平成27年5月8日 京都府知事 山田啓二 様 京都府の重要な財産である淡水魚アユモドキの生息地での 「京都スタジアム(仮称)」整備に関する計画に対する意見 会長 池谷奉文(いけやほうぶん) 東京都豊島区西池袋 2-30-20 音羽ビル TEL: 03-5951-0244 FAX: 03-5951-2974 Email: [email protected] 日頃より、持続可能な地方創生について、ご理解、またご尽力いただき、感謝申し上げ ます。 私ども公益財団法人日本生態系協会は、自然と伝統を基盤とする持続可能な社会の構築 に向けて、国や地方自治体、議会等に対して政策や制度づくりの提案を行うと同時に、行 政や専門家、市民と連携協働して、先進的な地方創生の取組等の展開のため、活動してい る公益法人です。 過去、日本は多くのインフラを整備してきました。しかし、コンクリート等を用いたグ レーインフラは維持管理や廃棄に膨大な費用がかかることから、全国各地で問題が出てい ます。こうしたことから、今日、投資の方向をグレーインフラから、自然の多様な機能を 活かすグリーンインフラへと転換するなど、次世代や将来世代のための持続可能な整備が 重要な時代を迎えています。 さて、貴府において、亀岡市の保津川沿いのアユモドキの生息地を対象に「京都スタジ アム(仮称)」を建設する計画が進められています。周知の通り、アユモドキは、世界でも本 地域を含め 3 か所でしかもはや見られない種で、「国の天然記念物(文化財保護法)」、 「国内 希少野生動植物種(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」及び「指定希 少野生生物(京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例)」に重複して指定され、 地元農業者をはじめ地域の方々のご努力により守られてきた京都府の重要な財産といえる 種です。このため、貴府及び亀岡市において、アユモドキ保全に必要な調査や対策につい て専門家から意見を得るため、環境保全専門家会議が平成 25 年に共同で設置されました。 これについて、先月(4 月)28 日に開催された環境保全専門家会議において、貴府及び亀岡 市がこれまでの議論を基に作成した「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)の整備 計画の策定にあたり考慮するべき基本方針(素案) 」が議題とされました。会議では、スタ ジアム建設と自然保護の両立のための基本方針と対応策について熱心な議論が行なわれた 1 ものと承知しています。基本方針(素案)に盛り込まれた事項については、検討中、さらに未 検討のものも含まれ、実行可能性などに関して、今後さらに検討が必要とされる性質のも のとも承知しています。 ところで、上記の環境保全専門家会議のなかで、貴府及び亀岡市は、この基本方針(素 案)の内容を、現在取りまとめ中のスタジアムの「基本設計」に反映させたうえで、今後、 水田環境に関する実証実験等の調査や環境保全専門家会議の検討と、 「実施設計・建設工事」 の一体的な発注を並行して進め、調査検討の結果を「実施設計」の内容、「建設工事」の内 容に反映させ、事業の途中の時点でも計画を柔軟に変更していく新たな事業方式を導入す るとの考えを委員に示した、と聞きます。 これについて弊協会では、これまでの環境保全専門家会議における検討のなかでは、現 時点ではまだ、スタジアムの立地・配置がアユモドキの生息・繁殖に悪影響を及ぼすのか、 あるいは悪影響を回避できるのかについて、科学的な根拠に基づいた影響評価は出来てい ない状況にある、と理解しています。淡水魚類や生態学の専門家によれば、アユモドキの 生態は解明されていない点も多く、野外における水田環境実証実験等により必要なデータ を取得することが科学的な影響評価のためにはまだ欠かせない状況にある、と聞きます。 事業実施段階であるスタジアムの「実施設計」に着手するためには、その前提として、 野外実験等を通じて取得したデータに基づき、環境保全専門家会議において、悪影響が回 避できるかどうかの科学的な評価がなされ、生息環境の保全・改善に関して、今回の基本 方針に掲げられた各項目の実効性の担保が確認されている必要があります。