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英国における高速道路の渋滞意識評価と日英比較 Comparative Study

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英国における高速道路の渋滞意識評価と日英比較
Comparative Study on Congestion Consciousness
of Motorway Drivers in Japan and England
藤
酒
田
井
素
作
弘*
楽**
本研究では,著者らが既に開発した日本の高速道路における人間の知覚に基づく渋滞定
義について,その意味づけをさらに分析するとともに,比較のため英国ドライバーへの渋滞
意識調査を新たに実施した.その調査の分析結果から日本の場合と同様に英国ドライバーの
渋滞知覚についても同様の法則がほぼ当てはまることがわかった.また,設定された英国の
渋滞定義式と日本の定義式を比較した結果,英国の定義式の渋滞領域は 80km/h 以上の高い
速度の範囲まで及んでおり,60km/h 未満で定義される日本の渋滞定義式との差が明確に示
された.英国高速道路ドライバーの渋滞意識は日本のドライバーに比べてかなり厳しいこと
がわかった.この渋滞意識の差は日英両国の道路走行条件の相違が少なくないことを示して
おり,現在の高度交通情報提供システム開発の国際的議論において,そのような国際間の走
行条件と渋滞意識の相違を考慮することは重要であろう.
キーワード
交通情報,渋滞,知覚,意識
ここではドライバーの渋滞意識に合致した渋
1.はじめに
滞評価について日英比較を通して考察する.従来
の一般的な渋滞評価方法
高速道路上の交通情報には,渋滞の有無に関わ
1-2)
は 2 章で述べるよう
らず,指定された一定道路区間(またはインター
に速度の渋滞定義とそれを補足する前後区間の関
チェンジ間)内の所要時間をドライバーに提供す
係による定義の併用が挙げられる.この方法はド
る一定区間情報と,渋滞,工事および事故のよう
ライバーの意識に合うように経験的に調整されて
に予め区間を指定できない,変動区間を対象とし
いるとはいえるが,人間の知覚特性の分析から評
た変動区間情報の2種類が考えられる.後者にお
価されたものでなく,その理論的根拠において明
いては,正確に渋滞等の発生区間を特定すること
確な解答を用意してはいない.
が最も重要な情報となり,次いでその渋滞区間内
渋滞の評価方法について著者らは既に文献
の平均速度や通過所要時間の情報を提供すること
3)-6)において研究しており,人間の知覚に基づく
が必要となる.本研究では,後者の変動区間を対
渋滞の定義付けを行なっている.またその定義に
象とした渋滞情報において重要な渋滞区間の特定
基づいた渋滞区間特定方法についても幾つかの手
について考える.渋滞区間を特定することは,渋
法を提案している 3,4).
滞をどのように定義するかということである.
高速道路の渋滞情報とドライバーの意識に関
* 名古屋工業大学大学院工学研究科都市循環システム工学専攻助教授
(TEL/FAX:052-735-5492,E-mail:fujita@doboku2.ace.nitech.ac.jp)
** 愛知県企業庁三河港工事事務所臨海工事第二(TEL:0532-31-3111)
1
なわち,刺激強度だけでなくその持続時間も考慮
する研究例は他にもいくつか存在するが,その多
7-8)
を行なっ
すること,および,それらが知覚の閾値に対して
ており,渋滞の評価を扱ったものではない.文献
逆比例関係にあることは,人間の知覚を考える上
9)においても渋滞情報のニーズが高いことは述べ
で非常に重要であることがわかる.
くは経路選択行動のモデル化の研究
先行研究では式(1)の法則に沿って渋滞知覚
ているが,渋滞を評価するには至っていない.
本研究ではまず渋滞評価をドライバーの知覚
について次のように評価している.東名・名神高
に基づいて行なう意義について述べる(2 章)
.次
速道路の名古屋管理局内の調査によるドライバー
に既に提案している我が国の渋滞定義の意味づけ
の渋滞知覚は以下のように定義された 3).
イバーへの渋滞意識調査の集計と英国の渋滞定義
T c = 240 (60 − V c )
を行なう(3・4章).最後に渋滞定義の日英比較
ここに,
から,ドライバーの渋滞意識の生成要因を明らか
Vc:渋滞速度(60km/h 未満の速度)
にすること(5章)を目的としている.
