石油販売業における商標権等の 片務契約と独占禁止法上の課題

石油販売業における商標権等の
片務契約と独占禁止法上の課題
(中間とりまとめ)
平成19年1月
ガソリンスタンドを考える議員の会
目 次
はじめに
…………………………………………………………………………
1.特約販売契約の問題点と正当化事由としての商標権行使
2
……………
4
………………………
7
(1)片務性、不平等性の強い特約販売契約
(2)業転玉の購入制限
(3)石油元売と特約店の取引上の地位の格差
(4)独占禁止法21条と商標権行使の関係
2.石油製品販売をめぐる商標権主張・行使の状況
(1) 特約店及び一般販売店と商標権許諾の状況
(2) 特約店をめぐる商標権主張と石油元売の対応の状況
(3) 一般販売店をめぐる商標権主張と石油元売の対応の状況
3.石油製品販売をめぐる実情と商標権主張・行使の不当性
……………10
(1) 石油元売の販売する石油製品(ガソリン)のうち20%が業転玉
(2) 共同油槽所で混合保管される石油製品(ガソリン)と商標権主張・
行使の当否
(3) SSサインポール上のサービスマークと商標権主張・行使の範囲
4.独占禁止法21条に照らした法解釈のあり方
…………………………13
(1)独占禁止法21条の法理(クリーンハンドの原則)
(2)商標権の不適切な行使は独占禁止法21条の適用不可
(3)業転玉購入を阻害する行為は不公正な取引方法として禁止
5.石油製品販売をめぐる独占禁止法違反行為を排除し、石油流通
……15
を適正化するために
(1) 特約販売契約上の片務条項を削除する排除措置命令の発動
(2) 独占禁止法規定の改正強化
ア)不公正な取引方法に対する課徴金制度の導入
イ)文書提出命令・団体訴権の導入
参考資料
…………………………………………………………………………19
1
はじめに
○
石油産業は規制緩和・自由化が進み、とりわけ、平成8年の揮発油販売業
法の廃止(品質確保法への改正)から10年が経過した。この間、元売自ら
が、出資子会社等を通じて小売分野に進出し、ガソリン販売シェアを3倍に
するなど勢力を拡大してきた。その一方で、地場の中小販売業者が市場から
の淘汰・撤退を余儀なくされている。
○
元売と販売業者の間には、もともと製品の供給者としての埋めようのない
優位性が存在しているが、最近ではその格差が拡大し、平成17年度には、
元売はおよそ7千億円もの空前の利益をあげている。一方において、全国の
ガソリンスタンドの約半数、この2∼3ヶ月では8割以上が赤字経営に喘い
でいるのが実態であり、元売と販売業者間の経営上の格差はさらに拡大して
いる。
○
販売業者は、国民生活に必要不可欠なガソリンや灯油等の安定供給に努め
ているとともに、SSネットワークを活用した社会貢献事業に取り組むなど、
地域に根ざした存在としての役割を果たしてきた。しかしながら、このまま
格差が拡大していけば、近い将来、山間部などの地方を中心に、ガソリンス
タンドが1店もない「空白地域」が生じかねない。高齢者世帯への灯油配達
もままならない状況になれば、安定供給にも支障をきたすことになり、政治
的にも大きな問題となる可能性がある。
○
ガソリンスタンドを考える議員の会(GS議連)は、石油販売業界の抱え
る諸問題について、政治的及び法律的な検討を行い、根本的解決を図ってい
くことを前提に取り組んできた。
○
このたびGS議連は、
「独禁法改正PT」を設置して、当面の検討テーマを
2点に絞り議論を行ってきた。1点目は片務契約の存在である。そもそも多
くの販売業者は、ガソリン等の供給を元売に頼るほかなく、その意味におい
て元売は元来、優越的地位にある。いわば販売業者は元売に生殺与奪の権を
握られているのである。したがって、石油業界における公正取引を確保する
観点から、元売に一方的に有利な片務条項については、公正取引委員会が独
禁法による排除措置命令を発動して、特約販売契約における片務条項を排除
させるとともに、業転玉購入に係る商標権の不適切な行使を是正するよう求
めたい。
2
○
2点目は独禁法改正の実現である。平成17年改正の際の附帯決議を踏ま
え、平成19年中に改めて見直しすることとされている。この機を捉えて、
不当廉売などの不公正な取引方法に対して課徴金等の経済的制裁を課すこと、
さらには、力の弱い販売業者が訴えを起こすことを容易にするため、文書提
出命令や団体訴権を導入すべきである。現在、内閣府において、改正後の独
禁法見直しについて検討されており、これに反映させていきたい。
○
今後、GS議連全体の場でさらに議論を深め、政治の場で実現が図れるよ
う取り組んでいきたいと考えている。
平成18年12月19日
ガソリンスタンドを考える議員の会
会長
大野
松茂
独禁法改正プロジェクトチーム
座長
西川
公也
主査
宇野
治
松本
洋平
牧原
秀樹
遠藤
宣彦
【検討経過】
・GS議連幹事会
平成18年 9月14日(木)
独禁法改正PTの設置
・独禁法改正PT開催状況
第 1 回会合
平成18年11月
第 2 回会合
平成18年11月15日(水)
第 3 回会合
平成18年12月
・GS議連総会
8日(水)
6日(水)
平成18年12月19日(火)
3
中間とりまとめ了承
石油販売業における商標権等の
片務契約と独占禁止法上の課題
1.特約販売契約の問題点と正当化事由としての商標権行使
(1)片務性、不平等性の強い特約販売契約
①
石油産業は規制緩和・自由化され、精製部門等いわゆる上流部門は市場
メカニズムで動き始めてきている。
②
しかし、石油製品販売等いわゆる下流部門等末端に至る流通段階では、
石油元売がSS等の経営にまで口を出すことができるような片務性、不平
等性の強い特約販売契約がまかり通っている。
③
とりわけ、石油元売自らは、他の石油元売との間で互いに激しい競争を
行いながら、さまざまな流通ルート(1)を確保している一方で、自らと特約
販売契約を結んでいるSS(特約店)に対しては、片務的な特約販売契約
ないしは商標使用許諾契約において厳しい拘束を課している(なお、特約
販売契約は、石油製品卸売に係る継続的売買契約と商標の使用許諾契約と
が一体となって含まれているのが通常である。)。すなわち、同契約によっ
て全量自社製品の購入・販売を義務付け、他社製品やノンブランド商品で
あるいわゆる業転玉の購入を厳しく制限している。
(2)業転玉の購入制限
①
しかも、石油元売は、自社の子会社ないし委託契約(いわゆるコミッシ
ョン・エージェント方式)により事実上自らSSを運営し、特約店のSS
とも競合させている。これらの直営SS等に対しては、地域の石油製品小
売市場における競争状況に応じて、場合によっては比較的安価な仕切価格
(卸売価格)で石油製品を卸売供給して、これら直営SS等が地域での石
油製品の価格競争に対応していけるようサポートしていると言われている。
しかしながら、地場の独立資本等によって運営される特約店に対しては、
(1)
29 ページ。参考資料「ガソリンの流通経路」参照。
4
石油元売の側で仕切価格を一方的に差配し、地域の石油製品小売市場の状
況によってはより安価な仕切価格を渇望する特約店に対しても、比較的高
い仕切価格を適用して譲らない等といったケースも見られる状況にある。
②
こうした中で、自らの生き残りも賭けつつ、少しでも仕入れコストを引
き下げて消費者に対して安価な石油製品を供給したいとする特約店が、高
い水準の石油元売からの仕切価格を薄めるために、安価ないわゆる業転玉
を購入して販売するケースが多いと言われている。ところが、上述の通り、
業転玉の購入は特約販売契約等で厳禁されており、これに違反する場合は、
契約違反を構成することになって、場合によってはそうした特約店との特
約販売契約等が石油元売によって一方的に解除されるおそれもある。しか
し、特約店が仕切価格に比べて安いといわれている業転玉をはじめとする
競合品を購入することができるようになれば、それが小売価格にも反映さ
れることが期待されることから、消費者利益の確保も図られるものと考え
られる。
(3)石油元売と特約店の取引上の地位の格差
①
石油元売間では激しい競争が繰り広げられていることにかんがみると、
特約店は、当該特約販売契約を締結している石油元売から仮に一方的な無
