論述式試験I - 慶應義塾大学 法科大学院

平成27年 9 月/28年 4 月入学
慶應義塾大学大学院入学試験問題
法 務 研 究 科
法律科目試験(論述式Ⅰ)
注 意
1.
指示があるまで開かないこと。
2.
この問題冊子は 8 頁ある。試験開始後ただちに落丁,乱丁等の有無を確認し,異常があ
る場合にはただちに監督者に申し出ること。
3.
受験番号( 2 箇所)と氏名は,解答用紙(表)上のそれぞれ指定された箇所に必ず記入
すること。
4.
解答用紙の※を記した空欄内には何も書いてはいけない。
5.
解答 は 科目ごとに指定された解答用紙 に書くこと。誤った解答用紙 に解答した場合でも,
解答用紙の交換や再交付には応じない。
6.
答案 は 横書 きとし,解答用紙(表) の 左上 から,順次,実線内 に 一行 ずつ 書 き 進 める
こと。
7.
答案は,黒インクの万年筆またはボールペンで書くこと。
8.
この問題冊子の 3 , 5 , 8 頁は白紙である。下書きの必要があれば,この部分を利用し,
解答用紙を下書きに用いてはならない。
9.
注意に従わずに書かれた答案,乱雑に書かれた答案,解答者の特定が可能な答案はこれ
を無効とすることがある。
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憲 法
〔問 題〕
【事例】
20××年,理系 の 単科大学 である A 県立大学 は,教授会 のワーキング・ グループで 数次 にわたって 議論
を 重 ねた 結果,① 女性入学者 の 増加 と,② 母子世帯 の 子女 の 入学者 の 増加 を 実現 させる 入試改革 が 必要 で
ある,との合意に至った。
そしてそのための 具体的 な 方法 として,入学定員 のうち 一定数 を 女性 に 割 り 当 てる( パターン 1 ),入学
定員 のうち 一定数 を 母子世帯 の 子女 に 割 り 当 てる( パターン 2 ),面接試験 において 女性 であることを 加点
事由 とする( パターン 3 ),面接試験 において 母子世帯 の 子女 であることを 加点事由 とする( パターン 4 )
という,合計 4 通りのパターンを検討している。
【設問】
次の資料を参考にしながら,上記の各入試制度が導入された場合に生じると考えられる憲法上の問題点に
ついて,あなた自身の考えを論じなさい。
【資料】 A 県立大学ワーキング・グループ報告書(抄)
・入試改革検討の背景
当該入試改革 が 検討 されたのは,① については,直近 10 年間 における 女性 の 理系分野 の 大学進学率 が,
男性 の 進学率 と 比 べて20%近 く 低 いという 状況 にあり,A 県立大学 でも 入学者全体 に 占 める 女性 の 割合 が
1 ∼ 2 割程度 で 推移 していたこと,② については,直近 10 年間 における 母子世帯 の 子女 の 大学進学率 が,
全世帯の大学進学率と比較して30%近く低いという状況にあったという事情が大きい。
…… そのような 状況 をもたらしている 要因 は 何 か。① については,全国的 に 見 ればいまだ 女性 への 差別
が 残 っていることは 否定 できない。……A 県立大学 の 場合,女性在学者 へのアンケート 調査 から,
「男性中
心的な雰囲気がある」,「女性への配慮が見られない」といった回答が見られたが,そこから,女性入学者を
増加させることで,学内の多様性を確保することの必要性を指摘できる。
② については,大学進学費用 の 問題, さらには 大学入試 の 準備 のための 教育 にかけることのできる 費用
に差があり公平な競争となっていないこと,などが指摘されている。そうした状況の改善には,第一義的に
は奨学金制度の拡充が求められるが,それだけでは不十分であり,大学として,積極的にそうした境遇にあ
る学生を入学させる措置も必要である。……〔以下略〕
─2─
─3─
民 法
〔問 題〕
以下の事例を読んで,下記の問いに答えなさい。なお,現在を平成 27 年〔2015 年〕8 月 29 日として考えな
さい。
【事例】
A は土地α(面積 150 ㎡)を所有していたが,昭和 60 年〔1985 年〕6 月 30 日,これを駐車場として利用す
るために 舗装 し,縁石 を 設置 した。土地α は B が 所有 する 土地β(面積 200 ㎡) の 北側 にあってこれと 隣
接していたが,元々両土地の境界は明確ではなく,A は,土地βに 20 ㎡ 越境し,その部分(以下,「本件越
境部分」という。)を含めて土地αに舗装工事を施した。
平成 7 年〔1995 年〕8 月 20 日,A は土地 α を C に賃貸した。AC 間の賃貸借契約は建物所有を目的とす
るものであり,期間は 30 年,賃料は毎月 10 万円を A の銀行口座に振り込むことが合意された。同日,A は
土地α を 本件越境部分 とともに C に 引 き 渡 した。C は D 工務店 と 建築請負契約 を 締結 し,建物(以下,
「本件建物」という。)の建設を開始した。本件建物は平成 8 年〔1996年〕3 月11日に完成し,C は D から引
渡 しを 受 けて 利用 を 開始 した。本件建物 は C の 所有名義 で 登記 されたが, その 所在地番 として 土地 α の 表
示がされている。C は現在に至るまで土地αの賃料を A に支払い続けている。
