≪おやじバンドのための≫ “移動ド”バンザイ 兜 玉 康 次 ・ 著 移動ド普及振興会 はじめに 近年は、“おやじバンド”全盛時代といってもよいくらい、“おやじ”達が音楽をはじめ ている。GS時代、フォーク時代にギターをかき鳴らし音楽をやっていたが、いつしか、 就職・結婚・子育てと音楽どころではなくなり、ギターケースを押入れの奥の方にしま い込んで、そのまま数十年が経ってしまったようである。その“おやじ”達が、今、ふた たびギターを手に青春を取り戻すかのように音楽に熱中している。あこがれのギターと 真空管のアンプを買いそろえ、真夜中まで陶酔しきっているのである。 しかし、“おやじ”立ちが集結し、いざ“バンド”をやろうとなると、やはり、個人の力量 に差があるものである。数十年前に音楽の理論書で勉強した“おやじ”は少数派だった のかもしれない。 スコアを用意しても、メンバー全員がすんなり演奏できないこともあるだろうし、“耳 コピ”でやるにしても、メンバーによっては、ぜんぜん見当ちがいなコピーをする人もい ることであろう。 本書は、やる気はあるけど、譜面が読めない、勉強したいけど、教本の意味がわか らないといった人に、すこしでもわかりやすく、しかし、普通とは違う角度から音楽のしく みについて興味を持っていただきたいという思いから執筆したものである。 固定ド唱法と移動ド唱法のどちらが有利かという議論が古くからされているようだが、 本書では、筆者が推奨する“移動ド”を中心に音楽を説明する。これは固定ド唱法を否 定するものではなく、あくまでも、絶対音感を持たない人、音楽教育を受けていない人 及び譜面を読みたくない人を対象とした場合、“移動ド”の方が受け入れやすいのでは ないかという筆者の考えによるものである。 本書の理論は筆者の解釈によるものであるので、一般に販売されている教則本な どとは違う部分が多々あると思うが、残りの人生を音楽で楽しみたいという“おやじ”の ための教本なので、ご容赦いただきたい。 最後に、この本を読んでいただける“おやじ”様には、「CDに入っている演奏が正し いのだ!」という考えを捨て、音楽は自分でつくるものだと思っていただきたい。そして、 自分のイメージした音を出せる喜びを感じられるプレーヤーになっていただきたい。 注意事項 本書を読むにあたり、次の注意事項を必ず守ること! 1 本書の内容を、絶対音感がある人に言ってはいけない。 2 本書の内容を、人に押し付けない。 3 絶対音感がある人は、本書は読まないこと。読んだことによって、音感がくるっても、 当方は一切責任を取りません。 目 次 第1章 “ド”は動かせるぞ! 1 “移動ド”って何? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 2 絶対音感のテスト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 3 “移動ド”習得の準備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 4 「ドレミ」で歌いなさい! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 5 12個の「ドレミ」を覚えなさい! ・・・・・・・・・・・・・10 6 “ねこふんじゃった”はなぜ弾ける? ・・・・・・・・・・・・・13 第2章 “コード”も“移動ド”で考えろ! 1 “コード”にもルールがあるぞ! ・・・・・・・・・・・・・15 2 “コード”はこうやってできている! ・・・・・・・・・・・・・16 第3章 簡単ジャズ風ピアノ奏法 1 簡単にジャズ風伴奏を弾いてみよう! 2 かたちで覚えろ! ・・・・・・・20 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 1 2 第1章 “ド”は動かせるぞ! 3 “移動ド”って何? “移動ド”という言葉を聞いたことがありますか? ホームページで音楽のことを調べてみれば、どこかに出てくるかもしれません。 “絶対音感”という言葉は、ほとんどの人が聞いたことがあると思います。“相対音 感”という言葉になると、知っている人が少し減ると思います。 “相対音感”とは、一つの音に対してもう一つの音がどの位離れているかを感じる能 力で、ほとんどの人が、もともと持っています。 “移動ド”は、この“相対音感”と関係するもので、「ド」の位置を移動して、そこから、 「ドレミファソラシド」を考えようというものです。 あなたは学校の音楽の時間に習ったので、「ド」の位置が「ド」だと今まで信じていた と思います。しかし、それはあくまでも“固定ド(ドの位置が移動しない)”の考え方だっ たのです。 学校で鍵盤ハーモニカを弾くとき、黒鍵が出てくる曲が難しく感じたのは、“絶対音 感”が無いのに“固定ド”で考えていたからかも知れません。 先日、筆者の小学生の姪に、リコーダーで童謡の“うみ”を吹いてと頼むと、「シ~ラ ~ソ~ミラソ~ミ~」と声に出してから吹きはじめました。そして、楽譜の上にも同じよう に「シラソミラソミ」とカタカナで書いてありました。 もし、“うみ”をカラオケのように「1音上げて吹いて」と頼んだら、吹けるでしょうか? 小学生には難しいと思いますが、これは、オヤジにとっても難しいことだと思います。 しかし、はじめから“移動ド”でリコーダーを習っていたなら、キーの上げ下げ自由自 在で、12のキー(調)全部で吹ける(実際はリコーダーの音域が限られているので無 理)ことになるのです。 なお、“固定ド”と“移動ド”のどちらが良いかという議論は昔から行われていて、たい へん難しい問題ですので、“おやじバンド”として音楽がやりたいのなら、あまり関わら ないようにしたほうが無難です。 4 絶対音感のテスト バンドをやっている人なら、誰でも「ドレミファソラシド」は知っていますね? 突然「ドレミ~」を歌いなさいと言われたら、音程はともかく、「ドレミファソラシド~ ♪」と歌えることと思います。 そこで、今歌った「ドレミ~」の「ド」は、ピアノやギターのどの音でしたか? その音が正しく「ド」の位置だったら、あなたは絶対音感があるのかも知れないし、た またまそうだったのかも知れません。どちらにしても、「よく分からないけど、たまたま “ド”だった」というのは、何の意味もないし、何の役にも立ちません。あなたには絶対音 感はたぶん無いでしょう。 一般的に聞く話として、絶対音感がある人は、「雨の音が音程に聞こえる」、「スプー ンが床に落ちた音が音程に聞こえる」、「変則チューニングで演奏した場合、不快感が ある」、「移調楽器が不得意」など、様々な感じ方があるようです。 本当に自分に絶対音感があるかどうか調べたい人は、絶対音感を診断できるホー ムページがたくさんあるので、グーグルなどで検索して、いろいろ試してみてください。 どうやら、自分には絶対音感がありそうだと感じたら、その才能を伸ばしましょう。そ して、本書はこれ以上読むのはやめましょう。 自分には絶対音感がないと感じた人は、“移動ド”を習得するチャンスがあります。 「絶対音感」・「なんとなく絶対音感」的な考え方をさっぱり忘れましょう! 5 “移動ド”習得の準備 本書を読まれている方はギタリスト、ベーシスト、キーボディストなど様々だと思いま すが、近くに鍵盤楽器がない場合は、まず、ホームセンターに行って、1万円くらいの で良いから、キーボードを買ってこよう!ただし、あまり安いものだと、一度に出せる音 が少ないので、気をつけましょう。ちなみに、筆者は5,000円のロールピアノ(くるくる と丸められるピアノ)をカバンに入れて持ち歩いています。 キーボードが準備できたら、まず、「ドレミファソラシド」を弾いてみてください。「ド」の 位置は分かりますか?ちゃんと音がでましたか?(EX-1) EX-1 ド ○ レ○ ミ○ ○ ソ○ ラ○ シ○ ド ○ ほとんどの人が弾けたと思います。そして、ほとんどの人が弾いた「ドレミ~」が、世 間で言う「ドレミ~」であることに間違いありません。それは、学校で先生に習った「ド」 の位置がその「ド」だからです。 これから説明する“移動ド”は、この「ド」の位置をずらすのです! 6 「ドレミ」で歌いなさい! 「ドレミファソラシド」っていったい何なんでしょうか。 ものすごく簡単に説明すると、キーボードの「ド」から「シ」までの黒鍵を含んだ12個 の音のうち、必要な7つの音(白鍵)だけを順番に並べたもので、たくさんあるスケール (音階)の内の一つです。 「ドレミ~」のスケールのほかには、スペインのスケール(EX-2)、インドのスケー ル、沖縄のスケールなどがあります。