産業財産権をめぐる国際情勢について 2005年8月 特 許 庁

産業財産権をめぐる国際情勢について
2005年8月
特
許
庁
知財に関する国際的な議論の全体像
マルチフォーラム(WIPO、WTO/TRIPS)
•世界特許システムの構築に向けたグローバルな知的財産権制度の
ルールメイキングと、それに途上国の利益を入れよとの主張
APEC/IPEG
パテントG8
日伊
ド
マル
チの
議論
をリ
ー
日独
日加
サーチ結果・審査結
果の相互利用の推進
•先進国アジェンダ(世界特許、地理的表示等)へのフレンズ形成
•アジア諸国へのキャパシティ・ビルディング
ASEAN+3
•日本が主導するアジア知財圏の形成
•日本の重要な市場の体制整備(AIPN)・
エンフォースメント強化
ASEANをリード
日仏
日豪
制
を牽
米欧
場で
チの
日英
マル
•先進国間の政策対話
(途上国による妨害がなく、デファ
クトのルールメイクがしやすい)
日ASEAN
•MSE、AIPNによる日本出
願の処理促進
•機械化・人材育成等の体
制整備支援
日泰
日星
日米欧三極
•WL削減のため3大
特許庁による協力
EPO
日欧 EU
OHIM
•米国問題へ協
力して対応
日馬
日中韓
日米
•世界最大の市場
での我が国企業の
特許取得を支援
•アジア3大特許庁の連
携強化
日中
日比
日韓
審査処理迅速的確化・エンフォー
スメント強化のための要請・協力
日台
日墨
産業財産権をとりまく国際情勢
目
次
1. WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関) ........... 2
(1) 概要(参考資料1) ...................................................... 2
(2) 特許に関する動き ........................................................ 2
(3) 意匠に関する動き ........................................................ 4
(4) 商標に関する動き ........................................................ 4
(5) 遺伝資源・伝統的知識・フォークロアと知的財産権 .......................... 6
(6) 開発アジェンダ .......................................................... 8
2. WTO(World Trade Organization:世界貿易機関) .................................. 9
(1) TRIPS協定(参考資料5) ................................................. 9
(2) TRIPS理事会における主な議論 ............................................. 9
3. マルチのその他の枠組み ....................................................... 13
(1) APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力) ......... 13
(2) ハーグ国際私法会議 ..................................................... 14
4. プルリの枠組み ............................................................... 15
(1) 三極特許庁協力(参考資料6) ........................................... 15
(2) 三極商標協力 ........................................................... 17
(3) 主要先進国特許庁長官非公式会合(通称パテントG8) ...................... 17
5. バイの枠組み ................................................................. 18
(1) 米国(参考資料7) ..................................................... 18
(2) 欧州(参考資料8) ..................................................... 20
(3) アジア ................................................................. 24
6. 途上国に対する施策 ........................................................... 28
(1) アジア諸国等への協力 ................................................... 28
(2) 我が国審査結果の利用促進 ............................................... 31
7. 模倣品問題への対応 ........................................................... 33
(1) 模倣被害と産業界における取組の現状 ..................................... 33
(2) 模倣品問題に対する特許庁の取組 ......................................... 34
1
1.WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関)
(1) 概要(参考資料1)
WIPO(世界知的所有権機関)は知的財産権に関する諸条約の事務管理、新しい国際条約
の締結の奨励、途上国への援助等を通じた世界的な知的財産権保護の促進を役割とした国
連の専門機関である。2005 年7月 15 日現在、WIPO 設立条約の加盟国は 182 か国である。
基本条約であるパリ条約(産業財産権)、ベルヌ条約(著作権)のほか、以下の条約を管
理している。
・ 特許:特許協力条約(PCT)、特許法条約(PLT)等
・ 商標:マドリッドプロトコル、商標法条約(TLT)等
・ 意匠:ヘーグ協定等
・ 地理的表示:マドリッド協定、リスボン協定等
・ 著作権:著作権条約(WCT)、実演・レコード条約(WPPT)等
なお、個別分野におけるルールメイキングの検討は、特許法常設委員会(SCP)
、商標・意
匠及び地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT)、情報技術に関する常設委員会(SCIT)
(PCT の電子出願、WIPO ネット等を検討)等で行われ、フォークロア、伝統的知識及び遺
