日本工業大学 第 45巻 第 2号 (平成27年9月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, №2(September, 2015) 教育・研究活動報 告 ペットボトルリサイクルのためのプラスチック分別システムの開発† 池添 泰弘* 濱崎 祐介* 畑澤 雅徳* 藤田 裕嗣* 箭竹 竜一* 湯澤 凌* (2015 年 06 月 15 日受理) Development of a plastic separation system for PET bottle recycling Yasuhiro Ikezoe, Yusuke Hamazaki, Masanori Hatazawa, Yuji Fujita, Ryuichi Yatake, and Ryo Yuzawa (Received June 15, 2015) PET bottles have been widely used as beverage bottles, and currently most of the bottles are recycled. Since the main components of a PET bottle, i.e., the cap, the label film, and the main body, are made of different plastics materials such as polypropylene (PP), polystyrene (PS), and polyethylene terephthalate (PET), they must be pre-separated before they are recycled. While some plastics separation systems, including sequential wet and dry separation instrument like a sinkfloat separation tank combined with a dry air classifier, have been developed so far, they usually require a huge space because multiple instruments are operated for a series of plastics separation. Here we report a simple and single-stream type plastics separation device equipped with several small permanent magnets. This method is based on magnetoArchimedes levitation technique which enables materials to be separated by the difference of their diamagnetic susceptibility and density. Our lab-scale experimental results clearly showed that the mixture of plastics pellets containing PP, PS, and PET are spatially separated by the material. We expect our method is scalable for the practical use by optimizing alignment of the magnets and flow speed of the moving suspension. 上の例では、PP は水より軽く、比重選別により分けられ、 はじめに 1 残りのものは乾燥させたのちに、風力選別によって分けら ペット(PET)ボトルは、丈夫で軽くて透明なプラスチ れる。結果的に、複数の分離装置と複雑な運搬経路を有す ック材料として、飲料品をはじめ、さまざまな製品の容器 る巨大な分離施設を必要とすることになる。今回、我々は として利用されている。また、最もリサイクルが進んでい 磁石を使ったシングルストリームタイプのシンプルな分離 る製品でもある。ペットボトルは主に、キャップ、ラベル 方法を開発した。ここでは、廃プラスチックを複数の分離 用のフィルム、本体、の3つの部分から構成されているが、 装置を通すことなく一つの装置を通すだけで分離すること たとえば、キャップにはポリプロピレン(PP)、ラベルには が可能である。 ポリスチレン(PS)、本体にはペット(PET)のように、そ れぞれ異なるプラスチック材料が用いられることが多い。 