A.8.8 喫煙の影響

A8.8
〔参考訳〕
アメリカでは 20 世紀の大半に渡り、最初に男性、続けて女性の喫煙者が、世代を経るご
とに次第に早い年齢で喫煙し始めるのに伴い、喫煙による疾患の危険性が増した。アメリ
カ人男性の場合、工業生産された煙草を吸い始めたのが 20 世紀初頭であった。1930 年代
までには、最初の喫煙平均年齢が 18 歳を下回るまで低くなった。それと比較して、第二次
世界大戦前は、日常的に喫煙する女性はほとんどいなかった。だが、その最初の喫煙平均
年齢は、1960 年代まで低くなり続けた。1950 年代になされた初期の前向き疫学研究では女
性は含まれていなかったのだが、これは女性における肺がんの死亡率がその時点ではまだ
人口総数の中で増えていなかったからだった。画期的であった 1964 年の米国公衆衛生総監
報告の中では、「喫煙は男性の肺がんの原因として関連している」と結論付けられているに
すぎなかった。青年期から成人期にかけて喫煙が与えるあらゆる影響については、男女問
わずまだ調べられていなかった。
男女双方を対象とした喫煙と死亡率についての最初の大規模前向き研究が CPS I であり、
これは 1959 年に ACS によって開始された。現在の喫煙者について、追跡期間の最初の 6
年間に肺がんで亡くなる相対的危険性を、非喫煙者と比較したところ、その値は女性で
2.69(95% CI は 2.14~3.37)、男性で 11.35(95% CI は 9.10~14.15)であった。1982 年に ACS
は CPS II を開始した。これにはアメリカ中で 120 万人の男女が参加した。参加している
20~25 歳において肺がんで死亡する相対的危険性は女性の喫煙者で 11.94(95% CI は
9.99~14.26)、男性の喫煙者で 22.36(95% CI は 17.77~28.13)であった。
喫煙者が背負う健康上のリスクは、いくつかの要因によって変わるかもしれない。喫煙
パターンは変化している。1950 年代以降に煙草を吸い始めた女性は、その前の世代と比べ
て、より男性に近い形で喫煙する(すなわち、もっと早い年齢から喫煙し、また大量に吸う)。
1 日のたばこ消費量は、男性では 1970 年代に、女性では 1980 年代にピークを迎えた。2
つのグループにおける喫煙率はその後、並行して低下した。現代の喫煙者はブレンドされ
たフィルター付きたばこを吸うことの方が圧倒的に多い。女性は男性よりも禁煙が難しい。
このように、現在および以前の女性喫煙者について、喫煙年数は長くなっている。今日の
男性・女性喫煙者は 20~40 年前の喫煙者と比べて教育をあまり受けておらず、また裕福で
もない。1950 年代以降、心血管疾患で死亡する背景リスクが、喫煙者と比較して非喫煙者
で急速に比例的に低下している。
私たちは 1959~1965 年、1982~1988 年、2000~2010 年という 3 つの期間について、
以前になされた 2 つの ACS コーホート(CPS I と CPS II)およびアメリカで現在なされてい
る 5 つのコーホート研究で蓄積されたデータを使って、積極的な喫煙あるいは禁煙に関連
する死亡率や相対的危険性を算出した。主たる問題点は、女性の生涯における喫煙行動が
男性のものに急速に近づく中で、女性の抱える危険性が男性の抱える危険性に近づいてい
るのかどうか、というものである。
方法
調査集団
研究集団の詳細については付録に記した。この論文の全文は NEJM.org で利用可能であ
る。現在のコーホートにおける年齢分布より、解析は調査期間中に 55 歳以上に達した参加
者に限った。CPS I の解析は、1959 年に参加し 1965 年 9 月 30 日まで追跡された男性
183,060 名、女性 335,922 名に基づく。CPS II の解析は、1982 年に参加し 1988 年 12 月
31 日まで追跡された男性 293,592 名、女性 452,893 名に基づく。現在なされている 5 つの
コーホート研究は最も新しいもの(2000~2010 年)を示し、これには NIH-AARP、the ACS