伝資源の保護の検討は知的財産権と遺伝資源・伝統的知識・フォークロアに関する政府間
委員会(IGC)で行われる。また、2005 年には WIPO の開発アジェンダ策定提案に関し、開
発アジェンダに関する会期間政府間会合(IIM)で検討が行われた。
(2) 特許に関する動き
(2−1)特許制度の調和に関する交渉
各国特許制度の実体的調和を図ることを目的とした特許法条約は、その交渉が一時膠着
したが、事態の打開のために 1995 年 5 月に開催された諮問会合では、条約締結のモメンタ
ムを維持しつつ手続面での調和も含めた形に拡大して議論を継続していくことが確認され
た。
これを受けて、1995 年 12 月以降 5 回の専門家会合が行われ、出願日の認定、出願の要件、
代理、署名、期間の救済、名称変更、名義変更等に関する方式手続が議論されてきた。1998
年 6 月以降は専門家委員会を設置し議論していた形態を改め、交渉項目を網羅的に扱う特
許法常設委員会(SCP: Standing Committee on the Law of Patents)で議論が進められた。
2000 年 5 月には条約採択のための外交会議が開催され、同 6 月 1 日、各国特許法の方式手
続を調和する特許法条約が採択されるに至った。(参考資料2)
なお、現特許法条約(PLT)は、出願日認定要件、原語出願制度導入、及びモデル願書様
式設定等の手続の簡素化に関する条項、並びに期間の回復等の救済に関する条項が盛り込
まれており、出願人がより容易に特許手続を行えるようにするための条約となっている。
方式面の調和を目的とした特許法条約(PLT)が採択されたことから、1994 年以降凍結さ
れていた実体規定に関する国際調和を実現する実体特許法条約(SPLT: Substantive Patent
Law Treaty)作成の議論が 2000 年 11 月から SCP で再開され、新たな実体調和の目標と方
向、および今後の作業において調和の対象とするべき事項について、以下の通りとするこ
2
とで概ね一致した。
○具体的な実体調和の方向性
① 世界的な特許保護を求める出願人の観点から、出願コストの低減と特許取得の予見性
の向上を目指す。
② 世界規模の出願増加に悩む特許庁の業務負担軽減の観点から、サーチ・審査結果の相
互利用(ワークシェアリング)を志向する。
③ そのために、まず、特許付与の可否決定の要件に焦点を当てて検討を開始する。
④ 特許出願(発明の定義、開示、クレームの構成、クレームの解釈)
、先行技術(定義、
グレースピリオド、先願における先行技術効果)
、特許性の実体的な要件(新規性、
進歩性、産業上の利用可能性)に焦点を当て、運用レベルも含めた詳細検討を開始す
る。(限定項目の深いハーモ)
⑤ 例外規定が多かった前回の反省から、国による例外なしの規定とする。
2001 年以降数次の SCP 会合が開催され、事務局が提示した条文・規則・ガイドライン案
について逐条の検討が行われてきた。また、2003 年には、三極長官会合において制度調和
に関するワーキンググループを設立することが合意され、以後、該ワーキンググループに
おいて議論が行われてきた。その結果(ⅰ)先行技術の定義、(ⅱ)グレースピリオド、
(ⅲ)新規性、(ⅳ)進歩性の4項目を重要項目とし、これら 4 項目について優先して議
論すべきであると三極で合意に達した。これを三極提案として 2004 年 5 月第 10 回 SCP 会
合に、同年 9 月に WIPO 加盟国総会に提出したところ、多くの先進国の支持を集めたが、一
方で途上国より、遺伝資源等についても優先して議論すべきであるとの主張がなされ、採
択には至らず、WIPO DG から SCP の将来の会合に関する非公式会合を開催することが提案さ
れた。
(2−2)特許協力条約
2000 年 9 月の PCT 同盟総会において、国際的な特許出願制度である PCT(特許協力条約)
の改革(リフォーム)にかかる検討を開始することが合意された。これを受け、2001 年 5
月に開催された PCT リフォーム委員会を皮切りとして PCT 制度をより効率的に運用し、か
つ官庁、機関の過度な負担を軽減すべく、活発かつ具体的な議論が行われている。各種の
PCT リフォーム提案は、早急の実施を望むもの、さらなる議論が必要なものとの取捨がなさ
れ、2002 年 PCT 同盟総会においては、次の改革案が採択された。(i)ISR と IPER の機能拡
張(拡張国際調査と国際予備審査)、(ii)指定手続の変更(国際出願時には全指定とみなす)、
(iii)30 か月国内移行期限の徒過に対する救済措置。(i)及び(ii)については、2004 年 1 月、
(iii)については 2003 年 1 月(国内法令との整合性確保のための経過期間あり)に施行さ
れた。
また、2005年5月のPCTリフォームWGでは、「欠落補充」、「優先権の回復」、「明
白な誤記の訂正」等の手続き規程において合意があり、2005年秋のPCT同盟総会へ提案され
ることとなった。
今後は更なるリフォーム(多言語による国際公開、国際調査報告の品質改善等)につい
て引き続き検討される予定である。
3
(3) 意匠に関する動き
(3−1)ヘーグ協定(参考資料3)
ヘーグ協定は、複数国において意匠登録を行う際に必要となる手続の簡素化及びそれに
より生じる経費の節減効果を目的とした、意匠の登録・寄託に関する国際的制度を構築す
る条約である。
現在、ヘーグ協定の改正協定(アクト)として、寄託の国際的な集中化を図った「1934 年
ロンドン・アクト」(2005 年 8 月 1 日現在、加盟国数 15 ヶ国)及び指定締約国制度を導入
し、各指定国に国際登録の効果の拒絶を認めた「1960 年ヘーグ・アクト」(2005 年 8 月 1 日
現在、加盟国数 31 か国)、
① これら 2 つの制度の問題点を克服し、実体審査国及び国際機関の加盟促進を目的と
した「ジュネーブ・アクト」(2005 年 8 月 1 日現在、加盟国数 18 ヶ国)の3つが運営
されている。
なお、
「ジュネーブアクト」は 2003 年 9 月 23 日、スペインの批准により発効条件が満た
されたため、同年 12 月 23 日に発効した(同アクトに基づく登録制度の運用は、ヘーグ協
定に基づく共通規則の施行日となる 2004 年 4 月 1 日から開始された)。現在のところ、我
が国は未加盟である。
(4) 商標に関する動き
(4−1)マドリッド協定議定書(参考資料4)
マドリッド協定議定書は、1891 年にパリ条約の特別取極として制定された「標章の国際
登録に関するマドリッド協定」について、その加盟国を増加させる等の目的で審査主義国
(我が国、米国、英国等)にも配慮した規定とした上で、1989 年に採択された条約である。
本条約は 1995 年に発効し、翌 1996 年 4 月より運営が開始されている。
本条約の骨子は、締約国の一国(本国)の官庁に商標を出願し又は商標登録をしている
名義人は、その出願又は登録を基礎として、保護を求める他の締約国を指定して WIPO 国際
事務局に当該商標を国際出願し、指定した締約国から保護できない旨の通報がない限り、
各締約国において保護を確保することができるというものである。
