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文化的背景
『リーディングガイド』より
『リーディングガイド』は<精読編>と<多読 編>の2部構成となっています。
受講時には、
まず最初に<精読編>を通読 することをお勧めします。
3.文化的背景
文化的背景
彼のほうは一度たりとも彼女に贈り物をしなかった。いや、一度だけある。
真珠貝でできたスペイン製の髪飾りで、母方に代々伝わる家宝だと豪語してい
外国語で書かれたテキストを読みこなす上では、これまで扱ってきた語学的要素だけ
た。もっとも、彼女にはとうてい着けられない代物だったが。
でなく、原文のバックグラウンドとなる文化や社会に関するさまざまな知識も大きな力
「彼女」の贈り物として挙げられているお金以外の 3 つは、いずれも高級ジュエリー
となります。
事物が暗示する意味
<精読編>を通読することで、
「リーディング・プラス」で重視する
“ 文法・語法 ”
“ 文脈・文章展開 ”
“ 文化的背景 ”の3つの視点を
理解でき、
その後の学習がよりスムーズになります。
ブランドの品物です。これらのブランド名を出すことで、この女性がかなり裕福である
こと、そして高級志向を持っていることが伝わります。ブランド名そのものに「裕福」
や「高級」という意味があるわけではありませんが、これらの持つイメージによって、
テキストの中で言及される事物が、間接的に別の何かを暗示する場合があります。例
彼女の人物像が具象化されるのです。ブランド名を出さないで品物だけを挙げたとした
えば、小説の中で登場人物の服装や持ち物がその人物の特質を表すといった具合です
ら、これだけのイメージは生じなかったでしょうし、もし何か別のブランドが使われて
(このように事物が暗示的に表す意味を「記号的意味」といいます)。事物とこのような
いたら(例えばヴァレンチノやグッチやルイ・ヴィトンだったとしたら)、そこにはま
暗示的な意味との対応は、文化圏や時代によって異なることもあるので、注意が必要で
す。
た違ったイメージが生じたでしょう。
「彼」からの唯一の贈り物は真珠貝の髪飾りです。少なくとも物質的にはさほど価値
映画 Back to the Future のパート 2 および 3 には、主人公のマーティが “Chicken” と呼
があるとも思えない古めかしい品物で、彼女には「とうてい着けられない」と一蹴され
ばれたとたんにカッとなり、“Nobody calls me CHICKEN!” と言ってすごむシーンが何度
ています。高価な贈り物の価値を理解しない男が、相手にふさわしくない安物の贈り物
か登場します。Chicken という言葉に、日本語の「鶏」にはない「臆病者」というイメ
をする、そんなちぐはぐな関係も見えてきます。小説の中では結局、彼女のほうから彼
ージがあることを知らないと、この台詞は理解できません。「誰にも腰抜けなんて呼ば
が卑しい人間だといって別れを告げますが、上述のブランド品が持つ暗示的な意味は、
せないぞ!」ということです。
読者にそのような結果も当然と思わせる効果を持っています。
さて、次に示すカポーティの短編 “Mojave” の一節では、愛人関係にある「彼女」と
ブランドの暗示的な意味
「彼」の志向や経済状態が、それぞれの贈り物によって暗示されています。
She could also afford gifts he seemed to expect . . . Not that he appreciated their
彼女
彼
贈り物
quality: Verdura cuff links, classic Paul Flato cigarette cases, the obligatory Cartier
watch, and (more to the point) occasional specific amounts of cash he asked to
“borrow.”
品物
He had never given her a single present. Well, one: a mother-of-pearl Spanish
dress comb that he claimed was an heirloom, a mother-treasure. Of course, it was
nothing she could wear . . .