CPS II Nutrition Cohort(もともとの CPS II 死亡率研究の一部)、WHI、NHS,そして HPFS
が含まれている(付録の表 1)。これらはアメリカで最も大きなコーホート研究に属し、2000
年から 2010 年にかけて少なくとも一度は更新された喫煙情報を集めたものである。
喫煙状況の査定
様々なコーホートにおいて、現在の喫煙者、以前の喫煙者、そして喫煙歴のない人を定
義するために使った基準については付録に記載した。CPS I と CPS II では、参加時点で得
られた喫煙に関する情報しか使っていない。一方、現在のコーホート研究については、経
時解析で活用できる場合、更新された情報を活用した。更新の頻度はコーホート間で様々
であった。以前の喫煙者に関する分析は、追跡期間の開始から 2 年以上やめた人に限った。
体調に関する追跡
私たちは禁煙が死亡率に与える影響を最小限にするために、CPS I と CPS II の参加者の
追跡期間を 6 年間に限定した。現在のコーホートについての追跡は 2000 年 1 月 1 日から始
め、2010 年 12 月 31 日あるいはそれ以前に終了した。追跡に関するより詳細な情報は付録
に掲載してある。
統計解析
私たちは各コーホートにおける喫煙状況にしたがって、年齢別死亡者数、年齢別のリス
ク、そして死亡率を表にして、そのデータをガン剤の 5 つのコーホートと比較した。死亡
率はアメリカの 2000 年における年齢分布を参考に標準化した。年齢調整相対リスクおよび
多変量調整相対リスクの推測値は、喫煙状況(以前の喫煙者、現在の喫煙者に対する非喫煙
者)、現在の喫煙者の場合は喫煙頻度と期間、そして以前の喫煙者の場合はやめたときの年
齢に基づいて、Cox 回帰分析により算出した。多変量調整解析では、コーホートと基準年
(1952 年、1982 年、2000 年)時点での年齢とに基づいて層別化し、さらに人種や教育レベ
ルによっても調整した。現在および以前の喫煙と各エンドポイントとの関連が教育レベル
によって変わるかを調べるために、層別解析と相互作用項と用いて、感度解析を行った。
コーホートの中には完全に更新された喫煙情報が欠けているものがあること、あるいは追
跡期間の違いによって、算出された関連性に偏りが生じていないかを調べるため、喫煙状
況が記録された時、すなわち基準年、追跡期間が終了する 2 年前、そして 2005 年までの最
新版に基づいて、CPS II Nutrition Cohort の結果を比較した。
結果
調査集団
参加者のほとんどは白人であった。多くが既婚で一般的な集団と比較してより高い教育
水準にあった(表 1)、現在のコーホートでは、参加者のおよそ半分が少なくとも単科大学、
あるいは看護師養成学校の教育を受けていた。全コーホートで、参加者の少なくとも 20%
が高校以上の共育を受けていなかった。この比率のおかげで、教育水準に基づき層別にし
た、あるいはそれを調整した解析が可能となった。現在のコーホートでは、現在喫煙して
いる人の率が次第に減り、男性では 9.3%、女性では 9.7%になっていた。このことは、教
育を受けた一般集団で見られる傾向と一致する。現在のコーホートに属し、現在喫煙して
いる人のうち半分以上が、2000 年時点で、一日あたり 20 本以下の喫煙であり、また約 25%
が 50 年以上喫煙していると報告されている。
死亡率
全原因
喫煙歴のない参加者において、あらゆる原因による年齢調整死亡率は、両性とも 1959~
1965 年と比較して現在の方がおよそ 50%低かった(表 2・3)。対照的に、現在喫煙している
女性について、あらゆる原因による死亡率を見ると、経時的な低下は見られなかった(表 2)。
また、現在喫煙している男性では、23.6%の低下が見られた(表 3)。したがって、現在喫煙
している人について、あらゆる原因での死亡に関する年齢調整相対リスクは、喫煙歴のな
い者と比較して全 3 期で高く、現在のコーホートにおける男性喫煙者では 2.80(95% CI が
