舌接触補助床(PAP)適応患者 の嚥下機能回復過程について

舌接触補助床(PAP)適応患者
の嚥下機能回復過程について
医療法人渓仁会 札幌西円山病院
長谷川 弥生1)、櫻井 貴之1)、竹下 知1)
伊藤 隆2)、橋本 茂樹3)、横串 算敏3)
1)言語聴覚士 2)作業療法士 3)医師
はじめに
„
舌接触補助床(以下PAP)とは
舌と硬口蓋の接触が得られない
場合や送り込み圧が適切でない
場合に用いる口蓋床である。
„
当院回復期病棟に廃用症候群
で入院した症例の絶食から経口
摂取確立までの過程とPAP使用
の効果について報告する。
症例(80歳代、女性)
【医学的診断名】 脱水後廃用症候群
【現病歴】
H23年1月 脱水、急性腎不全、高Ca血症等で入院、加療。
H23年3月 リハビリ目的で3月に当院に入院となる。
【現症】
日常生活能力 入院時FIM:73点(運動45点、認知28点)
認知機能
HDS-R:27点
嚥下機能
RSST :2回 MWST:pro.3a FT:pro. 4
【前院からの情報】
微熱経過あり誤嚥による発熱も考えられる。
VFで不顕性誤嚥が認められた。
【全体像】
痩せており、円背。低栄養状態。
経過
月中旬
粥・ミキサー食
リクライニング車椅子
自力摂取
食事中のムセ、呼吸変化
唾液でのムセ
2度の肺炎で食事中止
ST:嚥下機能評価、食形態・食
事方法調整
OT:食事時車椅子シーティング相談
3
点滴(末梢)
1回目のVF実施 誤嚥あり
ST:直接訓練,頚部・舌挙上運動
Dr:タナトリルの処方を依頼
PT.OT.病棟:頭部挙上訓練依頼
月下旬
3
月
4
月下旬
5
月中旬
7
月
8
舌骨・喉頭下垂、舌根沈下、
送り込み不良、咽頭残留
IVH、経口併用 昼のみミキサー食
Bed UP30度 ST介助
3食ミキサー食
Bed UP30度
病棟スタッフ介助
五分菜(あんかけ)
椅子座位
自力摂取
高齢者住宅へ退院
2度目のVF実施 誤嚥なし
栄養士:少量でより栄養価が
高いものを提供
ST:自力摂取にむけて指導
喉頭下垂や舌根沈下が軽減
意識的な閉口嚥下促し
歯科にPAPの作成を依頼
舌尖の挙上範囲も改善
送り込み不良、咽頭残留あり
3度目のVF実施 誤嚥なし
ST:トロミ付け指導
常菜:食塊形成不全,咽頭残留
PAPを使用しての直接訓練
PAPを使用
経過
5月下旬VF
3月下旬VF
ST
舌挙上訓練、直接訓練
Dr
タナトリル処方
誤嚥あり
喉頭下垂、舌根沈下
舌運動機能低下
送り込み不良
咽頭残留
PT.OT.病棟
頭部挙上訓練
栄養士
誤嚥なし
嚥下機能改善あり
送り込み不良
咽頭残留
効率的な栄養摂取
集中的なトレーニングを行ったが改善不十分
⇒ PAP作成を依頼
残存
経過
月中旬
粥・ミキサー食
リクライニング車椅子
自力摂取
食事中のムセ、呼吸変化
唾液でのムセ
2度の肺炎で食事中止
ST:嚥下機能評価、食形態・食
事方法調整
OT:食事時車椅子シーティング相談
3
点滴(末梢)
1回目のVF実施 誤嚥あり
ST:直接訓練,頚部・舌挙上運動
Dr:タナトリルの処方を依頼
PT.OT.病棟:頭部挙上訓練依頼
月下旬
3
月
4
月下旬
5
月中旬
7
月
8
舌骨・喉頭下垂、舌根沈下、
送り込み不良、咽頭残留
IVH、経口併用 昼のみミキサー食
Bed UP30度 ST介助
3食ミキサー食
Bed UP30度
病棟スタッフ介助
五分菜(あんかけ)
椅子座位
自力摂取
高齢者住宅へ退院
2度目のVF実施 誤嚥なし
栄養士:少量でより栄養価が
高いものを提供
ST:自力摂取にむけて指導
喉頭下垂や舌根沈下が軽減
意識的な閉口嚥下促し
歯科にPAPの作成を依頼
舌尖の挙上範囲も改善
送り込み不良、咽頭残留あり
3度目のVF実施 誤嚥なし
ST:トロミ付け指導
常菜:食塊形成不全,咽頭残留
PAPを使用しての直接訓練
PAPを使用
経過
7月上旬 PAPを使用してのVF
PAP なし
PAPあり
PAPの使用により
送り込み時間短縮
(ゼリー:32秒→25秒)
咽頭残留の軽減
結果
誤嚥性の発熱がなく経口摂取が確立でき、
退院後の方向性が広がった!
粥 ・ 五分菜の食形態
水分:自分でポタージュ状にとろみ付け
椅子坐位3食自力摂取
高齢者住宅へ退院
考察 ①
Dr
薬剤処方
全身管理
ST
嚥下トレーニング
コーディネート
栄養士
効率的な栄養
PT・OT
耐久性、身体機能向上
シーティング
歯科
PAP作成
Ns・CCW
病棟訓練
条件に沿った食事介助
症例が経口摂取確立できた要因
問題点に対して適切なアプローチが行えた
他職種との連携を図れた
考察 ②
舌の運動機能低下
直接訓練
舌挙上運動
舌挙上範囲の著明な改善なし
PAP使用
舌と硬口蓋の接触改善
送り込み時間短縮
アンカー機能により舌根
後方運動が増強
咽頭残留軽減
舌の改善不十分→PAP使用で嚥下効率改善
結語
„
当院回復期病棟に廃用症候群で入院した症例の絶
食から経口摂取確立までの過程とPAP使用の効果につ
いて報告した。
„
症例が経口摂取確立できた要因としては問題点に対
して適切なアプローチが行えたこと、他職種との連携を
図れたことが大きいと考える。
„
訓練のみでは舌の機能が十分に改善し得ない場合、
PAP使用も視野に入れる必要があると考える。