理難題を要求された場合、当該石油元売と競争関係にある他の石油元売に
転籍することも比較的容易なようにも見えるが、特約店の他の石油元売へ
の転籍は設備更新費用等を始めハードルが高く、実際には困難であり、特
約店は、特約販売契約相手の石油元売の提示する取引条件がたとえ一方的
で厳しいものであったとしても、それらをそのまま受け入れざるを得ない
立場であることが多い。
②
このような状況の下で、自社製品の全量購入の義務付け、さらには石油
元売による仕切価格の一方的通告等の行為は、石油元売と特約店との取引
上の地位の格差にかんがみると、場合によっては独占禁止法で禁止する不
公正な取引方法のうちの拘束条件付取引、不当な取引妨害ないし優越的地
位の濫用に当たり、独占禁止法違反行為となることもあると考えられる。
(4)独占禁止法21条と商標権行使の関係
①
これに対して、石油元売は、自社の石油製品に独自の商標を付し、特約
5
店には特約販売契約等により自社独自のサービスマークの使用を許諾して
いるところ、他社製品等の競合品を購入し販売することは、自社の商標権
の侵害になるものであるから、特約販売契約等で競合品たる業転玉の取扱
い等を制限することなどは商標権の正当な行使に基づくものであって独占
禁止法に違反するものではないとの立場をとっている。
②
このように、石油元売は、商標権の行使ないし保護を旨とする特約販売
契約等の条項を通じて、商標権をいわば盾にする形で特約店を厳しく拘束
しているが、そもそもこうした商標権の主張ないし行使を理由とする制限
ないし拘束は、独占禁止法の適用が除外される正当なものと言えるのであ
ろうか。
③
もし、商標権の主張ないし行使が正当であれば、その商標権に係る特約
販売契約上の条項は、たとえそれが特約店に拘束を課すものであるとして
も、独占禁止法21条の適用除外規定によって独占禁止法違反行為とはな
らないことにもなってしまう。
このため、独占禁止法21条の適用除外規定と商標権の行使との関係を
究明することが必要不可欠となるのである。
6
2.石油製品販売をめぐる商標権主張・行使の状況
(1)特約店及び一般販売店と商標権許諾の状況
①
一般に特約店は、専ら特約販売契約等を締結した石油元売から石油製品
の継続的な卸売供給を受けている。つまり、石油元売と特約店との間には、
当該石油元売がその製品を卸売するとともに、当該石油元売の商標の下に
小売又は卸売できることを内容とする特約販売契約等が締結されている。
②
他方、一般販売店は、基本的には、契約上は石油元売の直接の卸売契約
ないし販売契約関係は持っておらず、あくまで石油元売の特約店と販売契
約を締結して、その特約店から(二次)卸売による石油製品の供給を受け
ている(ただし、物流形態としては、石油元売から直接一般販売店に配送
されることが通例である。)。そして、一般販売店は、特約店との間の石油
製品の販売契約と併せて、石油元売の商標を使用するために当該石油元売
と直接に別途の商標使用許諾契約を締結しているのが通例である。
(2)特約店をめぐる商標権主張と石油元売の対応の状況
①
基本的には地場の独立資本によるものが多い特約店は、石油元売との特
約販売契約等の下、基本的には当該石油元売の供給する石油製品(いわゆ
る系列玉)のみを販売する義務を負いつつ、事業を遂行している。しかし
ながら、こうした石油元売の系列玉は比較的仕切価格が高めに設定される
のが通例(2) であり、地域のガソリン等の激しい価格競争の中にあって、特
約店は、その生き残りを賭けて、少しでも仕入原価を低減することを余儀
なくされている。そこで、一部の特約店は、系列玉の仕切価格より比較的
安価な業転玉その他の商品を交えて仕入れることにより、仕入原価の低減
を図り、ひいては消費者利益の確保を図っている。
②
ところが、こうした石油元売の供給する系列玉に交えて、業転玉その他
の商品を仕入れることは、当該石油元売の系列玉を全量購入し、他の競争
品の取扱いを禁止する特約販売契約等の条項に反することとなる。また、
当該石油元売の商標ないしサービスマークの下で、こうしたノンブランド
商品を仕入れて、販売することは、当該商標に係る石油元売の商標権を侵
(2)
30 ページ。参考資料「卸価格と RIM 価格の推移」参照。
7
害することともなるおそれがある。
③
そうして、やむを得ず特約販売契約等の条項に違反して業転玉等を仕入
れ、販売した特約店に対して、石油元売は警告等の手続きを踏んで特約販
売契約等を解除しており、その実質的な根拠は業転玉等の取扱いによる当
該石油元売の商標権を侵害したことにあると考えられる。ところが、同じ
業転玉等の取扱いという商標権侵害ないし特約販売契約等違反行為があっ
た場合、石油元売は、必ずしも同じようにその特約販売契約等を解除等し
ているわけではなく、ある特約店のみが当該特約販売契約等を一方的に解
除される等といった極めて恣意的な取扱いを行っていると言われている。
このことは、業転玉等を取り扱ったから、ひいては商標権を侵害したか
らなどといった理由は、いわば表向きに過ぎず、その実は、日頃から石油
元売の要求ないし指示を十分に聞かないような、あるいは石油元売に対し
て物申す特約店等をことさらに懲らしめ、場合によっては排除するために、
業転玉等の取扱いを理由に特約販売契約等を解除等していると考えるしか
ないような状況にある。
④
もし、独占禁止法21条の適用除外を受けないとすれば、このように石
油元売が特約店に対し、特約販売契約等により、当該石油元売の系列玉を
全量購入させること等は、拘束条件付取引ないし不当な取引妨害等の不公
正な取引方法に該当するおそれが大きい。また、その公正競争阻害性の判
断においては、当該特約販売契約等によれば、石油元売が特約店に卸売す
る石油製品の仕切価格は石油元売が一方的に通告しており、しかも、その
仕切価格には特約店間で不当な格差が生じているのが実情であるが、上述
したような石油元売と特約店との取引上の力関係(特定の元売に全面的に
依存する特約店にとって、取引先元売を変更するには有形無形の多大なコ
ストがかかり、取引先変更は事実上不可能に近いことから、特約店は元売
に対して、取引上劣位にあることが多い。)も考慮されるべきであろう。
⑤
業転玉は、まったく真正のガソリンであって、何人もその購入を禁止さ
れるべき理由のない製品である。市場における価格差に応じて、購入先を
選択することは市場経済の基本であり、この取引先選択の自由を阻害する
行為は、市場の機能それ自体を阻害する行為であり、競争を制限する行為
として厳しく規制される。
かかる行為は、海外で購入した真正商品(ブランド品等)の輸入を阻害
する、いわゆる並行輸入の禁止行為に等しい行為である。国際的な価格の
8
差を利用して、価格の高い国に対して価格の安い国から商品が流れ込むの
は、まさに市場の機能そのものであって、これを阻害する行為は、並行輸
入の不当阻害とされ、独占禁止法上、不当な取引妨害(一般指定15項)
として規制されてきた(3)。つまり、公正取引委員会は、数多くの事件にお
いて、並行輸入品が国内で流通するのを阻止しようとする行為を、一般指
定15項を適用して排除してきたのであるから、真正商品たるガソリンの
購入を、商標権を盾にして排除しようとする行為は、並行輸入の不当阻害
行為と同様、不公正な取引方法として禁止されるべき行為に該当すると考
えられる(4) 。
(3)一般販売店をめぐる商標権主張と石油元売の対応の状況
①
一般販売店と石油元売の間には、特約販売契約は存在しないが、通常、
一般販売店が石油元売の商標ないしサービスマークを使用して石油製品を
販売するために、商標使用許諾契約が存在する。この場合、一般販売店が
いわゆる業転玉を仕入れて販売すると、確かに石油元売の商標権を不当に
侵害するおそれがあり、商標権侵害の防止等を根拠として、業転玉等の取
扱い等を制限するとともに、当該制限に違反した場合には商標使用許諾契
約を解除するということは一般には石油元売の権利行使として認められな
いわけではない。
②
しかし、石油元売が自社と特約販売契約等を締結している特約店に、業
転玉を取り扱ったこと等を理由に商標使用許諾契約等を解除した一般販売
店に対する石油製品の供給を拒絶させるとすると、結局、当該石油元売の
