射出成形金型の精密仕上げ加工

射出成形金型の精密仕上げ加工
隈元 康一*1
KUMAMOTO Koichi
1.はじめに
総合制作実習の課題として射出成形金型の製作に取
り組むが,機械加工後の手仕上げ加工を容易にするため
の加工条件を検討する。また CAD/CAM によるモデリ
ング及びパス作成,マシニングセンタによる高速加工,
金型製作までを一貫して行い,製品が出来るまでの流れ
を知るとともに高速加工と金型についての知識を深める.
2.CAD/CAM
2.1 CAD によるモデリング
図1に CAD によるモデリングの流れを示す。
2.3 抜き勾配の設定
金型のコアとキャビティには抜き勾配という傾斜が
付けられている.抜き勾配の役割は射出成形後に固化し
たプラスチックが金型から離れ易くするための工夫であ
る.一般に抜き勾配は 1°以上あれば良いようだが,今
回は確実に取り外しができるように 5°の勾配をつけて
抜き勾配の設定を行った。
成形部品の抜き勾配が足りない場合,金型から成形部
品が抜けずに残ってしまう離型不良という現象が起きる.
成形機を停止せずに次の成形プロセスに入り,部品を金
型に残したまま溶けた樹脂を注入してしまうと,金型を
破損させてしまう場合もある.適切な抜き勾配を設定す
ることでスムーズかつ,傷つけずに成形品を取り外すこ
とが出来る.
図2に完成したマウス形状の金型を示す。
図2 マウス形状の金型
図 1 モデリングの流れ
①
②
③
④
勾配をつけて,押し出し
フィレット
サーフェスカット
可変フィレット(R を変化させながらフィレット)
2.2 パーティングラインの設定
パーティングラインとはコアとキャビティの境界のこ
とで,成形物の分割部分にあたる.
通常,パーティングラインは美観などの面からなるべく
目立たなくするため,部品のどこにパーティングライン
を配置するかを決める必要がある.今回は上下 2 分割に
なる位置にパーティングラインを設定した。
*1 千葉職業能力開発短期大学校成田校 生産技術科
〒286-0045 千葉県成田市並木町 221-20
2.4 CAM による加工パスの作成
図3に CAM による加工パスの作成の流れを示す。
図3 加工パスの流れ
荒加工では超硬の R5ボールエンドミル、中・仕上げ
加工では超硬の R3ボールエンドミルの工具を使用した。
3.切削加工条件
ことが出来る。
3.1 切削条件表
金型を製作した切削加工条件を表1にまとめた。また
図4に荒加工後の製品を示す。
PfP  8Rh (mm)
P:ピックフィード(mm)
R:ボールエンドミルの半径(mm)
h:カプス高さ(mm)
(1)
表1 切削加工条件
荒加工
中仕上げ
仕上げ
ボールエンドミル
R5
R3
R3
Ad ( mm)
0.8
0.3
0.1
Rd ( mm)
fz (mm/刃)
5
0.5
0.15
0.1
0.1
0.15
F
(mm/min)
2000
2400
1800
V
(m/min)
314
226
226
N
(min-1)
10000
12000
12000
今回仕上げ加工ではカプス高さは h= 0.001mm で設
定し、その値を(1)式に代入すると Pf = 0.15mm とな
り、fz = Pf コンセプトより一刃当たりの送りは fz =
0.15mm となる。
クーラントを吐出して冷却する通常の切削加工に対
し,高速加工はドライカットと呼ばれるクーラントを使
用しない加工方法で切削加工を行う.切り込みが少ない
ことで切削により発する熱のほとんどが切り屑に逃げる
ため、エアブロー(空気の墳射)により冷却される.また
切り屑の除去も同時に行うことができる.
3.3 被削材による切削面の違い
今回使用した被削材は、SS400 と NAK80 の2種類を
使用した。図6にその切削面を示す。
図4 等高線荒加工後のコア形状
3.2 fz = Pf コンセプト
金型の仕上げ加工をボールエンドミルで行う場合,一
刃当たりの送り(fz)と,径方向の切り込み(ピックフ
ィード)
(Pf)を同一の値にして削る.従来の加工条件の
ままで小さいピックフィードで加工すると,時間がかか
り過ぎて加工能率や工具寿命が落ちてしまう。その解決
手段として高速回転、高速送り条件での加工を施すが、
fz = Pf とすることで加工面は山が明瞭で(はっきりして
いて)対象な表面精状になるため,加工後の磨き作業が非
常に容易となる.
図5に fz = Pf コンセプトの概念図を示す。
図5 ピックフィードと送り方向の関係
3.3 ピックフィードとカプス高さの関係
ピックフィードとカプス高さの関係は下記の式で表す
(a) SS400
(b) NAK80
図6 被削材による切削面の違い
(a)の SS400 の被削材では底面部がむしれたような面
肌になり光沢は見られなかったが、
(b)の NAK80 の被
削材は加工面に光沢があり、
むしれ面は見られなかった。
4.おわりに
総合制作実習の課題として金型製作に取組んだが、
CAD/CAM を使用してモデリングや NC プログラムの
作成を行い、マシニングセンタにより実加工を実施する
など、ものづくりの流れを学生と一緒に体感できて非常
に楽しく製作することができた。学生の意見に傾聴し実
行してみると思わぬ発見があり、そのような考え方があ
るのかなど感心する場面も多々あった。
今後も学生と一緒に意見交換をしながらものづくりの
楽しさを体感していきたい。