「家賃等の取立て行為の法制化と賃貸管理業に関する意見交換会」

「家賃等の取立て行為の法制化と賃貸管理業に関する意見交換会」
1.日
時
平成22年9月30日(木)午後2時30分
2.場
所
京都府不動産会館
研修センター(3階)
3.業務対策運営委員会「賃貸及び賃貸管理等専門小委員会」
法務指導委員会
4.意見交換(14:40~16:30)
講 師 佐藤貴美法律事務所
弁護士
佐
藤
たか
よし
貴
美
☆
1
氏
☆
☆
家賃保証会社の業規制及び家賃取立て行為に係る法制化の動き
平成22年2月23日に、
「賃借人の居住の安定を確保するための家賃債務保証業の業
務の適正化及び家賃等の取立て行為の規制等に関する法律案」が閣議決定され、第17
4回通常国会に政府提出法案として提出されました。
この法案は、家賃保証会社をめぐる最近の諸情勢を踏まえ、家賃債務保証業等につき
業務の適正化を図るための法制度化の必要性が指摘されてきたことを受け、家賃債務保
証業を営む者について登録制度を実施し、必要な規制を行うとともに、家賃保証会社の
団体が導入を検討していた家賃等弁済情報提供事業についても、当該事業を営む者につ
いて登録制度を実施して必要な規制を行い、あわせて家賃等弁済情報の適正な取扱に関
し必要な事項を定める内容となっています。
しかし、鍵の交換、深夜に及ぶ督促等、家賃等の悪質な取立て行為は、家賃債務保証
サービスのみではなく、貸主、管理業者等が主体となる場合もありえます。したがって、
この法案では、同時に、賃貸事業者(貸主)や賃貸不動産管理業者等を含め、広く賃貸
住宅の家賃等の取立て行為について行為規制を設けているところです。
1
2
法案の概要
(1)法案の目的(第1条)
この法案は、次のような目的で制定されています
(背景)賃貸住宅の家賃等にかかる債権の取立てに関して不当な行為が発生する等の
家賃の支払いに関連する賃借人の居住をめぐる状況の存在
3
つ
の
規
制
①家賃債務保証業
業者の登録+規制⇒家賃債務保証業者の業務の適正な運営を確保
②家賃等弁済情報提供事業
業者の登録+規制⇒家賃等弁済情報提供事業者の業務の適正な運営の確保
家賃等弁済情報の適正な取扱に関し必要事項の定め
③家賃等にかかる債権の取立てに関する不当な行為
行為規制
(目的)
賃借人の居住の安定を図る
⇒
国民生活の安定に寄与
(参照条文)
第1条
この法律は、賃貸住宅の家賃等にかかる債権の取立てに関して不当な行為が発
生する等の家賃の支払いに関連する賃借人の居住をめぐる状況にかんがみ、賃借
人の居住の安定の確保を図るため、家賃債務保証業を営む者及び家賃等弁済情報
提供事業を営む者について登録制度を実施し、これらの事業に対し必要な規制を
行い、家賃債務保証業者及び家賃等弁済情報提供事業者の業務の適正な運営を確
保するとともに、家賃等弁済情報の適正な取扱に関し必要な事項を定め、あわせ
て賃貸住宅の家賃等にかかる債権の取立てに関する不当な行為を規制し、もって
国民生活の安定に寄与することを目的とする。
(2)家賃債務保証事業に関する規制
家賃保証会社(家賃債務保証を事業として行う者)に関しては、以下のような規
制が設けられています。
① 登録の義務付け
② 保証委託契約締結の前後の書面交付義務
③ 暴力団員等の使用禁止
④ 勧誘時の虚偽告知等の禁止
⑤ 誇大広告の禁止
⑥ 14.6%超の違約金を定める契約の禁止
⑦ 暴力団員等への求償債権の譲渡禁止
⑧ 帳簿の備え付け
2
⑨ 業務改善命令・監督処分
⑩ 罰則
(3)家賃等弁済情報提供事業(家賃データベース作成提供事業)に関する規制
家賃等弁済データベースを作成提供する事業者に関しては、①のような規制が設
けられるとともに、加入業者(当該データベース事業に加入して、実際に当該デー
タベースにアクセスし、情報を提供したり利用したりする業者)に対しても、②の
ような規制が設けられます。
① データベース作成提供事業者に対する規制
ア 登録の義務付け
イ 業務規程の作成・届出義務⇒国土交通大臣による変更命令
ウ 収集・提供する弁済情報の内容
エ 情報漏洩防止措置
オ 苦情の処理に関する事項
カ 賃借人への情報開示
キ 加入業者の名簿縦覧
ク 秘密保持義務
ケ 業務改善命令・監督処分
コ 罰則
② 加入業者に対する規制
ア 情報提供時 賃借人の同意取得義務
イ 情報利用時 賃借人の同意取得義務
(4)家賃等に関する債権の不当な取立て行為の禁止(第61条)
(次項参照)
(5)法案の施行日
本法案は、法律が制定・公布されれば、施行日は、公布の日から1年以内となります。
3
3
家賃取立て規制の内容
(1)対象主体(誰が規制されるのか)
本法案で行為規制がかかるのは、
ア 家賃債務保証を業として行う者(登録・未登録を問わない。)
イ 賃貸住宅を賃貸する事業を行う者
ウ ア・イから家賃関連債権を譲り受けた者
エ ア・イ・ウから債権の取立てを受託した者
です。
具体的には、賃貸住宅の賃貸人はイに、賃貸不動産管理業者はエに該当すること
になります。
※「賃貸する事業を行う者」の定義
賃貸住宅の貸主には、一定戸数を保有し賃貸に供して、専ら収益事業として一定
の規模で展開する者以外にも、投資用としてマンションの一室を融資を受けて購入
し賃貸に供する者、持ち家を転勤等のために一時的に賃貸に供する者、短期の海外
留学等のため、貸主の承諾を得て一時的に知人に転貸する者などがいます。本法案
で貸主はイに該当することになりますが、これらの貸主のうち、どの範囲が
「事業」として行うものであるとして規制対象になるのか、現段階では必ずしも明
らかではありません。
賃貸不動産管理業者も、
「賃貸する事業を行う者」から委託を受けていれば行為規
制がかかるが、そうでない貸主であればその貸主の家賃等債権については行為規制
はかからないので、この区別は重要です。