彼女は、彼がいかにも欲しがっていそうな贈り物を与えることもできた。
〔中略〕とはいえ、彼にその値打ちがわかっていたというわけではない。ヴェ
ブランド名
人物像を具象化
裕福
高級志向
暗示的な意味
ルデューラのカフスボタン、ポール・フラートーの由緒正しいシガレットケー
ス、なくてはならないカルティエの腕時計、そして(もっとあからさまに言え
ば)彼が「借りる」のだと言って時おり求めるいくらかのお金。
24
リーディングガイド
ページ数の都合上、
「サンプルテキスト」では掲載しませんが、<多読編>では、今後さらに
多くの英文を読みこなすことを目標に、初心者でも比較的読みやすい原書を紹介。
『TEXTBOOK』の学習とは別に、英語の読書案内として活用できます。
精読編
25
『TEXTBOOK 1 / SECTION 1』より
精読レクチャー
精読レクチャー
精読レクチャー
「精読レクチャー」では、
『リーディングガイド』で学んだ
“文法・語法”
“文脈・文章展開”
“文
化的背景”
という3つの視点を踏まえて英文テキストの重要ポイントを詳しく解説します。
この「精読レクチャー」
を通じて、大意把握だけではなく、英文テキストの細かな記述も、
よ
り正確に読解するための長文読解力を伸ばしていきましょう。
・ and the rest :「その他いろいろ」
。物語に登場する他のキャラクターのこと。
Further Study 1
それでは、<文法・語法><文脈・文章展開><文化的背景>のそれぞれの視点を踏
まえて、テキストのポイントをさらに詳しく見ていきましょう。
Bedtime Stories
< p.5 >
l.1
幼い子どもは、マザーグースの他に「赤ずきん」や「シンデレラ」、「眠り姫」
■ My crib, and then my bed, were in my mother’s kitchen, where she
などの伝承童話を聞くのが大好きです。これらの童話にはしばしば共通のテーマ
spent most of her time.
が見られます。それは、悪者(「赤ずきん」では狼、「シンデレラ」では不器量で
・ crib: 柵付きのベビーベッド。イギリスでは cot と言います。
意地悪な姉たち、「眠り姫」では悪い妖精)の手に落ちた娘が、善良な人物(「赤
・ and then my bed : ベビーベッドの時期にはじまり、もう少し成長してふつ
ずきん」では木こり、後の 2 つでは立派な王子)に助けられるというテーマです。
うのベッドに寝る時期になっても、という時間の流れを指しています。
こうした童話は中世の物語がもとになっています。中世の物語では、災難に陥
文脈・文章展開
l.2
った美しい娘を救う立派な騎士を描くことが多いのです。
■ Sunshine streamed into her southern windows and onto her plants,
このような童話は、しばしば bedtime story(寝る前のお話)と呼ばれます。夜、
pots, pans, bottles, and jars.
子どもたちが寝る前に読み聞かせられる話だからです。父親や母親に物語を創作
・ plants : 料理に使うハーブの鉢植えを指しているのでしょう。
してもらえる恵まれた子どももいます。例えば『クマのプーさん』の物語は、作
・ streamed は、into, onto そして次の文の on へつながり、日光の降りそそぐ
家の A. A. ミルンが寝る前に幼い息子に聞かせるために作ったものです。
対象をつぎつぎに示しています。
l.3
文化的背景
■ And on her cookbooks, shelves of them.
・ shelves of them : 料理の本を入れた、たくさんの棚。料理の本の多さを強
l.7
engulfed by her arms, looking at the pictures, and the words.
調しています。
l.4
■ By the time I was three, I had learned that my mother would stop
・ into her lap : into の代わりに onto を使うこともあります。lap はふつう
almost anything if I asked her to read me a book.
「ひざ」と訳しますが、厳密には人が座ったときの脚の付け根からひざ関
・ would stop almost anything : 母親は何をしていてもたいていそれを中断し
節までの部分全体を指します。また、このテキストのように女性のスカー
てくれたということ。この would は過去における習慣・反復的動作を表し
トやエプロンで被われた部分全体を指すこともあり、lap という言葉はし
ます。
ばしば母性愛の象徴として使われます。
文法・語法
・ ウェスの母が、子どもに本を読んでやることを最優先していたこと、そし
l.9
を幼いながらも心得ていたことが伝わってきます。
■ I would run to that bottom shelf and pull out Winnie-the-Pooh, and
and the rest.