製品と競合する他社製品の取扱いを理由とする石油元売単独あるいは特約
店をして行わせる当該一般販売店に対する単独による取引拒絶(いわゆる
その他のボイコット)に該当することにもなり得る。特に、そうした状況
を受けて、当該一般販売店に石油製品を卸売供給している複数の特約店が、
石油元売の指示の下に、又は、互いに意思を通じて、当該一般販売店に対
する取引を拒絶すると、より悪質とされる共同の取引拒絶(いわゆる共同
ボイコット)に該当するおそれもある。あるいは、石油元売が特約店等に
対して当該一般販売店に対して石油製品の卸売供給をしないようにさせる
ことは、当該特約店等に対する拘束条件付取引にも当たり得る。
(3)
(4)
25 ページ。参考資料「並行輸入の不当阻害に関する審決例」参照。
21 ページ。参考資料「商標権を盾にした取引制限に関する判決例」参照。
9
3.石油製品販売をめぐる実情と商標権主張・行使の不当性
(1)石油元売の販売する石油製品(ガソリン)のうち20%が業転玉
①
石油元売は、自社の正規品である系列玉のほか、石油精製過程で必然的
に生成される主として余剰分の石油製品を自社系列以外に卸売している。
当該余剰分の石油製品は一定程度の数量をまとめて、主として商社等が購
入し、ノンブランド商品として小売ルートに販売するものである。これが、
いわゆる業転玉と呼ばれる石油製品であるが、業転玉はそもそも余剰の調
整分であるのが通常であることや、大口取引によって流通するものである
こと等から、系列玉に比べて比較的安価であるのが通常である(5)。すなわ
ち、業転玉も、系列玉も、もともと同一の石油元売の製品であり、品質に
おいてほとんど差はない。
②
このようにして販売される業転玉のシェアは、市場での石油製品の需給
状況等によって大きく左右されるものの、近年では、石油元売が市場に供
給する石油製品(ガソリン等)のうちおよそ20%が業転玉として市場に
流通していると言われる。
③
そうであるとすると、商標権を強く主張し、系列の特約店のネットワー
クを築き上げ、そのネットワークを通じて系列玉といわれるブランド商品
たる自社の石油製品を卸売する石油元売は、その傍らで、自ら業転玉を2
0%程度も市場に供給し、結果的に他の石油元売の商標を掲げる系列販売
店網にノンブランド商品を流すことで、結局は他の石油元売の商標権を侵
害するのに主要な役割を果たしている(6)。つまり、石油元売は、基本的に
は自社の商標については極めて保守的であり、強硬であると同時に、他方
では、業転玉の供給により他社の商標権の侵害ないし阻害行為を行ってい
ることにもなる。そのような状況の下でなされる商標権の主張は、必ずし
も正当な権利の主張、行使であるとは言えない。
④
加えて、そのような状況下では、業転玉は必ずしも自社以外の製品とは
限らず、ノンブランドであるが故に一見では判別できないものの、実は自
(5)
(6)
30 ページ。参考資料「卸価格と RIM 価格の推移」参照。
28 ページ。参考資料「業転玉の流通実態/公正取引委員会報告書」参照。
10
社製品の系列外流通品である可能性も十分ある。もし、そのような場合を
想定すると、そうした場合に商標権侵害等の議論を行うことは行き過ぎで
あると思われる。自社製品である以上、自社の商標権を侵害することは、
基本的にはないはずであるからである。つまり、SSが正規の取引特約店
から仕入れた系列玉に正規の取引特約店ルート以外から仕入れた当該石油
元売の系列玉を混合して販売したとしても、必ずしも当該元売の商標権侵
害には当たらないと考えられるのである(7)。
(2)共同油槽所で混合保管される石油製品(ガソリン)と商標権主張・行使
の当否(8)
①
石油元売の製油所で精製された石油製品は、一旦中継基地たる共同油槽
所のタンクで混合保管された上で、各石油元売のブランドを冠したタンク
ローリー等によって引き出され、各地の特約店等SSに配送される。
②
このようにして小口配送された石油製品については、特定の石油元売が
自社の商標を冠して配送、卸売している以上、当該商標権の保護下にある
ようにも思われる。しかし、そもそも商標権の趣旨は、商品等の品質を保
証するとともに、出所を識別することが主たるものである。そうであると
すると、共同油槽所の混合保管タンクに注入された時点で、出所識別機能
は一旦消滅したとも考えられる。他方、石油製品(ガソリン等)の品質に
ついては、どの石油元売の製品であっても、品質確保法の規制やJIS規
格の存在も幸いして、ほとんど違いはない。そういう意味では、品質保証
機能については結果的に充足されているとも言えるが、しかし、他社製品
との混合を経て、そもそもの自社のスペックによる自社製品とは異なるも
のとなってしまう以上、自社製品に係る自社の品質保証機能を有する商標
権の趣旨には必ずしも合致するとは言えないのではないかと考えられる。
③
このように、共同油槽所で一旦混合保管されたのち、再び特定の石油元
売によって自社の商標の下で販売される石油製品についても、商標権の性
格から、一般には自己の商標を付して品質保証を行う石油元売の商標権が
保護されるべきだと考えられている。しかし、上述のように、混合保管を
経て、全く品質上の差のない石油製品については、わざわざ品質保証を行
(7)
(8)
22 ページ。参考資料「資源エネルギー庁石油部流通課長通知」参照。
31 ページ。参考資料「共同油槽所の利用状況」参照。
11
う意味がなく、結局、そうした品質保証機能を担う商標権の趣旨にはそぐ
わない上、自社のスペックによる製品とは全く違うものとなる以上、本来
の出所識別機能を担う商標権の趣旨にもそぐわないものと言うべきである。
したがって、石油元売が、共同油槽所で混合保管された石油製品について
まで商標権を主張、行使することは許されるものではないと考えられる。
(3)SSのサインポール上のサービスマークと商標権主張・行使の範囲
①
一般に多くのSSの屋根(キャノピー)の先端等には、特定の石油元売
のサービスマークが付されている。このサービスマークの使用許諾は、当
該サービスマークを有する石油元売の商標権の主張、行使として行われ、
キャノピーに付されるものである。そうすると、当該サービスマークを付
したキャノピーの下で、業転玉等当該石油元売の系列玉以外の石油製品を
販売することは、基本的には商標権侵害を構成する可能性もある。
②
しかし、そもそも当該サービスマークは、そのキャノピーの下にある全
ての製品に直ちに及ぶわけではない。つまり、商標は、例えばガソリン1
8リットル缶といったように管理可能な単位ごとに付されるものであって、
その範囲で効力が及ぶと考えるべきが自然である。換言すれば、サービス
マークを付した一つのキャノピーの下であっても、当該サービスマークの
下にないことを明示した商品等には当然にはその効力は及ばないのである
(9)
。ゆえに、当該サービスマークの下で、ノンブランドであることを明示
した石油製品を販売したとしても、必ずしも商標権侵害には当たらないと
考えられる。
(9)
22 ページ。参考資料「資源エネルギー庁石油部流通課長通知」参照。
12
4.独占禁止法21条に照らした法解釈のあり方
独占禁止法21条が存在する中で、本来であれば、不公正な取引方法に該当
するような行為であっても独占禁止法の適用除外を受けられるか否かについて
は、以下のように解釈されるべきである。
(1)独占禁止法21条の法理(クリーンハンドの原則)
①
商標権の行使と認められる行為についての適用除外が法定されている以
上、商標権の行使と認められる限りは、当該行為に独占禁止法を適用する
余地がないのは当然の法理である。しかしながら、権利の濫用はこれを許
さないということも法解釈の大原則である以上、商標権の濫用と認められ
るような場合においては、21条の規定にもかかわらず、独占禁止法の適
用が排除されないことも、これまた当然の法理である。
②
これを具体的にみると、石油元売が自ら業転玉と称されるガソリンを市
場に供給しておきながら、他方でそれを市場から購入した自己の特約店等
に対し、商標権違反を主張して契約を解除するがごときは、自らその原因
を作っておきながら、特約店等に対してはその購入を禁止するという、自
