景気循環論(第3回) 飯塚 信夫 寄与度分解の計算式 (ある年のGDP)-(前年のGDP) 成長率(% ) = ´100 前年のGDP 輸出の寄与度(% ) = (ある年の輸出) - (前年の輸出) ´100 前年のGDP (ある年の輸出) - (前年の輸出) ´ 前年の輸出 ´100 = 前年の輸出 前年のGDP 輸出の成長率 輸出の構成比(シェア) ・寄与度は、構成比と成長率の掛け算である(ただし、輸入は上記の式の結 果にマイナスを掛ける必要あり) ・構成比の大きい需要が大きく変動すれば寄与度が大きくなるが、現実は構 成比の大きい民間消費や政府支出の変動は小さい ・輸出や民間投資は構成比が小さいが、変動が大きいので寄与度が大きい 1 寄与度計算の例題 問題 以下のデータを用いて、2010年度の名目成長率と 実質成長率に対する輸出の寄与度を計算しなさい。計算 過程を示し、%表示で小数点第2位以下を四捨五入して 答えること。 名目GDP 実質GDP 名目輸出 実質輸出 09年度 473.9兆円 10年度 479.2兆円 09年度 495.4兆円 10年度 510.9兆円 09年度 64.5兆円 10年度 73.8兆円 09年度 71.3兆円 10年度 83.6兆円 3 名目輸出の寄与度(復習) 名目輸出の10年度の寄与度(% ) = (10年度の名目輸出) - (09年度の名目輸出) ´100 09年度の名目GDP (10年度の名目輸出) - (09年度の名目輸出) ´ 09年度の名目輸出 ´100 = 09年度の名目輸出 09年度の名目GDP = 1番目の式、2番目の式のいずれで計算しても 結果は変わりなし 2 実質輸出の寄与度(復習) 実質輸出の10年度の寄与度(% ) = (10年度の実質輸出) - (09年度の実質輸出) ´ 09年度の実質輸出 09年度の名目輸出 ´100 09年度の名目GDP = 実質の計算の注意点!! 名目輸出の寄与度計算の1番目の式が使えず、2番目の式で計算 する。 「連鎖デフレーター」による実質化が行われているから。 →この意味は、物価指数の講義の際に解説します 重視されるのは実質GDP成長率 GDPには名目と、物価変動の影響を除いた実 質がある 物価はGDP統計ではデフレーターと呼ばれる 基準年(現在は2005暦年)に、名目=実質と みなしている デフレーター=名目÷実質×100 基準年のデフレーターは? 6 3 (参考)なぜ実質が重視される? 名目と実質のどちらが豊かさを表しているんだ ろう? 皆さんの毎月のアルバイト収入が、勤務時間が同じ で1万円から2万円になったとする。これは、収入が 名目で2倍になったといえる。 では、皆さんの豊かさが2倍になったといえるだろう か? 仮にモノの値段(物価という)が同時に2倍になった としたら?消費できる量は変わらないね?こうした 場合、アルバイト収入は実質では増えていないとい える。 7 GDPデフレーター変化率の寄与度分解 GDPデフレーター =名目GDP÷実質GDP×100 GDPデフレーター上昇率 =名目GDP上昇率-実質GDP上昇率 =(名目国内需要寄与度-実質国内需要寄与度) +(名目輸出寄与度-実質輸出寄与度) +(名目輸入寄与度-実質輸入寄与度) 輸出デフレーターと輸入デフレーターの比を交易条 件と呼ぶこともある 8 4 GDPデフレーター上昇率のマイナスが なぜ続いているか 3つの要因から考えてみよう GDPデフレーター上昇率 =名目GDP上昇率-実質GDP上昇率 =(名目国内需要寄与度-実質国内需要寄与度)・・・① +(名目輸出寄与度-実質輸出寄与度)・・・② +(名目輸入寄与度-実質輸入寄与度)・・・③ ①は国内物価上昇率(国内需要デフレーター上昇率)要因 ②は輸出価格上昇率(輸出デフレーター上昇率)要因 ③は輸入価格上昇率(輸入デフレーター上昇率)要因 ①と②は、価格上昇(下落)がGDPデフレーターの上昇(下 落)に寄与する ③は逆になることに注意!←輸入の寄与度計算を思い出せ 9 10 5 GDPとその仲間たち(1) 国民総所得(GNI)←高校で国民総生産(GNP)と習ったかも? GNI=GDP+海外からの所得(純受取) 受取-支払 GDPは国内で稼いだ付加価値であるのに対し、GNIは 海外で稼いだ付加価値も含む。さらに、外国人が日本で 稼いだ付加価値は除いている。 国民所得(NI) NI=雇用者報酬+財産所得+企業所得 以下のようにも定義できる NI=GNI-固定資本減耗 -生産・輸入品に課される税(除く補助金) 政府の収入 11 GDPとその仲間たち(2) 名目と実質でGNIの計算方法は少し違う 名目GNI=名目GDP+海外からの名目所得(純受取) 実質GNI=実質GDP+交易利得 +海外からの実質所得(純受取) 交易利得とは何か? 