企業防衛を含めた 就業規則の作成・変更

中小企業に欠かせない
企業防衛を含めた
就業規則の作成・変更
1.企業防衛を含めた就業規則とは
(1) 就業規則を戦略的に作成するメリット
(2) 就業規則の法的性格
(3) 就業規則の記載事項
(4) 就業規則の構造
(5) 就業規則の作成・変更の流れ
「最初に」
会社と労働者との関係は、労働契約という契約関係で成り立っています。労働者である従業
員は労働を提供し、使用者である会社はこれに対して賃金を支払う関係です。
労働契約の内容(1日何時間働くか、休憩・休日は、など)をそれぞれの労働者と個別に契
約することは、事務作業が膨大となり困難であることから、労働者が就業上遵守すべき規則、
労働条件に関する具体的細目を定めることとしているのが通常です。これを就業規則といいま
す。労働基準法は、常時10人以上の労働者を使用する会社には、就業規則の作成と届出を義
務づけています。
ここでは、企業防衛を含めた就業規則を戦略的に作成・変更する会社のメリット、就業規則
の法的性格、その必要記載事項、その作成・変更の流れなどについて、ポイントを記載しまし
た。
義務だからただ就業規則を作成するというのではなく、さまざまな角度から戦略的に就業規
則の作成や変更を行う必要があります。そのためにも、このレポートをお役立てください。
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1.企業防衛を含めた戦略的就業規則とは
(1)就業規則を戦略的に作成するメリット
就業規則を会社サイドで戦略的に作成するメリットとしては、次のような点が上げら
れます。
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経費削減(時間外労働等の削減)
振替休日・変形労働時間制の採用などにより、時間外労働等による割増賃金の支払
額が削減できます。
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トラブル回避
労使間のトラブルの典型例は懲戒処分をめぐるものですが、これ以外にも、各種書
類の提出義務を整備することなどにより、トラブル回避が可能となります。
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モラールアップによる業績アップ
各種の取り決めをきちんと行っておくことは、労務管理上のモラールアップにつな
がり、ひいてはそれが業績アップにつながっていきます。
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損害の回避
最近話題になった社内発明における特許権の帰属が典型例ですが、これ以外にも、
秘密漏洩、守秘義務等、就業規則で取り決めておくべきことはたくさんあります。
(2)就業規則の法的性格
戦略的就業規則について考える前に、ここでその法的性格について確認しましょう。
①労働契約との関係
個々の労働者と会社が結ぶ労働契約の内容は、就業規則の内容と抵触できません。た
とえば、労働契約上の労働条件が就業規則に規定する条件よりも低い場合は就業規則で
定める基準に置き換えられることになります。
②労働協約との関係
就業規則は、法令または当該事業場について適用される労働協約に反してはならない
とされています。
労働協約が、労働組合と会社である使用者との合意によって締結されるものであるこ
とから、より強い効力をもつことになります。
これらの関係をまとめると、その序列は次のようになります。
法令 > 労働協約 > 就業規則 >労働契約
(3)就業規則の記載事項
就業規則には、法律上、必ず記載しなければならない内容と、定めをする場合には必
ず記載すべき内容とが決められています。
①絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項とは、必ず就業規則に記載しなければならない次に掲げる事項の
ことです。
・ 始業・終業時刻、休憩時間
・ 休日、休暇
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・ 交代制勤務における就業時転換
・ 賃金(臨時の賃金等を除く)
― 賃金の決定、計算、支払方法、締切り、支払時期、昇給
・ 退職
― 定年制、自己都合退職、解雇等
②相対的必要記載事項
相対的必要記載事項とは、その定めをする場合には必ず記載しなければならない次に
掲げる事項のことです。
・ 退職手当(適用範囲、決定、計算、支払方法、支払時期)
・ 臨時賃金(賞与)
、最低賃金額
・ 食費、作業用品などの労働者負担
・ 安全・衛生
・ 職業訓練
・ 災害補償、業務外の傷病扶助
・ 表彰・制裁
・ その他事業場のすべての労働者に適用される事項
(例:試用期間、人事異動、休職・復職、旅費、福利厚生、ストックオプションなど)
③任意的記載事項
任意的記載事項とは、
絶対的必要記載事項、
相対的必要記載事項以外の事項のことで、
就業規則に記載しなくてもかまわない事項のことです。例としては以下のような事項が
あります。
・ 就業規則の制定趣旨
・ 就業規則の変更についての労働組合との協議
(4)就業規則の構造
就業規則にすべての労働条件を盛り込むと膨大な量になります。そのため、一般的に
は特別な形態の社員(嘱託、パートなど)に関して別の規則として定めたり、賃金・退
職金等に関して独立して規定しています。
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就業規則本則
就業規則、パート就業規則、嘱託就業規則など
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就業規則別規則
賃金規程、退職金規程、育児・介護休業規程、出向規程、出張規程、宿日直規程など
ただし、これらすべてが就業規則に含まれることになるため、作成・届出にあたって
は、所定の手続き(次の「就業規則の作成・変更の流れ」を参照)を踏む必要がありま
す。
なお、以下の事項については、就業規則の内容と関連性はあるものの、会社側で政策
的に決定すべきもので、就業規則に含めると労働者との話し合いや意見聴取が必要とな
り、かえって煩雑になりやすい性質のものです。そのため、就業規則の趣旨と矛盾しな
いように定め、あくまで別のものとして取り扱ったほうがよいと思われます。
・ 就業規則の実施細則、内規、マニュアル
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・ 就業規則の取扱細則
・ 業務上の作業方法・手順
・ 人事考課規程、職能資格等級規程など
(5)就業規則の作成・変更の流れ
Step1 労働者の意見聴取 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
就業規則を作成または変更する場合は、労働者の意見を聴かなければなりません。具
体的には、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその
労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を
代表する者の意見を聴かなければなりません。
Step2 届出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
就業規則を作成・変更した場合、労働者の意見書を添付して、所轄の労働基準監督署
長に届け出ることが必要です。
Step3 周知 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
就業規則を作成・変更したときは、
就業規則を事業場内の見やすい場所に掲示するか、
その他適切な方法によって労働者に周知させる必要があります。周知させる確実な方法
は、全労働者に配付することです。
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「最後に」
このレポートでは、就業規則を戦略的に作成するメリット、就業規則の法的性格、その必要
記載事項、その作成・変更の流れなどについて、ポイントを記載させていただきましたが、最
後に、就業規則の変更時に注意すべきポイントについて、少し触れておきます。
就業規則は、会社側が一方的に作成することができ、労働者側には意見を述べる機会が与え
られているだけです。たとえ反対意見が出ても、会社側はその意見に拘束されません。しかし、
どのような変更も可能というわけではありません。いったん規定した内容は、労働条件として
確定するため、これを労働者に不利益に変更する場合には、過去の判例からも、次の2つの点
に注意してください。
① 変更には合理性が必要
② 労働契約に直結する内容を不利益変更する場合には、労働者の同意が必要
※退職金制度の廃止や支給水準を低くするなどの一方的な変更は無効であるという判例も、数多
く出ておりますので、ご注意下さい。
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