分に都合のよい身勝手な行為であるという意味で、クリーンハンドの原則
にもとる行為といわなければならない(10) 。
(2)商標権の不適切な行使は独占禁止法21条の適用不可
①
したがって、自ら業転玉を出荷している石油元売は、その原因となる行
為を自ら行っているわけであるから、業転玉の出荷行為を行っている限り、
もはや商標権を行使して契約の解除等を行うことは許されず、もし、商標
権を盾に契約の解除等を行うとすれば、それは、商標権の濫用とみるべき
ものである。
②
商標権の濫用と認められる行為があれば、独占禁止法21条の適用除外
規定はその限りにおいて効力を失い、もはや当該行為に対して独占禁止法
の適用は排除されないこととなる。
(10)
26 ページ。参考資料「クリーンハンドの原則」参照。
13
③
これを逆の角度から見ると、石油元売としては、仮に自己の特約店等に
よる業転玉の購入を阻止したいのであれば、まず、自ら行っている業転玉
の出荷を停止するのが先であって、しかる後に特約店等に対して契約解除
等の措置を講ずるべきであろう。しかし、自らそのような措置を講ずる立
場にありながら、自分に都合の悪いことは放置しつつ、商標権を盾に特約
店等との契約を解除するがごとき行為は、クリーンハンドの原則に反し、
法治国家においては認められるはずがないのである(11)。
(3)業転玉購入を阻害する行為は不公正な取引方法として禁止
①
このことから、当該行為に対して、独占禁止法の適用があることとなり、
先に述べたとおり、商標権を根拠に契約を解除する旨の圧力を及ぼし、そ
の購入を阻害するがごとき行為は、本来自由に購入することのできるガソ
リンの購入を、契約解除という圧力の下にそれを行わないようにさせる行
為と評価され、このような行為は、不当な取引妨害(一般指定15項)に
該当し、更には拘束条件付取引(一般指定13項)に該当する行為でもあ
るので、不公正な取引方法として禁止されることとなる。
②
したがって、ある石油元売が、自ら業転玉を特約店以外の者に出荷して
いる場合、あるいは特約店が系列SS以外の者に販売している事実を知り
ながらこれを漫然と放置している場合には、上記のとおり、特約店等によ
る業転玉の購入を阻害する行為及び、そうした行為を根拠づけるかのよう
な片務条項は、独占禁止法21条の適用除外規定の保護を受けることがで
きず、独占禁止法により禁止されることとなる。
(11)
26 ページ。参考資料「クリーンハンドの原則に関する判決例」参照。
14
5.石油製品販売をめぐる独占禁止法違反行為を排除し、石油流通
を適正化するために
(1)特約販売契約上の片務条項を削除する排除措置命令の発動
①
以上みてきたように、石油元売は、商標権を盾に、実質的には独占禁止
法で禁止する不公正な取引方法に該当する行為を行っているおそれがある。
②
加えて、石油元売と特約店との特約販売契約等の条項及び取引慣行によ
れば、例えば、石油製品の仕切価格は、石油元売が一方的に、場合によっ
ては取引完了後に、特約店に対して通告することによって決定される等、
あたかも石油元売は特約店の生殺与奪の権を握っているかのような強い立
場にあり、特約店の事業活動(経営)は石油元売の意向によって大きく左
右され、場合によっては特約店の事業継続が困難な状況に陥りかねない。
これらの契約条項は、業転玉の取引を不当に妨害する根拠としても使われ
ているとともに、片務性、不平等性が強く、その運用も恣意的になりがち
な特約販売契約等自体も見直されなければならないと考える。
③
このような石油元売による独占禁止法違反行為を排除し、競争品購入制
限条項など特約販売契約における片務条項を削除させるためには、公正取
引委員会による独占禁止法20条に基づく排除措置命令の発動など不公正
な取引方法に対する厳格な取組みが求められる(12)。さらに、そのためには、
特約店等も、公正取引委員会に対して積極的に情報提供していく必要があ
る。
(2)独占禁止法規定の改正強化
①
石油元売の独占禁止法違反行為の排除のためには、まずは現行独占禁止
法の運用強化で臨むべきが正道であるが、それだけでは必ずしも十分とは
言えない。
②
すなわち、独占禁止法の不公正な取引方法の規制については、私的独占
や不当な取引制限の場合のような課徴金の賦課や刑事罰等は規定されてい
(12)
21 ページ。参考資料「競争品の販売制限条項の排除を命じた審決例」参照。
15
ない。そこで、今次独占禁止法改正時の国会における附帯決議においても、
不公正な取引方法に対する罰則として課徴金の賦課等を盛り込むべき旨付
されたところである。
③
このように、不公正な取引方法の排除を実効あらしめるために独占禁止
法の改正にあたり、抑止力の抜本的な強化策として以下の措置を導入すべ
きである。
ア)不公正な取引方法に対する課徴金制度の導入
不当廉売、差別対価や優越的地位の濫用等の不公正な取引方法に対する
行政上の制裁措置について、現行の排除措置命令のみでは当該規制の実効
性確保はおぼつかないのが現実である。例えば、不当廉売で『警告』を出
された事業者が新聞等に公表されるとかえって安売りしていることが知れ
渡るなど、むしろ「やり得」ということになっている事例すらある。
このため、不当廉売等の不公正な取引方法に対して、金銭的不利益処分
である課徴金を課すなど、独占禁止法違反行為に対する抑止力を強化すべ
きである(13) 。
イ)文書提出命令・団体訴権の導入
①文書提出命令の導入
不当廉売等の不公正な取引方法に対して差止請求訴訟を提起しても、例
えば、原告側で相手方(被告)が不当廉売や差別対価を行っていることを
立証するためには、相手方の仕入価格や卸価格が分かる仕入伝票や卸伝票
などの証拠を収集して、これを立証することになるが、現実問題として、
仕入伝票などの証拠を収集することは極めて困難である。
そこで、特許法や不正競争防止法に準拠して、独占禁止法違反行為に係
る差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟における文書提出命令の特則を独占禁
止法にも導入すべきである。
②団体訴権の導入
平成18年6月、改正消費者契約法により、適格消費者団体が消費者契
約法に違反する事業者等の不当行為に対して差止請求権を行使できる「消
費者団体訴訟制度」が導入された(平成19年6月7日施行)。
(13)
32 ページ。参考資料「国会附帯決議」参照。
16
もとより、不当廉売や差別対価等の不公正な取引方法により直接被害を
受けるのは同業者であり、競争者等の不当行為により、事業者が蒙った損
害(不利益)を回復するに当たっては、本来であれば、当事者である事業
者本人が差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起することになる。
しかしながら、実際問題として、事業者本人が提起すれば、相手方(石
油元売や大規模事業者等)から陰に陽に嫌がらせを受けたり、場合によっ
ては市場から抹殺されるおそれすらあることから、こうした事情がある当
事者に代わって、事業者団体が差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起で
きる、いわゆる団体訴権を独占禁止法にも導入すべきである。
(以上)
17
18
参考資料
19
参考資料
1.商標権を盾にした取引制限を不当と認定した審決・判決例
・・・・・・・・21
(1)競争品の販売禁止条項が拘束条件付取引に該当するとされた審決例
(2)真正商品の並行輸入は商標権の侵害に当らないとされた判決例
2.ガソリン流通に係る「商標権」行使についての行政庁の見解
・・・・・・・22
(1)資源エネルギー庁の考え方
(2)公正取引委員会の考え方
3.並行輸入に関する独占禁止法上の取扱い
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
(1)「流通・取引慣行ガイドライン」の考え方
(2)不当な並行輸入阻害は不公正な取引方法に該当するとされた審決例
4.クリーンハンドの原則
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(1)定義
(2)クリーンハンドの原則に関する判決例
