技術開発進む医療画像診断装置、 3次元やクラウドも

Ⅳ.経 営
技術開発進む医療画像診断装置、
3 次元やクラウドも
株式会社 AZE
医療現場では CT や MRI などの医療画像診断が不可欠だ。
装置の高性能化に伴って画像データを処理するコンピュータ
の高速化が求められるようになった。そこで注目されたのが
GPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)。ゲームや
アニメのグラフィック描画を高速に行うために開発されたプ
ロセッサで、医療用の画像処理にも使われている。装置の高
性能化がめざましい中、関連メーカー各社はどのように対応
しているのか。医療画像解析システムを企画・開発する株式
会社 AZE(本社:東京都千代田区、畦元将吾社長)の取り組
みを紹介する。
高速で正確な画像が得られるのはもちろん、アイコンが
わかりやすく操作が容易な点も特徴だ。ワークステーショ
ンを活用した画像処理は熟練者だけでなく、誰もが扱える
ことが望ましい。「AZE バーチャルプレイス」はその点で
も優れている。
■ iPad、クラウドへの展開も進む
手術室は滅菌が原則。そのため、滅菌処理が煩雑なキー
ボードは嫌われる傾向にある。手術を行う医師は両手に手
袋をして繊細な作業を行うため、マウスでの操作もやりづ
特
集
■ 動く心臓もとらえる「4 次元 CT」が登場
CT(コンピュータ断層撮影)は主に X 線を用いて断面画
P.3
デ
ー
タ
P.7
P.11
経
営
ンは持ち込めない。そこで AZE は iPad からも診断用画像
像を得る技術だ。1970 年代に日本に初めて導入された CT
が見られるシステムを開発。ラップでくるめば滅菌も容易、
装置は 1 枚の断面を撮影するのに 4 分間、画像化に 7 分間を
タッチパネルで操作も簡単、と好評だ。
要した、今と比べると非常に低速な装置だった。その後の
4 次元 CT 画像には約 1 万枚の画像が使われる。それだけ
性能向上はめざましく、現在では 1 秒に満たない時間で
の画像処理を行うには大きなワークステーションが必要
160mm 幅の対象物を 320 列に分割した断層撮影が可能な装
だ。そこで画像処理は病院内の別の場所に設置した高性能
置もある。このレベルの技術だと、その画像から 3 次元画
の画像処理用コンピューターで遠隔操作し、その結果表示
像が構成できる。10 年ほど前から実用化された 3 次元 CT
は手元のパソコンや iPad で行う。いわば、「プライベート
と言われる技術で、立体化されることによりさらに的確な
クラウド」(ある組織・施設内だけアクセスできるクラウ
治療が可能になった。
ド)の導入だ。
7、8 年前から、「動いている心臓の 3 次元 CT が見たい」
ト
レ
ン
ド
らい。手術室のスペースの関係で大規模ワークステーショ
米国では病院・クリニックのグループ化が進んでおり、
というニーズが出てきた。他の臓器は動きが活発でないた
同じグループ内の病院・クリニックであれば同じ患者の
め静止画で十分だったが、常に動いている心臓は動きまで
CT 画像やカルテを呼び出すことができ、診療を受けやす
加味しないと的確な診断・治療ができないためだ。4 次元
い。インターネットを介して患者が自分のカルテを見るこ
CT と呼ばれる技術で、3 年前から医療現場で使われている。
とも可能だ。そのため、米国の病院ではパブリック・クラ
3 次元画像に加えて時系列での画像も必要になるため、デ
ウド(一般利用者がアクセスできるクラウド)の導入が進ん
ータが膨大だ。この膨大な画像データの処理を高速で行い
でいるが、個人情報保護やセキュリティの問題から、日本
たいというニーズから、グラフィック描画を高速に行う
ではパブリック・クラウド化には慎重だ。
GPU が注目された。
■ 今後の展開
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■ 高速画像処理プロセッサを搭載
ーだが、近年、その処理性能をグラフィック以外の演算処
ェアで大きなシェアを持つ。CT 装置の高性能化に伴う画
理に活用する動きが広まっている。GPGPU(汎用グラフィ
像処理高速化ニーズの高まりを受け、2 年前 GPU を利用し
ック・プロセッシング・ユニット)といわれる技術で、高速演
た高速画像処理の開発に着手、従来の約 20 倍の高速化を実
算が求められる科学技術計算での活用が広まりつつある。
現した。現在は主力製品である医療画像処理ワークステー
AZE の得意とする画像処理に GPU 利用は大きな効果を
ション「AZE バーチャルプレイス」に高速化オプション
あげた。次の展開として、AZE は GPGPU の活用を検討し
「Formula Engine」として搭載している。
ている。脳の血流を CT で解析する「パフュージョン」と
同社は数年前、ゲーム用グラフィック描画プロセッサ
いう技術や、画像間の歪みを補正する「非剛体レジストレ
「Cell」(セル)を高速化に使えないか、と開発に着手したこ
ーション」では画像処理の他、解析のための高速演算が必
ともあった。だが、思うように性能が向上せず開発を中断
した経緯があり、GPU の効果には懐疑的だったという。
GPU による高速化が実現した「AZE バーチャルプレイ
ス」は全国の医療機関で導入され、的確な診断・治療に活
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GPU はグラフィック描画を高速化するためのプロセッサ
AZE は医療画像処理用のワークステーションとソフトウ
かされている。時間変化が分かるため、心臓病の診断や手
術前のシミュレーション等にも有効だ。
要だからだ。
医療用装置は今後ますます発達していくだろう。それに
伴ってコンピュータ技術が発達し、迅速で的確な治療に貢
献することが望まれる。
(パーソナル・ネットワーク研究グループ/佐藤 祐輔)