第 2 章 低需要部位を用いた新規開発試料の訴求ポイントの解明 <背景> 鶏肉生産では、必ず、需要が低い部位が生じ、低価格で取引され、一部に廃 棄されるものもある。このため、低需要部位と呼ばれているムネ肉並びに肝臓 を用いた新規加工品を開発し、それを普及させるための訴求ポイントを決めて 解析した。 食鳥協会が、新規開発加工品を公募し、できるだけ多くの製品を集めること とした。その結果、多数のメーカーから新規加工品の提案が出された。検討会 議を開催し、応募された新規開発加工品から下記の製品に絞り込んだ。 その後、新規加工品の開発者と協議し、測定項目や分析内容を決定し、新規 開発商品の訴求ポイントの科学的根拠を調べることとした。 1 .レバーペースト(プライフーズ㈱ 製) 新規開発商品の訴求ポイントの観点が、レ バー由来の不快臭であることから、対照とし てレバー原料を用いて、比較することとした。 (1)実験方法 対照と新商品から香気成分を抽出し、GC/MSで比較した。具体的には、チキ ンレバーペースト(商品)、あるいはポークレバーペースト(対照)を、それ ぞれ40ml容バイアル瓶に10gずつ秤量し、80°Cの湯浴中で 2 時間加温した。揮 発したヘッドスペース香気を、第 1 章の実験方法 5 )に準じて回収し、GC/MS で分析した。 (2)分析結果と考察(図10) 対照では、商品に比べて、Hexanal 量が面積値で 2 倍程多く検出された。ま た、同じくアルデヒド化合物であるNonanalやMethyonalも検出された。この他、 Dimethyltrisulfide(タマネギ香気)やDimethyldisulfide(ニンニク香気)、α− Copaene(キャベツ香気)などの調味料や香辛料を由来とする香気成分が多く 検出された。 − 61 23 - − - 一方、商品では、Octanoic acid, ethylester(ココナッツ臭)が特異的に検出 され、Capric acid(羊肉の香り)量が、対照の 5 倍程多く検出された。鶏レバ ーの金属臭や血液臭など、いわゆる不快臭に寄与する成分として、Hexanal、 Pentylfran、Octenal、1−octen−3−ol、2, 4−decadienalなど複数成分が報告され ているが、今回の両試料からは、Hexanal以外の香気物質は、検出されなかった。 一方で、対照と商品で粘度が異なることから、香気成分の比較を行うにあた り、固形分含量を揃える必要があると推定された。次回の課題である。 図10 鶏レバー(a, 商品)と豚レバー(b, 対照)から検出された揮発性香気物質の 比較 − 62 24 - − - 2 .鶏ムネ肉の削り節由来のだしパック(㈱丸本製) 鶏ムネ肉を乾燥させて製造した削り節から 開発した粉末を用いて、新規のだしパックを 開発した。これは、従来の製品(だしパック) で使用されているカツオ節の一部を鶏ムネ肉 削り節で置き換えたものが、新商品として提 案された。そこで、対照として、置き換える 前の従来商品(カツオ節だけで製造したもの) を用い、比較検討することとした。 (1)実験方法 鶏肉の特徴であるうま味成分と機能性成分を訴求ポイントとして、対照並び に新商品から両成分を抽出し、アミノ酸分析することとした。具体的には、従 来の製品(カツオだし)、あるいは新商品(鶏削り節を用いただしパック)を 5 g秤量し、95mlの熱湯を加えて、 5 分間浸漬抽出した。 5 A定性ろ紙でろ過 したものを、終濃度1.5%スルホサリチル酸で除タンパクし、遊離アミノ酸を含 む上清を回収した。得られたサンプルを、自動アミノ酸分析機を用いて、グル タミン酸量、ならびにイミダゾールジペプチド量を定量した。 (2)分析結果と考察 分析結果を、表11に示す。カツオを鶏だしに置き換えても、うま味成分であ るグルタミン酸量は変わらなかった。これは、いずれの場合にも、多くの調味 料を添加しているため、両製品で差が認められなかったと推定した。 一方、機能性成分であるカルノシンとアンセリンに関しては、鶏削り節で置 き換えただしパックの両成分の含量が著しく多く、鶏削り節の特徴が反映され た商品となった。この商品は、今後の高齢化社会での食品として、有用である と推察された。 表11 従来品と新商品における遊離アミノ酸の比較 試料 グルタミン酸量 カルノシン量 アンセリン量 従来品(カツオ節のみ) 22 mM 1.9 mM 8.7 mM 新商品(鶏削り節置換品) 24 mM 11.9 mM 34.8 mM − 63 25 - − - 3 .チキンジャーキー(㈱丸本製) 牛肉のジャーキーはよく見かけるが、鶏肉の ジャーキーはあまりない。