ライフヒストリー,アンケート調査,大妻学院
1.研究目的
本プロジェクトは 2008 年度から 2010 年度まで
の 3 年間、起業し現在も仕事を継続している本学
卒業生を対象として、起業の動機や現状を把握す
ることを目的としている。概要は以下の通り。
2008 年度は商用データベースによる大妻女子大
学・短期大学部卒業生で起業した女性のリストア
ップとアンケート調査を実施した。また大妻コタ
カ記念会の協力を得て入手した起業家リストをも
とに、ライフヒストリー法を用いたインタビュー
調査を実施した。
2009 年度は 10 月学園祭期間中に、起業家イン
タビュー対象者にご協力を頂き、多摩校にてアー
ト展を開催した。翌 2010 年 3 月には、春期公開講
座「起業という女性の生き方」を開催。花村邦昭
理事による「大妻コタカと起業」を基調講演とし
て、著述家・竹内淳子氏(大妻女子専門学校・1946
年卒)と株式会社社長・佐藤敦子氏(大家食・1987
年卒)
、のお二人、そして女性起業家として近年注
目されている㈲モーハウス代表・光畑由佳氏を加
え、起業までの経緯、仕事と家庭、仕事を通じた
社会とのかかわり、についてご講演頂いた。
2010 年度はプロジェクトの研究成果を冊子体と
してまとめることをめざした。具体的には春期公
開講座での講演および質疑応答をすべてテキスト
化するとともに、これまでのインタビュー調査を
テキスト化し整理を進めた。
本報告では 2008 年度実施アンケート調査の結
果から、自由回答を中心に概要をまとめ報告する。
在、社長職にある人物を検索したところ、66 件が
リストアップされた。「卒業後の進路とお仕事に
関するアンケート調査」と題し、記載された住所
に質問紙を郵送。このうち 19 名から返信があった。
回答者のうち 1 名はすでに仕事を辞めており、1
名は海外在住のため転送不能であった。また他の
1 名は大妻学院の高校卒業後、大学に合格したが
経済的都合で進学しなかったという回答が寄せら
れたため除外した。最終的な有効回答者は 16 名で
ある。したがって集計結果から共通性や傾向を見
いだす意味はないと判断し、以下では自由回答欄
に記述されたことを中心に報告する。
3.アンケート調査結果概要
今回の回答者のなかには 1945 年以前の本学卒
業生が 1 名いる。1945 年以降の卒業生は大妻女子
大学・家政学部 3 名、文学部 1 名、社会情報学部
1 名、短期大学部 10 名である(表1参照)。
回答者の地理的分布をみると、東京都が 6 名、
栃木県 3 名、福島県、群馬県、千葉県、神奈川県、
石川県、兵庫県、広島県が各 1 名と、関東と北関
東を中心に分布している。
総務省統計局の労働力調査(平成 18 年)による
と女性の産業別自営業主数で多いものは第 1 位
「サービス業(他に分類されないもの)」
、第 2 位
「卸売り・小売業」
、第 3 位 「飲食店、宿泊業」
、
第 4 位「教育・学習支援業」の順となっている。
今回の回答者は不動産業、造園業、地域情報紙
発行、IT(情報通信)業、建設業、教育産業、書
店、卸売り・小売業等、多彩だが、上記第 3 位の
「飲食店、宿泊業」該当者はいなかった。
以下では自由回答を項目別にまとめる。
2.調査の対象と方法
本学図書館の協力を得て、商用データベースを
用い大妻女子大学・短期大学を卒業した女性で現
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大妻卒業年次
人数
1941~1945
1
1946~1950
0
1951~1955
1
1956~1960
2
1961~1965
2
1966~1970
2
1971~1975
3
1976~1980
1
1981~1985
2
1986~1990
1
1991~1995
0
1996~2000
1
合計
表1
して象徴的にとらえられているようだ。
4)企業社会における男女の格差や差別の経験
「男女格差・男女差別があると思うか」という
問いに対し、
「はい」と回答したのは 13 名、
「いい
え」
は 1 名、「どちらともいえない」
が 2 名だった。
差別された体験に対し、どのように対処したの
かに関する回答は省略する。
5)
「女性と仕事」にかかわる後輩へのアドバイス
この一般的な質問に対し、回答は自分自身の仕
事と家庭について言及する内容が多かった。女性
と起業を考える上で、結婚や出産を経験するにせ
よしないにせよ、主婦であることとの距離をたえ
ず測りながら職業経験をしていることが今回の回
答からも示されている。その上で、仕事のおもし
ろさと厳しさが、それぞれの職業経験を踏まえる
形で後輩への助言を通して記述されている。
16
大妻学院卒業年次別回答者数
4.結び
冒頭に引用した総務省統計局調査によると 1997
年時点約 793 万人の自営業主(内、29%の 230 万人
が女性)が 1997 年 10 月以降離職した者は 15%で
あり、男性が全体の 11.8%であるのに対し、女性
は 22.9%と明らかに高い。
「女性自営業主の離職率
は男性より高く、育児・介護等に係る離職がみら
れる」という解釈が示されている。(財)21 世紀
職業財団が実施した開業 5 年以内の女性起業者の
実態調査(「起業に関する現状及び意識に関するア
ンケート」(平成 18 年)によると起業者(男性 2009
名、女性 154 名)の配偶関係別割合は、男性の 89%
は有配偶者だが、女性の有配偶率は 59.7%である
(24%が離死別、14.3%が未婚)
。同調査によると「親
や配偶者等から引き継いだ」経営者は女性回答者
の 10.3%を占める。この点は男性経営者の 4.0%で
あるのに対し、女性経営者の特徴の 1 つである。
本プロジェクトで実施したアンケート調査結果
においても、夫の仕事を引き継いだり、父親の仕
事を引き継ぎ社長になった女性社長は全体の 2 割
を占める。自ら起業して社長になったわけではな
いが、仕事を引き継ぎ継続させる上での課題や問
題解決のための努力や工夫、起業家のそれと重複
するところが多い。女性起業家を起業家一般との
共通性の水準とは別に考える必要があるのは、ま
さにこの仕事と家庭の問題が典型的な形で現れる
ためである。この点についてはこの報告の範囲を
超えるため、稿を改めたい。
(大出春江)
引用・参考文献 (省略)
1)印象に残っている講義
この問いに対し「なし」と回答したのは 16 名中
5 名だった。
卒業年次との関連は特に見られない。
これは2)の回答とも共通するが、実習・演習を
通し身体に刻み込まれた記憶が鮮やかな記述に特
徴がある(紙幅の都合で回答は割愛、以下同)。
2)大妻で学んでよかったと思うこと
この回答には大妻にどの時期に在籍したかとい
うことの影響が明らかに見られる。なかでも戦後
から 1950 年代にかけて在籍した卒業生は夜間通
学や寮生活を含む学生生活を、深い人間形成の場
と捉えていることである。それは理念としての「良
妻賢母」教育の学習とは水準が異なり、より「生
き抜く」実践知としてとらえられているようだ。
以下はその回答である。
3)<大妻>の特色をどうとらえているか
1958 年卒業生は「良妻賢母」と記し、また 1964
年卒業生は「良き家庭婦人を作る」と回答してい
る。夫から「家庭を守る強い意志がある」とほめ
られたことを大妻精神だととらえているのは 1965
年卒業生である。近代家族の専業主婦の大衆化と
まさに軌を一にしている。他方、
「励まし、…本当
にかわいがってくれ、…生き方を尊重し育んでく
れた」と回想する 1954 年卒業生の言葉からは、一
つの価値観、一つの理想的生き方を強いられたと
いう記憶はない。むしろ人間としての教育、女性
としての教育であって、それが礼儀や挨拶と
13
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アジア女性の自立に関する研究開発
-ネパールにおける女性の起業支援ネットワークの構築-
Development of Research on Women’s Empowerment in Asia:
Construction of a Network to Support Women’s Entrepreneurs in Nepal
金田卓也1),大澤清二2),大出春江3),石井雅幸1),矢野博之1),下田敦子4),谷川夏実5),モハン・ゴーパル6)
1)
家政学部児童学科,2)家政学部被服学科,3)人間関係学部人間関係学科,4)人間生活文化研究所,
5)
家政学研究科人間生活学専攻,6)東洋学園大学
キーワード:アジア,ネパール,女性,起業
1.研究目的
本研究は平成 21 年度「アジア女性の自立に関す
る研究開発-ネパールにおける女性の自立をめぐ
る諸問題、子育て・保育・教育の視点から-」を
継続発展させたものである。これまでの調査結果
からネパールの高学歴女性のポテンシャリティの
高いことが明らかになったが、本研究では現地で
学生も含めた高学歴女性を対象にした起業セミナ
ーを開き、ネパールでどんな起業が可能か具体的
な案を出してもらい、それを実現する上でアカデ
ミックな立場からどのように貢献できるかという
ことを明らかにしていくことが目的である。ネパ
ールの生活に根ざした起業案と本学に蓄積された
学術的な知見を結びつけるひとつのモデルを構築
したい。
アジアの途上国における女性自立支援は先進国
からの一方向的な援助だけでは、依存的体質を助
長し、自立することの妨げにもなりかねず、女性
においても起業 (アントレプレナー) 的精神の啓
発が重要である。それはネパールにおける次世代
への教育モデルの提示にもつながるものである。
2. 活動実施報告
本研究プロジェクトはひとつのアクション・リ
サーチであり、ネパールにおける起業セミナーの
開催それ自体が研究の対象であるとともに研究の
プロセスでもある。
12 月に金田がカトマンドゥで第 1 回目の起業セ
ミナーを実施した。これまでの調査で築いてきた
人的ネットワークを生かして、短大卒以上で現在
は仕事をしていない女性 12 名に集まってもらっ
た。参加者は専業主婦 11 名と大学院生が 1 名であ
る。まず、金田の方から、本セミナーの趣旨を以
下のように説明した。
女性の自立というものと経済力と深く結びつい
ている。ネパールにおいて高学歴の女性たちは潜
在的な能力が高いにもかかわらず、なかなかその
能力を発揮する機会に恵まれていない。日本でも、
女性による起業というのはまだ限られているが、
女性独自の視点によるビジネス展開は大きな可能
性をもっている。
ネパールにおいても伝統的薬草の知識と紅茶生
産を結びつけたハーブティーの生産、あるいは伝
統的パシュミナ織に最先端のファッションを結び
つけた新商品の開発など、グローバル化する経済
活動の中でこれまで成功したビジネス・アイデア
がまったくないわけではなく、そこで重要な点は、
先進国で何が求められているのかということを理
解することである。英語に堪能なネパールの高学
歴女性たちは国際的な視野をもってはいるものの、
日本のような先進国でのニーズが何かということ
は、ネパール国内にいるとなかなか気づかないで
いる場合が多い。このセミナーを先進国でのニー
ズを知る機会として活用して欲しい。出された企
業アイデアを本学のさまざまな専門家へ伝え、必
要な情報を提供していきたい。
大学の使命は資金援助ではなく、本セミナーの
目的は知識と情報の提供であることを強調した。
途上国との協力による起業の成功例のひとつと
して、バングラデシュを拠点にオリジナル・ブラ
ンドのバッグ生産を展開する山口絵理子氏の
14
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『Motherhouse』を紹介した。『Motherhouse』はネ
パールの伝統的織物を生かした『maitighar』とい
うブランドも販売している。他にも、女性による
起業の事例を紹介し、女性の生活者としての発想
というものに対しては、<衣><食><健康><子ども>
など本学の家政系の専門分野から技術面での情報
提供が可能であることを説明した。
セミナーは一方的な講義ではなくブレインスト
ーミング的なワークショップ形式で行い、そこか
らひとつでもいいから可能性のあるアイデアを出
せるよう促した。参加者はたいへん熱心に話を聞
き、活発な質疑応答が行われた。
最近、生産が伸びているネパールの有機栽培の
コーヒー豆をそのままではなく、日本で見られる
ような一杯ごとのフィルターを付けたパッケージ
ングをして販売する、伝統的な毛織物からヒント
を得て、フェルト生地で室内用履物を生産するな
どいくつかのアイデアについて話し合われた。
参加者のひとりから、インドのデリーではショ
ッピングの際、黒いビニル袋ではなく、再利用可
能な丈夫なバッグが使用されるようになっている
が、そうした買い物バッグの生産・販売はどうだ
ろうかというアイデアが示された。ネパールでは
買い物をすると、黒いビニル袋に入れて商品が渡
されるが、そのビニル袋が町の至る所に氾濫し、
そのゴミが環境問題の一因にもなっている。金田
の方から、それはエコバッグといわれ、日本でも
さまざまなデザインのものが販売されていること
を説明すると、ネパール国内マーケットでも環境
改善のために必要であり、それを輸出することも
可能ではないかという意見が出された。他にもど
んなものが可能か、カトマンドゥのバザールでの
マーケティング・リサーチも含めた課題を参加者
全員に課した。2月には、矢野と石井がカトマン
ドゥでフォローアップセミナーを実施した。課題
としたアイデアの聞き取り調査と、前回、話題に
なった日本のエコバッグをいくつか提示した。
3.研究目標の達成状況
研究計画で示した目標は達成されたといえる。
参加女性のひとりSさんは次のように語っている。
「大学院で社会学を学んだあと、しばらく専業主
婦を続けていたので、今回の起業セミナーはとて
も刺激的でした。学生時代に戻ったような気がし
ました。確かに、私たちのような高学歴の女性た
ちの可能性は大きいといえます。資金がないとな
にもできないというかもしれませんが、先進国に
15
頼るのではなく、私たちが少しずつお金を出し合
えば、小さなビジネスを始めることも不可能では
ないでしょう。主婦であるために夫に経済的に依
存しなければならず、収入の道を得ることは女性
たちの自立にもつながります。そして、このよう
なセミナーが女性たちの視野を広げ、自信につな
がることは確かです。」
また、ひとつの可能性として、木製のオリジナ
ル玩具の製作を示し、実際にそのサンプルをカト
マンドゥ市内の木工所に注文することにした。厚
さ 1 センチ 5 センチ四方にカットし、表面を研磨
し、その表面にネパールの民芸風のオリジナル・
キャラクターを描いて、絵合わせパズルのような
ものを構想したが、出来上がったサンプルは木目
模様の美しいもので、その自然の風合いを塗り潰
さないで利用することを考えることになった。
4.まとめと今後の課題
セミナー参加者の積極的姿勢は予想以上のもの
であったが、ネパール人の国民性のひとつとして、
すぐに結果がみえないものに対してはなかなか行
動しないという傾向があるので、目先の利益にと
らわれずに、中長期的ビジョンに立って考えるこ
との重要性を参加者に強調した。参加者のひとり
から、今回のセミナーに集まったメンバーでグル
ープを作るなら、そのリーダーシップをとっても
よいという提案があったが、そうした積極性を生
かして、一回限りのワークショップに終わらせる
のではなく、どのような形で情報提供の支援を継
続していくかということを今後の課題としたい。
図 1 カトマンドゥでのセミナー
5.研究成果
アジア女性の自立に関する合同公開研究会,
2011.3.1,14 時~16 時,大妻女子大学千代田キャ
ンパス図書館棟6階セミナールーム.
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現代社会に生きる女性のストレスとヒーリングに関する研究
Study on Stress and Healing of Women in the Modern Society
田中直子1),斎藤恵2),水谷千代美3),窪田文子4)
1)
家政学部食物学科,2)家政学部児童学科,3)家政学部被服学科,4)いわき明星大学
キーワード:ストレス,ヒーリング,カタルシスの原理,オルガン
1. 研究背景と目的
現代はストレス社会であると言われている。
人々を取り巻く環境が多様化する中、ストレス
の形も多様化し、またストレスが個人の精神状
態や健康に与える影響も極めて複雑化してい
る。本プロジェクトは、現代の女性を取り巻く
環境とストレスの実態を明らかにするととも
に、女性の心の健康に対して大学が果たす役割
を探っていくことを目的としている。
つ以上ある(同点である)場合を除外して、最
終的に 141 人を3つの型に分類した(表1)。
表1. 回答者のストレス分類
ストレス型
数(人)
比率(%)
抑うつ・不安型
37
26.2
不機嫌・怒り型
25
17.7
無気力型
79
56.0
141
100.0
全体
2.平成 22 年度の活動実施報告
平成 22 年度は、本プロジェクトの活動 3 年
目の年であり、最終的なまとめの年と位置づけ
て活動を行った。平成 20 年度には、狭山台キ
ャンパスに通う学生の生活およびストレスの
実態を調査し、ストレスの分類化を試みた。平
成 21 年度は、大妻祭においてヒーリングコン
サートを行い、その際のアンケート調査から、
音楽によるヒーリング効果の研究を行った。平
成 23 年度は、これらの流れを踏まえて、ヒー
リングコンサートのアンケート回答者をスト
レスの傾向から3つのグループに分類し、スト
レスの傾向とヒーリング効果の関係について
検討を行った。
無気力型に分類される人が最も多く、回答者
の半数を超えた。次いで抑うつ・不安型が多く、
不機嫌・怒り型に分類された人はもっとも少な
いことが示された。ヒーリングコンサートは大
妻祭の企画として実施し、またこの際に作成し
た CD を用いてさらに授業内でアンケート調査
を行ったため、回答者の 72%は大妻女子大学の
学生であり、このようなストレス傾向は、現在
大妻女子大学に通う学生のストレス傾向を、あ
る程度反映した結果であると考えられる。
一方で、大妻生の比率はいずれの型において
も 72%前後でストレス型ごとに差は見られず、
大妻生以外の回答者における3つのストレス
型の比率も表1と同様であったことから、無気
力型が半数を超える傾向は、このヒーリングコ
ンサートに足を運んだ回答者全体の傾向であ
ると考えることができると思われた。
1) ストレスの傾向による分類
ストレス反応スケール(SRS-18)の3つ下位
尺度を利用して、回答者を「抑うつ・不安」傾
向の高いもの、「不機嫌・怒り」傾向の高いも
の、「無気力」傾向の高いものに分類した。
分類方法:回答は、「まったくちがう(0 点)」
「いくらかそうだ(1 点)」「まあそうだ(2 点)」
「その通りだ(3 点)」の4件法で行い、3つ
の下位尺度ごとに点数を合計して、合計点を比
較した。もっとも高い点数を示す下位尺度が2
2) ストレス型別ヒーリング効果
ヒーリングコンサートは 3 部構成で、カタル
シスの原理に基づいて、第 1 部は悲しい気分に
浸るような沈んだ曲(短調)、第 2 部は落ち着
いた気分になれるソフトで静かな曲(長調)、
第 3 部は元気が出るような明るく動きのある
16
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
曲(長調)で構成した。演奏はパイプオルガン
により行い、各部の演奏後に「今の気分」等に
関するアンケートに回答してもらった。
各部の演奏後の気分がどのように変化した
かをストレス型別にみると、図1のようになる。
各部の演奏終了後の気分は、23 項目の気分に
ついて、− 2(否定的気分)〜+2(肯定的気分)
の間で回答を求めたものの平均値として表し
た。
低いことがわかった。
3.研究目標の達成状況
本プロジェクトは、現代の女性を取り巻くス
トレスの実態を明らかにするとともに、女性の
心の健康に対して大学が果たす役割を探って
いくことを目的としている。
10 代後半から 20 代前半の本学に通う女子大
生についてのストレス実態調査および、そのス
トレスに対する音楽のヒーリング効果につい
て、ある程度の解析結果が得られたと考えてい
る。学生は、大学の中で多くの時間を過ごす。
大学の環境が学生のストレスにどのような影
響を与えるか、音楽の具体的な利用方法、曲目
やその流れが与える効果について明らかにし
た。
4.今後の課題
今後は、演奏後の気分の変化について、23
項目の気分の因子分析を行い、さらに詳細に検
討を進める予定である。一方、アンケート調査
では、ヒーリング効果と色彩の関係/食の嗜好
性の変化についても聞いており、今後これらの
解析も進めていきたいと考えている。
図1.ストレス型別にみた演奏後の気分の変化
第一部の演奏(沈んだ曲)終了後の気分は、
抑うつ・不安型の人で否定的な傾向が強く、不
機嫌・怒り型の人は肯定的な気分が強かった。
一方、第三部終了後には、抑うつ・不安型の人
がもっとも肯定的な気分を示し、無気力型の人
がもっとも否定的な気分であることがわかっ
た。第一部、第二部、第三部と推移するにつれ
て、音楽によるヒーリング効果をうけやすい人
は、抑うつ・不安型のタイプの人であると考え
られる。これに対して、無気力型の人は、音楽
によるヒーリング効果が現れにくいタイプと
考えられた。
5.研究成果発表
心理学系および音楽系の学術雑誌への投稿を
予定し、現在準備中である。
3) まとめ
今回の解析によって、第 1 部から第 3 部に進
むにつれて気分が肯定的に変化していく様子
がストレスの傾向によって異なることが示さ
れた。カタルシスの原理を利用した音楽のヒー
リング効果は、抑うつ・不安型に分類される人
に対して高く、無気力型に分類される人には、
17
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
家庭・学校・地域における「子育ち」コミュニティの再生に関する実践研究
Practical Studies for the Revitalization of “Child-growing” Community
in Home, School and Community
田中優1),深津千賀子1),向井敦子1),西河正行1),加藤美智子1),福島哲夫1),
泊真児1),八城薫1),古田雅明1),中田香織2),遊佐ちひろ2)
1)
人間関係学部人間関係学科,2)心理相談センター
キーワード:子育ち,子育て,コミュニティ,実践研究,理論研究
1.研究目的
親の教育力の低下、育児不安や虐待、いじめ、
学級崩壊、不登校、教師のバーンアウト、子ども
をターゲットとした犯罪、コミュニティ力の低下
などの、家庭、学校、地域が抱える様々な問題に
対して、大学には、これらの問題を俯瞰的にとら
え、家庭、学校、地域の連携を、より効果的、効
率的に実現することが求められている。本研究で
は、子どもを育てるという問題に対して、これま
での研究にみられる家庭、学校、地域のそれぞれ
の養育者の「子育て」という視点ではなく、子ど
もを中心とした「子育ち」という観点から、子ど
もが育つ人的・物的・社会的環境づくりに焦点を
当てた「子育ち」コミュニティの再生を社会心理
学と臨床心理学の両領域の研究者による検討から、
より現実的な問題解決を目指している。
研究の長期的な目的は、子どもを中心とした「子
育ち」という観点から、子どもが育つ人的・物的・
社会的環境づくりに焦点を当てた「子育ち」コミ
ュニティの再生である。これを達成するために、
平成 20 年度は、主に、多摩市内の保育所にて、子
どもの親が抱える「子育ち」に関する問題の実態
調査を行った。平成 21 年度は、平成 20 年度に得
られたデータを分析し、それらを基に、「子育ち」
が抱える問題を掘り起こした。そしてその結果は、
地域における講演会、学会発表(田中ら,2009 な
ど)、大妻女子大学人間関係学部人間関係学研究に
4本の論文(古田ら,2010 など)として、また、
多摩ニュータウン研究に1本の論文(田中
ら,2010)として発表した。
平成 22 年度は、平成 20 年度、および、平成 21
年度に行った、「子育ち」に関する問題の実態調査
の分析結果を踏まえて、家庭・学校・地域におけ
18
る「子育ち」コミュニティの再生に対する理論的、
実践的な解決策を検討した。具体的には、2年間
に蓄積された研究知見を子育てイベントや講演会、
講習会を通して、子育ての現場に提供し、また、
それらへの現場からの反応について検討する形で
の実践研究を行った。
2.活動実施報告
子育て講習会:平成 22 年9月 14 日、13 時から
15 時まで、多摩市関戸公民館(ヴィータ)8 階 第
3学習室にて、多摩市ファミリーサポートセンタ
ー提供会員養成講習会の講師として、研究代表者
の田中優が、「子ども達の今と子育て支援の必要
性」という題目で、講演とその後の意見交換会を
行った。講習会の参加者は、多摩市ファミリーサ
ポートセンター提供会員希望者(子育て支援に意
欲のある 20 歳以上の多摩市民)であった。
子育て相談会:平成 23 年3月5日、11 時から
12 時 30 分まで、大妻女子大学心理相談センター
で、無料の「子育て・こころの健康相談」を実施
し、向井敦子、加藤美智子、福島哲夫が、親と子
それぞれ4人の計8人の相談を受けた。
子育て講演会:平成 23 年3月5日、13 時 30 分
から 15 時まで、大妻女子大学比較文化学部棟1階
3122 教室にて、公開講演会「多摩で子育てするあ
なたに」を行った。約 40 人の一般市民が参加した。
講演者、演題、および、内容は、①田中優「家庭・
学校・地域の『子育ち』コミュニティ」として、
親中心の子育てではなく、子ども中心の「子育ち」
へ転換した家庭・学校・地域連携コミュニティづ
くりの重要性に関して、その一例として大学と幼
稚園との連携の可能性について、②加藤美智子「子
育てにおける親子の心の交流とボタンのかけ違
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
い」として、レオ・レオニ著の絵本『あおくんと
きいろちゃん』を題材に、こころの交流という目
に見えない現象のイメージを提示し、完璧な親で
はなく、ほどよい親であることをめざせればいい
とのメッセージを、③向井敦子「個性豊かなこど
もたち」として、子どもの発達は一様ではなく個
人差があるので、標準を押し付けず、レディネス
(心身機能が、行動や知識を習得できる段階まで
発達し、学ぶ準備が整う状態)を待つことが大切
であること、④中田香織「心理相談センターから
のメッセージ」として、心理相談センターへ寄せ
られる相談ケースの約半数は子育て問題であり、
子どもは夫婦や親子の関係性を映す鏡であること、
悩みを相談する人や場所を持つことの重要性、お
よび、大妻女子大学心理相談センターでの子育て
相談の紹介について、⑤西河正行「『子育ち』コミ
ュニティの再生に向けて」として、
「子育ち」コミ
ュニティの再生に関する実践研究プロジェクトの
紹介、そして、子育て支援を受ける親の受身な姿
勢に言及し、親-地域-大学三者の協力の重要性、
将来的にはインターネットを利用した子育て情報
の提供の可能性についてであった。
3.研究目標の達成状況
平成 22 年度は、子育て支援に関心のある市民に
対する子育て支援の講習会、子育てに問題を抱え
ている親への子育て相談会、および、一般市民に
対する地域における子育てをテーマとした講演会
など、子育ちに関係する様々な対象に対して、こ
れまでの研究知見を含めた子育ちに関する実践的
なアプローチを行った。平成 20 年度から平成 22
年度までの研究により、本研究が目指す、理論的
アプローチと実践的アプローチの両アプローチか
らの研究を行った。
演会により、理論的、および、実践的な解決策の
提供とその検討を行った。
今後は、地域における大学、特に、多摩市にお
ける大妻女子大学多摩校の役割を中心として、家
庭・学校・地域における「子育ち」コミュニティ
の再生に対する理論的、実践的な解決策を検討す
る必要がある。
図1
「大妻女子大学 子育て応援イベント
多摩で子育てするあなたに」ポスター
5.研究成果
公開講座・公開講演会、その他
[1] 多摩市ファミリーサポートセンター提供会員
養成講習会 子ども達の今と子育て支援の必
要性,2010.9.14,13 時~15 時,多摩市関戸
公民館(ヴィータ)8 階 第 3 学習室.
