Cohen-Macaulay modules over Cohen

Cohen-Macaulay modules over Cohen-Macaulay rings
吉野雄二
概
(岡山大学)∗
要
今回の代数学賞受賞については、私の著書 [3] が高く評価していただいた結
果であったと思う。そのために今回の講演のタイトルをその著書のタイトル
と同じものにした。講演では、Cohen-Macaulay 加群の理論について私が関
わった部分について概説したあと、今考えている問題についても言及する予
定である。
1. Cohen-Macaulay 加群の定義
以下では、簡単のために R を可換な完備ネータ局所環とし、その極大イデアルを m、剰
余類体 k = R/m とする。
定義 1.1 有限生成 R 加群 M が Cohen-Macaulay 加群、あるいは極大 Cohen-Macaulay
加群(CM 加群または MCM 加群と略す) とは、depth M = dimR が成立するときを言
う。あるいは局所コホモロジーを使って、Hmi (M ) = 0 (0 ≤ i < dimR) ということとも
同値である。また、環 R が Cohen-Macaulay 環 (CM 環と略す)とは、R 加群として R
が CM 加群であるときを言う。
R が体を含むという仮定のもとでは、R は R/m と同型な体 k を含むので、
(完備局所
環の Cohen の構造定理によって)、R は k 上の形式的羃級数環 T を部分環として含み、R
は T 上(加群として)有限生成である。この状況では、有限生成 R 加群 M が CM 加群で
あることは、M が T 加群として自由加群であることと同値である。以下では、R は CM
局所環とし R 上のすべての CM 加群(とその間の R 準同型写像)のなす加法圏を CM(R)
と表す。この圏 CM(R) は有限生成加群の圏 mod(R) の resolvent な充満部分圏である。
我々の最終的目標は、この圏 CM(R) の構造を完全に決めることであると言っても良い。
R を完備局所環と仮定しているので、CM(R) は Krull-Schmidt 圏、すなわち直既約分解
の一意性が成立する。CM 局所環 R が有限 CM 表現型であるとは、CM(R) に直既約加群
の同型類が有限個しか存在しないときを言う。R が Gorenstein であるとき、CM(R) の
安定化圏を CM(R) と表すと、圏論的には導来圏の商として CM(R) ∼
= Dfb g (R)/perf(R)
と表すこともできる(Buchweitz の定理)。CM 加群について最も基本的な定理は何かと
問われれば、おそらく次の Auslander-Reiten による AR 双対と言われる公式であろう。
定理 1.2 R は d 次元 CM 完備局所環で孤立特異点しか持たないと仮定する。このとき、
すべての M, N ∈ CM(R) に対して次の自然な同型がある。
ExtdR (HomR (N, M ), KR ) ∼
= Ext1R (M, HomR (ΩdR Tr(N ), KR )).
(ここで、HomR (N, M ) は安定圏での N から M への射の全体、KR は R の正準加群、
Tr、Ωd それぞれ加群の転置、dth syzygy を表す。)
この双対定理の結果として、R が CM 完備局所環とするとき、CM(R) が AuslanderReiten 列(以下 AR 列と略す)を許すための必要十分条件は、R は孤立特異点しか持た
∗
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ないことである、ことが示される。特に、孤立特異点上では CM(R) に対して AuslanderReiten quiver(以下 AR quiver という)を考えることができる。次の Maurice Auslander
による結果が有限 CM 型に関する最初の重要な結果であるが、これは上記の考察の帰
結でもある。
定理 1.3 [Auslander, 1986] R が CM 完備局所環で有限 CM 表現型ならば、R は孤立特
異点しか持たない。
R が Gorenstein 環の時には、CM(R) が自然に三角圏の構造を持つので、この場合には、
上記の定理 1.2 は次の重要な結果を導く。
定理 1.4 R を d 次元の Gorenstein 完備局所環で、さらに孤立特異点を持つとする。こ
のとき、CM(R) の安定化圏 CM(R) において、自然な同型
ExtdR (HomR (X, Y ), R) ∼
= HomR (Y, X[d − 1]).
