平成21年度 長崎県高文連演劇専門部 夏季講習会 演技ワークショップ みなさんの質問に答えます! 先日の講習会、どうもお疲れさまでした。終了時にみなさんに書いてもらったアンケート、どうもあ りがとうございます。約束通り、すべての質問に答えます。わりと似通った内容の質問もあったため、 回答が他の質問とかぶっているものもありますが、そのへんはご容赦を。 長崎日大高校演劇部顧問 塚原 政司 Q.演劇でアドリブはしてもいいのでしょうか? →A.ダメです。僕は本番でいきなりアドリブかます役者を絶対に許しません。練習で一回もやった ことのないものを、いきなり本番でやれるわけがないというのが僕の持論です。 Q.台本の題材はどんなものから見つけたりしますか? →A.ドラマチックなこととは、何気ない日常の中に潜んでいるものです。以前、『てんぷら』とい う台本を書いて全国大会に出場したことがありますが、この台本を書くきっかけは「どん兵衛 てんぷらそばのてんぷらって、最初はサクサクしてるんだけど、時間がたつと汁をたっぷり吸 いこんじゃってブワブワになるなあ~」ってことだったんです。これを人にあてはめてみたら どうだろう。最初はサクサク、でも次第にまわりに流され自分を見失い、まわりと同化して、 最後は消えてなくなってしまう…。そんな子の気持ちってどんなだろう…。そこから1本の話 をつくりました。基本的に、何でも台本の題材になると思います。毎日の日常を、少し注意深 く送ってみてください。きっといいヒントがありますよ。 Q.役を作るのにあたって、役者が一番気をつけなければならないこと、または重点とすることは何で すか? →A.役作りの方法は、数多くあります。役者の数だけ役作りの方法があると言ってもいいかもしれ ません。でも大きく分けて、二通りに分かれます。「自分を役に近づけていく役者」と「役を 自分に近づけてくる役者」です。前者の場合、自分が演じる登場人物の性格はもちろんのこと、 癖、しぐさ、家庭環境、生い立ち、等々を細かく設定し、それにそって役になりきっていきま す。後者の場合、自分が演じる登場人物と自分のあいだに性格的な共通点を見出だし、そこを 強調していきます。後者の場合、その役を演じるあなた自身が魅力的な存在でなければならな いでしょう。どちらの方法で役作りをしてもいいと思いますが、大事なのは、台本の中での、 自分の気持ちの流れをしっかりとつくっておくことです。 Q.オリジナルの台本を書くには、どのようなところに気をつけて書いたらいいですか? →A.まず大事なことは、とにかく最後まで書くことです。途中まで書いて「先生、感想を聞かせて ください」と言う人もいますが、途中までの状態では何とも言えません。最後まで書いたら必 ず他の人に読んでもらってください。で、その人の意見はとりあえず尊重することです。「面 1 白くない」と言われれば、なぜ面白くないのかを真剣に考えてみましょう。書き始めるときに 注意しなければいけないことは、場所・時間・登場人物の設定にはかなり細かい神経を使って ください。 「バカバカしい、絶対にありえない設定」は極力避けた方がいいと思います。いい 台本とは、観客の想像力をかきたて、観客が感情移入できる台本です。独りよがりにならない よう、気をつけて書いてください。また、演劇は作者の意見発表会ではありません。説明的な 台詞やあなたの意見を押しつけるような長台詞は極力避けましょう。また、感情を直接台詞に 書いてはいけません。悲しい時に「悲しいわ…」と言われても、見ている人は「ふーん」と思 うだけです。台本を書くときには、観客の想像力を刺激するような書き方をしましょう。たと えば、「悲しい」という台詞を書かずとも、役者が少し目線を落とすだけで、悲しさは伝わり ます。そして、あまり書きすぎないこと。僕は「一番書きたい台詞は、絶対に書かない」とい うモットーを持っています。一番書きたかった台詞は、書いてないんだけど、役者は喋ってな いんだけど、お客さんにはそれがしっかり伝わっている。そういう台本を書きたいものですね。 Q.イントネーションを良くするには、どんなことをすればいいですか? →A.練習あるのみ。