第2章 理事会 理事会は、世銀の業務全般の管理運営に対して 責任を負い、また、総務会から委任された権限に 基づき、その任務を果たします。世銀協定の規定 により、24 名の理事のうち 5 名は 5 大出資国より 任命され、残りの理事は、他の加盟国を区割りし、 2 年ごとに各グループの選出作業を行って選任さ れます。 理事会は、総裁が提出する IBRD 貸付・保証案 件及び IDA 貸付・保証案件に関する検討・承認 を行う他、世銀の業務全般や方向性を左右する政 策課題についての決定も行います。また、理事会 は、総務会に対し、会計監査報告、運営予算、世 銀の業務と政策に関する年次報告(本報告書)及 びその他の事項を年次総会において報告する責任 を有しています。理事会の監督責任は、貸付・保 証に関するすべての業務及び年間予算の承認を始 め、世銀のすべての政策と業務に及びます。理事 会は、出資国が世銀グループに期待する内容の変 化や世銀の業務実績を踏まえて、世銀の政策を決 定します。この場合、業務評価局(OED)が重 要な役割を果たします。OED は、理事会に直接 説明する責任を負っており、理事会が承認した OED の政策、戦略及び業務プログラムに定めら れている専門的評価を実施します。OED は、業 務の適性、持続可能性、効率性及び有効性に関し て、理事会に独立機関としてのアドバイスを提供 (左から右へ)Andrei Bugrov、Girmai Abraham(着席)、Finn Jonck、Balmiki Prasad Singh、Neil F. Hyden、Jean-Claude Milleron(着席)、Matthias Meyer、 Rosemary Stevenson*(着席)、Terrie O'Leary、Philippe M. Peeters、Bassary Toure、Moises Pineda(着席)、Pieter Stek、Jan Piercy、Helmut Schaffer、 Jaime Ruiz(着席)、Mario Soto-Platero、Mohamd Kamel Amr*、Ahmed Sadoudi(着席)、Franco Passacantando、Yahya Abdulla M. Alyahya、原田有 造(着席)、Zhu Guangyao、Abdul Aziz Mohd. Yaacob * 理事代理 します。2001 年度においては、理事会は、その 責任を履行するため、世銀本部で定期的に会合を 開きました。各理事は、5 つの常任委員会(監査 委員会、開発効果委員会、予算委員会、人事委員 会及び理事行政管理委員会)のいずれか 1 つ以上 の委員を務めています。これらの委員会は、理事 会がその監督機能を十分に発揮できるよう、政策 や慣行に関して綿密な検討を行います。 理事及び理事代理は、定期的に借入国を訪問し、 世銀援助の実施状況を視察します。視察の際には、 プロジェクト・マネージャー、受益者、政府関係 者、非政府組織(NGO)、経済界、他の開発パー トナー、金融機関、世銀現地事務所の職員など、 多方面にわたる人々と会談します。2001 年度の 視察先は、ブータン、ジブチ、エリトリア、エチ オピア、ラトビア、パキスタン、タジキスタン、 トルコ及びウガンダでした。また、理事会は、半 年ごとに開催される世銀・ IMF 合同開発委員会 のアジェンダや課題に関するペーパーを準備する 理事会 37 際にも重要な役割を果たします。2001 年度、開 発委員会は、中所得国に対する世銀の援助戦略、 貧困削減、国際公共財、紛争後復興諸国に対する 援助及び以下に示す多くの問題に取り組みまし た。(詳細に関しては、「本報告書」の第 2 巻の付 表 12 を参照) 戦略的課題 理事会の 2001 年度の重点課題の概要は、次の とおりです。 戦略フレームワーク 2001 年度、世銀幹部は理事会に対し、戦略フ レームワーク・ペーパー、ストラテジック・コン パクト(機構改革)評価、及び世銀と IFC に対 する戦略指針ペーパーを始めとして、2002−04 年度の世銀グループの戦略指針に関するいくつか の文書を提示しました。