技術時報 2008 No.20 インバータトランスの静音化検討 Examination of quiet inverter transformer −コアフリー構造− Core free structure 大畑 泰 コイル応用事業センター 液晶TVに代表される液晶バックライト用インバータトランスの音鳴き問題がにわかにクローズ アップしてきたのは、ブラウン管から薄型TVへ本格的に移行し始めた 2005 年頃からである。 インバータトランスはその性質上,音鳴きが発生しやすい部品であるが、TVメーカーの熾烈なコスト競争と 品質競争の激化に伴い、音鳴きは許されない重点項目のひとつに位置付けられている。 当社では音鳴きの数値化およびスペクトル表示により音を視覚的に捉える事のできる測定環境を構築し、静音化 に取組み、独創的なコアフリー構造のインバータトランスを創出した。 It is that the sound problem of the inverter transformer for liquid crystal back lights represented by liquid crystal TV has taken a close-up of suddenly from around 2005 that began to shift to thin TV completely from a cathode-ray tube. Although inverter transformers are parts which sound tends to generate on the character, the sound problem was set to one of the important items in connection with the intensified cost and quality competition in TV maker. We built the measurement environment where sound could be visually checked for sound by conversion and spectrum display with a number. Moreover, a quiet sound was tackled and the inverter transformer of an original core free structure was created. 1.まえがき LCD Panel ;自己発光しない 拡散・プリズムシート ;輝度の均一化 CCFL管 ;n本配置 『 液 晶 TV か ら 「ジ ー 」と い う 音 が す る 』、 イ ン タ ー ネ ット上にこのような書き込みが頻繁に見られるように な っ た の は 2005 年 く ら い で し ょ う か 。 他にEEFL管、HCFL管等 折 り し も 液 晶 TV 業 界 で は 生 き 残 り を 賭 け た コ ス ト 、 Backlight unit ;反射板・導光板等搭載 性能および品質競争の最中であり、致命傷となり兼ね ない当問題については最重要改善事項として取り組む Inverter unit インバータトランス搭載 ことになります。 音 の 元 凶 は ト ラ ン ス で あ る ― TV メ ー カ ー の 矛 先 は トランスメーカーに向けられます。これらの流れを受 図 1 液晶パネル構成概略 け我々は静音トランスの検討着手することになります。 2−2 測定環境整備 2.インバータトランス静音化検討 2−1 インバータトランスとは 音鳴きの判定・判断には人間の耳で聞く『聴感』が 一般的です。しかしながら聴感は相対的な判定方法で 液 晶 (LCD)は 自 己 発 光 し な い た め 背 面 よ り 光 を 当 て あるため、絶対的な判定基準を持つ環境を整備する必 て画像を映し出します。この背面から光を当てる機構 要があり、インバータトランスの検討に適した無響ボ をバックライトユニットと呼び,その光源となる冷陰 ックスを特注、スペクトル機能付騒音計で測定するシ 極 管 (CCFL) を 点 灯 さ せ る 部 品 が イ ン バ ー タ ト ラ ン ス ステムを構築しました。 です。 騒 音 計 で 拾 っ た 音 は 騒 音 計 内 部 で FFT 解 析 さ れ 、 接 続 さ れ た PC に よ り 詳 細 な ス ペ ク ト ル 表 示 を 実 現 し て おり、トランスの静音化検討を行う上で、容易に評価 できる環境を整える事ができました。 1 インバータトランスの静音化検討 無響ボックス スピーカー 2−4 コアフリー構造 トランスの音鳴きには、音が大きいサンプルもあれ ば小さいものもあり、個体差が存在しています。 マイク 騒音計 PC 特に、音が小さいサンプルがあるということは、前 述 の 3 要 因 に お い て 、 ① -(a)磁 歪 に よ る 空 気 伝 播 お よ AC OUTPUT 試料 PG DMC び②線材のローレンツ力は全てのトランスに作用する 現象であるため、この 2 つの要因については音鳴きへ の影響度が少ないと考えることができます。 電源 故 に 、 音 鳴 き の 主 要 因 は ① -(b)フ ェ ラ イ ト と ボ ビ ン 図 2 測定システム との物理的な接触と推定し、ここの分離を行うことで 音 鳴 き を 抑 え る こ と が で き る も の 考 え 、 DHTP4225B タ 2−3インバータトランスの音鳴き発生要因 音 と は 空 気 中 を 340m/sec で 伝 わ る 波 動 で あ り 、人 間 イ プ の 静 音 化 に 取 り 組 み 、 DHTP4225D タ イ プ と し て 商 品化しました。 はこれを耳で検知します。音の高さは波の周波数、 音 の 大 き さ は 波 の 振 幅 の 大 き さ で 決 定 し ま す 。(人 間 の ・ 従 来 品 DHTP4225B タ イ プ の 構 造 可 聴 周 波 数 は 20∼ 20000Hz、 年 齢 と と も に こ の 範 囲 は 当 タ イ プ は 1 入 力 2 出 力 の 2in1 ト ラ ン ス 。 