ターボチャージャーホース ターボチャージャーホース用シリコーン

旭化成ワッカーシリコーン
テクニカルライブラリー
ターボチャージャー用シリコーンエラストマー材料
ターボチャージャーホース用
ターボチャージャーホース用シリコーンエラストマー材料
Silicone Elastomer Materials for Turbo Charger Hose
イントロダクション
現代のハイパフォーマンスなターボチャージャー装着の
ディーゼルエンジンは、低速走行でも高トルクと高馬力を生
化した。これには、ノッキング対策に有効とされる直噴技術
の導入が大きく貢献している。
み出すことができ、燃費も向上するという優れた性能によっ
て装着率が増加している。
ターボチャージャーエンジンは中排気量のガソリンエンジ
ンを対象に代替が行われており、生産量も多い。ガソリンエ
ンジンへの採用拡大により、ターボチャージャーおよび関連
部品のサプライヤーも生産体制の拡充や、新製品の開発を
加速させている。
ターボチャージャー付きエンジンにおいて、シリコーンエ
2008 年の全世界におけるターボチャージャー装着率は約
ラストマー製のターボチャージャーホースは重要な構成部
30%であった。欧州市場(西欧州主要 5 ケ国)では、新車販
品である。この用途に対して、旭化成ワッカーシリコーン㈱
売の装着率は、ディーゼルエンジンは 100%近く、ガソリンエ
は各種製品を揃えている。ここでは、代表的な製品である
ンジンは約 7%であった。北米市場では、新車販売(乗用車
ELASTOSIL®(エラストジル) R760/70 と、ターボチャージャ
および軽量トラック)の装着率は、昨年は 10%程度であった
ーの仕組みやターボチャージャーホースの製造例を紹介す
が、今後は増加し、2017 年には 40%、そして 2020 年には
る。
80%に達すると予測されている(図1)。
写真1
図1
ターボチャージャー付
ターボチャージャー付きエンジン
北米における
北米における乗用車および軽量トラック
における乗用車および軽量トラック
へのターボチャージャー搭載率予測
ターボチャージャー搭載率予測
1.ターボチャージャーの
ターボチャージャーの仕組み
(RUBBER WORLD 2013 April より)
ターボチャージャー付きエンジンの仕組みを図2に示す。
まず、エンジンのシリンダーからの排気ガスを利用してター
一方、ディーゼルエンジンだけではなく、ガソリンエンジン
ビンホイールを高速回転させる。その回転力によってコンプ
への採用も進んでいる。過去にはターボチャージャー付き
レッサーホイールを駆動し、これによって吸気を圧縮する。
ガソリンエンジンは、スピードや馬力アップが目的とされ、燃
圧縮された空気は温度が上昇するため、チャージエアクー
費は逆に悪くなるイメージがあったが、燃費向上と二酸化炭
ラーで冷却してエンジン内に送り込まれる。ターボチャージ
素低減技術という観点からの開発が進み、状況は大きく変
ャーホースは、コンプレッサーホイールからチャージエアク
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1
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ターボチャージャー用シリコーンエラストマー材料
ースの構造例を示す。図では、厳しい条件に耐えるために
ーラーの間に使用される。
複合材料による層状構造となっている。ターボチャージャー
ターボチャージャーでは、排気ガスのエネルギーを回収
ホースの内側より、1.フッ素ゴムのインナー、2.シリコーン
して有効に利用する。圧縮によって酸素濃度の高い空気を
エラストマー内層、3.補強糸、4.シリコーンエラストマー外
生み出して利用することで、燃料の燃焼効率は大幅に向上
層で構成されている。
する。その結果、高トルクおよび高馬力を発揮することが可
能となる。例えば、2.5 リッター4 シリンダーターボエンジンで
は、大型の 6 リッターV8 エンジンと同等のパフォーマンスを
発揮する。燃焼効率が向上することによって、微粒子物質
や一酸化炭素の排出量も低減するため、環境負荷を低減す
ることが可能となる。
図3
シリコーンエラストマー
シリコーンエラストマー製
エラストマー製ターボ
チャージャーホースの構造例
チャージャーホースの構造例
各層はそれぞれ重要な機能を持っている。フッ素ゴムの
インナーは、シリコーンゴム層をディーゼルオイル成分など
から保護する。また、補強糸は、連続的な圧力振動に対して
耐久性を向上する。そして、優れた耐熱性、耐久性、耐油性、
伸縮性を持つ、シリコーンエラストマー製のターボチャージ
図2
ターボチャージャーの仕組み
ャーホースとなる。
2.ターボチャージャーホースの役割
4.シリコーンエラストマー製ターボチャージャーホースの製
シリコーンエラストマー製ターボチャージャーホースの製
自動車メーカーは吸気、圧縮速度の技術的限界を推し進
造
めることに取り組んでいる。吸気の圧縮で、圧力は約 2.5 気