我が国においては、議定書に加盟し実施するための法案が、第 145 回通常国会において
審議がなされ、1999 年 5 月可決、成立の後、公布された。そして、同年 12 月に WIPO 事務
局長に加入書を寄託し、2000 年 3 月 14 日に発効した。
本条約への加入により、我が国のユーザーは直接外国出願・登録するルートに加え、簡
易な手続で外国で商標の保護を受けることができ、かつ、商標を国際的に一元管理できる
こととなった。
そして、2001 年 9 月のマドリッド同盟総会において、マドリッド協定及び同議定書に基
づく共通規則(以下、「規則」という。)の初めての全体的な見直しが行われ、ライセンス
の規定、個別手数料の二段階支払い制度の採用を主な改正内容とする規則改正案が採択さ
れた。この改正を受け、我が国商標法を改正し、国際商標登録出願における個別手数料の
二段階支払い制度を取り入れた(2003 年 1 月施行)。なお、ライセンスの規定については留
保している。
また、2003 年 9 月のマドリッド同盟総会においては、①欧州共同体のマドリッド協定議定書への
加入に伴うこと及び、②スペイン語を英語と同様、議定書に係る作業言語として追加するための
4
規則改正案が採択された(2004 年 4 月発効)。
更に、2005 年 7 月にはマドリッドシステムの法的展開に関するアドホック作業部会が開かれた。
該会合における議論は、2005 年 9 月のマドリッド同盟総会に報告され、2006 年 9 月の総会におけ
る採択を目指す提案の基礎となる。主な議論は、①拒絶手続きの見直し及び、②セーフガード条
項の見直し等である。
マドリッド協定議定書には、2005 年 7 月 15 日現在(WIPO 公表による)で、米国、韓国、
ロシア、中国、豪、欧州共同体(EC)等の主要国等を含む 66 か国・地域が加盟している。
我が国は、同議定書による国際的な保護を一層進展させるために、マレーシア、フィリピ
ン、タイ等の他の未締約国に対しても加入を働きかけている。
(4−2)商標法条約(TLT)
本条約は、各国における商標制度の手続面の調和と簡素化を目的とし、「一出願多区分制
の導入」、「多件一通方式の導入」、「更新時の実体審査の禁止」、「サービスマーク登録の義
務化」等を内容とするものである。
1989 年 11 月より 6 回にわたる専門家委員会での議論を経て、1994 年 10 月ジュネーブに
おいて採択され、1996 年 8 月 1 日を以て発効した。2005 年 7 月 15 日現在(WIPO 発表によ
る)で、33 か国が締約国となっている。
我が国は、この条約への加入等に対応した商標法改正及び条約の批准を 1996 年 6 月に行
い、1997 年 4 月をもって締約国となった。
なお、商標、意匠及び地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT)において、TLT の改
正について議論され、これを受けて 2006 年 3 月に改正TLT採択のための外交会議が行われ
る予定である。
<参考> 商標法条約のポイント
・出願及び登録申請の手続の簡素化
・一出願多区分制の導入
・多件一通方式の導入
・更新時の実体審査の禁止
(4−3)商標、意匠及び地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT)
1998 年 3 月の WIPO 一般総会において、従来特定の課題ごとに専門家委員会において議論
していた形態から、所定の分野に属する課題を網羅的に扱う常設委員会の設置が決められ
た。それに基づき、商標、意匠及び地理的表示の法律に関する常設委員会(SCT)が設置さ
れた。
(a)これまでの検討の成果
① 周知商標保護に関する共同勧告
1999 年 6 月の第 2 回 SCT 会合第 2 部において、周知商標の認定基準、周知商標と
抵触する商標・業務上の標識・ドメイン名からの周知商標の保護等を定めた国際的
なガイドラインである「周知商標保護に関する共同勧告」案が採択された。引き続
き、同共同勧告案は、同年 9 月に開催された WIPO 一般総会及びパリ同盟総会におい
て正式に採択された。
5
② 商標ライセンスに関する共同勧告
2000 年 3 月の第 4 回 SCT 会合において、商標ライセンスの登録手続の簡素化及び
調和を目的とする国際的なガイドラインである「商標ライセンスに関する共同勧
告」案が採択された。引き続き、同共同勧告案は、同年 9 月に開催された WIPO 一
般総会及びパリ同盟総会において正式に採択された。
③ インターネット上の商標等の保護に関する共同勧告
インターネットの国際的普及に対応して、「標識」のネット上での使用の保護が
問題となる中、2001 年 3 月の第 6 回 SCT 会合において、商標法の属地性とインター
ネットの世界性との関係から生じる各国における商標権の抵触問題等を解決する
ための国際的なガイドラインである「『インターネット上における商標及び標識に
係る産業財産権の保護』に関する共同勧告」案が採択された。引き続き、同共同勧
告案は、同年 9 月に開催された WIPO 一般総会及びパリ同盟総会において正式に採
択された。
(b)検討テーマ
近年の最優先課題は、商標法条約(TLT)の改正に関する議論であった。1996年の発
効後、電子出願の普及等技術の急速な発展や、2000年に特許法条約(PLT、未発効)が
採択されたことを受け、これらへの対応を図り、手続面の更なる簡素化・調和を促進
するため、改正の議論が行われてきた。2005年4月の第14回会合においては、2006年3
月に予定されている改正TLT採択のための外交会議へ向け最後の議論が行われ、基本提
案について合意された。主な改正項目は、総会の設立、電子出願、手続期間の救済、
商標ライセンス等である。
上記以外の検討課題は、商標法の実体的調和、地理的表示、インターネット・ドメ
インネーム(地理的表示との抵触問題)等である。
(5) 遺伝資源・伝統的知識・フォークロアと知的財産権
(5−1)生物多様性を巡る議論
遺伝資源・伝統的知識・フォークロアについて、これらは原産国や原住民の財産である
という議論や、環境保護の観点からも十分に保護されるべきであるという議論が遺伝資源
を多く保有する途上国(メガダイバーシティ国家)を中心に主張され、知的財産を巡る地
球規模問題の一つになっている。この問題に関して、最も関係の深い国際的な枠組みとし
て生物多様性条約(CBD)が挙げられる。CBD の主要目標の一つとして「遺伝資源へのアク
セスと利益配分」が掲げられ、遺伝資源そのものや遺伝資源に関連する伝統的知識等の利
用に伴う利益は、遺伝資源の提供国や地域社会等にも衡平に配分すべき(第 8 条(j)項およ
び第 15 条)という規定がある。その後 2002 年 4 月に開催された CBD の締約国会議(COP6)
において、具体的な自主的指針として、遺伝資源等の利用から生じる利益配分のあり方に
関する「ボン・ガイドライン」が採択された。また、2004 年 2 月には、CBD の第 7 回締約
国会議(COP7)が開催され、利益配分に関する国際的な規則(International Regime)につ