[2] 子育て・こころの健康相談,2011.3.5,11 時
~12 時 30 分,大妻女子大学 心理相談セン
ター.
[3] 公開講演会 多摩で子育てするあなたに,
2011.3.5,13 時 30 分~15 時,大妻女子大学
比較文化学部棟1階 3122 教室.
4.まとめと今後の課題
本研究の長期的な目的は、子どもを中心とした
「子育ち」という観点から、子どもが育つ人的・
物的・社会的環境づくりに焦点を当てた「子育ち」
コミュニティの再生である。これを達成するため
に、平成 21 年度は、平成 20 年度に行った、多摩
市内の保育所に子どもを通わせる親が抱える「子
育ち」に関する問題の実態調査について、
「子育ち」
が抱える問題について、理論的な検討を行った。
平成 22 年度は、子育て支援のサポーターへの講習
会、問題を抱える親への相談会、一般市民への講
19
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
子どもと女への暴力について社会とともに考える-法整備への課題-
Rethinking Laws in Japan on Violence against Women and Children
鄭暎惠1),戒能民江2)3),遠藤智子3),近藤恵子3),横田千代子4)
1)
人間関係学部人間関係学科,2)お茶の水女子大学,3)人間関係学部非常勤講師,4)全国婦人保護施設協議会
キーワード:性暴力,DV, 防止策,被害者支援,非暴力教育
1.研究目的
性暴力は、ジェンダーによる支配・権力関係を
最も構造化しているため、これを放置温存したま
まで、子どもや女性の人権を確立することはでき
ない。学内外の研究者・専門家が学際的に集い、
性暴力のない社会をめざして日本でもいかに法整
備すべきか、一堂に会して議論する場をつくる。
保育士・教員・
(専門)社会調査士・臨床心理士・
社会福祉士を養成する大妻女子大学は、問題解決
の調査研究を行い、次世代支援者育成に貢献する
ことが求められている。
先生)を予定していたが、日程調整の困難や東日
本大震災直後の予定だったため実現できなかった。
第2の“売春防止法におけるジェンダー概念の
問題”については、2010 年 11 月 3 日に「広島で
性暴力を考える講座実行委員会」主催のシンポジ
ウム(会場:広島市女性教育センター)において、
藤目ゆき先生(大阪大学)、阿部小涼(琉球大学)、
東琢磨(ひろしま女性学研究所)、鄭暎惠の 4 人で
2007 年に岩国米軍基地の米兵が広島でおこしたレ
イプ事件をもとに、問題の「性暴力の定義再考」
「売春防止法の歴史と問題」「構造化された性暴
力」の関連について議論した。
2.活動実施報告
本プロジェクトで残されていた以下の2テーマ
を最終年度に行うこととした。
第 1 には“加害者対策”であり、第2には“売
春防止法におけるジェンダー概念の問題”である。
第1の“加害者対策”については、2010 年 10
月 10 日~11 日に、「DV 防止教育センター」主催『カ
リフォルニアの実践に学ぶ加害者更生プログラム
研修会』(会場:名古屋市中小企業振興会館)に、
鄭暎惠が参加した。
“加害者処罰”の方針をめぐっては、「厳罰主
義」か「教育更生主義」か世界的にも議論が分か
れている。米カリフォルニア州では、性暴力・DV
加害者に厳罰を与えて収監するよりも、保護観察
制度の一環として、他者理解・非暴力コミュニケ
ーションの教育を義務付けることで、加害者が二
度と加害行為を行わないことを“加害者対策”の
目的としている。その具体的プログラムと効果に
ついて研修会では学んだ。
“加害者対策”学習会第2弾として、「レイプ加
害者における認知の歪み」(講師:泊真児先生)、
「児童虐待した母親のカウンセリング」
(講師:深
津千賀子先生)、「加害者対策」(講師:信田さよ子
3.研究目標の達成状況
当初計画していた学習会テーマに関しては、3
年間(2008~2010 年度)でほぼ網羅した。
4.まとめと今後の課題
2010 年度男女共同参画基本法の基本計画見直し
等で、本プロジェクトの成果が生かされた。今後
は日本の法制度を見直し改正への法案を提案する。
5.研究成果
1)著書、学術雑誌
[1] 東琢磨・鄭暎惠(2011 年 6 月 23 日)『思考す
るヒロシマへ ~性暴力・ジェンダー・法~』,
ひろしま女性学研究所
2)その他(公開講座・研究会、特許、受賞、マス
コミ発表等)
2009 年度に中間報告書を発行。2010 年度以降
は、本プロジェクトに連携する「性暴力禁止法
をつくろうネットワーク」HP でアップした。
20
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
大規模災害時における大学の事業継続と社会貢献のための対策策定及び
実施体制づくりに関する調査研究
A Research on Business Continuity and Social Contribution of Universities
in Large Scale Disaster
干川剛史1),藤吉洋一郎2),生田茂3),柴田邦臣3),沢野伸浩4)
人間関係学部人間関係学科,2)文学部コミュニケーション文化学科,3)社会情報学部社会情報学科,
4)
星稜女子短期大学
1)
キーワード:大規模災害,大学,事業継続,社会貢献,情報通信技術
1.研究目的
首都直下地震等の大規模災害による学生・教職
員の被害を軽減するための対策として、学生・教
職員の安否確認や避難を含めた大学の「事業継続
計画」 (BCP: Business Continuity Plan)の策定
と「事業継続運営」(BCM:Business Continuity
Management)の実施体制づくりについて、さらに、
災害時における大学の社会貢献として、学生・教
職員による災害ボランティア活動に対する支援体
制づくりに関する調査研究を行う。
そのために、阪神・淡路大震災等の大都市被災
地の大学での災害対応やボランティア活動の実態
や首都圏等の大都市部に立地する大学の先進的災
害対策に関する実態調査を実施し、そこから得た
知見に基づいて有効な対策とその実施体制づくり
の企画・立案を行なう。
2.活動実施報告
「授業支援・緊急連絡・安否確認システム」の
実証実験の技術的な検討を行うために、平成 22 年
7 月 31 日に「特定非営利活動法人 基盤地図情報
活用研究会事務所」(石川県河北郡内灘町)で、研
究代表者の干川と研究協力者の沢野(授業支援・
緊急連絡・安否確認システムの研究開発協力担当)
が打ち合わせを行った。
この打ち合わせに基づいて、「株式会社 ナブ
ラ・ゼロ」が、平成 22 年 12 月に「授業支援・緊
急連絡・安否確認システム」を開発・構築し、こ
のシステムの実証実験「『e コミプラットホーム』
を活用した『首都直下地震情報発信訓練』サイト
のデモンストレーション」を平成 23 年 1 月 20 日
に人間関係学部「情報社会論」(1 時限)(担当教
員:干川剛史)で実施した。
その際に、担当教員の干川が、
「首都直下地震情
報発信訓練」サイト(図1)の利用法を簡単に説
明したプリントを配付して、インターネットとプ
ロジェクターに接続したパソコンを使い、このサ
イトにアクセスし、GPS 携帯電話からこのサイト
を使用する方法をデモンストレーションした。
図 1 「首都直下地震情報発信訓練」サイト
そして、平成 23 年 2 月 18 日に「『e コミプラッ
トホーム』を活用した授業支援・緊急連絡・安否
確認システムに関する公開研究会」を開催し、一
21
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
般参加者も交え、授業支援・緊急連絡・安否確認
システムの実証実験結果の検証と大規模災害時に
おける大学の事業継続のあり方について検討した。
3.研究目標の達成状況
平成 22 年度においては、前年度に情報通信技術
開発を専門に行う企業「株式会社 ナブラ・ゼロ」
に委託して開発した、インターネットと携帯電話
と地図情報システムを活用した「授業支援・緊急
連絡・安否確認システム」を「首都直下地震情報
発信訓練」サイトとして改良を加え、研究代表者
の干川の授業の中でデモンストレーションを行い、
学生から「首都直下地震情報発信訓練について、
写真を送ると位置情報も同時に表示されるという
ことで、地震発生時にはとても役立つのではない
か」などの肯定的な意見を多数得たが、研究協力
者の沢野伸浩氏の事例を除いて、学内での普及を
目指しての日常的な授業の中で活用までに至らな
かった。
他方で、「防災・減災及びボランティア活動に関
する5大学連携支援協定」加盟大学の神戸学院大
学、大規模水害での対応経験のある兵庫県佐用町
及び鹿児島県奄美市と「特定非営利活動法人 基
盤地図情報活用研究会」の連携・協力の下に、大
学の社会貢献として情報通信技術を活用した「累
積水量に基づく中山間地向け局地的大雨対策」シ
ステム構築・運用の提案を消防庁「消防防災科学
技術研究推進制度」に対して研究開発プロジェク
トとして申請を行ったが、不採択となった。
しかしながら、上記「5大学連携支援協定」加
盟大学の神戸学院大学と工学院大学が中心となっ
て設立された「社会貢献学会」の理事に研究代表
者の干川が就任し、平成 23 年 3 月 11 日に発生し
た「東日本大震災」で社会貢献学会と連携しなが
ら、研究協力者の柴田邦臣氏とともに、宮城県内
の被災地の被災者支援活動に取り組み、学生・教
職員による災害ボランティア活動の支援体制づく
りに必要な知見を得ようとしている。
4.まとめと今後の課題
平成 20 年度から平成 22 年度の 3 年間にわたっ
て「授業支援・緊急連絡・安否確認システム」の
研究開発・構築・実証実験を中心に本研究プロジ
ェクトが展開され、研究協力者沢野氏による当該
システムの研究開発と授業の中での日常的活用と
いう点で成果をあげた。
しかし、このシステムの本学での普及と日常的
活用へと至らず、東日本大震災における本学の事
22
業継続に貢献することができなかった。
また、この大震災では、本研究プロジェクトの
研究代表者と研究協力者によって被災地での被災
者支援活動が個別に展開されているが、本学全体
としての社会貢献活動へと至っていない。
したがって、本研究プロジェクトは、目的を達
成する途上にあるが、研究代表者が、昨年度より、
本研究プロジェクトと関連した研究課題について
科学研究費補助金を獲得し、今回の大震災で、研
究協力者とその研究資金を活用して被災地での被
災者支援活動を通じた調査研究活動を展開してお
り、本研究プロジェクトを継続することが時間
的・労力的に困難な状態にある。
したがって、平成 23 年度は、本研究プロジェク
トを中断しなければならず、本学の人間生活文化
研究所の共同研究プロジェクトの申請を行わない
こととなった。
5.研究成果
1)著書、学術雑誌
干川剛史(2011)安全・安心社会構築へのデジタ
ル・ネットワーキングの展開,大妻女子大学人間
関係学部研究紀要 人間関係学研究,12,145-172.
2)学会発表
干川剛史(2010) 安全・安心社会構築に向けてのデ
ジタル・ネットワーキングの課題, 第 83 回日本社
会学会大会,名古屋大学.
3)その他
(公開講座・研究会)
「e コミプラットホーム」を活用した授業支援・
緊急連絡・安否確認システムに関する公開研究会,
2011.2.18,15 時~17 時,大妻女子大学千代田キ
ャンパス A 棟 6 階 664 教室.
(マスコミ発表)
奄美新聞,予測システム紹介,干川剛史,
2010.12.21.
南海日日新聞,地域FMへの期待語る,干川剛史,
2010.12.21.
上毛新聞,オピニオン 21 東日本大震災に思う
支援に情報通信を活用,干川剛史,2011.3.31.
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
日中教育交流における双方向的連携システムの構築に関する研究
A Study of Constructing an Interactively Cooperative Communication System
of Educational Exchanges in Japan and China
松村茂樹1),銭国紅2),松浦康彦1),松田春香1)
1)
文学部コミュニケーション文化学科,2)比較文化学部比較文化学科
キーワード:日中,教育交流,双方向,連携システム,遠隔授業
1.研究目的
文部科学省の「国公私立大学を通じた大学改革
の支援」プログラムの1つに、「大学の国際化と国
家戦略としての留学生政策の推進」があり、その
内の「大学教育の国際化加速プログラム」として
「国際共同・連携支援(交流プログラム開発型)」
が設けられている。
本研究は、この趣旨に則り、今後、より重要性
を増して行くであろう日中間の教育交流における
プログラム開発をめざすことを目的とする。周知
の通り、日本の貿易相手国として、すでに中国は
第1位となっており、中国との国際交流をなしえ
る人材が求められている。よって、教育現場にお
いても、その人材育成をより効果的に行えるシス
テム構築が急務となっており、本研究の意義は大
きいと思われる。
は日系企業がとりわけ多い都市)。よって、日系企
業への就職状況、日本企業のアウトソーシング事
情などにも詳しく、経済発展を続ける中国との交
流の未来を展望する上で、示唆に富むお話が伺え
た。
また、すでにテレビ会議システムを導入してい
る大連外国語学院漢学院との遠隔授業実施に向け
て、事前協議を始めた。
3.研究目標の達成状況
研究期間(平成 20~22 年度)内に、日中教育交
流における具体的展開の方向性を明らかにしたい
との目標は、ほぼ達成できたかと思われる。
この期間に、北京師範大学大学院との交換留学
協定を締結し、すでに大学院留学生を送り出して
いるが、双方向の主旨から、大学院留学生の受け
入れが待たれるところである。
当初予定していた日中高大連携については、期
間中に実現できなかったが、視察などにより、対
話の窓口はできており、今後の展開が望まれる。
また、遠隔授業実施の目処をつけることができ
た。これについては、23 年度より新たなプロジェ
クトで、東アジアに範囲を広げ、中国のみならず、
韓国、ベトナムなどの大学および教育機関と連携
を進める予定であり、すでにその道筋をつける活
動を行っている。
2.活動実施報告
本プロジェクトでは、22 年度、主としてテレビ
会議システムを使った日中教育交流の可能性を探
った。これにあたり、2010 年 6 月 24 日(木)16:20~
17:50、人間生活文化研究所 5100 会議室において、
以前より、スカイプを使った試験的通信にご協力
くださっていた大連外国語学院(大学)の劉爽専
任講師を講師にお招きし、公開講座「中国におけ
る日本語教育の現状と日中交流の未来」を開催し
た。
講師の劉爽(りゅう・そう)先生は、日中ビジ
ネス交流の現状を取り上げた、NHK スペシャル番
組「人事も経理も中国へ」でも紹介された大連外
国語学院の若き日本語講師である。格調の高い流
暢な日本語を話され、日本語教育に定評がある大
連外国語学院で、優秀な人材を育てておられ、卒
業生の多くが日系企業などに就職している(大連
4.まとめと今後の課題
中国、さらには東アジアとの連携は、各分野に
おいて重要性を増している。
これを感じ取っている学生も増えており、たと
えば文学部が実施している留学プログラム(SA
PPHO)においても、協定校の北京師範大学へ
の留学生は、21 年度は 5 名であったが、22 年度は
23
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
11 名となった。また、SAPPHOなどで語学力
を身につけた後、専門分野を学ぶため、国費留学
試験に応じ、合格する学生も増えており、23 年度
は 2 名が合格した。
そんな中、学生のニーズに応えるためにも、連
携システムの整備が急がれる。すでに、文学部で
は 23 年 4 月、SAPPHO2 校目の中国語圏協定
校として大連外国語学院(大学)と留学生交流協
定を締結した。この研究所プロジェクトにおいて
も、それらと連携しつつ、共同研究を進めて行き
たい。
5.研究成果
公開講座
中国における日本語教育の現状と日中交流の未来,
2010.6.24,16 時 20 分~17 時 50 分,大妻女子大
学人間生活文化研究所 5100 会議室.
講座風景
大澤所長と
24
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
アジア農村の女性における生業の変遷と社会的自立支援研究
Research on the Changes in Subsistence of Women in Asian Rural Communities
and the Promotion of Their Social Independence
荒井芳廣1),益本仁雄2),宇都宮由佳3),下田敦子4) ,榮光子4),上野あき4),アチャヤ・ウシャ5)
1)
人間関係学部人間関係学科,2)家政学部被服学科,3)家政学部食物学科,
4)
人間生活文化研究所,5)人間文化研究科人間生活科学専攻
キーワード:アジア女性,農村,生業の変遷,社会的自立支援
1.研究目的
アジアにおける農村、例えば中国、韓国のよう
な儒教文化圏の農村では、かつて村落が社会共同
体としての機能をもち、生活を保障する前近代的
なシステムが働いていた。しかし近代化により生
業としての農業形態が変わると、村落における相
互助け合いのシステムは機能することが困難にな
り、消失の一途を辿ることになった。現在、アジ
アの開発途上国にあっては、社会保障、社会保険
のシステムが十分に整備されていない場合が多く、
農業以外の生産手段や学歴、職業スキルを持たな
い女性らが、貧困の果てに向かう先は出稼ぎ、性
産業などであることが多い。その一方でそうした
女性を支援する為に、NGO、一部の政府の働きかけ
によって、いわゆるフェアトレード活動や一村一
品運動等の社会(経済)的自立支援活動が各地で活
発化している。
しかし当該地域における状況の把握や支援ニー
ズの為の調査が適切になされていない等の理由か
ら、支援する側とされる側との間に齟齬をきたし
ている場合が少なくない。そこで本プロジェクト
では、そうした問題を解消すべく現地調査によっ
て得てきたデータをもとに、アジア農村女性の生
業の変遷からみた社会的自立の諸要因を明らかに
し、社会(経済)的自立支援の方策を提言したい。
女性が現金収入に直接繋がる技術を身につけて、
着実に継続して収入を得ることによって社会生活
を送ることができる手段を講じたい。
アジア開発途上国の農村部においては経済、医
療、福祉、教育の水準が低く、貧困とそれに起因
する売春や麻薬汚染、出稼ぎ、栄養不良、エイズ
などの感染症が常在し、更には劣悪な住環境が深
刻な問題になっている。本プロジェクトではアジ
25
アの農村に生きる女性を社会的に支援する立場か
ら、現地調査によって得られたデータを基に科学
的な根拠に基づく具体的な支援策を提言すること
を目指している。この為に平成 20 年度より本プロ
ジェクトに関連する研究を遂行してきた過程で
「農村女性の社会的自立の諸要因」を明らかにし
てきた。具体的には①耐久消費財の普及が生業や
家事労働に及ぼす要因(益本)、②地域振興活動「一
村一品運動(One Tambon One Product:OTOP) 」が
農村女性らの経済的自立の一端を担っている要因
(宇都宮)についてであった。そこで平成 22 年度で
はこれ迄の実績を総括し、これを公開シンポジウ
ム等で公表し論評を受け、その内容を反映させた
「タイ農村における女性の生業の変遷からみた社
会的自立支援の提言」をすべく研究を進めた。ま
た本プロジェクトを今後更に発展させていく為に
若手研究者をスリランカ、ネパールに派遣してフ
ィージィビリティスタディを実施した。
2.活動実施報告
平成 22 年度は実施計画書に基づき、(1)~
(3)の活動を実施した。
(1)公開講座:写真家、随筆家である大西信吾
氏を迎え、「ミャンマーの自然に息づく命の恵」と
題し、7 月 3 日(土)に千代田キャンパスにて開
催した。大西氏はミャンマーの自然と動物を撮り
続けているカメラマンであり、ミャンマーの森林
で木材の伐採に携わる人々とゾウの生活について
講義した。
(2)公開研究会:
「アジア女性の自立に関する公
開研究会」を 2 回開催した。1 回目は 10 月 6 日(水)
に千代田キャンパスにて行った。荒井、益本、宇
都宮、下田、榮がそれぞれ発表した。2 回目は 3
月 1 日(火)に千代田キャンパスにて金田卓也教
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
授を代表とする「アジア女性の自立に関する研究
開発」プロジェクトと合同で開催した。発表者は
金田、石井、益本、下田、榮であった。
(3)現地調査実施:スリランカ、ネパールにて
フィージィビリティスタディを実施した。スリラ
ンカへは榮が出張し、以下の調査を実施した。農
村女性の生活調査として①低開発村の生活と女性
の自立支援活動視察、②農村と都市における女性
の家庭生活への参与観察、③農村女性開発に関わ
る省庁、NGO 代表者へのインタビュー調査、④女
性自立のための技術提供(写真 1)
、⑤生活問題発
掘調査を行った(写真 2)。工場労働女性の生活調
査として⑥陶器、段ボール、洋服タグ工場の視察
と参与観察を行った。
(2) (1)で整理された内容に従い「タイ農村女
性の社会的(経済的)支援」について総括した。
(3)タイ及び周辺諸国における「女性支援活動」
に関する公開シンポジウム、公開講座、研究会等
を開催して、(2)を公表し、意見を交換し、論評を
受けて、それらの内容を(2)に反映させた。
(4)若手研究者を育成するために、スリランカ、
ネパールにおいてフィージィビリティスタディを
実施し、当該国における女性自立支援の方途を考
えるための情報を収集した。
4.まとめと今後の課題
本年度はこれ迄の実績を総括し、これを公開シ
ンポジウム等で公表し論評を受け、その内容を反
映させるべく研究を進めた。今後は、どのような
自立支援を行うのかについて科学的データをもと
に実証していきたい。
5.研究成果
1)著書、学術雑誌
[1] A.Shimoda, S.Ohsawa amd T.Ohkubo. (in
press), Optimization problems of
appropriate age for learning cloth making,
using Item Response Theory analysis of
ability to discriminate, level of
difficulty, and average age of skill
acquisition, Japan Journal of Human Growth
and Development Research,52.
[2] 益本仁雄,宇都宮由佳,長谷川典子(2011) 発
展途上国の地方活性化の要因解明-北タイ農
村の電化を通じた 19 年間継続研究(下),大
妻女子大学家政系紀要,47,161-174.
2)学会発表
[1] アチャヤ・ウシャ, 榮光子,大澤清二(2011
カースト別にみたネパール人幼児の身体発育
(予報),日本発育発達学会第 9 回大会,98-98.
3)その他
(公開講座・研究会)
[1] 公開講座 ミャンマーの自然に息づく命の恵,
2010.7.10,16 時 30 分~17 時 15 分,大妻女子
大学千代田キャンパス図書館棟 6300 室.
[2] 公開研究会 アジア農村の女性における生業
の変遷と社会的自立支援研究,2010.10.6,10
時~17 時,大妻女子大学千代田キャンパス図
書館棟 6100 室.
[3] ア ジ ア 女 性 の 自 立 に 関 す る 公 開 研 究 会 ,
2010.10.6,14 時~18 時,大妻女子大学千代
田キャンパス図書館棟 6100 室.
写真 1 石鹸作り
写真 2 問題発掘調査
ネパールへはアチャヤが出張し、今後の研究の
フィージビリティスタディとしてカーストが社会
的、経済的、文化的要素を介して幼児の身体発育・
発達に与える影響について、幼児の身体測定と発
達調査を行い、カースト別にみた幼児の身体発
育・発達の点から検討した(写真 3、4)。
写真 3 身体計測の様子 写真 4 上腕背部の皮下脂肪
測定の様子
3.研究目標の達成状況
本年度、当該研究では実施計画に従い、(1)~
(4)の研究目標を達成した。
アジアの変わりつつある農村における女性を社
会(経済)的に支援する方策を提言するために、
(1)①アジア諸国の農村女性の生業、②農村女
性の社会的役割、③農村女性の社会的自立の諸要
因を整理した。
26
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
幼稚園児の保護者を対象とした英語の学び直しプログラム
-小学校英語必修化を大学と家庭からサポート
English Programmes for Pre-school Children:
How Should Parents Teach English at Home?
井上美沙子1),守田美子1),廣瀬友久1),上野優子2),ゴードン・リバシッジ1),
チャールズ・プリブル3),池頭純子4),丸山協子5),岡田江美6)
1)
短期大学部英文科,2)人間関係学部人間福祉学科,3)文学部コミュニケーション文化学科,
4)
山脇学園短期大学,5)日本女子大学,6)文学研究科英文学専攻
キーワード:英語教育,小学校英語必修化,幼児英語活動
1.研究目的
本プロジェクトは、平成 20 年度及び 21 年度に
受理された研究プロジェクトを更に、拡大発展さ
せることを目的とする。
我々は、平成 23 年度からの小学校英語必修化を
睨み、英語嫌いな子供の増加を防止するためには、
小さいときからの家庭環境が重要で、特に保護者
が英語嫌いであると、その子供も将来的に英語嫌
いになる可能性が高いと考える。意外なことに、
早期英語教育の必要性が叫ばれる中、英語嫌いは
確実に低年齢化し、その背後には英語の学習経験
はあっても活用の機会がないままになっている、
多数の保護者が存在していると考えられるからだ。
従って、本学の人間生活文化研究所に提案するプ
ロジェクトは、保護者の英語学び直しプログラム
開発を行うことで、国際人育成のための下地つく
りを行う環境構成に、大妻女子大学が積極的に取
り組んでいくことを、内外に広く示すことを目的
とする。
2.活動実施報告
今年度の活動は次の2つである。
1)幼稚園児保護者のための英語絵本ガイドブッ
ク作成、及び 2) 幼稚園児とその保護者が共に参
加できる家庭での英語指導ワークショップ開催。
英語の絵本は巷に溢れており、そのため、絵本
の解説書やガイドブックの類も多く出版されてい
る。しかし、その多くは、英語の運用能力育成に
主眼が置かれており、単なる絵本の内容紹介にと
どまっているものも少なくない。
そこで既存のものとは異なり、絵本の読み聞か
27
せを通じて更に周囲の人々との絆を深め視野を広
げることを手助けするようなガイドブックを作る
ことを企画した。
我々研究員が実際に区内の幼稚園で過去に使用
した教材の中から、家庭で、保護者がお子さんに
気軽に読み聞かせができるものを 12 冊選び、解説
をつけた。絵本のすぐれている点は、単純なスト
ーリーの中から、より深い人生への教訓やモラル
を自然な形で子供に教えることができる点にある。
従って、ただ楽しいだけでなく、社会性、国際性、
モラル・マナー、異文化教育といった観点から、
絵本を選んで分類することを心掛けた。また、家
庭での読み聞かせはたとえどんなに短い時間であ
ったとしても、毎日の親と子の心の交流の場とし
て大切だと考えられるため、単に読み聞かせるだ
けでなく発展してさらに英語に親しむことができ
るように、簡単な英会話のヒント、英語と日本語
の音の違い、英語圏と日本の文化の比較に関する
記述や説明をつけた。
次に、家庭での英語活動を応援するために、親
子で参加できる英語のワークショップを2回開催
した。また学術講演等を主催したり、コンサート
等に協賛したりした。これらのイベントの詳細に
ついては、下記を参照していただきたい。
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
英語指導案をつくっていきたいと考えると共に、
地域の子育て支援となるような、地域と大学が提
携する、国際性を持った子供を育てるためのイベ
ント等も、機会があれば行っていきたいと考える。
5.研究成果
1)学会発表
千代田さくら茶まつりにおいて事業報告をす
る予定だったが、震災のため中止となった。
2)その他
(親子参加型講演会及びワークショップ)
アイルランドの家庭と教育施設における子育
て事情,2010.10.30,10 時 40 分~11 時 40 分,
マーガレット・グラント講師,大妻女子大学
千代田キャンパス A 棟 357 教室.
