行政処分の効力 - 新潟大学 法学部

2013年 度 行 政 法 レ ジ ュ メ ( 8-1)
Ⅷ -1. 行 政 処 分 の 効 力
2013.5.29 石 崎
行政処分の成立・効力の発生・効力の消滅は別に説明するが(Ⅷ-2)、とりあえずは、行
政処分は、原則として、それが相手方に到達したときに効力が発生すると理解しておいて
もらえればよい。
1、行政処分の実体的効力と規律力
(1)行政処分の実体的効力
①行政処分は、それぞれ相手方国民に対する一定の法的効果を及ぼす。
直接の名宛人でない者に対しても一定の権利制限を課すことがある。たとえば、空
港設置許可は空港周辺の土地所有者の権利を制限する→高い建築物を建築できない
( 航 空 法 § 49) 。 こ の よ う な 場 合 、 許 可 の 告 示 が 必 要 ( 同 法 § 40) 。
②行政処分の効果は各根拠法規によって定まる。
下命・禁止・許可・免除・特許・認可・剥権等の区分は、その効果による分類で
ある。
許可・特許・認可・確認の違いや、効果意思の有無が問題となる法律行為
的 行 政 余 分 と 淳 法 律 行 為 的 行 政 処 分 の 違 い は 、 レ ジ ュ メ p.107以 下 の [ 補
論]を参照されたい。
但し、法律上は、許可という名称であってもいわゆる特許や認可に該当するもの
もあろうし、特許や裁定という名称であっても確認に該当するものもある。
許可としての性質と認可(補充行為)としての性質を合わせ持つものがあっても、
それが法的に不可能でない限り、何ら問題ではない。
大事なことは分類ではなく、処分の根拠規定がどのような効果を付与しているか
である。
(2)規律力
① 塩 野 Ⅰ ( 第 3版 ・ 2003年 ) が 行 政 処 分 一 般 に 見 ら れ る 効 力 と し て 「 規 律 力 」 の 概 念 を
提 示 し た ( 塩 野 Ⅰ ( 第 5版 ) で は p.139以 下 ) 。 し か し 、 「 規 律 力 」 概 念 を 認 め る か
どうかについて学説は必ずしも一致していない。ここでは、塩野説を簡単に紹介す
る。
a)規律力の概念:一方当事者である私人の合意なくして具体的な法律関係を形
成する力。
b)規律力の制度的根拠:「行政活動のある種のものには、このような効果を持
つものがあるということを前提として制度が組み立てられているという以上
の明確な制度的根拠」は認められていない。
c)規律力の目的:具体的な法関係の一方的形成という方法は、一定の法律関係
にはいわば当然のこととして必要とされる(除去命令、租税賦課など)。申
請を前提とする処分は契約的構成も可能であるが、「行政に対する法的コン
トロールを厳格にするという面に着目すれば、申請が法の要件を充足してい
るかどうかを責任をもって行政庁に審理・判断させるという趣旨から、具体
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2013 行政法
的法関係形成の最終的判断を行政庁の責任ある判断に留保させるという規律
公定力のとの制度的結
言及している。
d)規律力の限界:権限ある機関が取り消すまで有効。公定力の限界として論じ
力を認めることにも意味があるといえよう」として、
合にまで
ることが可能
宇賀克也 「 ベ ー シック 行 政 法 第 5 回 第 5 章 行 政 行 為 ( 1) 」 法 学
教室 287 号 ( 2004年 8 月 ) が 詳 し い 説 明 を し て い る の で 参 照 さ れ た い 。
②規律力については、
③ 一 方 性 を 行 政 処 分 の メ ル クマ ー ル と し て を あ げ る 論 者 も い る 。 例 え ば 芝池総 論 p.12
5。 な お こ の 点 に つ き 、 塩 野 Ⅰ p.130の 注 ( 2) 参 照 。
他 方 、 一 方 性 を 行 政 処 分 の 概 念 要 素 と し な い 見 解 も あ る 。 例 え ば 、 小早川光郎『 行
政 法 ( 上 ) 』弘文堂 ( 1999年 ) p.2 6 7。
※ 私 ( 石 崎 ) は 、 規 律 力 概 念 の 必 要 性 に つ い て は 、 今 の と こ ろ 保 留 状態 。
2、取消訴訟の排他的管轄から生じる効力
側
争 段
服
又 取消訴訟だけ
行政処分は、国民の
からその効力を
う手
は行政不
申立て
は
公定力 と ② 不可争力 と い う 行 政 処 分 に 特 有 の 効 力 が 生じ
る 。 こ れ ら は 行 政 処 分 一 般 に 生じ る 効 力 で 、 そ の 性 質 も 実 体 的 効 力 で は な く 訴訟 法
的(手続法的)効力である。
であるという制度から、①
公定力
①公定力の概念
(1)
(
櫻井 ・ 橋本 p.88、 塩 野 Ⅰ p.144)
仮 に 違 法 で あ っ て も 、 無 効 で な い 限 り 、 正式 に 取 り 消 さ れ る ま で 有
効 な も の と し て 通用 す る 。 行 政 処 分 の こ の よ う な 通用 力 を 公定力 と い う 。
公 定 力 に 関 す る 最 高 裁 判 例 の 基本 的 考 え 方 は 、 ゴミ焼却 場 設 置 決 定 事 件 最 高
裁 昭和 39.10.29判 決 ( 民 集 18-8-1809、 判 時 395-20、 ケースブック p.2 6 8) が 述べ て
いるが、これは適法性推定説という古い根拠付けに立脚している(レジュメ
p.104) 。 後 に 述べ る よ う に 、 今日 で は 、 取消訴訟 の 排他 的 管轄 制 度 を 採用 し
た 立 法 制 度 の 結 果 、 公 定 力 が 生じ る と い う 考 え 方 が 主流 で あ る 。
※宇賀 Ⅰ p.32 6 以 下 は 公 定 力 と い う 概 念 は 用 い ず 、 「 行 政 行 為 と 取消訴訟 の 排他 的
管轄 」 と い う タイ ト ル で 公 定 力 を 説 明 し て い る 。
行政処分は、
②
公定力はどのような効果として現れるか
a ) 仮 に 違 法 で あ っ て も ( た と え 不 服 申 立 て や 取消訴訟 が 提 起 さ れ て い た と し て も ) 、
当該処分を有効なものとして手続を続行できる。
b ) 行 政 処 分 が 違 法 で あ っ て も 、 行 政 強 制 の 制 度 ( 行 政 代執 行 や 滞納 処 分 等 ) を と る
こ と が で き る 。 但 し 、 行 政 代執 行 法 や 国 税 徴収 法 の 要 件 を 満 た す こ と が 必 要 で あ
ることはいうまでもない。
c) 他 の 行 政 機 関 も 当 該 行 政 処 分 の 効 力 を 否 定 す る こ と が で き な い 。
d ) 通常 の 民 事 訴訟 や 公 法 上 の 当 事 者 訴訟 で は 、 裁 判 官 と い え ど も 、 行 政 処 分 の 効 力
を否定することはできない。つまり、行政処分が有効であることを前提として判
断 し な け れ ば な ら な い 。 最 高 裁 昭和 30.12.2 6 判 決 ( 民 集 9-14-2070、 判 タ 54-2 6 )
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裁判所に対する
公 定 力 の 効 果 は 、 例 え ば 、 既納 税 金 の 返還訴訟 が 提 起 さ れ た
官が課税処分は違法であると判断しても、その課税処分が無効と
言 え な い 限 り ( つ ま り 通常 の 違 法 に と ど ま る 限 り ) は 不 当 利 得返還 請 求 は 棄