60:渋滞とはいえない最低速度(後述)
をさらに深めるために,新たに実施した英国ドラ
(2)
(60−Vc):刺激強度
なお,ここでいう渋滞の定義とは,交通管理者
240:閾値(K)
が「渋滞」の用語を用いて交通情報を提供すると
Tc:渋滞を知覚するまでの Vc の継続時間
きの交通状態を定める判定基準(式(2)または図
-1a 参照)をさすものとし,本研究では過去の研
この定義では,60km/h 未満の渋滞速度が上式
3-6)同様にドライバーへの意識アンケート結果
より計算される継続時間以上続く場合渋滞である
より求められる渋滞意識を渋滞定義としている.
と評価される.実際の高速道路データ(車両検知
究
器から得られる速度データおよび区間距離)に上式
を適用する場合には,上式の Tc を走行距離に変換
2.従来の渋滞の定義づけにおける本研究の位置づ
して適用すればよい3).
け
人間が何らかの刺激を知覚する時,その刺激強
従来から一般に行われている高速道路の渋滞評
度と刺激の継続時間には以下のような関係がある
価について考える.文献[1]の暫定版でみられるよ
ことが心理学分野における知覚研究において知ら
うに車両検知器データを利用した渋滞の評価はお
れている
およそ図-1a のようになっている.まず車両検知
10-11)
.
I×T=K(一定)
機データから得られる速度によって各区間ごとに
(1)
30km/h 以下を渋滞,30∼50km/h をやや渋滞,
ここに,I:刺激強度
50km/h 以上を渋滞なしとして定義する.そして渋
T:持続時間
滞区間に非渋滞区間が一つだけ挟まれた場合(図
K:閾値(または刺激閾)
-1a(i))は前後の渋滞区間と合わせて,
の全領域を渋滞とする.その挟まれた領域がやや
この法則は Bloch の法則とよばれ,
人間の知覚,
主に明るさの知覚において顕著な関係を示す.上
渋滞で 2 区間以下である場合(図-1a(ii))も前後
式は光の強さ(刺激強度)が大きいほど,被験者
の渋滞区間と合わせて
の領域を渋滞とする.
が光を知覚するのに要する照射時間は短くて済む
ことを表しており,逆に光の強さが小さい場合は
光を知覚するのにより長い時間を要することを示
している.このような知覚の閾値に対する刺激強
度と持続時間の逆比例関係は,視覚ほどは明確で
はないにしても,他の聴覚,味覚等の人間の知覚
図-1a 従来の渋滞領域の考え方
のすべての分野で一様にみられる関係である.す
2
挟まれる区間が 2 区間以上の非渋滞を含む場合は
に,ドライバーもしくは人間本来の知覚メカニズ
前後で定義された渋滞区間を別々に渋滞と定義す
ムの理解の上から渋滞を評価し,両者を比較検討
る.すなわちこれは各区間の速度だけでなく,前
することが重要であると考えられる.
後の渋滞区間との関係で全体の渋滞領域を評価す
式(2)で紹介した渋滞定義は,心理学的な法
る 方 法 と い え る . 渋 滞 速 度 30km/h や 図
則に沿ったものとなっており,人間の知覚特性に
-1a(i)-(iii)の関係は現在いろいろ工夫がなされ
適合したものといえよう.よってそれは現在経験
ているが,基本的に図-1a の考え方に沿って渋滞
的に行われている渋滞区間の集約方法の妥当性を
の定義付けがなされている.区間ごとの速度のみ
人間の知覚メカニズムから評価できるものとして
でなく前後の渋滞区間の関係も考慮して渋滞を評
位置づけられるであろう.
価するのは次のような目的がある.それは 30km/h
図−1b3) は名神高速道路 AM8:30 9:00 の岐阜羽
程度以下の速度を渋滞として,それ以上の速度を
島 IC∼小牧 IC 間上り車両検知機より得られた実
非渋滞とすると,渋滞と非渋滞が区間ごとに激し
走行速度データを10分刻みで示したものである.