2.72~2.88)、女性喫煙者では 2.76(95% CI が 2.69~2.84)であった。年齢別相対リスクの推
計値は、55~74 歳の現在喫煙している男性では 3.00 を超え、また 60~74 歳の現在喫煙し
ている女性でも 3.00 あるいはそれを超えていた。
肺がん
喫煙歴のない参加者の、肺がんによる年齢調整死亡率は男性ではほぼ一定(表 3)だったが、
女性では 1959~1965 年期(CPS I)から 1982~1988 年期(CPS II)の間、現在低下する以前
は若干上昇していた(表 2)。女性喫煙者では、50 年間全体に渡って、肺がんによる死亡は大
きく増加(16.8 倍)しており、その約半分は過去 20 年に起きたものであった(表 2)。CPS I
コーホートでは、男性喫煙者の肺がん死亡率は非喫煙者のおよそ 12 倍であった。死亡率は
1959~1965 年期から 1982~1988 年期の間におよそ 2 倍になり(表 3)、1980 年代以降に安
定した。男性喫煙者の最高齢集団 2 つでのみ、1982~1988 年期から現在までの間に肺がん
死亡率が大きく増加していなかった(図 1)。これらの年齢集団は出生コーホートが 1900 年
から 1929 年を示している。肺がんの絶対死亡率は、喫煙状況に関わらず、全 3 期において
女性よりも男性の方が高かった。しかし現在については、現在喫煙している人での肺がん
による相対死亡率の推計値は、喫煙歴のない人と比較して、男女とも実質的に同じであっ
た。すなわちそれぞれ、前者については 24.97(95% CI が 22.20~28.09)、後者は 25.66(95%
CI が 23.17~28.40)であった(表 2・3)。
COPD
喫煙歴のない参加者では、COPD による年齢調整死亡率は、女性では比較的一定であっ
た(表 2)が、男性では 1982~1988 年期から現在までの間に約 45%の低下が見られた(表 3)。
対照的に、全 3 期において喫煙者の場合は男女とも、死亡率の増加が見られた(表 2・3 お
よび図 1)。COPD の絶対死亡率について、そのもっとも大きな増加は 1980 年代以降の男
性喫煙者で見られ、55 歳以上の喫煙者全体(図 1)、また 1900 年以降、少なくとも 1954 年
までの全出生コーホートに影響を与えていた。男性喫煙者における COPD による多変量調
整相対リスクは、1982~1988 年期(9.98[95% CI が 7.97~12.49])から現在(25.61[95% CI が
21.68~30.25])と、2 倍以上になっていた(表 3)。この増加のおよそ半分は、1982~1988 年
期の喫煙歴のない人での死亡率と比べた場合の、現在の喫煙歴のない人での自然死亡率の
増加を反映したものであった。女性喫煙者の相対リスクもまた、この間に 2 倍以上になっ
ており、10.35(95% CI が 8.63~12.41)から 22.35(95% CI が 19.55~25.55)になっていた。
心血管疾患
喫煙歴のない人では、虚血性心血管、その他の心疾患、そして脳卒中とを組み合わせた
死亡率は、1959~1965 年期から現在の間に女性では 79%(表 2)、男性では 74%(表 3)低下
した。この低下は現在喫煙している人たちで見られたものよりも比例して大きかった。そ
の結果、現在喫煙していることに伴う相対リスクは、3 つの心血管エンドポイントすべてで
増加した。現在のコーホートでは、現在喫煙している人の虚血性心疾患による死亡の相対
リスクは、喫煙歴のない人と比べて女性で 2.86(95% CI が 2.65~3.08)、男性で 2.50(95% CI
が 2.34~2.66)であった(表 3)。虚血性心疾患による死亡の相対リスクは、現在喫煙している
55~74 歳の人の場合、男女とも 3.00 を超えていた。ゆえに、現在のコーホートにおける喫
煙者での虚血性心疾患による死亡の 3 分の 2 が喫煙によるものであった。
現在の喫煙の強度と期間に伴う死亡率
現在の喫煙者が肺がん、COPD、その他の要因で亡くなる相対リスクは、喫煙歴のない人