却 せ ざ る を 得 な い と い う こ と に 典型 的 に 表 れ る な ぜ な ら 、 課 税 処 分 が 無 効 で
な い 限 り 公 定 力 が 働 く の で 課 税 処 分 も そ れ に 基づ く 徴 税 も 有 効 だ か ら で あ る 。
処 分 が 無 効 と な る の は 、 原則 と し て 処 分 の 違 法 性 が 重 大 明 白 で あ る 場 合 で あ
とき、裁判
る。
大
阪 高 裁 昭和 44.9.30判 決 ( 判 時6 0 6 -19、 LEX/DB
ト事件
6 ス コ ッチライ
210314 1)
既納 税 金 の 不 当 利 得返還 請 求訴訟 で 、 裁 判 所 は 課 税 処 分 は 違 法 で あ る が
無 効 と は 言 え な い と し た う え で 、 次 の よ う に 述べ て 、 不 当 利 得返還 請 求
を 棄却 し た 。
本件の課・徴税処分は権限ある官庁によつて取り消されるまでは有効
な も の で あ る か ら 、 被控訴 人 が 控訴 人 か ら 徴収 し た 金員 は 、 適 法 且 有
効 に 徴収 さ れ た も の と 言 う こ と が で き る の で あ つ て 、 こ れ を 法 律 上 の
原因 な く 不 当 に 利 得 し た も の と 言 う こ と は で き な い 。 し た が つ て 、 控
訴 人 の 本訴 請 求 は こ の 点 で 失 当 と し て 棄却 す べ き も の で あ る 。
※公 定 力 が 最 も 強 い 効 果 を 示 す の は d ) の 場 合 で あ る 。 つ ま り 、 司 法 権 を 有 す る 裁 判
所 で す ら 、 特 定 の 手 続 ( 取消訴訟 ) に よ ら な け れ ば 行 政 処 分 の 効 力 を 否 定 で き な
い の で あ る 。 こ れ を 「 取消訴訟の排他的管轄 」 と か 、 「 取消訴訟の利用強制 」 と
い う 言葉 で 表現 し て い る 。
③公 定 力 の 根 拠 と し て の 取消訴訟 の 排他 的 管轄
a ) 伝統 的 な 行 政 法 学 説 は 、 行 政 処 分 ( 行 政 行 為 ) は 行 政 機 関 の 権 威 あ る 決 定 で あ る
の で 、 適 法 性 が 推 定 さ れ る と い う 理 由 を 挙げ て い た ( 適 法 性 推 定 説 ) 。
b ) し か し 、 こ の よ う に 行 政 処 分 に ア ・ プリオリ ( 先験 的 ) に 適 法 性 の 推 定 を 認 め る
こ と に 対 し て 、 6 0年 代頃 か ら 強 い 批 判 が 出 さ れ 、 今日 で は 適 法 性 推 定 説 を 支 持 す
る 論 者 は 皆 無 に 近 い 。 そ し て 、 公 定 力 の 実 定 法 上 の 根 拠 は 、 現 行 法 制 度 が 取消訴
訟 制 度 を 設 け て お り 、 取消訴訟 で し か 行 政 処 分 を 取 り 消 す こ と が で き な い と す る
訴訟 制 度 ( 取消訴訟 の 排他 的 管轄 ) に あ る と い う 考 え が 多数 の 支 持 を 得 て い る 。
c ) な ぜ 、 取消訴訟 の 排他 的 管轄 が 公 定 力 の 根 拠 と な る の か
ア ) 行 政 処 分 の 取消 権 者 は 限 定 さ れ て い る 。
職 権 取消 の 場 合 : 処 分 行 政 庁 と そ の 上 級 行 政 庁 ( 上 級 庁 に 関 し て は 、 法 律 の
根拠が必要かどうかについて見解が分かれている)
争訟取消 の 場 合 : 不 服 申 立 て に あ っ て は 審 査 庁 ( 審 査 請 求 の 場 合 ) 又 は 処 分
庁 ( 異議 申 立 て の 場 合 ) 。 取消訴訟 に あ っ て は 裁 判 所 。
イ) こ れ 以 外 の 行 政 機 関 や 裁 判 所 は 、 行 政 処 分 を 取 り 消 し た り 、 そ の 効 力 を 勝 手 に
否定することはできないとされている。
ウ ) 従 っ て 、 行 政 処 分 が 正式 に 取 り 消 さ れ な い 限 り 、 行 政 処 分 は そ の 通用 力 を 持 つ
こととなる。
エ ) こ れ は 違 法 な 行 政 処 分 が 事 実 上 通用 し て い る と い う も の で は な く 、 法 制 度 上 の
通用 力 で あ る 。 こ れ が 公 定 力 で あ る 。
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④取消訴訟 の 排他 的 管轄 の 他 に 、 公 定 力 ( 違 法 な 行 政 処 分 の 通用 力 ) を 支 え る し く み
a ) 執 行 不 停 止 原則 : 日本 の 現 行 法 制 度 は 、 不 服 申 立 て や 取消訴訟 が 提 起 さ れ て も 、
行 政 処 分 の 効 力 は 妨げ ら れ な い と し て い る の で ( 執 行 不 停 止 原則 ) 、 公 定 力 は 非
常に強い。
※ドイツ 行 政 法 も 行 政 行 為 は 取 り 消 さ れ る ま で は 有 効 で あ る と し て い る が 、 不
服 審 査 請 求 や 取消訴訟 が 提 起 さ れ れ ば 、 原則 と し て 執 行 が 停 止 さ れ る ( 自 動
的停止効制度)。つまり、公定力は必然的に執行不停止制度を伴うものでは
ない。
b ) 公 権 力 の 行 使 に 関 す る 仮 処 分 の 排 除 ( 行 政 事 件 訴訟 法 § 44)
c ) 取消訴訟 の 短期 的 出訴期間 制 度 ( 出訴期間 を 過ぎ る と 、 不 可 争 力 が 生じ 、 違 法 な
行 政 処 分 で も 国 民 の 側 か ら 取消 を 請 求 で き な く な る 。 そ の た め 違 法 な 行 政 処 分 の
通用 力 は 一 段 と 強 く な る 。 )
d ) 行 政 処 分 の 自 力 執 行 を 認 め る 法 律 の 存在 ( 行 政 代執 行 法 、 国 税 徴収 法 の 滞納 処 分
及 び そ れ を 準用 す る 諸 法 律 )
※ 2004年 行 政 事 件 訴訟 法 改正 前 は 義務 付 け訴訟 が 明 記 さ れ て お ら ず 、 義務 付 け訴訟
は を 提 起 す る こ と は 極 め て 困難 で あ っ た が 、 こ の こ と も 公 定 力 ( 違 法 な 行 政 処 分
の 通用 力 ) を 強 め る も の で あ っ た 。 な ぜ な ら 、 出訴期間後 に 違 法 性 が 判 明 し た り 、
事 情 の 変更 で 違 法 状態 と な っ た と し て も 、 職 権 取消 の 義務 付 け を 請 求 す る こ と が
できなかったからである。
今後 は 、 職 権 取消 の 義務 付 け を 求 め る 訴訟 も 可 能 と な る と 考 え ら れ る 。
⑤公 定 力 制 度 の 正 当 性 ・ 合 憲 性
法 治主義原則 か ら 見 れ ば 公 定 力 は 不 思 議 な 制 度 で あ る 。 違 憲 論 が あ っ て も お か し
く な い 。 で は 、 な ぜ公 定 力 ( す な わ ち取消訴訟 制 度 の 排他 的 管轄 制 度 ) は 認 め ら
れ る の か 。 塩 野 Ⅰ p.14 6 は 、 ① 紛争 処 理 の 合 理 化 ・ 単 純化機 能 、 ② 紛争解決結 果 の
合 理 性 担 保 機 能 、 ③他 の 制 度 的 効 果 と の 結 合 機 能 を あ げ て い る が 、 大 ま か に い う
