シンポジウム「ペットと子供」-動物が子供に与える影響について考えてみよう- 『子供に伝える犬と仲良くなる方法』 日本獣医生命科学大学獣医学部 水越 美奈 犬の咬傷事故は、日本全国で年間 4950 件発生しており、咬傷に遭った時の状況では犬に 手を出した時が多く、犬の状況では係留されている状態と放し飼いの状態がほとんどを占 めている(H20:環境省調べ)。また犬の咬傷事故の被害者は 10 歳以下 1)、8~9 歳 2)に多い と報告されており、日本でも沖縄県で平成 19 年度の被咬傷者 146 人のうち 28.1%が小学生 以下であったと報告されている(沖縄県 HP)。そしてその咬傷部位は顔面や頸部など肩より 高い部位 1)、上肢や下肢 3)が多いと報告されている。昨年度、我々が犬から咬まれた経験に ついて中学生を対象に調査を行ったところ、犬から威嚇や咬傷を受けた年齢は犬を飼って いた家庭では小学 1~3 年生に多く、犬を飼っていない家庭では小学 4~6 年生が小学 1~3 年生よりわずかに多く、犬に咬まれた経験がある者の中でこれらの年代が 7~8 割を占めて いた。また咬まれた状況で多かったのは、「なでたとき、触ったとき」 、「近づいた時」、 「遊 んでいる時」であった。 英国や米国では the blue dog trust(www.thebluedog.org)を初め、多くの動物愛護団体等 が幼稚園から小学低学年向けに犬の咬傷事故防止プログラムを持ち、実施されている。ま たこのようなプログラムは、保護者にのみ犬の周りでの安全な行動の情報を提供するより も、保護者に対して情報を提供した上でさらに子供が犬の周りでの正しい行動を学ぶプロ グラムに参加した方が、子供自身が犬の関係する状況においてより正しい判断ができると 報告されている 4)。日本においては、子供向けの犬とのふれあいや挨拶のしかたを教える教 室は多く存在するが、子供に対する犬の咬傷事故防止に特化したプログラムはあまり行わ れていない。犬嫌いの人の中には子供の時に犬に追いかけられた、咬まれたなど、犬に関 して嫌な経験をした人は多い。犬の子供に対する咬傷事故は公衆衛生上の問題としても大 きい。しかしそれ以上に、我々犬が好きな人間が当たり前のように享受する犬からの恩恵 をその悪い経験から受けられなくなることになるのはとても悲しい。当然痛くて嫌な気持 ちなんていう経験はしないほうがよいに決まっている。 今回は本学学生が中心になって行っている小学校 1~3 年生とその保護者を対象として犬の 咬傷事故防止の為のプログラムを紹介しながら、子供にどうやったら犬と仲良くなれるの かを伝えて行く方法について考えて行こうと思う。 [1]Schalamon, J., Ainoedhofer, H., et al.(2006). Analysis of Dog Bites in Children Who Are Younger Than 17 Years. Pediatrics. 117, e374-e379 [2]奈良間美保ら(2006) 『系統看護学講座 専門分野Ⅱ 小児看護学概論 小児臨床看護総論 小児看護学[1]』 医学書院 [3]Georges, K., Adesiyun, A.(2008). An Investigation into The Prevalence of Dog Bites to Primary School Children in Trinidad. BMC Public Health. 8, 85 [4]Wilson, F., Dwyer, F., et al.(2003). Prevention of Dog Bites: Evaluation of A Brief Educational Intervention Program for Preschool Children. Journal of Community Psychology. 31(1), 75-86
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