と比べ、一日あたりの喫煙本数や全 3 期における喫煙年数に伴って、増加した。とはいえ、
その関係性は心血管エンドポイントとはあまり一致しなかった。追跡期間の開始時に報告
されたこれらの変数の違いでは、1980 年代(CPS II)から現在の間での、女性喫煙者におけ
る肺がん、COPD による死亡率の増加や、男性喫煙者における COPD による死亡率の増加
を説明することはできなかった。喫煙強度、喫煙期間についてどのような階層であっても、
時間がたつにつれて相対リスク推計値は増加した。
喫煙歴のある人の死亡率
CPS II および現在のコーホートの中で、かつて喫煙していた人は両性とも、年齢調整死
亡率、死亡の相対リスクが現在喫煙している人と比較して、今回調べたあらゆるエンドポ
イントで低かった(表 2・3)。以前喫煙していた男女について、心血管疾患による死亡率は、
1960 年代から現在までの間に著しく低下していたが、肺がんおよび COPD による死亡率は
女性において増加が見られた。以前に喫煙していたが若いときにやめてしまった人では、
肺がんや COPD による死亡の相対リスクは、現在のコーホート中の喫煙者と比較して、漸
次低下していた(図 2)。40 歳までに煙草をやめた人は、これらの症状による過度の喫煙によ
る死亡をほぼすべて回避していた。60 歳までにやめた人であっても、1 日に 10 本以下しか
吸わないながらもやめていない人と比べて、相対リスクが低かった。強い負の相関関係は
また、たばこをやめてからの年数とこれらのエンドポイントによる死亡との間でも見られ
た。
感度解析
教育水準は、現在のコーホートにおいて、現在あるいは以前の喫煙といくつかの死亡率
のエンドポイントとの関連に大きな影響を与えていた(P=0.05)。総じて高校以下の教育し
か受けてこなかった現在および以前の喫煙者について、その算出された相対リスクは、単
科大学を卒業した現在および以前の喫煙者の値と比べて、同じまたは大きいものであった。
これは、女性および以前の喫煙者の、COPD や虚血性心疾患、その他の心疾患による死亡
の相対リスクに関しても当てはまるものであった。しかし、現在喫煙している男性には当
てはまらなかった。喫煙状況に関する情報の時期もまた、現在の喫煙といくつかのエンド
ポイントとの関係性に影響を与えていたが、その差はわずかであった。喫煙状況が基準年、
もしくは亡くなったり追跡が終了したりする 2 年前に報告された場合、最も新しい喫煙情
報に基づく解析によると、たいていは、その関連性は小さく算出されていた。
考察
3 つの時期のコーホートを用いた私たちの研究は、アメリカにおける喫煙関連リスクの進
展に関する 50 年の見通しを示すものである。ここでは 5 つの重要な発見を強調したい。
第一に、喫煙で死亡する相対・絶対リスクは女性喫煙者において上昇し続けている点で
ある。肺がん、COPD、虚血性心疾患、その他の脳卒中およびあらゆる原因で死亡する相対
リスクは、現時点では、女性喫煙者と男性喫煙者とでほぼ同じである。この発見は新しい
ものであり、相対的に言えば「男性のように喫煙する女性は男性のように死ぬ」という予
想を裏付けるものである。男女の相対リスクが収束するのは、1960 年代以来男女の喫煙パ
ターンが収束した結果であり、最も喫煙していた生涯を送っていた出生コーホートが年齢
を重ねたためである。男性喫煙者における肺がん死亡リスクは 1980 年代以降、一定である
ように見えるが、女性喫煙者では増え続けている。
第二に私たちが見つけたのは、55~74 歳の男性、60~74 歳の女性では、あらゆる原因を
組み合わせた死亡率が、現在喫煙している人は喫煙歴のない人と比較して少なくとも 3 倍
に達するということである。これは、the British Doctors’ Study、the Million Women Study、
そして the U.S. National Health Interview Survey の結果に対応・拡大したものである。
これらの調査では、上記の年齢集団で、現在喫煙している人の全死亡の 3 分の 2 以上が、
