・ベーシック・インカムの利点と、問題点 スイスが6月5日に、すべての住人に無条件で毎月一定額を支給するベーシック・インカム の導入をめぐる国民投票を行うようだ。 (以下、全文引用) 【ジュネーブ=原克彦】スイスは6月5日、すべての住人に無条件で毎月一定額を支給する 「最低生活保障」(ベーシック・インカム)の導入を国民投票に諮る。支給額は可決された 後に法律で決める内容だが、提案者らは大人で月 2500 スイスフラン(約 29 万円)を提唱。 政府や経済界は猛反対しており、投票の行方が注目されている。 提案は年金や失業手当などを廃止する代わりに、無条件で大人に月 2500 スイスフラン、子 供に 625 スイスフランを支給する内容。国民投票に必要な署名を集めた提案者は左派系政 党に属しているが、明確に支持する政党はない。 スイス政府は反対の姿勢を表明した。現在の年金や失業手当を充当しても年間 250 億スイ スフランが足りないという。経済界は勤労意欲がそがれることを懸念する。 一方、労働組合は想定支給額が低いことに反発。「現在の社会保障給付より減ってしまう高 齢者もいる。尊厳ある生活には4千スイスフランは必要だ」(スイス労組連盟のトーマス・ ジマーマン報道官) 推進派グループのクリスチャン・ミューラー氏は「だれもが生活の心配をせずに自己実現に 挑めるようになる」と語る。財源は他の欧州諸国より低い付加価値税(消費税)の引き上げ か、金融取引税の導入で補えると主張。支給額は労働者が満ち足りて働かなくなる水準では ないとしている。 提案では人口の約 25%を占める外国人の受給資格があいまいだ。政府は反対理由に「低所 得の外国人がスイスに移住する動機になる」ことも挙げた。逆に労組は「スイス国民に限定 すると外国人を差別する懸念がある」と指摘する。 ベーシック・インカムは貧困対策に有効だと考えられているほか、入り組んだ社会保障と福 祉の給付制度を簡素化し行政の効率化を促す効果も期待されている。ただ、本格的に導入し た事例はなく、「ばらまき政策」になる懸念もある。 欧州ではフィンランドやオランダの一部都市で実験や調査の機運が高まっている。スイス でも今月、ローザンヌの市議会が実験開始へ研究を促す動議を採択した。 スイスは総選挙の年を除き、おおむね年4回の頻度で国民投票を実施する。所得に関する案 件では 2014 年に時給 22 スイスフランの最低賃金を設ける提案を否決した。 参照:スイス、6月に国民投票 「最低生活保障」導入巡り http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM26H3D_X20C16A4EAF000/?n_cid=TPRN00 05 導入されると、年金や失業手当など他の社会保障費はすべてなくなる。「尊厳ある生活」ま ではできないが、十分に生存はできる。「尊厳ある生活」や「贅沢」をしたければ、働けば いいのだ。 大きな利点は、行政の効率化を促し、行政コストが著しく下がると見込まれることだ。役所 を離れた人たちにもベーシック・インカムは保証されるので、大鉈を振るうことに躊躇もな ければ、反対も少ない。当初の財源不足は、相当補われる可能性がある。 また、「勤労意欲がそがれる懸念」は、必ずしも大きいとは限らない。生きるための労働か ら、自己実現や社会に役立つための労働に変わることで、生産性が落ちるとは限らないから だ。学問や芸術文化、スポーツが、すべての人々に開かれることになるので、潜在的な成長 はむしろ大きくなる可能性がある。 問題点は、いつまで続けられるか、分からないことだ。年金などが廃止された後に、ベーシ ック・インカム制度も廃止されたならば、これまで以上の混乱は避けられない。法律は変わ る。制度は変わる。いつの世も、翻弄されるのは一般人だ。例え、国民投票であったとして も。
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