ただ、自分一人でいくら練習しても解決は難しいと思います。とにかく他の人 に聞いてもらってください。しかし、 「台詞は気持ちの氷山の一角」ですから、その台詞の「気 持ち」がしっかりと出来ていれば、多少のアクセントの違いは気にならないと思います。あく までも、 「多少の」ですが。 Q.早口になりすぎないようにするにはどうしたらいいですか? →A.基本的に、舞台の上で早口な人は、小さい声で淡々とぺらぺらぺらぺら~っと喋ってしまう人 ですね。こういう人は役を演じる上での感情の処理がないがしろにされていると思います。も うすでに前の項も書きましたが「台詞は気持ちの氷山の一角」です。なぜこの台詞を喋るのか、 という根本的な土台がしっかりしていないと、台詞は上っ面になります。気持ちの流れをしっ かり組まないまま、台詞を「記号としてのコトバ」として出していくと早口になってしまいま す。まずは気持ちをしっかり意識する。あと、声をしっかり出すこと。これで早口はかなり解 消されると思います。ただ、 「はやく喋る」ことがすべて悪いことではありません。「はやい」 ではなく「テンポがいい」とお客さんに感じてもらいたいですね。そのためには、舞台上での 自分の感情の処理を迅速におこなっていってください。登場人物の感情は、芝居の進行ととも に、細かい変化を続けていきます。それにしっかりついていくことです。感情の処理能力がテ ンポのいい芝居を生みます。がんばってみてください。 Q. 「ドタバタのコメディー系」の台本を書くときに、注意しなければいけないことは何でしょうか? 全体的に、おバカな感じにしたいのですが。 →A.すみません。ちょっときつい書き方になるかもしれませんが、「ドタバタのコメディー系」と いうその言葉に、すでに危険な匂いを感じます。 「おバカな感じ」というその言葉も危険です。 高校演劇のいろんな芝居を見てきましたが、経験上、そういうコンセプトで書かれた台本は、 独りよがりになってしまうケースが多いのです。自分たちだけは面白がってやってるけど、客 はドン引きという芝居をよく見かけます。自分が「面白い」と思うものを、他の人が必ずしも 2 「面白い」と思うとは限りません。「ドタバタのコメディー」が悪いとは言いませんが、高校 演劇において成功例をあまり見たことがありません。どうしてもやるなら、「これは本当に面 白いのか?」と常に(普通の芝居の 10 倍くらい)厳しい目で芝居を見つめるストイックな姿 勢が必要です。作り方のアドバイスをするとすれば、設定をめちゃくちゃリアルにすることで す。 「いつ・どこで・だれが・なにを」の基本的設定自体が「おバカな感じ」になっていると、 まず客はついてきません。リアルな設定の中で進むドタバタなコメディーならまだいけるので はないかと思います。相当難しいと思いますが、がんばってください。 Q.台本を書く上で、起承転結はどのように考えていますか? →A.台本の中で、必ずしも起承転結は必要ないと考えます。 「起承転」で終わってもいいし、 「起転 転結」で終わってもいいと思うのです。僕も台本を書くとき、あまり起承転結にこだわりませ ん。ただ、だらだらと話が続かないようにだけは気をつけています。高校演劇は 60 分という 時間制限がありますが、そのなかで危険な時間帯が二つあります。20 分経過した時点と、40 分経過した時点です。ここはお客さんが退屈しやすい時間帯だと思います。この時間帯に面白 いエピソードを入れるとか、視覚にうったえる演出等を入れておくといいと思います。 Q.部員全員の士気の上げ方を教えてください。 →A.たとえば1本の芝居をつくるのに二カ月の稽古が必要だとして、その二ヶ月間をエンジン全開 で鬼のように稽古する…これはかなりしんどいです。疲れます。最後まで持ちません。部員ど うしで楽しくおしゃべりして稽古時間終わり。こういう日も週に一回は必要かと思います。部 全体の士気を上げるのに欠かせないのは、部員全員のコミュニケーションです。部全体でコミ ュニケーションがしっかりとれている部は、芝居の質も高いと思います。部全体で、日頃から いろんな話をしておきましょう。 Q.本番で上がりすぎない方法を教えてください。 →A.本番前に、クラスの友達や先生たちをよんで通し稽古を見てもらうといいですね。そうやって あらかじめ気持ちを慣らしておくと本番でも上がりすぎないですよ。でも本番ではある程度の 緊張はあったほうがいいと僕は思います。 Q.本番でミスしたときの対処法を教えてください。 →A.ズバリ、ミスをしてはいけません! まずはミスをしないように練習をすること。あらかじめ、 ミスを想定して対処法を考えるより、 「ミスをしないこと」を考えましょう。それでも、もし本 番でミスをやってしまったら…。たとえば役者が台詞を忘れてしまった場合、他の役者がフォ ローすることになります。これはもう役者同士の信頼関係をあげておくしかありません。役者 陣は常日頃から集まってよく話をしておきましょう。スタッフのミス予防法ですが、音響も照 明も、オペに二人ずつ配置すること。一人がミスで焦っても、もう一人が冷静に対処できる可 能性があります。ただ、これは人数的に厳しい学校も多いと思いますが…。 Q.大きな声で叫ぶとき、声が響きません。どうしたらいいでしょう。 3 →A.そういうときはね、大きな声で叫ばなければいいのです。叫びたい気持ちのときに、ぐっとお さえて静かに喋る。お客さんはそういう台詞に感動するかもしれませんよ。 Q.演出・演技指導をするとき、相手がへこんでふさぎこんでしまうことがよくあります。いいアドバ イスの方法を教えてください。 →A.役者にダメ出しをするときは、やたら「ここがダメ」という言い方をしてもあまり効果はない でしょう。「こういうことをやっているからこうなるんだと思うんだけど」と、理由を説明し てあげることです。そして、なんでそうなったのかということを一緒に考えましょう。また、 演出は明確な演出プランを持っているはずですから、それを常日頃から役者に説明しておく必 要がありますね。また、演出家はあまり感情的な言葉を使ってはいけないと僕は考えます。特 に高校生同士の場合は、感情的な言葉はトラブルを生みます。常に冷静に、芝居をコントロー ルすることを心がけてください。 Q.女子校なのですが、男役を出しても大丈夫でしょうか? 無理に出さない方がいいのでしょうか? →A.う~ん、難しいですね。人によって考え方はまちまちでしょうが、僕は男役については否定的 に考えます。女子が男子の役をやると、どうしても無理が生じます。宝塚歌劇のように「そう いうもんだ」という暗黙の御約束があればいいですが、高校演劇の場合、男役を出して「宝塚 みたいですね~」と言われることは決して褒め言葉ではないと思います。女子だけでも人を引 き付ける魅力的なお話はたくさんつくれると思いますよ。 Q.オリジナルで、大会に出る台本を書きたいのですが、やっぱりまず専門書を読んでおくべきでしょ うか? →A.読まなくても大丈夫です。まずは書いてみましょう。何か読んでおかないと不安だという場合 は、平田オリザさんが書いた『演劇入門』という本を推薦します。講談社現代新書から出てい ますよ。とても分かりやすい本ですから、高校生でも大丈夫です。 Q.舞台の上から客席の後ろまで声を届かせるには、どんなことに気をつけたらいいですか? →A.がならない、叫ばない、が鉄則だと思います。がなってしまうと声は届きません。聞き手の心 情としても、がなる声はなかなか受け入れにくいものがあります。しっかりとお腹から声を出 すことを意識して台詞を出していきましょう。 Q.長音(ロングトーン)がなかなか続かないのですが、どうしたらよいですか? →A.長く続けばいいというものでもないので、しっかりと声が出ていれば大丈夫ですよ。あまり気 にせずにやりましょう。ちなみに、僕も全然続きません…。 Q.いい台本・悪い台本の見分け方を教えてください。 →A.これは人それぞれに好みがあるので、なかなか難しいですね。ただ、やたら説明的な台詞が多 い台本はあまりいい台本とは言えないと思います。また、ネット上では高校演劇用の台本を数 多くストックしているサイトがありますが、ここにある台本で名作だな~と思ったものはほと 4 んどありません。既成台本を探す場合は、必ず活字になっているものから選びましょう。