12 6 13 輸出入の動向をとらえる これまでの講義で、GDPの変動を現状判断す るうえでは需要動向に注目することが大事であ ることがわかった。 中でも寄与度が大きい輸出需要の動きが大事 である。 一方、GDP統計は四半期単位でしか発表され ない。 月次動向を把握するために、日本銀行は「実質 輸出入」を毎月算出、公表している。金融経済 月報にも、毎月、図表が掲載されている。 7 実質輸出入の計算方法 財務省「貿易統計」で毎月調査されている、財の輸出(入)金額を、 日本銀行が毎月作成している輸出(入)物価指数で割ることにより実 質化したもの。 解説HP http://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exrei.htm/ 実質輸出を例にとると、下記の式。 実質輸出 = 通関輸出金額(名目輸出) ´ 100 輸出価格指数 GDP統計の実質輸出(正式名称は、実質財貨・サービスの輸出)は、 下記の式。 実質財貨・サービスの輸出 = 名目財貨・サービスの輸出 ´100 輸出デフレーター 良く似ていますね? 実は、GDP統計の輸出デフレーターは、輸出価格指数などの経済データを もとに作成(推計といいます)されています。 実質輸出入とGDP統計の違い 実質輸出入は「財」の動きだけを捉えているのに対し、GDP 統計の実質輸出・輸入は「財」と「サービス」の合計の動きを 捉えている。 金融経済月報に掲載されている貿易収支(実質・名目)は 「財」の収支 ←2011年に31年ぶりに赤字転落して話題になっているのは名目貿易収支 これに対して、GDP統計の外需(純輸出)は「財」と「サービ ス」計の収支 財務省「国際収支統計」の貿易・サービス収支に相当 (参考)GDP統計の名目輸出入は国際収支統計をもとに計算されています ただし、GDP統計の輸出入の8割近くは「財」。毎月の動向 をとらえる手段といては、「財」のみの実質輸出入でも十分 といえる 8 実質輸出入のグラフを読み解く(1) 実質輸出・輸入と名目輸出・輸入の成長率の違い 実質輸出(輸入)成長率 =名目輸出(輸入)成長率-輸出(輸入)価格上昇率 05年以降、リーマンショックが発生した08年まで実 質輸出成長率が高まったが、名目輸出成長率はあ まり伸びていない。なぜ? 逆に同じ時期、実質輸入の伸びはゆるやかだった が、名目輸入の伸びが急。なぜ? (注)実質輸出入のデータは前述した通り、財務省「貿易統計」を用いて算出されています が、「金融経済月報」の「名目輸出入」は財務省「国際収支統計」を使って描かれているよ うです。本質的な問題ではありませんが、念のため。 実質輸出入のグラフを読み解く(2) 名目貿易収支と実質輸出入、輸出入価格の関係 名目貿易収支 = 実質輸出´ 輸出価格 - 実質輸入 ´ 輸入価格 輸出価格 æ ö = ç 実質輸出´ - 実質輸入 ÷ ´ 輸入価格 輸入価格 è ø 交易条件が悪化(式の値が小さくなる)するほど実 質貿易収支に比べて名目貿易収支が小さくなる 実質輸出×交易条件が、実質輸入を下回ると、実 質貿易収支プラスながら名目貿易収支が赤字にな る →これが、現状の姿 9 実質輸出入のグラフを読み解く(3) 交易条件が悪化するのは円が安すぎるからという 意見がある。しかし、契約通貨建ての輸出入価格 で交易条件を計算しても、近年の動きに大きな変 化なし これは、近年の交易 条件の悪化の主因が 原油価格上昇だった からにほかならない 2.4 2.2 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 0.8 交易条件(円建て) 交易条件(契約通貨建て) 0.6 10 実質輸出入のグラフを読み解く(4) 貿易収支が赤字でも、経常収支は黒字 大幅な所得収支の黒字があるから GDP統計では海外からの所得(純受取) 実質輸出入は、個々の財の輸出入金額を積み上げて 実質化している。このため、財別や地域別の実質輸出 入の動きがわかる。 解説HP参照 http://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/exrei.htm/ これは、GDP統計にはないメリット 寄与度の考え方を使って、2012年の実質輸出入に対 する、地域別・財別の寄与度を推測してみよう 11 12 13
© Copyright 2024 Paperzz