児童虐待における 法的諸問題について 1 アウトライン ①児童虐待と個人情報保護 ②同意か,職権発動か ③法的なものの考え方について 2 個人情報保護の具体的問題 ①フォローが途切れた数年後に患者が突然 受診した場合 ②今後の支援体制検討のために以前の支 援ケースの振り返りを行いたい場合 ③以前の被虐待児のその後について担当 者が心配している場合 ④医療機関の通告により施設入所した児の 長期予後を知りたい場合 ⑤虐待者の刑事手続について知りたい場合 3 関係機関間における個人情報の取扱い 全般的な考え方 個人情報保護の重要性 児童虐待の予防,早期発見の重要性 4 個人情報の保護はなぜ重要か 個人の意識: ・ プライバシーの考え方の浸透 技術の進歩: ・ 個人に関する情報が大量に保存 ・ 電子的な正確性,検索の容易性 5 個人情報保護に関する法規制 個人情報の保護に関する法律 行政機関の保有する個人情報の保護 に関する法律 大阪府個人情報保護条例 地方公務員法の守秘義務規定 ・・・など 6 児童虐待法制との関係 通告義務(児福法25条,防止法6条), 早期発見努力義務(防止法5条1項) 守秘義務より通告が優先(防止法6条3項) 児童相談所長等からの依頼に対する情報 提供(防止法13条の3) 要対協からの要請に対する情報提供(児福 法25条の3) 協議会内部での情報共有(児福法25条の2) 7 現在の法制度が採用している立場 →個人情報保護の重要性を踏まえ, 所定の要件のもとに個人情報保護(など) の要請を一定程度緩和する 8 そこでの判断要素 ① 必要性 ② 相当性 9 具体的問題の検討 ①過去に医療機関でフォローしていた患者が 数年後に突然受診した場合,児相に対して この間の経過を尋ねることはできるか →受診の内容・理由にもよる →連携の必要があるのであればその旨 提案し,要対協の枠組みを利用 10 具体的問題の検討 ②保健センターで被虐待児支援の振り返りや 何年間かのケースのまとめをしたい場合, 虐待症例について児相から情報を得ること ができるか →純粋に学術目的であれば可能(行政機関 の保有する個人情報の保護に関する法律8条2項) 11 具体的問題の検討 ③何年も前に通告等を行った被虐待児のそ の後について担当者が心配している場合, 医療機関や児相から現在の状況を聞くこと はできるか →具体的な用向きがないと難しい 12 具体的問題の検討 ④医療機関からの通告により施設入所となっ た子の長期予後を,児相を介して知ること ができるか →②・③と同様 13 具体的問題の検討 ⑤虐待者が刑事告訴されたかどうかや,裁判 の経過を関係機関が知ることはできるか →前者は困難 →後者はできる(かなり簡単) 14 一時保護や施設入所の具体的問題 一時保護や施設入所は 親権者の同意を得て行うべきか ・ 一時保護:「必要と認めるとき」 ・ 施設入所:親権者の意に反しない 15 確認:親権について① 親権 →権利と義務の両側面を持つ 家長の権利 次第に,義務の側面が強調されるように (子の利益を守る親の義務) 子どもの成長発達権 →親や国はこれを援助する,との発想 16 確認:親権について② では,虐待親の権利は 重視しなくてよい? 確かに,もはや「家長の権利」ではない しかし,法は子に関する第一義的な責任を 親に負わせている(権利とともに) →社会はそれを尊重する必要 →これを剥奪するには所定の要件と手続 17 確認:親権について③ 具体的規定 1)児童福祉法28条(施設入所等) →保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、 その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を 害する場合において、・・・措置を採ることが児童の親権を 行う者・・・の意に反するとき 2)親権喪失/親権停止 →父母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父 母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることに より子の利益を著しく害するとき(親権喪失の要件) 18 確認:親権について③ 具体的規定 3)一時保護 →「必要と認めるとき」 ⇒重大な例外規定 19 基本的なしくみ(法律) ・児童福祉法 →児童福祉全般についての 基本法 ・児童虐待防止法(H12) →児童虐待対応について より詳細に定めた法律 20 基本的なしくみ(法律) ◆中核となる機関 →児童相談所 ◆前線で働く諸機関 →医師,保健師,保育園,… ◆連携の担い手,通告の受け手,他 →市町村 21 近時の制度の変遷の基本 ・より強力な権限(主に児相) ・併せて,親権等への制約も ・反対に,第三者によるチェックの 枠組みも若干増加 22 近時の制度の変遷の基本 ◆具体例:強力な権限 ・一時保護 ・情報共有(要対協) ・通告義務,早期発見努力義務 ・臨検・捜索 ・親権喪失,親権停止 ・「妨げてはならない」 23 近時の制度の変遷の基本 ◆具体例:第三者のチェック ・児童福祉審議会 ・28条審判の2年更新 24 法改正?(医療・保健) ・子育て世代包括支援センターの 全国展開 ・母子保健事業との連携強化 ・特定妊婦情報の確実な把握 ・医療機関の虐待対応体制整備 ・関係機関等による調査協力 25 法制度の基礎となる考え方 ←強 (行政の)権限 弱→ 26 権利の制約には司法判断が必要 ●典型例:刑事裁判 裁判所 27 権利の制約には司法判断が必要 ●児童虐待では? 裁判所? 28 無戸籍児への対処 ・多くは300日問題 →①戸籍上夫婦である間に出生した子 ②離婚後300日以内に出生した子 …は夫(前夫)の子と推定 →DV、拒否感などから届出せず 29 無戸籍児への対処 ◆300日問題への法的対処 ①(嫡出否認) ②親子関係不存在確認 ③強制認知 【重要】DNA鑑定だけでは勝てない! 最高裁の「外観説」に留意 →懐胎時期に性的接触を持つ可能性 30 無戸籍児への対処 【重要】DNA鑑定だけでは勝てない! 最高裁の「外観説」に留意 →懐胎時期に性的接触を持つ可能性 ・民法は「血のつながり」を絶対的な ものとは考えていない ・それよりも法的安定性重視 →「父を(早く)確定する」 31 今日のまとめ ・法律は「利益衡量の体系」である ・法律は「常識を集約して規範化したも の」であるが、仮に常識と合致しなく なっていても法律は法律である (法文から離れすぎた解釈はできない) 32
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