(3)業転玉の流通とクリーンハンド原則との関係
5.業転玉の流通実態
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
(1)ガソリンの流通経路
(2)卸売価格について
6.元売の商品管理の実態
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
(1)共同油槽所の利用状況
(2)共同油槽所の風景
7.その他
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
(1)平成17年改正独占禁止法国会附帯決議
(2)独占禁止法関連条文
(3)不公正な取引方法
(4)用語解説
文書提出命令
団体訴権
20
1.商標権を盾にした取引制限を不当と認定した審決・判決例
(1)競争品の販売禁止条項が拘束条件付取引に該当するとされた審決例
[ヤクルト事件](公取委・昭和 40 年 9 月 13 日勧告審決)
○ヤクルト社が、加工業者との契約において、ヤクルトの販売先を実質的に制
限していることは、特許法または商標法による正当な権利行使とは認められ
ず、拘束条件付取引に該当するとし、契約書から当該条項を削除しなければ
ならないとされた。
・ヤクルト社は、醗酵乳の製法に関する特許権および「生菌ヤクルト」の商
標権を保有している。
・同社は、取引先の加工業者との間で、「小売価格、小売地域及び小売数量
の遵守ならびに競争品の販売禁止を含む契約を締結した小売業者以外の
者にヤクルトを販売してはならない。」旨の条項を盛り込んだ契約を締結
していた。
・公取委は、同条項による取引制限(加工業者の販売先制限等)について、
①特許法または商標法による権利行使とは認められないものであること、
②正当な理由がないのに、加工業者と小売業者との取引を拘束する条件を
つけることは、一般指定8項(現13項)に該当するとし、当該条項を契
約から削除しなければならないとした。
(2)真正商品の並行輸入は商標権の侵害に当らないとされた判決例
[パーカー万年筆事件](大阪地裁・昭和 45 年 2 月 27 日判決)
○商標権の出所識別機能に関連して、真正商品の並行輸入は、需要者が商品の
出所を誤認混同する危険が全くないときには、商標権侵害の外形を有する行
為も実質的違法性を欠き、侵害に当たらないとされた。
・本件は、わが国におけるパーカー商標の専用使用権を取得していたシュリ
ロ社がパーカー万年筆の並行輸入を不当に妨害しているとして、並行輸入
業者であるエヌ・エム・シー社が原告となって、被告シュリロ社の妨害禁
止等を求めた事案である。
・判決では、原告側の主張を認めて、「その間に品質上些かの差異もない以
上…需要者に商品の出所品質について誤認混同を生ぜしめる危険は全く
生じないのであって、右商標の果たす機能は少しも害されることがないと
いうべきである。…したがって、原告のなす真正パーカー商品の輸入販売
によって、被告は内国市場の独占的支配を脅かされることはあっても、パ
ーカー社の業務上の信用が損なわれることがない以上、被告の業務上の信
用もまた損なわれない…」、「原告は形式的には本件登録商標につきなん
ら使用の権限を有しないものであるが、同人のなす本件真正パーカー製品
の輸入販売行為は、商標権保護の本質に照らし実質的には違法性を欠き、
権利侵害を構成しないものというべきである。」と判示した。
21
2.ガソリン流通に係る「商標権」行使についての行政庁の見解
(1)資源エネルギー庁の考え方
(平成 11 年 5 月 資源エネルギー庁石油部流通課長から全石連会長あて通知)
○
A社がブランド商品として商社(あるいは特約店)乙に売り渡した商品
の一部を、商社乙が、当該ブランド商品以外の商品と混合することなく、
乙の正規取引ルートでない販売業者甲に販売した。
販売業者甲は、甲の正規取引ルートでない商社乙から買い入れたA社の
ブランド商品を、A社の商標で(A社の商標をサインポール等に掲げた給
油所でA社の商品として)販売した場合、当該行為は、A社の商標権の侵
害に当たらない可能性が高い。
○
販売業者甲は、給油所のサインポール等にはA社の商標を掲げているが、
商社(あるいは特約店)乙から購入したノンブランド商品について、一部
の計量器について地下タンクとともに分け、当該商品がノンブランド商品
等であることを明確に表示するなど、消費者に当該計量器から給油する商
品がA 社のブランド商品ではないことを明確に認識できるよう表示して、
すなわち、消費者がA社のブランド商品であると誤認・混同をしないよう
にして販売している場合には、当該販売行為はA社の商標権の侵害に当た
らない可能性が高い。
(2)公正取引委員会の考え方
(平成 16 年 9 月 公正取引委員会「ガソリン流通実態調査報告書」)
○
具体的には個々の事案ごとに判断されるものであるが、次のような場合
には、元売の行為が商標保護制度の趣旨を逸脱し、又は同制度の目的に反
するなど、 商標権の権利の行使と認められないおそれがあり、独占禁止法
上の問題(排他条件付取引、差別的取扱い、拘束条件付取引、優越的地位
の濫用など)となり得るものである。
ア
元売が、例えば、同一の自社系列の特約店間であっても、ある系列特約
店には業転玉の取扱いを止めるよう求めたことがないのに、他の系列特約
店に対しては業転玉の取扱いを止めるように求め(、それ以後も業転玉の
取扱いを続けた場合には特約店契約を解除す)るなど、商標権を恣意的、
差別的に行使し、不利に取り扱われた系列特約店の競争機能に直接かつ重
大な影響を及ぼす場合
22
イ
元売が、系列特約店等が同じ自社系列の大手特約店などからの低価格の
自社の系列玉を取り扱えないようにすることにより、系列特約店等の自由
な事業活動を阻害し、不当な不利益を与える場合
ウ
元売が、系列玉の流通過程において、不特定の他社のガソリンとの混合・
混入を許容、黙認するなど自社の系列玉としての品質管理を行わず、また、
系列玉を業転玉などと適切に分別して管理を行っていないなど、一貫して
商標を付した系列玉として適切に流通させることをしていないにもかかわ
らず、系列特約店等が業転玉を取り扱う際には、当該商標権を行使してこ
れを禁止することにより、系列特約店等の自由な事業活動を阻害し、不当
な不利益を与える場合
23
3.並行輸入に関する独占禁止法上の取扱い
(1)「流通・取引慣行ガイドライン」の考え方
(平成 3 年 7 月「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」公正取引委員会)
第3部
2
第三
並行輸入の不当阻害
独占禁止法上問題となる場合
(1)海外の流通ルートからの真正商品の入手の妨害
並行輸入業者が海外の流通ルートから真正商品を入手してくることを
妨げて、契約対象商品の価格維持を図ろうとすることがある。このような
行為は、総代理店が取り扱う商品と並行輸入品との価格競争を減少・消滅
させるものであり、総代理店制度が機能するために必要な範囲を超えた行
為である。
したがって、総代理店又は供給業者が以下のような行為をすることは、
それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公正な
取引方法に該当し、違法となる(一般指定 13 項(拘束条件付取引)又は
15 項(競争者に対する取引妨害))。
①
並行輸入業者が供給業者の海外における取引先に購入申込みをした
場合に、当該取引先に対し、並行輸入業者への販売を中止するようにさ
せること
②
並行輸入品の製品番号等によりその入手経路を探知し、これを供給業
者又はその海外における取引先に通知する等の方法により、当該取引先
に対し、並行輸入業者への販売を中止するようにさせること
(2)販売業者に対する並行輸入品の取扱い制限
並行輸入品を取り扱うか否かは販売業者が自由に決定すべきものであ
る。総代理店が並行輸入品を取り扱わないことを条件として販売業者と取
引するなど、販売業者に対し並行輸入品を取り扱わないようにさせること
は、それが契約対象商品の価格を維持するために行われる場合には、不公
正な取引方法に該当し、違法となる(一般指定 13 項又は 15 項)。
24