く変化し,渋滞領域における穴抜けが頻繁に生じ
上段は図-1a の渋滞の定義によって判定した結果
てしまうので,それを避ける目的がある.情報提
であり,下段は式(2)によって渋滞判定したもので
供時においては渋滞の始点となる地点を情報提供
ある.式(2)の車両検知機データへの適用方法
することが事故防止の意味から重要となってくる
は,①60km/h 以下が連続している道路区間を抽出
上に,提供できる情報量も限定されている.よっ
し,②その連続した区間全体の平均速度を Vc とし
て,ある程度の渋滞区間情報の集約が必要となる
て式(2)に代入して Tc を求め,③実際の所要時間
のは止むを得ないことである.またドライバーは
T(=全区間距離/Vc)が Tc よりも大きければ抽出
速度変化に対して区間ごとの細切れの渋滞を意識
した全域を渋滞とするものである.式(2)は継続時
するのではなく,ある程度の大きな区間で全体と
間を考慮するために一連の車両検知機データを総
して渋滞を捉えると考えれば,やはり穴抜けが頻
合して渋滞判定する方法といえる.図−1b 下段の
繁に生じるのはドライバーの意識から考えても妥
結果は上段と比べて穴抜けがなく,速度から判断
当ではない.このような観点から,現在一般的な
してその渋滞区間は妥当といえる.区間渋滞情報
図-1a のような渋滞定義方法は,情報提供側とド
の集約が式(2)本来の性質としてなされているこ
ライバーとの双方にとって妥当な方法であると評
とがわかる.上記の位置付けにおいて,本研究で
価できるであろう.
は過去に設定された渋滞定義の理解をさらに深め
しかしながら,図-1a のように非渋滞が混在す
3)
るため,英国高速道路における渋滞意識を新たに
る渋滞区間を集約する方法論においては,経験的
定義し日英比較を行なうものとする.
に求められる要素が多く,その根拠は曖昧である.
その妥当性を評価するためには,従来の各道路区
3. 英国における渋滞評価アンケート調査
間の速度データを前提として開発する方法とは別
渋滞評価アンケートは,英国の高速道路(M1
およびM4)におけるロンドン周辺のサービスエ
図- 8:30 98 12 55 36
1a 8:40 97 19 32 54
の 8:50 100 9 30 3
方法 9:00 97 2 29 43
式 8:30 98 12 55 36
( 2) 8:40 97 19 32 54
の 8:50 100 9 30 3
方法 9:00 97 2 29 43
注)
図-1b
59
37
64
70
59
37
64
70
34 27
32 59
27 18
28 21
34 27
32 59
27 18
28 21
渋滞
53
16
18
18
53
16
18
18
70 98
71 97
73 96
71 95
70 98
71 97
73 96
71 95
混雑
リア(Reading と Scratch Wood)ならびにロンド
ン大学交通研究所において行なった.サービスエ
リアでの調査は 1996 年7月24日(水)から27
日(土)の9:00AMから5:00PMまで,
聞き取りによって行い,交通研究所内の調査は随
時配布した.調査内容は個人属性(イギリスでの
居住年数,旅行目的,自由走行時の速度,渋滞経
渋滞判定の比較
験回数)と,速度と継続時間による渋滞の定義の
3
質問である.得られたサンプル数から回答洩れな
mph:80 km/h,40 mph:64 km/h ,30 mph:48 km/h,
ど無効なものを除いた結果,有効サンプル数 147
20 mph:32 km/h,10 mph:16 km/h のように対応
個を得た.回答者全体の属性をみると,イギリス
している.日英のアンケートで聞いた速度の上限
での居住年数は15年以上がほとんどを占め,旅
値は規制速度より少し低い速度に設定され,日英
行目的では業務目的がほぼ5割程度という構成で
で上限値は異なる.しかし,被験者が渋滞を意識
あった.
する速度領域は少なくとも規制速度未満の速度で
上記渋滞意識調査とは別に 1995 年 5 月頃,著
あるという前提のもとで考えれば,渋滞を意識す
者は,英国版ITS(高度交通情報システム)の
る速度領域はアンケートの設定速度範囲内に日英
ROMANSE プロジェクト実験都市 Southampton
ともあるということができる.
を視察したがその時点の英国の状況を付記してお
英国の調査では,日本の渋滞に当たる用語をロ
く.英国ではまだ可変交通情報板による渋滞情報
ンドン大学交通研究所内の幾人かの研究者と何度
はそのプロジェクトの一環として始まったばかり
も ヒヤリン グに よって考 察し た結果, heavy
であった.当時の情報提供の手順は次のようにな
congestion が日本の渋滞の意味にもっとも近い用
る.道路上の交通状況をテレビカメラで撮影し,
語であることを確認しそれをアンケートで利用し
その映像を管制センターへ送る.送られた映像を
た.
図-2 は渋滞とはいえないと回答した速度の中で,
担当者が見て混雑か渋滞かを判断し,手動で可変
最も低い速度(渋滞とは言えない最低速度)
交通情報板のメッセージを変えるものである.そ
こでのメッセージは混雑,渋滞を示すのみで渋滞
100
距離等の表示はなかった.
