熱電変換セラミックス材料の研究開発 化学食品部 1.目 ○豊田 丈紫 北川 賀津一 的 現在,様々な産業分野で発生する熱エネルギーの多くは,未利用のまま廃熱として排出され ている。近年,エネルギー・地球環境問題への関心の高まりとともに産業分野からの廃熱の有 効利用が検討されており,熱電変換材料が注目されるようになってきている。熱電変換材料と は,ゼーベック効果やペルチェ効果を利用して熱エネルギーと電気エネルギーを直接変換する ことが可能な材料である。熱電変換の概念図を図1に示す。これを利用した熱電発電システムは, 小規模熱源からのエネルギー回収に有効な以下のような特徴がある。 (1)機械的稼動部を持たないために長寿命でメンテナンス性に優れる (2)システム作動のための外部電力を要せず,また無排出のためクリーンで低環境負荷である (3)スケール効果が無くシステム全体を小型・軽 加熱 量化できる しかしながら,既存の実用材料は資源的に希少 電極 TH な金属を接合して用いられている。これらは高温 での耐性に難があり,コスト増加の原因となって 吸熱 n型 p型 - + n型 p型 - + TC 温度差 TH -TC TC TH いる。そこで,毒性や希少元素を含まず,高温大 気中で安定なセラミックス熱電変換材料の合成と 電位差 その特性評価を行い,p-n接合によるモジュールを (ゼーベック効果) (ペルチェ効果) 試作して発電性能の評価を行った。 2.内 2.1 容 図1 ゼーベック効果とペルチェ効果の概念図 熱電材料の合成と物性評価 本 研 究 開 発 で は , 熱 電 変 換 磁 性 体 セ ラ ミ ッ ク ス と し て 以 下 の p型 お よ び n型 材 料 に 注 目 し た 。 す な わ ち , Na x CoO 2 の p 型 材 料 と Ca x La ( 1 - x ) MnO 3 の n 型 材 料 で あ る 。 Na x CoO 2 の 合 成 に は Na 2 CO 3 と Co 3 O 4 を 出 発 原 料 と し た 。 Na x CoO 2 の 分 解 温 度 以 下 の 830℃ で 1時 間 仮 焼 成 し , 850℃ で 10時 間 本 焼 成 し た 。 Ca x La (1 - x ) MnO 3 は CaCO 3 と La 2 O 3 お よ び MnO 2 を 出 発 原 料 と し , 800℃ で 1時 間 仮 焼 成 し た 後 1200℃ で 10時 間 本 焼 成 し た 。 得 ら れ た 試 料 は , 粉 末 X線 回 折 装 置 に よ り 結 晶 構 造 を 評 価 し た 。 2.2 熱電素子の試作と評価 p型半導体とn型半導体の接合によるセラミックス熱電モジュールには,NaxCoO2(x=0.75)をp 型素子として,またCaxLa(1-x)MnO3(x=0.9)をn型素子として用いた。それぞれの焼結体を機械加 工にてペレットにし,両端に銀ペーストを塗布し焼付けることで電極を作成した。これらの素 子をアルミナ基板上に交互に配置して白金線にて結線することで熱電発電モジュールを作製し た。作製したモジュールは12対で構成されており,発電効果の測定ではアルミナ基板側を加熱 し,低温側には特別な冷却機構は設けずに空冷とした。図2に試作した熱電発電モジュールと熱 電発電性能の評価回路を示す。このときの外部抵抗は1Ωとした。モジュールの温度差は,アル ミナ基板上と素子の上部の温度をデジタル温度計にて測定して求めた。 外部抵抗(1Ω) 電圧計 モジュール ホットプレート 図2 3.結 試作した熱電発電モジュール(左)と熱電発電評価の概観図(右) 果 Na x CoO 2 の 粉 末 X線 回 折 測 定 か ら , Na x CoO 2 (x<0.7)で は γ -Na x CoO 2 と Co 3 O 4 の 二 相 に よ り 構 成 さ れ る こ と が 分 か っ た 。 図 3に Na 0 . 5 CoO 2 の リ ー ト ベ ル ト 解 析 結 果 を 示 す 。 解 析 の 結 果 , x=0.5の 場 合 の 混 合 比 は γ -Na x CoO 2 : Co 3 O 4 = 93:7で あ っ た 。 一 方 , x が 0.7以 上 の 場 合 , 回 折 ピ ー ク は す べ て γ -Na x CoO 2 に て 精 密 化 で き た 。 Na x CoO 2 は x の 値 や 焼 成 条 件 に よ り 4種 類 の 結 晶 系 を 有 し , γ -Na x CoO 2 が 最 も 高 い 熱 電 性 能 を 示 す こ と が 知 ら れ て い る 。 よ っ て 本 合 成 条 件 に て γ -Na x CoO 2 の 単 相 試 料 が 得 ら れ る 範 囲 は Na x CoO 2 (x=0.7∼ 0.8)で あ る こ と が わ か っ た 。 一 方 , Ca x La ( 1 - x ) MnO 3 は す べ て の 組成で指数付けできることから,本合成条件にて単相試料が得られることがわかっ た。 次に熱電素子の発電効果を測定するために,モジュールをホットプレートにて加 熱 し た 場 合 (ケ ー ス 1)と 電 熱 コ ン ロ で 加 熱 し た 場 合 (ケ ー ス 2)に つ い て 外 部 抵 抗 の 両 端 に お け る 電 圧 を 測 定 し て 出 力 を 求 め た 。 測 定 条 件 と 熱 起 電 力 の 測 定 結 果 を 表 1に 示 す 。 200℃ 以 下 の 温 度 域 か ら 発 電 が 観 察 さ れ , ア ル ミ ナ 基 板 の 温 度 T H = 364℃ (温 度 差 T Δ = 140℃ )で 電 圧 お よ び 出 力 は そ れ ぞ れ 29.8mV, 7.29mWで あ っ た 。 既 存 の 金 属 性 の 熱 電 モ ジ ュ ー ル で は 200℃ 付 近 が 使 用 限 界 温 度 域 で あ り , 通 常 は 冷 却 機 構 をモジュールに設計して運転する必要がある。今回,高温域においてもセラミック ス材料によるモジュールの出力は安定しており,セラミックス熱電材料が高温大気 中での発電素子として有効であることが確認された。 表1 回折強度 / cps×103 15 熱電素子の起電力と測定条件 観測値 計算値 10 5 ケース1 ケース2 基板温度(℃) 192 364 温度差(℃) 103 140 起電力(mV) 2.5 29.8 発電能(mW) 0.06 7.29 0 20 40 60 80 100 120 2θ (°)/ Cu Kα 図3 Na x CoO 2 (x=0.5)の リ ー ト ベ ル ト 解 析 結 果
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