・ Winnie-the-Pooh : 子ども向けの有名な物語『クマのプーさん』
。A. A. ミルン作。
・ Christopher Robin : Winnie-the-Pooh に登場する男の子の名前。
■ Her long braid was often curled around her shoulder, and I some・ braid :「結んだ髪」「おさげ」
。
Further Study 1
we would read the adventures of Christopher Robin, Pooh, Piglet,
文法・語法
times held it, pretending it was Eeyore’s tail.
てウェスのほうも、忙しい母にかまってもらうためにはどうすればいいか
l.5
■ My mother was a tall woman and I loved jumping into her lap, being
・ Eeyore : Winnie-the-Pooh に登場するロバの名前。「イーヨー」と読む。
l.11
■ One day, when we were reading Pooh, my mother pointed to the
word honey.
・ honey : ハチミツはプーさんの大好物なので、「ハチミツ」という言葉は
『クマのプーさん』にたびたび出てきます。
・ Piglet : Winnie-the-Pooh に登場する子ブタの名前。
16
TEXTBOOK 1
SECTION 1
17
まとめ/文章展開
『TEXTBOOK 1 / SECTION 1』より
「まとめ/文章展開」では、英文テキストの内容をチャートで改めて確認。
読み取った長文の全体構成を図式化することで、長文読解を完全なものにします。
まとめ/文章展開
最後に、下の図を参考にテキスト全体の文章展開をもう一度整理しておきましょう。
まとめ/文章展開
<父親との思い出:5歳>
父親の洋上での体験
〔ウェス〕
〔父親〕
海軍の巡洋艦に乗っていた頃の体験を語る
<母親との思い出:3歳頃>
風呂に入れてもらいながら話を聞く
キッチンで母親と過ごした幼少期
〔ウェス〕
「赤道を横切ったとき流しの水の渦が反転した」
風呂から出て父親のキッチンへ
〔母親〕
本を読んでくれるようねだる
忙しくても読んでやる
いっしょに『クマのプーさん』を読む
父親がタマルを作る
〔ウェス〕
キッチンで父親のタマル作りを眺める
作りながらウェスに話し続ける
〔母親〕
『クマのプーさん』に「ハチミツ」という言葉が出てくる
「ハチミツ」そのものを体験
ウェスにハチミツを食べさせる
(→ 言葉と現実の違いを知る)
理由
:言葉と現実の違いを教えたい
「味わうことが口の役目。言葉は現実と違う」
フィリングを食べる
「辛い」
他の言葉も味わう
〔母親〕
他の言葉も食べてみたい
『マザーグース』に出てくる食べ物を次々に食べる
例
:ピーター・パイパーのトウガラシ、
ジャック・ホーナーのプラムなど
タマルのフィリングをウェスに食べさせる
父親の哲学
〔ウェス〕
〔ウェス〕
手際よくタマルを作る
描写
:タマル作りの手順
「ハチミツ」を味わう
〔ウェス〕
〔父親〕
〔父親〕
「黙って味わえ」
背景
:よく味わえば本質がわかるという信念
じっくり味わう
食べ物本来の味がわかる
「辛くない」
味がわかったウェスをほめる
(→よく味わえば本質がわかることを知る)
<小学校入学時>
<キッチンでの教育>
両親と共通の味覚が身についている
キッチンで言葉や文字を覚える
〔ウェス〕
〔両親〕
実際に食べながら覚える
食べ物を使って言葉や文字を教える
例
:
「ユッカサボテンの Y」
「カボチャのオレンジ色」
「ラビオリの四角」など
「リーディング・プラス」では、
ここまでにご紹介したような、
「 課題文のポイント」
「大意把握」
「ディクテーション」
「ポイント確認」
「精読レクチャー」
「まとめ/文章展開」
という一連の
学習を通じて、英文読解のノウハウをマスターできます。
そして、1カ月の学習の最後には、各『 TEXTBOOK 』の総まとめでもある
『 添削課題 』を
提出しましょう。
結果
:実体験に基づく習得
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TEXTBOOK 1
SECTION 1
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