累 80
積
度 60
数
3.1 渋滞速度と継続時間でみる渋滞意識
︵
英国高速道路上のドライバーが渋滞情報の提
40
供を望む(または前もって渋滞情報が欲しいと思
︶
%
う)渋滞の定義について考える.第2章でも述べ
20
たように渋滞速度と継続時間で渋滞定義を行う必
0
要があると考え,以下のようなアンケートを行っ
16
た.すなわち,自由走行速度{70mph(112km/h)
32
48
64
96
112
速度 (km/h)
以上}で走行中に,速度が60∼10mph の各速
図−2 渋滞とは言えない最低速度の相対度数分布
度まで落ちたとき,その速度が何分続いたら渋滞
と思い,渋滞情報が欲しいと考えるかを聞いたも
70
60
50
40
30
分
20
10
0
継
続
時
間
のである.具体的には,60mph, 50mph, 40mph,
30mph, 20mph, 10mph の各速度において,
︵
1.1分でもその速度が続けば渋滞である.
︶
⇒前もって渋滞情報が欲しい.
2. (
80
)分以上続くなら渋滞である
3. 何分続いても渋滞とはいえない
に回答して頂いた.
0
アンケートでは現地表示の mph(miles per
20
40
60
80 100 120
渋滞速度 (km/h)
hour)で質問しているが,以下では分かりやすい
図-3 渋滞情報を提供してほしい
渋滞速度と継続時間
ように km/h に置き換えて示すことにする.このと
き,以下で示す図表では, 60 mph:96 km/h,50
4
の相対度数である.この図から,80km/h 以下にな
1-2.9年(2)
3-4.9年(3)
5-9.9年(2)
10-14.9年(1)
15年-(139)
︵
継
続 70
時 60
間 50
40
分 30
20
10
0
ると半数以上の人が渋滞と考えていることがわか
った.
図-3 はドライバーが渋滞を意識するときの,
各速度の継続時間の平均値である.その結果より,
50km/h あたりまでは5分以上続くとき渋滞である
︶
となっており,全体として速度が高くなるほど,
渋滞を意識するのに要する継続時間は長くなる傾
向がみられる.
0
20
40
3.2 属性別にみた渋滞評価
60
80
100 120
渋滞速度 (km/h)
ここでは式(1),(2)で示されるような知覚分析を行
うことを目的として,渋滞速度と継続時間の関係
図 -4 渋滞速度と継続時間
(居住年数別)
をより詳しく分析する.図-3 では全データ(147
個)の平均的な渋滞速度と継続時間の関係を表し
︵
継
続
時
間
︶
分
た.それを個人属性の項目ごとに分割し,渋滞速
1回以上(24)
5回以上(27)
10回以上(29)
20回以上(67)
70
60
50
40
30
20
10
0
度ごとに継続時間の平均値を計算して,属性別の
渋滞意識を分析する.個人属性として居住年数別,
最近半年間における渋滞経験頻度別,旅行目的別,
自由走行時の走行速度別および渋滞とはいえない
最低速度別をとり,それぞれに渋滞意識を示した
ものが図-4∼8 である.図中の凡例において,各
項目別のサンプル数を()内に示した.
0
20
40
60
80
100
120
図より,居住年数,渋滞経験頻度,旅行目的に
渋滞速度 (km/h)
おいては各項目別に目立った傾向は見られない.