で、 いい台本とは、観客の想像力をうまく引き出す台本だと思います。説明せずとも、観客にはい ろんなことが伝わる。そういう台本が僕は好きです。 Q.演技をする際、一番重要視されるところはどこですか? →A.自分の気持ちを表現することは、わりと易しいことです。難しいのは、「人の話を聞くこと」 だと思います。高校演劇の場合、これができていない役者を多く見かけます。大事なのは、 「自 分の台詞をいかに喋るか、ではなく、他人の話をいかに聞くか」です。演劇は、会話で進行し ます。スムーズな会話の進行のためには、相手役の会話をしっかりと聞くことです。そうしな いと、自分が出す台詞が独りよがりのものになってしまいます。また、僕は役者に「悲しいと きほど笑って喋れ」と言います。悲しい台詞を悲しそうに喋っても、なんか当り前で、あまり 感動できません。悲しい時に、その悲しさをぐっとこらえて笑って喋る、これは感動~。でも 本当に笑ってるように見えちゃうとダメだけどね。 Q.台本のネタで、シンプルなものがなかなか見つかりません。どうしたらいいですか? →A.本当にドラマチックなことは、日常の何気ない生活の中に潜んでいるものです。心のアンテナ を少し広げて、毎日の生活を送ってみましょう。何気ない会話のなかに、結構ヒントはありま すよ。 Q.イントネーションはなるべく標準語がいいんですか? →A.基本的にはそうですね。ただ、僕は台詞が方言になっている芝居も好きですよ。ただ、「それ は何語?」と言いたくなるようなめちゃくちゃなイントネーションで喋る人もたまにいて、そ れはさすがに直した方がいいと思います。 Q.読み方が、頑張っても棒読みというか、抑揚がないようにきこえます。やはり何度も何度も読むこ とが一番の対策なのですか? →A.演劇は、会話です。朗読ではありません。台本を読むだけではあまりいい対策にはならないで しょう。肝心なのは、相手の台詞をよく聞くことです。相手の台詞をしっかりと聞いてこそ、 的確なリアクションが生まれます。また、芝居の中での自分の感情の流れをきちんと組み立て ることです。台詞は、氷山の一角です。膨大な感情の中のわずか一部分がコトバとなって口か ら出てきます。その膨大な感情をしっかりつくっておかないといい台詞にはなりません。 Q.物静かなキャラの役なので、声を張るところがなく、どうしても大きい声を出せないのです。どう したらいいのですか? →A.大きい声を出せば出すほど観客に伝わるとは考えないほうがいいと思います。静かな声でも、 十分観客には伝わります。僕は、大事な台詞ほど静かに語らせますよ。静かな人の役なら、最 後まで静かに喋ってもいいのではないでしょうか。 Q.喜怒哀楽の練習で、「喜」と「楽」の表情や動きが似てしまうところがあります。どう区別したら 5 いいですか? →A.「喜び」と「楽しみ」の違いですね。あなたが普段どうやって喜んでいるか。どうやって楽し んでいるかをしっかりと思いだしてみましょう。あまりきちんとやろうと意識せずに、あなた自 身が楽しんでやっていれば大丈夫ですよ。不安なら誰かに見てもらって、アドバイスをしてもら いましょう。 Q.今日やった練習の他に、こんな練習は大切だというものがあったら教えてください。できれば具体 的な練習方法をお願いします。 →A.具体的なとなるとここで説明するのは難しいなあ~。長崎日大演劇部の練習に遊びにきてくだ さい。一緒にいろんな練習をしましょう。 Q.台本を書く上で注意しなければならないのは、せつめい文をあまり入れないことですが、どうやっ たらうまく入れることができますか? →A.その「せつめい文」というのは「ト書き」のことだと思います。台詞と台詞のあいだに「ト、 いいながら、A子は立ち上がり、部屋を出て行った。」みたいなのが入りますが、これがト書 きです。演劇台本(「戯曲」といいます)を書きなれていない人は、やたらとト書きを書いて しまうんですね。小説を読みなれていると、やたらト書きを書いてしまう。小説は、感情表現 を文章であらわしますが、演劇にその必要はありません。たとえば、「この言葉を聞き、A子 は悲しくなった。 」というト書きは必要ないのです。