18F-FDG PET/CT所見が確定診断に 寄与した巨細胞性動脈炎の一例

18F-FDG
PET/CT所見が確定診断に
寄与した巨細胞性動脈炎の一例
自衛隊中央病院放射線科 京藤幸重、藤川 章、直居 豊
同 内科
高橋亮太、箱崎幸也
同 病理課
佐藤仁哉
防衛医科大学校放射線科 小須田茂
【症例】
症例:80代女性
主訴:頭痛、食欲不振、体重減少
現病歴:
3ヶ月前より左側頭部から首筋にかけて絞られるような痛みが
持続し当院内科を受診
身体所見:
体温37.2℃、左側頭部に圧痛あり
血圧左右差なし(120/70mmHg)、眼底異常なし
検査所見:
WBC
7930 / μl
AST
22 IU/l
TP
7.9 g/dl
RBC
331万 / μl
ALT
17 IU/l
Alb
2.3 g/dl
Hb
7.7 g/dl
BUN
21 mg/dl
CRP
13.36 mg/dl
Hct
25.2 %
Cre
0.69 mg/dl
ESR
(1h) 131mm
Plt
53.1万/ μl
LDH
135 IU/l
画像所見:
頭部CT/MRI 頭蓋内器質病変なし
US及びCTで大動脈壁が軽度肥厚、動脈の狭窄所見なし
動脈炎の疑い及び悪性腫瘍の潜在の有無の評価を含めて18FFDG PET/CTを施行
18F‐FDG PET
MIP
(Biograph 16, Siemens)
18F‐FDG:
211MBq, 60 min after injection
FBS: 121mg/dl, BW: 35.1kg
PET上、動脈(壁)に沿った集積増加あり(max SUV:3.51 - 4.55)
上行∼下行∼腹部大動脈
両側の鎖骨下・総頚・椎骨・外頚の各動脈
悪性腫瘍の存在を示唆する異常集積無し
左側頭部皮下結節部(左側頭動脈に相当)にも集積増加あり
(max SUV:4.32)
同部直上の皮膚にCTガイド下でマーキングを実施し、外科的生
検術を施行
病理:巨細胞を伴った肉芽腫性動脈炎(側頭動脈炎)
多核巨細胞の集簇を伴い内弾性板は断裂・消失、高度のリン
パ球・形質細胞浸潤がびまん性に連続、内膜の強い線維性肥厚
により血管内腔は著明に狭小化
診断:Giant cell (temporal) arteritis 巨細胞性(側頭)動脈炎
巨細胞性動脈炎:Giant cell arteritis (GCA)
50歳以上に下記の症状で発症(平均72歳)
・頭痛
・原因不明の発熱または貧血
・血沈の亢進 (and/or) CRP上昇
病因不明の肉芽腫性血管炎
侵されやすい血管
・大動脈、頭頸部の主要動脈、外頚動脈の分枝(特に側頭動脈)
治療
・ステロイド
臨床所見は幅広く、診断と治療がしばしば遅れる
治療開始が遅れた場合、失明など重篤な合併症を引き起こす
巨細胞性動脈炎:Giant cell arteritis (GCA)の診断
※American College of Rheumatology (ACR) Criteria
(3項目以上あれば、GCAの診断が感度94%特異度91%)
・発症時の年齢が50歳以上
・新規発症の限局性頭痛
・側頭動脈の圧痛または脈圧減少
・血沈(ESR)50mm/h以上
・生検にて単核球優位の壊死性血管炎すなわち多核巨細胞を伴う
肉芽腫性炎症の証明
上記の臨床所見を主体とした分類基準はあるが、診断を確定する
ものではない
確定診断には側頭動脈生検が必要とされるが、比較的高い偽陰性
率(10-40%)が問題となる
Giant cell arteritisのFDG PET
FDG PET(/CT)は、診断の確実性を上げ、速やかに病変の活動性
と範囲を検出することができるモダリティとして期待されている
診断能:
感度56-100%、特異度77-98%と過去の報告ではばらつきが多い
→結果の多様性は、対象患者の病勢の違いが原因の一部と考え
られる
活動性の炎症期では感度が高い(CRP、血沈と相関)
→CRPが高いほど、集積程度が高く、感度上昇
ステイロイド治療に反応すると、集積は減弱∼消失
Radiol Clin N Am(2007) 45: 735‐744
Eur J Nucl Med Mol Imaging(2005) 32: 675‐681
Giant cell arteritisのFDG PET所見
検索し得た範囲内でFDG PET(/CT)の適応・診断能・読影などの
標準化されたガイドラインはない
一般的な大血管の集積パターン:
大血管に沿った線状・連続性の集積
肝集積と同等以上の集積を病的集積と考える(動脈硬化を除外)
Vessel to Liver ratio > 1の場合、感度89%特異度95%
(本症例では上行大動脈:1.39、下行大動脈:1.55)
側頭動脈の評価(炎症の有無の診断能)
脳の高集積に近い、血管自体が細いため、PET診断には限界が
あるとされるが、本症例の様に集積陽性所見が得られれば、より確
実な生検部位の決定に寄与することができる
Radiol Clin N Am(2007) 45: 735‐744
Eur J Nucl Med Mol Imaging(2005) 32: 675‐681
J Nucl Med(2008) 49: 1107‐1113
【本症例の経過】
ステロイド投与開始(プレドニン 15mg)
頭痛はほぼ消失
血液検査上、炎症反応は低下、貧血も改善
体重も退院時よりも4Kg増加
現在外来経過観察中
治療前
治療後
CRP
13.36 mg/dl
CRP
0.46 mg/dl
WBC
7930 / μl
WBC
9000 / μl
RBC
331万 / μl
RBC
521 / μl
Hb
7.7 g/dl
Hb
14.2 g/dl
Hct
25.2 %
Hct
42.9 %
Plt
53.1万/ μl
Plt
24.5万 / μl
結語
・FDG PET/CT所見が確定診断に寄与した巨細胞性動脈炎
の一例を経験した
・PETは診断の確実性を上げ、病変の活動性と範囲を検出す
るだけでなく、確定診断のためのより確実な生検部位の決定
にも有用と考えられた