図-5 渋滞速度と継続時間
(半年渋滞経験頻度別)
渋滞経験頻度別では経験回数が多い人ほど渋滞に
敏感である(渋滞を意識するまでの継続時間が短
い)傾向が見られる.自由走行速度別(図-7)と渋
出勤(23)
物あり業務(28)
物なし業務(49)
娯楽、買物(30)
帰宅(6)
その他(11)
︵
継
続
時 70
間 60
50
40
30
20
10
0
︵
︶
分
継
続
時
間
︶
分
0
50
100
∼96km/h(18)
97∼118(79)
119∼(150)
70
60
50
40
30
20
10
0
0
150
50
100
150
渋滞速度(km/h)
渋滞速度(km/h)
図-7 渋滞速度と継続時間
(自由走行速度別)
図-6 渋滞速度と継続時間
(旅行目的別)
5
64km/h(4)
80km/h(25)
96km/h(47)
112km/h(71)
20
15
︶
5
︵
継
続
時
間
分
100
I=10.4+147/Tc
R=0.93
90
刺
激
強
度
I
10
80
70
60
50
40
(km/h) 30
0
20
0
20
40
60
80
100
渋滞速度(km/h)
10
120
0
0
図-8 渋 滞 速 度と継 続 時 間
(渋滞とは言えない最低速度別)
5
10
15
20
継続時間
図−9 刺激強度と継続時間
図-9 刺激強度と継続時間
滞とはいえない最低速度別(図-8)からは自由走行
ここに,
速度(または渋滞ではない最低速度)が高い程,渋
I : 刺激強度
V n : 渋滞とは言えない最低速度
V c :渋滞速度(アンケートで設定した速度:16, 32,
48, 64,80, 96km/h の内, V c < V n を満たす
Vc )
滞を意識するまでの継続時間が短くなる明確な傾
向が見られる.以上の結果から,ドライバーが渋
滞を知覚する渋滞の程度は,ドライバーが普段走
行している自由走行速度や,これまでの経験から
認識した渋滞とはいえない最低速度,および渋滞
経験回数によって異なることがわかる. この結果
図-8 の 18 個のデータ(147 個の元データを渋
は日本での調査結果とほぼ同様であり,渋滞が主
滞とは言えない最低速度 V n と渋滞速度 V c ごとに
に速度の低下によってドライバーに知覚されるこ
継続時間 Tc の平均値を計算したもの)における
とを考えれば,妥当な結果と考えられよう.
V n , V c , Tc の関係から式(3)の刺激強度 I と
渋滞継続時間 Tc との関係を集計しなおしたのが
4.英国における人間の知覚に基づく渋滞定義
図-9 である.図中には,式(1)に当てはめた双
文献 3)と同様な分析を行い,英国高速道路ドラ
曲線関数の回帰分析結果も同時に示している.図
イバーの知覚に基づいた渋滞の定義づけを行う.
から,相関係数が 0.93 と精度良く双曲線の回帰式
ここでは,速度低下という刺激を受けたドライバ
をデータに当てはめることができた.図-9 中の回
ーが渋滞を知覚するとき,刺激強度と継続時間の
帰式を渋滞継続時間 Tc (分)について整理すると
関係を式(1)のように定式化する.このとき,
次式のようになる.
Tc = 147 (V n − Vc − 10.4 )
式(1)の持続時間は渋滞速度の継続時間が当て
はまるが,刺激強度は幾つかのケースが考えられ
(4)
る.3.2 の分析で傾向があり,速度に関係のある
さて,過去の研究 3,5,6)で求められた同様の回帰
要因は自由走行速度と渋滞とはいえない最低速度
式の定数項はいずれも 0.5 以下で精度に影響を与
である.これらに関して考えられる刺激強度は自
えないという理由で切り捨てられいる.式(4)では
由走行速度から渋滞速度への速度低下分,または
10.4 と大きいためこれをこのまま採用する.定数
渋滞とは言えない最低速度から渋滞速度への速度
項 10.4 は次のように解釈できる. V c はアンケー
低下分となる.過去の研究において項目間の傾向
トで確定値を与えている.V n は 3.1 のアンケート
が最も強く現れ安定した結果が得られている後者
で<3.何分続いても.
.>に回答した内の最低速度
を刺激強度として以下のように与えるものとする.
を V n として調査後に解釈したものである.その速
I = V n − Vc
度は単位 mph の関係上,日本の調査の
(3)
6
40
継
続 30
時 20
間
10
(分)
0
自
由
走
行
領
域
渋滞領域
T c = 147 (90 − V c )
ここに, Tc :渋滞を知覚するときの継続時間
V c :渋滞速度(km/h)
混雑領域
0
20
40
60
80
(5)
その渋滞領域は図-10 のようになった.図では走
行速度−継続時間平面を,まず曲線式(5)の上側が
100 120
速度(km/h)
渋滞領域に,さらに渋滞とはいえない最低速度
図-10 英国高速道路の
人間の知覚に基づく渋滞定義
90km/h の垂線によって混雑領域と自由走行領域に
分けられた.この垂線は式(5)の曲線の漸近線にな
10km 間隔よりも大きい 16km 間隔に設定されてい
っているため曲線と交わることはない.これは,
る.よって,10.4 はアンケートの設定速度間隔の
90km/h で走行している限り,その速度が何分続い
中間に英国被験者が知覚する V n があるときのた
たとしてもドライバーにとって渋滞として意識さ
めの補正項と解釈するのが妥当であろう.このと
れないことを意味している.