それらのスケール(音階)によって必要な音や音 の数が違い、そのスケール(音階)を弾くだけで、なんとなく、その国をイメージするよう な音がします。 EX-2 スパニッシュ・スケール 楽器屋の教本コーナーに行くと、スケール(音階)だけの本が置いてあります。 ドリアン・フリジアンなど、難しい名前のスケールが列挙されていますが、“おやじバ ンド”はそんなの覚える必要はありません。まずは、「ドレミ~」を確実に覚えなさい! 「さいた~、さいた~」ではじまる童謡「ちゅうりっぷ」がありますね、これをキーボード で弾いてみてください。筆者は「ちゅうりっぷ」のオリジナル・キーが何なのか調べてま せんが、「ド」の位置から始めて「ドレミ~、ドレミ~」と弾くのが一番簡単でしょう。みな さんの中にも同じように弾いた人がいると思います。 まったく弾き方がわからない人や別の音から弾き始めた人は、ためしに「ド」の位置 から弾いてみてください。 「ドレミ~、ドレミ~、ソミレド、レミレ~、ドレミ~、ドレミ~、ソミレド、レミド~、ソソミ ソ、ララソ~、ミミレレド」 弾けましたか? それでは次に、「ちゅうりっぷ」を、声を出して「ドレミ~」とキーボードを弾きながら歌 ってください。 7 「ドレミ~、ドレミ~、ソミレド、レミレ~、ドレミ~、ドレミ~、ソミレド、レミド~、ソソミ ソ、ララソ~、ミミレレド」 何のことなく歌える人や、ものすごく難しく感じる人がいると思います。 歌えなかった人は、歌えるようになるまで練習してください。 次に、童謡「むすんでひらいて」を「ちゅうりっぷ」と同じように「ドレミ~」を使ってキー ボードと一緒に歌ってみましょう。 まず、キーボードでメロディーを弾いてみてください。 どうですか?みなさんはどの鍵盤から弾きはじめましたか? 筆者は「ミ~ミレド・ド」と弾きはじめます。こちらの曲についても、筆者はオリジナル・ キーを知りません。 「むすんでひらいて」の場合は、「ちゅうりっぷ」のときよりも、いろんなところから弾き はじめた人がいると思います。 しかし、本書における筆者の正解は、“ミ”から弾きはじめることなのです。 「ミ~ミレド・ド、レ・レ・ミレド、ソ~ソファミ・ミ、レドレミド~、ミ~ミファソ・ソ、ラ~ラ~ ソファミ、ミ~ミファソ・ソ、ラ~ラ~ソ~」 それではなぜ、「ちゅうりっぷ」は「ド」、「むすんでひらいて」は「ミ」から弾きはじめる のでしょう。それは、「ちゅうりっぷ」も「むすんでひらいて」もどちらも「ドレミファソラシ ド」のスケール(音階)を使ってつくられていて、「ちゅうりっぷ」は「ド」から、「むすんでひ らいて」は「ミ」からはじまる曲だからです。 それでは童謡の最後に「赤い靴」を同じようにして歌ってみてください。 キーボードの弾きはじめは何にしましたか? 「ド」ですか?それ以外ですか? この曲の筆者の正解は「ラ」です。 「ラシドレミ~、ミ~ファレミ~、ミ~ラ~ド~ラ~、シ~、ラ~ララ、ファ~ファ~、ミ~ ミミレファ、ミ~ミ~ラ~」 ギタリストであれば、メジャー・コードとマイナー・コードの響きの違いは知っていると 思います。スケール(音階)にもメジャー・スケールとマイナー・スケールがあり、簡単に いえば明るい感じのスケール(音階)と暗い感じのスケール(音階)の違いがあるので す。 「赤い靴」はマイナー・スケールを使用した曲なのです。どこか暗い雰囲気の曲です よね。 8 マイナーの曲で使うスケール(音階)は、「ドレミファソラシド」ではなく「ラシドレミファ ソラ」(EX-3)なのです。どちらにしても、「ドレミファソラシド」がわかれば両方わかる ということです。 EX-3 ラ○ シ○ ド ○ レ○ ミ○ ○ ソ○ ラ ○ とにかく、頭に浮かんだ童謡を「ドレミ~」でガンガン歌ってみること!慣れてきたら、 フォーク・演歌などにも挑戦すること!もし、「ドレミ~」で合わない曲があったら、それ は、転調したり、部分的に転調したりしているかも知れないので、その曲はパスして、 次の曲に挑戦すること! 9 12個の「ドレミ」を覚えなさい! それではいよいよ、「ド」を移動します。 ここで、“固定ド”の「ド」と“移動ド”の「ド」でわけがわからなくならないように、本書に おける「ドレミ~」についての表記のルールを決めたいと思います。 “固定ド”における「ドレミファソラシド」については “ドレミファソラシド” と表記 “移動ド”における「ドレミファソラシド」については 『ドレミファソラシド』 と表記 前章で童謡「ちゅうりっぷ」を「ドレミ~、ドレミ~」とキーボードで弾きましたね。 「ちゅうりっぷ」のキー(調)をカラオケのように一つ上げたいとします。 “固定ド”であれば、“ド♯ レ♯ ファ~、ド♯ レ♯ ファ~”となります。(EX-4) EX-4 “ド♯ レ♯ ファ~、ド♯ レ♯ ファ~”の続きをすらすら弾けますか? 鍵盤を押して音を確認しながら、やっと弾き終わりませんか? それでは、“ド”を移動します。 “移動ド”で「ちゅうりっぷ」のキー(調)を一つ上げる場合、『ド』を一つ高い音にずらし て、そこからはじまる『ドレミファソラシド』をつかって曲を考えます。 どうですか?わけがわかりませんか? “移動ド”では、いつ、どんなときでも、頭の中は『ドレミファソラシド』で良いのです。 では、どうやってキーボードを弾くのでしょう。 “ド♯”を『ド』と置き換えるのです。そして、『ド』の位置から『ドレミファソラシド』をつく りだすのです。(EX-5) 10 EX-5 ド ○ レ ○ ソ○ ラ ド ○ ○ ○ ミ ○ シ ○ それでは、つくりだされた『ドレミファソラシド』をつかって「ちゅうりっぷ」を弾いてみて ください。 「ドレミ~、ドレミ~、ソミレド、レミレ~、ドレミ~、ドレミ~、ソミレド、レミド~、ソソミ ソ、ララソ~、ミミレレド」 どうですか? うまく弾けましたか? “ド♯”を『ド』と置き換えた場合の『ドレミ~』の呼び方がわかったほうが良いと思い ますので、ここで、少し説明します。 キーボードの鍵盤にはアルファベットで名前が付いているのです。(EX-6) EX-6 C○ D○ E○ F○ G○ A○ B○ C ○ “ド♯”の位置は、Cの一つ(半音)隣の黒鍵なので、C♯(またはD♭)となります。そ こからつくられる『ドレミファソラシド』なので、この場合のスケール(音階)のキー(調) はC#メジャー(またはD♭メジャー)となります。 ここでついでに、日本式での、音階についても説明します。 日本式では、キーボードの鍵盤にカタカナで名前が付いています。(EX-7) EX-7 ハ○ ニ○ ホ○ ヘ○ ト ○ イ○ ロ○ ハ ○ 11 日本式での♯ = 嬰、♭ = 変 となるので、“ド♯”の位置からの『ドレミ~』の呼び 方は、嬰ハ長調(または変ニ長調)となります。 順番は逆になりましたが、「ちゅうりっぷ」を“ド”から弾きはじめた場合、“ド” = “C”、 メジャーな曲 = 長調となるので、Cメジャー = ハ長調の曲となるのです。 「赤い靴」を“ラ”から弾きはじめた場合は、“ラ” = “A”、マイナーな曲 = 短調と なるので、Aマイナー = イ短調の曲となるのです。 キー(調)がいくつあるかというと、“ド・ド♯・レ・レ♯・ミ・ファ・ファ♯・ソ・ソ♯・ラ・ラ ♯・シ”それぞれの音からはじまるメジャー・キーが12個、マイナー・キーが12個という ことになります。 マイナー・キーも「ドレミ~」でできているので、つまり、12種類の『ドレミファソラシド』 を覚えれば、すべてのキー(調)がわかることになるのです!! 繰り返して説明すると、黒鍵を含んだ“ド”から“シ”までの12個の鍵盤のどこから『ド レミファソラシド』または『ラシドレミファソラ』をはじめるかによって、その曲のキー(調) が決まるのです。 “ファ”から『ドレミ~』をはじめればFメジャー・キー(ヘ長調)、“レ”から『ラシド~』を はじめればDマイナー・キー(ニ短調)となるのです。 本屋に行くと、「ハ長調(イ単調)で弾くクラシック」などが売っていますが、これは、黒 鍵がたくさんある難しそうな曲を、“ド”(または“ラ”)からはじまるキー(調)に変換して、 白い鍵盤中心で弾けるようにしたものです。 話を「ちゅうりっぷ」に戻しますが、どのキー(調)で弾くとしても、常に頭の中は『ドレ ミ~・ドレミ~』だけを意識して、キーボードは、『ド』の位置からつくられた『ドレミファソ ラシド』をつかって、あたらしい楽器ができたつもりで、頭を切り替えて弾くこと! 12 “ねこふんじゃった”はなぜ弾ける? 「俺、ピアノ弾けるよ!」といって、「ねこふんじゃった」を弾いて「な~んだ」といわれ る風景は誰もが体験したことがあると思います。 では、「ねこふんじゃった」はピアノを演奏していることにはならないのでしょうか? 