(2)取り立て規制の対象となる債権(どのような債権の取立てにつき規制されるのか)
本法案で行為規制の対象となる債権は、
ア 賃貸住宅に係る賃借人の家賃の支払いに係る賃借人及び保証人に対する債権
イ 保証人が保証債務を履行したことによって、賃借人(及び保証人が複数いる場
合の他の保証人)に対し取得する求償権
ウ 賃借人以外の者が第三者として賃借人の家賃債務を弁済した場合に賃借人及び
保証人に対し取得する代位債権
です。
具体的には、以下のようになります
・貸主(貸主代理人)から借主に対し請求する場合・・・アに該当
・保証人(保証会社)が貸主に保証債務の履行として滞納家賃を支払ったので、そ
の分を借主に求償する場合・・・・イに該当
・保証人(保証会社)が貸主に滞納家賃を払ったので、その持ち分相当額以上の額
を他の連帯保証人に求償する場合・・・イに該当
・第三者(保証人以外)が借主に代わり家賃を支払ったので、その分を借主に請求
する場合・・・・ウに該当
4
・第三者(保証人以外)が借主に代わり家賃を支払ったので、その分を保証人に請
求する場合・・・・ウに該当
(3)適用される場面(どのような場合に適用されるのか)
本法案で行為規制がされるのは、家賃関連債権(上記②で示した債権)の取立てに
際しての行為である必要があります。
したがって、貸主が他の債権、例えば金銭消費貸借上の貸金の返還請求の場合は、
本法案の適用はありません。
(4)禁止される行為(どのような行為が規制されるのか)
以下の2つの行為類型が規制されます。
A 面会、文書の送付、はり紙、電話をかけることその他いかなる方法をもってするかを
問わず人を威迫する行為
注)①
②
方法は、面会、文書の送付等いかなる方法かを問いません。
「威迫」とは、言語・動作により相手方に不安・困惑の念を生じさせること
をいいます。
③ 法文上は「賃借人を威迫し」ではなく「人を威迫し」となっていますから、
家賃の取立てに際しての言動であれば、威迫の相手方は借主の関係者等であっ
た場合でも規制対象になりえます。
B
人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動
法案は、これに該当する例として、次のア~エの4つの言動を具体的に法文で明
記しています。
ア ドアロック行為
イ 動産の持ち出し
ウ 夜間の取立て
エ 「賃借人」に対し上記ア~ウの言動をすることを告げること、保証人に対
し、上記ウの言動をすることを告げること
ただし、あくまでもア~エは例示ですので、これらの行為以外であっても、これ
らの行為と同様に「人の生活又は事業の平穏を害する行為」であれば、禁止されま
す。
(5)罰則(第73条)
これらの行為規制に違反した場合、
「2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金
に処し、又はこれを併科する」とされています。
5
4
問題となりうる具体的行為
(1)家賃取立てに係る基本的スタンス
家賃等の滞納は、借主としての基本的な義務である賃料支払義務に反する債務不履
行行為にあたります。不払等に対しては、債権者である貸主や、その委託を受けた業
者において、債務者である借主等に対して不払い等の事実を告げ、支払いを促すこと
は、当然に権利として認められる行為です。しかし、その方法には一定の制限があり、
その制限を超えた対応は、不法行為と評価されることになります。
家賃等の徴収、督促等については、今までは法律上明文化された規制はありません
でした。しかし、専門家としてのコンプライアンスの観点からは、何をやってもよい
ということではありません。例えば家賃の徴収、督促等は、金銭債務の徴収等という
点において、消費貸借上の貸金の徴収等と同様の性質を持ちます。貸金業者が行う貸
金等の徴収等については、貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」といいま
す)や金融庁の示すガイドラインで、明文でルール化されているところであり、その
考え方は、必要に応じて家賃の徴収、督促等にも十分に参考にすべき場合があったと
ころです。
本法案の行為規制も、基本的には上記のような従来の取扱や考え方を法文化したも
のであり、今後法案が成立すれば、ガイドライン等で具体的な解釈適用関係が示され
ることが予定されていますが、現段階においても、従前の取扱等を踏まえ、本法案で
何が問題とされうるのか、あらかじめ賃貸管理の立場から把握しておくことは可能で
す。
とくに本法案が成立・施行されれば、従前は民法上の不法行為責任を介しての結果
的な金銭補償の責任の有無が問われた行為につき、直接法規制がおよび、違反したと
きのペナルティとして刑事罰が用意されていることからすれば、十分な準備期間をも
って、本法案への備えをしておくことが望まれます。
また、法案が成立していない段階においても、コンプライアンスや管理業者の社会
的信頼性の確保の観点からは、本法案で規制が予定されている行為を排除し、不法行
為の誹りを受けないよう心がけることが大切と考えられます。
6
に
(2)個別具体の行為と法規制の適用
①
鍵の交換等によって「賃借人」が当該賃貸住宅に立ち入ることができない状態
とすること(いわゆるドアロック行為)
○規制根拠
法案の「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当します(具
体的に第61条1号で例示されています)
○考え方
家賃等の督促の方法として鍵の交換等を行うことは、自力救済禁止の法理(権
利を実現するために強制力を行使する場合には、原則として裁判所等公の力を借
りる必要があり、私人がそれを行うことはできないという取扱)に抵触し、かつ、
必要性・相当性等も認められないことから、不法行為に該当します。
○特約での対応の可否