また、細かい動作をいちいちト書きで指 定する必要はありません。たとえば、 「A子、右手をあげて、頭をかきながら、」などというト 書きも、基本的には必要ありません。その動きによほどこだわっているなら別ですが。戯曲は 小説とはちがいます。小説の世界を完成させるのは小説家ですが、戯曲を完成させるのは役者 です。ある程度のことは役者にまかせるために、ト書きは最小限度にとどめましょう。 Q.表現の仕方で、自分では感情を入れてるつもりなのですが、「淡々としてる」など言われます。感 情をもっと言葉にして伝える方法はありますか? →A.日常生活において、すべての言葉を感情たっぷりに喋る人というのはそうそういません。悪い 意味での「演劇的な喋り方」に陥ることは避けたいものです。そういった意味で、淡々としゃ べることは決して悪いことではありません。ただ、リズムが平坦になってしまったり、台詞に 抑揚がなくなってしまうと、お客さんが退屈してしまいます。そういう場合、コトバとしての 台詞に無理やり抑揚をつけようとしても、全体のバランスがちぐはぐになってしまいます。 淡々と喋らないコツは、以前の項目にも書きましたが、「相手の台詞をよく聞く」ことです。 演劇は会話で進行しますので、基本的に台詞はリアクションの応酬です。的確なリアクション をするために、まず、相手の台詞をよく聞いて、自分の気持ちを瞬時に大きく作り上げていっ てください。 Q.脚本を仕上げるまでの段階(手順)を詳しく教えてください。 →A.まず、 「何を書くか」を考えます。テーマではありません。 「何を書くか」です。高校生同士の 話を書くのか、家族の話を書くのか、など。また、内容はどうか。挫折を描くのか、成功を描 6 くのか…。ここまで決まったら、ノートを一冊準備してください。そのノートに「ハコ書き」 をしていきます。ハコ書きとは、登場人物の設定や、物語の大まかなプロット(あらすじ)を 書いていくことです。この「ハコ書きノート」には、それ以外にも、面白そうなネタなど、ど んどん書いていきましょう。ノートがある程度文字で埋まったら、いよいよ執筆です。どこか ら書き始めてもかまいません。いきなりラストシーンを書く人もいるでしょうが、僕の場合、 最初から書いていきます。とりあえず最後まで書いたら(この状態の台本を「第一稿」といい ます)、必ず他の人に読んでもらって意見を聞きましょう。そして書き直しに入ります。第二 稿以降では、伏線を張るという作業が必要になります。ラスト付近での物語中のトピックスを 想像させる材料を、台本の前半や中盤に放り込んでいきます。こうやって台本は完成に近づい ていきます。上演まで、最低3回の書き直しは必要になると思います。台本を書く上で一番苦 しいのは、第一稿を書いているときです。苦しくても、最後まで書ききりましょう。がんばれ! Q.自分が演じる役で、自分と人とのキャラの印象が違ったとき、どうしたら良いでしょう? 多くの 人は、自分のうけた印象は「ちがう」と言うのです。 →A.演出担当者とよく話し合ってください。あなたは演出は何を求めているのかをしっかりと理解 しておく必要があると思います。演出家は指揮者です。芝居全体のバランスを考えて役者に指 示を与えていきます。役者個人はなかなか全体のバランスは見えませんので、基本的に演出家 の指示には従ってください。また、あなたが「こういうふうに演じたいんだけど」という意見 を持っている場合は、遠慮せずに演出家に提案してください。それは役者の重要な仕事のひと つです。そうやって、演出家と意思疎通をはかっていってください。 Q. 「だるまさんが転んだ」以外に、昔っぽい遊びで、練習に応用できるものはありますか? →A.昔の遊びは、結構演劇的要素を含んでいますよ。たとえば鬼ごっこ系統の遊び。追っかけっこ って、追う方はある程度相手の動きを予測して追っていると思います。これは立派な、想像力 とコミュニケーションのトレーニングです。また、うしろの正面だあれなども想像力とコミュ ニケーションを駆使した遊びですね。部員全員で、たくさん遊んでください。 Q.台本は、ハッピーエンドでなければいけませんか? →A.