と次のようにいえるのではなかろうか。
行政処分をめぐる法関係の画一的確定の要請
行 政 処 分 に 対 す る 信頼 保 護 の 必 要 性
行 政 処 分 の 内容 の 早期 実 現 の 必 要 性
た し か に 、 権 利 や 資 格 を 付 与 す る 処 分 、 公 的 な 確 認 を 行 う 処 分 、 収用 裁 決 や 公共
料金 認 可 な ど の よ う に 多数 人 の 権 利 義務 関 係 に 影響 を 及 ぼ す 処 分 は 、 正式 に 取 り
消 さ れ る ま で は 通用 力 を 持 た せ て お く べ き で あ ろ う 。 ま た 、 不 利 益 処 分 の な か に
は 緊急 に 執 行 さ れ る べ き も の も 少 な く な い 。 も っ と も 、 こ れ が す べ て の 行 政 処 分
にあてはまるともいえない。
従 前 よ り 公 定 力 の 存在 に 疑 問 を 投げ か け て い た 阿部泰隆 は 、 公 定 力 概 念 を 否 定 す
べ き だ と す る ( 阿部泰隆『 行 政 法 解釈 学 ① 』 有 斐閣 ( 2008年 ) p.72以 下 ) 。
※⑤ の よ う な 問 題 提 起 が 理 論 的 に 可 能 と な っ た の は 、 公 定 力 の 根 拠 に つ き 、 取消訴
訟排他 的 管轄 説 が 有 力 と な っ た か ら で あ る 。 つ ま り 、 排他 的 管轄 制 度 を 採用 す る
立法政策の合憲性・合理性が問われるわけである。適法性推定説ではこのような
問 い か け は 論 理 的 に 出 て こ な い 。 適 法 性 の 推 定 が 正 し い と す れ ば 、 通用 力 に 関 す
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る論拠
づけ は そ れ で 十 分 で あ る か ら で あ る 。
※現 行 行 政 事 件 訴訟 法 は 排他 的 管轄 を 明 文 で 定 め て い る わ け で は な い 。 し か し 、 現
行 法 制 下 で 「 行 政 処 分 に 関 す る 取消訴訟 の 排他 的 管轄 」 が 認 め ら れ る こ と の 根 拠
は 、 取消訴訟 の 短期 的 出訴期間 の 制 度 で あ る と 解 さ れ て い る 。 つ ま り 、 取消訴訟
に 対 し 短 い 出訴期間 を 課 し て お き な が ら 、 そ の 後 に お い て 、 他 の 訴訟 で 当 該 処 分
の 効 力 を 否 定 す る こ と が 可 能 と な れ ば 、 出訴期間 制 度 の 意 味 が な く な る か ら で あ
る。
お 、 行 政 処 分 に つ い て 取消訴訟 と い う 特 別 の 制 度 を 一 般 的 に 定 め 、
行政処分に不服がある場合にはその利用を強制するという仕組みは、フ
ラ ン ス や ドイツ な ど で 発達 し た も の で あ る ( そ の 歴史 的 由来 は 興 味 深
い ) 。 我 が 国 は 明 治期 に ドイツ を モデ ル に し て 行 政 裁 判 所 制 度 を 作 っ た
の で 、 そ の 仕 組 み を 採用 し た わ け で あ る 。 行 政 裁 判 所 制 度 を 廃 止 し た 今
日 に お い て も 、 抗 告 訴訟 制 度 、 就中 (なかんずく) 取消訴訟 制 度 を 採用 し て い る
の で 、 行 政 処 分 一 般 に 公 定 力 と 不 可 争 力 が 発生 す る 制 度 と な っ て い る 。
ち な み に 、 ドイツ で も 行 政 処 分 ( 行 政 行 為 ) は 取 り 消 さ れ る ま で は 有
効 な も の と し て 通用 す る と 理 解 さ れ て い る が 、 「 公 定 力 」 と い う 概 念 は
用 い ら れ て い な い 。 「 公 定 力 」 と い う 概 念 は 美濃部博士 に よ る も の だ と
言われている。この概念設定があまりにも見事であったために、さらに
そ れ が 適 法 性 推 定 説 ( こ れ 自 体 は ドイツ に も あ る ) と 結び つ い て い た た
め 、 そ れ は 公 権 力 優位 の 行 政 法 制 度 ・ 行 政 法 理 論 を 「 構 築 」 す る う え で
「 猛威 」 を ふ る っ た 。 公 定 力 を 適 法 性 推 定 説 か ら 解放 し 、 取消訴訟排他
的 管轄 論 で 説 明 す る よ う に な る の は 、 戦後 の 研究 者 に よ る 19 6 0年 代 の 研
究 の 成 果 で あ り ( 特 に 兼子仁『 行 政 行 為 の 公 定 力 の 理 論 』 ) 、 1970年 代
ぐ ら い か ら 教科書 に も 反映 す る よ う に な っ た 。 こ の あ た り の 事 情 は 塩 野
Ⅰ p.151の 注 ( 1) 参 照 。
行 政 事 件 訴訟 法 改正 ( 2004年 ) を め ぐ る 論 議 で も 、 行 政 処 分 に つ き 抗
告 訴訟 と 当 事 者 訴訟 の 両 方 を 認 め る べ き だ と い う 議 論 も 出 さ れ て い た が
この仕組みを変えるまでにはならなかった。また、法律で行政処分と規
定 さ れ た も の だけ が 行 政 処 分 ( す な わ ち取消訴訟 の 排他 的 管轄 に 服 す )
というようにすべきだという見解もあるが、現実的かどうかは疑問であ
な
る。
⑥公 定 力 の 範囲 と 限 界
a ) 無 効 の 行 政 処 分 に 公 定 力 は 生じ な い
行 政 処 分 の 違 法 性 ( 瑕疵 ) の 程 度 が あ ま り に 高 い 場 合 に は 、 行 政 処 分 は 無 効 と
考 え ら れ る の で 、 公 定 力 は 生じ な い 。 つ ま り 、 誰 で も 行 政 処 分 の 効 力 を 否 定 し
てよい。
瑕疵 に は 、 取消 理 由 と な る 瑕疵 と 無 効 原因 と な る 瑕疵 の 二
つ の レ ベ ル が あ る こ と に な る 。 無 効 原因 と な る 瑕疵 は 、 一 般 に 「 重 大 か つ 明 白
な 瑕疵 」 と さ れ て い る が 、 詳 し く は 後 の 「 行 政 処 分 の 瑕疵 」 の と こ ろ で 説 明 す
つまり、行政処分の
る。
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2013 行政法
ア) 誰 で も 行 政 処 分 の 効 力 を 否 定 し て よ い と い う こ と の 最 も 端 的 な 現 れ は 、 民 事
訴訟 や 公 法 上 の 当 事 者 訴訟 で 、 裁 判 所 が 行 政 処 分 が 無 効 で あ る と 判 断 し た ら 、
そ の 効 力 を 否 定 し て 裁 判 を す る こ と が で き る と い う こ と で あ る 。 先 に 挙げ た
課税処分の例で言えば、裁判所が課税処分が無効であると判断したならば、
過誤納 付 に つ き 、 不 当 利 得返還 請 求 を 認 容 す る こ と が で き る 。
イ ) 行 政 機 関 も 無 効 の 行 政 処 分 に は 拘束 さ れ な い 。 例 え ば 、 土 地 収用 に お い て は 、
事 業 認 定 ( 国 土 交通 大 臣 か 知 事 が 行 う 処 分 ) の 後 、 収用委員会 に お い て 収用
裁 決 が な さ れ る が 、 事 業 認 定 が 単 に 取 り 消 し う る 瑕疵 を 有 す る だけ の と き は 、