いて、ワーキンググループで交渉を行うことが決定された。また、COP7 から WIPO に対し、
特許出願における遺伝資源等の開示要件に関して研究依頼を行うことが決定された(5-5 参
照)。
6
(5−2)遺伝資源・伝統的知識・フォークロアとは
遺伝資源・伝統的知識・フォークロアについては、これらの定義自体が保護対象に直接
連動するため、定義を定めること自体が検討の一つのポイントとなっているが、一応、遺
伝資源とは、世界各国が保有する植物・動物等の生物的資源・素材で文化・社会・経済・
科学等の側面から価値を内在するものと認められるものを指し、伝統的知識とは、原住民
等が伝統的に継承してきた知識を指し、フォークロアとは、伝統陶芸・伝統舞踊等の芸術
的表現を指すと考えられている。なお、最近では「フォークロア」の用語に加えて「伝統
的文化表現(TCEs)」の用語も併用されることが多い。
(5−3)遺伝資源・伝統的知識・フォークロアと知的財産権に関する政府間委員会(IGC)
WIPO 特許法常設委員会(SCP)での特許法条約に関する議論の過程において一部途上国よ
り遺伝資源等の保護の重要性が強硬に主張されたことを受け、2000 年 9 月の WIPO 加盟国総
会において本委員会を設置することが承認された。委員会では遺伝資源、伝統的知識及び
フォークロアの保護について、知的財産権の観点から専門的かつ包括的な議論が重ねられ
ている。主要な論点として、①遺伝資源や伝統的知識の商業的利用から得られた利益を遺
伝資源の主権国たる保有国や伝統的知識を有する原住民に配分する国際的な仕組みの構築、
②遺伝資源を利用して開発された又は遺伝資源の保全に有効な技術の途上国へ移転の促進、
③伝統的知識・フォークロアの法的保護の国際的スキームの構築、等が挙げられる。
2001 年の初回会合以降、8 回の IGC が開催されているが、途上国側は、IGC での議論の進
展に満足せず、IGC 以外の様々なフォーラム(TRIPS 理事会、SCP、PCT リフォーム等)でも
本件を取り上げる事態となっている。
(5−4)IGC における議論の現状
現在の主な議論として、遺伝資源については、遺伝資源へのアクセスと利益配分を知的
財産の観点から確保すべく、遺伝資源譲渡契約のガイドライン作成作業等が行われている。
伝統的知識については、そもそもその定義や保護の可能性等が曖昧であるため基本的分
析・研究を行っていくと共に、伝統的知識のデータベース(TKDB)を構築していくことと
なっているが、TKDB構築の背景には、データベースの構築だけで十分とする先進国側の主
張と、データベース構築を足がかりとして伝統的知識に固有の権利を認めさせようとする
途上国側の主張の対立がある。フォークロアについては、その法的保護に関する各国の経
験を収集・分析する作業を継続するとともに、フォークロア固有の保護制度についての検
討を行うこととしている(文化庁が主として担当)。
2005年6月に開催された第8回IGCにおいて、今後の作業についても意見が交わされたが、
伝統的知識、フォークロアに関しての法的拘束力のあるスタンダード制定に向けての作業
をIGCの優先課題とし、特許出願時の遺伝資源の出所開示等遺伝資源を巡る問題については、
TRIPS協定の改正をWTOで行うことを選好するためIGCでの作業から除外しても良いとする
途上国グループと、それに反対する先進国との対立により議論が進まない状況となった。
結果、今後のIGCのマンデートの詳細についての議論は9月の一般総会に持ち越されること
となっている。
(5−5)遺伝資源と開示要件に関するアド・ホック政府間会合
2004年2月、CBD第7回締約国会議からWIPOに対し、特許出願における遺伝資源等の開示要
件についての研究が依頼されたことを受け、同年9月のWIPO一般総会において、アド・ホッ
7
ク政府間会合を開催し報告書作成について議論することが合意された。
報告書作成にあたり各国は2004年末に本議論について意見文をWIPOへ提出し、WIPO事務
局が報告書1次案を作成、その後の各国コメントを踏まえて修正の上、会合前に2次案が
配布された。
会合は2005年6月3日に行われ、この2次案について様々な意見をそのまま報告書に記載
するとの方針を確認の上、各国から意見が発表された。事務局はこれらコメントを集約し
つつ最終報告書案を纏め、本年9月の一般総会において採択に付されることとなっている。
(6) 開発アジェンダ
2004年一般総会において、ブラジル・アルゼンチン等計14ヶ国の「開発フレンズ」は、
「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)」を掲げる国際連合の専門機関
として、WIPOは更に開発問題に積極的に取り組むべきであると指摘し、WIPOの「開発アジェ
ンダ」策定を提案した。これを受けて、開発関連問題を議論し、2005年一般総会での検討に
付する報告書作成のため、開発アジェンダに関する会期間政府間会合(IIM)の開催が決定
された。
開発フレンズが行った「開発アジェンダ策定提案」においては、WIPOの目的及び任務とし
ての開発の重要性を明確化するためWIPO設立条約を修正すること、現在交渉中のSPLT等の
条約に技術移転等の明確な開発支援規定を導入すること、技術協力に関して多年度にわた
る一貫したプログラム・計画を策定すること等が挙げられている。
2005年4月、6月及び7月にそれぞれIIMが開催され、主に開発フレンズ提案並びに新た
に提出された米国、英国、メキシコ、バーレーン及びアフリカグループ提案について議論
が行われたが、最終的にコンセンサスには至らなかった。2005年一般総会へのIIMの報告書
はIIM各次会合の議事録とすることとで合意され、引き続き開発アジェンダに関する議論を
継続することなっている。
8
2.WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)
GATT ウルグアイ・ラウンドの 7 年にわたる交渉の結果、TRIPS 協定(知的所有権の貿易
関連の側面に関する協定)を含む WTO(世界貿易機関)協定が、日・米・カナダ・インド・
EU 等の 76 か国・地域の参加の下、1995 年 1 月 1 日に発効した。2005 年 8 月現在で 148 の
国・地域が加盟している。
2001年11月、第4回WTO閣僚会議(ドーハ)において閣僚宣言を採択し、現在、新ラウン
ド交渉が分野別に行われている。しかし、調整が難航している分野も多く、2003年9月に行
われた第5回WTO閣僚会議(カンクン)では閣僚宣言案の合意に至らなかった。その後、ド
ーハ・ラウンドを軌道に戻す努力が続けられ、2004年7月の一般理事会で各項目の今後の方
向性の骨子を示す枠組合意が採択された。現在も2005年12月に香港で開催される第6回閣僚
会議に向けて数次の非公式閣僚会議等を行いつつ、全分野一括受諾に向けての更なる議論
が続けられる見込みである。
(1) TRIPS 協定(参考資料5)
(1−1)協定の概要
1995 年、世界貿易機関(WTO)の創設に合わせ、新たな貿易関連ルールのひとつとして発