「ねこふんじゃった」を“移動ド”的に考えてみよう! 「ねこふんじゃった ねこふんじゃった」は、「ミ♭ レ♭、ソ♭(低) ソ♭(高) ソ♭ (高) ミ♭ レ♭、ソ♭(低) ソ♭(高) ソ♭(高)」と弾くのが普通でしょう。(EX-8) EX-8 “移動ド”で考えた場合、『ド』または『ら』の位置はどこでしょうか? 考え方はいろいろあるでしょうが、筆者はこの曲をマイナー・キー(短調)の曲と捉え、 “ミ♭”の位置を『ラ』とします。そして、その位置から『ラシドレミファソラ』を作り出しま す。(EX-9) そうすることによって、黒鍵だらけの曲を、「ラソ、ド(低) ド(高) ド(高)、ラソ ド (低) ド(高) ド(高)」というように、簡単(頭でイメージすることが容易)な曲として考え ることができます。 EX-9 ド○ レ ○ ミ ソ○ ラ ド ○ ○ ○ ○ シ ○ つまり、ふざけて弾いていたつもりの「ねこふんじゃった」も“E♭マイナー・スケール (変ホ短調)”で立派に演奏していたのです! 13 14 第2章 “コード”も“移動ド”で考えろ! 15 “コード”にもルールがあるぞ! 前章では、12種類の『ドレミファソラシド』があることを説明しました。 ここからは、『ドレミ~』と“コード”の関係を説明しましょう! ギタリストやベーシストでは、「譜面は読めんが、コードがわかればなんとかなる さ!」という人が大勢いると思います。 たしかに、それでも立派にバンド活動はできます。しかし、あなたが意識していなくて も、“コード”を弾いているだけで、“ドレミ~”のルールの中で演奏しているのです。 筆者の“コード”との出会いは、中学生時代の“長渕剛”の“とんぼ”でした。小学6年 までクラシックピアノを習っていましたが、“コード”についての説明はありませんでした。 “とんぼ”のCDとタブ譜が書かれたスコアブックを買ってきて、指がつりそうになりなが ら練習しました。その頃は、子供の頃習った「ドレミ」と“コード”の関係などよく分からず、 「別な物」として考えていました。 最近は、コード譜を買ってこなくても、コード譜が掲載されているホームページがあり ますので、そこで“とんぼ”を探してみてください。歌詞の上に“コード”が書かれていま すが、“G”、“C”、“D”などが多く使われている気がしませんか? これは、“G”、“C”、“D”をただつかいたいからつかっているのでしょうか? なにげなく弾いている“コード”にも何かルールがありそうだと思いませんか? ルールがわかれば、曲に合う“コード”を適当に探すよりも効率よくみつけだすことが できるようになりますよ! 16 “コード”はこうやってできている! まず、“とんぼ”の歌いだしの「コツコ・・・」を“移動ド”で考えた場合、『ドドレ、レミミミ ミミ・・・』と考えることができます。そして、『ド』の位置は“ソ”の音です。“ソ”から『ドレミ ~』をつくりだすと、この曲のキー(調)は“Gメジャー・キー(ト長調)”ということになりま す。(EX-10) EX―10 シ ○ ド○ レ○ ミ○ ○ ソ○ ラ ド ○ ○ コード(和音)とは、異なる高さの音が同時に鳴ることです。“C”が“ド ミ ソ”ででき ているというのは、バンドをやっている人ならなんとなく知っていると思います。 “おやじバンド”でつかう”コード“のほとんどは、”ドレミ~”からつくられるものなので す。 「ドレミファソラシ」をもとに“コード”をつくるには、それぞれの音から一つおきに音を 選べば良いのです。(表―1) “コード”の名前の頭は、その“コード”を構成する音の一番低い音のアルファベットに なります。また、その一番低い音のことを“ルート(根音)”といいます。 メジャー・コードかマイナー・コードかは、構成している音の間隔によって決まります。 表―1 音 ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ コード C Dm Em F G Am Bm-5 ここでつくられた“コード”は基本的に“Cメジャー・キー(ハ長調)”の曲で使うことが できます。 それでは、“Gメジャー・キー(ト長調)”の曲で使える“コード”はどうやってつくれば良 いのでしょう? そうです、『ド』の位置をずらして考えれば良いのです。 17 “Gメジャー・キー(ト長調)”は『ド』の位置が“ソ”からはじまります。