そんなことありません。演劇とは「人間を表現すること」であり、物語を楽しむものではあり ません。悲劇だろうが、喜劇だろうが、そこに人間らしい姿を見出すことができればいいので す。ちなみに僕の台本は、笑いは多いですが、ハッピーエンドになるものはほとんどありませ ん。 Q.私はかつ舌が悪いんですが、かつ舌をよくするための練習方法、注意する点などがあれば、教えて ください。 →A.プロの役者さんならば、いろんな専門的練習をおこなってそれを克服するのでしょうが、高校 演劇の場合、かつ舌の悪さをあまり気にする必要はないと思います。大事なのは、気持ちです。 かつ舌も大事ですが、 「役者として魅力的な私」を磨いてください。あなたが舞台の上でどれ だけ輝けるかが一番大事なことなのです。ただ、舌が回らなくて何言ってるか全然分んない状 7 態ではいけませんね。そういう場合、たいがいは、感情の処理が芝居の進行に追いついていな いケースが多いと思います。気持ちがしっかりと出来ていないと、コトバは死んでしまいます。 まずは気持ちをしっかりと。そして、ゆっくりと喋ることを心がけて、次第に全体のリズムに 合わせていってください。 Q.自分があまりしたことのない演技をしないといけないのですが、どうやったら上手に演じることが できますか? →A.自分がやったことのないタイプの役に挑戦していくことが、役者としての楽しみでもあると思 います。基本的に思い悩むことはないのでは? まずは演出担当者から役のイメージをしっか りと聞きましょう。また、演技をする際に「上手に演じよう」と思わないことです。台本の中 での自分の役の感情の流れをしっかりと整理して役の性格を設定し、相手の台詞をよく聞き、 台本の進行に応じた感情処理をしっかりと迅速にやっていけば、自然と「上手に」なります。 上手に演じようという意識が先行すると、どうしても小手先の演技に走ってしまいます。 Q.継続して練習するには、どのようにしたら効率よくできますか? →A.基礎練習の場合は、みんなで楽しくお喋りしながらやるといいと思いますよ。日大の稽古場で は、みんな楽しそうに喋りながらやってます。また、自分たちでいろんな練習メニューを工夫 してやっていくのもいいですね。基本は「楽しく!」です。芝居の稽古では厳しさが必要にな りますが…。公演に向けての、部全体の雰囲気の持っていきかたも大事ですね。芝居に向けて の各部員のベクトルの長い短いはバラバラで構わないと思うんです。各人の芝居に対する気持 ちの強弱はコントロールして同じ長さに揃えることはできません。やる気なさげな部員に「や る気だせよ!」と言ってやる気が出たためしはありません。だからそれはいいんです。ただ、 ベクトルの向く方向はみんな同じでなければいけない。みんなが、芝居の方向に向かっていな ければいけない。僕はそう考えます。仲間を信頼して、いい芝居をつくっていってください。 Q.台本を書くとき、どんなテーマで書いた方が観客を引き付けられるか、教えてください。 →A.テーマは、観客を引き付けるために設定するのではなく、あくまでもあなたが「書きたい!」 と思うものを選びましょう。まあ基本はそれなんですが、しかし、たとえばそのテーマが「全 宇宙の真理とウパニシャッド哲学の現実性について」だったとしたら、多くの観客は退屈して しまいますよね。高校演劇は、高校生であるあなた方がつくる芝居です。高校生であるあなた が感動したもの、 「マジすっげ~し」と思ったものを書いたほうがいいでしょう。 「マジすっげ ~し」でもいいし、「ちょ~むかつくし」でもいいですね。「なんかかっこいーし」でもいい。 あなたが発見したこと、感動したこと、真剣に考えていること、これをぶつけてみましょう。 それを観客に伝えるためのテクニックについては、前に書いた項目を参考にしてください。 Q.演技をするとき、役者に合った役柄で演じた方がいいのか、それとも正反対の性格の役柄を演じた 方がおもしろいのか教えてください。 →A.う~ん、どっちでもいいんじゃないかなあ~と思います。ごめんね身も蓋もない言い方で…。 これはキャスティングをおこなう人の考え方ひとつですね。