時系列産業連関表による各種電源のライフサイクル分析

Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
時系列産業連関表による各種電源のライフサイクル分析
Life Cycle Analysis of various electricity sectors
using a Time-Series Input-Output table
塚 本 忠 嗣
*
・ 小 出 文 隆
Tadashi Tsukamoto
**
・ 内 山 洋 司
Fumitaka Koide
***
Yohji Uchiyama
(原稿受付日 2007 年 7 月 25 日,受理日 2008 年 2 月 26 日)
The amount of CO2 emission from the electricity sector has been increasing during the past three decades in Japan.Analysis
of Input-Output table (I-O table) is one of the most useful methods to estimate energy consumption and environmental
burdens on industrial activities. We have developed 1970-2000 time series input-output tables based on the sector criteria of
1995 I-O table,and then reconstructed the sectional energy and environmental database by using 1973-2000 energy balance
tables. This paper aims to estimate direct and indirect energy consumption and CO2 emission of the Japanese electricity
sector by the TSIO tables in order to understand environmental burdens effected by the past structural change of industry.
Energy analysis ratio and CO2 emissions per unit of yen are estimated on the different power sectors such as hydro,nuclear
and fossil fuels power generation during the period of 1973-2000.
っては分析結果が大きく変化してしまうという問題点が存
1. はじめに
在する.
1973 年と 1979 年の石油危機以降,我が国では安定供給
積み上げ法と別の方法に,産業連関表を用いたライフサ
の確保を第一に,石油代替エネルギーの積極的な開発と導
イクル分析がある.産業連関表を用いた分析法は,財・サ
入を進めエネルギーの多様化を目指してきた.また 1990
ービスを生産する際に生じる CO2 排出量を原理的にはもれ
年代から地球温暖化問題が顕在化し,エネルギー安全保障
なく評価することが可能となる.大型の発電技術は建設期
に加えて脱炭素化を図る電源構成のベストミックスが求め
間が長く,また一旦,社会に導入されると長い期間にわた
られるようになってきた.水力や太陽光など再生可能エネ
って電力を供給するために,発電設備の実態を把握するた
ルギーを利用する発電技術と原子力発電は,エネルギー安
めには長期にわたる産業連関表を用いて明らかにしなけれ
全保障と地球温暖化の緩和に貢献する電源として導入が期
ばならない.しかしながら,我が国の産業連関表は 5 年お
待されている.また 2007 年 4 月から大工場を持つ企業が使
きに改訂を繰り返し,基本的な枠組みに変更はないものの,
用電力に応じて CO2 の排出量を計算し,国へ報告する温暖
その都度部門概念や部門の範囲を変更しているため,異時
化対策の新制度が始まることに伴い,正確な発電電力量あ
点間での比較が困難となっている.
そこで本稿では先行研究 3)にて用いた整合ある時系列産
たりの CO2 排出原単位を設定する必要が生じている.
発電技術の CO2 排出量は,発電時に消費する燃料だけで
業連関表(Time Series Input-Output Table:以下 TSIO で記す)
なく,設備の製造,利用,廃棄工程においても大きいと考
を元に環境負荷データベースや分析手法の再考を行い,
えられている.こういった間接影響を分析する方法はライ
TSIO 本体にも若干の改良を加え,火力・水力・原子力発電
フサイクル分析(LCA)と呼ばれており,発電プラントにお
別にみたエネルギー消費量とエネルギー収支比,および発
ける既存研究
1)2)
では積み上げ法と呼ばれる方法によって
電電力量あたりの CO2 排出原単位の値について過去からの
影響の大きさを定量的に算出し,エネルギー政策に利用さ
推移を明らかにすることを目的として分析を行った.
れてきた.積み上げ法はモデルプラントを設定してライフ
サイクルにわたる各工程の異なる燃料消費量を明らかにし,
2. 時系列産業連関表(TSIO)の概要
それぞれの消費量に CO2 排出係数を乗じて分析する方法で
ある.積み上げ法は実際に社会に導入されている電源につ
TSIO は各省庁が共同で製作して発行している『産業連関
いての分析でなく,またモデルプラントの設定の仕方によ
表基本表』(以下基本表),
『産業連関表接続表』(以下接続表),
*
『産業連関表延長表』(以下延長表)を基本として作成され
筑波大学システム情報工学研究科リスク工学専攻
〃
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〃
〃
〃
E-mail : [email protected]
〒305-8571 茨城県つくば市天王台 1-1-1
**
ている.各部門は 95 年基準の概念と 1985-90-95 年接続表
本稿は第 23 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス
の内容をもとに作成された
1
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の統合小分類を基本として作成するために,1970-75-80 年
は計算の対象外としている.