しかし、実験 結果さえ判明していない現時点において、水田・水路の消失などアユモドキ生息域の改変 を伴う現予定地内での建設を前提とした「実施設計・建設工事」費の予算化を行うことは、 アユモドキへの悪影響の回避、自然との共生が可能であるという根拠がなく拙速である、 と考えます。 貴府では、府の大規模な公共事業について事業の妥当性を事前に評価するために公共事 業評価委員会を設置しており、スタジアムの「実施設計」費の予算計上の際には、環境保 全の観点も含め事業の妥当性を評価する仕組みが設けられています。 アユモドキをはじめとした貴重な動植物、それらの生息・生育環境は全国的、国際的な 重要性を有しており、こうした自然環境に重大な影響を及ぼすおそれのある本スタジアム の建設事業については、公共事業評価委員会においても慎重に審議される必要があります。 そのためには、上記の専門家会議で科学的根拠に基づく影響評価がなされたうえで、その 結果を踏まえて公共事業の事前評価が行われるべきであり、科学的な影響評価がなされて いない現段階では、公共事業評価委員会での評価項目である「良好な環境の形成及び保全」 に関して適切な評価ができない、と考えます。 2 「実施設計段階・建設工事段階」においても環境保全専門家会議の意見を踏まえて柔軟 に計画内容を変更していくという考え方が示されているようですが、どこまでの変更が可 能なのかについて制度的な担保がなされていません。したがって、柔軟に変更を加えてい くことを理由に、悪影響の回避に関する科学的な評価がなされていない段階で、公共事業 評価委員会に諮り、 「実施設計・建設工事」の一体的な予算を計上するというような手順を 採用したならば、 「環の公共事業」という環境との共生を重視した考え方を組み込んだ、全 国的にも先進的な貴府の公共事業評価システムの存在意義そのものが失われることになり ます。 地域の人たちの尽力により維持・保全されてきたアユモドキなどこの地域に特有の貴重 な自然環境に対して、スタジアム建設の悪影響が及ぶことを回避するために、慎重な検討、 対応がなされることを、強く望みます。 以上 3 平成 27 年 5 月 8 日 京都府公共事業評価に係る第三者委員会 委員長 小林潔司 様 京都府の重要な財産である淡水魚アユモドキの生息地での 「京都スタジアム(仮称)」整備に関する計画に対する意見 会長 池谷奉文(いけやほうぶん) 東京都豊島区西池袋 2-30-20 音羽ビル TEL: 03-5951-0244 FAX: 03-5951-2974 Email: [email protected] 日頃より、持続可能な地方創生について、ご理解、またご尽力いただき、感謝申し上げ ます。 私ども公益財団法人日本生態系協会は、自然と伝統を基盤とする持続可能な社会の構築 に向けて、国や地方自治体、議会等に対して政策や制度づくりの提案を行うと同時に、行 政や専門家、市民と連携協働して、先進的な地方創生の取組等の展開のため、活動してい る公益法人です。 過去、日本は多くのインフラを整備してきました。しかし、コンクリート等を用いたグ レーインフラは維持管理や廃棄に膨大な費用がかかることから、全国各地で問題が出てい ます。こうしたことから、今日、投資の方向をグレーインフラから、自然の多様な機能を 活かすグリーンインフラへと転換するなど、次世代や将来世代のための持続可能な整備が 重要な時代を迎えています。 さて、京都府において、亀岡市の保津川沿いのアユモドキの生息地を対象に「京都スタ ジアム(仮称)」を建設する計画が進められています。周知の通り、アユモドキは、世界でも 本地域を含め 3 か所でしかもはや見られない種で、 「国の天然記念物(文化財保護法)」 、 「国 内希少野生動植物種(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」及び「指定 希少野生生物(京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例)」に重複して指定さ れ、地元農業者をはじめ地域の方々のご努力により守られてきた京都府の重要な財産とい える種です。このため、京都府及び亀岡市において、アユモドキ保全に必要な調査や対策 について専門家から意見を得るため、環境保全専門家会議が平成 25 年に共同で設置されま した。 