(2)不当な並行輸入阻害は不公正な取引方法に該当するとされた審決例
■拘束条件付取引又は取引妨害に該当するとされた審決例
[オールドパー事件] (公取委・昭和 53 年 4 月 18 日勧告審決)
○スコッチウィスキー・オールドパーの日本における輸入総代理店であるオー
ルドパー社が、その特約店に対し、並行輸入品を取り扱っている小売業者に
はオールドパーを納入しないことを条件として取引していることは、拘束条
件付取引(一般指定8項(現13項))に該当するとされた。
・オールドパー社は、オールドパーの並行輸入の増加に対抗して、同社が販
売するオールドパーの価格を維持するため、特約店に対し、並行輸入され
たオールドパーを取り扱っている小売業者にはオールドパーを納入しな
いことなどを指示し、該当小売業者を指名した。
・オールドパー社は、オールドパーの紙箱に記入されている特約店別の番号
により、指示に反した特約店を発見し、出荷停止、小売業者から買い戻さ
せる等の措置を講じていた。
[ミツワ自動車事件](公取委・平成 10 年 6 月 19 日審判審決)
○ポルシェ社の日本における輸入総代理店であるミツワ自動車が、ポルシェ社
に働きかけて、ポルシェ車の並行輸入をできなくしていることは、不当な取
引妨害(一般指定15項)に該当するとされた。
・ミツワ自動車は、並行輸入車が安値で大量に販売されると、自己の取引先
代理店の小売価格に影響し、ひいては自社に悪影響が及んでくること等か
ら、安値で販売される並行輸入車を発見した場合には、ポルシェ社に流通
経路を調査させ、並行輸入車を減らす対策を採るよう求めることとした。
・ミツワ自動車は、東京都、愛知県及び大阪府所在の並行輸入業者が販売し
ていたポルシェ車の車体番号を確認し、これをポルシェ社に通知して流通
経路を調査させたところ、ポルシェ社が中国の輸入総代理店向けに販売し
たものであることが判明した。
・ポルシェ社は、ミツワ自動車の要請を受け、中国の輸入総代理店に対して、
日本向けに供給しないよう警告を行ったが、その後も同様な状況が消滅し
ないことから、最終的には、中国の輸入総代理店との取引を停止した。
・このため、並行輸入業者は、ポルシェ車の輸入ができなくなり日本国内に
おいての販売ができなくなった。
25
4.クリーンハンドの原則
(1)定義
○クリーンハンドの原則とは、イギリスにおける「裁判所に来るものはその
手が汚れていてはならない」という法格言、つまり、原告側に良心にもと
るような行為があった場合には、裁判所は救済を与えないとする法理であ
る。
○わが国においても「信義則」として同様の考え方が採られており、民法1
条2項において「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わな
ければならない。」と規定されており、不誠実な行為により取得した権利
ないし地位を主張すること、あるいは、そのような行為によって相手方に
有利な地位ないし権利が生ずるのを妨げることは、この信義誠実の原則に
反する一類型とされている。
(2)クリーンハンドの原則に関する判決例
[理事の不存在確認請求事件] (福岡地裁・平成 12 年 2 月 29 日判決)
○マンション管理組合規約に違反して、資格要件を欠く者を理事に選任した総
会議決は無効との原告(前理事長)の訴えに対し、判決は、①規約が既に形
骸化し規範的効力を失っていること、②規約が有効としても、原告自らが理
事の資格要件を欠き、規約違反状況を是認しておきながら、他の者の規約違
反を問題とするのは「クリーンハンドの原則」=「信義則」に反するとして、
訴えを却下した。
・本件は、マンション管理組合の前理事長であるXが、マンション管理組合
Yに対して、A理事は理事資格を有していないにもかかわらず、平成 9 年
6 月 15 日のAを理事に選任した総会決議は無効であるとしてA理事の地位
不存在確認を求めた事案。(なおXは同日の総会で退任)
・原告Xの主張は、総会時点において、Aはマンションの区分所有者でも居
住者でもないから、役員の資格要件を満たしていないとしているところ、
X自身は平成 7 年から当該マンションに入居しているものの、区分所有権
を取得したのは平成 9 年 10 月 17 日である。
・X自身が規約に違反して理事や理事長を務めてきて、X自身が規約違反状
況を是認してきたにもかかわらず、新たに選任されたAについて、Xが規
約違反を問題とするのは信義則に反するとされた。
26
[土地明渡し請求事件] (最高裁・昭和 52 年 3 月 15 日判決)
○賃貸人が火災により消失した借地上の建物を賃借人に再築するのを禁じて
おきながら、借地契約期間満了時に借地上に建物がないことを理由として
地主が土地の明け渡しを請求することは、信義則上許されないとされた。
・本件は、借地上の建物が失火によって消失したところ、賃貸人Xは賃借人
Yに対して建物再築禁止を通告するとともに、土地の明渡しを求め、その
ためYが建築計画を進めることができないでいるうち、Xが土地明渡しの
調停を申し立て、この調停の継続中に賃貸借期間が満了したという事案。
・判決では、建物の不存在はXにより建物建築が妨害されたことによるもの
であり、いわばXの不誠実な行為によりYの更新請求権の発生が妨害され
たものであり、張本人のXがYの権利の不存在を援用することは信義則に
反するとされた。
(3)業転玉の流通とクリーンハンド原則との関係
■業転玉の流通実態に照らして、元売の「商標権」に係る主張は、「クリー
ンハンドの原則」に反するものと考えられる。
(平成 16 年 9 月
a
公正取引委員会「ガソリン流通実態調査報告書」
)
業転玉の流通量
平成15年のガソリンの総販売量のうち、大手商社に対して販売された業転
玉の販売量は約555万キロリットル(総販売量の11.0%)となっており、
これ以外にも大手特約店等に対して元売が供給している業転玉が一定量存在
している。
また、すべての元売で大手商社に対する業転玉の販売実績が見られるとこ
ろ、その販売の割合は、元売によって差はあるが、おおむね年間販売量の10%
台となっているところが多かった。
なお、一部の元売は、大手商社に供給している業転玉はすべてエネルギー商
社系のPBSSや無印販売店向けに販売したものであると説明しているが、こ
れらの元売も、大手商社に供給した業転玉が、実際に、エネルギー商社系のP
BSSや無印販売店に対してのみ販売されているかは分からないとしている。
b
元売ごとに異なる業転玉の販売政策
業転玉の販売については、元売によって考え方が異なり、極力、業転玉の
販売を行わないようにしている元売がある一方、系列特約店に対して販売しき
れなくても、業転玉として商社等に販売することで利益が増加するのであれ
27
ば、可能な限り生産量を増やして業転玉を販売するとしている元売もある。
c
元売による業転玉の販売先
元売の多くは、一部の商社等に限って業転玉を販売している。また、自社が
業転玉を商社等に販売していることが表面化することを恐れ、業転玉の出所に
ついて明らかにしないよう、商社等に依頼している元売もある。
さらに、元売は、自らが販売した業転玉が自社の系列特約店又は系列販売店
に流通しないようにするため、自社が販売した業転玉を、自社の系列特約店又
は系列販売店に販売しないよう商社等に対して依頼しており、商社等が仕入先
元売の系列特約店又は系列販売店に業転玉を販売しないことは、元売と商社等
との間の事実上の業界慣行となっていると言われている(元売の中には、自社
の系列特約店又は系列販売店に対して自社の業転玉を販売した商社とは取引
をやめるとしているところもある。)。
(注)本文中の下線は全石連で付したもの。
28
5.業転玉の流通実態
(1)ガソリンの流通経路
○ガソリンの流通経路は、元売の販売先により、系列特約店等を中心とするル
ート(系列ルート)と、それ以外のいわゆる業転ルートとに大別される。
また、元売が業転ルートに供給したガソリンの一部は、系列特約店等が運
営する元売系列 SS にも流入している。
系列玉: 特約店契約に基づき
供給されるガソリン
元 売
流入
業
転
玉
業転玉流通業者①
(商社等大手業者)
精製会社
・総合商社
・エネルギー商社
・その他一部の
大手系列特約店 等
業転玉流通業者②