『ド ミ ソ』と考え たときに実際に弾くのは“ソ シ レ”です。ほかの“コード”も同じようにつくります。(表 ―2)メジャー・コードかマイナー・コードかは、表―1の関係と同じです。 表―2 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ♯ ド ミ ソ レ ファ♯ ラ ミ ソ シ ファ♯ ラ ド コード G Am Bm C D Em Fm-5 そのほかのキー(調)については、巻末の表をご覧ください。 あらためて“とんぼ”のコード譜をみると、表―2に載っているコードがつかわれてい ることがわかります。 ほかの“キー(調)”の曲を考えるときも、同じように、“ド”の位置をずらして考えてみ てください。もしも、“コード”が合わないときは、転調をしたり、裏コードを使っていたり しているかもしれないので、そのときは、次の曲に移りましょう! 18 第3章 簡単ジャズ風ピアノ奏法 19 簡単にジャズ風伴奏を弾いてみよう! せっかくキーボードを用意したのだから、ちょっとは鍵盤楽器を弾けるようになりたい と思いませんか? ぶ厚い2,000曲くらいの歌詞を掲載した本が売られていて、その巻末あたりに、ギ ターとピアノのコード表が付いている場合があります。 まずはそのとおりに弾いてみようというのが普通の人の考えですが、「お気に入りの 曲を弾いてみよう!」ということで、コード表どおりに“C”を“ド レ ミ”と弾くとなぜか「お しゃれな曲のはずなのに、なんか“フォーク”っぽいな~?」と感じることになるでしょ う。 ここでは、あまり“コード”の知識がなくても、なんとなくおしゃれに聞こえる伴奏法を ご紹介したいと思います。 なお、紹介する奏法は、あくまでも“テキトウ”な奏法ですので、真にうけないでくださ い。そして、あくまでピアノが弾けない人のための奏法なので、人前でちょっとピアノが 弾けるようなふりをしたあと、いろいろ聞かれる前にすぐに立ち去りましょう! 20 かたちで覚えろ! ロック、ポップスでつかう“コード”は“ドミソ”など3つの音をつかった“3声和音”です が、ジャズでは“ドミソシ”など4つの音をつかった“4声和音”を基本につかいます。 また、“CM7”を弾くときは、“ド ミ ソ シ”とは弾かずに、順番をかえて弾きます。 それなら、はじめから4声和音を音の順番をかえて覚えてしまいましょう! まず、“Cメジャー・キー(ハ長調)”の曲の演奏法を説明します。 “コード”のつくり方は基本的に前章と同じですが、音を選ぶときに4つずつ選びます。 (表―3) 表―3 音 ド ミ ソ シ レ ファ ラ ド ミ ソ シ レ ファ ラ ド ミ コード CM7 Dm7 Em7 FM7 音 ソ シ レ ファ ラ ド ミ ソ シ レ ファ ラ コード G7 Am7 Bm7-5 “CM7”を弾くときの指の押さえかたを“コード”の音の順番をかえた“ソ シ ド ミ” (EX-11)と“ミ ソ ラ ド”(EX-12)の2パターン覚えましょう。 “ミ ソ ラ ド”は“CM7”ではないですが、ピアニストになるわけではないので、気に してはだめです。 EX-11 CM7 パターン1 EX-12 CM7 パターン2 21 このときのイメージは、“ソ シ ド ミ”の場合は、コードのアルファベットを右手中指、 “ミ ソ ラ ド”の場合は、右手小指に持ってくること。 次に“Dm7”のパターンは“ラ ド レ ファ”(EX-13)と“ファ ラ シ レ”(EX-14) と覚えましょう! EX-13 Dm7 パターン1 EX-14 Dm7 パターン2 このときのイメージも、右手の中指または小指を“コード”のアルファベットの位置とし てください。手のかたちは、“CM7”のかたちをそのままずらすこと。 ほかの“コード”についても同じようにつくりだしてみてください。“CM7(ハ長調)”の 曲につかう鍵盤は白鍵のみです。(巻末の一覧表参照) それでは、準備ができたところで、さっそく弾いてみましょう! “井上陽水”の“夢の中へ”のコード譜をネットで検索してみてください。“Cメジャー・ キー(ハ長調)“のコード譜がみつかりましたか? 弾き方は、“C”のところでパターン1かパターン2の“CM7”を“Am”のところでパタ ーン1かパターン2の“Am7”を弾けばよいです。