テーパー付きリブを用いたスリット吸音構造の吸音・反射性状測定例 福山 忠雄* 土屋 裕造* 概 要 音楽の演奏を主使用目的とする多目的ホールの音響計画では、客席で音に包まれた印象を得るため、後壁も音響的な拡 散面とする例がある。この度、音楽主体の多目的ホールにおける後壁の仕様の検討で、断面形にテーパーを付けたリブと グラスウールとで構成したスリット吸音構造を考え、スリット幅の違いやテーパーの有・無などに着目して、吸音特性や 反射特性に関する実験を行った。本報告はこの実験結果をまとめたものであり、以下のような知見が得られた。 (1)吸音特性 ① 同一リブ材料を使用してスリット幅を変化させた場合、主要周波数帯域では、リブ背後に配置したグラスウール の吸音の影響が寄与し、スリット幅が大きいほど、吸音率も大きくなる。 ② スリット構造の全体としての共鳴効果は、今回の仕様では 100Hz 以下の低音域で生じた。 ③ 2000Hz を越える高音域では、スリット幅が小さいほど吸音率が大きくなる傾向がみられた。これはネック部分自 体の共鳴の影響と考えられた。 (2)反射特性 ① 本試験体のテーパー付きスリット吸音構造は、比較的ブロードな反射指向特性を示した。 ② リブ材料のテーパー有りと無しの比較では、2000Hz を越える高音域において、前者の方が反射音をよりテーパー 方向へ返すことが確認された。 REFLECTION CHARACTERISTICS OF SLIT RESONATOR ABSORBER WITH TAPER RIB Tadao FUKUYAMA* Yuzo TSUCHIYA* On acoustic design of concert halls, the sound reflection interiors are usually used even in rear wall for concidering auditory envelopment. This report is concerned with the experimental results of absorption and reflection characteristics of slit resonator absorber composed of taper rib and glass wool, noting of slit separation and the effect of taper. The summary of the results is shown bellow. (1) Absorption Characteristics ① In broad frequency area, absroption coefficient increases in proportion to the slit separation by the effect of glass wool. ② The slit separation becomes narrower, resonant absorption phenomenon arises in low frequency. ③ Absorption coefficient increases in high frequency above 2000Hz by resonance of the neck part. (2) Reflection Characteristics ① This slit resonator absorber with taper rib has relatively broad reflection directivity in high frequency. ② In high frequency area, slit resonator absorber with taper rib has better property of sound diffusion than with non-taper rib. * 技術研究所 * Technical Research Institute テーパー付きリブを用いたスリット吸音構造の吸音・反射性状測定例 福山 忠雄* 土屋 裕造* 1. はじめに 音楽を主使用目的とするホール等においては、客席に おける音に包まれた感じを重視する上から、ホールの後 壁面も音響的な拡散面とすることがある。この度、音楽 を主使用目的とした多目的ホールの内装検討において、 室内側に緩い凹曲面をなす後壁の内装として、ここから の反射音をより側壁方向に返すことを意図したテーパー 付きリブ材料によるスリット吸音構造を考え、 その吸音・ 反射性状に関して若干の実験を行ったので、ホール内装 材料の音響特性に関する一資料として報告する。 2. 実験方法 試験体の平断面図を図ー1に示すが、リブ材料の断面 形状は長方形(幅80mm、厚さ48mm)と、これにテー パーを付けた仕様の2タイプである。