契約書中に、あらかじめそのような対応がなされることを借主が条件つきで承
諾する旨の規定が設けられることがありますが、このような内容の規定は、消費
者契約法等により無効ないし特約の不存在とされる可能性が高いと考えられます。
また、下記④の類型に該当すると理解される可能性もあります。
○賃貸管理業者としての留意点
いわゆるドアロック行為は借主の居住そのものを否定するものであって、少な
くても家賃の取立てに際しては、違法性が無くなるような特段の事情は想定でき
ず、家賃取立ての手段として、ドアロック行為はしてはなりません。
(なお、借主が長期不在で連絡がとれない場合などにおいて、物件及び建物の安
全性保持の観点から、連絡があり次第開錠することを前提に施錠することは、物
件の管理上認められうる場合があると考えます。)
○関連裁判例
家賃滞納の場合に鍵の交換が可能とする賃貸借契約条項に基づき借主が物件の
使用を阻害した事案で、貸主及び管理会社に対し、損害賠償を命じた判決があり
ます(札幌地裁平成11年12月24日判決)
。
7
て
② 賃貸住宅から衣類、寝具、家具、電気機械器具その他の物品を持ち出し、及び
保管すること
○規制根拠
法案の「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当します
(具体的に第61条2号に例示されています)
。
○適用要件
「賃借人」(同居人がいる場合には同居人も含め全員)からの申出があった場
合は除かれます。
○考え方
契約が終了した場合でも物件内に借主等の所有物が残っている場合には、当
該所有物(残置物といいます)の所有権は借主等に属するため、所有権の放棄
や当該処分等を貸主等に委任する意思がない限り、裁判所の力を借りないで勝
手に搬出したり処分したりすることは、所有権・占有権の侵害、自力救済禁止
の法理への抵触等により、不法行為と評価されます。
ましてや、家賃等の督促方法として、物件内の動産等を搬出することが自力
救済禁止の例外として認められる余地はほとんど考えられません。
○特約での対応の可否
家賃等の滞納があった場合、借主が物件内の動産の所有権・占有権を放棄し
たものとする旨あらかじめ定めておく方法も見られますが、所有権等の放棄と
いう重大な法益の処分については、表示の時点において現実にその意思がある
ことが要請されます。このような定めのもとに示された事前の条件付きでの借
主の所有権放棄の意思が、家賃滞納の時点でも有効に存在すると評価されるか
は極めて疑問です。また、消費者契約法や公序良俗の観点からも無効とされる
可能性が高いでしょう。
また、下記④の類型に該当すると理解される可能性もあります。
○賃貸管理業者としての留意点
動産の搬出等は借主の住生活そのものを否定するものであって、少なくても
家賃等の取立てに際しては、違法性が無くなるような特段の事情は想定できず、
家賃取立ての手段として、動産の搬出等をしてはなりません。
(なお、借主が長期不在で連絡がとれない場合には別に検討する余地がありま
す。)
8
③
夜間の取立て
○
規制根拠
本法案の「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当しま
す(具体的に第61条3号に例示されています)。
○
適用要件
これは、以下のすべての要件を満たす場合に規制されます。
(ア)夜間(社会通念に照らし連絡することが不適当と認められる時間帯と
して国土交通省令・内閣府令で時間帯が定められます)であること
(イ)「賃借人」若しくは保証人を訪問し、又は賃借人若しくは保証人に
電話をかけたこと
(ウ)当該「賃借人」又は保証人が、訪問し又は電話をかけることを拒否し
たこと
(エ)その後夜間に連続して、訪問し又は電話をかけること
(オ)夜間以外の時間帯に連絡することが困難であることその他正当な理由が
ないこと
○考え方
借主に家賃滞納という債務不履行があるとはいえ、その督促は、借主らの
私生活の平穏を保持するという観点から、社会通念に照らし合理的な方法で
行われなければなりません。
借主側の都合により訪問時間の指定等がある場合や、どうしても連絡がつ
かない場合などの正当な理由がない限り、深夜時間帯の督促行為は督促方法
として合理性・相当性を欠くものと考えられます(上記適用要件でもその点
が考慮されています)。
○特約での対応の可否
家賃等の滞納があった場合、上記要件を満たさない場合でもあらかじめ深夜
等の督促に応じるとの特約も考えられますが、本法案の行為規制の適用を正面
から否定するものであって、消費者契約法や公序良俗の観点からも無効とされ
る可能性が高いでしょう。
また、下記④の類型に該当すると理解される可能性もあります。
○賃貸管理業者としての留意点
深夜の取立て行為については、
「明示的に拒否されても引き続き行う場合」で「正
当な理由がない場合」に第61条3号に該当します。また、1回目の督促であっ
たり、明示的な拒否がない場合(連絡が全くとれない場合)のあとの督促であっ
ても、「正当な理由」がなく、実際の行為が賃借人等を畏怖させるものである場合
などでは、「人を威迫する行為」に該当するとされる可能性も否定できません。
したがって、深夜の時間帯での督促については、まずは借主との連絡を徹底し、
夜間の時間帯での訪問等の同意を得るか、全く連絡が通じないという状況である
ことを押さえた上で、対応を図ることが必要でしょう。
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○関連裁判例
深夜0時過ぎまで督促がなされたことに対し、慰謝料請求が認められた判
決があります(福岡簡裁平成21年2月17日判決)。
○参考制度
貸金業法では、取立て行為の規制として、「正当な理由がないのに、社会通
年に照らし不適当と認められる時間帯として内閣府令で定める時間帯(夜8時