日大では、キャスティングはオー 8 ディションをやって決定します。僕が配役を決めるのですが、役者個人の雰囲気にあった役柄 8割、意外なキャスティング2割、くらいの割合で役者を配置します。役者全員が、自分の性 格と正反対の役割を演じていたのでは、全体的にちぐはぐな印象が生じると思います。キャス ティングはあくまでも全体のバランスを考えて決定してください。演じる方としては、自分の 性格にあった役を演じながら、たまに全然違う役をやるってのが一番面白いパターンかな。 Q.台本の中で登場人物の性格を読み取るにはどうすればよいのでしょうか? →A.現代文の勉強をがんばれ~! ということをまずは言っておきましょう。演劇的な回答をする と、その台本の性質にもよると思うんですね。芝居の最初から最後まで、各登場人物の性格が 一貫しているのか、そうではないのか。各登場人物の性格が一貫していない台本というのもあ りなんです。そういった台本の場合、感情の切り替えを、かなり割り切ってやっていかないと いけないですね。台本に応じて、役作りをしていきましょう。具体的には、その人の吐くコト バ、よりは動作に性格は隠れているものです。台本のト書きによ~く注意しましょう。 Q.喜怒哀楽転換のときのオーバーリアクションについての動きの種類で、僕としては大きく手を上げ たりするしか思い浮かばないのですが、それは何かイメージを持ってポーズするものなのでしょうか。 →A.考えながら動いていたのでは間に合いません。また、明確なイメージというのは必要ないと思 います。とにかく何でもいいからズバッと動いてみることです。あとは練習を積むこと。回数 をこなしていけば、自然と出来るようになっていきます。体を動かしてみることです。こうい う練習は、野球の素振りと一緒ですね。何度も何度も繰り返しやっていくことで、考えずとも 体は動くようになりますよ。がんばってそのレベルまでいきましょう。 Q.演劇の台本と小説の違いについて教えてください。 →A.小説では、登場人物の心情変化なども細かにコトバで表現されることが多いですね。でも戯曲 ではそれは必要ありません。登場人物の会話の中にそれが現れます。戯曲は、小説以上に読み 手の想像力が必要とされます。また、小説はそれ自体で文学作品として完成品ですが、戯曲は 未完成品です。戯曲というのは役者が上演することを想定して書かれます。だから、こと細か く何でも文字にして説明をする必要はありません。小説を読みなれている人がいきなり戯曲を 書くと相当難しく感じるのは、この違いが認識できていないからだと思います。戯曲を書こう と思うのであれば、小説を読むのも大事ですが、多くの戯曲を読んで、戯曲の表現方法に慣れ る必要があると思います。 Q.台本の中にユーモアを取り入れる方法を知りたいです。 →A.芝居の中で「笑い」は非常に大事です。観客を芝居に引き付けておくために、僕は笑いには非 常にこだわります。台本の中に笑いを取り入れる場合、ちょっと難しいんですが、コトバで笑 わせようとせず、場を流れる空気で笑わせるようにすることが大事だと思います。そのため、 戯曲の書き手は役者としても優れたテクニックを持っていないといけないでしょうね~。ちょ っとした思い違い、登場人物同士の勘違いが産んでいく笑い、そういう笑いを多用したいです ね。芝居の進行にまったく関係ない、いわゆる「ギャグ」の類は、見ていてちょっとつらいも 9 のがあります。 Q.きんちょうになれるにはどうしたら速くなれるのでしょうか。 →A.・・・・・・・? ごめん。質問の意図が分らないんですが。緊張の間の作り方でしょうか。 なら、基本は呼吸と表情を止めることです。 「え、 」という台詞で緊張の間をつくるなら、相手の台詞 が出終わってから、目線を相手の顔に振ります。それと同時に「え、」と言い呼吸を止める。目線が 相手の顔に固定されるのと「え、」が同時でなければ空気は止まりません。何回も練習してみましょ う。うまくいったら、 「これだ!」という感覚が絶対にきます。がんばってください。 10
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