スリット幅は残響 室法吸音率の測定では15 mm・30 mm・60 mm の3 種類、反射性状の測定では20 mm・40 mm・60 mm とした。 図2に反射性状の測定に使用した簡易無響室を示すが、 試験体はこの一壁面に設置した。測定対象とした周波数 図ー2 実験室の概要 * 技術研究所 -16- 図ー1 試験体の平断面図 概ね 500Hz 以上とし、試験体寸法は 1.8 m× 1.8 mの大き さで製作した。 3. 測定結果 スピーカの位置は、試験体背後のコンクリート壁を基 準とする相対反射率の測定では、試験体中央を中心とす 3.1 吸音特性 る半径2mの円周上で入射角0度、15 度、30 度の3点と し、テーパーの有・無の比較では、試験体中央から 2.5 m 離した位置とした。受音点は前者は0度から45度まで の15度ステップとし、後者は試験体から2m位置で平 行移動した。 この測定システムを図ー3に示すが、スピーカは対象 周波数で特性の整った同軸2ウェイ型を用い、M系列ホ ワイトノイズを音源としてインパルス応答を測定し、直 接波と反射波の分離は時間軸上で切り取る方法を採った。 なお、受音位置が負方向の測定では、実験室の大きさ から試験体を反転(テーパー方向を逆に)セットして 行った。 リブのみによるスリット構造の残響室法吸音率の測定 結果を図ー4に示した。これをみると、吸音率は各スリッ ト幅の場合とも、主要周波数帯域で0.1前後の値を示して いる。なお、4000Hz 付近での吸音率の上昇はスリットの ネック部分での共鳴の影響が生じたものと推察された。 図ー5はリブ材料の背後に、グラスウール 24k/ m 3(厚 さ50 mm)を挿入した仕様の吸音率測定結果である。こ れをみると、250Hz ∼ 1600Hz の間ではスリット幅が大き いほど吸音率も大きく表れている。また、低音域でス リット幅が小さいほど吸音率が大きめに表れているのは、 スリット構造全体としての共鳴によるものと考えられる。 この吸音測定の状況を写真−1に示した。 写真−1 吸音率測定状況 図−3 反射特性の測定システム 1.0 ●:スリット幅15 mm 0.8 ○:スリット幅30 mm ▲:スリット幅60 mm 0.6 0.4 Absorption Coefficient Absorption Coefficient 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.2 ●:スリット幅15 mm ○:スリット幅30 mm ▲:スリット幅60 mm 0 0 63 125 250 500 1000 2000 4000 Center Frequency (Hz) 図−4 残響室法吸音率−1(グラスウール無し) 63 125 250 500 1000 2000 4000 Center Frequency (Hz) 図ー5 残響室吸音率−2(グラスウール配置) -17- 3.2 反射性状 (1) 反射指向性状 準とした相対反射率で表した。2000Hz の測定結果をみる と、個々にバラツキはみられるが、全体として各受音方向に テーパー付きリブによるスリット吸音構造の反射指向 性状の測定から、2000Hz と 4000Hz の結果をスリット幅 比較的均等に反射音が返ってきているようである。 また、4000Hz帯域では、テーパーを付けた方向(45度 で比較してそれぞれ図−6、図−7に示した(入射角度は 負方向の0゜、15゜、30゜)。 方向)への反射音成分が全体的にやや大きめに表れてお り、テーパーを付けたことが寄与しているものと考えら 本図の縦軸は、試験体設置位置の背後の本実験室コン クリート壁面(150mm厚)の反射特性測定データーを基 れる。このホールの計画では、舞台上における発生音は 後壁へ0度∼10度程度の範囲で入射するので、高音域 1.20 1.20 スリット幅;20mm Relative Reflection Coefficient Relative Reflection Coefficient スリット幅;20mm 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 30° 15° 0.60 0.40 0.20 45° 0° 1.20 30° 15° 0° 1.20 スリット幅;40mm 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 Relative Reflection Coefficient Relative Reflection Coefficient 0.80 0.00 45° 0.00 スリット幅;40mm 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 45° 30° 15° 0° 45° 30° 15° 0° 1.20 スリット幅;60mm 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 Relative Reflection Coefficient 1.20 Relative Reflection Coefficient 1.00 スリット幅;60mm 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 45° 30° 15° 0° 45° 30° 15° 0° Receiving Point Receiving Point [ ; 0゚入射, ; 15゚入射, ; 30゚入射 ] [ ; 0゚入射, ; 15゚入射, ; 30゚入射 ] 図ー6 反射音の指向性状その1(2000Hz) 図ー7 反射音の指向性状その2(4000Hz) -18- できるものと考えられる。