(PB事業者)
・エネルギー商社
・全農 等
元売系列SS
系列特約店・販売店
・SS数全体の8割程度
・元売商標を表示して営業
・ガソリンの仕入は契約上,当該元売
からのものに限定されている
・総合商社から零細事業者まで幅広い
範囲の事業者が運営
無印SS
・元売商標等を利用せず,自らの信用力
等のみで営業
・ガソリン仕入先に関する制約はない
PBSS
・PB事業者(エネルギー商社等)の独
自商標を表示できる
・ガソリンの仕入は契約上,当該PB事
業者からのものに限定されている
輸入ガソリン
○ガソリンの販売数量
・平成15年のガソリン総販売量は 5,030 万 KL。
・うち、系列玉の販売量は、約 4,022 万 KL(総販売量の 80%)
(平成 16 年 9 月
公正取引委員会「ガソリン流通実態調査報告書」
)
29
(2)卸売価格について
・系列特約店の卸売価格と業転価格の比較
(平成 16 年 9 月
公正取引委員会「ガソリン流通実態調査報告書」
)
○業転玉の卸売価格は、RIM リンク方式で決定されるケースが多く、元売にお
ける大手商社向けの卸売価格をみると、その価格は RIM 価格の変動に伴い大
きく上下しているが、取引先ごとの価格差は比較的小さく、取引数量の違い
による価格差もそれほどみられない。
また、元売における大手商社向け業転玉の卸売価格は、元売が系列特約店
向けに販売する系列玉の卸売価格の最低値とほとんど差がみられない。
○業転玉については、買い手である大手商社が負担する輸送コスト等が 1 リッ
トル当たり平均2円程度と言われており、これを大手商社向け業転玉の卸売
価格(平均値)に上乗せした上で、中小の系列特約店向け系列玉の卸売価格
と比較した。その結果、中小の系列特約店向け系列玉と大手商社向け業転玉
の卸売価格には、1 リットルあたり3円から8円程度の価格差が見られる。
<注>卸売価格差の拡大
系列特約店向けの卸売価格と業転価格の差は、直近では1リットル当
たり12円程度に拡大している。
卸価格とRIM価格の推移
円/L
130
卸価格
RIM関東
125.2
125
121.5
121.3 121.6
120
115
109.8
110
106.9
105.1
105
100
103.4
98.5
103.7 103.9
99.2
108.5
106.1
105.9
101.0
97.9
95
111.7 112.5 111.4
110.5
114.8 118.9
114.0
112.4
114.5
119.2
120.2
111.3
123.7
125.0
120.2
117.3
116.2
107.8
110.0
106.1
105.9
102.5
100.3
98.0
93.4
90
2005年3月平均
7月平均
11月平均
2006年3月平均
7月平均
11月平均
(全石連調)
30
6.元売の商品管理の実態
(1)共同油槽所の利用状況
○元売では、油槽所の共同利用(共同油槽所)を行っており、このような油槽
所では各元売のガソリンが同一のタンクに混合されて保管されている。
○このことについて、元売では、共同油槽所においてガソリンの混合・混入が
生じたとしても、共同油槽所の利用者が特定されており、当該利用者が共同
油槽所に搬入するガソリンの品質が製造規格である JIS 規格を満たしている
現状においては、当該ガソリンは品質確保法に定める強制規格を満たすもの
となっているとしている。
[共同油槽所のイメージ]
共同油槽所
A元売
A元売
B元売
B元売
C元売
C元売
商社等
商社等
1000kl搬入
1000kl配送
同一の
タンク
1000kl搬入
1000kl配送
1000kl配送
1000kl搬入
A元売の系列SS
A元売の系列SS
B元売の系列SS
B元売の系列SS
C元売の系列SS
C元売の系列SS
1000kl搬入
1000kl配送
PBSS・無印SS
PBSS・無印SS
計 4000kl が共同油槽所の同一タンクに混合・保管される。
(平成 16 年 9 月
公正取引委員会「ガソリン流通実態調査報告書」
)
(2)共同油槽所の風景
31
7.その他
(1)平成17年改正独占禁止法国会附帯決議
①衆議院経済産業委員会(平成 17 年 3 月 11 日:抜粋)
3
独占禁止法の措置体系の望ましい在り方について、実効性の確保や国際
的調和等の観点を十分に踏まえつつ、議論が尽くされるよう努めるととも
に、特に中小企業等に不当な不利益を与える不当廉売、優越的地位の濫用
等の不公正な取引方法に対する措置に関しては、課徴金適用の対象とする
ことも含めてその方策を早急かつ前向きに検討すること。
4
不公正な取引方法については、公正取引委員会において厳正に対処する
とともに、不公正な取引方法の差止請求について、文書提出命令、団体訴
権など一層効果的な措置を講ずることができる方策について早急に検討
すること。
(注)本文中の下線は全石連で付したもの(以下同様)
。
②参議院経済産業委員会(平成 17 年 4 月 19 日:抜粋)
7
中小企業等に不当に不利益を与える不当廉売、優越的地位の濫用等の不
公正な取引方法に対しては、厳正かつ迅速な対処を行うとともに、課徴金
の対象とすることも含め、その禁止規定の実効性を確保する方策について
早急に検討を行うこと。また、不公正な取引方法の差止請求について、文
書提出命令、団体訴権など一層効果的な措置を講ずることができる方策に
ついて早急に検討を行うこと。
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(2)独占禁止法関連条文(昭和 22 年 4 月 14 日法律第 54 号)(抜粋)
〔課徴金、課徴金の減免〕
第7条の2
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容と
する国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたと
きは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、
当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動
がなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは、当該行為の実行として
の事業活動がなくなる日からさかのぼつて3年間とする。以下「実行期間」という。)
における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が
商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政
令で定める方法により算定した購入額)に100分の10(小売業については10
0分の3、卸売業については100分の2とする。)を乗じて得た額に相当する額
の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が100
万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一
商品又は役務の対価に係るもの
二
商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価
に影響することとなるもの
②
イ
供給量又は購入量
ロ
市場占有率
ハ
取引の相手方
前項の規定は、事業者が、私的独占(他の事業者の事業活動を支配することによ
るものに限る。)で、当該他の事業者(以下この項において「被支配事業者」とい
う。)が供給する商品又は役務について、次の各号のいずれかに該当するものをし
た場合に準用する。(以下略)
〔不公正な取引方法〕
第19条
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
〔排除措置〕
第20条
前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第8章第2
節に規定する手続に従い、当該行為の差止、契約条項の削除その他当該行為を排除
するために必要な措置を命ずることができる。
②