パターン1とパターン2のどちらを選 択するかに決まりはありませんが、できるだけ、手が左右に動かない、近いパターンを 選択するとよいでしょう。 また、左手でその“コード”の“ルート”やその“コード”を構成している低い方から3番 目(5度)の音を弾くと、なんとなく落ち着く感じになります。 それでは、ほかの“キー(調)”を演奏するときは、どうしますか? 22 ここで説明した“CM7(ハ長調)”の考え方を、演奏する“キー(調)”でつくられた『ド レミファソラシド』に移動して考えてみてください。 12種類のキー(調)すべてができるようになれば、どんな曲でも演奏できるでしょ う。 キーボードの機能に、移調できるものがありますので、その場合は、Cメジャー(Aマ イナー)・キーで演奏できるように移調すると、白鍵のみで演奏することができます。 23 あとがき オヤジバンドが演奏する“ポピュラー音楽”では、最終目標は“自分の出したい音が 出せること”であり、そのためには、自分が頭でイメージした音程、音色などを楽器を通 して出す必要があります。その方法はプレーヤーの数だけ無数にあると思います。そ の方法を自分で見つけ出せるのであれば、本書は必要ありません。ただ、“移動ド”の 考え方を知っていれば、“やみ雲に苦労して、応用の利かない自己流の理論”を習得し てしまう危険性を避け、“頭のイメージを音として表現できる、自由度の高い理論”を習 得できる可能性があります。 “耳コピ”で上手く演奏できているのであれば、それでよいでしょう。ただ、“耳コピ”を することに、時間をかけたくない人もいると思います。 “耳コピ”するときにおいても、12種類の『ドレミ~』がわかっていれば、12個の音か ら1つの音を探し出すよりも、7つに絞った音の中から探し出すほうがはるかに楽にな ると思います。 「俺は、コードがわかればそれで良いんだ!」という人でも、「ドレミ~」と「コード」の 関係を知っていれば、コピー譜だけに頼らずに、自分であたりをつけることができるよ うになると思います。 筆者は、“移動ド”を押し付けるつもりはありません。ただ、多くの曲は“スケール(音 階)”をもとにできているということだけは分かってもらいたい、そして、自分の出してい る音がそのスケールの何番目の音なのか、それが分かるの方法であれば、「ドレミ」で なくとも「123」でも「あいう」でも良いと思います。 「音楽理論なんて分からなくても良い、音楽はソウルだ!!」とお考えになる方もたく さんいらっしゃると思いますが、「コピーバンドをやろう!!」ということであれば、その 曲は最低限以上の音楽理論により作られたものであり、譜面にあらわすことができる 曲なのです。譜面にあらわすことができるということは、「ドレミファソラシド」でできてい るということなのです。 24 歌い出し音階一覧表 赤とんぼ 『ソドド~レ』 うみ かわいい魚やさん こいのぼり 『ミ~レ~ド、ラレ』 『ソソミソ、ララソミ』 『ミレド~レ~』 すずめの学校 『ド~ド~ソ・ソ』 贈る言葉 なごり雪 亜麻色の髪の乙女 『ソド~ドミレ~』 『ミファ、ソソソソ』 『ソソソミミミ~』 もしもピアノが弾けたなら 上を向いて歩こう 『ミレミ・ドドミレ』 『ドドレミドラソ』 25 “移動ド”一覧表 CM ド ○ レ○ ミ○ ○ ソ○ ラ○ シ○ ド ○ C♯M ○ ド○ レ ソ ○ ラ ド ○ ○ ○ シ ○ ミ ○ ミ ○ DM シ ○ ド○ レ ○ ソ○ ラ ド ○ ○ ○ D♯M ド ○ ○ ソ ○ レ○ ミ ○ ド ○ ラ○ シ ○ レ○ ミ ○ EM ド ○ ラ○ シ ○ ○ ソ ○ ド ○ ○ FM ド○ レ○ ミ ソ○ ラ○ シ○ ド ○ ○ 26 ド ド○ レ○ ミ ソ ○ ラ ○ ○ ○ F♯M ○ シ ○ シ ○ GM ド○ レ○ ド ミ○ ○ ソ○ ラ ○ ○ ド○ レ ○ ソ ○ ○ G♯M ミ ○ ラ○ シ ○ ミ ○ AM レ ○ ソ ド○ ○ ○ A♯M ド ○ ○ ド ○ ド ○ レ○ ミ ラ○ シ ソ○ ○ ○ BM ド ○ ○ ド ○ ミ ソ○ ラ○ シ レ○ ○ ○ 27 ド ○ ラ○ シ ○ “移動ド”コード変換表 CM 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ コード C Dm Em F G Am