収用委員会 は 事 業 認 定 の 効 力 を 否 定 で き な い 。 し か し 、 収用委員会 が 事 業 裁
決が無効であると判断したときは、事業認定の効力を否定して裁決をするこ
と が で き る 。 ( も っ と も 、 収用 裁 決 に つ い て は 、 後 に 述べ る 違 法 性 承継 の 可
能 性 が あ る か ら 、 瑕疵 が あ れ ば そ の 効 力 を 否 定 で き る の で は な い か と い う 見
解 も 存在 し う る が 但 し 実 務通 説 は 否 定 こ こ で は 立 ち入 ら な い 。 無 効
の行政処分は誰でもその効力を否定できるということのイメージがつけばよ
-
-
い。)
ウ) 勿 論 、 国 民 も 処 分 が 無 効 で あ る と 考 え る と き は 、 そ の 効 力 を 否 定 し て よ い 。
しかし、それを裁判所に認めさせることができなければ、行政処分により形
成された法規範に違反した責任を負うことになってしまう。
b ) 公 定 力 は 国 家賠償訴訟 に は 及 ば な い
→
はない。
公 定 力 は 国 家賠償 請 求 を 妨げ る も の で
ア ) 公 定 力 は 国 家賠償訴訟 に は 及 ば な い と さ れ て い る 。 す な わ ち 、 国 賠 請 求 が 認
め ら れ る た め に 、 予 め 処 分 の 取消 し が な さ れ て い な け れ ば な ら な い と い う も
の で は な い 。 も っ と も 、 国 家賠償訴訟 で 行 政 処 分 の 違 法 性 が 認 め ら れ た と し
て も 、 行 政 処 分 の 効 力 は 否 定 さ れ な い 。 損害賠償 を 得 る だけ で あ る 。
こ れ に つ い て 、 こ れ ま で は 「 公 定 力 は 国 家賠償訴訟 に は 及 ば な い 」 と い う
見 出 し に し て い た 。 し か し 、 今日 の 公 定 力 論 は 、 処 分 の 適 法 性 の 通用 力 で
は な く 、 効 力 の 通用 力 で あ る と 解 さ れ て い る 。 国 賠 請 求 は 処 分 の 効 力 を 否
定するものではないので、その限りでは公定力は否定されていない。だと
す れ ば 、 従 前 の 表現 か ら 、 上 記 見 出 し の よ う に 「 公 定 力 は 国 家賠償 請 求 を
妨げ る も の で は な い 。 」 と 変 え る べ き で は な い か と 考 え る 。 な お 、 こ の 指
摘 は 新潟 大 学 法 科 大 学 院生 に よ る も の で あ る 。 ( も し 、 公 定 力 を 適 法 性 推
定 説 で 説 明 す る な ら ば 従 前 の 表現 で も 良 か っ た か も 知 れ な い が 、 適 法 性 推
定 説 を 否 定 し た 時点 で 表現 を 変 え る べ き で あ っ た だ ろ う 。 )
イ ) と こ ろ が 、 単 に 金銭債務 を 発生 さ せ る だけ の 行 政 処 分 や 、 金銭債 権 の 発生 を
阻 止 し た り あ る い は 金銭債 権 を 消滅 さ せ る だけ の 行 政 処 分 に つ い て は 、 国 家
賠償訴訟 が 許 さ れ な い の で は な い か と い う 見 解 が 出 さ れ て い る 。 国 家賠償 で
も 同 じ結 果 が 得 ら れ る の で 、 出訴期間 制 度 の 潜脱 に な る か ら で あ る 。 塩 野 Ⅰ
p.148、 塩 野 Ⅱ p.32 6 参 照 ( 塩 野 宏 は 、 国 家賠償 請 求 権 の 成 立 を 公務員 の 故 意
ま た は 重過失 に 限 っ て い る ) 。 し か し 、 こ の 説 に 対 し て は 反 論 も あ る ( 例 え
ば人見剛)。
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近 の 最高裁平成22.6.3判決 ( 民 集6
4-4-1010、 判 時 2083-71、 LEX/DB 254422 6 4) が 次 の よ う に 決 着 を つ け た 。
原 審 は 、 国 家賠償 法 に 基づ い て 固 定 資産 税 等 の 過納金 相 当 額 に 係 る 損
害賠償 請 求 を 許 容 す る こ と は 課 税 処 分 の 公 定 力 を 実 質 的 に 否 定 す る こ と
になり妥当ではないともいうが、行政処分が違法であることを理由とし
て 国 家賠償 請 求 を す る に つ い て は 、 あ ら か じ め 当 該 行 政 処 分 に つ い て 取
消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない(最高裁昭
和 35年 ( オ ) 第 248 号 同 3 6 年 4 月 21 日 第 二小 法 廷 判 決 ・ 民 集 15 巻 4 号 850 頁
参 照 ) 。 こ の こ と は 、 当 該 行 政 処 分 が 金銭 を 納 付 さ せ る こ と を 直 接 の 目
的 と し て お り 、 そ の 違 法 を 理 由 と す る 国 家賠償 請 求 を 認 容 し た と す れ ば 、
結 果 的 に 当 該 行 政 処 分 を 取消 し た 場 合 と 同 様 の 経済 的 効 果 が 得 ら れ る と
いう場合であっても異ならないというべきである。
すなわち、かかる場合でも国賠請求は否定されない。しかしながら、国賠法
上 の 違 法 性 判 断 を 職務 行 為 基準 説 に 基づ い て 判 断 す る も の と し た の で 、 取消
訴訟 上 の 違 法 性 と は 判 断 基準 が 異 な る 。 ま た 、 生 活 保 護 に 関 し て 大 阪 地 裁 平
成 13.3.29判 決 ( 訟月 49-4-1297、 LEX/DB 2808149 6 ) 参 照 。 こ の 問 題 に つ い て
は 、 宇賀 Ⅰ p.332以 下 が 詳 し い 。
しかしながら、この問題については、最
c ) 刑 事 訴訟 に 公 定 力 は 及 ぶ か と い う 問 題 が あ る 。
・行政処分に違反した場合に刑事罰を課されることがある。しかし、公定力はこ
の 場 合 の 刑 事 訴訟 に は 及 ば な い と す る の が 学 説 の 基本 的 傾向 で あ る 。 つ ま り 、
犯罪 構 成 要 件 の 審 査 は 人 権 保 障 に 関 わ る も の で あ り 、 刑 事 裁 判 官 は 行 政 処 分 が
違 法 か ど う か を 独自 に 判 断 し 、 違 反 行 為 の 有 罪 ・ 無 罪 を 判 断 す べ き と 考 え ら れ
て い る 。 塩 野 Ⅰ p.152 注 ( 6 ) 参 照
最高裁昭和53.6.16判決 ( 刑集 32-4- 6 05、 判 時 893-19、 ケースブック p.107、 LEX/D
B 27 66 2111) 山 形 ソ ー プラ ン ド 事 件 刑 事 訴訟
本来 、 児童遊園 は 、 児童 に 健全 な 遊び を 与 え て そ の 健康 を 増進 し 、 情操 を
ゆ た か に す る こ と を 目 的 と す る 施 設 ( 児童福祉 法 40 条 参 照 ) な の で あ る か
ら 、 児童遊園 設 置 の 認 可 申 請 、 同 認 可 処 分 も そ の 趣 旨 に 沿 つ て な さ れ る べ
き も の で あ つ て 、 前 記 の よ う な 、 被 告 会社 の ト ル コ ぶ ろ 営業 の 規 制 を 主 た
