建築学会大会

チュントゥ団地における改修履歴について
―ベトナム・ハノイの団地型集合住宅地の改善手法に関する調査研究その2-
団地 増築 政府援助 正会員 ○藤江 創 1*
同 山田 幸正 2*
同 チャン・ティクェハー 3*
同 西田 司 4*
改修 自費負担
1.はじめに
前稿に引き続き、2004 年 8 月 2 日~ 4 日の間にハノイ
で行われた調査から、チュントゥ団地について検証する。
2.チュントゥ団地の概要
本稿では、この団地の改修履歴を住戸ごとに検証し、今
後の改修手法の指針を示すことを目的とするため、多様な
例を比較検証できるチュントゥ団地を対象とした。
チュントゥ団地は、1974 ~ 78 年に旧ソビエトの援助で
建設された、大型 P C パネル工法の集合住宅である。ハノ
イ市中心に近い為、団地周辺は混雑しているが、団地内の
環境は公開空地もあり良好といえる。また、不法占拠的な
増築は沢山あるが、既存躯体の状況も比較的良好である。
この団地では、自費負担の戸別改修だけでなく、政府援
助によるもの住棟改修が 2000 年から実施されており、今
後も既存を活用しながら更新していくことが予想される。
既存 一般階プラン
政府主導の増築
隣同士の住戸間で
行われる部屋の再編成
住民主導の増築
下階増築を利用した増築
現状の増築パターン
図1 チュントゥ団地の建設時のプランと改修例
調査戸数は 11 戸。内容は、アンケート調査、実測、写
真撮影を行った。アンケート調査では、改修履歴 ( 部分・
時期・費用 ) や家族構成の変化についても詳細に行った。
3.代表的な改修事例
1階住戸 ( 図2) の改修例 ( 住民主導 )
1989 年に、団地内の5階から移住。入居前は郵便局の
事務所として使用されていた。入居時は、3つの部屋をも
つL型のプランで、夫婦と娘 4 人がそれぞれ個室を使い、
真ん中の部屋は共用としていた。また入居前に、庭側を増
築し、キッチンを設けた。庭側の部屋はその後も、少しず
つ増築を重ねており、1993 年にはトイレを新設した。
1994 年に玄関側に塀と簡易的な屋根 ( S 造 , スチール折
半 ) を設置した。その際に、腰壁のあった窓を腰壁を壊し
て入口に変更し、従来の入口はふさいで、物置にした。
1996 年に、家族の減少を理由に、1部屋を売却し、出
入口をふさいだ。また、1998 年には、プライバシーを確
保するために、共用部屋と個室の出入口をアルミサッシに
変え、開口部も小さくした。
2000 年に、狭さ解消のために再度、庭側の部屋を増築
した。現状の問題点して、庭側増築部の大きなクラックが
安全上心配であること、上階の人が屋根にごみをすてるこ
と、が挙げられた。2004 年に予定されていた政府援助の
工事 ( 現在延期中 ) では、この解消と、娘の寝床の個室化
を希望している。2000 年 ,01 年に娘が結婚し別居。また、
02 年に妻が他界したため、現在は四女の娘と 2 人暮らし。
所有権は 2001 年に国から住民に移行。それ以前は国か
らの賃貸。(他の2つの例も同じ)
2階住戸 ( 図3) の改修例 ( 住民主導+政府主導 )
1979 年に夫婦と娘 3 人で入居。85 年までに娘全員が結
婚し、夫婦 2 人になった。この間は、特に改修はしていない。
10 年位前 (1994) に、下階が増築した屋根を利用して共
用廊下の向かいに半屋外部屋を増築 ( 現在の半分くらいの
面積 )。1997 年に娘夫婦が同居し、99 年に孫が誕生した。
2002 年、政府援助でベランダ側を増築。費用は、躯体
は政府、仕上は住民。政府が提示したプランのトイレが小
さかった為、現状に変更してもらい、さらに、中部屋を広
く取るために、約 1.5m 壁を移動した。また、上記工事に
合わせて次の自費負担の改修を行った。共用廊下を挟んだ
向かいの増築拡張。玄関側の部屋の腰壁の解体を伴う開口
部の変更と部屋の美装。調理設備の交換と配置換え。同年、
夫が他界したため、現在 4 人暮らし。問題点として、水周
りと玄関の狭さと、プライバシーの欠如が挙げられた。
Processes and Methods of Housing Repair in the District of Trung Tu
Studies on the Rehabilitating Method of Collective Housing Estates in Hanoi, Vietnam(2)