そこで鶏肉の特徴で ある機能性成分に関して、市販のビーフジャー キー、あるいはポークジャーキーと比較した。 (1)実験方法 鶏肉の特徴である機能性成分のカルノシンとアンセリン含量を訴求ポイント として、対照並びに新商品から両成分を抽出し、アミノ酸分析計で分析するこ ととした。具体的には、各検体をミルで粉砕し、 1 gに対して、19mlの蒸留水 を加えて、10,000rpmで30secホモジナイズした。10,000×g, 15 min, 4 °Cで遠心 分離し、得られた上清をスルホサリチル酸(終濃度1.5%)で除タンパク後、ア ミノ酸自動分析機にて遊離アミノ酸の定量を行った。 対照としたビーフジャーキーは「ちぎってビーフジャーキー」 (なとり製)と 「こだわりビーフジャーキー」(ヤガイ製)を、ポークジャーキーは「ポークジ ャーキー」(鎌倉ハム富岡商会製)を用いた。チキンジャーキーと同様の処理 を行い、分析サンプルを調製した。 (2)分析結果と考察 グルタミン酸量を比較した結果を、図11に示す。 「こだわりビーフジャーキー」 から74.6 mMと、チキンジャーキー(阿波尾鶏:42.1 mM)の1.7倍のグルタミ ン酸が検出されたが、これは該当商品が製造の過程で使用される調味液中に含 まれるグルタミン酸量が多かったと推察された。 図11 各ジャーキー中に含まれるグルタミン酸量の比較 - − 64 26 - − 次に、機能性成分のカルノシン(Car)、アンセリン(Ans)と両者を加算し た結果を、図12 ∼ 14に示す。 図12に示す通り、カルノシン含量については、「こだわりビーフジャーキー」 が47.4 mMと他製品(チキンジャーキーと、ちぎってビーフジャーキー:24.4 mM, ポークジャーキー:30 mM)の約 2 倍多い結果となった。一方、アンセ リン含量では、チキンジャーキーが70.7 mMと他製品の7.5倍から23倍と圧倒的 に多く含まれていることが明らかとなった(図13)。 アンセリンとカルノシンを合計したイミダゾールペプチド量は、図14に示す 通り、チキンジャーキーのイミダゾールジペプチド含量が95.5 mMで最も高い 値を示し、 「ポークジャーキー」の2.8倍、 「こだわりビーフジャーキー」の1.7倍、 「ちぎってビーフジャーキー」の3.3倍となった。 これらの結果から、機能性成分を多く含む新商品が開発出来上がり、今後の 高齢化社会での食品として、有用であると推察された。 図12 各ジャーキー中に含まれるカルノシン量の比較 - − 65 27 - − 図13 各ジャーキー中に含まれるアンセリン量の比較 図14 各ジャーキー中に含まれるイミダゾールジペプチド量の比較 - − 66 28 - − 【参考文献】 1 )食品成分表2014、(女子栄養大学出版部)pp.168−195(2014) 2 )西村敏英、 「食べ物のおいしさとうま味成分」、月刊フードケミカル 、’08−1’、 49−53(2008) 3 )松石昌典、久米淳一、伊藤友己、高橋道長、荒井正純、永富 宏、渡邉佳奈、 早瀬文 孝、沖谷明紘、日本畜産学会報 , 75, 4099−415(2004) 4 )Gasser U., Grosch W., Z. Lebensm. Unters. Forsch. , 190, 3−8(1990) 5 )Kerler J., Grosch W., Z. Lebensm. Unters. Forsch. A , 205, 232−238(1997) 6 )Farkas P., Sadecka J., Kovac M., Siegmund B., Leitner E., Pfannhauser W., Food Chem ., 60, 617−621(1997) 7 )西村敏英、 「地鶏のおいしさと熟成」 、 調理食品と技術(日本調理食品研究会)、 12, 101−107,(2006) 8 )Saiga, A., Okumura, T., Makihara, T., Katsuta, S., Shimizu, T., Yamada, R., and Nishimura, T., J. Agric. Food Chem. , 51, 1741−1745(2003) 9 )西村敏英、「食肉・食肉製品のもつ生体調節機能」、日本調理科学会誌 、41, 221−226(2008) 10)西村敏英、 「カルノシンとアンセリン」、アミノ酸の科学と最新応用技術(監 修 門脇基二、鳥居邦夫、高橋迪雄)、pp.272−287(2008) - − 67 29 - −
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