喫煙と関連していることが示されている。
第三に、COPD の死亡率が男性・女性の喫煙者で継続して増加しており、これは、喫煙
歴のない男性でのリスクが著しく低下しているのと対照的である。この増加は単に加齢の
影響ではない。なぜなら、その影響は 55 歳以上の男性喫煙者および 60 歳以上の女性喫煙
者でのものだからだ。またこのことは、平均喫煙継続期間の違いや一日あたりの喫煙本数
の違いによっても説明することはできない。というのは、一日の消費量は CPS II コーホー
トと比べて現在のコーホートの方が実際に少なく、一方で、あらゆる年齢において、平均
喫煙継続期間は大きく変わっていないからだ。時を経るにつれて、COPD の診断能力は向
上したが、このことはおそらく、COPD が死因と考えられる死亡者数より一般的な症例数
に影響するだろう。男性喫煙者で COPD により亡くなる人が継続的に増えていることにつ
いて、考えられる説明として、1950 年代後半以降に売られた煙草がその作りの変更を経て、
煙草をより深く吸うことを促した、ということがある。例えば、ブレンドされた煙草の導
入やタバコの遺伝的選別によって、煙の pH は低下した。その結果、深く吸うことが簡単に
なり、プロトン化されたニコチンを吸収するにはより深く吸うことが必要になった。より
多孔性の包み紙。フィルターの使用など、煙草の作りに関する他の変更点もまた、煙を薄
めるものであった。より薄い煙をより深く吸いこむことにより、肺実質の曝露が増えてい
る。これらの、あるいはまた他の点での煙草の作りの変更が、1970 年代から始まる男性喫
煙者での肺癌の解剖学的・組織分布的な特徴の変化、すなわち、中心気道における扁平上
皮細胞や小さな細胞のがんが減少していることを大きく相殺してしまうような周辺腺腫の
発生の増加に寄与しているのかもしれない。COPD は肺実質の損傷により生じることから、
より深く吸うことが起こしうる COPD に対する全体としての効果は、全く持って有害なも
のであろう。
第四に、以前喫煙していた人のデータ解析から、どの年齢であれ煙草をやめることは、
あらゆる主要な喫煙関連疾患による死亡率を劇的に低下させるということが確かめられた。
以前に報告されているように、ほとんどすべての過度のリスクについては、40 歳以前に煙
草をやめれば避けることができる。煙草をやめるのは本数を減らすよりも大いに効果的で
ある。
最後に、教育水準に関する私たちの解析から、高校教育しか受けていない喫煙者に関し
て、現在および以前の喫煙による相対リスク値は、単科大学を卒業した喫煙者の値と同等、
もしくは大きなものであった。現在喫煙している男性においてのみ、虚血性心疾患やその
他の心臓病の相対リスクが、教育水準の最も低い集団で低かった。したがって、ここで示
されている相対リスクの推計値は総じてあまり教育を受けていない集団に属する人たちに
対応するものであろう。同じように、現在のコーホートでも喫煙に関する情報が得られた
時期の違いは、結果にそれほど影響を与えていないだろう。
私たちの研究の強みはその規模の大きさ、前向き研究のデザイン、国全体、50 年という
時間にある。私たちの結果は、アメリカにおける原因別死亡率や喫煙に伴う現在のリスク
が、時間的にどう変化するか、その推測をもたらすものである。その限界としては、それ
が主に白人で、1870 年から 1954 年の間に生まれた 50 歳以上の人に対応しているというこ
とである。より若い現在の喫煙者について、そのリスクを査定することはできないだろう。
現在のコーホートに含まれる喫煙者の多くが、少なくとも 30 年間喫煙しており、喫煙の継
続が与える影響について調べられる範囲を制限してしまった。
結論だが、過去半世紀にわたって、女性の喫煙者において、喫煙関連死のリスクが大き
く、持続的に高まっている。相対的に言って、女性のリスクは今では、男性のリスクに等
しいのである。男性喫煙者のリスクは、COPD による死亡数が継続的に不可解な増加を見
せていることを除き、1980 年代の高水準を維持したままである。
〔解答例〕
1.