以降翌朝7時まで)に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を
用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること」を禁止しています。なお、
この場合の「正当な理由」としては、債務者等の自発的な承諾がある場合、債
務者等と連絡をとるための合理的方法がほかにない場合」があげられていると
ころです。(貸金業規制法21条1項1号、同法ガイドライン)
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④「賃借人」に対し上記①~③の言動をすることを告げること、保証人に対し、上
記③の言動をすることを告げること
○規制根拠
本法案の「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当しま
す(具体的に第61条4号に例示されています)。
○適用要件
本法案では「賃借人」とは、「賃貸住宅の賃借人(法人及び当該賃貸住宅を転
貸する事業を行う個人を除く)をいう」とされています(第2条)。したがって、
法人や、転貸事業を行う個人が借主の場合には、当該借主に対し①~③の言動
をすることを告げても、61条4号の条項は適用されません。
しかし、4号は「例示」であるため、
「人の私生活若しくは業務の平穏を害す
るような言動」に該当するとされる可能性は否定できません。
○賃貸管理業者としての留意点
「告げる」という行為態様が抽象的であり、また、上記①~③を排除する特約
をした場合も問題とされる可能性があります。したがって、最初から上記①②の
対応は排除し、上記③については正当な理由の有無に十分配慮して対応すること
を徹底することにより、本行為態様に抵触することがないようにしておくことが
大切でしょう。
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⑤
家賃等の滞納の事実を文書の貼り付け等により公表すること
○規制根拠
「威迫」ないしは「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該
当する可能性があります。
○考え方
家賃等の滞納は、賃貸借契約上の問題であり、貸主対借主の個人間の問題で
す。にもかかわらず、その問題を第三者の目にも触れるような形で、しかも金
銭債務の不履行という事実が明らかになるような形で公表することは、督促方
法として合理性・相当性を欠くものであると考えられます。
○賃貸管理業者としての留意点
規制対象とされうるのは、
「家賃等の滞納の事実」をはり紙等で公表すること
と考えられます(下記関連制度参照)。したがって、「滞納家賃を請求する」旨
具体的に明示する書面であればもちろん、具体的に家賃滞納を指摘していなく
ても、前後の文脈や文章全体から家賃滞納の事実が読み取れるような内容の場
合には問題とされうる余地があります。
その一方で、賃貸管理上の必要性から管理業者に対し連絡をいれるよう要請
するはり紙などについては、本法案の行為規制は及ばないと考えられます。
○参考制度
貸金業法でも、取立て行為の規制として、
「はり紙、立看板その他何らの方法
をもってするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活
に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること」が禁止されています。
(貸金業規制法21条1項5号)
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⑥
勤務先等借主の居宅等以外の場所に電話、訪問等をして督促すること
○規制根拠
「威迫」ないしは「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該
当する可能性があります。
○適用要件
借主側の都合により連絡先を居宅等以外に指定している場合や、どうしても
連絡がつかない場合などの正当な理由がある場合には適用されないと考えられ
ます。
○考え方
借主に家賃滞納という債務不履行があるとはいえ、その督促は、借主の社会
生活上の平穏を保持する観点から、社会通念に照らし合理的な方法で行われな
ければなりません。借主側の都合により連絡先を居宅等以外に指定している場
合や、どうしても連絡がつかない場合などの正当な理由(下記関連制度参照)
がない限り、居宅等以外の場所への督促行為は督促方法として合理性・相当性
を欠くものと考えられます。
○特約で対応することの可否
本法案で具体的に規制対象と特定された行為ではないため、借主側の自発的
な承諾であれば、特約で決めることは可能と考えられます(上記正当な理由中
に含まれます)。
○賃貸管理業者としての留意点
あらかじめ契約で決める場合には、借主側の自発的な承諾があったことが明
らかなように、特約につき個別に署名等を求めること等が考えられます。
また、特約で定めがないときには、まずは借主との連絡を徹底し、勤務先等
への連絡の同意を得るか、全く連絡が通じないという状況であることを押さえ
た上で、対応を図ることが必要でしょう。
○参考制度
貸金業法では、取立て行為の規制として、
「正当な理由がないのに、債務者
等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ、電報を送達し、若しくは
ファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の勤務先その他の居宅等以
外の場所を訪問すること」を禁止しています。なお、勤務先等に督促するこ
とが認められる「正当な理由」としては、