接続表から 5年おきに発行されている接続表を 95 年まで接
3.2 分析の流れ
続し,接続表間の貨幣価値を GDP デフレータによって補正
図 1 に本稿の分析の流れを示す.以下では CO2 について
し,ベンチマーク年を設定している.その後に延長表を用
のみ言及するが,エネルギー消費についても基本的には同
いて 1994 年などの基本表が発行されていない年を推計し,
様に計算することができる.
RAS 法を用いて直近のベンチマーク年に接続させ,1970
年から 2000 年まで貨幣価値を 95 年の名目で統一された産
エネルギーバランス表
業連関表が完成する.TSIO は業連関表の基本分類を統一さ
せるために部門統合により内生 155 部門とし,また電力部
部門別直接CO2排出量C’i
門を『事業用原子力発電』,『事業用火力発電』
,『水力,そ
TSIO
の他の事業用発電』の 3 部門に分割するなど,エネルギー
逆行列演算
分野の分析がされやすいように部門設定されている.最終
運用CO2
(火力)
的に開発された TSIO は 155 部門の内生部門と 8 つの粗付
加価値部門,9 つの最終需要部門と輸入部門で構成されて
設備建設CO2
(3電源)
3電源別
拡充工事費
運用CO2
(水力)
いる.なお 1971,72 年については延長表が作成されていな
いため,この 2 年については TSIO の作成が行われていな
運用CO2 火力CO2 水力CO2 原子力CO2
(原子力) (設備建設) (設備建設) (設備建設)
い.本稿では連続的なデータを得るために,分析対象期間
を 1973 年から 2000 年に設定した.
送電端発電電力量Pn*
設備容量Cn
3. 分析手法
除算
3.1 分析範囲
発電電力量Pn
(1973年以降の設備利用)
CO2排出原単位
発電プラントの LCA では「運用」と「施設建設」に分け
て分析を行うのが一般的である.本稿で算出するのは,
比較
CO2排出原単位
(積み上げ法)
図 1 分析の流れ
TSIO の『事業用原子力発電』,『事業用火力発電』
,『水力,
その他の事業用発電』(以上:運用),『電力施設建設』(施
まず,1973 年から 2000 年までの各年で,TSIO の i 部門
設建設),の 4 部門の直接・間接 CO2 排出量,エネルギー
で直接排出された CO2 量 C'i を外生値として与える.C' i を
消費量,およびエネルギー収支である.一般的に「運用」に
得るための産業連関表の各部門における燃料消費量の推計
おける CO2 排出量には火力発電の燃料燃焼や所内動力の消
作業は国立環境研究所
費による排出量を含めて推計されることが多いが,それら
ており,データベースとして公表されているが,基本表が
を含めると火力発電の CO2 排出原単位が他電源よりも圧倒
存在する 5 年おきにしかデータベースが存在しないため,
的に大きくなることは容易に想像できる.本稿では異なる
本稿の分析に適用することができない.そのため C'i は,
電源について運転保守にのみ焦点を当てて,火力発電の発
各年のエネルギーバランス表の燃料消費量に燃料種別排出
電時の燃料燃焼と所内動力消費による CO2 排出量は考慮せ
係数
ずに比較した.
表と TSIO では部門数が異なるため,燃料消費量は対応す
4),5)
(以下,環境研)がすでに行っ
6)
を乗ずることによって求めた.エネルギーバランス
なお産業連関表を用いているため,プラントの運用,建
る TSIO 部門の生産額の大きさに依存すると仮定し,生産
設のみではなく「発電事業」全体での CO2 排出・エネルギ
額の比率により配分した.なお軽油・揮発油についてはエ
ー消費を導出していることに注意されたい.また既存研究
ネルギーバランス表では「旅客用・貨物用」の 2 部門にし
では火力・原子力プラントの耐用年数を 30 年程度としてい
か分けられていないので,物量表を用いて配分の補正を行
るが,本稿での分析対象期間は 1973 年から 2000 年の間で
った.また,エネルギーバランス表には石灰石の消費量が
あるため,多くのプラントが耐用年数に達していない範囲
記載されていないので,各種統計 7),8),9)を用いて使用状況を
での評価である.さらに LCA では海外輸送分や海外での核
調べ部門別の消費量を推計した.2000 年における本稿と環
燃料の濃縮などを考慮すべきであるが,産業連関表を用い
境研の C'i 値の比較を図 2 に示す.産業連関表の部門一つ
ている制約上,海外で発生した CO2 排出・エネルギー消費
一つについて詳細に燃料消費量を設定した環境研の C'i 値
2
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とほぼ同等に設定されており,銑鉄・粗鋼と自家発電など
4. 産業連関モデル式
一部の部門を除きほぼ同じエネルギー消費量の結果が得ら
れており,発電部門の直接間接エネルギー消費量の分析結
本稿で用いた産業連関分析法は,輸入を内生化した競争
果をみても,その誤差は数%程度であることが判明した.