図 1 作成したガイドブック表紙
3.研究目標の達成状況
当初の予定では、英語の学び直しコースとして、
保護者対象のレクチャーと親子参加型セミナーを
それぞれ数回ずつ開催し、体系的な英語の学び直
しカリキュラムを立案する予定であった。しかし、
幼児を抱える保護者は、英語活動に興味があって
も子育てに忙しく、連続したレクチャーに毎回参
加することは容易なことではない。そこで、レク
チャーの数を減らし、その代替として、家庭で気
軽に読める英語絵本のガイドブックを製作するこ
とにした。これにより、本プロジェクトでも推進
する英語絵本の読み聞かせを通じた英語指導を体
系的にまとめることができた。
また、地域貢献ともなるような国際的色彩を帯
びた催しやイベントも開催した。保護者対象の英
語のワークショップや講演会、公開講座としての
学術講演等を、主催、共催、協賛し、他にも英国
大使館合唱団コンサートといった地域のためのイ
ベントにも協賛した。但し、東日本大震災の影響
により、予定していたローナン・マギルピアノリ
サイタルは中止せざるをえなかった。
英語であそぼう! 親子で親しむ英語の絵本
と歌-ハロウィンの絵本と歌-,2010.10.30,
12 時 45 分~14 時 15 分,マーガレット・グラ
ント講師,大妻女子大学千代田キャンパス A
棟 357 教室.
英語であそぼう! 親子で親しむ英語の絵本
と 歌 - St.Patrick’s Day の 絵 本 と 歌 - ,
2011.2.26,12 時 45 分~14 時 15 分,マーガ
レット・グラント講師,大妻女子大学千代田
キャンパス A 棟 357 教室.
(公開講座)
加齢による心の変化-男女の違いはあるか-,
2011.3.9,16 時~17 時 30 分,オックスフォ
ード大学名誉教授パトリック・ラビット博士,
大妻女子大学千代田キャンパス A 棟 564 教室.
4.まとめと今後の課題
小学校英語必修化に備える、幼児を抱える保護
者のための英語学び直しカリキュラムの立案は、
ガイドブック作成という形でまとめることができ
た。これを手掛かりに、更に体系的な幼児の為の
28
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
高学歴・高齢者のTAボランティアによる学生支援の可能性に関する研究
The Study about Student Support by Highly-educated Senior Citizen Volunteer
川廷宗之1),松山博光1),井上修一1)
1)
人間関係学部人間福祉学科
キーワード:ティーチング・アシスタント,ボランティア,授業,大学教育
1.研究目的
今回の分析対象は 18 の講義科目とした。
本研究は 2 年目となっている。昨年度は、そも
調査内容は、授業科目、学部(学科・専攻)、学
そも、大学教育におけるTAを、高学歴高齢者に
年の他、①TAVとの関わりの有無と実態
ボランティアを担ってもらうことが可能かという
AVによる授業の改善点の有無と認識
問題意識から始まり、実際にTAボランティアに
導入の満足度
活動していただいた上で、運営システムなどの整
の5点である。
備が可能かという点に関し研究し、TAボランテ
(3)結果と考察
ィアは一定の役割を担い得るという結論を出した。
そこで、今年度の研究の焦点は、TAボランテ
④TAVへの期待
②T
③TAV
⑤自由記述
本調査の回答は 1,793 名から得られ、欠損値の
240 名を除いた 1,553 名を分析対象とした。
ィアのサポートを受けた学生の反応、および活動
①学年の分布としては、1年生 914 名(55.0%)
、
したTAボランティアの反応を中心とした。
2年生 484 名(29.1%)
、3年生 217 名(13.1%)
、
2.TAV学生アンケートの枠組みと調査結果
4年生 46 名(2.8%)であった。科目ごとの分布
(1)研究の目的
は、40 名程度の講義、80 名程度の中規模の講義、
本研究の目的は、TAボランティア(以下TA
120 名以上の大規模の講義の3種類である。学部・
V)の活動実態と授業改善、受講生の満足度の関
学科・専攻別では、人間福祉学専攻 829 名(53.5%)
、
係性を明らかにすることにある。また、受講者の
、社会学専攻 171
介護福祉学専攻 105 名(6.8%)
規模、TAVと学生との関わり方、学年ごとの受
名(11.0%)
、社会・臨床心理学専攻 218 名(14.0%)、
け止め方の違いについて比較検討し、今後のTA
社会情報学部 184 名(11.8%)
、比較文化学部 46
V導入のさらなる効果的な実施方法を検討する。
名(3.0%)という結果であった。
(2)研究の対象と方法
②TAVとの関わりがあった者は 554 名(31.4%)
、
研究対象は、本学における 2010 年度:前・後期
なかった者は 1,208 名(68.6%)であった。
開講科目のうち、TAVと教員間で導入の合意が
③TAV導入による授業の改善点について、複数
得られた科目の受講生である。学年は1年生から
回答で学生の印象を尋ねたところ、
「授業中の配布
4年生を対象とし、所属学科も人間関係学部、社
物がスムーズに手元に届いた」982 名が最も多く、
会情報学部、比較文化学部の多摩3学部とした。
次いで「私語が減った」294 名、
「授業の理解が深
TAVを導入した科目は演習科目も含まれるが、
まった」257 名という順であった。
29
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
④TAV導入による授業改善は3つの側面が考え
もあり、とても有意義な時間となった」などの意
られ、1つはプリント配布などのスムーズな授業
見があった。また、今後の活動に希望する点では、
運営への効果。2 つ目は、TAVと教員との対話
「学生との関わりがもっとあればよかったと思う。
を通した学生の授業理解の効果。3 つめは、第三
話し合う時間が少ない。学生が大人特に高齢者と
者の視点が教室に入ることによる「開かれた学び
コミュニケーションをとる時間があればよいと思
の場づくり」と「自ら学ぶ姿勢」の効果である。
う」などのコメントが寄せられた。今後は定型的
⑤TAV導入への満足度については、TAVを導
な活動枠組みのみならず、それぞれのボランティ
入して良かったかどうかという設問を 5 件法で尋
アの才能を授業の中で活用していくような取り組
ね、最も良かった場合を5、その反対を1とした。
みの開発も必要であろう。
「本科目はTAVを導入してよかったと思う」と
4.結語
いう項目でTAV導入に対する満足度を尋ねたと
以上のように、この活動は学生からもTAV自
ころ、
「そう思う」569 名(35.1%)
、
「どちらかと
身からもそれなりの評価が得られており、今後の
いえばそう思う」481 名(28.4%)を合わせて
問題は、TAVの活動を如何に授業改善に結び付
63.5%が導入に対して高い評価をしていた。
けるかである。TAVの活動は、授業の改善と中
⑥「今後もTAVは導入した方が良いと思う」か
高年者の学習と言う二つの目標を持っている。私
に対しては、6割程度が好意的な回答をしている。
語が多くてもそれを改善しようと教員が考えなけ
この結果は満足度と同様、受講者数の規模と親和
れば、TAVを導入しようという話にはならない。
性が高い。120 名以上の大規模授業ほど、TAV
また、大人の体験談を授業内容と関連させて活用
導入の期待が高いことがわかった。
するなど、参加するTAVがもっとやりがいを感
(4)まとめ
じるような内容の開発が求められよう。
以上から、初年次教育においてTAVの有効性
文献リスト
井上修一(2010)
「学生アンケートの枠組みと調査
が明らかになった。TAV導入による主な成果は、
(1)授業理解を深める効果、(2)自ら学ぶ姿勢づく
結果」
『平成 21 年度大妻女子大学人間生活文化
り、(3)スムーズな授業運営。その一方で、学年が
研究所指定研究:高学歴・高齢者の TA ボランテ
進むにつれてTAVへの満足度や期待が低下する
ィアによる学生支援の可能性に関する研究報告
ことから、学年に合わせた活動内容の検討(卒論、
書』大妻女子大学・人間生活文化研究所、21-30。
国家試験対策、就職支援等)や授業規模に応じた
宇田川拓雄(2007)
「TA よ、大志を抱け―北大 TA
関わり方の検討が課題として残った。
アンケート調査結果の分析と考察―」
『高等教育
3.TAV活動を行った人たちからの意見
ジャーナル』(15)北海道大学高等教育機能開発
TAボランティアのうち 14 人から、書面でお答
総合センター、113-131。
えいただいた主な内容は以下のとおりである。学
大学教育センター教育評価 FD 部門(2005)
「ティ
生と関わりでは、関わりがあったと答えた方が 13
ーチング・アシスタントと共に指導する」東京
人(NA1 人)
。授業の改善効果については、改善
農工大学大学教育委員会。
された 11 人(NA3人)であった。TAVが活動
立命館大学「2007 年度 TA アンケート集約結果
の中で学んだ点として「授業内容が現在のボラン
【2007 年度TA対象】」
ティア活動の背景部分となるため、大変貴重な示
http://www.ritsumei.jp/grinfo/pdf/questionna
唆を頂いた」「TAVの日は生活の中で楽しみで
ire%20to%20T
30
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
健全な食生活確立のための食文化、食習慣、食嗜好の
相互関連性に関する研究
Interrelation between Food Culture and Dietary Habits for Healthy Lifestyle
1)
小林実夏1),益本仁雄2),堀口美恵子3),宇都宮由佳1), 榮光子4)
家政学部食物学科,2)家政学部被服学科,3)短期大学部家政科, 4)人間生活文化研究所
キーワード:食文化,食習慣,食嗜好,味覚,タイ
1.研究目的
ヒトには生まれつき身につけている先天的味覚
行動と経験、学習、記憶などを通して獲得される
後天的味覚行動とがある。食物に対する嗜好の形
成は、幼児期の反復摂取によって獲得されるため、
幼児期から慣れ親しんできた食物が、食嗜好に深
い影響を与えることは予想される。本研究では、
幼児期から青年期に及ぶ食生活や食文化、食環境
が、食物嗜好に及ぼす影響について解明すること
を目的として、生活環境の異なる日本、タイにお
いて青年期男女に食事調査・生活習慣調査を行い、
食物嗜好・食物選択の客観的指標としての味覚感
受性を用いて、食物嗜好に影響を与える要因を検
討する。
昨年度は、味覚検査方法、生活習慣調査方法、
食事調査方法の確立について報告をおこなった。
また、日本人大学生を対象に、味覚閾値と食生活、
食物・栄養素摂取量との関連を検討した。本年度は、
タイ人大学生を対象に、味覚閾値と食習慣との関
連について検討をおこなった。
2.活動実施報告
1)調査対象者
タイ人大学生男 42 名、女 71 名、計 113 名を
対象とし、平成 21 年と平成 22 年の 8 月に、生活
習慣調査及び味覚検査を行った。
男性対象者の身長は、171.2cm、体重は 63.7kg、
女性対象者の身長は、158.0cm、体重は 50.7kg で
あった。平成 20 年度国民健康・栄養調査の結果で
は、20 歳の日本人の身長、体重は、男性では
170.3cm、59.8kg、女性では 157.4cm、51.5kg、20
歳代の BMI は、男性では 22.1、女性では 20.7 と
報告されている。対象者の体格は日本人とほとん
ど差異がないことがわかった。対象者の BMI に関
しては、25 以上の肥満者が男性 7 名、女性 6 名、
31
18.5 未満の痩せが男性 11 名、女性 27 名であった。
2)味覚検査
甘味、塩味、酸味、苦味の各 7 濃度(表 1)を湿
らせた直径 6mm の抗生物質検定用ペーパーディス
ク(東洋濾紙株式会社製)を用いて、濾紙ディスク
法により行なった。甘味は蔗糖、塩味は塩化ナト
リウム、酸味は酒石酸、苦味は塩酸キニーネで調
整をした。対象者はミネラルウォーター(volvic)
で口をすすぎ、ピンセットで最低濃度の濾紙を 1
枚舌先に置く。3 秒経過後ピンセットで濾紙を取
り除き、指図表(甘味・塩味・酸味・苦味・無味)
のうち 1 個を答える。正答の味を認知するまで
徐々に濃度を高くし、同様の操作を繰り返す。正
答の味を認知したら次の濃度で確認して正答の場
合は前に認知した濃度、誤答の場合は徐々に濃度
を高くし正答を認知した濃度とした。異なる味に
移る際は、ミネラルウォーターで再度口をすすぐ。
検査は苦味を最後とし、甘味、塩味、酸味のいず
れかから実施した。
3)生活習慣調査
生活習慣調査は、食習慣と味覚との関連を調べ
るためのものである。食習慣項目について、それ
ぞれ「ほとんどない」「週 1-2 日」「週 3-4 日」「ほ
とんど毎日」の 4 つの選択肢から回答してもらっ
た。本研究では味覚との関連を調べるため、「朝・
昼・夕三食を抜かさずに食べる」「朝食を食べる」
「お腹いっぱい食べる」「栄養のバランスを考え
て食事をする」「できるだけ多くの食品を食べる」
「食べるスピードが早い」「夜食を食べる」「間食
を食べる」「肉料理を食べる」「魚料理を食べる」
「乳製品を食べる」「果物を食べる」「野菜を食べ
る」「タイの伝統菓子を食べる」「スナック菓子を
食べる」「脂っこいものを食べる」「インスタント食品や
加工食品を食べる」「ファーストフードを食べる」「加糖
飲料を飲む」を用いた。
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
4)調査結果
甘味、塩味、酸味の閾値は、女性のほうが有意
に低かった。苦味の閾値は、男女とも低かったが、
有意な差はみられなかった。
朝食を週に3日以上摂取する人は、摂取しない
人と比べて、甘味の閾値の低い割合が有意に高か
った(P=0.0276)。できるだけたくさんの食品を摂
取することを心がけている人、週に3日以上乳製
品を摂取する人では、塩味の閾値の低い割合が有
意に高かった(P=0.0392, P=0.0097)。満腹になる
まで食べない人、インスタント食品の摂取頻度が少ない
人、果物を毎日摂取する人では、酸味の閾値の低
い 割 合 が 有意 に 高 か った (P=0.0165, P=0.0354,
P=0.0381)。週に3日以上魚、乳製品を摂取する人
では、苦味の閾値の低い割合が有意に高かった
(P=0.0474, P=0.0323)。
味覚閾値と食習慣に関する重回帰分析の結果を
表 1 に示す。男性は甘味、塩味、酸味の味覚閾値
が女性より高かった。朝食を食べる(β=-0.3299,
P=0.0003),果物を食べる(β=-0.2584, P=0.0059),
タイの伝統菓子を食べる(β=-0.1931, P=0.0328)
習慣のある人ほど甘味の閾値が低かった。朝食を
食べる(β=-0.2025, P=0.0285),乳製品を食べる
(β=-0.2784, P=0.0020)習慣のある人ほど塩味
の閾値が低く, ファーストフードを食べる(β=0.1786,
P=0.0470)習慣のある人ほど塩味の閾値が高かっ
た。朝食を食べる(β=-0.2419, P=0.0115),果物
を食べる(β=-0.2540, P<0.0001)習慣のある人
ほど酸味の閾値が低く,おなかいっぱい食べる(β
=0.1916, P=0.0369)習慣のある人ほど酸味の閾値
が高かった。
表1
3.研究目標の達成状況
本年度の研究では、タイ人大学生男 42 名、女
71 名、計 113 名を対象に甘味、塩味、酸味、苦味
の各 7 濃度について、濾紙ディスク法により味覚
閾値検査を行った。日本の食文化、食習慣、食嗜
好とは異なるタイの青年の味覚敏感度について新
しい知見が得られた。
4.まとめと今後の課題
平成 21 年度は日本人青年 170 人を対象に、平成
22 年度はタイ人青年 113 人を対象に、味覚機能検
査を行い、味覚感受性と関連のある食物嗜好・生
活習慣因子について検討し、味覚感受性と関連の
ある要因を特定することができた。
今後は、対象者の数を増やすことによって、日
本人青年とタイ人青年の味覚感受性に関する要因
の比較を行い、保護者からの回答数も増やすこと
によって、幼少期の食習慣と味覚感受性との関連
についても検討する。また、食事記録調査、デジ
タル写真による食事調査データの入力、コーディ
ングをおこない、味覚感受性と食事要因との関連
についてより詳細な検討をおこなう。
味覚閾値と食習慣に関する重回帰分析
甘味

1)
性別
朝食を食べる
塩味
P値

酸味
P値

苦味
P値
0.2225
0.0137
0.2856
0.0014
0.1814
0.0465
-0.3299
0.0003
-0.2025
0.0285
-0.2419
0.0115
-0.1709
0.0672
-0.1629
0.0867
0.1916
0.0369
0.1498
0.0924
-0.2784
0.002
間食を食べる
-0.2262
夜食を食べる
お腹いっぱい食べる

0.1551
0.0848
野菜を食べる
0.17
0.061
果物を食べる
-0.2584
0.0059
乳製品を食べる
P値
0.0161
-0.254 <.0001
魚料理を食べる
-0.1755
0.0622
肉料理を食べる
0.1655
0.0815
タイの伝統菓子を食べる
スナック菓子を食べる
-0.1931
0.0328
0.1643
0.0687
ファストフードを食べる
0.1786
0.047
R2
0.239
0.239
0.183
0.092
調整済みR2
0.188
0.195
0.145
0.067
: 標準化偏回帰係数
1)男性=1,女性=0
32
5.研究成果
1)学術雑誌
[1] Kobayashi M, Adachi H Y, Ishihara J, Tsugane
S (2011) Effect of cooking loss in the
assessment of vitamin intake for
epidemiological data in Japan. Eur J Clin Nutr.
65,546-552.
[2] 宇都宮由佳(2010)ポルトガルの伝統菓子 Fios
de ovos のアジアへの伝播-ゴア(インド),タイ.
日本の調査をとうして,食文化研究,6,21-30.
[3] 益本仁雄,宇都宮由佳,長谷川典子(2011) 発
展途上国の地方活性化の要因解明-北タイ農村の
電化を通じた 19 年間継続研究(下)
,大妻女子大
学家政系紀要,47,161-174.
2)学会発表
[1] 小林実夏,本間めぐみ,上野明日香,堀口美
恵子(2010) 食塩摂取の嗜好に影響を及ぼす幼児
期から青年期に及ぶ食生活や食環境の要因,第 19
回日本健康教育学会,京都大学.
[2] 大河内靖子,小林実夏(2010) 女子大学生の居
住形態の違いによるビタミン B1 摂取状況の評価
について,第 57 回日本栄養改善学会,女子栄養大
学.
