● 診療所だより 日本クラブ診療所 2014年6月 気になるステロイド外用剤の危険性 でも具体的には何がご心配ですか? ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎を含めた湿疹の治療に欠かすことの出来ない薬で、新しい 薬ではありませんが、現代でもその実用性においてこれを凌ぐ薬は無く、湿疹の治療において不 動の主役を務めています。多くの方が懸念する安全性においても適切に使用している限り心配な いのですが、残念なことに今でもステロイド外用薬の使用に強い抵抗感を持っている方が少なく ありません。私の外来でもステロイド外用薬を使用しましょうと提案すると急に不安そうになる 親御さんがたくさんいらっしゃいます。具体的に何がご心配ですか?と尋ねてみると「ステロイ ド は 怖 い と 聞 い た 」、「 身 近 な 人 が ス テ ロ イ ド は よ く な い と い っ て い た 」 と い う 何 と な く 漠 然 と し た 恐 怖 感 を 持 っ て い る だ け の 方 も 少 な く な い 一 方 、「 ス テ ロ イ ド は 一 度 始 め た ら や め ら れ な く な る 」、「 肌 の 色 が 黒 く な る 」 な ど と い っ た よ り 具 体 的 な 不 安 を お 持 ち の 方 も い ら っ し ゃ い ま す 。 今回はステロイド外用薬にまつわる誤解を解き正しい使い方を紹介していきたいと思います。 ■ ステロイドとは ステロイドは副腎皮質ホルモンとも呼ばれるように、腎臓の ■ ステロイド外用薬に対する2つの大きな誤解 誤解① ステロイドは一度始めたらやめられない 上にある副腎という組織から分泌される糖質コルチコイドと同 多くの場合、特にアトピー性皮膚炎などの慢性疾患では、ス 様の効果を持つ合成薬品の総称で、強い抗炎症作用があり、非 テロイドは炎症を抑えますが、体質そのものを改善しているわ 常に多くの病態に有効性が認められています。投与方法により けではないので、ステロイドを中止すると再び皮膚に炎症が起 内服や点滴などで行う全身投与と、塗布、点鼻、点眼などの局 きてくるものです。そのためステロイドを塗る→良くなる→ス 所投与に分けられますが、全身投与では易感染性、糖尿病、高 テロイドを中止する→再燃する→再びステロイドを塗るという 血圧などをはじめ多くの副作用に対する注意が必要です。一方、 サイクルを繰り返すことになるわけですが、これはステロイド 局所投与では、皮膚や粘膜から吸収される量が全身投与に比べ の副作用ではありません。持っている体質によるものです。こ て極端に少ないため、後述するような局所的な副作用が見られ の体質は小児の場合は成長に伴って改善し、いずれ治っていく ることもありますが、全身投与のような大きな合併症の心配は ことも多いのですが、残念なことにそれを促進するような治療 まずありません。 は今のところありません。体質が変わるのを期待して待つほか ■ ステロイド外用薬批判のきっかけ 無いのですが 、ここに ところでステロイドに悪い評判が付きまとうのはなぜでしょ もどかしさや焦りを感 これはインターネットで調べてみるとすぐわかります じてステロイドは意味 が、1992年の人気ニュース番組のステロイドを批判した報道 が無いと考える方もい 特集がきっかけとなり一気にステロイドに対する社会不安に火 らっしゃいます。しか がついたようです。20年以上前の報道なので仕方ないことと し繰り返しステロイド はいえ、キャスターのみならず専門家の意見にも現在の医師の 外用薬による治療を 常識から見れば適切でない部分があり、さらにその後の報道の 行っていくことは皮膚 中で派生した「ステロイドは悪魔の薬」というキャッチフレー の状態を安定させ炎症 ズが生まれ、これがそれ以来続くステロイド外用薬に対する誤 を起こしにくくするた 解の源になったのだとすると残念でなりません。実際今でも特 め、ステロイド外用薬 安藤 達也 先生 にインターネット上には、いろいろなステロイド批判や脱ステ の使用量や頻度、強度 ロイドの体験記などが溢れていますが、もっとも多くの人々が を徐々に減らしていく 具体的に心配しているのは冒頭に挙げた2点のようです。 ことが期待できますし、 日本小児科学会専門医 日本小児循環器学会専門医 自らも8歳と5歳の2男児の父であり 心臓疾患などの高度医療経験が豊富で 日英医療事情の違いにも精通している とても頼りになる小児専門医である うか? (次ページへつづく) 北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected] 南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected] URL: nipponclub.co.uk/clinic ● 診療所だより 日本クラブ診療所 2014年6月 そもそも体質を治すことは出来なくても日々の痒みから開放さ 例外的に、ステロイドは原因によらず炎症を抑える効果があ れることは、ひどい咳に咳止めを飲む、頭痛や発熱に解熱鎮痛 りますので、たとえ感染症が原因であっても感染によって起き 薬を飲むのと同様に充分効果がある治療(対症療法)と言えるで ている炎症を抑えることでステロイドが使い初めには有効であ しょう。