が成立する。これは、三角圏 CM(R) が (d − 1)-Calabi-Yau であることを示している。
私が最初に得た定理は次の Brauer-Thrall 型の第一定理と呼ばれるものである。
定理 1.5 [Yoshino [1], Dieterich] R を上記のように CM 完備局所環で孤立特異点を持
つものとする。Γ を CM(R) の AR quiver、また Γ◦ を Γ の連結成分とする。もし、Γ◦ の
頂点に対応する直既約加群の重複度(または階数)に上限があると仮定すると、Γ = Γ◦
であり、さらに Γ は有限グラフである。とくに R は有限 CM 表現型である。
2. CM 加群の退化
一般に R が体 k 上の結合代数とする。有限生成 R 加群 M, N に対して、M が N に退化
するとは、k 代数であるような離散付値環 (V, tV, k) と R ⊗k V 上の有限生成加群 Q で次
の条件をみたすものが存在するときを言う。
(1)Q は V 加群として平坦である:
(2)
∼
∼
Q ⊗V K =R⊗k K M ⊗k K (但し K は V の商体を表す)
:
(3) Q ⊗V V /tV =R N . ここ
で、Q を両側加群 R QV とみなすとすると、Q はパラメータを V に持つ R 加群の平坦族
である。
定理 2.1 [16] M は N に退化することと、つぎの形の有限生成 R 加群の短完全列が存
在することは同値である。
(ψϕ)
0 → Z −→ M ⊕ Z → N → 0,
但し、Z の自己準同型 ψ は冪零である。
特に、M と N が退化の関係にあるときにはそれらは Grothendieck 群の中で等し
い元を与える。有限生成 R 加群 M と長さ有限の R 加群 Y に対して、λM (Y ) =
lengthR (HomR (M, Y )) と置く。λM は長さ有限の R 加群の同型類上の関数である。二
つの有限生成 R 加群 M, N について、関数として λM = λN となることと、M と N が
局所的に同型であることは同値である。また、M が N に退化するときには、関数とし
て λM ≤ λN である [14]。これらによって、R が CM 局所環の時には、CM 加群の間に
退化の関係による順序が定義される。この順序関係を決定することも問題である。そ
のために、R が Gorenstein 環のときに退化の安定圏への類似を考えた [23]。
定義 2.2 (R, m, k) を完備な Gorenstein 局所 k 代数、V = k[t](t) 、K = k(t) とする。
M , N ∈ CM(R) に対して、M が N に安定的に退化するとは、R ⊗k V 上の CM 加群 Q
が存在して、Q ⊗V K ∼
= M ⊗k K in CM(R ⊗k K) かつ Q ⊗V V /tV ∼
= N in CM(R) が
成立するときを言う。
定理 2.3 [23] R が孤立特異点を持つ Gorenstein 環のときには、M , N ∈ CM(R) に対
して、M が N に安定的に退化するための必要十分条件は、次のような形の CM(R) に
おける triangle;Z → M ⊕ Z → N → Z[1] が存在することである。
この定理を使って単純特異点上の CM 加群の退化の様子をある場合には決定するこ
とができる [24]。
3. G 次元0の加群
R が一般の可換ネータ環であるとき、有限生成 R 加群 M が次の条件 (3.1) をみたすと
き,M は G 次元0の加群 (最近は totally reflexive module と呼ぶことも多い) と言う。
ExtiR (M, R) = 0, ExtiR (TrM, R) = 0 (∀i > 0)
(3.1)
この定義は Auslander-Bridger(1969) による。R 上の G 次元0の加群の全体のなす加法
圏を G(R) と表すことにする。R が Gorenstein 環のときには、G(R) = CM(R) である。
このことから、必ずしも Gorenstein とは限らない環上で CM 表現の理論の一般化を考
えようとするときには G(R) が最適な対象であると感じられる。しかし、R が CM のと
きには CM(R) は mod(R) の中で contravariantly finite という性質を満たすが、一般の
G(R) では環 R が CM のときでさえ、contravariantly finite とは限らない [15]。
H(R) = {M ∈ mod(R) | ExtiR (M, R) = 0 for all i > 0}
とおく。G(R) ⊆ H(R) であることは自明だが、これが等号でないかと予想できる。こ
れには反例があることが、Jorgensen-Sega によって示されている。しかし一般には、R
が完備局所環のときに、mod G(R) は Frobenius 圏、mod H(R) は quasi-Frobenius 圏に
なることが分かる [19]。このような性質を利用して、もし G(R) が有限型 (i.e. 直既約加
群の同型類が有限個) の時には、G(R) = H(R) となることが示される [19]。今、次のこ
とを予想している。
予想 3.1 R が CM 環で、generically Gorenstein とすると、G(R) = H(R) となる。
これは太刀川予想と関連して興味ある問題である。
参考文献
(以下の論文リストは私の CM 加群に関連する論文のみを集めた。)
[1] Brauer-Thrall type theorem for maximal Cohen-Macaulay modules, Journal of Math.
Society of Japan vol. 39 (1987), 719–739.
[2] (with Takuji Kawamoto) ; The fundamental module of a normal local domain of dimension two, Transactions of the A.M.S. vol. 309 (1988), 425–431.
[3] Cohen-Macaulay modules over Cohen-Macaulay rings.
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Press, 1990.
[4] Graded CM modules over graded CM domains, Journal of Math. Kyoto Univ. vol. 32
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[5] Maximal Buchsbaum modules of finite projective dimension. Journal of Algebra vol. 159
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[6] (with Kiriko Kato) ; Auslander module and quasihomogeneity of a local ring, Proceedings of RIMS vol. 30 (1994), 1009–1038.
[7] On the higher delta invariants of a Gorenstein ring, Proceedings of the AMS vol. 124
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[8] Auslander’s work on Cohen-Macaulay modules and recent developement, Algebras and
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198.
[9] (with Tokuji Araya); Remarks on depth formula, grade inequality and Auslander conjecture, Communications in Algebra, 26(11), (1998), 3793–3806.
[10] Tensor products of matrix factorizations, Nagoya Math. Journal 152 (1998), 39–56.
[11] Modules with null delta invariant, Communications in Algebra, 27(8), (1999), 3781–
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[12] (with Satoru Isogawa); Linkage of Cohen-Macaulay modules over a Gorenstein ring,
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[16] On degenerations of modules, Journal of Algebra, 278 (2004) 217–226.
[17] Degeneration and G-dimension of modules, Lecture Notes in Pure and Applied Mathematics vol. 244, ’Commutative Algebra’ Chapman and Hall/CRC (2006), 259 – 265.
[18] Approximations by modules of G-dimension zero, Contemporary Mathematics vol. 376
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[19] A functorial approach to modules of G-dimension zero, Illinois Journal of Math. vol. 49
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[23] Stable degenerations of Cohen-Macaulay modules, Journal of Algebra, vol. 332 (2011),
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[24] (with Naoya Hiramatsu) ; Examples of degenerations of Cohen-Macaulay modules, Proceedings of the AMS , vol.141(2013), 2275–2288.