Bm-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ド♯ ファ ソ♯ レ♯ ファ♯ ラ♯ ファ ソ♯ ド ファ♯ ラ♯ ド♯ ソ♯ ド レ♯ ラ♯ ド♯ ファ ド レ♯ ファ♯ コード C♯ D♯m Fm F♯ G♯ A♯m Cm-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 レ ファ♯ ラ ミ ソ シ ファ♯ ラ ド♯ ソ シ レ ラ ド♯ ミ シ レ ファ♯ ド♯ ミ ソ コード D Em F♯m G A Bm C♯m-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 レ♯ ソ ラ♯ ファ ソ♯ ド ソ ラ♯ レ ソ♯ ド レ♯ ラ♯ レ ファ ド レ♯ ソ レ ファ ソ♯ コード D♯ Fm Gm G♯ A♯ Cm Dm-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ミ ソ♯ シ ファ♯ ラ ド♯ ソ♯ シ レ♯ ラ ド♯ ミ シ レ♯ ファ♯ ド♯ ミ ソ♯ レ♯ ファ♯ ラ コード E F♯m G♯m A B C♯m D♯m-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ファ ラ ド ソ ラ♯ レ ラ ド ミ ラ♯ レ ファ ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ ラ♯ コード F Gm Am A♯ C Dm Em-5 C♯M DM D♯M EM FM 28 F♯M 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ファ♯ ラ♯ ド♯ ソ♯ シ レ♯ ラ♯ ド♯ ファ シ レ♯ ファ♯ ド♯ ファ ソ♯ レ♯ ファ♯ ラ♯ ファ ソ♯ シ コード F♯ G♯m A♯m B C♯ D♯m Fm-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ♯ ド ミ ソ レ ファ♯ ラ ミ ソ シ ファ♯ ラ ド コード G Am Bm C D Em Fm-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ソ♯ ド レ♯ ラ♯ ド♯ ファ ド レ♯ ソ ド♯ ファ ソ♯ レ♯ ソ ラ♯ ファ ソ♯ ド ソ ラ♯ ド♯ コード G♯ A♯m Cm C♯ D♯ Fm Gm-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ラ ド♯ ミ シ レ ファ♯ ド♯ ミ ソ♯ レ ファ♯ ラ ミ ソ♯ シ ファ♯ ラ ド♯ ソ♯ シ レ コード A Dm C♯m D E F♯m G♯m-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 ラ♯ レ ファ ド レ♯ ソ レ ファ ラ レ♯ ソ ラ♯ ミ♯ ラ ド ソ ラ♯ レ ラ ド レ♯ コード A♯ Cm Dm D♯ E♯ Gm Am-5 移動ド ド ミ ソ レ ファ ラ ミ ソ シ ファ ラ ド ソ シ レ ラ ド ミ シ レ ファ 実 際 シ レ♯ ファ♯ ド♯ ミ ソ♯ レ♯ ファ♯ ラ♯ ミ ソ♯ シ ファ ラ♯ ド♯ ソ♯ シ レ♯ ラ♯ ド♯ ミ コード B C♯m D♯m E F G♯m A♯m-5 GM G♯M AM A♯M BM 29 簡単ジャズ風伴奏パターン1 CM7 Dm7 Em7 FM7 G7 Am7 Bm7-5 30 簡単ジャズ風伴奏パターン2 CM7 Dm7 Em7 FM7 G7 Am7 Bm7-5 31 おやじバンドのための “移動ド”バンザイ 2010年9月3日 ネット公開 著者 兜玉康次 移動ド普及振興会 本書に使用されている記事及び図画等の著作権は著者にあります。 本書に使用されている記事及び図画等の無断複製、転載及び配布は固くお断りし ます。ただし、商業目的以外における音楽普及のための使用及び教育機関での使用 の場合に限り本書の複製及び配布を認めます。 “移動ド”バンザイ
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