平成 17 年〔2005 年〕8 月 15 日,B は土地 β を E に売却し,同月 22 日に代金全額の支払を受け,同日付で
所有権移転登記 が 行 われた。E は 土地β の 南側 に 隣接 する 土地γを 先代 から 相続 して 所有 している。土地
β の 境界等 をめぐって A・B・C 間 でとくに 問題 が 起 きたことはなく,E も 売買契約時 に B からそのよう
に説明を受けた。
平成 27 年〔2015 年〕8 月 20 日,E が建物を建築するために土地βを測量したところ,本件建物の一部が土
地β に 越境 して 建築 されていることが 判明 した。 そこで,同月 25 日,E は C に 対 して 本件越境部分 の 明渡
しを求めた。
【問い】
E の請求は認められるか。C が主張すると考えられる反論にも言及して,論じなさい。
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─5─
刑 法
〔問 題〕
以下の事例における甲,乙及び丙の罪責について論じなさい(特別法違反の点は除く)。
「××教団」 と 称 する 健康 セミナーを 主宰 する 甲 は,「病気 になっても,私 が『気』 を 注入 した『神水』
を飲んで養生すれば必ず治る」などと喧伝して,信奉者を集めていた。
平成 27 年 8 月 1 日,甲は,「××教団」の信奉者である A から,「老親 V が H 病院に入院したのですが,
甲先生 の 力 でもっと 早 く 治 してもらえませんか 」 という 相談 を 受 けた。甲 は,V が 罹患 している 重篤 な 疾
病の患者を診たことはなかったが,しばらく安静にさせれば大丈夫だろうと考え,「すぐに連れてきなさい」
と 指示 した。同月 2 日正午 ころ,A は,点滴 チューブを 外 すなどして V を H 病院 から 連 れ 出 し,甲宅 に 運
び込んだ。
V の 疾病 は,快復 のためには,点滴 による 投薬治療 を 継続 する 必要 があるもので,当時 の 病状 は,点滴
治療を中断して ① 24 時間が経過すると,生命の具体的危険が生じ,② 48 時間が経過するまでは,点滴治療
を 再開 すれば 確実 な 快復 が 見込 まれ,③ 48 時間 を 超 えて 点滴治療 を 再開 した 場合,快復 の 見込 みも 一定程
度 あるが 確実 ではなく, しかも 経過時間 に 応 じて 低下 し,④ 60 時間 を 超 えると, もはや 快復 は 不可能, と
いうものであった。H 病院 は 甲宅 のすぐ 近 くにあり,V が 再入院 すれば 直 ちに 点滴治療 を 再開 できる 体制
が整っていた。
8 月 2 日午後,A から V の 治療 を 委 ねられた 甲 は,V の 様子 を 見 て,安静 にさせるだけで 快復 するか 不
安 になった。 しかし,面子 を 気 にして,直 ちに 再入院 の 指示 はせず,A を 帰 した 後, かつて 看護師 をして
いた元妻乙を呼び出して診てもらうこととした。
8 月 3 日午後,甲宅 に 到着 した 乙 は,V の 容体 を 確認 した 上 で,「 すぐに 再入院 させないと 死 んでしまう
わ 」 と 忠告 し, 1 時間 ほど 滞在 した。 その 際,乙 は,甲 が 短時間席 を 外 している 間 に,
「×× 教団」 の 会員
とお 布施 の 金額 が 一覧 になった 内部資料,及 び,弱 みにつけこんで 多額 の 出損 を 迫 る 方法 を 記 した 幹部 マ
ニュアルを発見した。甲との離婚に際して十分な財産分与を得られなかったことに密かに不満を抱いていた
乙 は,上記内部資料 とマニュアルを 公開 して「× × 教団」 を 挫折 させることにより 甲 への 恨 みを 晴 らす 目
的で,それらを自分のかばんに入れ,持ち帰った。
乙 が 帰 った 後,甲 は,V を 再 び 入院 させるべきか,逡巡 したが, 8 月 3 日 の 夕方 には,「市販 の 薬 を 飲 ま
せるなどして, できる 限 り,死 なせないようにしよう。 もしダメなら,H 病院 で 有害 な 薬品 を 使用 された
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ことが 原因 ということにして,A を 言 いくるめよう 」 と 決意 し, ドラッグストアーで 購入 した 薬 を V に 飲
ませるなどした。
8 月 4 日正午 ころになっても,V の 容体 は 悪化 の 一途 であった。 そこで,同日夕方過 ぎ,甲 は V を 車 で
A 宅 に 運 んだ。 あいにく A は 4 日間 にわたる 出張中 であったたため,A の 妻丙 に 対 し,「病院 で 変 な 薬 を
使 われたせいで『神水』 が 効 かない。 あとは 君 たちの 責任 でやりなさい。入院 させれば,時間 はかかって
も,助かるかもしれない」と一方的に言い,V を丙に委ねて立ち去った。
丙 は,V が 入院 するまでは,A と 共 に V と 同居 し,介護 をしてきた 者 であった。 しかし,内心,介護 の
負担 にうんざりしていたため, このまま V を 死 なせようと 思 い,何 もせずに 放置 した。 8 月 5 日午前中,
V は,A 宅で,上記疾病により衰弱死した。
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