効 し た TRIPS 協 定 ( Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property
Rights:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)は、知的財産権の保護に関して WTO
加盟国が遵守すべき最低基準(ミニマム・スタンダード)として機能しており、世界知的
所有権機関(WIPO)を中心とした国際的な知的財産権保護に関するルールメイク作業を下
支えするものである。
○概要
・ 先進国、途上国を問わず各国が遵守すべき知的財産権保護の最低基準を明確化。
・ パリ条約やベルヌ条約等の既存の国際条約を越える知的財産権保護水準の義務付け。
・ 最恵国待遇(MFN)規定に基づく二国間交渉の成果の加盟国への均てんにより、保護水
準が国際的に向上。
・ 権利行使に関する規定を有しており、権利保護の実効性が向上。
・ 知的財産権分野における紛争についても、統一的な紛争処理を適用することが可能。
(2) TRIPS 理事会における主な議論
(2−1)医薬品アクセス問題
現在、HIV/AIDS 等の感染症の影響はサハラ砂漠以南のアフリカ諸国において特に深刻で
あり、公衆衛生上の重大な問題となっている。このような事態にも関わらず、感染症に対
する治療薬の価格がこれらの国々の人々にとって高すぎるために、医薬品へのアクセスが
妨げられているという問題がある。途上国や NGO 等は、医薬品が高価になっている原因と
して医薬品に対する特許権の存在を挙げたため、医薬品へのアクセス改善と知的財産権と
の関係について国際的な関心が高まっていた。
2001 年 11 月にドーハ(カタール)にて開催された第 4 回 WTO 閣僚会議では、この問題に
関する国際的な関心の高さに配慮し、閣僚宣言本体とは別に、独立した「TRIPS 協定と公衆
衛生に関する宣言」が採択された。この宣言は、TRIPS 協定が、加盟国が公衆衛生を保護す
9
るための措置を採ることを妨げるものではない旨確認する一方で、加盟国の TRIPS 協定に
対するコミットメントを強調しており、TRIPS 協定上の権利義務関係に影響を与えず、かつ、
全体として途上国側の主張と先進国側の主張を微妙にバランスさせたものとなっている。
TRIPS理事会においては、本宣言のパラグラフ6に基づき、医薬品の製造能力が不十分又
は欠如している加盟国がTRIPS協定の下で強制実施権を効果的に利用できないという問題
を迅速に解決するため、精力的な議論が行われた。そして、2003年8月の一般理事会におい
て、2002年に議長が提示したテキストに変更を加えずに、テキストの採択とあわせてその
内容を確認する議長声明を読み上げる形で先進国と途上国の妥協が図られ、合意された。
現在、合意内容に沿った形でTRIPS協定を改正するための議論が2005年3月という期限を過
ぎてもなお続けられているが、TRIPS本文の改正を主張する途上国(アフリカ諸国)と実質的な
議論の再開を避けながら協定本文の修正を主張するEU、脚注としての処理を主張する日米との
間で見解に相違があり進捗が遅れている。
(2−2)地理的表示
「地理的表示」とは単なる商品の原産地表示ではなく、原産地表示のうちその商品につ
いて、原産地の地理的環境に由来する品質や評判を想起させる表示を指すものである。
TRIPS 協定上、ぶどう酒(ワイン)及び蒸留酒(スピリッツ)に関する地理的表示に対して
は、他の産品に比べて手厚い保護(追加的保護)が与えられている。例えば、シャンパン
(仏のシャンパーニュ地方産出の発泡ワイン)という地理的表示を例に挙げると、シャン
パーニュ地方産出ではない発泡ワインに「シャンパン」と銘打つことは、原産地について
公衆が誤認することがないとしても、基本的には認められない。我が国国内法上は、不正
競争防止法、商標法、酒団法等により地理的表示を保護している。
WTO における地理的表示に関する論点としては、①多国間通報登録制度の創設、②追加的
保護の対象産品の拡大が挙げられるが、いずれの論点についても地理的表示の一層の保護
強化を主張している欧州等の旧大陸諸国と現在の保護レベル維持を主張している米、豪州
等の新大陸諸国との間で対立している。
(a)多国間通報登録制度の創設
ワインに関する地理的表示について、各加盟国で保護されている地理的表示を国際
的に通報・登録する制度を創設することが TRIPS 協定に定められている。安価で事務
負担が軽く、登録により新たな法的拘束力が生じないデータベース的なものとする案
(日米豪加等共同提案)と、登録の申請についての多国間異議申立制度を含み、登録
により新たな法的拘束力が生じる制度とする案(EC 等提案)とが提案されている。こ
の議論は、第 4 回 WTO 閣僚会議で採択されたドーハ閣僚宣言に基づき、2003 年 9 月の
第 5 回閣僚会合までに交渉する(シングルアンダーテーキング)こととされていたが、
両提案の隔たりは依然として大きく未だに議論は収斂していない。
(b)追加的保護の対象産品の拡大
一般の地理的表示については「公衆が真の原産地と誤認する」表示の使用を禁止し
ているのに対して、TRIPS 協定 23 条において、ワイン・スピリッツについては公衆が
真の原産地を誤認混同しない表示についても、登録された原産地名を含む表示の使用
を禁止している(追加的保護)。こうした追加的保護の対象産品をワイン・スピリッツ
10
以外の産品に拡大することを求める EC、スイス、インド等と、これに反対する新大陸
諸国との間で議論が対立している。ドーハ閣僚宣言において、この議論が TRIPS理事
会において取り扱われる旨明記され、明確なマンデートが与えられた。TRIPS理事会
において、追加的保護の対象産品拡大による生産者や消費者への影響といった各論点
についての見解が各国から示されたが、議論は収束に至っていない。現在、日本は中
立の立場をとっている。
(2−3)特許保護対象の例外規定(TRIPS 協定 27.3(b))
ドーハ閣僚宣言において、TRIPS協定と生物多様性条約との関係や伝統的知識及びフォークロ
アの保護に関する議論に明確なマンデートが与えられた。
生物多様性条約の規定のTRIPS協定への取り込み、遺伝資源・伝統的知識・フォークロアに対
する特別な保護制度の創設、及び遺伝資源等へのアクセスに関する利益配分を主張する途上国
と、現行の特許保護レベルを低下させる、あるいは現行の特許制度に負荷を与えることに反対す
る先進国との間で議論が行われている中、ECは途上国側の要求へ若干ながら妥協姿勢を示して
いる。
一方、2005年6月に開催されたTRIPS理事会において、ペルーが具体的なTRIPS協定第27条第
3項及び29条の改正提案を行った。当該ペルーの提案をインド、ブラジル等の途上国が支持する
一方、米、我が国、オーストラリア、カナダは、CBDとTRIPS協定に齟齬はなく協定改正の必要は
ない、本件については未だ議論が不十分であり、まずは事例ベースの分析を行うべきとして、ペ
ルー提案に反対した。なお、ECはPIC及び利益配分の証拠の開示部分についてのみ支持しない
とし、ペルー提案へのコメントは行わなかった。このように2005年12月の香港閣僚会議に向け、ペ