これについて、先月(4 月)28 日に開催された環境保全専門家会議において、京都府及び亀 岡市がこれまでの議論を基に作成した「亀岡市都市計画公園及び京都スタジアム(仮称)の整 1 備計画の策定にあたり考慮するべき基本方針(素案)」が議題とされました。会議では、ス タジアム建設と自然保護の両立のための基本方針と対応策について熱心な議論が行なわれ たものと承知しています。基本方針(素案)に盛り込まれた事項については、検討中、さらに 未検討のものも含まれ、実行可能性などに関して、今後さらに検討が必要とされる性質の ものとも承知しています。 ところで、上記の環境保全専門家会議のなかで、京都府及び亀岡市は、この基本方針(素 案)の内容を、現在取りまとめ中のスタジアムの「基本設計」に反映させたうえで、今後、 水田環境に関する実証実験等の調査や環境保全専門家会議の検討と、 「実施設計・建設工事」 の一体的な発注を並行して進め、調査検討の結果を「実施設計」の内容、「建設工事」の内 容に反映させ、事業の途中の時点でも計画を柔軟に変更していく新たな事業方式を導入す るとの考えを委員に示した、と聞きます。 これについて弊協会では、これまでの環境保全専門家会議における検討のなかでは、現 時点ではまだ、スタジアムの立地・配置がアユモドキの生息・繁殖に悪影響を及ぼすのか、 あるいは悪影響を回避できるのかについて、科学的な根拠に基づいた影響評価は出来てい ない状況にある、と理解しています。淡水魚類や生態学の専門家によれば、アユモドキの 生態は解明されていない点も多く、野外における水田環境実証実験等により必要なデータ を取得することが科学的な影響評価のためにはまだ欠かせない状況にある、と聞きます。 事業実施段階であるスタジアムの「実施設計」に着手するためには、その前提として、 野外実験等を通じて取得したデータに基づき、環境保全専門家会議において、悪影響が回 避できるかどうかの科学的な評価がなされ、生息環境の保全・改善に関して、今回の基本 方針に掲げられた各項目の実効性の担保が確認されている必要があります。しかし、実験 結果さえ判明していない現時点において、水田・水路の消失などアユモドキ生息域の改変 を伴う現予定地内での建設を前提とした「実施設計・建設工事」費の予算化を行うことは、 アユモドキへの悪影響の回避、自然との共生が可能であるという根拠がなく拙速である、 と考えます。 京都府では、府の大規模な公共事業について事業の妥当性を事前に評価するために公共 事業評価委員会を設置しており、スタジアムの「実施設計」費の予算計上の際には、環境 保全の観点も含め事業の妥当性を評価する仕組みが設けられています。 アユモドキをはじめとした貴重な動植物、それらの生息・生育環境は全国的、国際的な 重要性を有しており、こうした自然環境に重大な影響を及ぼすおそれのある本スタジアム の建設事業については、公共事業評価委員会においても慎重に審議される必要があります。 そのためには、上記の専門家会議で科学的根拠に基づく影響評価がなされたうえで、その 結果を踏まえて公共事業の事前評価が行われるべきであり、科学的な影響評価がなされて いない現段階では、公共事業評価委員会での評価項目である「良好な環境の形成及び保全」 2 に関して適切な評価ができない、と考えます。 「実施設計段階・建設工事段階」においても環境保全専門家会議の意見を踏まえて柔軟 に計画内容を変更していくという考え方が示されているようですが、どこまでの変更が可 能なのかについて制度的な担保がなされていません。したがって、柔軟に変更を加えてい くことを理由に、悪影響の回避に関する科学的な評価がなされていない段階で、公共事業 評価委員会に諮り、 「実施設計・建設工事」の一体的な予算を計上するというような手順を 採用したならば、 「環の公共事業」という環境との共生を重視した考え方を組み込んだ、全 国的にも先進的な京都府の公共事業評価システムの存在意義そのものが失われることにな ります。 地域の人たちの尽力により維持・保全されてきたアユモドキなどこの地域に特有の貴重 な自然環境に対して、スタジアム建設の悪影響が及ぶことを回避するために、慎重な検討、 対応がなされることを、強く望みます。 以上 3
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