法務レクチャー 週間程度を設けるのが望ましいところです)。このような催告の機会を 当事者間の合意で不要とすることについては一般論として無効である とまでは考えられていませんが、居住用建物の賃貸借契約の場合、その 契約が生活に密着しており、 かつ、当事者間の継続的な信頼関係を基礎 とする契約であることに鑑み、当事者の信頼関係が破壊されるに至っ ていない場合には、 賃料不払いを理由とする無催告解除は認められない、 という見解が有力であるため、無催告解除特約があるような場合でも、 催告をした上での解除を行うことが望ましいと考えられます。 「催告」を兼ねた「期限付き解除の意思表示」がお勧め そこで、賃貸人としては、 「催告」を兼ねた「期限付き解除の意思表示」 を行うという方法を取ることが有効な手段です。即ち、 「催告」とは、 「平 成○年△月□日までに滞納賃料をお支払い下さい。」との申し入れで あり、 「解除の意思表示」とは「平成○年△月□日までに滞納賃料をお 支払い下さいと催告したにもかかわらず、同日までにお支払いがあり ませんでしたので、本通知書をもって本件賃貸借契約を解除します。」 という意思表示であり、別々の通知になるわけですが、 これを1つの通 知で「平成○年△月□日までに滞納賃料をお支払い下さい。万一、同 2 居住用建物の賃貸借契約においては 3か月程度の賃料滞納が解除の目安です。 日までに滞納賃料のお支払いがない場合は、改めて通知することなく、 同日の経過をもって本件賃貸借契約を解除します。」という「催告」を 兼ねた「期限付き解除の意思表示」を行うというものです。このような 支払い能力と意思の確認 方法は、一般的に認められており、 「催告」は機動的に行い、 「解除」は それでは、催告解除の方法を取るとして、 1か月でも賃料の支払いが 証拠を残す、 という目的にも合致しますので、お勧めしたい手法です。 滞れば賃貸借契約は解除できるのでしょうか?確かに、 1回でも賃料 の支払いを滞るようであれば、賃借人の債務不履行があったことに 間違いはありませんが、上記のような賃貸借契約の性質に鑑み、賃借 人の賃料の支払能力と意思が継続していると認められる場合には賃 貸人の解除権は発生しないという見解が有力です。裁判例においても、 4か月程度の賃料の滞納事案において、賃貸人の解除を肯定したケー 家賃滞納で契約解除したいが・・・。 賃貸建物の明渡しについてご相談いただくケースは、大きく分けて①賃料の滞納等、賃借人の 債務不履行に起因するケース、②専ら賃貸人の事情で建物の明渡しを求めたいケースの2つに 大別できますが、今回は、①のケースに関するご質問についてお答えすることにします。 4 それでも駄目なら裁判? やってはいけない“ 鍵 ”の取り替え ここまでは、賃貸人が自ら比較的容易に出来る スと否定したケースの双方が存在しており、必ずしも一義的な基準が 対応です。しかし、①内容証明郵便を出したけ 決まっているとはいえません。 れども、賃借人が受け取ってくれない、②建物を 賃料滞納3か月で、まず「催告」を 明け渡せ、と言われても引っ越し費用がないと 賃借人が言っている、③賃借人が建物に入れないように、鍵を取り替 では、賃貸人の立場としてはどのような対応が望ましいかと言います えてもよいか、など、私のところには様々な相談が持ち込まれます。 と、あくまで私見ですが、首都圏における住宅賃貸借契約における敷 ①、②は訴訟(裁判)を提起しなければならないかどうかを含め、単 金は2か月程度であり、原状回復費用を考えた場合、 3か月以上の賃 純に法律論だけではなく、個別の事情を加味した上で判断しなけれ 料の滞納は敷金によっては担保されないのが通例であること、行政 ばならないので、軽率にお答えすることはできませんが、③「鍵の取 庁が関与する住宅供給公社の賃貸借契約書においては、 3か月以上 り替え」は絶対にやってはいけないことです。法律は、裁判手続に基 の賃料の滞納を解除事由としていること、現実に、 3か月以上の賃料 づかない「自力救済」を禁止していますので、もし、賃貸人が賃借人 の滞納が発生した場合、賃借人の賃料の支払能力に問題があるケー に無断で鍵を替えてしまった結果、賃借人に損害が生じた場合、賃貸 結論を先に申し上げますと、本件は、お尋ねの解除条項に基づいて賃 スが多いこと、などを総合的に判断すると、賃料の滞納が3か月程度 人は、賃借人に対し、損害賠償義務を負わなければならないこともあ 者が賃料をよく滞納するのですが、催促しては支払い、催促 貸借契約を解除することは難しいと思われますが、一定の手順を踏 に達した時点では、少なくとも賃借人に対する「催告」を行うことを ります。