ルー等メガダイバーシティ国家の途上国はTRIPS協定の改正のマンデート設定を合意文書に盛り
込もうと積極的に活動している。
(2−4)法令レビュー
加盟国の国内法令と TRIPS 協定との整合性についての審査を法令レビューという。先進
国は 1996 年に TRIPS 協定の履行義務が発生していたが、2000 年 1 月 1 日に途上国において
も同協定の履行義務が発生し、これにより、知的財産権保護の法制度の整備が世界的に大
きく拡がった。2001 年に WTO に加盟した中国に対しては、この法令レビューに加えて、特
別に 8 年間にわたり毎年経過的レビューメカニズム(TRM)が実施されることとなっており、
我が国も 2004 年に実施された中国に対する第 3 回目の TRM を積極的に活用し、TRIPS 協定
上の問題点について数多くの指摘を行っている。
TRIPS 協定の適用時期(経過期間)
内国民待遇
最恵国待遇
先進国
途上国
後発途上国
1996.1.1
全体
物質特許
(医薬品等)
1996.1.1
2000.1.1
2006.1.1
1996.1.1
2005.1.1
2016.1.1(※2)
医薬品等の
補完的措置(※
1)
1995.1.1
(※1)ウルグァイ・ラウンドの結果、途上国等には、物質特許制度の導入については 2005 年までの経過
期間が認められたが、その補完措置として、TRIPS 協定発効日(1995 年 1 月 1 日)から、①医薬品及び農
11
業用化学品の特許出願を受けつけること(第 70 条 8)、②一定の条件の下に医薬品等に排他的販売権を認
めること(第 70 条 9)、が義務とされている。
(※2)2001 年 11 月にドーハにて開催された第 4 回閣僚会議で合意された「TRIPS と公衆衛生に関する特別
宣言」により、後発途上国の医薬品に関連する物質特許制度の導入及び開示されない情報(営業秘密)につい
ては、本来の経過期間終了時点である 2006 年 1 月 1 日より更に 10 年間、2016 年 1 月 1 日まで経過期間の延
長が認められ、加えてこの経過期間中における排他的販売権(第 70 条 9)については免除されることとされ
た。
12
3.マルチのその他の枠組み
(1) APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力)
APEC は、アジア太平洋地域の国・地域(エコノミーと呼ぶ)をメンバーとして、貿易投
資の自由化・円滑化並びに経済技術協力を目指す地域フォーラムとして 1989 年に発足した。
現在は日本、米国、カナダ、オーストラリア等の先進工業エコノミーと発展途上エコノミ
ーを含む 21 エコノミーで構成されている。
(1−1)知的財産権専門家会合(IPEG: Intellectual Property Rights Experts Group)
APEC の中長期的計画として、1995 年に取りまとめられた「大阪行動指針(OAA : Osaka
Action Agenda)」において、知的財産権は、貿易投資の自由化・円滑化に関する優先分野
の一つに取り上げられた。その後、1996 年には貿易投資委員会の下部組織として「知的財
産権専門家会合(IPR Get-together、97 年以後は IPEG に改称)」が設立された。 IPEG は、
OAA を詳細化した「共同行動計画(CAP: Collective Action Plan)」に従って活動しており、
毎年 2 回の定期会合と、インターセッショナルな情報交換を行っている。2001 年には、TRIPS
協定履行完了に対応した OAA の見直し作業として、知的財産権分野における新しい目的、
ガイドライン、共同行動計画が策定されるとともに、新しい共同行動計画(新 CAP)に従っ
た活動が開始された。新 CAP の項目は以下の通り。
① 知的財産権政策に関する対話の深化
② 簡易・迅速な権利取得へのサポート
③ 知的財産権に関連する手続きの電子処理化
④ 新分野における知的財産権の適切な保護
⑤ 知的財産権制度運用の改善のための協力
⑥ 知的財産権エンフォースメントのための効果的な制度の確立
⑦ APEC エコノミーにおける知的資産管理の促進
⑧ 公衆の知的財産権意識の高揚
⑨ 知的財産権保護の確保を通じた技術移転の円滑化
我が国は、IPEG が設立された 1996 年以来、3 期 6 年にわたって議長国を務め、CAP の具
体化と実行に向けた議論をリードしてきた。その後議長職は 2002 年 3 月の第 14 回 IPEG 会
合において台湾に引き継がれ、さらに 2004 年 4 月の第 18 回会合より韓国が議長を務めて
いる。2006 年 3 月に予定されている第 22 回会合からは、シンガポールが議長を務める。
(1−2)APECにおける知的財産権に関する最近の動向
・2003年6月のAPEC貿易担当大臣会合において、我が国の提案による、権利者に対して
権利行使に関する一般的な情報提供を行うための「APEC・IPRサービスセンター」を
各エコノミーに設置することが合意された。
・2003年10月のAPEC閣僚会議において、APEC域内における知的財産権の保護・エンフ
ォースメント強化のためのガイドラインとして我が国が提案した「知的財産権保護
に関する包括戦略」が承認された。
・2003年のAPEC首脳宣言において、知的財産権の促進、保護及びエンフォースメント
の改善について言及がなされた。
・2005年6月のAPEC貿易担当大臣会合(MRT)において、日本・米国・韓国の共同提案
13
による「APEC模倣品海賊版対策イニシアティブ」について合意がなされた。経緯・
概要については以下の通り。
①昨年 10 月に、米国よりAPECでの模倣品対策の可能性について日・韓等に打診あり。
日本としても、中国等で製造された模倣品のアジア諸国への流入対策等の観点から、米
国の打診に対し積極的に対応。
②その結果、本年6月のAPEC貿易大臣会合において、日米韓共同提案の「模倣品・海
賊版対策イニシアティブ」が採択されたところ。
③本イニシアティブは、APEC域内における模倣品・海賊版取引の削減、及びオンライ
ン海賊行為の削減を目的として、ⅰ)模倣品の輸出入に関する水際手続きのガイドライ
ン策定等、ⅱ)インターネットを通じた模倣品販売等に関するガイドラインの策定等、
ⅲ)情報交換促進、ⅳ)能力構築支援、が内容。
④本年11月のAPEC閣僚会合に向けて、ガイドラインの具体的内容について調整中。
今後も、先進国と途上国が自由に議論できるフォーラムという APEC の特徴を生かし、政
策対話を通じた相互理解を進めることが目標である。
(2) ハーグ国際私法会議
近年の民事・商事をめぐる国際的紛争の急増に伴い、国際裁判管轄及び外国判決の承認・
執行に関する世界的なルールの策定が求められているのを受け、ハーグ国際私法会議(加
盟国間の国際私法に関する規則の統一を目的とする国際機関)は、これらを取り扱う条約
草案の検討を 1992 年から開始した。
1999 年には民事・商事に関する裁判管轄及び外国判決の承認・執行を対象とした包括的