・ 債務者等の自発的な承諾がある場合
・ 債務者等と連絡をとるための合理的方法がほかにない場合
・ 債務者等の連絡先が不明な場合に、債務者等の連絡先を確認することを目
的として債務者等以外の者に電話連絡をする場合
があげられています。(貸金業規制法21条1項3号、同法ガイドライン)
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⑦
督促のために借主の居宅等を訪問した場合、借主からその場所から退去するよう
要請されたにもかかわらず退去しないこと
○規制根拠
「威迫」ないしは「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当
する可能性があります。
○考え方
借主に家賃滞納という債務不履行があるとはいえ、その督促は、借主らの私生
活の平穏を保持する観点から、社会通念に照らし合理的な方法で行われなければ
なりません。
居宅内で督促をした際に、借主側から退去を求められたにもかかわらず退去し
ないことは、督促方法として合理性・相当性を欠くものであるとともに、借主の
占有権を侵害するものであり、不退去罪等にも該当しうる不法な行為です。
○賃貸管理業者としての留意点
居宅内で督促をした際に、借主側から退去を求められたにもかかわらず退去し
ないことにつき、正当な理由があるとして違法性が無くなる特段の事情は想定で
きません。退去要請があれば直ちに退去すべきです。ただし、借主側から来訪要
請があったにもかかわらず直ちに退去要請があったなどの場合につき、玄関先等
で来訪要請の事実関係を確認する短時間の対応程度は認めうるでしょう。
○裁判例
管理会社担当者からの督促に対し、借主が退去を求めたにもかかわらず、担当
者がそれに応じず督促行為が長時間に及んだ事案につき、慰謝料請求が認められ
た判決があります(福岡簡裁平成21年2月17日判決)
。
○参考制度
貸金業法では、取立て行為の規制として、「債務者等の居宅又は勤務先その他の
債務者等を訪問した場所において、債務者等から当該場所から退去すべき旨の意
思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと」を禁止しています。
しかも、この場合には、一定時間帯外の取立てのように、
「正当な理由がある場合
には禁止されない」といった趣旨の例外事由は定められていません。
(貸金業規制
法21条1項4号)
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⑧
借主等滞納賃料の支払債務がない者に対し、弁済を要求すること
○規制根拠
「威迫」ないしは「人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」に該当す
る可能性があります。
○考え方
賃貸借契約において、家賃滞納があった場合にその支払義務を負うのは、借主、
契約において借主以外の第三者が家賃等を支払うものとの取り決めがあった場合の
当該第三者、保証人です(さらに、同居の配偶者も、日常家事連帯債務者として支
払い債務があるとした裁判例もあります)。
したがって、それ以外の同居人や、親族に対し請求することは、義務なき者に対
し弁済を求める行為に当たるため、督促方法として合理性・相当性を欠くものとな
りましょう。
○賃貸管理業者としての留意点
家賃等債権の債務者を確認し、請求先を特定することが大切です。なお、債務者
以外の第三者に対し、債務者への働きかけを事実上要請することは、直ちに本法案
の行為規制にかかるとは考えられませんが、その態様や第三者の範囲如何によって
は問題とされますので、
(法案では「人を威迫し」等となっています。また第三者に
情報が伝わることそのものが問題とされる可能性も否定されません)
、その態様や内
容については十分な配慮が必要です。
○関連制度
貸金業法では、取立て行為の規制として、「債務者等以外の者に対し、債務者等に
代わって債務を弁済することを要求すること」を禁止しています。しかも、この場
合には、一定時間帯外の取立てのように、
「正当な理由がある場合には禁止されない」
といった趣旨の例外事由は定められていません。(貸金業規制法21条1項4号)
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⑨
借主等が支払いを拒否しているにもかかわらず、引き続き督促を行うこと
○規制根拠と考え方
管理業者が督促をする場合で、借主等が支払いを拒否しているときには、拒否
の理由にもよりますが、一応は、家賃債務の存在そのものを争っていると評価で
きます。したがって、この場合も引き続き督促行為を行うことは、「弁護士以外の
者が報酬を得て法律事務を行うこと」に該当し、弁護士法違反が問題とされる可
能性があります。
貸主が行う場合には、弁護士法は問題になりませんが、督促の態様が一定の限
度を超えた場合には、「威迫」ないしは「人の私生活若しくは業務の平穏を害する
ような言動」に該当するとされる可能性も否定できないものと考えられます。
○賃貸管理業者としての留意点
家賃等を督促する行為そのものは弁護士法で規制される法律事務等に該当する
とは考えにくいところです。しかし借主等が支払いを拒否した場合、その解決は
法的手続きによらなければならないことからすれば、この時点に至っても報酬を
得て督促行為を継続することは、弁護士法違反の恐れが高くなります(マンショ
ン管理業者は、管理費等につき滞納後3か月間は督促をしますが、それ以降は管
理組合が督促をする旨、標準管理委託契約書の中で定められています)。
したがって、この場合には、貸主本人名義による督促や、弁護士等への依頼に
より、回収を図ることが必要でしょう。
