「ひろだい白神レーダー開設記念シンポジウム―津軽の空を見守る新しい眼―」 プログラム 日時:平成26年9月27日(土)14:00 ~ 9月28日(日)12:00 場所:弘前大学創立60周年記念会館 コラボ弘大 8階 八甲田ホール 1日目 (14:00~17:00) 開場(13:30) 1.開会(14:00) 2.主催者挨拶 3.後援者挨拶 理工学研究科 白神自然環境研究所長 檜垣大助 自然防災研究センター長 有賀義明 4.趣旨説明・日本の気象レーダー観測の動向 理工学研究科 寒地気象実験室長 児玉安正 5.基調講演 「豊かな水が育む白神山地のブナ林生態系とその将来」 白神自然環境研究所 教授 「弘前大学レーダーへの期待 石川幸男 ― X バンドドップラーレーダーで何が見えるか― 」 気象庁気象研究所気象衛星・観測システム研究部 第四研究室長 楠研一(招待) 「レーダーを通して見える気象の世界 ―国内外での観測より― 琉球大学理学部物質地球科学科(地学系) 」 准教授 山田広幸(招待) 「白神山地における水・物質循環」 農学生命科学部 教授 6.懇親会 (弘前大学生協 スコーラム 工藤明 会費3000円) 2日目 (9:30~12:00) 1.講演 「平成 25 年台風 18 号豪雨に伴う岩木川の出水状況と治水事業効果について」 樋川 満 (国土交通省 青森河川国道事務所 調査第一課) 「2013 年 8 月 9 日の秋田・岩手県の大雨」 1) 津口裕茂・1) 2)廣川康隆・1)加藤輝之(1: 気象庁気象研究所、2: 気象庁仙台管区気象台) (代理発表: 児玉安正(弘前大学 大学院理工学研究科)) 「大雪災害の事例報告について」 三浦直美 1 (弘前市経営戦略部防災安全課) 「白神山地の降雨・融雪・地震による地すべり」 檜垣大助(弘前大学白神自然環境研究所) 「ひろだい白神レーダー画像の公開システム」 1) 田邊真輝・2)丹波澄雄・2)児玉安正( 1: 弘前大学理工学部、2: 弘前大学大学院理工学 研究科) 2.総合討論 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------【参考資料1】基調講演要旨 「豊かな水が育む白神山地のブナ林生態系とその将来」 弘前大学白神自然環境研究所 教授 石川幸男 【概要】 白神山地に広がるブナ林生態系は日本海側気候の豊かな降水、降雪に支えられており、種 としてのブナは、最深積雪が4mを超えると他種を圧倒して生育し、ブナ純林が形成される。 その一方で、攪乱が頻発するためにブナ林が分布できない河畔では、サワグルミ林を主体と して、その他の各種草本群落も分布する。また、日本海に直面している白神岳周辺の稜線上 には、標高的にはブナ林分布域であるにも関わらずブナが生育せず、ニッコウキスゲやイブ キトラノオ等からなる特徴的な高茎草本群落が分布しており、こうした諸群落の分布にも水 のありようが関わっている。 これらの群落とこれを構成する種の分布は、グローバルな温暖化とそれにともなう水環境 の変化によって急変が危惧される。白神は、ユネスコから世界自然遺産としてこうした変化 のモニタリングを求められていることから、気候変動とそれに伴う生態系各パートのモニタ リングには国際的にも重要な意味がある。 「弘前大学レーダーへの期待 -Xバンドドップラーレーダーで何が見えるか-」 気象庁気象研究所気象衛星・観測システム研究部 第四研究室長 楠研一 【概要】 弘前大学レーダーは、青森周辺における降水や気流の様相を広く捉えることのできる新た な観測の基盤である。観測される領域一帯は、海洋、低地、台地、丘陵、山地の変化に富ん だ地形を有しており、ユネスコ世界遺産に登録された白神山地も含まれている。研究用の気 象レーダーによる、青森周辺の本格的なレーダー気象観測の幕開けということができ、今ま で知られていなかったこの地域の興味深い降水現象の様相を詳細に捉えることが期待され る。 気象研究所は、弘前大学レーダーとほぼ同じ性能を持つXバンドドップラーレーダーで多 くのフィールド観測を行なってきた。本講演では、群馬県や新潟県で観測された山岳周辺の 気流構造や降水の様相、山形県庄内平野で観測された竜巻の事例を紹介する。それらの経験 を踏まえ、特に岩木山周辺の3次元気流や津軽平野上の竜巻など、弘前大学レーダーの観測 が予想されるいくつかの現象について述べ、最後に弘前大学レーダーにより期待される気象 2 学の発展についても触れる。 「レーダーを通して見える気象の世界 ―国内外での観測より―」 琉球大学理学部物質地球科学科(地学系) 准教授 山田広幸 【概要】 気象レーダーは、降水粒子がマイクロ波を散乱する性質を利用して、雲の内部構造を観測 することができる、いわば「雲をつかむ」装置である。雨が降り視界がきかない状況でも、 雨雲の形態や発達の様子、そして竜巻や突風などの発生を的確に捉えることができる。講演 者は弘前大学を卒業してから約20年の間、国内外で実施された観測プロジェクトに参加し、 気象レーダーの運用を行ってきた。本講演ではこれまでに観測した雨雲のデータ解析結果を もとに、レーダーを通して見える大気現象について紹介する。具体的には、中国の長江下流 域で捉えた梅雨前線上の降水システム、標高4,500メートルのチベット高原で発達する積乱 雲、熱帯のパラオで観測した台風発生時の積乱雲群、そして南西諸島で集中豪雨をもたらす 雨雲について、その構造や発達の様子について述べる。これらの話題において、レーダーの ドップラー速度で風を推定するためのいくつかの手法についても解説する。