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
本学卒業生の就業意識と就業行動に関する研究
A Study of Employment Awareness and Action in College Graduates
佐藤洋一 1),干川剛史 2),小谷敏 2),細谷夏実 1),炭谷晃男 1),前納弘武 1),高橋杏奈 3)
1)
社会情報学部社会情報学科, 2)人間関係学部人間関係学科, 3)社会情報研究科社会生活情報専攻
キーワード:女性の就業,女性管理職,M字型曲線,早期転職
1. 研究の背景と目的
表題のテーマにもとづく調査研究のため、昨
年度はその前提的な問題として、我が国の女性
就業問題のなかから本研究関連の主要な問題
点として、(1)正社員・正職員の採用状況、(2)
新規学卒における女性の採用状況、(3)男性の
み採用の理由、(4)子育て年代女性の中途採用
の状況、(5)女性管理職が少ない理由、(6)ポジ
ティブアクションの実施状況等々について概
括し、女性就業の意識と行動に関する今日的な
動向把握の一助とした。これを踏まえて、今年
度はフィールドワークに向けてその基本的な
スキームの検討に入ったが、未だ前提的な問題
の分析に多くの時間を費やす必要があるとの
認識に立ち、実際の調査は次年度以降の課題と
することとなった。したがって以下では、前年
度に引き続き、既存データにもとづく現状分析
を軸に報告する。
者数を除いた就職者割合は、女性が 80.4%、
男性が 78.5%であり、女性が男性を上回ると
いう傾向は過去8年間連続している。
2) 平成 7 年と平成 21 年の比較
以上の結果を、平成 7 年度と比較してみると、
今から 14 年前においては、女性の大学卒業者
は 14 万 6,253 人、このうち就職者は 9 万 8,865
人で、就職率は 67.6%であった。また、進学
者を除いた就職率は女性 72.6%、男性 82.4%
であった。文部省「学校基本調査」の大卒者の
男女別就職率の時系列結果をみると、男女とも
平成3年度には 80%程度の高率を示している
が、その後急速に低下し、割合から見る限り、
平成 21 年の状況は、平成 7 年度の状況と酷似
していることがわかる。ただ、進学者を除く実
質的な就職率の結果が、平成 7 年度では女性よ
り男性の方が高かったが、平成 21 年度におい
ては先に見たように、女性の方が高く男性の方
が低い傾向にあった。その社会的な背景の分析
が今後のフィールドワークの課題のひとつに
措定される。
2.女性大学卒業者の就職状況
本学卒業生を対象とした就業動向に関する
実態調査実施のための前提的な問題として、女
性大学卒業生の就職状況を把握しておくこと
は必須課題のひとつである。その直近の傾向に
ついて、厚生労働省「平成 21 年度版働く女性
の実情」のデータをもとに若干の考察を加えて
おきたい。
3) 女性大卒者の産業別就職動向
次に、平成 21 年度の女性大卒者の就職動向
を産業別にみると、「卸売業、小売業」が 16.5%
と多く、続いて、「医療、福祉」14.7%、「金融
業、保険業」14.1%、「製造業」11.0%の順と
なっている。この点についても、平成 7 年度の
結果をみると、他の業種の割合はさほど変わら
ないものの、「医療、福祉」分野への就職が目
立って増加していることがわかる。
1) 大卒者に占める就職者割合の低下
平成 21 年 3 月の女性の大学卒業者数は、23
万 8,407 人であり、そのうち就職者数は 17 万
5,016 人 、 卒 業 者 に 占 め る 就 職 者 の 割 合 は
64.6%であった。この数値は、前年度より 1.8%
の低下であり、近年の景気動向を反映したもの
と言わざるを得ない。なお、就職者数から進学
4) 女性大卒者の職業別就職動向
33
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
職業別では、平成 21 年度の女性は「事務従
事者」が 38.7%と最も多く、次いで、
「専門的・
技術的職業従事者」33.9%、「販売従事者」
18.4%となっている。14 年前の平成7年度の
結果は、「事務従事者」が 50.2%、「専門的・
技術的職業従事者」が 30.2%、「販売従事者」
13.6%であった。ここに挙げた3つの職業類型
の順位は 14 年前と変わらないが、3者の内訳
をみると、女性大卒者の職業として、「事務従
事者」ならびに「販売従事者」が減少している
のに対し、「専門的・技術的職業従事者」が増
加している。この職業別就職動向についても、
全国的な傾向と本学卒業生との比較分析も今
後の課題とするところである。
死別・離別者は 29.5%であった。前年度との
変化は、有配偶者が 0.2 ポイント上昇したが他
のケースの変化はほとんどなかった。この結果
を平成 7 年度と比べると、今から 14 年前は、
未婚者は 58.4%、有配偶者は 51.8%、死別・
離別者は 32.3%であった。つまり、未婚者の
労働力率は増加し、有配偶者ならびに死別・離
婚者の労働力率も増加している。全般的な女性
の社会進出が拡大してきている証左である。
7)女性の配偶関係別労働力率
最後に、企業規模別雇用者数に触れておこう。
平成 21 年度の結果によれば、雇用者のうち、
女性の非農林業雇用者数は 2,288 万人となり、
前年に比べて 4 万人の減少となった。ここにも
不況の影響がみられるが、非農林業女性雇用者
数を企業規模別にみると、「1~29 人」が
31.6%と最も多く、次いで、「500 人以上」が
23.7%、「100~499 人」
が 18.4%、「30~99 人」
16.4%となっている。これを前年と比較すると、
「500 人以上」が 2.1%増加しているが、その
他の企業規模においては軒並み減少している。
新規大卒女性の場合も、大企業とそれ以外の中
小企業との格差はこうしたデータにも反映し
ているとみることができる。
5)女性労働力率の年齢階梯別動向
平成 21 年度の女性の労働力率を年齢階梯別
にみると、「25~29 歳」77.2%と「45~49 歳」
75.3%を左右のピークとして、「35~39 歳」を
ボトムとするいわゆる「M字型カーブ」を描き、
ボトムの数値は 65.5%で過去最高の結果とな
った。「M字」の底上げが進行しつつあるわけ
であるが、この点について、平成7年度の結果
はどうであったろうか。
平成7年度版「働く女性の実情」によると、
左サイドのピークは、「20~24 歳」74.2%であ
り、右サイドのピークは、
「45~49 歳」
71.2%、
ボトムの年齢層は「35~39 歳」で、その数値
は、53.5%であった。
つまり、左サイドの年齢層が平成 21 年度に
なると、20 代後半に移行してきており、それ
だけ女性の社会進出の開始が遅れてきている
ことがわかる。その背景として考えられる要因
としては、もちろん女性の大学進学率の向上が
あることは言を俟たないであろう。
さらに、「M字型」のボトムの数値が、53.5%
から 65.5%に、12 ポイントも拡大しているこ
とが何と言っても注目されるところである。こ
の 14 年の間の女性の就業問題の中心的な問題
がここにあることは明らかであろう。
3.今後の課題
以上、昨年度に続いて、昨今の全般的な動向
を把握するために、主に厚生労働省のデータを
みてきた。今後、この 2 年間の女性の就業をめ
ぐる全国的な傾向と本学卒業生との時系列的
な対比分析を整理し、これらの予備作業を踏ま
えて、本学卒業生の就業をめぐる意識と行動の
特性に関するフィールドワークに移したい。
6)女性の配偶関係別労働力率
配偶関係別の平成 21 年度の女性の労働力率
をみると、未婚者は 63.7%、有配偶者は 49.0%、
34
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
4 年制大学における保育者養成の現状と課題
Present State and Subject of the Training for Nursery Teachers in University
松本寿昭 1),高橋ゆう子 1),加藤悦雄 1),田代和美 1),川廷宗之 2),松山博光 2),藤江慎二
1)
家政学部児童学科, 2)人間関係学部人間福祉学科
2)
キーワード:保育者,専門職,保育実習,事前・事後指導
生は前年度(平成 21 年度)の学生とは明らかに
異なる志向が見られた。すなわち、保育士資格
を取得することと保育士を志向することとは
必ずしも一致しないこと。
2-2)保育福祉施設演習の内容の検討
夏のボランティア体験を行った後、その体験
内容を整理し、振り返り、互いに検討し合うプ
ロセスが学生自身の志向の吟味や検討に少な
からず影響していると考えられること。
2-3)保育実習に向けた保育福祉施設演習
について
保育実習の 1 年前にボランティアとして、保
育の現場に入り、子どもや保育士に対する理解
を深めることで、結果的に保育実習に対する不
安が軽減し、これまでの漠然とした興味・関心
が具体的に検討される契機になっていること。
1.はじめに
平成 22 年度に行った研究は、平成 21 年度の
研究で残されたいくつかの課題を中心に継続
して行い、その成果をまとめたものである。内
容は、第一に 2 年次の学生の保育士志向の現状
と課題について前年度に続き検討したこと。第
二に、学生が保育士になることを決意する過程
(プロセス)を明らかにしたこと。第三に、専門
職としての保育者養成について、保育実習の事
前ガイダンス、実習中の体験内容、事後学習の
内容について検討したこと。第四に、隣接領域
である介護福祉士および社会福祉士実習にお
ける実習指導から学ぶこと。以上の 4 課題を中
心に、実践的な資料を用いて検討した。
2.保育福祉施設演習受講者の保育士志向の変
化-平成 21 年度と平成 22 年度の調査結果
の比較-
1)目的・対象・方法
上記の授業の受講者(平成 21 年度と平成 22
年度の学生)を対象にアンケート調査を実施し、
学生の保育士志向の傾向と特徴を明らかにす
ることと、当演習のあり方について検討した。
2)結果
2-1)保育士志向と保育士資格取得
学生は入学当初から保育士資格の取得を目
指し入学している点は、平成 21 年度と同様で
あるが、その志向は平成 22 年度の学生は中
学・高校時代からが最も多かった。不安や興味
関心を明確にする時期には個人差がありその
適否を問うことはそれ程重要ではない。しかし、
他の結果と合わせ勘案すると平成 22 年度の学
35
3.学生が保育者になることを決意するプロセ
ス-「やりがいを実感」することをコアカ
テゴリーとして-
1)目的・対象・方法
保育士資格を取得し、卒業後保育の仕事に就
くことが決まっている学生(平成 23 年 3 月に卒
業予定のうち 35 名)を対象に 4 年間の学びの履
歴をレポートにまとめてもらい、分析した。
2)結果
2-1)卒業後に保育士もしくは幼稚園教諭
の仕事に就く学生の M‐GTA によ
る分析結果
図 1 は保育者になることを決意するプロセ
スを示したものである。ここで、コアカテゴリ
ーの項目は「やりがいを実感する」こと。また、
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
り深い部分で受けとめ、それを自覚する等保育
者としてふさわしい体験をして来ていること。
2-2)事前・事後指導が適切に行われ、そ
こで指導された内容を学生が理解し実習に望
むことが基本である。しかも、その指導は細部
にわたりキメ細かく行うこと。なお、学生は保
育者としての自覚を持ち主体的に学ぶこと。
カテゴリーは「主体的存在であることを自覚」
「学び、成長できる自分を実感」などであった。
図 1.学生が保育者になることを決意するプ
ロセスの結果図
大学で学ぶ中で
《主体的存在である
ことを自覚》
〈考え・
話し合
うことの
面白さ
を実
感〉
〈自分
の価値
観に気
づくこ
と〉
他の職業を
探す中で
実習を積み重ねる中で
〈自信喪失〉
〈子どもとかかわる楽しさ〉
《学び・成長
《保育に携わる楽
できる自分
しさ・ 喜びを実感》
を実感》
〈保育行為の楽し
〈充実感〉
さ・喜びを実感〉
〈自分の成
〈子どもが与えてく
長を実感〉
れる楽しさ・喜びを
実感〉
《憧れ
る保育
者との
出会
い》
〈自分
探し〉
〈違和感〉
〈魅力の比
較〉
5.隣接領域の実習施設における実習指導に学
ぶ
1)目的・対象・方法
保育の隣接領域である介護福祉士・社会福祉
士養成のための実習指導のあり方について、実
習指導をされている施設職員に聴取した。
【やりがいを実感】
保育者になる
ことを決意
2-2)保育実習との往還関係における大学
における学び
学生が保育者になることを決意するプロセ
スと大学での学びの関係については、大学での
学びの中で学生が、保育者は保育行為を担う
「主体的存在であることを自覚する」ことであ
り、それらは実習を積み重ねる中で、「学び、
成長できる自分を実感していくこと」であった。
4.専門職としての保育者養成―学生の保育実
習場面における体験過程の分析を中心に―
1)目的・対象・方法
保育者養成の中心的な教科目である保育実
習Ⅰ(入所型施設)を平成 21 年度に体験した学
生のうち 23 名の実習録を無作為に抽出し、実
習中の体験過程および実習に伴う事前・事後の
学習内容を検討した。
2)結果
実習中の学びと体験内容の質的向上のため
に「実習目的を明確にし」「積極的に指導を受
け」、「心身共に健康であること」「価値や倫理
を大切にする」などの重要性が指摘された。
6.研究目標の達成状況
保育実習の事前・事後指導をキメ細かく行う
ことにより、保育者として「主体的存在である
ことが自覚」でき、保育者としてふさわしい人
格の向上を目指す学生が増えて来ている。
改善すべき点は数多くあるが現在の指導内
容及び指導体制が一定の効果を示している。
7.まとめと今後の課題
以上のように課題毎に検討してみると、実習
体験とその後の整理の過程で保育者としてふ
さわしい資質が次第に身に付いてきている。今
後は、実習以外の授業内容の検討が課題である。
2)結果
2-1)実習の体験過程で特に注目したい点
は、保育者を目指す学生の学びの転機を導いた
と思われる行動を読みとっていくと、自分の置
かれた状況に踏みとどまるのみではなく、そこ
から一歩踏み出そうとする行動が認められる
こと。また、自分自身の心情や思考や行動に変
化を引き起すには、実習体験の内容を胸の内よ
8.研究成果
本研究の成果を取りまとめ、前年度に続きプ
ロジェクト研究報告書を作成した。
36
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
情報デザイン教育の新たな展開
-ピクトグラムと印象評価を用いたデザイン教育方法の開発-
New Development of Information Design Education
-Design Education and the Development of Educational Method
Based on Pictogram and Impression Evaluation森崎巧一1),本郷健1),大澤清二2),大海悠太3)
1)
社会情報学部社会情報学科,2)家政学部被服学科,3)東京大学大学院
キーワード:イラスト,印象評価,多変量解析ツール
1)試作品と改良作品の良否判定
試作品と改良作品のどちらが良いと判断された
のかを調べた。50 組中 46 組の作品に対し、半数
以上の学生が改良作品の方が良いと答えた(50 組
中 30 組の作品は、80%以上の被験者が改良作品の
方が良いと判断した)。逆に、半数以上の学生が試
作品の方が良いと判断した作品は、僅か 4 組であ
った。したがって、改良作品の過半数が、良いイ
ラストとして認識されていることを確認した。
1.はじめに
本研究は、昨年度の研究を継続し、その対象を
ピクトグラムからイラストに広げ、より複雑な図
案にも本手法が対応可能であることを確認した内
容を報告する。
また、本研究の結果を踏まえ、学生自身で作品
の評価を客観的に分析することを支援する多変量
解析ツールを作成したことを報告する。
2.調査
被験者は、2010 年の大妻女子大学社会情報学部
情報デザイン専攻の講義「感性デザイン及び演習」
に参加する学生である。以下、その手順である。
① 試作品の制作:年賀状のイラストを CG で作成
させた。デザインには「干支の兎、背景、文
字(文章も可)」を含むように指示した。
② 作品を改良するための情報の収集:被験者に
各自のイラスト作品を改良するための 15 項
目以上の情報を集めさせた。
③ 作品の改良:収集した情報を基にして、イラ
ストを改良させた。
④ 印象語の選別:イラストの評価に相応しい印
象語を収集し、頻出度の高かった 36 語を選別
した。
⑤ 作品の印象調査:学生 48 名に、36 の印象語
の 5 段階尺度を用いて、試作品と改良作品か
らなる 50 組、計 100 作品の印象を評価させた。
さらに、試作品と改良作品のいずれが良いイ
ラストかを回答させた。
2)試作品と改良作品の判別
イラストの試作品と改良作品の判別性を分析し
た。改良作品が良いと判断された先述の 30 組の作
品を取り上げ、各作品の印象評価値を平均化した。
基準変数の値は、試作品を 0、改良作品を 1 とし、
36 の印象語を説明変数として判別分析(ステップ
ワイズ法)を行った。識別結果を表 1、判別分析
から得られた判別関数を表 2 に示した。
表 1 識別結果
試作品
改良後の作品
合計
試作品
27
1
28
識別結果
改良後の作品
3
29
32
表 2 判別関数
説明変数
わかりやすい
面白い
洗練された
3.分析
37
判別係数
1.140
0.906
-0.725
合計
30
30
60
識別率
90.0%
96.6%
93.3%
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
図 1 判別得点の分布
識別結果は、表 1 の通り、30 組の作品の識別率
が 9 割を越えることから、表 2 の判別関数による
試作品と改良作品の判別性は、高い精度を持って
いると考えられる。この結果に対するデータの当
てはまりとして、Wilks のλは 0.36 となり、説明
変数の判別に対する貢献度は高い。またλに対す
る有意確率は 2.03×10-12 となり、有意水準(1%)
以下となった。したがって、得られた説明変数で
意味のある判別がなされたと考えられる。
4.考察とまとめ
分析から得られた判別関数及び判別得点の分布
(図 1)により、改良作品の判別に影響する正方
向に「わかりやすい」「面白い」、試作品の判別に
影響する負方向に「洗練された」という印象が影
響することが分かった。これは、今回のように目
的をもったイラストでは、内容の分かりやすさや
面白さといった情報伝達性の方が、表現技術を洗
練させることよりも、良い作品であると区別され
る基準として働くことを示している。
被験者の 9 割以上が試作品より改良作品が良い
と判定した作品(図 2)を見てみると、改良作品
には日の出や羽子板、富士山などの「正月の表象」
が加えられていることが分かる。改良作品は、今
回のイラストの目的である年賀状という側面をよ
り強調したものとなっているのである。また、改
良作品は、試作品に比べてキャラクターが目立ち、
文字も読みやすく変更されているものが多い。
以上により、イラストの目的をよりはっきりと
伝えることを可能とする加筆や修正が、良い作品
であると判断される際の指標になったと推察され
る。このような加筆や修正によって、作品の面白
さが強調されると同時に、作品の持つメッセージ
をより分かりやすく伝えることができたと言える
のではないだろうか。
図 2 作品例(左:試作品、右:改良作品)
5.多変量解析ツールの作成
作品を改良するための情報は、学生の主観的判
断に委ねられていた。しかし今後は、より客観的
な判断を行うために、調査段階には定量的な調査
法も導入し、分析にも統計的方法を取り入れる必
要があると思われる。そこで、首都大学東京理工
学研究科の正木晶子氏の協力を得て、学生が利用
しやすい多変量解析ツールを Excel VBA で作成し
た(図 3)。多変量解析は、本研究で使用した判別
分析の他に、クラスター分析、主成分分析、数量
化Ⅲ類を利用することができる。これを用いるこ
とで、作品を改良する情報を、学生自身で適切に
判断できるようになるのではないかと期待される。
今後はこのツールをデザイン教育の中で利用する
ことを実践していきたい。
図 3 多変量解析ツールの例(判別分析)
38
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
わが国における子守服の変遷とその背景にある子育て観の変化に関する研究
Research on the changes in utensils for and prevailing opinion of child-rearing in Japan
阿部和子1),柴崎正行1),阿部栄子2),是澤博昭1),坪井瞳3)
1)
家政学部児童学科,2)家政学部被服学科,3)児童臨床研究センター
キーワード:子守服,だっこ(紐)
,おんぶ(紐),ベビーカー
1.研究目的
近年、乳児を抱くことやおんぶすることが減少
しつつある。その背景にベビーカーに乗せて移動
することやスリングなどの流行があると思われる。
育児の負担感の軽減やファッション性を重視した
結果が、こうした流行を生み出している一因とも
いえる。その一方で、わが国の絵画に描かれた子
守の仕方や子守服を分析した研究によると、もと
もとは背中におんぶすることで、親は両手を使用
することが可能になり、育児をしながらの仕事が
できたとも言われている。
本研究は、子育てにおける乳児のおんぶや抱っ
こに焦点を当てて、わが国においてはどのような
紐や服を用いて子守をしていたのか、そして仕事
と子育ての両立を可能にした便利な子守紐や子守
服はいつ頃からどのような過程を経て現在のよう
な製品へと変化してきたのかという点を、絵画や
写真、インタビューなどを通して検討する。また、
その変化の過程にはどのような子育て観の変化が
存在していたのかを検討する。
わが国の子ども史を見ると、児童文化史、産育
史、育児書の歴史等では研究が進んでいるが、日
常の子育てにおける乳児のおんぶや抱っこという
子守りに関連することは不明な部分が多い。本研
究では、子育てを保育学、教育学、被服学、社会
学、民俗学の分野を融合させ、乳幼児の生活に学
際的なアプローチを試みる。
本研究で得られる成果は、乳幼児の周囲にある
物の変化の履歴を多角的に捉えることで、関係的
な視点からの子ども理解につながり、貴重な家政
学の基礎資料となるものと考える。また、家政学
部における「生活」をキーワードとする科目に基
礎的な材料を提供することが可能と考える。さら
に、子育て支援の重要性が言われる昨今、地域の
子育て家庭への子育て相談に関する資料ともなり
39
うる。
2.活動実施報告
平成 22 年度(以下、本年度)の活動として下記
の調査・研究を実施した。
(1) 子守に関わる絵画や写真、および文献、論
文等の資料収集
(2) 子守帯メーカー(コンビ、ラッキー工業)への
インタビューを実施。その成果に基づいて
子守紐の商品化とその時代背景に関する
調査・研究
(3) 子守服(子守帯・ねんねこ半纏・授乳服な
ど)の構造分析、および子守帯の実物作製
による機能理解とその変遷に関する調
査・研究
(4) 日本におけるベビーカー(乳母車)の導
入・定着の歴史的背景、およびその機能の
変遷に関する調査・研究
(5) おんぶや抱っこが描かれた、江戸後期の文
献・浮世絵・挿絵の分析と子育て観に関す
る調査・研究
(6) 民俗学的視点による「村落」と「都市」の
子守方法、および子育て観の変容に関する
調査・研究
(7) 地域博物館における子守・産育資料の残存
率とその活用に関する調査・研究
(※(6)(7)は、千代田区立四番町歴史民俗
資料館 加藤紫識)
3.研究目標の達成状況
本研究は、基礎的研究期間として 3 年を計画し
ているため、初年度である本年度は資料収集と実
物資料の所在確認を目標とし、そのうえで各分野
に分かれて調査を実施した。
本年度は、おんぶや抱っこが描かれている錦
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
選び、いわば転用的に使用されていたのである。
しかし、戦後を経て高度経済成長期を迎えると、
共同託児所の設置や機械化により、乳幼児をおぶ
っての作業が減り、
「労働のためのおんぶ」から「育
児のためのおんぶ」へ変容していく。こうしたさ
まざまな社会現象にともない、機能性・ファッシ
ョン性を重視したおんぶ紐やスリング、ねんねこ
半纏やママコート・授乳服が商品化されていった。
つまり家人の衣類の転用ではなく、育児のための
独立した機能をもつ商品が開発され、機能の充
実・快適化が求められるようになるのである。図
1は子守方法の変容により、子守服が商品化され
ていく過程を図式化したものである。
こうした子守服などの育児用品の商品化は、現
代の子育て観の変化に直結していると考えられ、
さらなる調査を要する。23 年度は、22 年度に収集
した資料や成果をもとに、より具体的な子育て観
の変遷の分析と現状把握を課題とする。
絵・挿絵・写真の資料調査・収集を中心に行った。
原資料の所蔵先や典拠調査を行うとともに、これ
らの資料からおんぶや抱っこの様相の変化を視覚
的に捉え、歴史的変遷が追えるように情報を整理
した。さらに、地域博物館などに対して、おんぶ
紐やベビーカーなどの実物資料の所蔵確認を行っ
た。結論としては、東京都都心部における子守に
関する資料の残存率が低いことが明らかとなり、
今後の活動では大学付属博物館や地方博物館や関
連企業博物館への調査の必要性が高まった。
また、おんぶ紐を実際に製作し、その構造と機
能を分析した。実際に製作してみることで、どの
ような機能を重視しながら商品化されていったの
かを検討した。併せて子守帯メーカーへのインタ
ビューを実施した。メーカー側、つまり製造者が
各時代において社会の子育て観をどのように受け
止め、どのように商品化していったのかを知るこ
とで、時代背景と併せてその過程を分析すること
が可能となった。以上、本年度の活動は、資料収
集やインタビューで得た情報などを通して、子守
服や子育て観の歴史的変遷を整理し、初年度の計
画はおおむね達成した。
図 1 子守方法と商品化された子守服の相関図
4.まとめと今後の課題
日本の代表的な子守方法として、抱っことおん
ぶを挙げることができる。さらにかつての農(漁・
林)村地域では、母親を含め、家内中が作業に出
た後に乳児の子守をする人がいない場合にはエジ
コ(嬰児籠)という道具が用いられていた。この
3つの子守方法は、同じ子守であっても、その特
徴や目的がわずかに異なっている。例えば、抱っ
こは長距離の移動や労働には適さないが、より育
児に重点をおいた行為である。そして、おんぶは
紐などで固定すれば、両手が自由に使えて労働が
可能になるが、背負った乳幼児の姿は見えない。
さらにエジコは、見守る人がいなくても乳幼児が
動かないように固定する仕組みになっている。こ
れは当時の子育て観にかかわらず、そのような道
具を使わざるを得ない村落の環境が反映している。
このように日本の約 70%が第一次産業に従事し
ていた高度経済成長期以前においては、おおむね
おんぶやエジコを使用しながら、子守と作業の両
立が図られていたといえる。当時、おんぶは各家
庭にあるオビやヒモが利用されることが多かった。
それらは子守用として独立した用途・機能をもっ
ていたわけではなく、家人が使用したものの中か
ら乳幼児を背負いやすい長さ、幅、素材のものを
40
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
音声を活用する教育活動のための支援機器と教材の開発
-困難を抱える児童生徒の支援を目指して -
Development of Tools and Teaching Materials for School Activities with Voice and Sound
生田茂1),上山敏2),杉林寛仁3),大川原恒3),白石利夫3),根本文雄4),石飛了一5)
社会情報学部社会情報学科,2)家政学部児童学科,3)筑波大学附属桐が丘特別支援学校,
4)
筑波大学附属大塚特別支援学校,5)千葉県立我孫子特別支援学校
1)
キーワード:音声ペン,ドットコード,音声,教育実践,特別支援教育
1.研究目的
著者らは、音声や音を紙の上にドットコードの
形で印刷し、サウンドリーダーと呼ばれるハンデ
ィなツールでなぞって「取込んだそのままに再生」
する「音声発音(再生)システム」を用いて教材
シートを作成し、特別支援学校における困り感を
持つ児童生徒の自立活動、学習支援の活動に取組
んできた。
こうした実践は、大きな成果を上げることがで
きた一方で、上肢が不自由な児童生徒、重い知的
障がいをもつ児童生徒はドットコードを真っ直ぐ
になぞることができず、クラスメイトと同じ学習
に参加できない場面が生じた。
本プロジェクト研究では、紙の上に印字された
ドットコードに触れる(かざす)だけで音声や音
を再生できる新型の音声ペン用の教材を作成し、
教育実践活動に取組んだ。重い障がいを持つ児童
生徒が自分自身の力で、友だちと同じ学習活動に
参加することで、自立感、達成感を獲得できるよ
うにと取組んだ。
の上に被せても気にならないほど薄く印字される。
図 1 SPEAKING PEN
図 2 Speakun
一方、アポロジャパンの音声ペン用のコンテン
ツデータを作るソフトウエア(「画竜点声」)で作
成されるドットコードは、スクリーンコードと呼
ばれ、 同様、目に見えないほど薄く印字でき、画
像や文字に被せることができる。
また、これらの音声ペンのシステムでは、音源
はソフトウエアによってコンパクトに編集され、
音声ペンのカードに保存される。したがって、音
源1個当たりの最長の長さを気にすることなく、
教材作りが可能となる。
2.2 筑波大学附属特別支援学校における外国語
(英
語)活動の取組み
肢体不自由児の通う筑波大学附属桐が丘特別支
援学校では、これまで、ドットコードをサウンド
リーダーでなぞって音声を再生する Hello Book 1、
Hello Book 2 などの手作り教材を活用して「外国
語活動」を行なってきた。
児童生徒の中には、上肢が不自由なためドット
コードを真っ直ぐになぞることができず、みんな
と同じ活動ができずに寂しい思いをした児童もい
た。こうした児童生徒に、みんなと同じ学習環境
を実現しようと、授業で使われていた Hello book
1、Hello Book 2 を、新型の音声ペン Speakun 用
2.活動実施報告
2.1 本研究活動に用いたシステム
著者らは、新型の音声ペンを開発しているグリ
ッドマークとアポロジャパンとの恊働の取組みを
始めている。
これら両社の「音声ペン」は、それぞれ SPEAKING
PEN、 Speakun と呼ばれている。(図 1、図 2)
グリッドマークのシステムは、Grid Onput と呼
ばれている。Grid Onput 対応冊子を、沖データ製
の Grid Onput 対応プリンター(c830dn、c8800dn)
で印刷することで、ドットコードは、画像や文字
41
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
の教材に作り替えた。
小学部5、6年生合同の総勢 14 名の英語活動
の時間で音声ペンを用いた授業実践を行なった。
サウンドリーダーを操作できなかった児童生徒
が、Speakun ペンを用いて、自分の力で音声を聴
くことができ、
「お!すごいぞ!」と、教室は大き
な笑顔と感動に包まれた。(図 3)中等部、高等部
の Speakun ペンを用いた英語の授業でも大好評
を博している。
と聴き入っていた。「自分でも読んでみたくなっ
た。」という児童も現れ、「そうだね。読んでみた
ら!」と声がけを行った。
3.研究目標の達成状況
今年度は、新しい音声ペンを用いて、特別支援
学校や通常学校の教育実践に挑戦し、その有用性、
可能性について検討することができた。
これまで用いてきたサウンドリーダーを真っ直
ぐになぞることが難しかった通常学校の下級生の
児童や特別支援学校の上肢が不自由な児童生徒、
重い知的障がいを持つ児童生徒が、音声や音を活
用した新しい教育実践に参加することができた。
4.まとめと今後の課題
新しい音声ペンを用いた活動では、触るだけで
音声が再生されることで、困難を抱えた児童生徒
が、自分の力で、みんなと同じ学習に参加できる
ようになり、達成感溢れる活動となった。
本研究で用いた Grid Onput システムは、一つ
のドットコードに、音声だけでなく、動画や画像
などのマルチメヂアファイルをリンクすることが
できることから、これまで実現できなかった盲学
校や聾学校における教育実践活動にも挑戦したい
と考えている。
図 3 Speakun を用いた英語活動の様子
2.3 八王子市立柏木小学校の図書委員会による
「おすすめの本」の紹介の取組み
6年間で 300 冊の本を読もうと声がけを行っ
ている八王子市立柏木小学校で、図書委員会の活
動の一環として、上級生が下級生に自分たちの声
で「おすすめの本」を紹介する取組みを行った。
SPEAKING PEN で「おすすめの本」の画像に触れ
ると、
「おすすめの本」の紹介の音声が再生される
ような Grid Onput 対応冊子を作成した。
音声ペンを使用することで、長いドットコード
をなぞらなくても済むようになったことから、下
級生でも自分の力で「おすすめの本」の紹介の声
を聴くことができるようになった。
2.4 八王子市立元八王子東小学校、筑波大学附属
桐が丘特別支援学校における平和教育教材の読み
聴かせの活動
八王子市の小学校で平和教育の教材として活用
されている「ランドセルをしょったじぞうさん(古
世古和子(作)、北島新平(絵))
」の日本語と英語
による Speakun 用の読み聴かせの教材を作成し、
実践を行った。
「ランドセルをしょったじぞうさん」の本や「ラ
ンドセルをしょったじそうさん」がある相即寺を
知っている児童もいて、「ケンジがかわいそう。」
「やさしいおかあさんだね。」などといいながら活
動に参加してくれた。
筑波大学附属桐が丘特別支援学校の英語活動の
時間にも、実践を行った。児童は、音声ペンを耳
に寄せながら「どんな話なのだろうか?」とじっ
5.研究成果
1)学術雑誌
[1] 生田茂他(2011)音声を活用した教育実践活
動-手作り教材と音声ペンを用いて-,コンピュ
ータ & エデュケーション,Vol.30 印刷中.
[2] S. Ikuta, F. Nemoto, R. Ishitobi, and T.
Ezoe (2011) Long-Term School Activities for the
Students with Intellectual and Expressive
Language Disabilities: Communication Aids
using Voice and Sound, Proceedings of Society
for Information Technology & Teacher Education
International Conference, pp.3237-3242.
2)その他(受賞)
Best Poster Award, Long-Term School Activities
for the Students with Intellectual and
Expressive Language Disabilities:
Communication Aids using Voice and Sound,
2011.3.10,site 2011 (AACE 主催).
42
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
子どもを理科好きにする理科授業がつくれる
教員研修プログラムの開発
The Development of the Teacher Study and Training Program to Design Science Lessons
Which Make Children Like Science.