2 研究結果 したがって、ペットボトルのリサイクルのためには回収後 にそれぞれの材料ごとに分別しなければならない。 現在は、 2.1 プラスチック分離手法の原理 風力選別と比重選別を組み合わせたような、複数の手法を 今回用いた分離手法の原理は、これまでに我々が開発し 取り入れた選別手法が主である。風力選別には風を送る空 てきた磁気アルキメデス分離法 1)を基本としている。この 間が必要であり、比重選別には水面に浮く物質とそうでな 分離方法は、複数種類の物質を一つの磁石を使って磁気浮 い物体を効率よく分けるために、比較的大きな水槽を使っ 上させたときに、物体の密度と磁性の違いにより磁気浮上 て水面の表面積を大きくして分離効率を高める必要がある。 の位置が異なるという原理を応用したもので、 過去にも様々 _____________________________________________________________________________________________________________________________________________________ な研究例が報告されている 2-4)。通常は、磁場を用いた分離 法は、磁石に強く引かれる鉄などの強磁性体にのみ有効で 本研究は、本学「平成 26 年度環境分野研究奨励助成金」に よるものである。 * 創造システム工学科 † ある。なぜなら、強磁性体以外の弱磁性体(たとえば常磁 29 日本工業大学 第 45巻 第 2号 (平成27年9月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, №2(September, 2015) 性体や反磁性体)が磁場に反応するときの力は、重力と比 どちらの磁石の反発力にもあまり影響を受けなかった PET 較して何千倍、または何万倍も小さく、磁気分離には応用 が底までたどり着くという仕組みである。 できないと考えられていたからである。実際、身近に手に 入る磁石では、常磁性体や反磁性体に対する磁場の力を目 にすることはほぼ不可能である。ペットボトル分離対象と なっている主要なプラスチック材料は反磁性体(磁化率が わずかに負)であるが、表 1 に、それぞれの物質の密度と 磁化率を示した。 表 1.プラスチック材料の密度と磁化率 密度[g/cm3] 磁化率[-] PP 0.90 -1.08x10-4 PS 1.05 -1.04 x 10-4 PET 1.38 -1.09 x 10-4 反磁性体は磁石からわずかに反発力を受ける。通常の環 境ではバックグラウンドに重力があるため、その反発力が 観察されることは無く、 磁場で分離するのも不可能である。 しかし、磁石に引かれるような常磁性の液体(この研究で は塩化マンガンを含むエタノール)の中にプラスチックを 入れると、プラスチックの物体は周囲の液体と比べて相対 的に強い反磁性体ということになり、磁石による反発力が 観測されるようになる。これは、水中では石が軽く感じる のと全く同じ原理で、浮力の原理として知られている。紀 元前から「アルキメデスの原理」という名前でも知られて いるが、同じ原理が磁場でも成り立ち、我々はこれを磁気 アルキメデス原理と命名した。今回の分離方法はこの原理 に基づいている。 2.2 分離装置の概要 図 1 は分離装置の模式図である。ここでは、実験室用の 小規模の装置を示した。この装置は、奥行きが非常に薄い (2 ㎜)アクリル製の容器で、外から中が見えるようにな っている。磁石 1、磁石 2 には、それぞれ手前側と反対側 に磁石が付けられているが、磁極の軸が紙面に垂直な方向 図 1.磁石による PET 破砕片の分離装置模式図 で、且つ容器を挟んでお互いの磁石がひきつけあうような 配置になっている。容器を塩化マンガンのエタノール溶液 で満たし、上から PET ボトルの破砕片を投入すると、破砕 2.3 分離用の常磁性媒体の調整 片が沈降し始める。このプラスチック片は、途中にある磁 純水や有機溶媒は反磁性なので、常磁性の液体を作るた 石によって反発力を受けて、向かい合った磁石の隙間を通 めには、 溶媒中に常磁性の金属イオンを溶かす必要がある。 り抜けられない材質のものは、右斜め下に流れていき、分 また、同じ濃度でも単位重さ当たりの磁気モーメント(重 離される仕組みになっている。ここでは、PET の代表的な 量磁化率)がより大きい物質を用いるほうが、媒体の全体 材料として PP, PS, PET を例に分離の順序を示した。四角 の常磁性が強くなり、その結果、分離される物質の相対的 を PP、丸を PS、三角を PET で表している。ここでは、磁 な反磁性の度合いも大きくなるので、より大きな分離効果 石2よりも磁石1の磁力の方が弱い。そのおかげで、最初 が期待できる。