2005世界禁煙デー記念シンポジウム 「たばこ規制における保健医療専門家の役割」 5月31日/ サイエンスホール(東京) 5月31日世界禁煙デーに厚生労働省主催で世界 禁煙デー記念シンポジウムが開催された。今年の WHO世界禁煙デーのテーマである”The role of health professionals on tobacco control”(たばこ 規制における保健医療専門家の役割)に関しての 講演及びパネル討論について報告する。 まず始めに,開会挨拶として厚生労働大臣の代 読者に厚生労働大臣政務官の森岡正宏氏よりご挨 拶があった。今年の2月にたばこ規制枠組条約が 発効したことにより,たばこ対策関係省庁連絡会 議を設置し,関係省庁の密接な連携でたばこ対策 の推進を図っていくことを述べた。そして,今年 1月に行われた第1回局長級会議で未成年者の喫 煙防止対策と受動喫煙防止対策の一層の推進を図 っていくことを確認した。 次に厚生労働省大臣官房参事官健康担当の瀬上 清貴氏より「たばこ規制枠組条約と政府の取組に ついて」の報告がなされ,条約の背景と内容が説 明された。また,国民へたばこの害を少なくして いくことが国としての課題であると述べ,未成年 問題とたばこ税をどう使っていくかを挙げた。 医療専門家として… 岐阜大学大学院医学研究科再生医科学循環病態 学・呼吸病態学教授の藤原久義氏より講演を頂き, つい最近まで日本の医療専門家である医師の喫煙 率は非常に高かったと述べた。2000年の男性医師 の喫煙率は,27%であり,欧米では5%以下であ った。しかし,各医学会から禁煙宣言が出された りして医療専門家の禁煙に対する関心が高まって おり,病院の禁煙外来の設置も増えている。この ような状況の中で,藤原氏を委員長とした日本循 環器学会等の喫煙関連疾患9学会による“禁煙ガ イドライン”を今年の11月に発行する予定である。 藤原氏は下記のように医療専門家に対して喫煙防 止対策の推進について訴えた。 20 7/2005 複十字 No.304 1.医療専門家としての喫煙問題に対する基本姿 勢について 喫煙は治療・予防が簡単でない“喫煙病(依存 症+喫煙関連疾患)という疾患”であり,能動・受 動喫煙者は共に“喫煙病という疾患を持つ患者” である。また,禁煙推進を自らの足元からはじめ て,病院・薬局へそして患者や一般市民・社会へ 広げる。 2.医療専門家集団として各学会・医師会等の役 割について 学会員・専門医・病院の禁煙化と禁煙外来設置 の呼びかけを行い,禁煙治療専門家の養成・専門 家向けの禁煙ガイドラインの作成と普及を行う。 また,喫煙の科学的研究を推進する。禁煙指導・ 禁煙治療薬の保険適応を厚生労働省へ要望し,一 般市民・社会への啓蒙を行う。 3.医療専門家の職場としての病院・医院・歯科 医院・薬局・保健所等の役割について 職員の禁煙化,禁煙専門家の養成と禁煙外来を 設置し,院内・各地域での禁煙教育の推進を図る。 4.医療専門家個々の医師・歯科医師・看護師・ 薬剤師・保健師の役割について まず自らの禁煙化が先決である。喫煙の医学的 知識と患者の心理の理解を行い,外来・入院患者・ 職員一人一人に対する禁煙教育及び治療を行う。 各会における禁煙活動の取り組み (財)愛知県健康づくり振興事業団健康科学総合 センター長の富永民氏を座長に,「保健医療専 門家とたばこ規制」と題して4名の専門家に禁煙 活動の取り組みをお話し頂き,パネル討論を行っ た。 1.禁煙推進活動−日本医師会の取り組み− (社) 日本医師会常任理事の土屋隆氏はこれまで の禁煙推進活動として,会員喫煙意識調査の実施, 日本医師会会館の全館禁煙,禁煙推進委員会の設 置などを述べた。