D2-16 第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月) 衛星画像に基づいた土木・建築の鋼材蓄積量推計 ○許峰旗、エルビッジ・クリストファー 、松野泰也 東京大学 工学系研究科 米国海洋大気圏局 米国地球地理物理データセンター 1. はじめに 年における世界での粗鋼生産量は 億トンを超 え、鋼材蓄積量は約 億トンと推計されている 。今 後、地球温暖化の抑制と天然資源保全のためには、社会 中の製品に蓄積された素材を二次資源として有効活用す る必要がある。そのためには、世界大での素材のフロー と用途別蓄積量の把握が必要となり、 年頃よりマテ リアルフロー解析による世界各域の素材のフローと蓄積 量の解析が盛んに行われてきている 。 素材蓄積量推計には主に2つの手法がある。ひとつは 素材の過去各年の用途別消費量および製品の寿命分布を 考慮し蓄積量を計上するトップダウン手法、もう一つは 特定時点の製品量に素材の使用原単位を乗じて蓄積量を 推計するボトムアップ手法である 。これらの手法は、統 計データ等、詳細なデータが必要である。しかし、統計 データは地域や行政区域の違いにより入手可能性と信頼 性の違いが大きい。そこで、著者らは衛星画像および地 理情報に基づき、物質蓄積量の推計手法を検討してきた。 鋼材は金属素材の中で最も消費量の大きく、各種の用 途のうち、土木・建築における消費量が大きい。また、 これらの製品は寿命が長いため、社会中での蓄積量が最 も大きくなっている。実際、土木・建築鋼材蓄積量は我 が国の鋼材蓄積量の 割程度を占めている 。そこで、 本研究では、衛星画像を用いた世界の土木・建築用鋼材 蓄積量の推計に焦点を当てる。 2. 方法 夜間光衛星画像は米国海洋大気庁 が防衛気象 衛星計画 によるデータから制作した、人間が夜で発し た光を示す画像である。過去の研究では、夜間光の輝度 は人間活動 (人口、エネルギー消費、 など) と強 い相関があることが示された 。 また素材蓄積量解析に関 して、高橋らが夜間光強度と銅蓄積量の相関性について 検討を行い、両者の高い相関性を示した 。 既往研究では、著者らが日本都道府県を対象に、夜間 光と土木・建築の鋼材蓄積量の間に、正の相関があるこ とを示した 。今回の研究ではその成果を踏まえ、研究範 囲を世界全体に広げた。そして夜間光衛星画像以外、さ らに土地被覆とガスフレアなどの地理情報を取りまとめ、 各国の夜間光総量、都市部夜間光、ガスフレア抜き夜間 光などの情報を抽出し、分析に用いた。研究対象に関し て、今回は夜間光輝度世界上位 カ国に注目した。こ れらの国は世界夜間光総量の を占めている。また、 土木と建築の形式は各地の気候や文化などの要素により 変化するため、この差異を考慮し、研究対象国を つの 地域に分類した。研究対象のうち、土木・建築鋼材蓄積 量が把握された カ国 をサンプル国として、夜間光と の相関を各国の人口で正規化した値を用いて、地域別に 回帰分析を行った。分析の結果を用いて、残り カ国を ターゲット国として、それらの土木・建築鋼材蓄積量を 推計した。この カ国の土木・建築鋼材蓄積量は、さ らに夜間光の空間分布に基づいて、その分布をマッピン グした。 表 カ国における地域分類 における地域分類 地域分類 地域 地域 国 国名は 準拠に従う。 準拠ではない 次に、地域差異の原因について、データの豊富な建築 用途を対象に検証を行った。建築形式を影響する実際の 要素として、地震リスク(地震頻度・地震平均死者人数) と経済発展(一人当たり )が重要な要素だと考えら れる。しかし、従来の建築鋼材蓄積量データは建築スト ックの形式組成と形式別鋼材使用原単位から計算してい ないため、これらの要素による建築形式の変化を研究す ることができない。したがって、今回は改めて の データと各国の統計データに基づいて、建築ストックの 形式組成(%)と形式別原単位()を収集した。そ してデータの揃えた カ国を対象に、両者を掛け合わせ て、各国の建築鋼材平均原単位()を計算した。推 計した建築鋼材平均原単位は従来の建築鋼材蓄積量 ()と単位が異なるが、両者とも鉄鋼の使用強度 を示していると考えられる。