アメリカでは 20 世紀の大半に渡り喫煙に伴う疾患リスクが、まず男性喫煙者で、次に女
性喫煙者で高まった。このリスクが過去 20 年で高まり続けているかを明らかにしたい。
1959~1965 年期、1982~1988 年期、2000~2010 年期という 3 期の死亡率の継時変化
を算出した。最初の 2 期は性別、自己申告による喫煙状況に基づき、最後のものは現在な
されている 5 つのコーホート研究で蓄積されているデータに基づき、絶対・相対リスクを
比較した。参加者は追跡期間中、55 歳以上の人たちであった。
喫煙している女性は喫煙歴のない女性と比べて肺がんによる相対死亡リスクが
2.73(1960 年代)、12.65(1980 年代)、25.66(現在)と変化していた。男性ではそれぞれ 12.22、
23.81、24.97 であった。現在のコーホートでは、喫煙している人の COPD、虚血性心疾患、
脳卒中、全死因を合わせた相対死亡リスクは男女でほぼ同じだった。男性喫煙者の COPD
による死亡率は現在のコーホートに含まれるほとんどどの年齢層でも、また喫煙期間や喫
煙強度に関わらず、上昇し続けていた。男性 55~74 歳、女性 60~74 歳では、喫煙歴のな
い人と比べ、喫煙している人の全死因を合わせた死亡率が少なくとも 3 倍高かった。どの
年齢でも禁煙により死亡率は劇的に低下した。
喫煙による死亡リスクは女性で高まり続けており、喫煙歴のない人と比べた場合、男女
でほぼ同じである。男性では喫煙に伴うリスクが、COPD による死亡率の継続的な上昇を
除き、1980 年代に見られた高水準を維持している。
2.
50-year trends in smoking-related mortality in the United States
3.
喫煙歴のない場合、年齢調整死亡率は現在が 1960 年代より約 50%低いが、喫煙者では変
化がなかった。COPD、虚血性心疾患等で喫煙者の死亡率が上昇したが、特に肺がんは過去
50 年で急上昇しその半分は過去 20 年のものだった。
4.
喫煙歴のない人は 1960 年代と比べた年齢調整死亡率の低下が見られたが、喫煙者でも低下
が見られた。現在の喫煙者の虚血性心疾患や脳卒中による死亡率は 1980 年代と同様に高い
が、COPD については一貫して上昇している。
5.
一日の喫煙本数が多くなるにつれ、男女ともに肺がん、COPD による相対リスクが大きく
なる。また、喫煙をやめると男女ともどの年齢層でも肺がん、COPD の相対リスクは低下
するが、早くにやめる方がリスクはより小さくなる。
6.
ブレンドされた煙草やタバコの遺伝的選別により煙の pH が低下し、プロトン化したニコチ
ンを吸うため深く吸うようになった。また多孔性の包み紙やフィルターにより煙が薄まり
これを深く吸うため肺実質の曝露が増えた。
7.
対象者が多く 50 年という長い期間で喫煙の害を定量的に評価した点や、教育水準といった
社会経済的要因も考慮した点で優れた研究だが、対象が 50 歳以上の白人に限られているの
で、より幅広い対象で調査する必要がある。