津軽から遠く離 れた地の雨雲の紹介ではあるが、レーダーを使っていかに雨雲を捉えるかという点におい て、ひろだい白神レーダーの運用の参考になれば幸いである。 「白神山地における水・物質循環」 弘前大学農学生命科学部 教授 工藤 明 【概要】 河川取水量の最大利用分野である農業用水において、河川最上流部にある森林は良質な農 業用水の安定的な供給などに資する重要な役割を果たしているといわれているが、樹木の光 合成による地球温暖化防止効果と共に、「水資源貯留効果」や「水質浄化機能」など多面的 機能に関する詳細な観測・調査が必要である。 本報告は、ブナ原生林主体の世界自然遺産白神山地の東斜面(岩木川流域)に位置する暗 門川流域とそれに隣接する大割沢流域で測定した流量、水質データを基にして、白神山地の 水・物質循環、さらに下流河川に与える影響について検討したものである。 平常時では「水を育む森林地帯」と言われるように、森林地帯は下流河川環境に大きな恵 みを与えてきた。しかし、今日の大水害に見られるように、降雨時には土砂崩壊や多量の濁 水が下流河川に大きな被害をもたらす災害も多発している。この詳細なメカニズムを解明 し、出水時の白神モデルを作成するためには、正確な水文データを必要とするため、今回弘 前大学に設置されたXバンドドップラーレーダーに対する期待は大きい。 【参考資料2】一般講演要旨 「平成 25 年台風 18 号豪雨に伴う岩木川の出水状況と治水事業効果について」 樋川 満 (国土交通省 青森河川国道事務所 調査第一課) 【要旨】 3 平成 25 年 9 月 16 日~ 17 日にかけて台風 18 号による大雨は青森県内の各地に大規模な気 象災害をもたらし、岩木川では既往最高水位を記録するなど大規模な出水となった。この台 風による降雨の特徴は、五所川原上流域に総雨量 120mm 以上が満遍なく降り、深山沢雨量 観測所では降雨ピーク前後 3 時間で総雨量の 50%以上を占める集中的な豪雨であった。ま た、水位の特徴として幡龍橋水位観測所では、16 日 16 時~ 17 時の1時間に 1.65m の水位 上昇があり、水位上昇速度も既往最大であった。この出水により上中畑地区と三世寺地区の 2地区(いずれも弘前市)の無堤部より浸水し家屋等の浸水被害が生じた。一方、この浸水 被害があった対岸に位置する板柳堤防(板柳町)は、平成 25 年 3 月に完成しており、約 5,300ha、約 6,800 戸の浸水を防いだと推定される。 また、現在、国土交通省が行っている「防災・減災へ向けた取り組み」について紹介する。 「2013 年 8 月 9 日の秋田・岩手県の大雨 - 下層暖湿気塊の維持過程について -」 1) 津口裕茂・1)2)廣川康隆・1)加藤輝之 (1:気象研究所,2:仙台管区気象台) (代理発表 児玉安正 弘前大学大学院理工学研究科) 【要旨】 2013 年 8 月 9 日に秋田・岩手県で記録的な大雨が発生した.本事例と同程度の大雨 (350mm/6h)は,1995-2013 年;4-11 月の期間に同地域では 2 事例(本事例を含む)しかなく, 非常に稀な現象であった.本研究では,大雨発生の主要因の一つである大気下層の暖湿気塊 に着目して解析を行った.メソ客観解析を用いた後方流跡線解析から,前日に朝鮮半島南端 にあった相当温位 355K 以上の暖湿気塊が,日本海上を北東進して東北地方北部に到達して いたことがわかった.また,JRA-55 による統計解析から,相当温位 355K を超える暖湿気 塊が東北地方北部まで到達することは非常に稀であることが明らかとなった.気象庁非静力 学モデル(JMA-NHM)による数値実験の結果から,暖湿気塊の維持には平年よりも約 2 度 高かった日本海の海面水温が影響していたことがわかった. 「大雪災害の事例報告について」 三浦直美 (弘前市経営戦略部防災安全課) 【要旨】 「白神山地の降雨・融雪・地震による地すべり」 檜垣大助(弘前大学白神自然環境研究所) 【要旨】 「ひろだい白神レーダー画像の公開システム」 1) 田邊真輝・2)丹波澄雄・2)3)児玉安正(1:弘前大学理工学部、2:弘前大学大学院理工学研 究科、3:弘前大学大学院理工学研究科寒地気象実験室) 【要旨】 2014 年3月 19 日に弘前大学理工学部2号館屋上に設置され稼働を始めたXバンド気象 レーダー「ひろだい白神レーダー」による観測データから、雨雲の反射強度と雨雲の動きの 画像を観測後約1分遅れで作り、2分間隔で公開するシステムを作成している。本システム はレーダー受信系、レーダーデータ処理系、ウエッブ公開系から構成される。レーダーデー 4 タ処理系では雨雲の反射強度の空間分布画像と雨雲の移動する速さの空間分布画像を作成 する。画像は段彩陰影地図の上にオーバーレイされ、さらに主要地名、主要道路、鉄道など 位置の判別が容易になる情報もオーバーレイされる。作成された画像を日毎に蓄積し、翌日 になると前日の全ての画像を用いて1日分の動画の作成を行う。ウエッブ公開では最新の画 像と共に過去6時間の画像の動画も閲覧できるが、過去の1日動画の閲覧も可能である。 この様に本システムでは一般の利用者のためのリアルタイム性の高いレーダーデータ画 像の提供が可能であり、また過去データの蓄積公開により研究者のためのデータ利用にも供 することができる。今後はスマートフォンによる閲覧に対応させること、蓄積データのデー タベース化を進める予定である。 5
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