平成 14 年度 HIV 海外研修報告 (H15.2.15∼H15.3.01) 国立大阪病院 総合内科 医師 大江洋介 研修地 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サンフランシスコ市内 研修日程 2 月 15 日---空路、 カストロ地区見学とオリエンテーション 2 月 17 日---サンフランシスコの AIDS ケアシステムについての講義、 薬剤耐性についての講義 2 月 18 日---病院見学 Kaiser Foundation Hospital、 ゲイ・コミュニティ活動の見学 Stop AIDS project(カストロ地区) 、 コミュニティ勉強会の見学 Davis Medical Center(カストロ地区) 2 月 19 日---HIV 感染予防の講義 2 月 20 日---高齢者コミュニティ活動の見学 Continuum(ウエストサイド・ミッション地区) 2 月 21 日---HIV 検査の見学 San Francisco General Hospital 検査室、 抗 HIV 薬の服薬指導見学 Kaiser Hospital 臨床薬剤師 2 月 24 日---ピア活動の見学 Peer STD Clinic(コールストリート) 、 HIV の在宅ホスピス活動の見学 Hospice by the Bay(マーケット通り) 2 月 25 日---HIV 患者の妊娠・出産インタビュー(デビサデロ地区) 、 HIV ソーシャルワーキングの見学(デビサデロ地区) 、 HIV カウンセリングの見学 Glide Memorial Church(テンダーロイン地区) 2 月 26 日---AIDS 脳症のケア見学 Davis Medical Center(カストロ地区) 、 薬物動態学についての講義、 HIV オンラインシステムの見学 Reggie system(市公衆衛生局) 2 月 27 日---サンフランシスコの HIV/AIDS 疫学についての講義 2 月 28 日、3 月 1 日---空路 平成 14 年 2 月 15 日から 1 日までの 2 週間、アメリカ・サイフランシスコ市で HIV/AIDS 研修を受けさせていただく貴重な機会を頂いた。 この間、診療業務を休ませて頂き、スタッフまた患者さんに多大なご負担をおかけしたこ とを肝に銘じ、研修の報告をさせていただく。 まず、この研修をコーディネートしてくださった小林まさみ・デイビッド=ウィーズナー 夫妻に篤くお礼申し上げます。小林まさみ氏はプログラム・ディレクター兼コーディネータ 兼通訳兼チューターとして、サンフランシスコにおける HIV/AIDS 治療が私たち日本人に正 しく理解できるように、通訳中であっても適宜必要な解説を加えていただき、また、質疑応 答・ディスカッションなど開催していただいた。デイブ氏には、見学の予約や講師の日程調 整など、陰に日当に、研修をサポートしていただいた。 (デイブ・まさみ夫妻) 日本の医療制度とアメリカのそれとは大変違うので、わずか 2 週間それもカリフォルニア 州サンフランシスコ市の一部の施設を見学して、すべて正しく理解しようと言うのは大変困 難なことである。本来なら、医療制度・医療経済・また国民意識の違いなどなど、予備知識 をもって臨むべきところであるが、語学の勉強もそこそこに、2 週間分の外来予約をなんと か都合をつけて、前日にやっと荷造りをして飛行機にとび乗ることになってしまった。申し わけ程度に行きの機内で読んだのが「苦悩する市場原理のアメリカ医療」の半分というあり まさであった。 それでも、まるで準備不足をお見通しのように、日米の違いをふまえて解説をしていただ いたため、2 週間ではあったが、ある程度核心に触れることができた研修になったと大変感 謝している。各見学後のディスカッションや課題のミニ・レポートで聞き間違いや誤解など もすぐ訂正していただけたことも、よかったと思う。 前置きはこれぐらいにして、研修報告にはいりましょう。 ○サンフランシスコという場所、歴史、そしてその現在のすがた AIDS は最初、サンフランシスコのゲイ・コミュニティで流行したため Gay Related Immune Deficiency (GRID)と呼ばれた。 (カストロのシンボル、レインボーの旗) 当時は政府の援助もなかったので、自分たちの事は自分たちで守ろうと幾つかのコミュニ ティ活動が始まった。その一つがカストロの Stop AIDS project である。 (Stop AIDS project は 1994-95 年に活動を開始した) (さまざまなパンフレット) (無料のコンドーム・貰い放題) 最初に AIDS 患者が押し寄せたのが、同じくカストロ地区にある Davis Medical Center である。ここは当時、AIDS 治療の第一線病院として機能した。今でも HIV/AIDS 患者に対 してコミュニティ勉強会を開催するなど、精力的に活動している。 (夕刻の Davis Medical Center) 最初はゲイ仲間での感染が主であった HIV/AIDS が、バイ・セクシャルやドラッグ・ユー ザにも広がりはじめた。 HIV+マザーの出産が最初に行なわれたのは UCSF の病院であった。今日、サンフランシ スコでは HIV+マザーの出産は他に医学的理由がない限り経膣分娩である(これに対して日 本ではほとんど全例が帝王切開) 。豊富な情報(HIV−のパートナーとの安全な妊娠や児への 感染予防など)が医療機関や WORLD(Women Organized to Respond to Life Threatening Disease、ホームページは http://www.womenhiv.org/)などの団体から得られる。 