石井雅幸1),矢野博之1),生田茂2),酒井朗1),上山敏1),樋口昇3),青木雄二4),高木正之5)
1)
家政学部児童学科,2)社会情報学部社会情報学科,3)多摩市教育委員会,
4)
千代田区教育委員会,5)国立市立国立第三小学校
キーワード:小学校,理科,教員研修,授業改善
1.研究目的
が目的である。そこで、計画したプログラムに従
い、以下の 2 つの都内公立小学校を使って教員研
修を行うと共に、児童の記録を分析し教員研修の
効果を測定した。以下に実施内容の詳細を記す。
なお、研修会実施校は、都内公立小学校A校と
B校の 2 校である。A校は、理科に関する研修を
平成 22 年度に始めた学校である。また、B校はA
校に隣接する学区の小学校であるが、長年理科の
研究を行ってきている小学校である。いずれの小
学校も若手教員の数が急増している。
前述したように小学校の教員が研修を校外で受
ける機会が減少してきている今、校内での教員研
修を充実させることが大切であると考え、校内で
の教員研修に重点を置いた研修プログラムの開発
を行った。
教員研修プログラムの開発に当たっては、段階
的な研修プログラムの必要性があると考えた。
(1) 研修会の実施体制
教員研修会を表1のような①から③に分け
て実施していった。具体的には、以下の通り
である。
① 理科を苦手とする教員対象の理科の学習
内容に関する実技研修会を実施した。
② 初年度の校内での理科授業研修会を実施
した。特に、問題解決の過程を取り入れた
理科授業つくり研修会を実施した。
③ 複数年積み上げてきている小学校内での
理科授業研修会を実施した。特に、問題解
決の過程を積み上げていくことによって、
一人一人の児童の考え方が深まっていくよ
うな授業つくりの研修を実施した。
近年、東京都内の小学校では、若手教員が急増
している。これら若手の教員の多くが、かつてに
比べて中高大学生時代の理科の学習の内容や時間
が少なく、理科を苦手とする傾向が見られる。ま
た、経験年数を積み重ねた教員でも、理科授業へ
の苦手意識をぬぐいきれないといった傾向が見ら
れる。教員が理科授業に難しさを感じる要因とし
て、以下の点をあげることができる。一つ目は理
科の学習内容を教員が十分にとらえきれていなか
ったり、苦手意識が強かったりすることである。
二つ目は、理科教育の軸となる問題解決の過程を
取り入れた理科授業をつくる難しさを教員が感じ
ていることである。
さらに、現在の小学校現場では、授業に追われ
たり、校務の処理が終わらなかったりして、放課
後ですら職場を離れての研修に参加できない状況
が生まれている。こうした中で、現場にとって地
元の大学が小学校教員を対象とした研修会を作り
上げていくことは大きな意義があるといえる。
そこで、本研究期間内に複数回の教員研修会を
開催し、その研修の効果を実際に授業を観察する
などを通して検証してきた。
本研究の目的は、理科の内容を把握できていな
い若手教員、理科の苦手意識をもっている教員を
対象にした段階的な研修カリキュラムの開発であ
る。その際に、学校現場における“学校外に出に
くい”状況に対応して、校内での研修に重きをお
いた研修プログラムを基本方針とした。
2.活動実施報告
本研究は、教員研修プログラムの開発を行うこと
43
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
(2) 実施内容
具体的には、以下の表 1 のように研修会ならび
に調査を実施した。
表1
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
要に応じて実施することによって、小学校教員の
研修会等の実施状況
内容
実施校
備考
研修会 調査
A
B
2010年5月19日
③
○ 授業研究会
2010年5月26日
③
○ 授業研究会
2010年6月15日
②
○
授業研究会
大妻女子大 天体に関する研修
2010年8月10日
①
多摩動物公園 昆虫に関する研修
2010年8月19日
①
2010年9月21日
③
○ 授業研究会
2010年10月6日
③
○ 授業研究会
2010年10月19日
②
○
授業研究会
2010年12月3日
②
○
授業研究会
2010年12月から1月
○
○ 授業研究会
実施日時
調査は、複数年に渡って理科の研究を積み上げ
てきているB小学校の児童が書いたノートを使っ
て行った。この調査では、理科授業において児童
が自分の考えをもつことができているかを見る指
標として児童が立てた仮説の根拠を見とることに
した。根岸ら(2010)が、児童の立てた仮説の根拠
を分類する手法を報告している。この報告では、
児童が立てた仮説の根拠は、児童の考えの深まり
にともなって「根拠無し」から「理由にならない」
→「事象提示」→「関係付けた理由」へと深まっ
ていくと述べている。そこで、このノートの見と
りを用いて、仮説の根拠を見ていくことにした。
3.研究目標の達成状況
(1) 実施経過
表 1 のような授業研究会を実施すると共に、授
業前には指導案の検討をメール等を活用しながら
複数回行っていった。その中で、問題解決の過程
を取り入れた理科授業のあり方を示唆していった。
(2) 実施成果の検証
実施成果の検証には、授業研究会を参観するこ
とによって、①問題解決の過程を取り入れること
ができているのか、②児童の主体的な問題解決の
過程ができているのか(児童による問題の設定、
仮説の設定、結論の導出ができているのか)で見
ていった。その結果、A校においては問題解決の
過程を教師がとらえることができつつあると言え
た。また、B校に関しては以下の児童によるノー
トの分析によって見た。
ノート分析の結果、図 1 の第 3 学年の児童は、
単元を繰り返す毎に、仮説の根拠を記述するよう
になっている。
4.まとめと今後の課題
表 1 のような①から③の研修会を対象教員の必
44
図 1 B小学校 第 3 学年の児童のノート中に
書かれた仮説の根拠の類型別人数
理科授業が改善されていくことを示唆する結果を
B小学校の取り組みから見いだすことができた。
今後、経験的に体系化した本研修プログラムを
複数の学校ならびに教員を対象に実施し、その研
修効果を複数の視点から見ていく必要がある。す
なわち、継続的な研修、継続的な研修に対する評
価を行い、開発プログラムの効果を検証する必要
があるといえる。
5.研究成果
1)著書
石井雅幸(2011)2.思考力・判断力・表現
力を重視した授業展開,新しい学びを拓く
理科 授業の理論と実践 小学校編,角屋重
樹編著,ミネルヴァ書房,106-112.
2)学会発表
石井雅幸,岩淵けい子(2010) 昆虫を用いた
小学校理科教員研修-多摩動物公園での昆虫
飼育方法を活用した小学校での昆虫研修会に
ついて-,日本理科教育学会第 60 回全国大会,
山梨大学.
3)その他(研究会)
「これから学校に求められる理科指導の在り
方」というテーマでパネルディスカッション
に参加する。科学的リテラシーをはぐくむ指
導の在り方~だれにでもできる「くにごメソ
ッド」~国立市立国立第五小学校研究発表会
にて,2011.2.10,13 時 45 分~16 時 45 分,国
立市立国立第五小学校.
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
個人化理論による現代日本の社会変動に関する包括的分析
Individualizing Japan: Searching for its Origin in First Modernity
石田光規1),伊藤美登里1),鈴木宗徳2),仁平典宏2),丸山真央3)
1)
人間関係学部人間関係学科,2)法政大学,3)滋賀県立大学
キーワード:個人化,リスク,人間関係
1.研究目的
本研究の目的は、ドイツの社会学者ウルリッ
ヒ・ベック教授が提唱した「個人化」の概念の日
本における受容過程の検討を通じて、日本社会の
現状を明らかにすることである。
「個人化」とは、次のように定義することがで
きる。すなわち、1970 年代以降に見られる様々な
中間集団の解体によって、個人による自己選択の
余地が拡大するとともに、他方でライフコースが
脱標準化し、人生上のリスクを個人が処理するこ
とを余儀なくされる。――こうした一連の現象を
指す概念である。この概念は、ウルリッヒ・ベッ
クやジークムント・バウマンなど欧州の社会学者
が提唱し、大きな反響を呼んでいる。
本研究は、①大学院生の研究教育を兼ねた研究
会の開催、②社会学の第一人者ベック教授の招聘、
およびそれに付随するシンポジウムの開催を通じ
て、現代日本の社会変動を包括的に把握すること
を目的とする。
社会――社会理論の現在」と題するシンポジウム
を一橋大学で開催し、ウルリッヒ・ベック「個人
化の多様性――ヨーロッパの視座と東アジアの視
座」、三上剛史(神戸大学)「個人化論の位相――
『第二の近代』というフレーム」、樫村愛子(愛知
大学)「2010 年代の日本における個人化とベック
理論」という三つの報告が行われた。研究代表者
である鈴木宗徳が司会を担当し、227 名が参加し
た。
2.11 月 3 日に「リスクの時代の家族と社会保
障――ベック理論との対話」と題するシンポジウ
ムを立命館大学で開催し、ウルリッヒ・ベック「リ
スク社会における家族と社会保障」、エリザベー
ト・ベック=ゲルンスハイム「個人化とグローバ
ル化の時代における家族」、落合恵美子(京都大学)
「アジアの家族主義とヨーロッパにおける家族の
復権」、武川正吾(東京大学)「日本・東アジアに
おけるグローバル化と個人化――福祉国家をとお
してみる」という四つの報告が行われた。研究分
担者である伊藤美登里が司会を担当し、143 名が
参加した。
2.活動実施報告
本プロジェクトの活動内容は非常に多岐にわた
る。まず、研究の柱として、プロジェクトメンバ
ーによる研究会を 4 月から月 1 回のペースで開催
した。それにより、個人化理論の学習および意見
の相互交換を行った。
それと並行して 10 月下旬から 11 月初旬には、
ウルリッヒ・ベック教授、エリザベート・ベック=
ゲルンスハイム教授をドイツから招聘し、研究交
流会、連続シンポジウムを開催した。研究会およ
びシンポジウムを通じて、日本社会に生じる諸問
題を検討するに当たり個人化の概念が非常に有効
であることが確認された。具体的内容は以下の通
りである。
1.10 月 31 日に「再帰的近代化の中の個人と
3.研究目標の達成状況
本研究は、研究プロジェクト発足当初に提示し
た研究計画のほぼ全てを実現した。4 月から 8 月
にかけては、大妻女子大学、法政大学、京都大学
のいずれかの場所で毎月研究会を開催し、議論を
深めた。また、シンポジウムに関する準備を同時
並行で行った。
10 月下旬から 11 月上旬にかけては、日本社会
学会のテーマセッションも含め、合計 3 回の連続
シンポジウムを実施した。その間、スタッフはベ
ック教授、ベック=ゲルンスハイム教授と行動をと
もにし、親交を深めつつ、有益な議論を行った。
45
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
この連続シンポジウムが日本の社会学会に与えた
影響およびベック夫妻との懇談がプロジェクトメ
ンバーに与えた影響は計り知れない。
研究成果としても、海外雑誌に掲載された論文
が 2 本あり、豊富なものであった。また、研究代
表者である石田光規は、日本労働社会学会奨励賞
を受賞した。
4.まとめと今後の課題
今回のプロジェクトでは、「個人化」という言葉
をキーに、ヨーロッパと比較しつつ日本社会を眺
めてきた。しかし、これらの研究は端緒に付いた
ばかりであり、今後も継続して検討していく必要
がある。また、我々の研究では、個人化の負の側
面について様々な点から見出すことができた。し
かし、それに対する処方箋は提示できていない。
今後、個人化の負の側面に対処する方策について
も検討する必要があるだろう。
5.研究成果
1)学術雑誌
[1]Munenori Suzuki, Ito Midori, Ishida
Mitsunori, Nihei Norihiro, and Maruyama
Masao, ( 2010 ) , Individualizing Japan:
Searching for Its Origin in First Modernity,
British Journal of Sociology, 61, 513-538.
[2]Mitsunori Ishida, Suzuki Munenori, Ito
Midori, Nihei Norihiro, and Maruyama Masao,
(2010), The Individualization of
Relationships in Japan, Soziale Welt,
61(3-4), 217-235.
2)その他
(公開講座・研究会)
再帰的近代化の中の個人と社会,2010.10.31,
13 時~17 時,一橋大学兼松講堂.
リスクの時代の家族と社会保障,2010.11.3,
13 時~17 時 30 分,立命館大学朱雀キャンパ
ス.
(受賞)
日本労働社会学会奨励賞,産業・労働社会に
おける人間関係,石田光規,2010.10.16,日
本労働社会学会.
(マスコミ発表)
朝日新聞,
「個人化」の不安日本にも,ウルリ
ッヒ・ベック,2010.11.11.
46
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
戦前における台所空間及び台所用品デザインの変遷に関する研究
A Study on the Transition of the Kitchen Space and Utensils in the Prewar Era
大西一也1),林原泰子1),佐藤章子1)
1)
家政学部ライフデザイン学科
キーワード:台所空間,台所用品,デザイン,戦前
1.研究目的
本研究では、戦前の台所空間及びその空間に存
在する台所用品の変遷について、建築雑誌及び婦
人雑誌の通読を通して、その状況を詳細に把握し、
当時の生活様式について考察を行う。そして、戦
前の台所空間及び台所用品デザインの変遷を一覧
化し、視覚的に認識容易な画像史料とし、それら
のデザイン概要を立体的に把握するための基礎資
料の作成を目的とする。研究を通して、人間の営
みのなかで欠かすことのできない食生活に関わる
「空間」と「もの」のデザインが、時代背景のな
かで、どのように変遷してきたのかを明らかにす
る。
本研究ではまず、詳細な雑誌文献調査が重要と
なる。創刊時から戦前の昭和 15(1940)年頃まで
の全期間について、対象雑誌の通読を行い、台所
空間並びに台所用品について、関連記事・広告に
おける画像の抽出作業を行い、データベース構築
の基礎準備を行う。
次に、抽出した画像史料の分析・分類を行う。
特に台所用品には多くの種類が存在し、その使用
目的も、単機能と多機能があり、類似形状でも作
業対象や素材により異なる機能をもつ用品もみら
れる。これらについて、詳細な検討の上でルール
を作成し、分類を行い、データベースを構築する。
さらに台所空間についても、衛生工学的な空間デ
ザイン及び台所用品の収納・使用状況などについ
て分類整理を行う。
また、これらの画像史料に加えて、現在、国内
の博物館・資料館に所蔵される大正から昭和戦前
期の台所空間や用品について、可能な限り実物の
写真撮影を行い、データ収集を行う。文献に見ら
れる画像史料はイラストであることも多いため、
実際の写真をデータに加え、参照可能とすること
で、より的確なデザインへのアプローチを行うこ
ととする。
最終的には、雑誌史料と現物写真により、台所
空間及び台所用品デザインの変遷を一覧化し、視
覚的に認識容易な画像史料を作成する。これらの
デザイン概要を立体的に把握するための基礎資料
を完成させ、戦前の生活様式をデザイン史の観点
より考察することとする。
2.活動実施報告
本研究では、建築雑誌並びに婦人雑誌を主たる
対象とし、創刊号から戦前の昭和 15(1940)年頃
までの期間の全号通読調査を行い、台所空間及び
台所用品デザインの変遷について関連図版の抽出
を行うこととする。調査対象資料としては、建築
雑誌として『住宅』、婦人雑誌として『主婦之友』
を対象とした。対象雑誌について、対象期間の全
誌通読を行い、台所空間及び台所用品デザインの
変遷について文章及び関連図版を抽出し、整理し
ている途中である。
3.研究目標の達成状況
本研究では、雑誌文献調査として、今年度は、
『住宅』『主婦之友』の2誌に絞り、通読調査を行
った。本調査では、
「台所用品」を「台所に保管さ
れ、調理に使用される器具類」と定義したうえで、
「台所用品」に焦点を当てた記事ならびに広告の
抽出を行った。また、台所について言及のみられ
る記事のうち、
「台所用品」の種類や配置が確認で
きる写真やイラストについても抽出対象とした。
一連の作業により得られたデータを一覧化し、戦
前の台所をテーマとした生活様式や生活観の立体
的な理解を促すことを目的とした基礎資料の作成
を試みた。
大正 5(1916)年 8 月に設立された住宅改良会
の機関誌『住宅』では、住宅の洋風化を主張し、
47
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
主にあめりか屋設計による洋風住宅や、様々な設
計図案懸賞による当選案が紹介されている。また、
新しい建材や設備などの広告も多数掲載されてい
る。
今年度の研究では、雑誌『住宅』については、
大正5(1916)年 8 月から大正 14(1925)年 12
月の 10 年間を対象として、台所に関する記事、写
真、絵などを抽出した。掲載総数は 107 で、内訳
は、記事 46、事例紹介 32、懸賞 4、広告 25 であ
った。
文章以外の図版の掲載については、全部で 161
あり、そのうち写真が最も多く 75、絵が 42、図面
が 44 であった。
1921 年までは、台所の改良に関する記事と、台
所設計図案懸賞のみであったが、1922 年以降にな
ると、事例紹介と広告が掲載されるようになり、
その数も増え、抽出数の大半を占めている。また、
1925 年 4 月号は、台所特集が組まれて、関連記事
が多数掲載されている。
記事では、日本の台所の欠点として、衛生的で
ないこと、低い流し台が作業に負担をかけている
こと等をあげ、それらの改善の必要性を繰り返し
述べている。大正期において『住宅』は、複数の
女中が働く比較的余裕のある中流住宅を対象とし
ており、当時の先進設備である電気冷蔵庫、電気
オーブン、多種多様な食器の収納棚などの記述も
多く見られる。
写真は、住宅事例の紹介に際して、外観や居間、
寝室などとともに台所の写真も掲載されており、
大きな窓のとられた明るく簡素な台所空間が多く
見られる。また、電気オーブンなどを写真ととも
に解説する記事も多く、他には、電気七輪、コー
ヒー沸かし、トースター、牛乳沸かしなどが、近
代住宅における電力を使用した文化設備として紹
介されている。
絵や図面は、海外における台所の紹介や設計図
案懸賞における台所の平面図やパースとして使用
されている。また、広告における台所空間の一例
(図1)としても使われている。
『主婦之友』では,大正期より継続的に台所を
取り上げた記事が確認されており、その多くは家
屋の新築時に台所をどのように設計するのかとい
う点に主眼をおいたものである。
今年度の研究では、主婦之友社刊『主婦之友』
については、大正 6(1917)年の創刊号から昭和
10(1935)年までの通読調査を実施した。
掲載記事で紹介されている写真やイラストから
は、当時の台所用品の種類や配置が部分的に確認
できる。また、「台所用品」を中心とした記事は
15 編確認され、うち3編は「台所用品」を網羅し
ているとみられる。しかしながら、これらの記事
中で取り上げられている用品数は、50~100 程度
と予想より多く、分類について更なる検討が必要
であると考えられることから、今回の調査におい
ては事例の抽出に止めることとした。
4.まとめと今後の課題
前述の通り、抽出した記事・広告のなかで取り
上げられている台所用品は多数に上り、その機能
も多岐にわたるため、今後詳細な分類ルールの検
討が必要であると考える。現在の台所用品につい
て調査を行い、その結果と比較する形で「台所用
品」の種類やデザイン、収納・使用状況等につい
ての考察を行うことを今後の課題としたい。また
戦前の台所空間の実地調査については、全ての対
象雑誌より、文章及び画像を抽出したうえで行う
こととした。
図 1 鈴木商行広告『住宅』(大正 12 年 7 月号)
48
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
「学校に行かない子ども」の教育権保障に関する研究
A Study on the Educational Rights for Children Who Do Not Go to School
酒井朗1),坪井瞳2),森岡修一3),木村文香4),
1)
家政学部児童学科,2児童臨床研究センター,3)文学部コミュニケーション文化学科,
4)
江戸川大学
キーワード:不登校,不就学,中退,児童養護施設,学校に行かない子ども
1.研究目的
本研究は長期間にわたり学校に行かないでいる
多様なタイプの子どもの問題を、教育権の保障と
いう観点から統一的に捉えることで、日本の教育
問題の理解に再考を迫るとともに、現行の教育制
度や行政システムを批判的に検討するものである。
1990 年代の日本では、神経症型を典型として不
登校対策が立てられるとともに、学校は児童生徒
にとってストレス因だと批判され、心の居場所に
なるべく変革されることが求められた。しかし、
現状においては、保坂(2000)の言う「脱落型不登
校」、すなわち社会経済的要因によって長期欠席あ
るいは不登校に陥る子どもが一定数を占めており、
こうした子どもに対する福祉的対応が強化されつ
つある(酒井 2010、酒井・川畑 2011)。こうした
状況を踏まえれば、子どもが学校に行かないでい
る状況について、我々は問題把握の枠組みそのも
のを再考し、新たな観点で子どもたちの抱える問
題に迫らなければならない。本研究では、この点
について子どもの教育権の保障という観点を提起
し、学校に行かないことでその子どもが被る教育
上の不利益やそのことが社会全体にもたらす種々
の不利益について検討する。
そこで、我々は「不登校」という問題の括り方
の代替案として、「学校に行かない子ども」という
括り方を提案した。その重要なカテゴリーの1つ
は、もちろん不登校やそれを含めた長期欠席であ
る。また、高校進学率が 98%に達している今日で
は、高校中退者や高校非進学者も学校に行かない
子どもとして捉えるべきであろう。
さらに、日本には就学義務を課されていない子
どもや免除・猶予されている子どもも少なからず
存在する。たとえば、外国籍の子どもの不就学問
題はその1つである。また 1970 年代までは重度障
49
害児の多くが就学を免除されており、児童自立支
援施設在籍者への就学義務は 1998 年の児童福祉
法改正によりようやく課せられた。本研究の目的
は、これらの様々なカテゴリーをすべて「学校に
行かない子ども」として包括的に捉えることで、
どのような問題が新たに立ち上がるかを明らかに
することにある。
2.活動実施報告
(1) 学校に行かない子どもの量的把握
今年度はプロジェクトの初年度であるため、ま
ず学校に行かない子どもが日本にどの程度の規模
で存在するのかという量的把握について検討した。
調査していく中で分かったのは、これまでの日
本の官製統計の設計には、すべての子どもの教育
権が保障できているかどうかという観点が弱く、
各年齢コーホートについて何名が高校までの学校
教育を無事受けられたのか、何名が長期欠席や中
退の状態のまま高卒年齢になってしまったのかが
分からないということである。
学校基本調査は学籍を持つ子どもだけを対象と
しているため、たとえば外国人の不就学者数も正
確には分からない。また、毎年の高校中退者数は
報告されているが、編転入者が把握されていない
ため、最終的に高校教育を修了しないまま成人し
ていく者の数は分からない。また、人口動態統計
で出生数は分かるが、年単位の集計であり、学校
基本調査が年度単位に集計するのとは異なってい
る。このため、当該年齢コーホートの中で、何%
が学校に就学したのか、進学したのかという基本
的情報を得にくい。ちなみにアメリカでは、ハイ
スクールの中退率と修了率の統計が取られている。
修了率については、9 年生の生徒のうち 4 年後に
ハイスクールを修了する者の割合の推計値が計算
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
されている。こうした統計により、各年齢コーホ
ートのうち、どの程度の者が教育を受けないまま
に大人になっていくのかが把握できるようになっ
ている(酒井朗)。
校進学を奨励する旨の通達を厚生省が出したこと
と、1975 年に特別育成費の支弁が可能になったこ
とがひとつの理由と考えられる。
その後、2000 年以降は 80%以上の進学率を保持
している。なお、1996 年には「措置解除後、大学
等へ進学する児童への配慮について」という通知
が厚生省より出され、18 歳以降に措置解除された
児童を引き続き施設から通学させることも可能と
なった。このことにより、高卒後の進路に着目が
集まるようになったが、反対に中卒後の進学問題
に関する調査研究は、減少する傾向にある(坪井
瞳)。
(2)児童養護施設の高校非進学者問題
もう1つの課題は、学校に行かない子どもの社
会的背景に関する分析である。今年度、実証的に
取り組んだのは、児童養護施設の子どもの高校進
学問題である。児童養護施設は児童福祉法第 41 条
に基づき設置されている福祉施設である。環境上、
養護を要すると児童相談所長が判断したおおむね
2 歳~18 歳までの児童の養育を行い、2007 年 10
月時点での施設総数は 564 ヶ所、在所児童数は 3
万 846 人である。児童養護施設における高等学校
等進学率は 2004 年現在で 87.7%と全国平均の
97.6%(学校基本調査、2004)と比べ、約 10%の
差が存在する。
全養協が 1962 年より行っている「中卒後の進路
に関する調査」に関して、経年変化が追える完成
されたデータが調査元においても存在しない。い
くつかの先行研究の中で散見されるが、ある年代
のみが取り上げられていたり、調査項目を「進学
率」+「就職率」のみに絞った加工がされていたり
(グッドマン 2000=2006、西田他 2009)する状況であ
る。そこで、
「進学率」+「就職率」+「その他」の
項目でまとめられている滝口(1980)、伊部(1994)、
全養協(2006)のデータを基に作成したものが以
下のグラフ(図 1)である。
3.研究目標の達成状況
研究は計画に沿って順調に進んでいる。初年度
であり論点整理にウエイトをかけた。量的把握に
ついては各種データを収集し、分析する手順も確
認済みである。長期欠席者、児童養護施設の子ど
もの非進学問題や中退問題に関する事例調査は、
次年度以降に実施する予定である。
4.まとめと今後の課題
今年度は初年度であったが、学会報告等により
本研究には多くの注目が集まっている。今後はさ
らにデータ収集を行い、新たな問題提起を行うと
共に、実証性の高い研究成果としてまとめる予定
である(3,4 とも酒井)。
5.研究成果
1)学術雑誌
[1] 酒井朗,川畑俊一(2011)不登校問題の批判
的検討-脱落型不登校の顕在化と支援体制の
変化に基づいて-,大妻女子大学家政系研究
紀要,47,47-58.
[2] 坪井瞳(2011)児童養護施設の子どもの高校
進学問題―非進学者の動向に着目して―大妻
女子大学家政系研究紀要,47,71-77.
[3] 木村文香,伊藤秀樹(2011)スクールソーシャ
ルワーカーの導入による不登校対応の変化,
江戸川大学紀要「情報と社会」,21,113-127.
2)学会発表
酒井朗・加藤美帆・坪井瞳・伊藤秀樹(2010)学
校に行かない子ども(1) 日本教育社会学会第
62 回大会,166-171,関西大学.