る 動 機 、 目 的 と す る 余 目 町 の 若竹児童遊園 設 置 の 認 可 申 請 を 容 れ た 本 件 認
可 処 分 は 、 行 政 権 の 濫用 に 相 当 す る 違 法 性 が あ り 、 被 告 会社 の ト ル コ ぶ ろ
営業 に 対 し こ れ を 規 制 し う る 効 力 を 有 し な い と い わ ざ る を え な い
最高裁昭和63.10.28決定 ( 刑集 42-8-1239、 判 時 1295-150、 ケースブック p.53、
LEX/DB 2780493 6 ) は 、 刑 事 訴訟 に も 公 定 力 が 及 ぶ と し て い る よ う に 読 め る 。
(最初)の免許停止処分の当時、処分行政庁は、相当な根拠のある関係資
料 に 基づ き 、 被害 者 ら が 傷害 を 負 つ た と 認 め た の で あ る か ら 、 そ の 後……
刑 事 裁 判 に お い て 傷害 の 事 実 の 証 明 が な い と し て 、 被 告 人 が 無 罪 と さ れ た
からといつて、右処分が無効となるものではない。そうすると、本件免許
停止処分は、無効ではなく、かつ、権限のある行政庁又は裁判所により取
り 消 さ れ て も い な い か ら 、 ( そ の 後 、 別 の 交通 違 反 事 件 を 起 こ し た ) 被 告
人 を ( 本 件 免 許 停 止 処 分 の 前 歴 が あ る こ と を 理 由 に ) 反則 者 に 当 た ら な い
と 認 め て な さ れ た 本 件 公訴 の 提 起 は 、 適 法 で あ る 。
( ※ 石 崎 注- も し 、 本 件 免 許 処 分 が 違 法 で あ る と し て 取 り 消 さ れ て い た ら 、
但し、
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6-
2013 行政法
交通 違 反 事 件 も 犯則金 を 払 え ば 起訴 さ れ な い は ず の 事 件 で あ っ た
が 、 原 告 は 取消訴訟 を 提 起 し て い な か っ た 。 )
第 2の
※ 私 ( 石 崎 ) は 刑 事 訴訟 に 公 定 力 を 及 ぼ す べ き で は な い と 考 え て い る が 、 最 高 裁
判例は明確な態度を示しているわけではない。
d ) 先 行 行 為 と 後 行 行 為 と の 間 に 「 違 法 性 の 承継 」 が 認 め ら れ る 場 合 は 、 先 行 処 分 の
公定力が制約されることとなる。
ア ) 「 違 法 性 の 承継 」 と は 、 連続 し て 行 わ れ る 二 つ の 行 政 処 分 が あ っ た と き に 、
先行処分の違法が後行処分の違法事由となり、先行処分が取り消されていな
くても、当該先行処分の違法を事由に後行処分を取り消すことができる場合
を 示 す 言葉 で あ る ( 公 定 力 に よ れ ば 先 行 処 分 が 取 り 消 さ れ て い な い 限 り 、 そ
れは有効であるから、先行処分が仮に違法であっても後行処分は適法となる
は ず で あ る 。 し か し 、 違 法 性 の 承継 を 認 め る と 、 後 行 処 分 取消訴訟 で 先 行 処
分 の 効 力 を 否 定 し て 後 行 処 分 を 取 り 消 す こ と が で き る 。 す な わ ち先 行 処 分 の
公定力が後行処分に及ばないということとなるのである。)
な お 、 違 法 性 の 承継 を 認 め る か ど う か は 法 律 で 規 定 さ れ て い る 訳 で は な い の
で 、 法 解釈 に よ る こ と に な る 。
イ ) 判 例 学 説 の 多数 が 違 法 性 の 承継 を 認 め る も の に 土 地 収用 の 事 業 認 定 と 収用 裁
決がある。この場合、事業認定が違法であれば、事業認定が取り消されてい
な く て も 、 事 業 認 定 の 違 法 を 理 由 に 収用 裁 決 を 取 り 消 す こ と が で き る 。
ウ ) 他 方 、 義務 賦 課 処 分 と 行 政 代執 行 と で は 違 法 性 が 承継 さ れ ず 、 課 税 処 分 と 滞
納 処 分 の 間 で も 違 法 性 は 承継 さ れ な い と 考 え ら れ て い る 。 こ の 場 合 は 、 義務
賦 課 処 分 が 取 り 消 さ れ て い な い 限 り 、 同 処 分 の 違 法 を 理 由 に 代執 行 の 戒 告 処
分 の 取消 を 請 求 す る こ と は で き な い 。 な お 、 違 法 性 の 承継 が 認 め ら れ る 方 が
例外 的 で あ る 。
※ 違 法 性 の 承継 に つ い て は 、 最 近 の 最 高 裁 平 成 21.12.17判 決 ( 民 集6 3-10-2 6 31、
判 時 20 6 9-3、 LEX/DB 254415 6 7) が 重 要 判 例 で あ る が 、 後 の 「 行 政 処 分 の 瑕
疵」のところで詳しく扱う予定である。
e ) 許 認 可 に 基づ く 私 人 の 行 為 が 第 三 者 の 権 利 を 侵害 す る 場 合
許 認 可 を 受け て 私 人 が 行 う 行 為 が 私 法 上 も 適 法 と な る も の で は な い 。 従 っ て 、
許 認 可 を 受け て 行 う 私 人 の 行 為 に 対 し 、 他 人 が 差 し 止 め な ど の 民 事 訴訟 を 提 起
す る こ と は な ん ら 妨げ ら れ な い 。 原発 建 設 差 止 め を 認 容 し た 志賀原発 2 号機 建 設
差 止 金沢 地 裁 平 成 18.3.24判 決 ( 判 時 1930-25、 LEX/DB 28110929) 参 照 。 廃棄 物
処理施設でも民事で建設差止めを認める事例は少なくない。
も っ と も 、 こ れ は 行 政 処 分 が 第 三 者 を 拘束 す る 効 果 を 有 し な い か ら で あ っ て 、
この問題は公定力の問題ではなく、処分の実体的効力の問題である。
※ そ れ に 対 し 、 処 分 が 第 三 者 に 対 し て 実 体 的 な 拘束 力 を 有 す る の で あ れ ば 、 当
該 拘束 力 は 公 定 力 に よ っ て 支 え ら れ る 。 例 え ば 、 レ ジ ュ メ p.108で 書 い た よ う
に、空港設置許可は周辺土地所有者に対する所有権の制限効果が持つが、こ
のような制限を
取 り 除 く た め に は 設 置 許 可 の 取消 し が 必 要 で あ る 。
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2013 行政法
病院開 設 中 止 等 勧 告 の 処 分 性 と 公 定 力 に つ い て
病院開 設 中 止 勧 告 に 関 す る 最 高 裁 平 成 17.7.15判 決 ( 民 集 59- 6 -1 66 1、 判 時 1905-49、
ケースブック p.295) と 、 病床数削減勧 告 に 関 す る 最 高 裁 平 成 17.10.25判 決 ( 判 時 1920-3
2) は 、 こ れ ら の 勧 告 が 行 政 指導 で は あ る が 行 政 処 分 に あ た る と し た 。 従 前 の 行 政 処
分 の 理 解 か ら す れ ば 、 行 政 処 分 の 概 念 を か な り 広げ た こ と と な る 。 こ の 勧 告 制 度 は
詳 し く は 判 決 を 読ん で も ら う と し て 、 おおむね次 の よ う な 制 度 で あ る 。