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⑩ 一定の事由が発生した場合に賃貸借契約を解除する(賃貸借契約の解約の申入れ
をする)権限を、あらかじめ借主が保証会社等の第三者に付与すること
○規制根拠
本法案に直接抵触しませんが、消費者契約法等に基づき特約の有効性が問題とさ
れうると考えられます。
○考え方
賃貸借契約上、借主に家賃滞納等の債務不履行があった場合、貸主側は契約解除
をすることができますが、その場合には、単に債務不履行があったということだけ
ではなく、そのことにより当事者間の信頼関係が破壊されたと評価される必要があ
ります。家賃滞納の場合、一般的には3ヶ月程度の滞納が、解除が認められる一つ
の目安とされているところです。
上記約定は、家賃滞納があれば、保証会社などの第三者が借主を代理して解除す
ることになり、信頼関係破壊の法理の適用を回避して容易に契約を終了させること
ができるという効果があります(貸主側は家賃滞納があれば信頼関係は破壊されて
いると評価しますので、借主側から解除・解約申し入れがあれば、そのまま応じ、
契約を終了させることが通常と考えられます)
。
しかし、契約を終了するか否かは、借主にとって重大な問題ですので、契約を終
了させる時点においても、現実にその意思があることが要請されます。したがって、
解除権等の行使に係る代理権があらかじめ授与されていたとしても、解除等の時点
で改めて借主自身の意思を確認するか、あるいは借主が改めて第三者に当該代理権
を付与する旨の表明がない限りは、代理行為としての法的効力が生じえない(解除・
解約申し入れは無効である)ものと評価される可能性が高いと考えられます(なお、
これは家賃滞納等の場合に限られるものではなく、その他の債務不履行の場合でも
同様です)。
○賃貸管理業者としての留意点
上記特約については、とりわけ家賃滞納と関連づけた場合、有効と解しうる合理
的根拠を見出すことは困難です。したがって、契約時に上記特約を設けることは無
用のトラブルを招きかねないものとして回避すべきでしょう。
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【参照条文】
(定義)
第2条 この法律において「賃貸住宅」とは、賃貸の用に供する住宅(人の居住の用に供
する建築物又は建築物の部分をいう。)をいう。
2 この法律において「賃借人」とは、賃貸住宅の賃借人(法人及び当該賃貸住宅を転貸
する事業を行う個人を除く。)をいう。
(3項以下省略)
第61条
家賃債務保証業者その他の家賃債務を保証することを業として行う者若しくは賃貸
住宅を賃貸する事業を行う者若しくはこれらの者の家賃関連債権(家賃債務に係る債
権、家賃債務の保証により有することとなる求償権に基づく債権若しくは家賃債務の
弁済により賃貸人に代位して取得する債権又はこれらに係る保証債務に係る債権をい
う)を譲り受けた者又はこれらの者から家賃関連債権の取立てを受託した者は、家賃
関連債権の取立てをするに当たって、面会、文書の送付、はり紙、電話をかけること
その他いかなる方法をもってするかを問わず人を威迫し、又は次に掲げる言動その他
人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
一 賃貸住宅の出入口の施錠装置の交換又は当該施錠装置の解除ができないように
するための器具取付けその他の方法により、賃借人が当該賃貸住宅に立ち入るこ
とができない状態とすること。
二 賃貸住宅から衣類、寝具、家具、電気機械器具その他の物品を持ち出し、及び
保管すること(賃借人及びその同居人からの申出があった場合を除く。)。
三 夜間(社会通念に照らし連絡することが不適当と認められる時間帯として国土
交通省令・内閣府令で定める時間帯をいう。以下この号において同じ。)以外の時
間帯に連絡することが困難であることその他正当な理由がないのに、夜間に、賃
借人若しくは保証人を訪問し、又は賃借人若しくは保証人に電話をかけて、当該
賃借人又は保証人から訪問し又は電話をかけることを拒まれたにもかかわらず、
その後夜間に連続して、訪問し又は電話をかけること。
四 賃借人又は保証人に対し、前三号のいずれか(保証人にあっては、前号)に掲
げる言動をすることを告げること。
第6章 罰則
第73条 第61条に違反した者は、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金
に処し、又はこれを併科する。
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5
本法案に係る貸主及び賃貸不動産管理業者への影響
(1)本法案の内容、とりわけ「家賃等の悪質な取立ての禁止」については、その趣旨
自体は正当なものであって、健全で信頼性ある賃貸管理業界の確立に資するもので
あると評価できましょう。
(2)ただし、現段階では上記で示したように、適用関係が不明瞭な部分もあり、今後
の国会審議や、成立した場合に後に示されるであろう解釈通達(ガイドライン)等
を十分注視しておく必要があります。
また、本法案は、内容が誤って伝わると、仮に本法案の解釈から問題とされない
行為であり、結果的に違法ではなく罰則は課されないものであっても、安易に、あ
るいは濫用的に警察に通報されうるということになれば(1回でもそういうことが
あれば)、正当な権限行為(通常の態様での滞納家賃の請求)に対する委縮効果も大
きなものとなりかねません。
もちろん客観的に見ても悪質で借主の生活が守られないような場合には、今まで
民事不介入のもとで積極的に対応できなかった警察が対応できるようにするという
点においては積極的に評価すべきでしょうが、正当な権利行使の範疇であるにもか
かわらず警察に通報することによって当面の督促をのがれるという形で、本法案の