狭まります) 1 次側ボビン、2 次側ボビンを E 形状コア 2 個で挟 み込み、ボビンとフェライトはエポキシ系の接着剤で インバータトランスは交流駆動であり、常に磁束の 固着・固定。 方向が変化しているためトランスには次の 2 つの力が 働きます。 ①フェライトの磁歪 フェライトに代表される強磁性体は磁場中におい て 磁 歪 (僅 か に 膨 張 ・ 収 縮 す る 現 象 )が 生 じ る た め 、 交 流駆動中では変形振動を起こします。また、磁歪によ ・ 改 良 品 DHTP4225D タ イ プ の 構 造 ボビンとフェライトをシリコン系の柔らかい樹脂 で保持。完全固定でないためコアが可動。 またボビンとフェライトの接触箇所を極力少なく することで物理的接触を低減。 る音鳴きには次の 2 つの要因があります。 (a) フェライトの伸び縮みにより空気が振動し、 音 と し て 伝 わ る 場 合 (空 気 伝 播 ) (b) フェライトの磁歪振動がボビンとの接触によ っ て 生 ず る 伝 播 や 共 鳴 の 場 合 (物 理 的 な 接 触 ) ②ローレンツ力 電流が流れた巻線が磁場中に存在しているため、 線材にはローレンツ力が働きます。このローレンツ力 図 3 DHTP4225B/D 外 観 図 4 E 形状コア 2 個 により線材は微小な振動運動を起こし、隣接する線材 やボビンとの間で物理的な接触が生じます。 以上のとおり交流駆動中ではフェライトは磁歪に よる膨張・伸縮を繰り返し、線材はローレンツ力によ る振動運動を行っている状態となっています。 図 5 コ ア ・ボ ビ ン 接 着 箇 所 このフェライトコア可動構造をコアフリー構造と 呼ぶことにします。 2 インバータトランスの静音化検討 2−5 音鳴きレベル確認 改 良 品 DHTP4225D は 聴 感 で も 明 ら か に 従 来 品 DHTP4225B よ り 音 鳴 き が 小 さ い こ と が 確 認 で き ま し た 。 1 次側 測 定 器 に て 確 認 し た 結 果 、図 6,7 の と お り 顕 著 な 差 が 認められました。 ∼14kHz:45.0dB ∼10kHz:43.9dB ∼ 8kHz:42.3dB 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 -5 -10 騒音レベル(dB) 2 次側 図 8 DHTP4225D 磁 束 密 度 分 布 状 況 (シ ミ ュ レ ー シ ョ ン ) (2)フ ェ ラ イ ト の 磁 歪 特 性 は 材 質 で 決 定 さ れ る た め 、 0 2000 4000 6000 8000 周波数(Hz) 10000 12000 14000 図 6 従 来 品 DHTP4225B ス ペ ク ト ル 低磁歪材を使用することで振動を低減させることが可 能です。 (磁 化 方 向 は長 手 方 向 と垂 直 ) ∼14kHz:33.1dB ∼10kHz:30.5dB ∼ 8kHz:27.9dB 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 -5 -10 従来品 3.0 Δl/l(x10 ー^6) 騒音レベル(dB) 3.5 2.5 低磁歪品 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0 100 200 300 400 500 600 Bm(mT) 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 周波数(Hz) 図 7 改 良 品 DHTP4225D ス ペ ク ト ル 図 9 フ ェ ラ イ ト コ ア (Mn-Zn 系 )磁 歪 特 性 (フ ェ ラ イ ト メ ー カ ー の 資 料 よ り 引 用 ) ∼ 8kHz の オ ー バ ー オ ー ル で 約 14dB の 差 が 見 ら れ ま (3)音 鳴 き は 最 終 的 に は 人 間 の 耳 で 聞 い て の 判 断 と す 。 こ れ は 改 良 品 が 従 来 品 の 1/5 の 音 の 大 き さ に な っ な り ま す 。 人 間 の 耳 は 2∼ 4kHz 付 近 の 音 は 良 く 聞 こ え たということであり、劇的な改善ということができま ますが、低音および高音は聞き取りにくい構造となっ す 。(オ ー バ ー オ ー ル と は 各 周 波 数 成 分 の 総 和 の こ と で て い ま す 。 つ ま り 2∼ 4kHz 付 近 の 周 波 数 成 分 を 押 さ え 音の大きさレベルを表す) 込むことで、音が小さくなったという感覚を得ること この結果よりコアフリー構造が、静音化に対し有効で ができます。 ある事が実証できたと考えます。 従ってコストとの兼ね合いから、全帯域の低減ではな く、この周波数帯での音鳴きレベル低減を目指した検 2−6 更なる改善に向けて 討も必要と考えます。 コアフリー構造は、フェライトの磁歪振動がボビン との接触によって生ずる伝播や共鳴を低減させる事を 3.むすび 目的とした静音化ですが、更なる改善は以下の点にも 液 晶 TV の ロ ー コ ス ト 化 に 伴 い 、 ラ ン プ 本 数 の 削 減 ⇒ 注視することで、完成度を上げていくことができると トランス員数の削減=トランス 1 個あたりパワーアッ 考えます。 プ傾向になってきています。トランスのパワーアップ (1)フ ェ ラ イ ト コ ア の 磁 束 密 度 分 布 状 況 を 確 認 す る は磁束のアップに繋がり、より大きな磁歪等の振動を と、図 8 のとおり 1 次側のコアに磁束が集中している 引き起こし、音鳴きに対しては益々不利となってきま のが判ります。これは 1 次側で受ける力=振動が大き すが、今回の検討で得られた結果を活かし新商品開発 いことを表しています。 に取り組んで行きたいと考えます。 1 次側の最小断面積を大きくすることで緩和が可能 と考えます。 3
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