a ) 医療 法 は 、 病院 を 開 設 し よ う と す る と き は 、 開 設 地 の 都道府県知 事 の 許 可 を
受け な け れ ば な ら な い と 定 め て お り ( 同 法 § 7① ) 、 都道府県知 事 は 、 医療計
画 の 達 成 の 推進 の た め に 特 に 必 要 が あ る 場 合 に は 、 病院開 設 申 請 者 等 に 対 し 、
病院 の 開 設 、 病床数 の 増加 等 に 関 し 勧 告 す る こ と が で き る と し て い る ( 同 法
§ 30の 11) 。 但 し 、 医療 法 上 は 、 上 記 の 勧 告 に 従 わ な い 場 合 に も 、 そ の こ と
を 理 由 に 病院開 設 の 不 許 可 等 の 不 利 益 処 分 が さ れ る こ と は な い 。
b ) 他 方 、 事 件 当 時 の 健康 保 険 法 § 43の 3② は 、 都道府県知 事 は 、 保 険医療機 関
等 の 指 定 の 申 請 が あ っ た 場 合 に 、 一 定 の 事 由 が あ る と き は そ の 指 定 を 拒む こ
と が で き る と 規 定 し て お り 、 上 記勧 告 に 従 わ な い こ と も そ の 拒否 理 由 に 当 た
る と い う 運用 が さ れ て き た 。 現在 は 、 そ の こ と が 同 法 § 6 5 ④二号 に 規 定 さ れ
(補足)
①
ている。
c ) こ の 保 険医療機 関 の 申 請 は 病院開 設 許 可 を 受け 、 病院 が 完 成 し て か ら 行 う も
の と さ れ て い る 。 病院開 設 者 に す れ ば 、 保 険医療機 関 と し て 指 定 さ れ る か ど
う か は 病院経営 上 決 定 的 な 意 味 を 持 つ だ ろ う し 、 勧 告 を 無 視 し て 病院 を 開 設
す る の も 大 変 な リスク で あ ろ う 。
②
公 定 力 に よ っ て 実 体 的 に 通用 す る 効 力 の 内容 は 、 個々 の 行 政 処 分 の 有 す る 実 体 的 な
効 果 で あ る 。 法 的 拘束 力 を 有 し な い 行 政 指導 を 行 政 処 分 と 認 め た と し て も 、 行 政 指
導 に 拘束 力 が 生じ る 訳 で は な い 。 上 記 判 決 で い え ば 、 最 高 裁 の 法 廷 意 見 は 、 病院開
設 中 止 勧 告 や 病床数削減勧 告 は 行 政 指導 と し て お り ( 但 し 、 事 実 上 病院開 設 者 を 拘
束 し て い る こ と も 認 め て い る ) 、 こ れ ら 勧 告 が 法 的 な 拘束 力 を 有 す る 訳 で は な い 。
それは行政処分性が認められても同じであるし、その意味では公定力も無に帰す
( 藤田 意 見 参 照 ) 。
③ し か し な が ら 、 当 該 勧 告 に 従 わ な い こ と が 後続 の 行 政 処 分 の 要 件 と な る 場 合 、 行 政
指導又 は 勧 告 で あ っ て も 行 政 処 分 性 が 認 め ら れ る こ と が あ り ( 塩 野 Ⅱ p.113) 、 さ ら
に 当 該 処 分 に は 後続 処 分 の 構 成 要 件 効 果 が 認 め ら れ 、 こ の 効 力 は 公 定 力 に よ っ て 保
護 さ れ る と い う 立 論 も 不 可 能 で は な い 。 例 え ば 、 病院開 設 中 止 勧 告 で は 、 当 該 勧 告
が 取 り 消 さ れ な い 限 り 、 現 行 健康 保 険 法 § 6 5 ④二号 の 要 件 充 足 性 を 否 定 す る こ と は
で き な い と す る 立 論 で あ る 。 病床数削減勧 告 事 件 の 藤田 裁 判 官 意 見 が こ の 点 に 触 れ
ている。但し、法廷意見がそこまで明言しているものではないことにも注意してお
く必要がある。
④ も し 勧 告 が 行 政 処 分 で は な い と す れ は 、 公 定 力 は 生じ な い の だ か ら 、 こ の よ う な 議
論 は 不 要 で 、 保 険医療機 関 指 定 拒否 処 分 を 争 う 訴訟 で 勧 告 自 体 の 違 法 を 主張 し て も
何ら問題ない。
他 方 、 実 際 問 題 と し て は 、 病院 設 置 者 と し て は 、 勧 告 の 出 た 時点 で そ れ を 争 い 、 中
止勧告の違法性を明らかにした方がよいという側面もある。
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2013 行政法
⑤ こ の よ う な 場 合 、 行 政 処 分 性 を 認 め た 方 が よ い の だ ろ う か ( 公 定 力 が 生じ る が 、 取
消訴訟 で 争 え る ) 、 行 政 処 分 性 を 否 定 し た 方 が よ い の だ ろ う か ( 公 定 力 は 生じ な い
が 、 取消訴訟 は で き な い ) 。 そ れ と も 、 他 の 解決 方 法 ( 例 え ば 取消訴訟 が 可 能 だ が 、
公 定 力 は 生じ な い と 考 え る と か ) が あ る だ ろ う か 。
⑥また、一般には行政処分性が否定されるような勧告であっても、実は行政処分だっ
た と さ れ る よ う だ と 、 国 民 ( 病院開 設 者 ) は 取消訴訟 を 提 起 し て お か な け れ ば な ら
な い こ と と な る の で 、 そ の 判 断 ミス の リスク は 国 民 が 負 う こ と に な り か ね な い 。 出
訴期間 制 度 が あ る の で な お さ ら で あ る 。 こ の よ う な 限 界 的 事 例 で は 、 む し ろ 国 民 の
側 が ま ず は 訴訟 形 式 を 選択 し て も 、 そ れ が 国 民 の 不 利 に な ら な い と い う 解釈 ・ 運用
も必要だろう。
※この問題はかなり難しい問題なので、当面は理解できなくてもよい。
不可争力
①不可争力の意味
・ 行 政 処 分 は 出訴期間 を 過ぎ た ら 、 国 民 の 側 か ら そ の 取消 を 求 め る こ と は で き な く
な る と い う 効 力 を 不可争力 と い う 。
・ 取消訴訟 の 短 い 出訴期間 の 制 度 は ドイツ や 日本 な ど で 採用 さ れ て お り 、 取消訴訟
制 度 を 採用 す る 場 合 に 一 般 に 見 ら れ る 制 度 で あ る 。
・ 行 政 不 服 審 査 や 取消訴訟 が 適 法 に 提 起 さ れ て い る 限 り 、 不 可 争 力 は 発生 し な い 。
つ ま り 、 適 法 に 不 服 申 立 て が 提 起 さ れ て い る 限 り 、 処 分 か ら 1 年 以 上 経過 し て も 、
取消訴訟 の 不 可 争 力 は 生じ な い 。 但 し 、 不 服 申 立 て に 対 す る 裁 決 が あ る と 、 取消
訴訟 の 出訴期間 が 進 行 し 始 め る 。
・ 2004年 行 政 事 件 訴訟 法 改正 で 、 出訴期間経過後 の 出訴 制 限 が 緩和 さ れ た ( 不 変期
間 規 定 の 廃 止 、 正 当 化 理 由 が あ る 場 合 の 出訴容 認 ) 。 つ ま り 不 可 争 力 の 発生 が 妨
げられる余地が広がった。
(2)
②不可
争力の限界等
・無効の行政処分に不可
ない。
争 力 は 発生 し な い 。 無 効 確 認 訴訟 は 出訴期間 の 制 約 を 受け