仕組みを濫用・悪用するケースも皆無とはいえないと考えられます。
(3)本法案が制定されれば、施行は公布の日から1年以内となっています。賃貸管理
業者としては、法案の内容等をしっかりと把握して、関係者等に正しい情報提供を
することによって現場の無用な混乱を防止すること、あわせて法に則した督促等を
行うことによって貸主のリスクを回避するということなどが期待され、賃貸住宅に
おける賃貸不動産管理業者の役割はますます大きくなっていくものと考えられます。
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6
家賃督促・滞納家賃問題への対応
本法案が制定・施行されれば、滞納家賃の場合の合法的な回収方法の確立や、滞
納の予防方策の重要性がますます高まるでしょう。現行法制度のもとでは、以下の
諸方策もその一つとして検討されうると考えられます。
①
公正証書による契約
契約書に執行認諾文言があれば、家賃滞納に対し直ちに強制執行が可能となり
訴訟に係る時間やコストを節約することができます。また、直ちに強制執行につ
ながるということで、家賃等の支払いに対する心理的な働きかけにもなりえまし
ょう。
ただし手続きが煩雑なこと(公証役場での手続きが必要)等から、実現性が難
しいという面もあります。
②
早期の督促
ある団体の調査によれば、家賃滞納後の1カ月以内の督促で、全体の9割の物
件につき滞納が解消したというデータもあります。督促の時期については制約が
ありません(1日でも遅れがあれば履行遅滞ですので、督促が可能です)。方法の
選択には十分気をつけつつ、早期の督促で対応することが有効と考えられます。
③
連帯保証人等担保の在り方
借主の家賃滞納につき、滞納分の家賃の支払いを求めるための人的担保として、
連帯保証人は重要です。また、借主本人に家賃支払いを促し、あるいは家賃滞納
問題の最終的な解決手段としての借主との契約解除・明渡の履行に際しては、連
帯保証人の存在およびその事実上の協力は、重要な意義を持つものと考えられま
す。
保証会社の活用を含め、連帯保証人をどうするかについて十分に検討すること
が大切でしょう。
④
定期借家契約の活用
家賃滞納による損失を可能な限り押さえ、継続的に賃貸経営を進めていくため
には、家賃滞納があった場合、早期にその借主との契約を終了させ、新規に優良
な借主との間で契約をすることが望ましい場合があります。
ただし普通借家契約では、契約期間満了でも更新される可能性が高く、また、
契約解除も直ちには認められない場合があります。その点定期借家の場合、契約
解除の困難さは普通借家と同じですが、更新をめぐる紛争を回避でき、より簡易
に契約終了することができます。したがって、家賃滞納対策としても、定期借家
契約には一定の意義を見出せるところであり、そのより一層の活用が望まれます。
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(参考1)正規の手続きによる滞納家賃対応
Step 1 賃料滞納の発生と滞納理由の調査
まずは賃料滞納原因の調査が必要である。特に賃料滞納による契約解除が可能かは、
信頼関係が破壊されているか否かが決め手となる。
信頼関係の破壊とならない 引き落とし口座の入金忘れ、家族等の病気等の事情による一時的な
資金不足など
場合(例)
信頼関係の破壊となりうる 失業・倒産による滞納の累積、収入の低下による滞納の累積など
場合(例)
Step 2
滞納賃料の催告
(1) 滞納賃料支払い請求の相手方
・ 借主
・ 保証人
・ 同居配偶者(日常家事連帯債務として請求可能(札幌地裁昭和 32 年9月 18 日))
・ 借主が死亡した場合の相続人
(2)催告の要否
信頼関係が破壊されたと明らかに認められる場合には催告なしに解除も認められ
るが、通常の解除の際に要求される信頼関係破壊よりも強い破壊状況が必要とされ
る。したがって、最終的には解除や法的措置を前提とする場合には、催告をしてお
くことが必要である。
(3)催告の方法
口頭でも可能であるが、催告の事実を証拠として残す意味からは、書面により催
告をすることが望ましい。また、通常の催告でも状況が改善されない場合、または
当初から契約解除を求める目的の場合には、配達証明付きの内容証明郵便により催
告をする。これは、相手方にどのような内容の催告をし、当該催告が相手方に到達
したことを証明する意味で将来法的手続きに移行したときに極めて明確な証拠とな
る。
(4)催告の種類
単純催告
単に滞納家賃の支払いを求めるもので、契約の継続を前提とする
ケースに用いられる。
契約解除予告付き催 相手方の対応次第で契約の取扱いを検討する場合に用いられる。
告
解除の場合、あらためて解除通知をする必要がる。
停止条件付き契約解 契約解除を前提とする場合や、相手方が2度目の通知を受け取ら
除通知
ないおそれがあるような場合に用いられる。所定の期間内に賃料
の支払いがない場合には、あらためて解除通知をすることなく、
期間経過により解除となる。
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Step 3 支払を約束した場合
A) 支払い約束文書の作成
借主が滞納賃料の支払を約束した場合、次の事項を記載した支払い約束文書を作
成しておくと、約束違反の場合または将来の賃料滞納の際の法的手続きが円滑に進
む可能性が高くなる。
ア 債務の承認(滞納家賃額の確認)
イ 滞納家賃の支払い約束(一括払いまたは分割払い)
ウ 今後の家賃につき契約どおりに支払う約束
エ 約束違反の場合の制裁(無催告解除)
オ エによる解除後明け渡しをしない場合の制裁(違約金)
B) 契約継続合意書の作成
A の内容を、賃主と借主との合意文書とすることも有益である。即決和解手続