FUJIE So, YAMADA Yukimasa, TRAN Thi Que Ha, Osamu NISHIDA
4階住戸 (No.011) の改修 ( 住民主導 )
1975 年、竣工後すぐに入居。家族は夫婦、息子、娘の
計 4 人だったが、同じ住戸に別家族が同居していた。当時、
玄関と水周りは共用部の為、専用部は 1 部屋 ( 約 10 ㎡ )
だった。90 年に別の場所に部屋を持ったが、92 年に同居
家族に相談して交換してもらった。
1992 年、同居家族の引越しにより、専用住戸となった。
同年に自費負担で、バルコニー側を金網で囲い、部屋とし
て利用できるようにした。
1997 年、バルコニー側の部屋を拡張する為、約 2.3m の
刎出しの部屋に改修した。構造は鉄骨造 ( 垂木は木 ) で、
外部仕上は屋根→波板、壁→板金。内部は、床→タイル、
壁→モルタルに塗装、天井→にクロスであった。施工は、
自費負担で大工に依頼。その後特に問題は生じていない。
また同年、老朽化した調理器具を交換した。2000 年に娘
の夫が同居し、01 年孫が生まれたため、現在は 6 人家族。
増築の欲求もあるが、一戸建てへの憧れがつよい。
4.まとめ
住民主導の改修は、生活や収入に合わせてフレキシブル
に改修工事が行われることや、既存の躯体を利用しながら
自然発生的に形成される形体の複雑さに魅力を感じられ
る。しかし、構造や環境の検討が十分とはいい難く、強度
不足と思われるひび割れや、無採光 ( 無通風 ) 居室の発生
など、問題はかなり深刻である。また団地環境を考えると、
不法占拠的な増築がこのまま進めば、インフラ設備の飽和
や、団地内道路環境の悪化などが予想され、良好な生活環
境を維持できなくなるだろう。こうした事態を避けるうえ
でも、政府援助による改修は重要である。しかし、工程や
増築面積が必ずしも民意を反映していないことを考える
と、住民主導の改修における指針を早急に作成することが
望ましい。構造、設備 ( インフラ含む )、環境がその骨子
となるが、特に環境については風土が育んだ技術を摂り入
れ、ハノイならではの魅力的な改修手法を確立することが
重要と思われる。
図2 1階住戸改修例(No.8)
増築(住民)
売却
冷
流
先
洗
0
洗
洗
洗
先
先
5m
入居時(改修1)(1989)
改修2(1994)
改修:庭側を増築
構成:夫婦+娘4人(計6人)
その他:以前の住居は同団地内の5階
改修:玄関側に庭を増築
開口部の変更
庭側は少しずつ増築
構成:夫婦+娘4人(計6人)
改修3(1996)
改修:部屋を2億ドンで売却
開口部埋設
構成:夫婦+娘?人(計?人)
その他:98年,内装と建具をリフォーム
2000までに娘2人別居
図3 2階住戸改修例(No.1)
改修4(2000)
改修:特になし
構成:夫婦+娘2人(計4人)
その他:2001年娘1人別居
2002年妻と死別
現在2人家族
図4 4階住戸改修例(No.11)
増築(住民)
増築(住民)
0
写真1 外観写真
0
5m
別世帯所有
5m
建直し
授与(購入)
TV
洗
冷
増築(政府)
*1
*2
*3
*4
入居時(1979)
改修1(1994)
改修2(2002)
改修:特になし
構成:夫婦+娘3人(計5人)
改修:1階屋根に増築
構成:夫婦(2人)
改修:政府援助の増築
間仕切り壁の移動
1階屋根の拡張増築
構成:夫婦+娘夫婦+孫(5人)
首都大学東京 COE リサーチフェロー
首都大学東京 助教授
首都大学東京 COE 協力者
首都大学東京 助手
入居時(1975)
改修1(1992)
改修2(1997)
改修:竣工時に引越し
構成:夫婦+息子+娘(計4人)
その他:別家族同居
玄関・水周りは共用
改修:バルコニー増築,部屋化
構成:変化なし(計4人)
その他:同居家族引越し
改修:バルコニー拡張増築
構成:変化なし(計4人)
その他:2000年,娘結婚,夫同居
2001年,孫誕生
現在6人家族
*1 COE Researcher, Tokyo Metropolitan Univ.
*2 Assoc. Prof., Tokyo Metropolitan Univ.
*3 COE Collaborator, Tokyo Metropolitan Univ.
*4 Research Associate, Tokyo Metropolitan Univ.