き,( V n -10.4)km/h は回帰分析から求められた,
式(5)は式(1)の知覚心理学的構造を明確に取り
補正後渋滞とは言えない最低速度と考えることが
込んで設定された式であり,人間の渋滞知覚構造
できる.したがって,刺激強度 I を補正後渋滞と
の理解を十分助けるものになっているといえよう.
はいえない最低速度と渋滞速度の差で捉えなおし
結果的に得られた式(5)および図-10 の定義式は,
た場合,式(4)は式(1)の Bloch の知覚法則の関係
漸近線近傍にない 80km以下では図-3 の単純平
が当てはまることがわかる.よって,式(4)を用い
均による渋滞意識と大きく変わらない.よって図
て英国の渋滞の定義を設定することにする.
-10 の定義式は英国ドライバーの平均的な渋滞意
式(4)の右辺には補正前渋滞とはいえない最低
識であることに変わりない.ただし図-3 の単純平
速度 V n が含まれており,実際の高速道路上で式
(4)に基づいて渋滞範囲を確定する場合には,この
均とは異なり,図-10 は,渋滞意識にとって最も
補正前 V n を与えておく必要がある.この補正前
強い要因である渋滞とは言えない最低速度の属性
V n の累積分布は図-2 のようになり,平均値は
で集計しなおし,式(1)に基づく一般的解釈を可能
100.1km/h であった.渋滞の定義は厳密に言え
にした上での 平均的な渋滞意識であるといえる.
ばドライバーによって異なるが,各ドライバーご
とに渋滞情報を変えることができない現状におい
5.渋滞意識の日英比較
ては,ドライバー全員の平均的な渋滞意識を渋滞
4.で設定した英国ドライバーの渋滞定義と日本
の定義とするのが妥当と考えられる.
で設定された定義式を比較する.過去の研究から,
よって平均的な英国ドライバーの渋滞意識を表現
日本国内において設定された高速道路の渋滞定義
するものとして 100.1 を補正前 V n に採用する.こ
式は以下のようになる.
のとき補正後渋滞とはいえない最低速度は
①東名・名神高速道路名古屋管理局内
89.7km/h(=100.1-10.4)となるが,分かりやすさを
T c = 240
優先して小数点以下を四捨五入して 90km/h とす
ると,式(4)右辺分母は(90- V c )km/h となる.ま
( 60 − V c )
(6)
②名古屋高速道路
た,以下では 90km/h を単に渋滞とは言えない最低
T c = 135
速度または V n とすることにする.結局,式(4)を
( 50 − V c )
③首都・阪神高速道路
このように整理すると英国高速道路の渋滞定義は
次式のようになる.
7
(7)
英国
東名・名神
名古屋
首都・阪神
40
継
続 30
時
間 20
100km/h に比べると高い上に,実際にドライバー
はそれを超える速度で走行している.図-12 は英
国の自由走行時の平均速度を示すが英国では 110
−130 km/h の割合が最も多くなっている.一連の
(分)
10
アンケート調査より得られたデータから渋滞のな
い場合の自由走行速度の平均値を比較してみると
0
0
20
40
60
80
図-11 渋滞定義の日英比較
T c = 75
100
表-2 のようになる.
120
速度(km/h)
( 50 − V c )
渋滞とはいえない最低速度は主に平均自由走
行速度との差と関係が深いと考えられるため,表
では平均自由走行速度と渋滞とはいえない最低速
(8)
度との差も示した.表中( V f − V n )から自由走
上記の内,③の首都高速道路と阪神高速道路の渋
行速度に対して 27∼39km/h 程度の速度低下を経
滞定義式は全く同一となったためまとめて示して
験した時,ドライバーは渋滞を意識し始めること
いる.①は都市間高速道路,②,③は都市内高速
が分かる.英国高速道路の自由走行速度が高い理
道路という相違があるためすべての定義式を単純
由は,道路構造上英国の高速道路の幅員が広く走
には比較できないが,それぞれの高速道路の違い
りやすいということもあるが,先にのべた規制速
を考慮しながら各定義式の相違点を分析する.特
度の影響も大きいといえる.
に渋滞とはいえない最低速度と刺激閾(K)の違い
次に,刺激閾(k)の違いについて考える.刺激
について焦点を絞って考察する.