第7条第2項の規定は、前条の規定に違反する行為に準用する。
〔知的財産権の適用除外〕
第21条
この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法に
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よる権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。
〔差止請求権〕
第24条
第8条第1項第5号又は第19条の規定に違反する行為によってその利益
を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又
は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は
侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防
を請求することができる。
〔排除措置命令〕
第49条
第7第1項若しくは第2項(第8条の2第2項及び第20条第2項におい
て準用する場合を含む。)、第8条の2第1項若しくは第3項、第17条の2又は
第20条第1項の規定による命令(以下「排除措置命令」という。)は、文書によ
つてこれを行い、排除措置命令書には、違反行為を排除し、又は違反行為が排除さ
れたことを確保するために必要な措置並びに公正取引委員会の認定した事実及びこ
れに対する法令の適用を示し、委員長及び第69条第1項の規定による合議に出席
した委員がこれに記名押印しなければならない。
(②∼⑦略)
34
(3)不公正な取引方法(昭和 57 年 6 月 18 日告示第 15 号)(抜粋)
【共同の取引拒絶】
1
正当な理由がないのに、自己と競争関係にある他の事業者(以下「競争者」とい
う)と共同して、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。
一
ある事業者に対し取引を拒絶し又は取引に係る商品若しくは役務の数量若し
くは内容を制限すること。
二
他の事業者に前号に該当する行為をさせること。
【その他の取引拒絶】
2
不当に、ある事業者に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の
数量若しくは内容を制限し、又は他の事業者にこれらに該当する行為をさせること。
【差別対価】
3
不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給
し、又これらの供給を受けること。
【取引条件等の差別取扱い】
4
不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不当な扱いを
すること。
【不当廉売】
6
正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価
で断続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の
事業活動を困難にさせるおそれがあること。
【排他条件付取引】
11
不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、
競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること。
【拘束条件付取引】
13
前二項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手
方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること。
【優越的地位の濫用】
14
自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に
照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。
35
一
断続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は
役務を購入させること。
二
断続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利
益を提供させること。
三
相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること。
四
前三号に該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を
与えること。
五
取引の相手方である会社に対し、当該会社の役員(私的独占の禁止及び公正取
引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二条第三項の役員をい
う。以下同じ。)の選任についてあらかじめ自己の指示に従わせ、又は自己の承認
を受けさせること。
【競争者に対する取引妨害】
15
自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他
の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行
の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害するこ
と。
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(4)用語解説
■文書提出命令
○民事訴訟において、訴訟の相手方又は第三者が所持する文書について、証拠
として提出を命ずるよう裁判所に求める制度がある。ただし、公務秘密文書、
自己使用文書、刑事・少年事件記録については提出義務がないとされている。
・平成 12 年 5 月、独占禁止法に不公正な取引方法について差止請求訴訟制度が導入さ
れたが、差止請求訴訟においては被害者である原告側で、不公正な取引方法に該当
する事実を立証するための証拠を収集して、これを裁判所に提出しなければならな
い。例えば、不当廉売の差止請求訴訟では、廉売行為者である被告の所有する「仕
入先や仕入れ価格が記載された書類、販売先や販売価格が記載された書類、総販売
原価を計算するための帳簿書類」が必要不可決である。
・しかしながら、一般的な民事訴訟における文書提出命令等の証拠収集制度では、こ
れらの帳簿書類は提出義務のない「自己使用文書」に該当すると考えられることか
ら、不公正な取引方法に該当する事実を立証するために不可欠な相手側が所有する
帳簿書類等を提出させることは困難である。
・そこで、特許法 105 条に準拠して、文書提出命令の特則規定を独占禁止法に設ける
ことにより、民事訴訟法の規定による文書提出命令では提出させることができない
「不公正な取引方法」に該当する事実を立証するために不可欠な相手方の所有する
帳簿書類を提出させる必要がある。
・なお、特許法上の文書提出命令は、特許権の侵害行為の立証のため及び損害額の計
算のために行うことができることとなっている。
■団体訴権
○企業の違法行為により消費者や地域住民など多数の者に拡散した被害が及ぶ
場合に、被害者等の利益を保護することを目的とする団体に、その違法行為
の差止請求訴訟を提起する資格を認める制度であり、訴えの提起が容易にな
る。
・平成 18 年 5 月 31 日に成立した改正消費者契約法では、わが国ではじめて団体訴権
が導入された(平成 19 年 6 月 7 日施行)
。
・消費者契約法の団体訴権は、消費者契約に関連した被害は、同種の被害が多数発生
するおそれがあることから、不特定多数の消費者の利益を擁護するために、適格消
費者団体(申請に基づき一定の要件を満たす消費者団体を内閣総理大臣が認定)が
消費者契約法に違反する事業者の不当な行為に対して差止請求権の行使を可能とし
たものである。
・中小企業が被害者になることが多い不公正な取引方法については、被害者の所属団
体等が原告になって違法行為の差止請求訴訟等を提起できる訴訟制度が必要である。
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