輸入型モデルである.産業連関表における i 部門の需給バ
なお,エネルギー消費量についてはエネルギー収支比の計
ランスは式(2)のように書くことができる.
n
a X
算を含めて,電力などの二次エネルギーは全て一次エネル
ij
ギーに換算した.
j
 Fid  Ei  M i  X i i  1,2, , n
(2)
j 1
X i は i 部門の国内生産額, Fi d は
国内最終需要額, Ei は輸出, M i は輸入である.なお輸入
は国内需要に依存するものとし,輸入係数 mi を用いて式
ここで aij は投入係数,
14
12
家計消費
(3)のように表される.
億トン-CO2
10
8
自家発電
6
事業用火力
発電
n
a
M i  mi (
 Fid )
ij X j
(3)
j 1
したがって mi は輸入依存度を示し, (1  mi ) は輸入に依
存しない割合,すなわち自給率を表している.式(3)を式(2)
に代入し整理すると
4
銑鉄・粗鋼
セメント
2
n
a
X i  (1  mi )
式(4)を行列記号で表し
図2
についてまとめると,式(5)に示
ˆ ) A]1[(I  M
ˆ )F d  E ' ]
X  [I  (I  M
C' i 値の比較
 Mˆ ) A は国
ˆ ) A]1 は輸入を
産品のみの投入係数であり, [I  (I  M
であり,I は単位行列である.したがって (I
て求めることができる.このうち設備建設の CO2 排出量は,
内生化したレオンチェフ逆行列である.E' は輸出ベクトル
火力,水力,原子力発電の 3 電源に分けて求めることがで
である.
きないために,統計値 10)の拡充工事費の電源別比率を用い
こ こ で , i 部 門 の 生 産 額 あ た り の CO2 排 出 量 を
てそれぞれの電源の建設時の CO2 排出量を近似的に算出し
Ci  C'i / X i ,レオンチェフ逆行列の i,j 成分を Bij ,j 部
門の最終需要を F j ,とする.電力事業の運用の LCA では
た.運用と設備建設の CO2 排出量をその年の発電電力量で
除することによって,各年の発電電力量あたりの CO2 排出
燃料消費・所内動力消費による自部門での CO2 排出である
量(以下,排出原単位)を求めた.ただし本稿では 1972
C j B jj F j を含めないので,電力事業の運用の CO2 排出量
年以前に建設された発電設備は分析対象外としており,設
は(6)式で表される.また,施設建設の CO2 排出量は(7)式で
備建設による CO2 排出は改良工事を含まない拡充工事のみ
表される.
であるため,t 年の発電電力量は (1)式によって計算した.
(運用 CO2)=
C(t )  C(72)
C( t )
(5)
ただし M̂ は輸入係数 mi を主対角要素にとった対角行列
出量は,それぞれ次章に示す(6),(7)式の逆行列演算によっ
P(t ) 
X
すモデル式が導出される.
環境研
発電部門の運用時と電力設備建設時の直接・間接 CO2 排
P(*t )
(4)
j 1
0
エネルギーバランス表(本稿)
 (1  mi )Fid  Ei
ij X j
C B F
i
ij
i
(1)
(施設建設 CO2)=
ここで,P(t ) は 1973 年以降に建設された発電所により発電
j
 C j B jj F j
(6)
(j は原子力・火力・水力部門)
C B F
i
ij
(7)
j
i
*
された電力量 10), P(t ) は t 年の送電端発電電力量 10), C (t )
(j は電力施設建設部門)
は t 年の設備容量 10)である.なお改良工事は運用に含まれ
本稿で定義したエネルギー収支比の計算法を式(8)に記
*
るため,運用の CO2 排出原単位の計算には P(t ) を用いた.
す.エネルギー収支比(S)とは,対象期間における発電電
力量を発電所運用と設備建設とに投入したエネルギーの総
和で除して算出される指標である.
3
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のウラン濃縮や再処理などバックエンドに伴うエネルギー
2000
S
 P(t )
t 1973
 Ep
2000
t 1973
(t )
消費やその間接影響が含まれていないことが考えられる.