によると、その調書により強制執行ができる。金銭支払いのみの強制力だけでよい
場合には、公正証書でもよい。
Step 4
支払をしない場合
債務名義を取得した上で、任意の支払を催促し、それでも支払わない場合には強
制執行をする。場合によっては仮差押手続も活用する。
≪債務名義の取得≫
① 支 払 督 債権者の申立てにより、相手方の言い分を聞いたり証拠調べなどをしな
促
いで、形式的な要件を満たしていれば、裁判所書記官から債務者に対し
て債務の支払いを督促する手続きである。支払督促の発送から2週間以
内に債務者から異議申立てがあると通常訴訟が開始するが、異議申立て
がなく2週間が経過すると債権者の申出により仮執行宣言を付する手続
きがなされ、それについても債務者からの異議がなく2週間が経過すれ
ば強制執行の申立てが可能になる。
② 民 事 調 裁判所の裁判委員が仲介し、当事者がお互いに譲り合って合意点を見出
停
し、実情に即した紛争解決を図る手段。調停が成立すると、合意内容が
調停調書に記載され、調停の内容履行されない場合には調停調書に基づ
き、強制執行を申立てることが可能。
③ 少 額 訴 60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則1回の期日で
訟
審理、判決がなされるという簡易な手続きである。少額訴訟の判決では
通常の民事裁判のように、原告の言い分を認めるかどうかを判断するだ
けではなく被告の資力その他の事情を考慮してとくに必要があると認め
られる場合には、判決の言い渡しの日から3年を超えない範囲内で、分
割払い、支払猶予を定めることができ、またこれとあわせて訴え提起後
の遅延損害金の支払免除などを命ずることもできる。
④ 通 常 訴 最も強力な紛争解決手段。訴えを起こされた相手方は、裁判所からの呼
訟
び出しに応じず欠席すると敗訴判決が言い渡されるので訴えに応じなけ
ればならない。なお、通常訴訟の手続が開始されても当事者の話合いが
まとまれば訴訟上の和解がなされ、訴訟が和解や請求の放棄、認諾で終
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了した場合も、判決と同一の効力がある。
≪強 制 執 行≫
裁判が確定し、あるいは和解や調停が成立し、その判決や和解調書、調停調書のとおり
に義務が履行されれば紛争は解決するが、判決などがでたとしても、それによって義務を
負うものが、その義務を任意に履行しない場合には、強制的に権利の実現を図る必要があ
る。強制執行とは、判決などで確定した義務を債務者が任意に履行しない場合に、権利者
の権利を実現するため国家が強制力を行使する手続きである。
建物賃貸借では、賃料などの支払い義務が確定したにもかかわらず、支払いがなされな
い場合には、借主の財産(不動産、動産、給料債権等)に対し差押さえをかけ、最終的に
はそれを換価することにより、債権を回収する。
≪仮 差 押≫
滞納賃料等が多額である場合、借主に支払能力があり財産を有している場合などでは、
財産の隠匿や散逸を防止するとともに、任意の履行を促すため、当該財産に対し仮差押を
することも考えられる。
これは、「民事保全手続」の一つであり、通常訴訟と比べて暫定性(仮の権利を認めたに
過ぎず、最終的には判決等で解決を図る必要があること)
、迅速性、従属性(通常訴訟など
の終局的解決を図るための手続きを申立てる必要があること)、密行性(相手方に察知され
て財産隠匿等がなされ、手続きが無意味とならないように秘密を保持して進められること)
に特徴がある。
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(参考2)
賃貸住宅管理業者登録規程案について
国土交通省では、賃貸住宅管理業の登録制度を設け、登録事業者の業務についてルー
ルを定めることで、その業務の適正な運営を確保し、賃借人及び賃貸人の利益の保護を
図ることを目的として、
「賃貸住宅管理業者登録規程」・「賃貸住宅管理業務処理準則」を
制定することを検討しています。現在パブリックコメント手続きが終了し、その結果に
基づき内容の確定作業に入っているものと思われます。
したがって、告示として制定公表されるまでに修正がなされる可能性がありますが、
パブリックコメント用として提供された内容を(修正ありうべしという前提で)簡単に
紹介しておきます。
① 本登録制度の対象となるのは、管理業者が「自己の所有に属しない」賃貸住宅を管理
する場合です。
したがって、管理業者が自ら所有する賃貸住宅だけを管理する場合や、住宅以外の事
業用物件の管理のみを行う場合には、本登録制度の対象ではありません。
② 本制度は、任意登録制度であり、未登録でも賃貸住宅管理業を行えないというわけで
はありません。
③ 登録の有効期間は5年で、更新をすることができます。
④ 登録業者には、以下の義務が課せられます。
ア 標識の掲示
イ 国土交通大臣への業務等の報告
ウ 一定の事由が発生した場合の届け出
エ 「賃貸住宅管理業務処理準則」の遵守
⑤ 上記エの賃貸住宅管理業務処理準則案には概ね以下の内容が記載される予定です。
ア 一般的な準則
(信義誠実の原則・証明書の携帯、誇大広告の禁止等)
イ 管理委託契約に関する準則
(重要事項説明、契約成立時の書面の交付、定期的な報告等)
ウ 賃貸借契約管理に関する準則
(家賃収納における準則、借主からの金銭等の受領の禁止、賃貸借契約更新時の
書面交付等)
エ サブリース方式における準則
オ 管理業者の内部管理等に係る準則
(管理事務の一括再委託の禁止、財産の分別管理、帳簿の作成・保存、業務及
び財産の状況を記載した書類の閲覧、秘密の保持、従業員の研修)
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