強い常磁性液体を作るには、一つの原子の に、PP だけが分離され、次に、磁石2で PS が分離され、 中に同じ向きのスピンを持つ電子をたくさん持つ元素を含 む液体を調整すればよい。Pauli の排他律に基づき、d 軌道 30 日本工業大学 第 45巻 第 2号 (平成27年9月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, №2(September, 2015) や f 軌道の縮退した電子軌道には同じ向きのスピンを持つ じみは非常によい。また、気泡がプラスチック表面に付く 電子が入るが、中でも最外殻電子として、3d 軌道や 4f 軌 ことも無く、プラスチック片を溶媒中に容易に分散させる 道に電子を持つ遷移金属のうち、周期表の中央付近にある ことが出来る。現実のシステムでは、様々な形のプラスチ 元素は、不対電子が多く重量磁化率も大きい。今回は、Mn2+ ック片が混在することが予想され、気泡が付きやすいもの イオンの常磁性を利用して常磁性媒体を作った。図 2 は、 も含まれると思うが、エタノールを使うことによって、そ 塩化マンガン 3 水和物のエタノール溶液の密度を表してい の心配が無くなり、分離の際のエラーも小さくなると予想 る。密度は、密度計(京都電子工業株式会社製 DA-130N) される。 を用いて測定した。溶媒として水を用いると、純水の密度 がおよそ 1 g/cm3 であるので、塩化マンガンのような常磁 性塩を溶かした場合、密度はさらに高くなる。プラスチッ クの密度は水の密度と大体同じで、 ほとんどが 1~1.3 g/cm3 程度の密度を持っている。これは、濃い常磁性塩水溶液を 常磁性媒体として利用してプラスチック分離を試みた場合、 多くのプラスチックが水に浮いてしまうことを意味する。 今回扱った PP, PS, PET の 3 種類のプラスチックの分離だ けであれば、PP が水に浮くだけである。残りの PS と PET は水に浮かないので、水溶液中で磁気分離により分離可能 である。将来的により多くの種類のプラスチックを分別す ることも考慮すると、複数の物質が溶媒に浮いてしまうの は都合が悪い。なぜなら、浮いてしまったプラスチックは、 その後、違う原理を用いた分離方法で分離しなければなら なくなり、システムが複雑になるからである。したがって、 すべてを磁場によって分離できるようなシステムを考える べきである。そのためには、全てのプラスチックが溶液表 図 2.塩化マンガン 3 水和物のエタノール溶液の密度 面に浮いてこないような条件を満たす溶媒を用いる必要が ある。今回、溶媒としてエタノールを用いたが、濃度 150 2.3 g/L のかなり濃い塩化マンガン 3 水和物のエタノール溶液 磁気分離の実験結果 でも、PP の密度(0.9 g/cm3)よりも小さい。PP はプラスチ 図 3 は、3 種類のプラスチックを分離した後の写真であ ックの中でも最も密度が低い物質の一つである。したがっ る。塩化マンガンのエタノール溶液中で、上方から、1 ㎜程 て、これより薄い濃度の溶液を用いれば、ほぼ全てのプラ 度の大きさの 3 種類のプラスチック片の混合物を重力によ スチックは溶液中に沈むことになる。今回の実験では、0.875 ってのみ沈降させ、途中にある Nd-Fe-B 系の永久磁石(幅 g/cm3 の塩化マンガンのエタノール溶液を調整し、分離用 40 mmx高さ 10 mmx奥行 5 ㎜、最大磁場 0.3 T)を用い の常磁性媒体として用いた。 て磁気分離を行った。図 1 では、磁石で液体を挟むような エタノールを使うことは、溶液の密度を小さくすること システムになっているが、この実験では、用いた磁石の磁 以外に、プラスチック材料と溶媒との濡れ性を向上させる 場強度が強かったため、最初の(一番上の)磁気分離のと 効果もある。通常、水溶液の表面張力は大きいので、プラ ころで用いた磁石は片面だけにした。図 3 では、裏面に張 スチック片を水溶液に分散させようとした場合、プラスチ ってある状態の写真を示している。2 番目の磁気分離のと ックと水溶液がうまくなじまず、小さな気泡がプラスチッ ころでは、同じ磁石を手前と奥に一つずつ使って液体を挟 クの表面に付いてしまい、密度差だけで考えれば、沈むべ む形に配置した。実験の結果、一番上の磁石で PP、次の磁 きプラスチック片が浮いてしまう、ということが起こり得 石で PS、PET は沈降、といった形で 3 種のプラスチック る。一度付いた気泡を取り除くのは困難で、超音波を印加 を分離することが出来た。 すれば取り除くことも可能であるが、今後実用化のために PET の小片は透明であるが、一番下の PET が溜まった より大きな分離システムを開発していくことを考えると、 ところに、白色のプラスチック片が混ざってしまっている 超音波の照射は現実的ではない。表面張力を下げるために のが分かる。