理事会は、これらの提言 を検討し、かつ貧困削減という主要目標に一層効 率的に対処するための国際開発目標を加盟各国が 達成できるように、世銀業務の重点的な対応が高 まることを強く支持しました。さらに、理事会は、 世銀の中所得国戦略などいくつかの重要な政策ペ ーパーを議論しました。 貧困削減分野における世銀グループの役割 理事会は、引き続き、貧困削減という世銀グル ープの任務の実施状況に十分な注意を払いまし た。理事会は、貧困との闘いに関する「世界開発 報告 2000/2001」の業務への適用について言及し たペーパーや、毎年刊行される「貧困削減状況報 告」など、貧困関連の多くの文書を検討しました。 また、理事会は、低所得国の債務救済のための拡 充重債務貧困国(HIPC)イニシアティブの実施 状況、及び債務救済と貧困削減を一層強く関連付 けることを目的とした貧困削減戦略ペーパー (PRSP)と暫定 PRSP(I-PRSP)の実施状況にも 大きな関心を払いました。理事会は、拡充された フレームワークに基づいた 28 件の HIPC 文書 (23 ヶ国を対象としたもので、予備的文書が 10 件、 「決定時点」に関する文書が 16 件、「完了時点」 に関する文書が 2 件)を検討し、すべての債権 国・機関による全面的な負担分担が重要であるこ とを指摘しました 1 。また、理事会は、3 件の PRSP と 29 件の I-PRSP を検討し、PRSP プロセ スの実施面で目に見える進展があったことを評価 しました。理事会は、借入国の独自の戦略・実施 能力と世銀援助の一層適切な組み合わせなど、改 善を要する分野がいくつか存在することを指摘し 38 世界銀行年次報告 2001 ました。さらに理事会は、初めての貧困削減支援 貸付(PRSC)をウガンダとベトナムに対して承 認しました。また、理事会は、HIPC における貧 困関連支出の調査に関するペーパーを検討し、か つ債務削減が債務の長期的な持続可能性に与える 影響を議論しました。さらに理事会は、公的機関 の改革のための戦略、ならびにガバナンス、社会 的保護及び金融セクターを強化するための戦略を 始め、セクター・レベルでの貧困削減に関する世 銀の役割を定義するための多くのセクター戦略ペ ーパーを議論しました。 国別プログラム 国別援助戦略(CAS)及び包括的開発フレー ムワーク(CDF)と PRSP に盛り込まれた原則は、 引き続き、世銀グループの国レベルでの業務の指 針となりました。2001 年度に理事会は、37 件の CAS 及び CAS 関連文書を検討しました。理事会 は、最大目標としての貧困削減に一層重点を置く こと、及び CAS を策定する際に協議プロセスを さらに活用することを提言しました。また、理事 会は、国レベルでのパートナーシップの一層の活 用と重点的な対応の重要性を強調しました。 グローバルなプログラムとパートナーシップ 過去数年間、グローバルなプログラムとパート ナーシップに対する世銀の貢献度が大幅に高まり ました。2001 年度、理事会は、貧困削減に向け た国レベルでの努力を強化することを目的とし て、グローバルなプログラムとパートナーシップ を管理するためのフレームワークを議論しまし た。理事会は、国際公共財に関するいくつかの報 告書を検討し、世銀が関与すべき 5 つの優先分野 ―伝染病、環境保護、経済ガバナンス・金融の安 定化、貿易統合及び情報・知識―を確認しました。 さらに理事会は、これらの優先分野におけるいく つかのイニシアティブを議論しました。この中に は、金融市場の安定化に特に重点を置いた国際金 融アーキテクチャーの強化に向けた世銀と IMF による協力作業及び基準・規定の実施が含まれて います。理事会は、エイズに関する活動に加え、 1.決定時点:維持可能な水準を超える債務を抱えながらも経済改 革・貧困削減プログラムに関して一定の成果を上げた国に対する 債務救済に関して、国際社会が未返済債務を維持可能な水準にま で引き下げる上で必要な債務救済額に合意する時点のこと。