図 1 全養協 中学校卒業後の進路に関する調査
1975 年以降、10 年後の 1985 年には約 10%、そ
の 10 年後の 1995 年には約 20%の進学率の上昇が
見られる。これは、1973 年に「養護施設入所児童
等の高等学校への進学の実施について」という高
*引用文献は紙幅の関係で省略した。
50
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
大妻コタカの実践的職業教育と所作教育を用いた若年女性の
就職支援プログラムの開発
Development of the Finding Employment Support Program of the Young Women Using the Practical
Vocational Education and Conduct Education of Otsuma Kotaka
榮光子1),大出春江2),下田敦子1),櫻井あゆみ4)
1)
人間生活文化研究所,2)人間関係学部人間関係学科,3)家政学部ライフデザイン学科,
キーワード:職業教育,所作,大妻コタカ,就職支援,家庭科教育
1.研究目的
日本では戦後、労働基準法などの法改正、女性
の教育水準の向上などにより多くの女性が社会進
出するようになった。所作と服装や化粧などの「身
なり」は、社会人として必要な要素であり、清潔
であること、時間・場所・場合(TPO)に合せるこ
と、相手に不快感を与えないことが社会人として
の通念となっている。それに加えて、1980 年代前
半にアメリカから流入した体型に対する考え方は
「自己責任である」という意識が我が国に根付い
た。また、2008 年には行政によって生活習慣病の
予防のための健康診査とその結果に基づく指導の
実施が義務付けられることとなった。現代女性に
は、服装や化粧などの「身なり」、社会人としての
所作に加え、体型管理が課せられている。
Dion ら(1972) の研究によれば、外見の魅力度
が他者の行動評価や行動そのものにも影響を及ぼ
すとしており、原ら(1988)の研究では人は他人
に与える印象を管理することにより他者から好意
的に扱われやすくし、自尊心を高揚させ、自己認
識力を高めるとしている。現代女性の体型とその
所作、服装や化粧などの「身なり」は、社会規範
や社会属性を示すものとして女性が社会進出し、
社会人として活躍する上で非常に重要なものとな
っている。一般的に、「身なり」は社会規範と個性
の表現という相反する面によって成り立っている
(フィッシュバインモデル)。社会において、「身
なり」における社会規範の持つ意味合いが大きく
なれば、女性の体型と所作、服装や化粧までもが
他人と同じになり、自己実現力、統率力、創造力
などを失う。逆に、個性の表現の意味合いが大き
くなれば、自己の趣味・嗜好を主張し、チームワ
ークが重要視される社会において円滑なコミュニ
ケーション力、規範性、協調性を失う。社会的規
範と個性の表現のバランスをとることによって、
女性は社会で活力ある生活をし、自己の能力を最
大限に発揮することができるであろう。
かつて、明治時代以降の近代女子教育の中では、
「良妻賢母」の養成や女性の社会進出推進の理念
の下、多くの教育者が女子教育において女性の知
性と技術の向上を目指すだけでなく、家庭人や社
会人としてふさわしい人材を創る社会適応教育と
して表1に示したような礼儀作法の教授に力を入
れ、地域や家庭においても礼儀作法を身につけた
者によって若年女性の社会適応教育が行われ、多
くの女性を社会に輩出した。礼儀作法とは、家庭
人、社会人として社会生活を営み、社会規範を守
って社会秩序を保つために用いる行動様式のこと
であり、女性は所作や「身なり」においては TPO
に合わせた服装や化粧の仕方、着物の裾裁きや姿
勢の保ち方などを身につけてきた。しかし、現代
女性においては、学校教育の中で徹底的に礼儀作
法を教わる機会が減少し、家族形態の核家族化な
どによって礼儀作法を身につけた者から伝統的な
礼儀作法を教わる機会が減少したことによって社
会規範意識が低下した。さらには、自己実現や個
性の表現に対する欲求の増大によって、社会との
接し方が分からず、社会に出た後に社会適応でき
ず短期間で離職する者、離職後に社会に戻れない
者、さらには社会に出る手前の学校や社会に適応
できず生活空間から出られない者の増加が社会問
題となっている。
本研究では、近代女子教育者の一人であり、実
践的職業教育で多くの子女を社会に輩出し、さら
51
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
には女性のバイブル本ともなり得る「新時代の礼
儀作法」など多くの所作本を執筆し、所作教育に
も力を入れた、本学学祖大妻コタカに焦点を当て、
実際に行われた職業教育・所作教育カリキュラム
とそれらの教授によって習得した知識、技術、精
神がその後の女性の職業生活でどのように影響し
たかについて調査し、現代女性に生かしうる職業
教育プログラムを開発するための基礎的研究を行
った。
(4)研究成果の公表
成果については、(社)日本家政学会第 62 回大
会(於:広島大学、5 月 28 日~30 日)、(社)日本
繊維製品消費科学会 2010 年度年次大会(於:実践
女子大学、6 月 26 日~27 日)にて公表した。
3.研究目標の達成状況
平成 22 年度は次の(a)~(c)の 3 点を明らか
にすべく研究を実施した。
(a)大正期に創刊された一般大衆女性雑誌から、女
性の職業と当時行われていた家庭科教育の文献を抽
出し、職業と教育の実態を明らかにする。
(b)本学卒業生へのインタビュー調査によって大妻
コタカの実践的職業教育として「裁縫」を取り上げ、
そのカリキュラムとその中で得た技術・知識・精神
が今後の人生の中でどのように影響したかを明らか
にする。また、「裁縫」を通して学んだマナーなどの
「所作」についても明らかにする。
(c)大妻コタカの執筆した裁縫、所作の教則本を系
統的に整理する。
研究計画に基づき、研究目標の約 6 割程度を達成
できた。(c)については、大妻コタカ執筆の裁縫、
所作の教則本を収集したものの、系統的に整理する
ところまで進まなかった。また、考察等については
次年度以降に行うこととした。
2.活動実施報告
本研究では、実施計画書に基づき以下の研究活
動を実施した。
(1)大妻卒業生のライフヒストリー調査
4 月 17 日に多摩キャンパス人間関係学部と比較
文化学部にて実施された大妻教養講座にて大妻卒
業生である竹内淳子氏の講演を聴講した。その後、
竹内淳子氏にインタビューを行った。さらには、5
月 26 日に同氏へのインタビュー調査を実施し、音
声データとして保存した。
竹内氏は大妻女子専門学校を卒業後、学祖大妻
コタカの秘書として大妻学院に勤務し、大妻コタ
カが公職追放になる前の教え等を知る貴重な人物
である。さらには、大妻学院退職後に大手出版社
に編集者として勤務し、在職中に結婚・出産、退
職後にはフリーの民俗ジャーナリストとして数多
くの著作を執筆している。
本インタビュー調査では竹内氏の働く女性とし
てのライフヒストリーを音声データとして保存し
ただけでなく、大妻コタカ、並びに当時の教員の
所作や服装等、大妻にて身に付けた「所作」、「裁
縫技術」に関する回想録等も収録した。
(2)若年女性の就職状況と働く女性像調査
現代若年女性を取り巻く就職状況を把握するた
め、4 月 24 日に実施された現代ビジネス講座にて
花村邦昭理事長の講演を聴講し、就職にとって重
要となる「大妻らしさ」について見識を深めた。
また、6 月 2 日にはマネーライターとして活躍
する大山弘子氏のシンポジウムに参加した。
(3)近代一般大衆婦人雑誌の文献調査
大正期に創刊された一般大衆婦人雑誌である
「主婦の友」「主婦之友」を用いて、大正期の女性の
生活記事の中から、「所作」に関する項目を抽出し、
文字データとして保存した。さらに、家庭科の学習
指導要領から「所作」に関する項目を抽出し、文字
データとして保存した。
4.まとめと今後の課題
本年度の研究は就職支援プログラムを開発する
ためのフィージビリティスタディであった。今後
はさらに発展させ、より多くのデータを収集・解
析するとともに、一般に通用するプログラム構築
を目指していきたい。
5.研究成果
1)学会発表
[1] 榮光子(2010)若年女性の化粧行動プロセス
解明と化粧教育プログラム開発のための基礎
的研究,社団法人日本繊維製品消費科学会
2009 年次大会,132-132,実践女子大学.
[2] 榮光子(2010)化粧を用いた若年女性の自己
認識力・社会適応力向上のための教育プログ
ラム開発の基礎的研究-化粧行動実態調査と
機能性化粧品の認知度を中心として-,社団
法人日本家政学会第 62 回大会,48-48,広島
大学.
52
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
おもちゃから考える環境問題 -「環境に良いおもちゃ」の分類・分析-
Environmental Problems Thought in Terms of Toys:Classification and Analysis of Eco-friendly Toys
佐藤章子1),大西一也1),林原泰子1),是澤博昭2)
1)
家政学部ライフデザイン学科,2)家政学部児童学科
キーワード:おもちゃ,玩具,環境問題
1. 研究目的
環境問題の深刻化が問われている現在、さまざ
まな分野で環境配慮型の製品が生み出されている。
大人はもちろん、子供たちの生活の中にも地球環
境の未来を考えた製品が取り入れられていく必要
があると考えられる。
遊び盛りの子供たちにとって、もっとも身近な
製品として挙げられるのが「おもちゃ」である。
本研究では、主たる調査対象として現在市販され
ているおもちゃを取り上げ、
「おもちゃから考える
環境問題」という視点から、
「環境に良いおもちゃ」
の定義について考察を行ったうえで、分類・分析
を行うことを目的とする。近年「環境に良いおも
ちゃ」として取り上げられることの多い自然素材
のおもちゃのみを重要視するのではなく、リデュ
ース(発生抑制)・リサイクル(再生利用)・リユー
ス(再利用)といった視点も含めて環境とおもちゃ
の関連について考察し、今後のおもちゃの在り方
について考えていきたい。
2.活動実施報告
本研究では、以下に示す一連の調査により、お
もちゃの現状を把握したうえで、環境問題とおも
ちゃとの関係について考察を行うこととする。
(1)おもちゃショー調査(2010 年7月 15 日~
18 日・於 東京ビックサイト)
(2)文献資料調査①『おもちゃで遊ぼう』(NPO
法人日本グッド・トイ委員会発行)、1~12 号
(3)文献資料調査②『トイジャーナル』(東京玩
具人形問屋協同組合、トイジャーナル編集局)
2006 年 12 月号~2010 年 2 月
(1)おもちゃショー調査では、現在日本で流通
しているおもちゃについて把握することを目的と
し、実地調査ならびにカタログ収集を行った。同
イベントでは、人気のキャラクターを起用したお
もちゃや、電力を用いて動くカラフルなおもちゃ、
53
さらには TV ゲームを含めたデジタル機能を搭載
したおもちゃなどが大量に取り扱われていた。こ
れらは現在の日本における一般的な「おもちゃ」
であるといえるだろう。一方、充電式のおもちゃ
や、ソーラーパネルを利用したおもちゃなどがエ
コトイと称して紹介されていたが、これらはごく
一部であった。おもちゃショー調査において、何
らかのかたちで環境問題について考慮されたおも
ちゃは全体の割合からみてもかなり少ないことが
明らかとなった。
次に、今回の研究課題である環境に良いおもち
ゃの定義を検討することを目的とし、(2)文献資
料調査①を実施した。調査対象資料である『おも
ちゃで遊ぼう』刊行元のNPO法人日本グッド・
トイ委員会は、会員やコンサルタントが同会によ
り選出された「グッド・トイ」を普及させると同
時に、おもちゃの専門家を育成し社会貢献を行う
ことを目的とした団体である。
「グッド・トイ」は、優良なおもちゃ選びの指
針となるよう、下記の3つの方針を軸に、おもち
ゃの専門家たちによる選考会とモニター調査によ
って選定されたおもちゃであるとし、1987 年から
選定が開始されている。
[3つの方針]
①健全なおもちゃ
②ロングセラーおもちゃ
③遊び・コミュニケーション尊重おもちゃ
以上の指標は、必ずしも「環境に良い」という
意図を含むものではないが、「良いおもちゃ」の指
標のひとつとなる可能性を考慮し、環境問題とい
う視点から以下の手順で「グッド・トイ」の分類
を試みた。『おもちゃで遊ぼう』の通読を行い、選
定されたことが確認できたおもちゃ、ならびにそ
れらの詳細情報を抽出した上で、リデュース(発生
抑制)・リサイクル(再生利用)・リユース(再利用)
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
の視点を踏まえ、これらを困難にする最大の要因
として、まず、分解困難な複合素材のおもちゃと
それ以外のおもちゃとを大別した。本研究では、
後者を比較的「環境に良いおもちゃ」であるとし
て取り扱う。次に、以下の[A]~[C]のキーワード
に各おもちゃをあてはめることで詳細な分類を試
みた。
[A]天然素材 [B]リサイクル性 [C]環境教育
抽出したおもちゃから、[A]~[C]に該当し、比
較的環境に良いといえるものが6割程度であるこ
とが確認された。全体として、「グッド・トイ」に
おいては、天然素材で作られたおもちゃは比較的
多くみられるものの、環境問題に対する強い問題
意識は現在のところ確認できないといえる。
最後に、一般的なおもちゃの現状を、具体的に
比較するために、(3)文献資料調査②を行った。
『トイジャーナル』は業界誌で、より網羅的にお
もちゃ業界の現状を伝える文献であるといえる。
おもちゃ業界においても、良質で安心して楽し
めるおもちゃをより多く生み出し、普及させるこ
とを目的に「日本おもちゃ大賞」が創設された。
同賞のカテゴリーを確認した上で、「グッド・ト
イ」選定品との関連について調査を行った。
「日本おもちゃ大賞」のカテゴリー確認の結果、
部門名からは、環境問題を意識することはできな
かった。さらに、創設から3年間で 85 点選定され
たおもちゃ大賞受賞商品のうち、「グッド・トイ」
選定商品は1点のみで、おもちゃ業界が推奨する
おもちゃと、
「グッド・トイ」として、おもちゃの
専門家が子供たちに与えたいと考える「良いおも
ちゃ」とが乖離していることが指摘できる。
3.研究目標の達成状況
以上のように、おもちゃショーの実地調査を踏
まえたうえで、「グッド・トイ」の分類ならびに「お
もちゃ大賞」受賞商品との比較を行い、現時点で
の「環境に良いおもちゃ」の定義付けを行った。
調査対象となるおもちゃの種類や数が予想以上に
多く多岐に渡った為、おもちゃを購入しての充分
な検討は次回の課題とする。
4.まとめと今後の課題
「グッド・トイ」とされるおもちゃであっても、
環境への配慮は、現在のところ、天然素材の使用
程度に留まっている。また、おもちゃショーやお
もちゃ大賞にみられる一般的なおもちゃも、環境
への配慮はあまり感じられない。この結果から、
「環境に良いおもちゃ」を子供たちが手にするま
でには、まだまだ多くの解決すべき問題があると
考えられる。この点については、今後の重要な検
討課題としたい。
しかし、悲観すべき状況だけではない。おもち
ゃショー実地調査においては、新素材「バイオマ
スチップ」で地球環境に配慮したおもちゃや、再
生紙や、おがくずなど、本来廃棄処分になってい
たものを主原料とするおもちゃなどの提案も一部
ではあるものの確認されており、今後これら新規
の「環境に良いおもちゃ」が商品化される可能性
は高い。
今回の調査で、「環境に良いおもちゃ」と結論付
けることができた事例は多くなかったものの、ほ
とんどのおもちゃが、子供たちの成長にとってか
けがえのないものであることは間違いない。今後、
おもちゃの存在意義をより高めるという観点から、
「環境に良い」おもちゃが増えていくことが望ま
れる。今後は更に「環境に良いおもちゃ」の定義
について再検討を行い、具体的に提案を行ってい
きたい。
【写真 1】
「天然素材」+「リサイクル性」+「環境
教育」の全てにおいて良いと分類したプラントイ社
の「サボテンバランスゲーム」
。寿命の尽きたゴムの
木を再生利用して作られている。
【写真 2】おもちゃショーで提案されていた「Yummy
Dough」世界初の食べられる粘土。
54
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
子どもに関する総合的研究ネットワークの基盤形成
Otsuma Basic Studies on Information
Network System for Child
柴崎正行1),金田卓也2),大澤清二3),大出春江4),鄭暎惠4),矢野博之2),坪井瞳1),谷川夏美5)
1)
家政学部児童臨床研究センター,2)家政学部児童学科,3)家政学部被服学科,
4)
人間関係学部人間関係学科,5)家政学研究科人間生活学専攻
キーワード:大妻女子大学,子ども,研究,ネットワーク,データベース
これらのキーワードに関連した研究をしている場
1.研究目的
本学の各学部や学科には、子どもに関する研究
合には、所属とその研究内容が掲載されている著
がたくさん集積されていると思われる。だが残念
書や論文の題目について記入して返信してもらっ
ながら、それらは個別的に展開されていることが
た。
返信は 50 名を超える教員からあり、そのデータ
ほとんどであり、相互に連関性を持って展開して
をキーワードごとに整理して、データベースとし
はいない。
本学では学部を超えて研究を展開するべく大学
た。このことにより、子どもに関連したキーワー
院を一本化したが、それはシステムを統合しただ
ドを打ち込むと、それに関連した研究を行ってい
であり、その研究内容の統合性や指導の連携等の
る本学の教育者名のリストが検索されることにな
実務的な課題はまだ残されたままであるといえる。 り、その所属と研究テーマさらには連絡先やその
人が取り組んでいる関連研究のテーマなども検索
そこで本研究プロジェクトの目的は、研究や指
できることになった。
導に欠かせない研究情報の統合化を試みるもので
ある。具体的には本学の学内に蓄積されている子
3.研究目標の達成状況
ども関係の研究に関する情報を集積し、そのデー
本年度の研究目標としては、この「大妻女子大
タベースを構築することを目的とする。
学子ども総合研究ネットワークシステム」を構築
することにより、学部や学科の枠を超えて研究的
2.活動実施報告
まずは、子ども研究の範囲を検討した。研究の
に連携することができるようになることや、大学
総合性や関連性を大事にしたいということから、
院の研究指導を学部や学科を超えて実施できるよ
単に子ども自身のことだけでなく、その周辺の社
うになることの基礎となるデータベースを構築す
会や子どもに関係する専門分野も含めることにし
ることを目指した。その本来の目的は達成され、
た。その結果、子ども研究の範囲を「子ども、発
作成したネットワークシステムにアクセスし、そ
達、家族、子育て、子どもと遊び、子どもと生活、
こに必要なキーワードさえ打ち込めば、そのキー
児童相談、児童教育、児童福祉、児童文学、子ど
ワードを含む研究をしている本学の教員を検索す
もとスポーツ、子どもとメディア」等のキーワー
ることができるようになった。またそのキーワー
ドによって表すことを確認した。
ドが含まれている著書や論文のテーマや出版先も
知ることができる。
次に学内の教員を対象にして、これらのキーワ
ードに関連している研究をしているかどうかをメ
このことにより、本学の教員や院生が今後「子
ールで配信してアンケート調査を実施した。もし
ども」についての研究を進めていくときに、本学
55
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
には関連分野にどのような教員がいるのかが、す
ぐに検索できるようになり、研究の相互協力がで
きるようになる。
4.まとめと今後の課題
本プロジェクトによって作成した「大妻女子大
学子ども総合研究ネットワークシステム」は、本
学における子ども研究を推進していくための基盤
としては、大きな財産となる。
しかしこのプロジェクトはシステムを作成する
ことが目的ではなく、本学に蓄積されている子ど
もに関する研究情報を本システムを活用して検索
し、実際に教員や学生、院生の子どもに関する研
究や卒論指導が盛んになることが、本来の目的な
のである。
そのため今後は、本システムを活用した教員間
のネットワークづくりやその活用方法について、
具体的な展開例を実践し、それを推進していくこ
とが必要と思われる。
その第一弾として、平成 23 年度においては、7
月に家政学部付属児童臨床研究センターが主催す
る夏のセミナーにおいて、「子どもの成長をどう
見るか」というテーマでシンポジウムを実施する
計画を立てている。そこに参加するシンポジスト
は、本システムで検索して情報を得られた本学の
家政学部の教員と、比較文化学部の教員であり、
子どもの発達や成長を研究テーマにしている教員
でもある。
今後は、子どもに関する共同研究を実施する場
合や、修士論文で子どもをテーマにする院生の指
導教員を探すときにも、このシステムが活用でき
ることを実証的に運用してみるつもりである。
5.研究成果
本年度は、研究 1 年目ということもあり、子ど
もに関する研究のキーワード探しと検索システム
の構築という基盤形成で終わってしまった。その
ためにまだ主だった成果が得られているわけでは
ない。今後の展開に期待している。
56
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
一女性の生涯:翻訳-大妻コタカ自伝をテキストとして-
Translating a Woman’s Life: The Use of Otsuma Kotaka’s Memoir as a Text
ジョンソン, G. S.1),星野裕子2)
1)
比較文化学部比較文化学科,2)岡山県立大学
キーワード:translation,gender studies,autobiography,women’s history,history of education
1. 研究目的
This project was initiated in order to
increase the availability of information about
Otsuma Women’s University and founder Otsuma
Kotaka to the international community.
Otsuma’s pioneering work is part of an area of
Japanese women’s history deserving of greater
attention among scholars outside Japan, namely,
domestically fostered private educational
institutions for girls and women. These schools
and Otsuma Gakuin in particular comprise an
important part of Japan’s response to modernity
and Western cultures.
The project includes collecting and analyzing
materials concerning the history of Otsuma
Women’s University and the life of its founder,
The work contributes to the resources and
background necessary to conduct a primary task
of the project, which is the English
translation and annotation of Japanese
language documents that explicate the
institution’s history. We have concentrated
thus far on translating and annotating Otsuma
Kotaka’s memoir Gomokumeshi.
The process is valued as highly as the product
in this endeavor. By this we mean that we used
the project of analyzing and translating as a
method for teaching students how to find and use
primary, secondary and reference materials.
Students also participate in the work of
translation. These pedagogical aspects of the
project take place in a section of the 3rd year
seminar called 比 較 文 化 演 習 [Seminar in
Comparative Culture] in the Faculty of
Comparative Culture. By participating with
the instructor, the students are expected to
develop research skills in preparation for
their 4th year seminar and graduation thesis,
Furthermore, we anticipate that translation,
editing, and presentations will enhance skills
in English and Japanese communication that are
directly applicable to professional life after
graduation.
2. 活動実施報告
The project was conducted in four activities:
1.search
for
materials,
2.translation,
3.presentation, and 4.evaluation.
1.Searching for and collecting materials:
The researchers instructed students in
searching for and using primary and secondary
sources and used the project funding to
purchase rare historical materials related to
the project topic.
2.Translation: The principle researcher
translated pieces of Otsuma Kotaka’s memoir
Gomokumeshi with students every week. They
read background material and prepared
annotations for historical events, people,
places, and archaic terms. The cooperating
researcher checked the translations.
3.Presentation: The work was presented four
times during the project year, at two academic
conferences, a poster session at the Tama
campus festival, and in an academic journal
article.
4.Evaluation:The researchers administered an
anonymous survey to students after the students
57
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
and researchers held a poster session in
October, 2010. The purposes of this review were
to verify that students understood the purposes
of the course project, let them express their
goals and evaluate their own participation, and
uncover problems they experienced, Furthermore,
an after action review session was held with
students to evaluated the poster session.
Language and Culture Association 18th Annual
Conference on July 2nd, 2011 at Otsuma Women’s
University, Tama campus.
4.まとめと今後の課題
This project resulted in significant
progress towards the goals of gathering and
disseminating information on the history
of Otsuma Gakuin and founder Otsuma Kotaka.
We are planning to complete the following
tasks:
-Finishing the translation with the use of
materials obtained during the project year.
-Editing the translation.
-Searching for funding for publication of
the translation.
-Interviewing former students of Otsuma
Kotaka, creating a audiovisual database
and creating English subtitles for the
interviews.
3. 研究目標の達成状況
We have translated approximately 130 pages of
the 207 page manuscript of Gomokumeshi. While
it is not yet ready for publication, the project
year resulted in significant progress towards
that goal. We will continue to use the
historical materials obtained for the project
as we work towards completion. Students’
participation in the project gave them
experience in research and translation that
formed a base for their graduation thesis work
in their 4th years. We hope they will continue
to apply it in their professional lives after
graduation.
We presented this project to academic
audiences and received valuable feedback from
international scholars. We have published one
paper and are preparing another manuscript for
publication in 2012.
We held a poster session that was very valuable
to the students and researchers. It was well
received by attending parents and students, and
Otsuma Gakuin faculty.
Students gained
confidence and honed self-expression skills
while explaining their projects to campus
visitors. Furthermore, they also obtained
information through interacting with visitors
who were from Hiroshima Prefecture and familiar
with Otsuma Kotaka’s hometown. This aspect of
the project was so successful that the
2011-2012
year’s seminar
students
and
instructor will hold a poster session based on
the experiences and materials gained during the
funding year. This poster session, titled
“Otsuma Kotaka and the Ideal of the "Good Wife"
in Japanese Culture” will be held at the
5.研究成果
1)著書、学術雑誌
G.S.Johnson (2011) Translating the Marriage of
Otsuma Kotaka: An Evaluation of Pedagogical
Implications,大妻比較文化,12,47-57.
2)学会発表
[1] Gregory S. Johnson (2010) Translating a
Woman’s Life: The Use of Otsuma Kotaka’s Memoir
as a Text,日本言語文化学会 ( L C A ) 第 1 7 回
大 会 ,神戸女子短期大学.
[2] 星野裕子 (2011) 教育テキストとしての明
治・大正期女性史-大妻コタカ自叙伝翻訳を通し
て-,2011 年国際融合文化学会(ISHCC)研究発
表会,熱海市 桃山マンション集会室.
3)その他
大妻コタカ先生の結婚:日本の結婚史を巡って,
学生研究ポースター・セッション,大妻多摩祭,
2010年10月23日〜24日,10時〜17時, 大妻女子大
学多摩校人間関係学部棟.