な条約草案が策定され、知的財産権については原則として登録国の専属管轄とする旨が規
定された。しかし、2001 年 6 月の外交会議では各国の立場が分かれ、合意には至らなかっ
た。
その後、条約草案作成のための非公式作業部会が設置され、より限定的な管轄原因を対
象とした議論が行われ、2003 年 12 月、2004 年 4 月の特別委員会を経て、
「裁判所の専属的
選択合意に関する条約草案」がまとめられた。そして本年 6 月 14∼30 日にかけてヘーグ国
際私法の外交会議が行われ、6 月 30 日に「管轄合意に関する条約」が採択された。
本条約では、企業間において裁判所の専属的管轄合意がある場合に限り、その他の裁判
所は管轄を認めてはならず、選択された裁判所の判決は、締約国において事実関係につい
て再審されることなく承認・執行される旨規定されている。また、著作権以外の知的財産
権の有効性及び侵害(ただし、その権利に関係する当事者間の契約違反について侵害訴訟が
提起され、又は提起することができる場合は除く。)については条約の適用除外とされてい
る。
14
4.プルリの枠組み
(1) 三極特許庁協力(参考資料6)
PCT 出願の 80%以上を受理する三極特許庁(日本国特許庁(JPO)、米国特許商標庁
(USPTO)、
欧州特許庁(EPO))は、三庁に共通する課題を共に解決するため協力活動を行っている。
この活動は 1983 年より開始され 2005 年には 23 年目を迎えた。
2005 年 5 月には三極特許庁会合が開催された。今次会合の主な成果は以下のとおり。
(1−1).サーチ結果の相互利用に向けた検討
(a)サーチ履歴情報の交換パイロット・プロジェクト
サーチ結果の最大限の相互利用に向けて、「サーチ履歴情報の有用性を評価するパイ
ロット・プロジェクト」を7月より正式にスタートすることに合意。具体的スキームは下
記の通り。
・ 三極各庁が第 1 庁のパリ・ルート(非 PCT ルート)出願 50 件について、第 2 庁にサー
チ履歴情報の提供を行い、その有用性について評価を行う。
・ 2005 年秋の三極特許庁長官会合において暫定報告を行い、来年日本で開催予定の三極専
門家会合において報告書の採択を目指す。
・ 第 1 庁は、第 2 庁にサーチ履歴等の情報を可能な限り速やかに、遅くとも 9 月上旬まで
に提供する。
・ 三極各庁共通の評価スキームを用いることに合意。なお、評価スキームは、JPO 案を元
に調整し、7 月の開始前までに決定する。
(b)特許審査ハイウェイ構想
JPOの提案に基づき検討を行ってきた「特許審査ハイウェイ構想1」について、JPOが修
正案を準備し、今後、三極各庁がユーザの意見の聴取を行うことに合意。
(c)パリ・ルート、PCTルート以外の第三の出願ルート構築の検討
第1庁のサーチ・審査結果を第2庁が必ず利用できる新たな制度的枠組みについて検討
を行ってきたところ、今後、JPO案を軸として各国のユーザの意見を踏まえて引き続き検
討を行うことに合意。
(d)バイオテクノロジー
三極各庁が行ったDNA配列のサーチ結果を、今夏までに他庁に提供開始することに合意。
(1−2).制度調和
(a)拡大新規性
グレースピリオドと共に三極各庁間で意見の相違が大きい論点である拡大新規性につ
いて議論をさらに進展させるため、仮想事例を用いた比較研究の着手に合意。USPTOから
1
第1庁で特許になった場合に、出願人の選択に基づき、第2庁において簡素な手続で早
期審査の申請が行えるようにし、第2庁で早期に特許取得を可能とする提案。
15
検討中の案が示され、7月中旬を目処にコメントを日欧から提出してUSPTOがとりまとめ
ることとされた。
Secret Prior Art(我が国特許法で言う29条の2に該当する先願)が用いられた割合に
ついても三極各庁の状況を今後交換することとした。
(b)欧州特許条約の下でのバイオ特許の運用
近時、欧州諸国において「(ヒト)遺伝子特許は用途発明としてしか特許しない」と
の法改正が行われているが、EU指令、欧州特許条約は用途発明への限定を求めていない
ため、欧州特許条約の下での運用について情報交換を行った。
(1−3).ドシエ・アクセス・システム
(a)ドシエ・アクセス・システム(他庁包袋書類の照会システム)の標準
三極各庁から三極ドシエ・アクセス・システムの開発状況について紹介がされた。三
極特許庁間のインターフェース仕様について、JPOが提案した事項について取り入れた最
終版を6月中に作成すること、及び、今後のロードマップを決定した。
(b)優先権証明書交換
USPTOと2007年を目途に優先権書類を電子的に庁間で交換することを検討することに
合意。今後、JPOでは、USPTOと運用について調整する。
(c)機械翻訳
EPOから英語と仏、独、スペイン、オランダ語との間の機械翻訳の進捗状況について、
メンバー国及び公衆を対象とする第1段階のサービスを開発中であることが報告された。
また、JPOから高度産業財産ネットワーク(日本の公報や包袋書類を英語に機械翻訳して
他庁に提供するシステム)について、登録単語の追加等の機能改善の状況を報告したの
に対して、EPO及びUSPTOから謝意が表された。
(d)書類のインポートについてのルールの検討
インポートとは、ドシエ・アクセス・システムによって参照した他庁の書類を自庁の
書類の一部に取り込むこと。三極特許庁では、インポートについてのルールを定めたイ
ンポート・ガイドラインについて検討を行ってきたところ、これまでの検討結果を踏ま
えてUSPTOが最終テキストを作成し、ユーザの意見を踏まえて、秋の三極長官会合で採択
を目指すこととなった。
(1−4).その他
(a)広報活動
三極特許庁の活動の成果の広報を強化するために、三極ウェブサイトのリニューアル
等を検討することとなり、作業部会の設立が合意された。
(b)情報普及ポリシー
JPOの提案に基づき、三極各庁のインターネットを通じた情報提供サービスの比較表を
秋の三極長官会合までに作成することに合意。
16
(c)非特許文献
EPOが、三極特許庁で協調して非特許文献の表示にDOI2を利用することを提案したのに
対して、JPO、USPTOがDOIの付されていない文献が多数あることを指摘し、今後さらに検
討を継続することとなった。
(d)三極戦略作業部会
「三極戦略作業部会」を2005年9月にUSPTOで開催することとなった。
(2) 三極商標協力
商標登録制度及びその運用について、日米欧の三庁(JPO、USPTO及びOHIM)が情報及び
意見交換を行い、制度及び運用の改善につなげることを目的として、2001年5月に第1回商
標三極会合が米国・アーリントンで開催され、以来、毎年1回開催されている。
2004年5月に米国・アレキサンドリアで開催された第4回会合では、各庁における近況報
告、電子化、マドリッド協定議定書について意見・情報交換を行った。また、第2回会合以
降三極が取り組んでいるプロジェクトについて議論し、以下の結果が得られた。まず、「三
極商品役務表示便覧プロジェクト」については、三庁で受け入れ可能な約7千件の商品役務
表示(英語、全類)について合意し、2004年12月には、受け入れ可能な商品・役務表示か