IDA を含む多国間債権者は、決定時点後直ちに相当額の「暫定援助」 の提供を開始します。 完了時点:すべての債権者が、決定時点で合意されたそれぞれの 債務救済額の未実行部分の削減を無条件で実行した時点のこと。 完了時点は、各国の PRSP に示された重要な改革と政策の実施 と関連付けられています。 上記のイニシアティブの一部にグラントを提供す る「開発グラント・ファシリティ」を議論しまし た。また理事会は、国連の「開発のための金融に 関する国際会議」に関する準備作業にも関与して います。さらに理事会は、開発問題の議論におい てその役割が大きくなっているシビルソサエティ と非政府組織(NGO)との協力関係も重視しま した。 監督責任と財務管理などの 受託者責任(fiduciary responsibility) 理事会は、世銀の株主に代わり監督義務と財務 管理などの受託者責任(fiduciary responsibility) を果たしており、その一部は監査委員会を通じて 行われます。監査委員会は、複雑かつリスクが大 きくなっている環境下で、監査委員会の任務が拡 大している状況を踏まえて、自らに対する委任事 項を再検討しました。監査委員会は、政策問題に 関する理事会の決定を支援するために、理事会に 対し、金融リスク管理とガバナンスに関する問題 について助言を行っています。 運営予算 予算委員会の検討結果に基づき、理事会は、 2001 年度に関して、返済金額を除く総額 14 億 4,220 万ドルの運営予算を承認しました。この予 算総額には、開発グラント・ファシリティに対す る 1 億 4,690 万ドルの予算が含まれています。ス トラテジック・コンパクト(機構改革)開始当時 は予期しなかったほど世銀に対する要求が高まっ たにも関わらず、運営予算額は、ストラテジッ ク・コンパクト(機構改革)開始時点で合意され た水準を下回りました。2001 年 6 月、理事会は、 2002 年度について、返済金額を除く総額 15 億 8,970万ドルの運営予算を承認しました。 査閲パネル 理事会は、世銀のプロジェクトの影響を受ける 人々の関心やニーズに密着した取り組みを行うこ とを目的として、1993 年に独立性を有する査閲 パネルを設置しました。このパネルにより、プロ ジェクトの設計、準備、実施に当たって、世銀の 運用政策や手続きの厳守が徹底されています。世 銀が支援したプロジェクトによって悪影響を受け る可能性があると判断した人は誰でも、査閲パネ ルに対し、そうした悪影響は世銀がその政策と手 続きを遵守していないことに起因するものである との苦情を呈し、調査を要請することができます。 理事会は、査閲パネルの提言に基づいて、調査を 実施するかどうかを決定します。 2001 年度には、理事会は、中国西部貧困削減 プロジェクトの青海地域部分に関する査閲パネル 報告書と世銀幹部の提言を検討しました。中国政 府が、追加的なコンディショナリティーを受け入 れることができず、青海地域部分については自国 の資金を独自の条件に基づいて投入すると発表し たため、理事会はさらなる措置は講じませんでし た。この他、理事会はケニアとエクアドルのプロ ジェクトに関する 2 つの調査を承認しました。こ れに基づき査閲パネルは、環境評価に世銀の政策 が適用されているかどうか、地域住民との協議ま たは地域住民による参加が行われているかどう か、世銀によるモニタリングが行われているかど うか、を調査しました。この 2 つの事例に関して は、理事会は、査閲パネルの調査報告書に基づい て作成された世銀幹部の提言を承認しました。査 閲パネルは、新たに、チャド・カメルーン・パイ プライン・プロジェクト及びインド石炭公社環 境・社会支援プロジェクトに関する調査要請を受 けました。 理事会 39
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