 Ec(t ) 
40
(8)
35
エ
ネ
ル
ギ
ー
収
支
比
ここで, Ep(t ) :t年のエネルギー消費量, Ec(t ) :設備建
設によるt年のエネルギー消費量, P(t ) :t年の発電電力
量(一次エネルギーに換算するために 9.0(MJ/kWh)を乗じ
た)である.
5. 分析結果
30
25
20
15
10
5
0
5.1 エネルギー消費量
原子力
今回の分析で得られた設備建設と運用のエネルギー消費
量の推移を図 3 に示す.2000 年に近づくにつれて火力発電
火力
水力
図 4 電源別エネルギー収支比
の運用によるエネルギーの消費の割合が大きくなり,2000
年では約 5 割が火力発電の運用である.水力発電と原子力
5.3 CO2 排出原単位
発電は古い年次では設備建設によるエネルギー消費の割合
図 5 から図 7 に各電源についての分析から得られた CO2
が大きい.特に原子力発電は運用によるエネルギー消費量
排出原単位の推移を示す.1970 年代に発電所の建設が急速
が大きくなってきている.また近年の発電電力量の増加を
に進んだことが原因で,初期段階の設備建設による CO2 排
受けて運用によるエネルギー消費量が大きくなることが予
出原単位が極端に大きくなったために,グラフは対数目盛
想されたが,全体としてのエネルギー消費量は 70 年代と
で表している.
90 年代を比べてもそれほど増加していない.これは発電効
図 5 から原子力発電の運用の CO2 排出原単位は,2000 年
率の改善や他産業の生産効率の向上等によるものと思われ
までのほとんどの期間にわたり一貫して小さいことがわか
る.
る.設備建設の排出原単位は,発電所建設が続いた 1970
年代において値が大きいが,その後は年を追うごとに減尐
250
している.
10000
200
1015(J)
g-CO 2 /kWh
水力設備建設
150
水力運用
火力設備建設
100
火力運用
原子力設備建設
50
原子力運用
1000
100
運用
設備建設
10
1973
1975
1977
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
0
1973
1975
1977
1979
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
1
年
図 3 設備建設と運用のエネルギー消費量
年
図 5 原子力発電の CO2 排出原単位
5.2 エネルギー収支
図 4 は異なる電源部門のエネルギー収支比の計算結果を
火力発電の CO2 排出原単位の推移を図 6 に示す.火力発
示したものである.図からエネルギー収支比は,火力発電
電は原子力発電とは異なり,1973 年以前にもある程度の発
と水力発電が同程度で,原子力発電はその約 2 倍である.
電所の建設が行われていたため原子力発電に比べて運用の
原子力のエネルギー収支比が大きい理由としては,海外で
排出原単位の値が大きい.設備建設による原単位は,1980
4
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年以降はほぼ 10 前後の値となっている.
設資材などの分析範囲も両者の間で大きく異なっており,
分析結果を正確に比較することはできない.ここでは参考
100
として両者の結果を比較することにする.
g-CO 2 /kWh
積み上げ法の既往研究 1),2)では原子力発電は PWR と BWR,
火力発電は石炭火力,石油火力,LNG 火力など発電種別に
分けられている.ここでは両者を比較するために積み上げ
10
運用
法の結果を各年の設備容量の比で重み付けし,加重平均し
設備建設
て産業連関分析法の 3 部門に対応させた.積み上げ法では
海外排出分も評価を行っているが,産業連関法と比較をす
るために国内分のインベントリのみを比較対象とし,整合
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1
性を保った.なお本稿で引用する積み上げ法では,素材の
単位あたりの CO2 排出量については 1990 年の産業連関表を
年
図 6 火力発電の CO2 排出原単位
用いている.また,運用と設備建設の間接影響分について
は産業連関表を用いて推計している.
水力発電の CO2 排出原単位の推移を図 6 に示す.水力発
図 8 は 3 電源について本稿の分析結果と積み上げ法の結
電も火力発電と同様に 1973 年以前に発電所の建設が数多
果を,運用と設備建設に分けて比較したものである.
く行われた電源である.1973 年以降も揚水発電を含めてコ
ンクリートを大量に使う発電用ダムなどの建設が進められ
30
たことから他電源の発電所建設よりも多くの CO2 を排出し
25
ていることがわかる.運用による排出原単位は,原子力発
20
ほどである.