最後に、それらの要素と建 築鋼材平均原単位の関係を分析し、夜間光から推計した ターゲット国の土木・建築鋼材蓄積量を検証した。 3. 結果 土木・建築鋼材蓄積量と各種の夜間光情報が各地域に おける回帰分析の結果は表 に示す。アジアは他の地域 より高い夜間光当たりの鋼材蓄積量を示している。そし て、土木鋼材蓄積量に対して、主な地域は夜間光総量の 方がいい回帰結果を得られた。一方、建築鋼材蓄積量で は、主な地域が都市部夜間光と高い相関性を示した。こ の結果は既往研究の結論と一致している 。 - 254 - 第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月) 表 各地域における 各地域における回帰結果 における回帰結果 回帰結果 図 アジアとヨーロッパ地域 アジアとヨーロッパ地域の 地域の建築鋼材平均原単位と 建築鋼材平均原単位と 一人当たり 一人当たり の比較 比較 㪝㪠㪥 㪉 ターゲット国に該当地域の最も好ましい回帰結果を適 用し、それぞれの土木・建築鋼材蓄積量を算出した結果、 世界総量は従来の 億トン( カ国)と比べて 増 加し、 億トン( カ国)と推計された。 次に各国の建築鋼材平均原単位を計算し、地震リスク と経済発展程度を比較した結果を図 に示す。ヨーロッ パはアジアより低い地震リスクと建築平均鋼材原単位を 持つ傾向があることがわかった。そして中国やパキスタ ンは地震リスクが大きいにもかかわらず、低い建築平均 鋼材原単位を有する。その原因はそれらの国が低い一人 当たり を有するためと思われる。 地震頻度 との比較 地震平均死者人数 との比較 図 アジアとヨーロッパ地域 アジアとヨーロッパ地域の 地域の建築鋼材平均原単位と 建築鋼材平均原単位と 地震頻度( および地震平均死者人数 地震平均死者人数( 比較 地震頻度 (左)および 地震平均死者人数 (右)の比較 そして両地域の建築鋼材平均原単位を一人当たり と比較した結果(図 ) 、同じ一人当たり に対 し、アジアは相対的に高い建築平均原単位を有している。 また、地域別において、一人当たり は建築鋼材平均 原単位と正の相関があることを示している。したがって、 中国とパキスタンのような国は、経済発展につれて、将 来建築鋼材平均原単位と蓄積量の成長ポテンシャルが大 きいと考えられる。 次に建築鋼材平均原単位が推計できた カ国とター ゲット国の積集合より、 カ国を対象に建築鋼材平均原単 位と夜間光から推計した建築鋼材蓄積量と比較した(図 ) 。その結果正の相関があるものの、フィンランドとキ プロスが回帰結果より大きく外れている。その原因はフ ィンランドでは %の建築が鋼材使用量の低い木造や組 積造に対し、キプロスでは %の建築が 造ためであ った。夜間光で建築鋼材蓄積量をさらに精緻に推計する には、このような特異な建築形式組成を考慮しなければ ならない。 㪈㪅㪌 㪠㪫㪘 㪚㪰㪧 㪈 㪡㪦㪩 㪪㪰㪩 㪇㪅㪌 㪠㪩㪨 㪇 㪇 㪇㪅㪇㪉 㪇㪅㪇㪋 㪇㪅㪇㪍 㪇㪅㪇㪏 㪙㫌㫀㫃㪻㫀㫅㪾㩷㫀㫅㫍㪼㫅㫋㫆㫉㫐㩷㪹㪸㫊㪼㪻 㪸㫍㪼㫉㪸㪾㪼㩷㪹㫌㫀㫃㪻㫀㫅㪾㩷㫊㫋㪼㪼㫃㩷㫀㫅㫋㪼㫅㫊㫀㫋㫐 㩿㫋㪆㫊㫈㪅㩷㫄㪀 図 建築鋼材平均原単位 建築鋼材平均原単位と と夜間光から 夜間光から推計 から推計した 推計した した 建築鋼材蓄積量の 比較 建築鋼材蓄積量 の比較 4. まとめ 本研究は夜間光から土木・建築鋼材蓄積量を推計する 手法を提案し、世界総量を改めて計算した。この手法の 特長としては、気候・文化による地域差異の考慮、及び 夜間光以外に土地被覆・ガスフレア位置などの情報の適 用である。次に地域差異を検証するため、建築形式組成 に基づき、各国の建築鋼材平均原単位を算出し、地域別 の地震リスク及び経済発展程度による影響を分析した。 その結果、建築鋼材平均原単位はアジアがヨーロッパよ り高く、 また一人当たり と正の相関を持っているこ と、および経済発展は耐震準備の先決条件であることが わかった。最後に、建築鋼材原単位を用いて夜間光から 推計した建築鋼材蓄積量を検証し、その正確性を確認し、 手法の改良方向を明らかにした。 5. 参考文献 - 255 -
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