職 権 で 行 政 処 分 を 取消 す こ と は 、 出訴期間経過後 で も 可 能 で あ る 。
※ 私 ( 石 崎 ) は 、 出訴期間経過後 に 処 分 を 違 法 と す る 理 由 が 発 見 さ れ 、 処 分 を 維 持
す る こ と が 公共 の 福祉 に 著 し く 反 す る よ う な 場 合 に は 、 職 権 取消 の 義務 付 け訴訟
を 提 起 す る こ と が 可 能 で あ る と 思 う 。 但 し 、 出訴期間内 に 訴訟 を 提 起 し な か っ た
ことに正当性があることが必要あろう。
・行政庁が
(
3 ) 出訴期間 制 度 と そ の 合 憲 性
① 不 服 申 立 て の 申 立 期間
a ) 異議 申 立 て 及 び 審 査 請 求
処 分 の あ っ た こ と を 知 っ た 日 の 翌日 か ら 起算 し て 6 0 日 以 内 ( 処 分 に 不 服 の あ る
者 は 原則 と し て 審 査 請 求 を す べ き で あ っ て 、 異議 申 立 て は 審 査 請 求 の で き な い
場合に提起する)。
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2013 行政法
b ) 異議 申 立 て 後 に 審 査 請 求 を す る 場 合 及 び再 審 査 請 求
異議 申 立 て の 決 定 ま た は 審 査 請 求 の 裁 決 が あ っ た こ と を 知 っ た 日 の 翌日 か ら 起
算 し て 6 0 日 以 内 ( 審 査 請 求 が で き る に も 関 わ ら ず 法 律 で 特 別 に 異議 申 立 て も で
き る と 定 め て い る 場 合 は 異議 申 立 て → 審 査 請 求 と な る 。 再 審 査 請 求 は 法 律 で 規
定している場合に限り可能)。
c ) い ず れ に あ っ て も 、 天災 そ の 他 や む を え な い 理 由 が あ っ た た め に 期間内 に 申 立 て
を で き な か っ た と き は 、 そ の 理 由 が や んだ日 の 翌日 か ら 起算 し て 1 週間 以 内 に 申 し
立てることができる。
d ) 処 分 、 決 定 、 裁 決 が あ っ た 日 の 翌日 か ら 起算 し て 1年 を 経過 し た と き は 、 異議 申
立て・審査請求・再審査請求はできなくなる。但し、正当な理由があるときは、
この限りでない。
※ 行 政 不 服 審 査 法 改正案 ( 2008年 国 会 上 程後廃案 ) で は 、 申 立 期間 が 3 ヶ月 に 延長 さ
れている。
②
取消訴訟 の 出訴期間 ( 司 法 審 査 論 の テ ー マ で あ る が 、 こ こ で も 説 明 し て お く )
a .処 分 又 は 行 政 不 服 申 立 て に 対 す る 決 定 若 し く は 裁 決 ( 以 下 、 裁 決 と い う ) の あ っ
た こ と を 知 っ た 日 か ら 6ヶ月 以 内 ( 翌日起算 で あ る ) 。 但 し 、 正 当 な 理 由 の あ る 場
合は、この限りでない。
b .処 分 ま た は 裁 決 の あ っ た 日 か ら 1年 を 経過 し た ら 、 取消訴訟 は 提 起 で き な い 、 但 し 、
正当な理由のある場合は、この限りでない。
c .行 政 不 服 申 立 て → 取消訴訟 を 提 起 す る 場 合 は 、 裁 決 等 の あ っ た こ と を 知 っ た 日 か
ら 6ヶ月 以 内 に 処 分 の 取消訴訟 ま た は 裁 決 の 取消訴訟 を 提 起 す る こ と に な る 。
d .審 査 請 求 に 対 す る 裁 決 を 経 な け れ ば 取消訴訟 を 提 起 で き な い と 特 別 に 定 め ら れ て
い る 場 合 は 、 裁 決 を 知 っ て か ら 6ヶ月 以 内 に 取消訴訟 を 提 起 す る こ と に な る が 、 審
査 請 求後 3 ヶ月 を 経過 し て も 裁 決 が な い と き は 取消訴訟 を 提 起 で き る 。
e .審 査 請 求 の 前 置 を 定 め る 規 定 が な い と き は 、 行 政 不 服 申 立 て が 提 起 さ れ て い る 限
り 、 そ の 継続中 及 び 裁 決後6ヶ月 以 内 で あ れ ば 、 取消訴訟 を 提 起 で き る 。
※ 審 査 請 求 前 置 主義 の 規 定 さ れ て い な い 処 分 で 、 審 査 請 求期間内 に 適 法 に 審 査 請 求
を し た が 、 な か な か 裁 決 が で な い こ と が あ る ( 例 え ば 新潟県 の 情報公開 関 係 で も 、
不 開 示 決 定 に 異議 申 立 て や 審 査 請 求 が な さ れ て か ら 裁 決 等 が で る ま で 1年 以 上 を 要
す る こ と は 少 な く な い ) 。 で は 、 処 分 の あ っ た こ と を 知 っ た 日 か ら 6ヶ月 以 上 経過
し て い る が 、 ま だ 裁 決 が 出 て な い と き に 、 業 を 煮 や し て 取消訴訟 を 提 起 す る こ と
ができるだろうか。
裁 決 が あ れ ば 、 そ の 裁 決 の あ っ た こ と を 知 っ た 日 か ら 6ヶ月 以 内 に 出訴 で き る こ
と は 明 文 で 規 定 さ れ て い る 。 ま た 審 査 請 求 前 置 主義 が 規 定 さ れ て い る 場 合 も 明
文 規 定 が あ る 。 そ れ に 対 し 、 前 置 主義 が 採用 さ れ て い な い 場 合 で 、 裁 決 の ま だ
ない場合については、明文の規定がない。
③出訴期間 制 度 の 合 憲 性
・ 最 高 裁 昭和 24.5.18判 決 ( 民 集 3- 6 -199) は 自作農創出 特 別措 置 法 が 出訴期間 を 1 ヶ
月 と し た こ と に つ い て 、 農 地 改革 と し て の 買収 処 分 の 特 殊 性 を 踏 ま え 憲 法 § 32に
違反するものではないとしている。
・ 行 政 事 件 訴訟 法 に つ き 上 記 判 例 を 引用 す る も の と し て 、 最 高 裁 昭和 59.2.3判 決
( 税 務訴訟資料 135-88、 LEX/DB 21080215) が あ る が 出訴期間 そ の も の の 合 憲 性 は
争点 と な っ て い な い 。
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2013 行政法
短期出訴期間 制 度 の 根 拠 を 求 め よ う と す る と 、 法 律 関 係 の 早期安 定 の 必 要 性 と い
うことに求められるであろう。
・ 学 説 で は 、 従 前 の 3 ヶ月 の 出訴期間 制 度 が 短 い の で は な い か と い う 疑 問 も 出 さ れ て
い た が ( 阿部泰隆『 行 政 救済 の 実 効 性 』 p.242な ど ) 、 2004年 の 行 政 事 件 訴訟 法 改
正 で 出訴期間 が 6ヶ月 に 延長 さ れ た 。 ま た 、 従 前 の 「 不 変期間 と す る 」 と の 規 定 が
削 除 さ れ 、 同 法 § 14① に 正 当 な 理 由 に よ る 延長 の 規 定 が 取 り 入 れ ら れ た 。
・
拒否 処 分 と 不 可 争 力 と 再 申 請 の 可 否 に つ い て
拒否後 の 再 申 請 に つ い て 言 及 し 、 申 請 拒否 処 分 に 対 し 再 度 の 同 一