閾は渋滞領域(渋滞とはいえない最低速度以下の
図-11 は式(5)-(8)の渋滞定義を同一平面上で
領域)における速度の変化に対する継続時間の変
示している.式および図から分かるように英国の
化率を決定するが,前述の渋滞とはいえない最低
渋滞定義式は日本の 3 式と比較して右側に大きく
速度の違いにも影響を受けている.よって,渋滞
湾曲しており,英国では 80km/h 程度の高い速度で
定義式(5)-(8)中の渋滞とはいえない最低速度で
も渋滞を知覚していることが分かる.日英の定義
各式の右辺の分母分子を除することによって次式
式の違いを明確なものとしているのは渋滞とはい
のように標準化する.
えない最低速度の違いであろう.日本の V n =60 ま
たは 50km/h に対して英国は 90km/h となっており,
英国の V n は日本の V n に対して 1.5 倍近く大きい.
T c = K ' (1 − Vc')
これには幾つかの要因が考えられる.英国高速道
ここに,
(9)
路の規制速度は一般に 112km/h(70mph)と
表-2 自由走行速度と渋滞とはいえない
最低速度の比較
120
平均自由走 渋滞とはい
100
行速度 V f えない最低
度
数 80
速度 V n
英国
60
117
V f − Vn
(km/h)
90
27
40
東名
97
60
37
20
名古屋
77
50
27
0
首都
89
50
39
阪神
88
50
38
平均
94
60
34
-70 -90 -110 -130 -150 151な っ て お り , 東 名 名 神 の 調 査 区 間 の 規(km/h)
制速度
図-12 英国自由走行速度の度数分布
8
て,渋滞を知覚(または確信)するまでに時間を
Tc :渋滞を知覚する継続時間
V c ' : V c / V n で, V n に対する相対渋滞速度
K’:K/ V n
V c ' を以下では相対渋滞速度と呼ぶことにする.
かけている傾向が見られる.続いて英国と名古屋
高速の順で,渋滞経験回数が多いほど渋滞意識が
敏感となっている.
この相対渋滞速度を用いて図-11 と同様な渋滞定
上記から渋滞定義式のパラメータ V n と刺激閾
義の比較図を描いたものが図-13 である. V n で標
(K)についてまとめてみると, V n は自由走行速度
準化した相対渋滞速度で比較すると,英国の渋滞
から 27∼39km/h 程度差し引いた速度となり,刺激
意識は首都・阪神高速道路のものとほとんど同じ
閾は渋滞経験との関連が強いことがわかった.自
になっている.東名・名神が最も渋滞意識の継続
由走行速度の違い等から日英で渋滞定義が大きく
時間の変化が緩やかで,首都・阪神高速道路が最
異なっていたが,相対渋滞速度での比較を通して
も急な変化をしている.すなわち,V n の影響を考
考えれば,渋滞知覚の本質的な特性は日英でそれ
えない場合,首都・阪神高速道路のドライバーは
ほど大きな差異がない.
渋滞に対して最も敏感である(速度が V n 以下にな
結局,人間の渋滞知覚の基本的特性は日英で大
ると渋滞を知覚するまでの継続時間が急激に低下
きく異ならないが,自由走行速度などの走行条件
する)といえる.続いて英国高速道路,名古屋高
の相違は日英の渋滞意識にかなりの影響を与えて
速道路があり,東名・名神高速道路の順に渋滞を緩
いることがわかる.逆にいえば,そのような渋滞
やかな変化で知覚することが分かる.この違いは,
意識の相違から日英の走行条件の相違の程度が少
Vn 以下の速度低下に対してより短時間で渋滞であ
なくないことを推し量ることができよう.本研究
ることを判断・確信する思考パターンの違いであ
の日英比較を通してみると,現在進行している高
り,そのような思考パターンは渋滞の日頃の経験
度交通情報提供分野の国際的開発競争において,
度合いによって強められることが一つの要因とし
そのような国際間の走行条件と渋滞意識の相違を
て考えられる.1ヶ月あたりの渋滞経験回数の相
考慮することは重要であると思われる.
対度数分布(図-14)をみると,渋滞経験の多い順
6.結論と今後の課題
に,阪神:平均 12.1 回,首都: 9.0 回,英国:
6.8 回,名古屋:4.1 回,東名・名神:2.9 回とな
本研究では英国のドライバーの知覚に基づい
っている.首都・阪神高速道路のドライバーは他の
た渋滞定義を設定し,日本で設定された渋滞定義
高速道路に比べて多くの渋滞を経験しており,結
と比較した.得られた結論として以下の点が挙げ
果として速度が V n よりも低下すると敏感に渋滞
られる.