58
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
大妻同窓生の戦争体験聞き取り調査と自分史の研究
Life History Analysis on War Experiences of Otsuma Graduates
炭谷晃男1),前納弘武1),三浦元博1),荒井芳廣2)
1)
社会情報学部社会情報学科,2)人間関係学部人間関係学科
キーワード:大妻同窓生,戦争体験,life history,自分史,聞き取り調査
1.研究目的
本研究の発端は,大妻学院 100 周年記念式典で
紹介された一枚の写真である。「焼け跡で卒業式」
と題され,東京大空襲で校舎が全焼したため、そ
の焼け跡での卒業式の写真でした。当時の大妻コ
タカ先生や大妻生たちは,何を考え,何を学び,
何を目指していたのか,誠に心打つ写真でした。
在籍。学校の校庭で水を飲み終わった直後に原爆
の被害をうけた。何が何だかわからないうちにズ
ボンに火がつき、爆風で飛ばされ、悲惨で夢のよ
うな出来事だったと語る。
(Yさん/S2 年生)昭和 15 年 4 月に大妻高女に入
学。四年の課程を修了し、昭和 19 年 4 月大妻の専
門に進学。専門部に在籍中に第二次世界大戦が激
化。内閣造幣局や大井町の衣料廠で勤労動員にあ
たった。卒業後は教員として活躍され、大妻の教
授も務めた。
(Oさん/S4 年生)出身は長野県諏訪市。昭和 19
年から終戦まで学徒動員で特攻機のエンジンづく
りに携わっていた。終戦後の昭和 22 年から 25 年
3 月まで大妻の専門部被服学科に在籍。長野県か
ら上京し、空襲で焼けてしまった校舎に泊りなが
ら入学試験を受験した。
写真 1「焼け跡の卒業式」朝日新聞社(1945 年 3 月)
多くの犠牲を払った先の戦争から 65 年が経過
した。戦争体験について直接聞き取りをする最後
の機会と言っても過言ではない。今こそ,大妻生
たちにとっての戦争体験の意味を問い直し,現在
の学生たちにとって,生きること,学ぶこと,家
族,国家,平和について,同窓生から学ぶ貴重な
機会と考える。
2.活動実施報告
大妻コタカ記念会の協力を得て戦争体験をされ
た卒業生をご紹介いただき,以下の内容のインタ
ビュー調査をすることが出来た。以下,聞き取り
の概要のみを記す。
写真 2 戦争体験インタビュー後,資料を拝見する
(2010 年 9 月 4 日:大妻記念館会議室)
(Yさん)東京大空襲の少し前に赤坂から大宮に
疎開した。疎開先の大宮で機銃掃射に遭い、伯父
(Mさん/S5 年生)8 月 6 日、広島県立第一高女に
59
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
が経営していた軍需工場も狙われた。当時大妻に
しかなかった被服学科への入学を希望していた。
4.まとめと今後の課題
「ライフヒストリー」とは、ある特定の個人に
よって語られた、あるいは書かれた資料、すなわ
(Tさん/S5 年生)父親の実家の銚子に帰っていた
ちインタビューや自伝、日記などをテキストとし
ので、直接東京大空襲の被害に遭うことはなかっ
て、個人の経験や生涯を再構成しようとする手法
た。築地の家に母親と帰る途中、錦糸町の辺りは
です。社会学や社会調査研究では、質的調査の際
焼け野原で道中に転がっている死体を幾つも見た。 に従前から行われてきました。1980 年代頃からは、
大妻の校舎の玄関は汚れてはいたが、周りと比べ
逸脱研究、教育研究、ジェンダー研究、エスノメ
て綺麗に残っていたのが嬉しかった。
ソドロジー研究の広がりのなかで再び着目されて
います。
戦争体験といういわば極限状況について語るこ
とは,いくら年月を経たとしても難しい課題が山
①大妻同窓生の戦争体験を聞き取り,忠実な記録
積している。大妻の同窓生についてのインタビュ
②同窓生ご家族の間接的聞き取り記録。
ーをこれ以降,複数回継続して実施することによ
③同窓生の遺品等のデータベース記録。
って,ライフストーリー研究を進めていく予定で
④記録過程における,在学生の同窓生への訪問を
ある。
通じて,戦争体験の伝承と平和の意味を問い直し,
併せて大妻精神の確認。
3.研究目標の達成状況
⑤NHK「戦争証言プロジェクト」、千代田区の「千
本研究プロジェクトは研究計画に従い,いわば
代田学」、学内諸研究機関との連携など。
研究協力者として社会情報学部の三浦ゼミの学生
⑥web サイトを活用しての,戦争体験の収集と研
と炭谷ゼミの学生と,学生と教員とが一体となっ
究成果の公表などを考えている。
て次のような研究活動をすすめた。
①大妻コタカ記念会の所有している資料の閲
覧:夏休み期間中数回に「しらゆり」「ふるさと」
の記事の閲覧をし、資料のコピーや閲覧をした。
②8 月 4 日(水)東京大空襲資料センター視察:
学生たちの事前学習としてセンターを訪問して、
資料の収集を行い、東京大空襲の実態と学んだ。
③9 月 4 日(土)「同窓生の戦争体験をうかがう
会」於:大妻記念館会議室
大妻の同窓生 5 名の戦争体験をうかがうことが出
来た。うかがった主な主題は、①戦争下の学生生
活と②戦争体験について。
④9 月 21 日(火)公開講座「ライフヒストリー
研究の方法と課題」:社会情報学部会議室
松本祐一氏(多摩大学総合研究所准教授),中庭
光彦氏(多摩大学総合研究所准教授)を招きして
の公開研究会を実施した。中庭先生は,ライフヒ
ストリーには「実証に至る語り」と「合意にいた
る語り」の 2 種類があるのではないか。つまり、
「実証型」と「合意形成型」のライフストーリー
の 2 つの型があるのではないかという問題提起を
頂きました。ライフヒストリー研究の意味とその
方法について大変わかりやすく述べていただいた。
また、ライフヒストリー研究の展望についても述
べていただき、本研究の示唆をいただくことが出
来た。
60
写真 3 戦争体験聞き取り web サイト(作成中)
謝辞
本研究プロジェクトに惜しみない協力と支援を
頂きました大妻コタカ記念会に謝辞を述べたい。
また,いわば共同研究者として本研究プロジェク
トに参加してもらった,学生たちにも感謝をした
い。三浦ゼミ:片岡晴香,着本智代、吉成彩、吉
成幸,炭谷ゼミ:寺嶋恵利奈,芹澤真央,田中亜
紀
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
日中両国における外国見聞記の収集整理と対比分析に関する実践的研究
A Comparative Analysis of Travel Journal in Modern China and Japan
銭国紅1),井田進也1),山本周2),趙怡1),張玉萍1),王暁秋3),呉十洲4),朱逄5),山口美幸6),金井睦1)
1)
比較文化学部比較文化学科,2)長崎県立大学 3) 北京大学大学院, 4)中国社会科学院大学院,
5)
商務印書館著作部, 6)人間文化研究科国際文化専修
キーワード:文化交流,異国認識,近代化,東アジア文明,対比研究
1.研究目的
21 世紀に入って日中両国は互いにとってますま
す重要な隣国になりつつある。しかしながら、教
科書問題などの例に見られるように、両国民の相
互理解にはさまざまな誤解や齟齬が生じているこ
とも、またしばしば指摘されるところである。“東
アジア共同体”の建設に向けて両国首脳が基本的
合意に達している今日、両国民が依然として相手
国に対する無理解や不信感を払拭しえないとすれ
ば、両国民にとっての損失は政治経済的な分野の
みにとどまらないであろう。標記の課題は、この
ような現状の改善にいささかなりとも資するため、
非西洋国家の近代化をともに経験した日中両国が、
どのようにして世界認識や自・他国認識を形成し
てきたかを跡づけ、両国が近代化に向けて歩んで
きた道程を資料に基づいて互いに提示しあえるた
めの基礎作業を行おうとするものである。
本学では平成22年度から比較文化学科とコミュ
ニケーション文化学科に跨る大学院国際文化専修
の開設が予定されており、文化と文化交流、文化
の相互影響の問題が重要な研究テーマとなってい
る。本計画はこうした交流研究、対比研究におけ
る資料の集め方、整理の仕方を、学部生や大学院
生に初歩から手ほどきし、一般学生にも同様なテ
ーマに関心を持たせるとともに、外部資金導入の
呼び水になることをも期待している。さらに学内
外(外国を含め)の研究者に呼びかけ、学部生、
院生の参加をも促して、横断的な組織体制を実現
できれば、若手研究者の養成にも一役を買うこと
になろう。
本研究は資料の収集・整理とともに資料の対比分
析を行いながら、従来日中両国で別々に保管され、
研究されてきた各種の外国見聞記を同じ視点から収
集整理することにより、独自性と斬新さを追求しうるも
61
のとなろう。このような作業の副産物としては、外国見
聞記に留まらず、他の分野やジャンルの文献整理や
発掘に波及効果を与えることも考えられる。一例を挙
げれば、東アジアにおける儒教伝統と近代社会との
関係は、今後新しい視点から再考察されるテーマに
なりうるものだが、本研究はこうした広い意味での東ア
ジアにおける対比研究の進展に寄与し、方法論的な
模範の提供を目指すものである。
2.活動実施報告
前期(5月中旬より8月初旬)は東京都内の共同
研究者を中心に米欧回覧実記の初版の所在を調べ
るのをはじめとして、日本における西洋訪問記の
検討を近代日中で比較研究のできる範囲内に選定
し、比較検討の手がかりを獲得するための調査研
究を実施した。9月16日から9月27日にかけて課題
責任者である銭国紅は北京において、北京大学、
中国社会科学院、中国歴史博物館、国家図書館を
訪れ、北京在住の共同研究者(王暁秋―北京大学、
呉十洲―中国社会科学院、朱絳-商務印書館、山
口美幸―大妻女子大学大学院生、北京師範大学留
学中)とともに、近代中国における西洋訪問記に
関する研究状況と資料の所在を確認し、日本との
比較研究の可能性を探った。
一方、日本国内では図書館、資料館を中心に調
べ、特に愛知大学(東亜同文書院記念館)や京都
(日文研)への調査訪問を、銭国紅と井田進也氏
が行い、同文書院の記録となる『東亜同文書院大
旅行誌』
(東亜同文書院:1890年に荒尾精が中国の
上海に設立した学校「日清貿易研究所」を引き継
ぐ形で、1901年上海に開学したもので、書院生は
徹底した中国語やビジネス教育を受け、また中国
や東南アジアでの「大調査旅行」を経験した。
『東
亜同文書院大旅行誌』はその記録を集めたもので
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
ある)と『米欧回覧実記』そして中国における米
欧訪問記を対比研究の基礎資料にすることの可能
性を探った。
3.研究目標の達成状況
いままで本研究は資料の収集・整理とともに資料の
対比分析を行いながら、従来日中両国で別々に保管
され、研究されてきた各種の外国見聞記を同じ視点
から収集整理することにより、独自性と斬新さを追求し、
東アジアにおける外国訪問記の資料の所在に関する
対比研究の初歩を展開し、方法論的な模範を提供す
るための基礎資料の確認を行った。
本研究の遂行に当たり、特に効果的と思われる
工夫の一つとして、個性豊かな多方面の研究協力
者のアイディアを十分に生かすことをあげられよ
う。日本国内では、大妻女子大学はもちろん、非
常勤や外部の研究者にも十分な協力を得ることが
できた。さらに大学院生の参加を促すことにより、
研究対象に対する新鮮な視角を獲得するとともに、
共同作業において実証研究のプロセスの体験や分
析に際する初歩的な方法論を教授し、身につけて
もらうことに努めた。
とくに今度は米欧回覧実記との対比において、
重要な資料価値を持っている清末中国の欧米訪問
記のものとして、未発見とされる新しい資料の発
掘の可能性と日中比較研究に生かすための方策の
構築の可能性を再確認したのが最大の収穫といえ
よう。中国では、近年一部の学者を中心にして、
清末の海外見聞記を収集し整理し始めている。す
でに膨大な量に上るものとなっているが、それを
日中比較に利用できるように共同研究の方法と可
能性について検討しているところである。
4.まとめと今後の課題
本研究の一年目は研究資料の所在調査を中心に
作業を行った。調査は外国見聞記を中心に行われた。
また関連資料との出会いによって、近代日中関係の
軌跡に触れることができた。このような資料の確保は
清末や20世紀前半期の日中関係史を見るだけでなく
現代の日本や中国及び両国関係を相互認識の角度
から、捉えなおすためにも、多くの鍵や視点を提供し
てくれると期待したい。
資料収集は日本と中国に限定し、日本国内の関係
図書館・資料館、中国の関係図書館・資料館を回っ
て調査した。中国では、一部中国在住の研究協力者
に調査を委嘱したり、合同で資料調査を行った。
62
今後の課題としては、一年目に収集し整理した研
究資料を基に、特に日本の外国見聞記の代表格であ
る『米欧回覧実記』(久米邦武、全五巻)の読解と分析
を始め、特に東アジアの外国見聞記における漢文表
現のあり方を中心に研究を進め、多方面の諸分野に
跨る総合分析を加える。また適当なときに、外国の研
究者をも招き、可能な限り年度中に本学で合同報告
会を実行することを視野に入れている。
5.研究成果
公開講座・研究会
7 月 29 日、広州外語外貿大学で開催される「東
アジア文化の衝突と融和」国際研討会においてこ
の調査の進行具合に触れて「東アジアにおける比
較文化の勧め」を題にして銭が講演した。
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
WebアンケートによるOGのキャリア形成に関する研究
A Study of Business Carrier Building for Our Alumni Using a Web Questionnaire
田丸直幸1),東明佐久良1),炭谷晃男1),堤江美子1),本郷健1),金城光1)
1)
社会情報学部社会情報学科
キーワード:キャリア形成,Webアンケート,資格取得,キャリアアップ
1.研究目的
本専攻卒業生に対してのホームカミングパーテ
ィーを開催し、卒業生同士および教員との懇談を
通して有益な情報を交換し、卒業生に対しては今
後のキャリアを考える上のヒントを獲得してもら
うと同時に、教員に対しては授業内容を検討する
際の一助とする。さらに、今後のキャリア形成の
意向に関して講演会とアンケート調査を実施し、
その動向を明らかにすることを目的とする。
2.活動実施報告
2.1 同窓会開催までの準備
平成 22 年9月 12 日の同窓会開催に向けて、以
下のように準備をした。
5月:Web アンケート質問項目の作成および同
窓会案内文書の作成を開始。
6月:アンケート Web サイトおよび同窓会参加
申し込みサイトの作成開始。
7月:アンケート内容の複数回の修正を経て、
参加可否の回答ウィンドウと共にサーバにアップ
ロード。同窓会名簿の作成、案内文書の印刷、袋
詰め、のり付け、発送作業の実施。参加可否とア
ンケート結果との回答の受信開始。
8月:同窓会当日の役割分担の確認。
9月:プレゼン資料の作成、会場の設置・装飾。
2.2 同窓会の開催
第1部ではフリーアナウンサーの永井美奈子さ
んを講師としてお招きし、「女性のワークライフ
バランス-それぞれの選択-」の演題で講演をお
願いした。第2部では 100 名を超える卒業生と退
職教員をお迎えし、第1回社会情報処理学専攻同
窓会を多摩キャンパス学生会館食堂にて盛大に開
催した。図1に参加者全員の集合写真を示す。
2.3 アンケート回答結果
(1)回答者数
図 1 参加者全員の集合写真
表1に Web アンケート調査の依頼状の送付数(郵
送)、Web 回答数などを示す。
表1 依頼状の送付数、Web 回答数など
郵送数
1800
返送数
200
再発送数
20
合計発送数
1500
Web 回答数
146
回答率
10%
(2) 卒業年別回答者数
図 2 に卒業年別の Web 回答者数の分布を示す。
第1回卒業生が最も多く、20 名に達した。また、
第4回卒業までの参加者が多い傾向が少々あるが、
回答者の卒業年次はほぼ均等に分布している。
図 2 卒業年別の Web 回答者数の分布
63
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
(3) 転職経験の有無
「転職無し」が圧倒的に多く 71%で、第2位が
1回の 13%であった。SE 職は仕事がハードで、転
職が多いことが予想されたが、比較的少なかった。
一般に大学生の就職3年後の離職率は 35.4%[1]に
比べると少ないと言える。これは 3 年で 1/3 の就
業者が離職することになる。
なっている。
同数第2位の Oracle 関連には Oracle
マスターゴールド、シルバー、ブロンズなどのレ
ベルがあり、データベース関連の資格である。ま
た、第4位の SJC-P とはサン認定 Java プログラマ
資格のことである。同数第5位の UML 関連とはモ
デル記述言語(Unified Modeling Language)に対
する資格である。その他にも教員免許、通関士、
簿記、医療事務、建築士、社会保険労務士、CG 検
定、CCNA、財務資格など多種多様な資格を取得し
ている。また、一人で4-5件の資格を有してい
る方も数名いた。
(4)キャリアアップの必要性
図 3 にキャリアアップの必要性を示す。70%が必
要性を考えている。
図 3 キャリアアップの必要性
図 5 卒業後に取得した資格
(5) キャリアアップの実行
「今までにキャリアアップについて何を実行さ
れましたか。また、現在行っていますか。」に対す
る結果(複数の選択を許す)を図 4 に示す。第1
位は「資格取得」で 56%に達する。「資格取得」
に対して非常に高い意識を持っている。最も手軽
であることも原因と思われる。第2位はそれに関
連した「独学」(23%)で、両方で 3/4 を越してい
る。引き続いて「専門学校・通信教育などの講習」
の順となっている。
3.研究目標の達成状況
初めての同窓会を成功裏に開催でき、また、当
専攻卒業生のキャリアアップの特徴などを明らか
にし、当初の目標がほぼ達成できた。しかし、ア
ンケート結果の同窓生への開示については一部残
されている。
4.まとめと今後の課題
以上のようにアンケート回答結果を分析したと
ころ、当専攻卒業生のキャリアアップの意向は約
70%と非常に高く、半数以上が「資格取得」を目指
している。今後、その他の同様な研究との対比を
行い、当専攻卒業生のキャリアアップの特徴など
を明らかにする。
参考文献
[1] 厚生労働省「新規学校卒業者の就職離職状況
調査」
[2] 日本婦人団体連合会編、女性白書 2010、ほる
ぷ出版
図 4 キャリアアップの実行
(6) 資格の取得
図 5 に卒業後に取得した資格を示す。職種とし
て SE が多いことから、情報関連の資格取得が主に
64
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
東アジアにおける女性の自立と国際移動
-東アジアに男女共同参画社会をつくるための教育とは?-
Women’s Interdependence and International Migration in East Asia
~ Thinking Education to making Gender Equality in East Asia ~
鄭暎惠1),荒井芳廣1),銭国紅2),松田春香3),持田公子2),森岡修一3)
1)
人間関係学部人間関係学科,2)比較文化学部比較文化学科,3)文学部コミュニケーション文化学科
キーワード:自己実現,グローバル化, 多文化共生,良妻賢母,再生産労働
1.研究目的
少子高齢化するにつれ、日本にとどまらず、東
アジアは今後ますますグローバル化し、かつ、多
文化共生社会となるだろう。そんな東アジアを生
きる舞台とする女性たちには、自分の感性を信じ、
生き延びる力をつける“学び舎”が必要である。
「先を見とおしにくい」ポスト近代を分析し、
東アジアの女性たちが「自分らしく生きられる」
ために、どのような教育が必要かを考える。
いて、花村邦昭・大妻学院理事長から「大妻コタ
カの時代と現代の女子教育。女性が力を発揮する
社会への期待」についてお話をいただき、4 名で
パネルディスカッションを行った。
(司会は、鄭暎
惠・人間関係学部教授)
3.研究目標の達成状況
当初、韓国・中国等の東アジア、またはオオク
ボ等の国内に出かけて、グローバルに生きる女性
たちの意識・実態を踏まえ、どのような教育が必
要か調査研究する予定であったが、今年度は公開
講座を開催するにとどまった。
2.活動実施報告
2010 年 9 月 18 日(土)14:00~17:00、多摩
校学生会館 2322 大講義室にて、公開講座“Women,
Be Ambitious!”「自分らしく、生きたい。 ~東
アジアの未来と、女性の自己実現」を開催した。
社会学者の上野千鶴子・東京大学大学院人文社
会系研究科教授が基調講演「グローバリゼーショ
ンと女子教育の未来」を行った。日本の高等女子
教育初期、「良妻賢母思想は明治の進歩思想であ
った」ことをふまえ、平等と差異のディレンマを
考察した上で、グローバル化する日本と世界にお
けるヒトの移動と「女子教育」の価値を論じた。
「昭和日本の運命は懸って女子高等教育問題の成
否にある」(大妻コタカ、昭和 2 年)と同様に、
「21
世紀日本の運命は女性の力を活かすかどうかに懸
っている」(上野千鶴子、2010 年)と断言できる。
基調講演を受け、松田春香・文学部コミュニケ
ーション文化学科助教から「日本における『韓流
ブーム』と東アジアの将来」について、池田緑・
社会情報学部社会生活情報学専攻准教授から「グ
ローバル化する日本は誰を他者化するのか。女性
が『世界が私の舞台』と思えるための教育」につ
4.まとめと今後の課題
2010 年度に計画していた東アジアでの現地調査
については、
2 年目となる 2011 年度に期待したい。
5.研究成果
1)その他(公開講座・研究会、特許、受賞、マス
コミ発表等)
本プロジェクトによる公開講座の記録は、ビ
デオカメラで撮影して DVD に保存しているので、
希望者には貸出を行っている。問い合わせ先は、
多摩校人間関係学部社会学共同研(℡042‐372
- 9208)。
65
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
【1行あける】
文系の授業における学習管理システム導入の可能性と課題
Possibility of the Learning Management System in the Class of Liberal Arts
【1行あける】
中尾桂子1),柴田実2),中谷由郁3),秋山實4),浅津嘉之5),田中信之5) ,東順子3),平林一利2)
1)
短期大学部国文科,2)短期大学部非常勤講師,3)文学部非常勤講師,4)東北大学大学院,5)北陸大学
【1行あける】
キーワード:学習管理システム,ピア・レスポンス,ダイナミック,文章表現
【2行あける】
1.研究目的
大学生の文章表現能力に、内容面、表記面の両
方で問題があると指摘されるようになって久しい
が、この 10 年ほどで、アカデミックな場面での表
現能力向上を目指す科目が教養系科目に導入され、
各大学毎に、指導体制が定着してきている。
しかし、体制充実の一方で、これらの科目が学
生の内容上、表記上の表現力向上にどの程度貢献
したか確証が得られたとは言いがたく、依然とし
て暫定的な対応の域を出ていない部分も多い。
文章表現能力として、現在、特に求められてい
る能力は、思考活動の結果を論理的に文章にて表
現することであるが、多くの学生は、思考後の結
果に至るプロセスに十分に時間を費やすこと自体
が苦手であり、さらに、正確に表現するための文
法規則や語彙といった基本的な知識が乏しいこと
もあって、思考活動を訓練すること、さらに、思
考を言語に置き換えることなど、論理的な文章表
現指導以前の下準備が不可欠である。他にも、言
語は個人のものであること、また、これまで、感
想文以外の記述経験が乏しく、論理的展開のある
文章を書く習慣を持たなかったことなどを考えれ
ば、文章表現指導で学生が、内容上、より深い考
察を表現できるようにするまでには、個別に、き
め細かい対応なくしては難しいと考えられる。
ところが、大学教養科目として基礎教育の一環
で行われる表現指導は、通常、教養として紹介さ
れる程度のもので、実習ではないことから、1 人
の指導者で 40 人~80 人に対応するなど、教育環
境や指導者の人数、時間といった制約がある。補
助員を導入することやテューター制が利用できる
のはまだまだ一部の大学だけで、通常の大学では、
学生のペースに合わせたきめ細かい対応で表現力
の向上と学力を伸ばすというには、多くの課題を
抱えている。
66
そこで、今回、現行の授業態勢のまま、きめ細
かい指導が行えるような指導体制を検討するため、
外国語教育等での活用と有益だとする報告が多い、
学習管理システム(以下 LMS)とピア・レスポン
ス活動におけるその導入可能性、ならびに、大妻
個別の課題を検討した。
2.活動実施報告
調査・検証にあたっては、学生の問題に配慮す
る指導上の課題といった観点からと、授業内での
システム利用、授業外でのシステム利用に関する
授業形態における観点からの 2 方向で分析を進め
る。これにより、学習管理の評価の観点が学生の
抱える表記上の問題とどのように関連するかを考
えるためである。
2.1.ダイナミックな学習形態を目指した試み
今年度、大妻女子大学短期大学部国文科の基礎
的な表現指導に関わる半期 2 科目(「日本語の文章
表現」32 人、
「日本文学・文化講義」35 人)、なら
びに、北陸大学留学生別科の作文指導の通年 1 科
目(「日本語Ⅲ」34 人)において、試験的に LMS
体制を導入し、表現方法に関する指導を行った。
2.1.1.対面式ピア・レスポンスへの LMS 導入
日本人のクラスでは、討論する相手の存在する
対面式の授業で利用するため、LMS は、各回のテ
ーマ理解の導入段階で 3 ステップの課題を行う方
式にて採用した。
結果、学習形態や LMS の機能、ピア・レスポン
ス活動の速度と正確さ、記録性、再考機会の充実
といった面で好評価であったが、授業という制限
時間があることから、システムの不備や不慣れな
人を待つことにはいらだちがあった。
2.1.2.非対面式ピア・レスポンスへの LMS 導入
留学生クラスでは、授業活動外で課される宿題
などの個人作業にピア・レスポンス活動を導入し、
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
それに LMS を利用した。
北陸大のクラスでは、前期に対面式で授業中に
LMS を用いず、ピア・レスポンス活動を行ってい
たため、学習者が「対面 PR」「非対面 PR」「授業外
に非対面 PR を実施したこと」に満足・不満足して
いる理由について SCAT を用いて分析を行った。
結果、「対面 PR では、課題作成やピアへのコメ
ントを考える時間と、ピアの数が限られるが、非
対面 PR では時間にゆとりが生まれ、ピアの数も増
加する」と認識していること、また、「対面 PR で
は目の前のピアへの指摘しづらさがある一方、非
対面 PR では指摘しやすい」と捉えており、非対面
PR には「便利さ」や「クラスメートとの交流拡大」、
「日本語入力練習」といった対面 PR にはない独自
の満足評価があった。
以上 2.1.1.と 2.1.2 から、授業に導入すること
で、授業活動の活性化と思考の視覚化が可能にな
り、それにより学習効果と動機付けに影響がある
と考えられた。また、授業外に非対面 PR を取り入
れることで、課題の完成度の向上や、自律学習の
機会が増加し、それが習慣化につながるという可
能性が考えられた。
2.2.学生の表記に関する問題
学生の表現能力を支える語彙力推定のため、平
成 21-2 年度の短期大学生をサンプル被験者とし
て、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の
「百羅漢」を用い、語彙量調査を行ったところ、
語彙量は、おおむね3万語から3万5千語程度で
あり、教育課程にある学生としては期待度を下回
るものの、専門教育に不足することがないことが
分かった。また学科別では、英文、家政に比べ、
国文専攻学生の語彙量が、比較的多く、学生の読
書量を調べた結果から、語彙量は相関があったこ
とから、個人の読書量等、背景による語彙力の差
にも対応する必要性が確認された。
次いで、短大、学部の文系学生の思考表現にお
いて客観性を左右する文末表現、
「と思う」の使用
状況を分析したところ、 「思う」を意見陳述表現
と認識して利用する学生と、あいまいな内容を表
現する手段と指定利用する学生がおり、それぞれ
異なるニュアンスで使っていることがわかった。
「意見・考え」の意味を二通りの解釈の下、気分
次第で使い分けている様子が窺えることから、
「意
見」陳述というアカデミックな場面の理解促進、
正確な語意の指導が不可欠で、勝手な解釈による
使用がどのような問題を孕むかについての指導の
必要性が確認された。
3.研究目標の達成状況
義務教育等で必修となった情報教育の達成度が
確認でき、LMS に耐え得る PC リテラシーが備わっ
ていること、現行の授業体制に LMS を盛り込む場
合には、前期、後期と時期を分けて、対面、非対
面ピア・レスポンスを導入することが、きめの細
かい対応の幅を広げると確認できた。
また、大妻の学生の場合、語彙力に大きな問題
はないが、意味理解や利用方法に問題があるため、
思考の表記方法を十分訓練する機会を設けること
で、表現力向上が見込まれることが確認された。
以上の 2 観点による観察から、LMS の利点は文
系授業にも有効であり、現行の授業活動への導入
も問題がないことがわかったが、同時に、大妻個
別の課題である、語意の正確さと意見陳述の論理
的記述方式に、特に応用する方法を検討すべきだ
と考えられた。つまり、従来の作文指導にはない
ダイナミックな動的作文指導の可能性とその方向
性が確認できたと言えるだろう。
4.まとめと今後の課題
さらに明確な言語能力と抽象化思考力の強化に
むけて、LMS とピア活動を用いた実技能力向上の
ための授業内容整備を進め、より実践的な能力向
上に如何につなげていくかを検討したい。そのた
め、より詳細な分析を継続して行く必要があるが、
それを通して、文章表現指導の有り方に対する根
本的な見直しと新観点を提案できるようにしたい。
5.研究成果
1)学会発表
[1] 中尾桂子(2011)国文学系の文章に見られるアカ
デミック性判断の観点,統計数理研究所言語系
共同研究グループ合同発表会「言語研究と統計
2010」,統計数理研究所.
