第 24 回 担当:森 Case9-2014> <解説> ・診断 患者の症候の多くは

<第 24 回 担当:森 Case9-2014>
<解説>
・診断
患者の症候の多くは非特異的なものである。しかし炎症反応、抗核抗体高値、
低補体血症が組み合わさると、膠原病が鑑別に挙がる。患者は 3 年に渡り朝方
に左右対称の膝、肘、中手骨、PIP 関節の疼痛を自覚しており、それはステロ
イドにより改善していた。また患者は 1 年半ほど Raynaud’s 徴候も自覚してい
た。来院 3 か月前には口渇、腹痛、間欠的な下痢も自覚していた。その他の所
見として毛髪が細くなったこと、湿疹、貧血、良性のリンパ節腫脹などがあ
り、これらは膠原病と関連していたと考えられる。最も印象的な症候は肺高血
圧であるがこれは膠原病と適合するのだろうか?
・肺高血圧症
肺高血圧症は無症候性のこともあり、呼吸苦や胸部不快感や労作性の失神、下
肢腫脹、右心不全による肝血流うっ滞による腹部不快感が生じることもある。
この患者の多様な症候は肺高血圧症で説明が可能である。
肺高血圧症が疑う場合、心エコーが最も有用な検査である。心臓カテーテル検
査は圧力測定ができ、確定診断に有用である。肺高血圧症の原因は様々である
ため原疾患を特定することは効果的な治療のために大変有用である。
肺高血圧症の原因は 5 つに分けられる。
1…肺動脈高血圧群
この群には特発性肺高血圧症、薬剤性や HIV 感染、膠原病による肺高血圧症
や遺伝性のものなど様々な分野の疾患が含まれる。
所見上家族歴はなく、遺伝性は否定的であったがフェンテルミンを過去に内服
されておりこれは薬剤性を疑う根拠となりうる。実際フェンテルミンはフェン
フルラミン(日本では承認されていない食欲抑制薬)との併用で肺高血圧症の
副作用を起こすことが報告されている。しかし患者はフェンフルラミン服用歴
はないため薬剤性はやや否定的である。この患者に関しては膠原病性も考慮す
る必要がある。
2…左心不全による肺高血圧症
この患者の場合は左室収縮力などは正常、肺動脈楔入圧も正常であり否定的。
3…肺疾患による肺高血圧症
肺疾患を示唆する所見はない。
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4…慢性的な塞栓症による肺高血圧症
肺動脈造影シンチから否定的。
5…血液、器質的、代謝的、もしくはその他の障害による肺高血圧症
患者の状態からはいずれも否定的
2-5 による肺高血圧症は否定的である。それゆえ 1 の膠原病性肺高血圧症が鑑
別に挙がる。
・膠原病
膠原病は多数存在するが、どの膠原病が最も考えられるか?
<SLE>
合致する点
・抗核抗体陽性
・若年女性である(特に 20-30 代に多い)
・Raynaud’s 現象、滲出液貯留の合併は多い
合致しない点
・抗 dsDNA 抗体が陰性(66%~95%の患者で陽性)
・肺高血圧症の合併は少ない(9.3%)
<強皮症>
合致する点
・若年女性である(30-50 代に多い)
・Raynaud’s 現象
・抗核抗体陽性
・肺高血圧症の合併は多い(11.4%)
合致しない点
・皮膚症状はない
・その他の食道病変や腎症などの高頻度の合併症は認めない
<MCTD>
合致する点
・若年女性である(特に 10-20 代)
・Raynaud’s 現象、関節症、SLE と強皮症の両方の所見がある
・関節症状、Raynaud’s 現象、肺高血圧症(16.0%)は MCTD で顕著
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MCTD において、肺高血圧症はしばしば突然発症し死亡の原因となりうる。そ
の他心膜炎や間質性肺炎を起こしうる。この患者には筋炎を示唆する症状はな
かったが、MCTD の患者において筋炎症状はしばしば遅れて出現する。この患
者は複数年前より呼吸器、胃腸の接合部の障害があった。患者は抗核抗体陽性
であったが抗 dsDNA 抗体は陰性であった。まとめると、患者は強皮症と SLE
の特徴を有するが、どちらかと診断するのは微妙。肺高血圧症、関節症状、
Raynaud’s 現象からは MCTD が最も可能性は高いと考えられる。
ただこの患者においてはリンパ節腫大が認められ、悪性リンパ腫、サルコイド
ーシス、結核、HIV 感染などの関与も考慮する必要があり、リンパ節生検が施
行された。
<腋窩リンパ節生検所見>
濾胞や傍皮質の増生、組織球と形質細胞の浸潤を認めた。CD-138 染色陽性で
ありこれは形質細胞の浸潤を示唆する所見であった。このような反応性リンパ
細胞増生の原因はウイルス、細菌感染、自己免疫疾患、薬剤性などが考えら
れ、上記の悪性リンパ腫などは否定的であった。
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<第 24 回 担当:森 Case9-2014>
その後の検査で抗 U1-RNP 抗体が陽性であり、MCTD による肺高血圧症と診
断された。
・・・その後の経過
患者は著明な肺動脈高血圧症を示しており、息切れなどの臨床症状も出現して
おり、心嚢液貯留、右心不全徴候も認められることから緊急の治療が必要と考
えられた。患者は予後不良群と判断された。エポプロステノールによる治療が
開始された。
治療開始後数日で臨床症状は改善し、経口ボセンタンとシルデナフィルが処方
され退院となった。最終的にはエポプロステノールは漸減、中止され、吸入ト
レプロスチニル(肺血管拡張薬)に変更された。カテーテル検査による肺動脈
圧は 29mmHg まで減少した。心エコー上は正常な肺動脈、右心室が確認でき
た。MCTD の治療としてヒドロコルチゾン、プレドニゾロンも投与され経過は
良好であった。
*参考文献 吉田俊治ほか、全身性自己免疫疾患における難治性病態の診断と
治療法に関する研究 2004
Mukerjee D., et al. : Prevalence and outcome
in systemic sclerosis
associated pulmonary arterial hypertension : application of a registry
approach. Ann. Rheum. Dis.62:1088-1093,2003
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