を知覚する傾向があるものと思われる.逆に,東
名・名神(名古屋管理局内)のドライバ
50
継
続
時
間
相
対
度
数
東名名神
英国
名古屋
首都・阪神
40
30
20
(分)
10
0
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
首都
阪神
名古屋
東名名神
英国
5
0
0.5
1
10
15
20
25
30
30‐
渋滞経験頻度(回/半年)
相対速度(km/h)
図-14 各高速道路の渋滞経験頻度分布
図ー13 相対渋滞速度による渋滞定義の日英比較
ーは渋滞経験回数が最も少なく,速度低下に対し
9
Vol.22,No.2,pp.9∼15,1987
(1)英国ドライバーが認識する,渋滞とはいえな
い最低速度と渋滞速度との差を刺激強度として,
2)日本道路公団名古屋管理局・社団法人システ
継続時間との回帰分析を行なった.そして心理学
ム科学研究所:名古屋管理局管内交通管制に
分野において用いられる Bloch の法則と同様な関
関する研究(その3)報告書,1991
係が本研究においてもほぼ当てはまることがわか
3) 松井 寛・藤田素弘・阿江 章:人間の知覚
った.その回帰式に基づいて渋滞の定義式を設定
に基づく高速道路渋滞の情報提供とその評価
したところ,英国定義式では 80km/h でも 15 分程
に関する研究,土木学会論文集・4,
度で渋滞となることが分かった.
No.494,pp.127-135,1994
(2)日本の4地域の高速道路(東名名神,名古屋,
4) 松井 寛・藤田素弘・谷上敦亨:渋滞解消を
首都および阪神高速道路)で設定された渋滞定義
考慮した渋滞区間判定モデルの構築とファジ
式と英国高速道路の定義式を比較したところ,英
ィ推論の適用,土木学会論文集・4,
国高速道路は渋滞領域が速度の高い領域まで大き
No.569,pp.65-74 ,1997
く湾曲しており,日本の定義式との違いが明確と
5) 松井 寛・藤田素弘・因幡良彦:道路タイプ
なった.その違いは渋滞とはいえない最低速度の
別・地域別にみた高速道路ドライバーの渋滞
違いによって主に生じている.またその最低速度
意識に比較分析,高速道路と自動車,
はドライバーの自由走行速度や規制速度によって
Vol.41,No.1,1998
6) 松井 寛・藤田素弘・清水和仁:信号交差点
影響を受けていることが分かった.すなわち英国
ドライバーは日本のドライバーよりも通常 20km
を含む一般道路の交通渋滞評価に関する研究,
/h 以上高い速度で高速道路を走行しており,その
土木計画学研究・論文集,
差が渋滞定義の差として明確に現れたものと考え
No.15,pp.755-764,1998
7)Mahmassani, H. S. and Jayakrishnan, R. :
られる.
(3)渋滞とはいえない最低速度の影響を除いた,
System Performance and User Response under
相対渋滞速度で定義式を比較したところ,首都・
Real-time Information in a Congested
阪神高速道路と英国高速道路で渋滞に対する感度
Traffic Corridor,Transpn.
が似ていることが分かった.最も渋滞に対して敏
Res. -A, Vol.25A, No.5, pp.293∼308, 1991
感に反応するのは渋滞経験頻度が高い首都・阪神
8)飯田恭敬・内田敬・宇野伸宏:交通情報の効
果を考慮した経路選択行動の動的分析,
高速道路であった.
土木学会論文集,No.470,pp.77∼86,
結局,自由走行速度などの走行条件の相違は日
1993
英の渋滞意識にかなりの影響を与えており,逆に,
9)山岸将人・永田泰裕:道路交通情報に対する
そのような渋滞意識の相違から日英の走行条件の
相違が少なくないことがわかる.現在進行中の高
ドライバーの意識と交通対応行動に関する研
度交通情報提供分野の国際的な議論においてその
究,土木計画学研究・論文集,No.15,1998
10)コンラッド.G.ミュラー:感覚心理学,
ような国際間の走行条件と渋滞意識の相違を考慮
岩波書店,1966
することは重要であろう.
11)大山正:実験心理学,東京大学出版会,1991
本研究を遂行するに当たり,ロンドン大学交通
研究所オールソップ教授には多くの示唆と援助を
して頂いた.ここに深く謝意を表します.
参考文献
1)川添卓司・酒井利忠:渋滞自動判定システム
(暫定型)に関する検討について,交通工学,
10
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