なお、損害賠償を支払わなければならないとしても、 これを滞っ しては支払い、の繰り返しで、現在も2か月分の賃料が滞納に めば、賃貸借契約を解除し、建物の明渡しを求めることも可能である 検討すべきでしょう。 ている賃料と相殺すればいいではないか、 とお考えの方もいるようで なっています。私としては、出ていってもらいたいので、いろ と思われますので、その方法についてご説明することにしましょう。 「 賃貸借契約書 」には“1回の滞納でも 契約解除できる”とありますが・・・。 Q 現在、貸しアパートを経営しています。そのうちの1件の居住 家賃滞納だけの理由では 簡単に契約解除できない のが実情。 A いろと考えていたところ、賃貸借契約書を改めて読み直すと 「賃借人が1回でも賃料の支払いを滞った場合は、賃貸人は、 何ら催告を行うことなく、賃貸借契約を解除することができる。」 1 居住用建物の賃貸借契約において 無催告解除が認められるケースは少ない という条項があるのを見つけました。私は、賃料を滞納して いる居住者に対し、この条項に基づき建物の明渡しを求めた いと思うのですが、可能でしょうか? すが、 これは誤った考え方です。この考え方を認めると、例えば、貸金 3 内容証明郵便による 「期限付き解除の意思表示」を行うこと を返してもらえない貸主は、借主を腹いせに殴り、その治療費や慰謝 料と貸金を相殺するという事態が容認されることにもなりかねませ んので、民法は、不法行為に基づく損害賠償債務については現実の支 払いを要求し、不法行為債務者からの相殺を禁止しているのです。 意思表示と証拠を残す 「催告」解除が原則 「催告」とは滞納賃料の請求ですから、口頭 回収の見込みがない場合、早めに弁護士に相談を 民法の規定によれば、賃貸人において、賃借人が賃料を滞納したこと で行おうとも文書で行おうとも構いません。 では、 どうすればよいかと言いますと、個別の事案によりますが、私は、 を理由として賃貸借契約を解除したいと考えた場合、賃貸人は、まず、 しかし、 不幸にして、 賃借人が賃料を支払わず、 3、 4か月以上の賃料の滞納があり、回収の見込みができないと思わ 賃借人に対し、滞納賃料を支払うよう請求をしなければならないこと しかも、建物を明け渡してくれないために訴 れる場合は、賃借人との間で、建物の明渡し及び滞納賃料の回収に関 になっています(これを「催告」といいます)。ところが、上記契約条 訟(裁判)に至るようなこともあるわけですから、賃貸人としては、賃 する協議を十分に行い、それでも解決が難しそうであれば、速やかに 項においては「何ら催告を行うことなく、賃貸借契約を解除することが 借人に対し、催告の上、解除の意思表示をしたということを証明でき 弁護士に相談されることをお勧めいたします。交渉を続けていても、 できる」と規定されています(これを「無催告解除特約」といいま る手段を確保しておくことが望ましいところです。そのため、解除の 特段の事情がない限り、 3、 4か月以上賃料を滞納した賃借人が短期 す)。では、本件において、無催告解除特約による賃貸借契約の解除は 意思表示は、配達証明付きの内容証明郵便で行うことが通例です。し 間で滞納賃料全額を完済できるケースは稀ですし、税務上は、滞納賃 可能なのでしょうか?民法が催告解除を原則とするのは、解除が契約 かし、法律上、解除の前段階として「催告」を行うことが要求されてい 料も未収収益と評価され、課税の対象になることもあります。回収も 関係を終了させる重要な行為であるため、債務の履行を遅滞している るため、証拠を残すという意味では「催告」の証拠も残しておかなけ できない、 しかも、税法上は収益と評価される、 ということではまさに 当事者に翻意を求め、債務を履行する意思の確認をする機会を設け れば万全であるとは言えません。だからと言って「催告」をする度に 踏んだり蹴ったりです。早期対応、早期解決が最善の選択であること るべきである、 ということにあります(そのため、催告期間として1∼2 内容証明郵便を用いるというのは機動性に欠けるところがあります。 をくれぐれもお忘れなきように! シティユーワ法律事務所 弁護士 井 手 慶 祐
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