ゾルゲル法による酸化チタン膜の生成 指導教員:戸部 省吾 教授、安藤 研究者:M99061 佐藤 卓広 康高 助教授 1. 緒 言 酸化チタン(TiO2)は、ルチル相、アナターゼ相、ブルッカイト相の 3 つの結晶構造を 持っている。このうちアナターゼ相は、高い光触媒作用を有しており、太陽や蛍光灯の紫 外線により活性酸素等を発生させ強い酸化分解作用を発揮するため、住宅建材などの抗菌、 脱臭、防汚コートに利用されている。また近年では、アナターゼ相の超親水性を利用した ガラスの曇り防止コートなども開発され、様々な分野への応用が進められている。 酸化チタン皮膜の形成方法としては、CVD 法やスパッタ法、ゾルゲル法などが挙げられ るが、中でもゾルゲル法はアナターゼ単相膜を容易に合成できるため、現在最も実用化が 進んでいる。しかし、ゾルゲル法は材料にゾルを塗布した後、ゾル成分である Ti(OH)4 を TiO2 に重合させるため、低温で長時間乾燥させなければならず、その形成時間の短縮化が 求められている。 そこで本実験では、ゾルゲル法によるアナターゼ相 TiO2 皮膜および粒子製造時間の短縮 化を図るため、TiO2 重合の高速化に関する検討を行った。 2. 実験方法 図1に、ゾルゲル法による酸化チタン皮膜形成手順を示す。ゾルは、チタンテトライソ プロポキシド(Ti[OCH(CH3)2]4)を加水分解した後、硝酸(HNO3)の添加により解膠し 作製した。成膜は、ゾルをガラス基材に塗布した後、常温もしくは 100℃程度の低温で縮重 合させゲル化(以下、低温乾燥)し、さらに 500℃、30 分の条件下で結晶化(以下、高温 乾燥)させることにより行った。なおゾルの配合条件は、実験環境により大きく変わり、 報告毎に最適な配合条件が異なるため、本実験でも種々の配合条件のゾルを用いて成膜を 行い、本研究環境下におけるアナターゼ相形成に最適なゾル配合条件の検討を行った。表 1 にその代表的なゾル配合条件を示す。また今回は、低温乾燥、高温乾燥の皮膜組成に及ぼ す影響を調べると共に、基材への熱風照射による縮重合の高速化への有効性を調べるため、 表2に示す乾燥条件で実験を行い、それぞれの条件で得られた皮膜を比較した。 ゾルの作製 Ti[OCH(CH3)2]4+H2O+HNO3 試料 No. 1 2 3 4 5 ガラス基材への塗布 低温乾燥(重合) 表2 高温乾燥(結晶化) 試料 No. ① ② ③ ④ TiO2 皮膜 図1 表1 ゾル配合条件 Ti[OCH(CH3)2]4 H2O [ml] [ml] 3 2 3 2 3 3 3 4 3 5 ゾルゲル法での皮膜形成手順 19 HNO3 [ml] 1 2 1 2 2 乾燥条件 低温乾燥 高温乾燥 常温、1 日 常温、1 日 なし 熱風、5 分 500℃、30 分 なし 500℃、30 分 500℃、30 分 強度(a.u.) 強度(a.u.) 3. 実験結果および考察 まず、アナターゼ相形成に最適な原料物質配合条件を求めるため、チタニウムプロポキ シド、純水、硝酸の配合条件を変えたゾルを用いて成膜実験を行った。その結果、試料 No.2 の配合条件が他の条件に比べアナターゼ比率が高く、本研究環境下ではこの配合条件がア ナターゼ相形成に最適と考えられる。そこで重合の高速化の検討には試料 No.2 の配合条件 のゾルを使用した。 次に、熱風照射による重合の高速化を検討した結果について報告する。図2に、表2に 示すそれぞれの条件で作製した試料の X 線回折結果を示す。試料を常温で 1 日低温乾燥後、 500℃、30 分で高温乾燥した試料、つまり従来のゾルゲル法の乾燥条件により作製した試 料の X 線回折パターンからは、アナターゼのピークのみが確認でき、アナターゼ単相の酸 化チタン皮膜が形成されていることがわかる。一方、低温乾燥のみもしくは高温乾燥のみ を施した試料は、いずれも結晶性が低くアナターゼ相のみならずルチル相や未定義 TiO2 相 が混在した結果となった。これは、低温乾燥のみの場合は結晶化が不十分であるために、 高温乾燥のみの場合は急速に試料が乾燥され、縮重合が不完全でかつ皮膜構成原子が安定 なサイトに移動する途中で固化が開始し、非晶質のまま固化したものや、ルチル相や未定 義 TiO2 相に近い原子間距離で固化したものが核となり結晶化が進んだため、様々な結晶構 造を持ち結晶性の低い TiO2 になったものと考えられる。しかしながら、吹き出し口温度 110℃の熱風を乾燥距離(熱風吹き出し口−基材表面間距離)100∼400mm で低温乾燥を行 ったものは、わずか 5 分間の低温乾燥時間であったにもかかわらず、高温乾燥後の試料は 従来法で作製した試料とほぼ同等のアナターゼ単相皮膜が形成されていた。この結果から、 従来の縮重合過程で律速なっていたのは、ゾル中の硝酸や加水分解過程で発生するアルコ ール、縮重合過程で生成される水など液状物質の蒸発であると考えられ、熱風の基材照射 による低温乾燥が、縮重合の高速化ならびに低温乾燥過程の時間短縮に有効であることを 示唆する結果が得られた。 20 30 40 50 60 70 80 90 20 30 40 50 60 70 80 90 2 θ (d e g ) 2θ (d e g ) a) 乾燥条件①で得られた試料 b) 乾燥条件②で得られた試料 強度(a.u.) 強度(a.u.) :anatase :Rutile 20 30 40 50 60 70 80 90 20 40 50 60 70 80 90 d) 乾燥条件④で得られた試料(乾燥距離 400mm) c) 乾燥条件③で得られた試料 図2 30 2 θ(deg.) 2θ(deg) 各種乾燥条件で得られた試料の X 線回折結果 4. 結 言 ゾルゲル法によるアナターゼ相 TiO2 皮膜および粒子製造時間の短縮化を図るため、TiO2 重合の高速化に関する検討を行った。その結果、従来の低温乾燥過程で律速なっていたの は液状物質の蒸発であり、熱風の基材照射による低温乾燥が、縮重合の高速化ならびに低 温乾燥過程の時間短縮に有効であることを示唆する結果が得られた。 20
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