もちろん接触性皮膚炎などの一過性の刺激による皮膚 ることがあるため、このような効果を期待して感染症に対して 炎に使用しても、それが慢性湿疹化の原因になることは決して 抗菌薬などとともにステロイド外用薬を併用することもありま ありません。乳児湿疹にステロイドを使っていて、その後アト すが、そのような場合もいつまでもそのままステロイド外用薬 ピー性皮膚炎に移行した場合も、それはもともと持っていた体 を使い続けると局所の免疫が低下してある程度以上良くならな 質が時期が来て出てきたということであり、ステロイドの使用 い、または塗っているのに悪化してくるなどという事態になり とはまったく無関係なのです。 ますので、きちんとした経過観察が必要になります。 ■ ステロイド外用薬に対する2つの大きな誤解 ■ ステロイドの塗り方 誤解② ステロイドを塗ると皮膚が黒くなる 極論を言えば皮膚の状況に応じた強さのステロイド外用薬を これは炎症が原因で起きる色素沈着をステロイドの副作用と 症状がよくなっている限り塗り続けていても問題ないと言って 誤解したものです。特に既に炎症が長引いて色素沈着を起こし もいいかもしれませんが、現実的には1週間塗っても充分良く ている赤黒い皮膚にステロイドを塗ると急速に炎症がおさまり ならない、2週間塗っても良くなりきらない場合には、ステロ ます。そして赤みが取れると一気に黒さが目立ちステロイドで イドの強さが足りていない可能性や方針が間違っている可能性 黒くなったと誤解されるのです。実際は副作用どころかステロ もあります。一度受診して再評価を受けることが必要でしょう。 イドは炎症を抑えることでむしろこうした色素沈着を予防する また、充分な強度のステロイドであっても、ステロイドが心 方向に働きます。特に痒みが強く、掻き壊すとより色素沈着が 配だからと、あまりに薄く延ばし過ぎては期待した効果は得ら 起こりやすくなりますので、そうした湿疹にはしっかりとステ れません。ステロイド外用薬の塗り方は、軟膏は大人の人差し ロイドを塗って早めに炎症を抑える必要があります。 指先端から第一関節までの長さを押し出した量(約0.5g)を大人 ■ 本当のステロイド外用薬の副作用 ステロイド外用薬に副作用が無いわけではありません。具体 的には、①毛が濃くなりうぶ毛が目立つ、②毛細血管が拡張し 赤く目立つ、③ニキビができやすくなる、④皮膚が薄くなる、 の手のひら2枚分くらいに塗るのが適量とされています。実際 にこうすると、少々ベタベタ、テカテカするのが普通で、サラ サラとしているようでは少なすぎです。 ■ 最後に などの副作用がありますが、これらは基本的に症状のコント 外来でも稀に非常に状態の悪いアトピーのお子さんを拝見す ロールが良くなって使用量が減ったり間隔が空くことで症状が ることがありますが、食物アレルギーが関与した乳児の全身に 回復するものですし、適切な使用法を守っていれば実際大きな 広がる重症例などを除き、ステロイド外用薬をきちんと使えば 問題が起きることはまず無いはずです。 そのような状態を我慢する必要は無いはずです。また、ごく弱 ■ 皮膚感染症 ただ唯一、日常的にも気をつけるべきことは皮膚感染症です。 これには一部のおむつかぶれに見られるカビ(カンジダ)感染、 掻き壊して広がっていく皮膚の細菌感染(トビヒ)、さらに水い ぼウイルスやヘルペスなどのウイルス感染などがありますが、 ステロイドをこういったものに使うと良くならず、さらに使い 続けると悪化させる危険性があるのです。 ◆◇ 北診療所「婦人科検診」 のお知らせ ◇◆ 担当:デルフィン医師 専門:産婦人科 い炎症であれば保湿剤程度でも回復に向かう可能性があります が、あちこち掻き壊した痕があるような場合は掻き壊しそのも のが増悪因子となって悪循環になり、保湿剤だけで良くなる見 込みは低いのでステロイドの塗り時と判断すべきでしょう。早 めに塗れば早めに回復し、結局悪くなってから長く使うよりス テロイドの使用量も減らすことができます。ステロイド外用薬 は適切に使用すればこれほど役に立つ薬はありません。決して 悪魔の薬では無いのです。 ◆◇ 北診療所「内視鏡検査」のお知らせ ◇◆ 担当:小田木医師 専門:消化器内科・内視鏡 火曜日(09:30~13:00) 木曜日(14:15~15:00) 月曜日(11:00~13:00) 水曜日(11:30~15:00) お気軽にお問合せください お気軽にお問合せください 北診療所 TEL: 020 7266 1121 Email: [email protected] 南診療所 TEL: 020 8971 8008 Email: [email protected] URL: nipponclub.co.uk/clinic
© Copyright 2024 Paperzz