また,新聞への広告掲載やテレ ビコマーシャルの放映などのマスメディアを通じ た禁煙啓発,青少年に対するビデオやパンフレッ トの配布,そして医師や市民に対してシンポジウ ム開催やポスター作成などの活動を行っている。 2.歯科からの防煙・禁煙支援 (社) 日本歯科医師会常務理事の石井みどり氏は 国民の口腔及び全身の健康とより良い歯科治療を 確保するために積極的に喫煙対策を推進するとい う「日本歯科医師会禁煙宣言」を行い,歯科医師 としてどのように防煙・禁煙を支援できるかにつ いて述べた。喫煙は歯周病や口腔がんなどの健康 被害をもたらすと共に,親の喫煙により受動喫煙 を受けた子どもにも影響がある。また,歯医者で 禁煙の管理指導を行う禁煙支援プログラムの普及 を目指す。 3.日本薬剤師会における禁煙運動への取り組み (社) 日本薬剤師会常務理事の木村次氏は平成 15年4月に「禁煙運動宣言」を行った後のこれま での活動を述べた。ポスターやリーフレットを作 成し,多くの場所で禁煙を訴えている。特に妊婦 や未成年者への禁煙啓発活動を行っており,成人 式などで講演の声がかかることもある。また薬局 や薬店にいる地域の薬剤師が身近に人々に支援出 来るのがメリットであると述べた。 4.日本看護協会における『たばこ対策』への取 り組み (社) 日本看護協会常任理事の漆]育子氏は2001 年の調査において看護職の女性の喫煙率が一般女 性よりも多い(看護職:25.7%,一般女性:13.4%) ということが分かり,最終目標として2006年まで に半減させることを述べた。そのために当会では 看護者たちへの普及啓発活動,たばこ対策の人材 育成,都道府県看護協会など関係団体との連携が 必要であるとまとめた。 最後に座長の富永氏より今回のシンポジウムで の「パネル討論における決議文」(右記参照)を 読み,参加者の拍手をもって承認された。 閉会に伴い,たばこと健康問題NGO協議会会 長の島尾忠男氏より挨拶があり,同じ千代田区 でも霞ヶ関がまだ禁煙になってないので,禁煙 地区にして頂くように瀬上氏より提案して頂き たい。また,決議文の項目に「禁煙タクシーを 増やす」ということも追加して頂きたいなどの 意見も述べられ,盛会裏に終わった。 2005年世界禁煙デー記念シンポジウム パネル討論における決議文 私たちは本日「保健医療専門家とたばこ規制」 と題するパネル討論を行い,その中で,「健康日 本21」に掲げるたばこ対策の目標の達成に向けた 取組を一層推進するとともに,たばこ対策を更に 強化することが必要であるということを改めて確 認いたしました。 よって,政府に対し,以下の点について強く要 求する。 1 「健康日本21」において喫煙率の低下に関 する数値目標を設定すること 2 未成年者喫煙防止対策として,たばこの自 動販売機に関して,将来的には撤去するこ とを目指し,その規制を段階的に強化して いくこと 3 公共の場及び職場における受動喫煙防止対 策を徹底すること 4 たばこ価格を引き上げ,それにより増加し た税収を健康づくり施策に活用すること また,本日のシンポジウムを契機として,保健 医療関係団体としても,それぞれのたばこ対策の 取組を一段と強めるとともに,十分に連携し,な お一層の努力を重ねることを宣言する。 平成17年5月31日 (財)愛知県健康づくり振興事業団 健康科学総合センター長 富永 民 (社)日本医師会常任理事 土屋 隆 (社)日本歯科医師会常務理事 石井みどり (社)日本薬剤師会常務理事 木村 次 (社)日本看護協会常任理事 漆] 育子 閉会の挨拶を述べる島尾氏 7/2005 複十字 No.304 21
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