申 請 を す る こ と は 許 さ れ る が 、 再 度 の 申 請 に 対 し て は 実 質 的 審 査義務 を 負 わ な い と し
て 、 こ れ を 出訴期間 制 度 か ら の 要 請 で あ る と し て い る 。 私 は 、 申 請 拒否 処 分 が あ っ た
場 合 は 、 取消訴訟 ( +義務 付 け訴訟 ) を 提 起 し て も よ い し 、 再 度 の 申 請 を し て も よ い
と 思 う 。 行 政 庁 は 、 最 初 の 申 請 と 事 実 関 係 ・ 法 律 関 係 に 変化 が な い の で あ れ ば 、 同 じ
理 由 で 再 度 の 拒否 処 分 を す る こ と と な る と 思 う 。 申 請 者 は 申 請 を 認 め て も ら わ な け れ
ば な ら な い の だ し 、 そ れ ま で は 法 律 状態 は 変 わ ら な い の で あ る か ら 、 訴訟 を と る か or
再 申 請 を と る か は 申 請 者 が 選択 す れ ば よ い と 考 え る 。 ど う し て も そ の 申 請 を 認 め さ せ
た い の で あ れ ば 、 申 請 者 は い ず れ か の 拒否 処 分 に 対 し て 取消訴訟 ( +義務 付 け訴訟 )
を 提 起 す れ ば よ い 。 許 可 基準 が 変 わ る と き に は い わ ゆ る 駆け込 み 申 請 が あ る が 、 こ の
よ う な 申 請 は 拒否後 に 再 申 請 と い う わ け に い か な い の で 、 こ の 場 合 は 当 該 申 請 拒否 処
分 を 争 う し か な い で あ ろ う 。 そ う す る と 、 そ れ ぞ れ の 拒否 処 分 毎 に 取消訴訟 ( +義務
付 け訴訟 ) が 可 能 か と い う 問 題 が 生じ る が 、 取消訴訟 の 訴訟 物 は 個々 の 拒否 処 分 の 違
法 性 で あ る と 考 え ら れ る の で 、 既 判 力 抵触 や 二重起訴 の 問 題 は 生じ な い と 考 え る 。
但 し 、 申 請 権 の 濫用 と し て 、 再三再四 の 申 請 が 違 法 と な る 可 能 性 を 否 定 す る も の で
(補)申請
塩 野 Ⅰ p.157は 、 申 請
*4
はない。
3、一部の行政処分に生じる特殊な効力
執行力
(1)
①意
義
中には、裁判所の判決を待たずに、行政庁自ら強制執行できるものが
あ る 。 こ の よ う な 効 力 を 執行力 と い う 。
行政処分の
②
執行力の認められる行政処分
執行力は、行政処分に一般的に認められる効力ではなく、法律の根拠がある場合
にのみ認められるものである(戦前の学説は、行政処分に一般的に認められると
していた)。
③行政上の強制執行を認める法律
a .行 政 代執 行 法 : 法 律 ( 条例 を 含む ) の 規 定 に よ っ て 、 ま た は 行 政 処 分 に よ っ て 発
生 す る 代替 的 作 為 義務 に つ い て は 、 同 法 に よ り 行 政 代執 行 が 可 能 。
b .国 税 徴収 法 に よ る 滞納 処 分 : 国 税 徴収 法 が 国 税 に つ い て 滞納 処 分 の 規 定 を し て お
*4
出訴期間経過後の再申請を認める見解はかねてより人見教授(北大)の主張するところである。入手し
や す い も の と し て 、 リーガルクエストp.68参 照 。
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2013 行政法
金 法 、 行 政 代執 行 法 な ど 、 国 税 徴収 法 の 定 め る 滞納 処 分 の
準用 規 定 を 持 つ 法 律 は 少 な く な い 。
c .そ の 他 の 個別 法 ( 例 え ば 成 田 国 際 空 港 の 安全 確 保 に 関 す る 緊急措 置 法 § 3 ⑥ の 直 接
強制に関する規定)
り、地方税法、国民年
不可変更力
①意義
(2)
中 に は 、 違 法 で あ っ た と し て も 行 政 庁 自 ら 職 権 に よ る 取消 の で き な い
も の が あ る と 考 え ら れ る 。 こ れ を 不可変更力 と い う 。
違 法 性 が 判 明 し た 行 政 処 分 の 職 権 に よ る 取消 処 分 や 変更 処 分 は 原則 と し て 可 能 で
あ る が 、 行 政 処 分 の 中 に は 職 権 で 取消 ・ 変更 を す る こ と が 処 分 の 性 質 上 許 さ れ な
い も の が 存在 す る 。 こ れ を 不 可 変更 力 を 有 す る 行 政 処 分 と 呼 称 し て い る 。 こ の よ
う な 処 分 に あ っ て は 、 職 権 で 取消 し 又 は 変更 す る こ と 自 体 が 違 法 で あ る 。
行政処分の
変更 力 の 認 め ら れ る 行 政 処 分 と し て は 、 次 の よ う な も の が あ げ ら れ て い る 。 も
っ と も そ の 範囲 を め ぐ っ て 確 立 し た 学 説 が あ る わ け で は な い 。
a ) 不 服 審 査 手 続 に よ る 裁 決 や 決 定 な ど ( 慎重 な 手 続 で 行 わ れ る 争訟 裁 断 行 為 )
最 高 裁 昭和 29.1.21判 決 ( 民 集 8-1-102、 判 タ 38-47)
最 高 裁 昭和 42.9.2 6 判 決 ( 民 集 21-7-1887、 判 時 504- 6 2)
※ 塩 野 Ⅰ p.157は 、 前 者 は 不 可 変更 力 を 、 後 者 は 実 質 的 確 定 力 を 認 め た も の で
あ ろ う と 述べ て い る 。 前 者 ( 昭和 29年 判 決 ) は 、 訴願 ( 現在 の 行 政 不 服 申
立て)の裁決が違法であったとして、それを取り消す裁決をしたことの違
法 性 が 問 わ れ た も の で あ る 。 そ れ は 民 訴 の 自己拘束 力 あ る い は 自縛 力 に 相
応 す る 不 可 変更 力 の 問 題 と な る 。 後 者 ( 昭和 42年 判 決 ) は 、 訴願 に 対 す る
裁 決 を 経 て 一 旦 確 定 し た 法 律 関 係 を 、 同 一 当 事 者 か ら の 新 た な 買収 申 請 に
基づ き 変更 す る 決 定 を し た こ と の 違 法 性 が 問 わ れ た も の で あ る 。 こ こ で は 、
訴願 裁 決 で 確 定 し た 法 律 関 係 を 行 政 庁 が 変更 す る こ と が 許 さ れ る か と い う
こ と が 問 題 と な っ て お り 、 最 初 の 訴願 裁 決 の 実 質 的 確 定 力 の 問 題 と な っ て
い る 。 な お百選 Ⅰ p.138と p.140の 解 説 を 参 照 さ れ た い 。
b ) 利 害 関 係 者 の 参 加 で 慎重 な 手 続 で 行 わ れ る 処 分 ( 土 地 収用 裁 決 、 土 地 利 用 権 設 定
に 関 す る 農 地 委員会 の 裁 定 、 公正取引委員会 の 裁 決 な ど 、 準司 法 的 手 続 で 行 わ れ
る決定や行政審判)
c) そ の 他 、 行 為 の 性 質 上 、 法 的 効 果 を 確 定 さ せ る べ き 行 為 ( 当 選 人 決 定 な ど )
②不可
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2013 行政法