なお、2000Hz のスリット幅 4 0 m m の反射率が他よりやや大きめに表れているのは テーパー角度とスリット幅との関係などによるものと推 測された。 写真−2にこの測定状況を示す。 負方向4 ' スリット幅20 mm Relative Sound Pressure Level (dB) の一次反射音が側壁方向へもかなり分散されるものと予 想され、舞台方向への高音域のエコー成分はかなり緩和 正方向4 スリット幅20 mm 1/3OCT. Center Frequency (Hz) 写真−2 反射性状の測定状況 (2) テーパーの有・無による比較 今回の実験では、リブ断面にテーパーを付けた仕様と テーパーの無い長方形断面の仕様との反射性状の比較も Relative Sound Pressure Level (dB) 負方向4 ' スリット幅40 mm 行った。この結果を3種類のスリット幅について図−8 に示した(スピーカー位置;図2のSP 2)。 1/3OCT. Center Frequency (Hz) このグラフの正方向4はテーパーを付けた方向45度 での反射音を、負方向4’がこれと反対方向45度での ルで表示してある。 この測定結果をみると、各スリット幅共、2000Hz を越 える周波数帯域においてテーパーを付けた仕様の正方向 への反射音がテーパー無しの条件と比べてかなり大きめ に表れている。また、2000Hz 以下の周波数帯域の反射音 は、若干のバラツキはあるが、テーパーの有・無によるレベ ルの差異はあまり認められないようであり、今回のリブ 幅などから妥当な結果と考えられた。 一方、周波数帯域で比較してみると、テーパーの有・無 に関わらず、高音域の反射音が大きめに表れており、前 負方向4 ' スリット幅60 mm Relative Sound Pressure Level (dB) 反射音を表しており、白抜きでテーパー無しを、黒塗り でテーパー付きを表した。なお、縦軸は相対反射音レベ 正方向4 スリット幅40 mm 正方向4 スリット幅60mm 図ー5で示した吸音率の測定結果と同様の傾向となって いる。 1/3OCT. Center Frequency (Hz) [□:フラット,■:テーパー付] 図−8 テーパーの有・無による反射性状の比較 -19- 4. おわりに 舞台上での演奏を重視するホールでは、客席において 音に包まれた印象もホールの音響効果の一要素といえよ <対象ホールの内観(竣工直前)> う。本ホールのように客席がワンフロア−形式の場合で は、後壁がかなりの面積を占めることがあるので、上述 のような効果を得るため、後壁の仕上げをある程度の反 射拡散面とすることが要求されることもある。 本事例もこのような一例であり、後壁にテーパー付き リブ材料を使用したスリット吸音構造の吸音・反射性状 を検討し、舞台方向へのエコーに配慮しながら、できる だけ有効な拡散音が得られることを目的として、仕様の 検討を行った。実験では、今回のリブ幅やテーパー角度 などの条件のなかで、高音域において所期の拡散性状が 得られることが確認でされた。今後、リブ幅やテーパー 角度などとの関連についても検討していきたいと考えて いる。 なお、このホールは現在竣工直前の段階であるが、こ 写真−3 舞台方向内観 の実験結果を参考にして、後壁の中央から側壁方向にか けてスリット幅を徐々に小さくしていく仕様が採用され ている。 参考までに、このホールの現況における内観を写真− 3、写真−4に掲載した。 末筆ながら、実験に際し貴重なご意見を戴いた本ホー ルの音響設計者である㈱永田音響設計の福地氏ほかに謝 意を表しますと共に、実験に協力を戴いた設計・施工関 係者に御礼を申し上げる次第です。 (後壁の中・上段に本リブ構造を施工) 写真−4 客席方向内観 <参考文献> 1)福山他、 「テーパー付きリブを用いたスリット吸音構造の反射性状 測定例」 日本建築学会大会学術講演梗概集(D-1、40002)1998 年 9 月 2)福山、「入射音による軽量反射面の振動性状測定例」 戸田建設 技術研究報告(vol. - 24 1998) -20-
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