これは一部の PP と PS が上方の分離の段階 は、界面活性剤を水溶液に入れるという方法もあるが、こ でうまく分離されずに下に落ちてしまったからである。こ の場合、水溶液が泡立ちやすくなってしまうので、気泡を のような結果となった原因としては、次のようなことが考 取り除く目的のために効果的かどうかは疑わしい。一方、 えられる。今回、磁気分離がなされるところで、多くのプ エタノールは有機溶媒の一種なので、プラスチックとのな ラスチック片が重なり合って詰まってしまうような現象が 31 日本工業大学 第 45巻 第 2号 (平成27年9月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, №2(September, 2015) 観察された。そこで、重なりを回避するために、容器に振 これを 100%にするために最も重要なことは磁場分布のシ 動を与える必要があったが、その振動によって、本来下に ミュレーションである。特定の磁石の配置に対する磁場分 落ちるはずの無い PS や PP が下に落ちてしまうのが観察 布を計算することで、分離の可否がすぐにわかる。また、 された。もう少し大きな容器や大きな磁石を使い、それと 分離可能という結果が出た場合でも、磁石の大きさには注 同時に分離するプラスチックの総量を少し減らせば、途中 意が必要である。磁石周囲の磁気分離に使用される空間の で詰まることも無くなり、容器に振動を与えずに分離でき 体積が非常に小さいと、理論的には分離可能だが、サイズ ると予想され、結果として分離の際のエラーも無くなり、 が大きい粒子は分離できない可能性があるためである。し 100%の分離が可能となると考えられる。 たがって、磁場分布の計算と、分離される物体の大きさの 相対的なサイズの関係に注意しながら計算結果を評価すべ きである。また、今回は、PP, PS, PET の 3 種類のみで試 しているが、本手法はその 3 つに限定されるものではなく、 他の材料にも応用できる。例えば、現在は物質の磁気浮上 ができる条件で分離しているが、磁気浮上とまではいかな くとも、磁気的な力を与えるだけでも、磁気分離は十分成 り立つ。たとえば、金属とプラスチックを分けることも可 能である。 本システムを実用化するには、サイズを大きくすること と、流れを作って分離速度を早くすることが必要である。 システムに流れを導入すると、粒子が磁石から受ける力よ りも流体に乗って移動することによる慣性の効果が大きく なり、流れの勢いで分離できないという状況が出てくるは ずである。したがって、流れがあっても分離できるシステ ムを開発する必要がある。現在、ポンプで流れを導入でき る分離装置を開発中であるが、これを用いて、流れの影響 を実験と理論の両面から評価し、どれくらいのスピードで 分離可能なのかを明らかにするつもりである。 4 まとめ 本研究では、常磁性の塩である塩化マンガンのエタノー ル溶液を調整し、永久磁石が組み込まれたアクリル容器の 中に満たし、上から PET ボトルの材料である PP, PS, PET の 3 種類のプラスチック片が混ざったものを導入したとこ ろ、これらが材料ごとに順番に取り除かれていくような分 離システムの開発に成功した。本装置は、一つの装置で複 数の物質を一度に分けることが出来るという利点がある。 また、導入エネルギーもほとんど必要とせず、騒音や振動 なども全く出ない環境に優しい分離装置である。今後は、 高速で分離できる装置を開発するために、磁場分布のシミ ュレーションも取り入れ、他の様々な材料にも応用できる ような磁気分離システムの開発を行っていきたい。 5 参考文献 図 3.PP, PS, PET の磁気分離 3 1)Y. Ikezoe, et al., Energ. Convers. Manage. 43 (2002) 41 7-425 2) Manza B. J. Atkinson, et al., Angew Chem, 125 (2012) 10398-10401 3)Matthew R. Lockett, et al., J Forensic Sci., 58 (2013) 4 0-45 4) Anand B. Subramaniam, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111 (2014) 12980-12985 今後の展開 今回、PET ボトルの材料である PP、PS、PET の 3 種類 のプラスチックを常磁性のエタノール溶液の中に分散させ て重力で沈降させ、途中に磁石を配置しておけば分離でき ることを示した。現状では、100%までは達していないが、 32
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