ターボチャージャーホースは、ホースとしての要求物性を
圧にまで圧縮される。この圧縮によって空気は熱を発生す
満足するだけではなく、自動車メーカーの設計担当者の要
る。ターボチャージャーホースには高温の空気通過に伴う
求する複雑で新しいホース形状や配列を忠実に実現し、か
絶え間ない圧力振動も発生する。従って、ターボチャージャ
つ、量産可能でなくてはならない。従って、製造プロセスの
ーホースは耐熱性、耐圧性、伸縮性に優れた材料でなけれ
開発は複合材料の最適化以上に難しい課題となる。
ば使用することができない。
ターボチャージャーホースの製造方法については、シリ
ターボチャージャーホースは、200℃(392°F)までの温度
コーンエラストマーと補強糸で構成されるトッピングシートを
で設計されるが、前述の理由により、通常の有機材料では
巻いて製造する方法と、ホース形状に押出して製造する方
充分な性能を獲得することが難しい。そのため、シリコーン
法が知られている。前者は大型のターボチャージャーホー
エラストマー製のターボチャージャーホースが多く使用され
スの製造に適している。ここでは、押出しによる製造方法に
ている。
ついて触れる。
3.シリコーンエラストマー
シリコーンエラストマー製ターボチャージャーホースの構
エラストマー製ターボチャージャーホースの構
造
は、押出しのし易さと寸法安定性が重要であり、適切な装置
図3にシリコーンエラストマー製のターボチャージャーホ
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多層構造のターボチャージャーホースを製造するために
2
と条件によって生産性の高い製造を行うことが可能となる。
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ターボチャージャー用シリコーンエラストマー材料
写真2にホースの押出し状況を示す。フッ素ゴムのインナー
とシリコーンエラストマー内層の押出し加工である。この後、
アラミド繊維の補強糸で巻き付けを行い、シリコーンエラスト
マー外層の押出し加工を行う。
硬化は熱によってホースが変形を起こさないように、通
押出し後の未硬化のターボチャージャーホースは、収縮
や変形を起こさず、形状を保持する能力が高いほど寸法精
常は、大型の耐圧金属釜内で、180℃(360°F)までの温度
のスチームが用いられる。
度の高い高品質の最終製品が得られる。
写真4にターボチャージャーホースの製造状況を示す。
ホースは専用の金属製の筒に固定されることで、所定の形
状のホースとなる。
写真2
ホースの押出し
ホースの押出し加工
押出し加工
写真4
ターボチャージャー
ターボチャージャーホースの製造
チャージャーホースの製造
5.ELASTOSIL® R760/70 について
ELASTOSIL® R760/70 はワッカー・ケミー社で開発され
た、ターボチャージャーホース用のシリコーンエラストマー
材料である。非常に取扱い易い製品で、特に硬化前で充分
写真3
押出し後の硬化前
押出し後の硬化前ホース
硬化前ホース
な強度を持っているため加工がし易い。寸法安定性能が高
く、押出しや硬化前後での寸法変化をほとんど生じない。従
押出し直後のターボチャージャーホースは、写真3に示
って、ホース径の小さいものから大きいものまで、直管から
すようなアルミ製の巻き取り板上で、押出し形状を保持した
曲管まで、多様なターボチャージャーホースを製造すること
まま一時保管され
が で き る 。
る。その後、所定の
ELASTOSIL®760/7
長さ に 裁断して 熱
0 の代表物性値を
硬化を行う。
以下に示す。
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ターボチャージャー用シリコーンエラストマー材料
おわりに
シリコーンエラストマー材料はターボチャージャーホース
今後、高い信頼性と環境面で優れるシリコーン材料への
に最も適した材料である。ELASTOSIL® R760/70 をはじめと
期待はさらに高まると予想される。旭化成ワッカーシリコー
するワッカーの ELASTOSIL®(エラストジル)製品は、ターボ
ン㈱は、ワッカーグループの一員として、今後もワールドワ
チャージャーホース用材料として多くの経験と実績を持って
ードな材料開発を行っていく所存である。
おり、日本市場でも厳しい要求に対して充分満足頂ける材
料であると確信する。
®
ELASTOSIL (エラストジル) は、ワッカー・ケミー社の登録商標です。
参考資料
WWW WACKER WORLD WIDE 1/2002 P17-21
RUBBER WORLD April 2013 P17-19
マークラインズ株式会社 市場・技術レポート 2009.6.9 No.784
旭化成ワッカーシリコーン株式会社
技術本部 技術2部
浅川 幸彦
〒300-4522 茨城県筑西市向上野 1500-3
つくば明野工業団地
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