15
g-CO2/kWh
電と同様に設備建設と比べて小さく,平均して全体の 2 割
1000
10
g-CO 2 /kWh
5
100
0
設備建設
運用
10
運用
設備建設
原子力発電
設備建設
運用
設備建設
火力発電
本稿
運用
水力発電
積み上げ法
図 8 積み上げ法との比較
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1
図から産業連関分析法の結果は,設備建設においては水
年
力が他電源より約 2 倍程度大きく,運用においては火力が
図 7 水力発電 CO2 排出原単位
最も大きいことがわかる.一方,積み上げ法もほぼ同様の
結果となっている.
5.4 積み上げ法との比較
電源別の CO2 排出原単位の分析は,これまでは主に積み
発電所,特に原子力発電所は,建設資材にステンレスや
上げ法により行われてきた.積み上げ法は想定されたモデ
重量コンクリートなど一般の建物や道路などに使われてい
ルプラントについて設備の容量や建設資材の種類と量,そ
る汎用資材に比べてエネルギー消費原単位が大きい資材を
れに運転保守,稼働率,耐用年数などを特定の値に設定し
多く使用している.産業連関分析法では資材の配分が金額
てライフサイクルのインベントリを算出する方法である.
によって配分されるために大量に消費されている汎用資材
それに対して,産業連関分析法は実際に建設されたプラン
が発電所の建設資材として投入されることになる.このた
トを対象にしているために,設備容量や建設に使われてい
め設備建設については,積み上げ法と産業連関分析法を組
る資材の種類や量はさまざまである.また,燃料供給や建
み合わせた分析の結果
5
1),2)
の方が産業連関表の値を上回る
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 29, No. 3
ことが予想される.
依存している水力発電は設備建設の排出原単位が大きいこ
しかし,図 8 の結果は予想とは逆に産業連関分析法によ
とで,両者の結果がほぼ一致していることがわかった.今
って得られた設備建設の CO2 排出原単位の方が大きくなっ
後の課題としては,産業連関表の評価期間を更に拡大し,
ている.この違いの最も大きな理由として耐用年数の違い
より正確な CO2 排出原単位の分析を行うシステムを構築す
が考えられる.積み上げ法の耐用年数は 30 年を想定してい
ることである.
る.それに対して本稿の分析では 1973 年から 2000 年の間
に建設されたプラントを対象としているために,耐用年数
参考文献
は 1 年から 27 年の間になる.この影響は特殊な資材の影響
よりも大きいと考えられ,結果として,図 8 に示すように
1)
本藤祐樹,内山洋司,森泉由恵;ライフサイクル CO2
設備建設の CO2 排出原単位は本稿の分析結果の方が大きく
排出量による発電技術の評価-最新データによる再推
なったと考えられる.
計と前提条件の違いによる影響,電力中央研究所研究
報告 Y99009,(2000).
6. おわりに
2)
本藤祐樹,森泉由恵;ライフサイクル CO2 排出量によ
る原子力発電技術の評価,電力中央研究所研究報告
LCA では,実データを用いて 1 次,2 次と波及していく間
Y01006,(2001).
接影響をもれなく分析していくことが重要である.この波
3)
塚本忠嗣,ほか 4 名;時系列産業連関表を用いた電力
及影響について積み上げ法ではモデルによって対象範囲を
部門のエネルギー・環境負荷分析,第 25 回エネルギ
拡大する作業を取っているが,実際には全ての波及を追い
ー・資源学会研究発表会講演論文集, (2006)
かけて分析することは難しい.特に産業との結びつきが大
4)
137-140.
国立環境研究所;産業連関表による二酸化炭素排出原
単位(1997).
きい設備の建設と運用については大きな課題となっていた.
今回,TSIO を用いた産業連関分析法の開発により,LCA
5)
国立環境研究所;産業連関表による環境負荷原単位デ
ータブック(3EID),(2005).
において最も複雑である設備建設と運用プロセスのエネル
ギー消費量及び CO2 排出量を,実際のデータによって整合
6)
国立環境研究所;燃料報告書,(2005),12-15.
的に算出するシステムを構築することが可能になった.本
7)
YEARBOOK of MINERALS AND NON-FERROUS
研究では開発された分析法を用いて産業連関表にある火力
METALS STATISTICS
(1970-2000)
部門,原子力部門,水力・その他事業用発電部門の CO2 排
8)
経済産業統計協会;資源統計年報(1970-2000)
出原単位を時系列で算出し,その傾向を明らかにした.ま
9)
経済産業調査会;鉱業便覧(1970-2000)
た積み上げ法によって得られた結果との比較では,前提条
10) 財団法人日本経営史研究所;電気事業 50 年の統計.
件の違いから正確に比較することは難しいが,燃料供給な
どの影響が大きい火力発電は運用の排出原単位が,設備に
6