ドラッグ・ユーザが公園や路上に棄てた使用済みの針によって一般市民が感染する危険性 があるため、針を新品に交換するニードル・エクスチェンジ(そこに持っていけば新しい針 を貰えるので、使用済みの針を棄てなくなる)が行なわれたのもサンフランシスコが初めて である。ドラッグは禁止されているため、ニードル・エクスチェンジは当初波紋を呼んだが、 確実に効果は上がっている(悪は悪であり止めるべきだがなかなか出来ない、それなら少し でも良い方向に向かわせようというのが Harm Reduction という考え方である) 。 HIV/AIDS は低所得者層に広がりつつあり、テンダーロイン地区はその一つである。グラ イドでは、食事のサービスなども行なわれているが、無料 HIV 検査やカウンセリング、医療 サービス、職業訓練なども提供し、全人的にサポートしている。 若年者に対してもっとも早くピアによる感染予防に乗り出したのは、ヘイト・アシュベリ ーの近くにあるハックルベリー・クリニックである。学校における HIV/AIDS 教育や、無料 の感染症検査、若年者への性的暴力などに対応している。 (ゲームをしながら HIV/AIDS 予防の知識を習得) (クイズ成績優秀者が貰える、コンドーム・キーホルダー) HIV/AIDS は抗ウイルス薬が開発されたことにより、「死ぬ病」から「長生きする病」へ 変ってきた。AIDS 高齢者、AIDS 脳症、AIDS 痴呆症のケアが問題となってきており、ディ ケアやホスピスなどのサービスが主にコミュニティレベルで整備されつつある。 (ソーシャルワーカーのカンファレンスに参加して) サンフランシスコ市の公衆衛生局に Reggie システムと呼ばれる HIV/AIDS 患者による患 者のための支援データベースが運営されており、サンフランシスコ市の 90%以上の HIV/AIDS 患者が登録し、利用している。 (ハンサムな Steve Solnit 氏) 課題発表 サンフランシスコにおける HIV/AIDS 患者プライバシーの保護、検査値などの情報管理つ いて(Confidentiality) 、見学してきてわかったこと。 主に、以下の見学場面で、Confidentiality について知ることができた。 ・診療現場(Kaiser Pharmanente, HMO) ・ピア(Peer STD Clinic) ・HIV+マザー(Nicole Pitts) ・ディケア(Continuum) ・MSW カンファレンス(Oak Street) ・AIDS 脳症ケア(Davis Medical Center) ・アウトリーチ(Stop AIDS project) ・情報システム まず、診療現場について、配慮されていると感じたことは、 ① 受付で HIV の人ですかと声を出さないでいいように、記入用紙を渡して書いてもらうよ うにしている ② 検査結果を郵送する場合など、先に患者の了承をとる(間違ったところに届かないよう に注意する)ことを徹底している ③ 身近の施設が嫌で遠方の病院を受診する人があることに配慮している ④ 他の人と出会わないように、入り口と出口を分ける ということであった。 つぎに HIV+マザー、Peer STD clinic でインタビューしていて出てきたことで、 ①医療者に望むこと 第一は、守秘義務を守ってほしいということ ②電話をする時(検査結果などを知らせる) 診療所の名前を出さず個人名でかける 伝言は残さない 本人が出るまで、何度も電話をかける ③機関紙(News Letter)の配布 来た人に渡す 郵送の場合は注意する ④家庭内でも秘密にしている人があることに配慮 夫と妻、親と子などの場合も、秘密にしている場合がある ディケア、MSW カンファレンス、AIDS 脳症ケアカンファレンスの場で、 ①カンファレンス内での呼称(呼び方)について、あるいは関係者同士で、 性別・年齢・病名のみで呼ぶ ファーストネーム(AIDS 脳症ケア)で呼ぶ イニシャルを使う 個人番号(MSW カンファレンス)で呼ぶ ②チーム内の連絡方法 電子メールが主(インターネットはセキュリティが甘いので、イントラネット。Ns に聞 いても SW に聞いてもそのように答えてくれた) アウトリーチ(街頭活動)において、 AIDS、HIV+は統計データとして公衆衛生局に報告する義務がある。公衆衛生局はその数 字を基にして感染防止のための計画を立てているため正確な数が必要。 カリフォルニア州では 2002 年 7 月から HIV+については、個人名を出さないで報告する が、このため、個人を特定できないように暗号化した番号に変換して報告している。 サンフランシスコの Reggie システムについて 1995 年から Reggie のプロジェクトが開始した。特徴的なのは、患者が中心となって、自 分たちに必要な機能を盛り込んだシステムであるということである。この 1 年で利用できる エージェンシー(施設・サービスなど)が大きく増えたこともあり、1 年間で 9,000 人ペー スの増加、3−4 年間で 18,000 人登録している。範囲はサンフランシスコ市。 一度登録すると、 他のエージェンシーのサービスを受ける時に 2 時間にも及ぶインテイク (問 診みたいなもの)を受けなくてもよいということで、利用者にとってメリットがあるシステ ムになっている。さらに、患者が自分の情報にパスワードをかけることができ(自分の信頼 する人=自分の情報を見ても良い人にだけそのパスワードを教える。パスワードを知らない 人は見ることができない) 、情報アクセスのコントロールができる。連邦政府に統計情報を出 す作業は、別のシステムでやっている。 (課題発表おわり) (無事修了できました)
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