[2] 浅津嘉之,田中信之,中尾桂子,秋山實(2011)
学習管理システム(LMS)を利用した非対面ピ
ア・レスポンスの可能性,小出記念日本語教
育研究学会第 20 回大会,国際基督教大学.
2)その他(公開講座・研究会)
学習管理システム moodle ハンズオンワーク
ショップ-授業外ピアレビュー活動の可能性
-,2010.9.10,13 時~16 時,大妻女子大学千
代田キャンパス C 棟 370 教室.
67
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
コミュニケーション能力育成のための理論及び教材開発に関する研究
Developing Communicative Competence: From the Theory to Classroom Teaching Materials
服部孝彦1),ポール・アンダーウッド2),ゴードン・ミスコー3)
1)
社会情報学部社会情報学科,2)東海大学,3)東洋大学
キーワード:コミュニケーション能力,英語教育,教材開発
1.研究目的
本研究の目的はコミュニケーション能力理論を
検討し、その意味するところを明らかにした上で、
コミュニケーション能力育成のための教材を開発
することである。
英語教育におけるコミュニケーション能力育成
のためには、まずコミュニケーション能力理論を
詳細に検討し、コミュニケーションの全体像を捉
える必要がある。これは学習者がコミュニケーシ
ョン能力を効率的に習得できる教材を開発するた
めの前提となる理論研究と位置付けることができ
る。そして理論に基づき教材のあり方を考察し、
実際に授業で使用可能な教材の開発を試みる。
いず communicative language ability という用語
を 使 用 し て い る 。 Bachman (1990) の 理 論 で は
Canale (1983) の sociolinguistic competence が、
言 語 機 能 の 成 立 に 関 す る illocutionary
competence と 言 語 の 適 切 な 使 用 に 関 す る
sociolinguistic competence に分けられている。
Bachman and Palmer (1996) の理論は Bachman
(1990) の部分的な改訂にすぎず、その理論は、
language competence (language knowledge) の分
類においては Hymes (1972)、Canale and Swain
(1980)、Canale (1983) の理論を継承したもので
ある。また strategic competence に関しては、そ
の 概 念 を 発 展 さ せ た と い う 意 味 で Widdowson
(1983) を継承している。
コミュニケーション能力概念の誕生以降の理論
を総合した形の Bachman (1990) 及び Bachman and
Palmer (1996) の理論は現在、言語教育において
最も広く受け入れられている理論といえる。
2.活動実施報告(コミュニケーション能力理論
研究)
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 (communicative
competence) という概念を最初に整理した形で示
したのは Hymes である。 Hymes (1972) は、Chomsky
(1965) の completely homogeneous speech
community を否定し、communicative competence
には、文法的可能性と社会言語学的適切性だけで
はなく、他の要素も必要であるとした。
Canale and Swain (1980) は communicative
competence の 構 成 要 素 に は grammatical
competence 、 sociolinguistic competence 及 び
strategic competence の 3 つがあるとした。
Canale (1983) は sociolinguistic competence
か ら discourse competence を 分 化 し 、
communicative competence は grammatical
competence 、 sociolinguistic competence 、
discourse competence、strategic competence の
4 つの構成要素から成るとした。
Bachman (1990) はコミュニケーション能力を意
味する用語として communicative competence は用
3.研究目標の達成状況
本研究では、まず理論研究として、コミュニケ
ーション能力を育成するための英語教育を可能に
するために、コミュニケーション能力を理論的に、
その意味することを解明した。理論に基づき教材
の開発も試み、それらの成果については、国際学
会等での研究発表を行った。
今後はコミュニケーション能力における
discourse competence についてさらに詳細に検討
し、discourse competence をいかしたリーディン
グとライティングのスキルを伸長することができ
る教材の開発を行いたい。
4.まとめと今後の課題
コミュニケーション能力を育成するための理論
及び実践に関する研究を行ってきたため、コミュ
68
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
2010.12.17, 藤 沢 産 業 セ ン タ ー .
[3] 服部孝彦 (2011) 千 葉 県 教 育 委 員 会 ・ 文
部科学省・財団法人自治体国際化協会
主催
千葉県外国語指導助手中間期研
修 会 , Teaching English as Communication:
Theory to Practice, 2011.1.20, 千 葉 県 総
合教育センター.
[4] 服部孝彦 (2011) 東 京 都 教 育 委 員 会 ・ 文
部科学省・財団法人自治体国際化協会
主催
東京都外国語指導助手中間期研
修 会 , Strengthening Ties between
Research and English Classroom Practices,
2011.1.21, 東 京 都 庁 .
[5] 服部孝彦 (2011) 平 成 2 2 年 度 文 部 科 学
省指定、確かな学力の育成に係る実践
的 調 査 研 究 委 託 事 業 、 国際化時代に生き
る日本人に求められる英語力:異文化コミ
ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 視 点 か ら , 2011.1.31, 徳
島県立川島高等学校.
ニケーション能力という視点から、英語の 4 技能
を統合する力の育成の考察が中心となった。しか
し、教材開発においては、4 技能をそれぞれ独立
したものとして考える必要もある。今後は
discourse competence をつけるためのリーディン
グとライティングの教材開発を試みたい。
5.研究成果
1)著書、学術雑誌
[1] ポール・アンダーウッド, 服部孝彦 (2010)
Developing Reading Fluency in
Japanese Senior High Schools: Policy
and Practice,大 妻 女 子 大 学 紀 要 - 社
会 情 報 系 - 社 会 情 報 学 研 究 ,1 9 , 大 妻 女
子 大 学 , pp.101-113.
2)学会発表
[1] ポール・アンダーウッド, ゴードン・ミスコ
ー,服部孝彦 (2010) A Quantitative Analysis
of Conversational Proficiency in the
Japanese University EFL Classroom, 2010
Hawaii International Conference on
Social Sciences, Hilton Waikiki
Prince Kuhio Convention Center.
[2] 服部孝彦 (2010) D e v e l o p i n g
Communication Strategies: From
Theory to Practice,日 本 言 語 文 化 学 会
第 17 回 研 究 大 会 , 神 戸 女 子 短 期 大 学 .
[3] 服部孝彦 (2010) コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 教
育 と し て の 小 学 校 外 国 語 ( 英語)活動の
進め方, 日 本 学 校 教 育 学 会 第 25 回 研 究
大会, 東京学芸大学.
[4] ポール・アンダーウッド, 服部孝彦 (2010)
Reading Accuracy and Fluency:
C o n t e x t a n d P r a c t i c e , The Clute
Institute for Academic Research, 20 1 0
College Teaching and Learning Las
Vegas International Conference,
Caesar’s Palace Convention Center.
3)その他(講演)
[1] 服部孝彦 (2010) 石 川 県 教 育 委 員 会 ・ 文
部科学省・財団法人自治体国際化協会
主催
石川県外国語指導助手中間期研
修 会 Effective Oral Class for Junior and
Senior High School Students, 2010.11.25,
石川県教育センター.
[2] 服部孝彦 (2010) 国 際 ロ ー タ リ ー 第
2780地 区 、 か な が わ 湘 南 ロ ー タ リ ー ク
ラブ主催 これからの日本人にとって
必要な英語コミュニケーション力
Bachman,
L.
参考文献
F.
(1990).
considerations
in
Fundamental
language testing.
Oxford: Oxford University Press.
Bachman, L. F. & Palmer, A. S. (1996).
Language testing in practice. Oxford:
Oxford University Press.
Canale, M. (1983). On some dimensions of
language proficiency. In J. Oller (Ed.)
Issues in language testing research. (pp.
333-387).
Massachusetts:
Newbury
House.
Canale, M. & Swain, M. (1980). Theoretical
basis of communicative approaches to
second language teaching and testing.
Applied Linguistics, 1 (1), 1-47.
Chomsky, N. (1965). Aspects of the theory of
syntax. Cambridge, MA:The MIT Press.
Hymes,
D.
(1972).
On
communicative
competence. In J. Pridge & J. Holmes
Sociolinguistics:
Selected
(Eds.)
readings.
(pp.
269-293).
Harmondsworth: Penguin.
Widdowson, H. G. (1983). Language purpose
and language use. Oxford: Oxford
University Press.
69
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
女性の健康に関する縦断研究
Longitudinal Study of Women's Health
彦坂令子1),上杉宰世1),小林実夏1),相川りゑ子2)
1)
家政学部食物学科,2)短期大学部家政科
キーワード:女性,健康教育,食習慣,生活習慣,縦断研究
1.研究目的
女性に関する健康問題の増加を背景に「女性の
健康力」を高めることが政府から推奨されている
現在、100 年以上にわたり女子教育を継承してき
た本学においても、卒業生を対象とした健康調査
の実施が必要である。本研究では卒業生を対象と
した健康状況調査を実施し、更にその対象者が本
学在学中に記録した食事・生活調査のデータを合
わせて解析することで、大学生時代の食事や生活
および学習効果が、卒業後の人生で様々に変化す
る女性の生活習慣や健康状態へ及ぼす影響につい
て解明することを目的としている。この研究によ
って明らかにされた結果は、在学生への授業や生
活指導および卒後教育、地域住民への講座等にて
活用することができるものである。
平成 22 年度は、調査対象者のベースラインデー
タベースの構築、縦断研究のための調査用紙の開
発および開発した調査用紙による予備調査を行っ
た。
2)縦断研究のための調査用紙の開発
現在の家族の状況を把握するため、「婚姻」「同
居家族」「介護経験」「出産」について設問した。
疾病歴を把握するため、「今までに医師から告知
されたことのある病気」
「自覚症状」について設問
した。職歴を把握するため、今までの「業種・職
種」「勤務年数」「職務内容」について設問した。
生活習慣を把握するため、「睡眠」「ストレス」
「便通」「喫煙」について設問した。その他、「食
生活で意識していること」「生活のゆとり」につい
て設問した。
食物摂取状況を把握するためには半定量食物摂
取頻度調査(FFQ)を用いた。FFQ は、165 の食品
項目と 10 の付随する質問から構成されている。食
品項目について、「月に 1 回未満」「月に 1-3 回」
「週に 1-2 回」「週に 3-4 回」「週に 5-6 回」「毎日
1 回」「毎日 2-3 回」「毎日 4-6 回」「ほとんど毎日」
の 9 つの選択肢をつくった。また、各食品の 1 回
あたり摂取量が掲載された目安量に対して、「少
ない(半分以下)」「同じ」「多い(1.5 倍以上)」の
いずれかの選択肢をつくった。五訂増補食品成分
表を用い、それぞれの食品項目にあわせて荷重食
品成分表を作成し、栄養素摂取量を算出した。
3)縦断研究のための予備調査
開発した調査用紙を用いた予備調査を平成 23
年 2 月から 3 月にかけて 20 名の対象者におこなっ
た。対象者には研究趣旨の説明・研究への協力を
依頼し、あわせてインフォームドコンセントをと
った。対象者には、調査にかかった時間、答えに
くかった箇所についても回答を依頼した。
対象者の年齢は、53.8±3.5 歳 (mean±SD)、身
長 155.4±5.4 cm、体重 52.3±8.7 kg であり、
BMI が 18.5 未満のやせが 2 名、25.0 以上の過体
重が 1 名であった。
食物摂取頻度調査票によって得られた各食品摂
2.活動実施報告
1)調査対象者のベースラインデータベースの
構築
1975 年から 1984 年 3 月に大妻女子大学家政学
部食物学科管理栄養士専攻・短期大学部食物栄養
専攻の卒業生を対象とし、名簿の整理をおこなっ
た。その結果、短期大学部食物栄養専攻の卒業生
の現居住地を同定できる割合が低かったため、大
妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻の卒
業生約 450 人を調査対象者とすることにした。
対象者の名簿のデータ入力、宛名印刷をおこな
い、調査対象者に往復はがきを用いて、研究趣旨
の説明・研究への協力を依頼し、あわせてインフ
ォームドコンセントをおこなった。約 200 名から
研究参加への承諾を得られた。
70
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
取量から計算されたエネルギーおよび栄養素摂取
量の結果を表 1 に示す。食事調査方法が異なる調
査結果を比較できるものではないが、参考までに
平成 20 年度国民健康栄養調査結果(H20NUT_S)よ
り 50-59 歳女性の平均摂取量との比較を試みた。
エネルギー摂取量は 2087kcal であり、H20NUT_S
の 1771kcal より高値であった。エネルギー摂取量
が高値であったため、ほとんどの栄養素摂取量も
H20NUT_S の値より高値であった。脂質エネルギー
比は 26.5%であり、H20NUT_S の 25.6%より高値
であった。食塩摂取量は 6.5g であり、H20NUT_S
の 10.8g より低値であったが、食塩摂取量には調
味料として使用された食塩が含まれていないこと
が低値の理由であると思われる。
予備調査の結果、答えにくかった箇所として「病
歴や過去及び現在の身体的症状を問う質問は答え
にくい」「経済面・精神面など、生活におけるゆと
りの満足度を問う質問では、判断基準がわからず、
回 答 し に く い 」「 レ イ ア ウ ト が 見 に く い 」
等が挙げられ、調査にかかった時間は平均 56
分(最小 30 分、最大 90 分)であった。
表1
飽和脂肪酸
一価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸
n-3 多価不飽和脂肪酸
n-6 多価不飽和脂肪酸
コレステロール
炭水化物
食塩
マグネシウム
リン
鉄
亜鉛
銅 マンガン
セレニウム
レチノール
(kcal)
(g)
(g)
(%E)
(g)
(g)
(g)
(g)
(g)
(mg)
(g)
(g)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(mg)
(ug)
平均値 標準偏差
2087
661
82.3
28.1
61.7
25.7
26.6
21.03
8.38
20.09
9.59
10.90
4.90
2.34
1.20
9.32
4.11
334
150
289.1
89.1
6.5
2.7
3422
694
338
1273
10.8
9.7
1.39
3.46
118
H20NUT_S*
1771
67.5
51.1
25.6
最小値
1260
52.5
34.5
最大値
3359
139.4
133.9
11.86
10.93
4.97
0.93
4.34
158
154.8
2.6
44.08
47.29
26.13
5.21
22.83
679
463.8
14.0
1945
327
199
752
6.4
6.2
0.78
1.45
69
5571
1308
540
2158
17.7
17.1
2.29
6.35
221
2433
518
258
973
8
7.7
1.18
395
2064
1.1
5.1
155
0.60
1.12
13.0
0.81
4.4
302
5.42
77
8.4
2.3
5.9
5.6
8.5
2843
20953
17.3
18.1
794
1.96
3.26
38.6
2.99
25.6
830
15.08
326
27.7
7.5
19.8
33.5
60.8
606
1064
253
102
406
3.2
3.1
0.43
1.48
50
(ug)
1415
794
(ug)
5394
3991
(ug)
8.1
4.9
(mg)
9.3
3.5
(ug)
375
192
(mg)
1.10
0.35
(mg)
1.86
0.64
(mg)
22.4
7.1
(mg)
1.60
0.57
(ug)
10.6
5.1
(ug)
517
173
パントテン酸 (mg)
8.31
2.82
ビタミンC
(mg)
166
83
総食物繊維
(g)
16.9
5.9
水溶性食物繊維
(g)
4.3
1.5
非水溶性食物繊維
(g)
12.2
4.2
ダイゼイン
(mg)
17.1
8.9
ゲニスタイン
(mg)
28.5
15.4
*H20NUT_S; H20年度国民健康栄養調査 50-59歳女性の平均値
カロテン
ビタミンD
ビタミンE
ビタミンK
ビタミンB1
ビタミンB2
ナイアシン
ビタミンB6
ビタミンB12 葉酸
4.まとめと今後の課題
対象者の数を研究計画どおり 500 名近くまで増
やすため、卒業年次の幅を広げて、再度、追加対
象者への研究趣旨の説明・研究への協力を依頼し、
あわせてインフォームドコンセントをとる必要が
ある。
調査対象者が在学中の食事記録調査(3 日間)、
生活時間調査のデータをコーディングし、コンピ
ューターに入力して、データベースの構築を行い、
縦断研究を遂行するための調査用紙を送付し、回
答を得て、計量的解析を試みる予定である。
エネルギーおよび栄養素摂取量
エネルギー
たんぱく質
脂質
カリウム
カルシウム
調査対象者として、研究への協力を依頼したとこ
ろ、約 200 名から研究協力への承諾を得られたが、
本研究では研究対象者 500 名を設定しているので、
予定の数を達成できていない。
予備調査の対象者 20 名における家族の状況、疾
病歴、職歴、生活習慣、食物摂取状況に関する質
問項目への回答率はほぼ 100%であった。しかし
ながら、同じ箇所について、複数の対象者が答え
にくかったと回答している項目があり、また、調
査にかかった時間が長いことから調査票の修正が
必要なことが明らかになった。
308
251.2
10.8
8.3
7.1
260
0.83
1.16
15.2
1.16
6.8
326
5.33
117
15.8
3.5
11.7
3.研究目標の達成状況
1975 年から 1984 年 3 月に大妻女子大学家政学
部食物学科管理栄養士専攻を卒業した約 450 名を
71
5.研究成果
1)学術雑誌
[1] Kobayashi M, Adachi H Y, Ishihara J,
Tsugane S (2011) Effect of cooking loss in
the assessment of vitamin intake for
epidemiological data in Japan. Eur J Clin
Nutr. 65,546-552.
[2] 塚越恵久子,相川りゑ子,鎌田久子,蓮見美
代子(2011)女子大生の月経周期におよぼす
生活習慣の影響,大妻女子大学家政系紀要,
47,93-98.
2)学会発表
[1] 大河内靖子,小林実夏(2010) 女子大学生の
居住形態の違いによるビタミン B1 摂取状況
の評価について,第 57 回日本栄養改善学会,
女子栄養大学.
[2] 石橋弥生,戸村香織,上杉宰世,彦坂令子
(2010) 給食管理実習における疲労調査,第6
回日本給食経営管理学会,滋賀県立大学.
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
大妻学校開学の歴史的地域学的背景:
番町地域の歴史環境から見た大妻開学の背景研究
Study on the Place Where OTSUMA-SCHOOL Established;
from the Historical and Geological Point of View.
真家和生1),熊野正也2),川上元2),吉田優3),森朋久4)
1)
生活科学資料館,2)大妻女子大学非常勤講師,3)明治大学,4)生活科学資料館補佐
キーワード:大妻学校,大妻コタカ, 番町地域,武蔵国,江戸城
1.研究目的
大妻女子大学生活科学資料館では収蔵資料の解
析をもとに、大妻学院の立地する番町・麹町地区
の地域学的背景・歴史的背景を探りつつ、2009 年
度の特別展「大妻コタカと時代展」を開催した。
また、同年度、明治末から昭和初期にかけての東
京およびその近郊に多くの女子教育機関が誕生し
た状況を「女子教育のメッカ・東京」と副題をつ
けた特別展として検証した。近代の日本において
女子教育がこのように盛んになった背景には、近
世、とくに江戸期の寺子屋教育などが関係し、さ
らには縄文期以降の日本人の子供教育の歴史が関
係していると言えるが、これはとりもなおさず生
活技術の伝播であり、日本の地理的景観的理解な
くしては理解できないものである。
そこで、本テーマを考察するために、平成 22 年
度は、考古学・歴史学・景観学・人類学の専門家
による研究チームを構成し、縄文時代から近世・
近代に至るまでの(現)番町地区の考古学的・歴
史学的・地理的・地域学的背景を包括的に概観す
ることとした。すなわち大妻学校が発展してきた
この土地の特徴を総合的に明らかにすることを目
的とした。
報告書を作成した。本報告書は本文 145 頁に亙る
ものであり、その詳細をここに記すことはできな
いので、目次を以下に列記する。
第1章:日本列島の成立と日本人の起源(日本列
島の成立・日本列島の動植物と景観の特異性/
人類学からみた日本人の起源・日本の更新世人
類)
第2章:関東地域における人々の生活(―旧石器
時代から古墳時代―/最初の住民・旧石器時代
の自然環境・旧石器人のくらしの復元・関東地
域の最初の住民/自然の中に生きた人々・縄文
時代の自然環境・縄文人のくらし・関東地域の
縄文時代の様相・関東地域の縄文人の生活/米
作りへの決断と挑戦・弥生時代の自然環境・稲
作の伝播とその速度・食生活変革の意義・住ま
いと生産・弥生人の葬制・小地域土器分布圏の
出現/国づくりへの芽生え(古墳時代)・墳丘
墓から高塚古墳へ・古墳時代人のくらし・炉か
らカマドへ・土師器と須恵器・土器の移動と人
の交流)
第3章:関東地域の古代の様相(―考古学資料か
らみた奈良・平安時代―律令社会における武蔵
国/・武蔵国の成立と展開・豊島郡・荏原郡の
範囲/官衙・武蔵国府の設置・武蔵国の郡衙の
設置・確認された豊島郡衙/国分僧尼寺・武蔵
国分僧寺・尼寺の創建・武蔵国分僧尼寺跡の調
査/東山道武蔵路から東海道へ・五畿七道と東
山道武蔵路・確認された東山道武蔵路・古代の
東海道/古代武蔵国の官道と千代田区内の村
落遺跡分布・千代田区域での遺跡の様相と分
布・出土遺物にみる千代田区域の地域性/関東
2.活動実施報告
平成 22 年度は、前記した長期に亙る時間範囲内
の重要な事象のほぼ全般について整理することが
できた。すなわち「日本列島の成立と日本人の起
源」から「近世の江戸城成立と幕府衰退」に至る
総合的歴史観に立って大妻開学の地の特徴を理解
し、その上で「大妻開学および発展に関わる出来
事」を、生活科学資料館の資料をもとに開示する
72
大妻女子大学人間生活文化研究所年報 No.21 2011
平成22年度共同研究プロジェクト 活動実施報告書
地域の人々の生活・人々の生活用具・住まいと
くらし・貧窮問答歌と考古学・死者への祈り)
第4章:中世における江戸城とその周辺(江戸氏
の台頭と江戸郷・平将門の乱と武蔵国・江戸氏
の登場・源頼朝挙兵と江戸氏・承久の乱での江
戸氏の活躍・江戸の語源と地形・江戸郷を取り
巻く交通網・後醍醐天皇の挙兵・新田義興の謀
殺・鎌倉幕府と鎌倉公方・足利持氏の興亡・古
河公方の誕生・古河の立地条件・享徳の乱の終
焉/太田道灌と江戸城・江戸城築城の理由・江
戸城の様子・太田道灌と山内上杉氏・古河公方
足利政氏と山内・扇谷上杉氏・小田原北条氏の
台頭と政氏・高基の対立・足利晴氏と小弓公方
の滅亡・足利義氏と藤氏/小田原北条氏と江戸
城・小田原北条氏の江戸城奪取・関東における
江戸城の役割・江戸城の城代・遠山氏・北条氏
所領役帳と江戸衆・第二次国府台合戦と江戸城
の位置づけの変化・上杉謙信の関東侵攻/発掘
された中世江戸城―中世の江戸城と城下―・史
料にみる中世江戸城の構造・中世江戸城の位置
と発掘された中世江戸城/中世における番
町・麹町周辺―中世の地形と道および江戸城下
中世遺跡の発掘調査―・中世江戸の周辺の推定
地形・江戸を取り巻く交通網・中世江戸城下の
村落・千代田区内の遺跡分布・江戸城東方の遺
跡・江戸城西方(番町・麹町)の遺跡/小田原
北条氏の盛衰と江戸城落城・北条氏の勢力拡
大・関宿合戦・一色氏の出自・京都一色氏・関
東一色氏と幸手一色氏・野田氏と栗橋城・北条
氏照と栗橋城・小田原合戦と江戸城落城/中世
における番町・麹町周辺・交通の要所・国府方・
麹町の地理的な条件/番町麹町界隈の中世遺
跡・番町の地形と屋敷割・番町の地形と屋敷の
構造・発掘された旗本屋敷跡:番町旗本屋敷跡
の遺構分布と平面構成・一番町遺跡(宅間家屋
敷跡)・三番町遺跡(松田・長谷川家屋敷跡)・
四番町遺跡1次調査(木下家屋敷跡)・四番町
遺跡第2次調査(伊勢家屋敷跡)・江戸城外堀
跡:五番町地点・法政大学構内遺跡(篠山家屋
敷跡)・番町旗本屋敷跡の発掘から分かる番町
の変遷と屋敷景観・旗本屋敷跡による屋敷景観
復原)
第5章:武蔵野台地と下総台地に挟まれた東京低
地を流れる河川の変遷(―江戸幕府成立を契機
とする関東地域の発展と生活の変容―利根川
東遷・利根川研究史・利根川東遷と五霞町/利
根川東遷と川妻村文書・赤堀川・川妻村・根岸
門蔵と「川妻文書」・川妻文書の検討・諸研究
者の赤堀川論について・佐伯川/「治河言上之
案文写」の利根川東遷・「治河言上之案文写」・
利根川東遷のまとめ/武蔵野台地の河川と大
妻周辺の水辺・武蔵野台地の概略・神田川・玉
川上水・日比谷入江・溜池)
第6章:近世における江戸城とその周辺(江戸幕
府開府と江戸城拡張・後北条氏滅亡と家康関東
入国・家康の家臣団配置・文禄期までの江戸城
普請・慶長期の江戸城普請・元和・寛永期の江
戸城普請・武家屋敷の建設・諸大名の屋敷地の
拝領・慶長・寛永期の武家地・旗本屋敷の形成・
町屋の形成・城下町の形成・麹町地域の町家の
形成と発展/明暦の大火以降の江戸城と城下
町・江戸の改造計画とその実施・寺社の移転・
新町の起立・火除地の設置・17 世紀後半の町の
動向・寛政年間以降の町の移動/旗本屋敷地の
都市空間的な特徴と番町麹町付近の変遷・江戸
の都市構造からみた旗本屋敷の配置・江戸時代
後期・幕末期の旗本屋敷の分布・屋敷割に対す
る地形の影響/大妻学校周辺番町麹町地区の
旗本屋敷の変遷・番町・麹町地区の地理的な変
遷・番町の町割・三番町の微地形・大妻女子大
学敷地の変遷・佐野善左衛門のしだれ桜・佐野
善左衛門家)
第7章:大妻開学および発展に関わる背景と出来
事(大妻開塾以前の女子教育/熊田コタカの結
婚と大妻学校開塾/大妻学校の発展/関東大
震災と大妻良馬の死/第2次世界大戦敗戦と
コタカの教職追放/コタカ没後の大妻学校の
発展)
3.研究目標の達成状況および今後の課題
平成 22 年度については前記事象について整理
できたので、平成 23 年度はこれら事象の証拠とな
る文献や古地図などを入手・整理し、さらに細部の
情報を追加しつつ、本目的の体感的把握ができる
ようまとめる予定である。なお、平成 23 年度は、
さらに若手研究者を加え、女子教育機関としての
大妻学校誕生の背景と意義をより鮮明にしたいと
考えている。
4.研究成果
研究成果の公表は、報告書の他、一般を対象と
した公開講座を計画している。
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