らなるリスト(三庁リスト)をホームページにおいて公表した。さらに、情報技術問題に
ついては、商標三極ウェブサイトの立ち上げに関し、次回会合へ向けて更なる議論を行う
こととされたほか、商標情報のデータ交換のための標準について、情報交換が行われた。
(3) 主要先進国特許庁長官非公式会合(通称パテント G8)
三極特許庁会合は審査実務的なアジェンダに限定されやすいことから、本会合は、制度
調和のあり方、近年の急速な技術革新に対応した知的財産の保護のあり方等について、主
要先進国の特許庁の長官が集まって忌憚なく議論し、21 世紀を見据えたグローバルな視点
から今後あるべき知的財産制度の新たな方向性を模索することを目的としたもの。
第 5 回主要先進国特許庁長官非公式会合は、2004 年 9 月スイス・ジュネーブにおいて、
日本・米国・英国・ドイツ・フランス・カナダ・イタリア・オーストラリアの 8 か国の特
許庁の長官が一堂に集まり開催された(なお、欧州特許庁(EPO)と欧州共同体(EC)が、
オブザーバとして参加)。
第 5 回会合では、実体特許法条約(SPLT)の限定四項目、遺伝資源や開発等途上国問題、
WIPO 予算問題等について意見交換がなされ、議論を進めるのであれば WIPO 外での枠組みを
検討することも可能性がある点について、言及があった。他方、途上国に対し、開発・技
術協力といった分野において現在行っていることを正しく伝えることが重要なのではない
かとの議論がなされた。
2
Digital Object Identifier の略。インターネット上の文献等のデジタル・オブジェクトを
URL の変更等にかかわらず恒久的に示す識別子。現在合計約 1,600 万件の文献に付与され
ている。
17
5.バイの枠組み
(1) 米国(参考資料7)
(1−1)制度改正に向けた対話
WIPO、APEC 等の多国間フォーラムでの協議に加えて、日米間では二国間協議を定期的に
開催している。
2001 年 6 月 30 日、小泉総理大臣とブッシュ大統領は、
「成長のための日米経済パートナ
ーシップ」(パートナーシップ)の重要な構成要素となる「規制改革及び競争政策イニシア
ティブ」(規制改革イニシアティブ)を設置した。実質的には、規制改革イニシアティブは
2001 年に終了した日米規制緩和対話の内容を引き継ぐものである。
第 4 回日米規制改革イニシアティブ(2004∼2005 年)において、日本側からは前年に引
き続き①早期公開制度の例外廃止、②単一性要件の緩和、③ヒルマードクトリンの改善、
④再審査制度の改善、⑤先願主義への移行の 5 項目について、早期実現を要求した。一方、
米国側からは日本側に対する特段の要望はなされなかった。現時点では上記イニシアティ
ブの報告は発表されていないが、第3回のイニシアティブについては、2004 年 6 月 8 日に
下記報告が発表された。
<参考>日米間の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に関する日米両国首脳への第三回報
告書(特許関連事項のみ抜粋)
米国政府及び日本国政府は、実体特許法の調和に向けた効果的な取り組みに対して相互に
協力していくことを再確認すると同時に、
a.米国政府は、米国の先発明主義に関する日本国政府の懸念について引き続き日本国政府
と議論する。米国は、先発明主義が米国に固有のものであると認識しているが、同主義は、
欠点はあるものの、米国内で米国のためには良く機能していると考えている。先願主義へ
の関心が高まる一方で、先願主義は米国では依然として議論の分かれる問題である。米国
政府は、ヒルマー・ドクトリンの修正という日本国政府の要請について引き続き日本国政
府と議論する。米国は、この問題がWIPOの場で進行中の実体特許法の調和の協議において
継続的に議論中であること、及び、2004年2月に米国特許商標庁で開催された三極特許法
調和作業部会で詳細に議論されたことに留意したい。
b.米国政府は、発明の単一性要件の緩和という日本国政府の要請を引き続き検討する。米
国が新たに発明の単一性基準に関する運用を採用することについて現在検討中であるこ
とは注目すべきである。
c.米国政府は、米国の早期公開制度に認められる、出願日から18ヶ月以内における特許出
願公開の例外を廃止することに関する日本国政府の要請について引き続き日本国政府と
議論する。米国政府は早期公開制度の経験により、例外の必要性の裏付けがないと判明す
ることを期待する。しかしながら、米国政府は、現在の政治情勢では、例外を減少又は撤
廃する試みが成功する可能性は低いと説明した。
d.米国政府は、再審査制度をさらに改善することに関する日本国政府の要請を引き続き検
討する。
(a)日米合意との関係
18
早期公開制度の導入と再審査制度の改善については、1994 年の日米合意内容に含ま
れていたもので、米国は 1999 年の法改正で両項目を実施した。しかしながら、早期公
開制度については米国のみに出願された内容を非公開とすることができる例外規定を
設けている点、再審査制度については、2002 年の法改正でさらに改善されたものの、
特許法 112 条に規定された要件の一部を請求理由に認めていない点など、現行制度に
おいて日米合意内容の趣旨に沿った履行はされていない。したがって我が国は上記規
制改革イニシアティブにおいて、米国が現行制度の問題点を解決し日米合意内容の趣
旨に沿った履行が早期に達成されるよう要求を続けている。
(b)先願主義への移行問題の現状
先願主義への移行問題は、WIPO 特許法常設委員会における実体特許法条約(SPLT :
Substantive Patent Law Treaty)の議論においても注目されている。現在の SPLT 案は
先願主義を前提にドラフトされているが、明示的に先発明主義を禁じる規定はまだ盛
り込まれていない。また、米国では現在第109議会が開催されているが、上院・下
院での数次の公聴会を経て、6月8日、特許制度改革法案が下院に提出された。この
法案中には、①先願主義への移行、②特許付与後の見直し制度の導入、③ヒルマード
クトリンの廃止、④早期公開制度の例外廃止 等、従来から日本より米国に対し改善
要求をしていた項目が含まれている。米国議会における法改正の動向は、経過によっ
て大幅に変更されることがあり、法改正の結果の予断を許さないため、引き続き情報
収集に努めるとともに、適時適切な働きかけを行うことが重要である。
(1−2)米国から見た我が国の知的財産制度の評価
(a)米国通商代表部(USTR)外国貿易障壁評価報告書
2005 年 3 月に USTR から発表された外国貿易障壁評価報告書(The 2004 National
Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers)では、2004 年の報告書に引き
続いて、特許訴訟の遅延、証拠開示手続きにおける秘密情報保護の欠如、周知商標保
護の不十分性について改善を求めるとともに、商標の周知性判断を職権で行っている
点、地理的表示の保護に関する法整備状況、及び、商標審査時に用いる地理的表示の
不開示リストに懸念を示した。これらの指摘に対し我が国政府は、知的財産権訴訟の
専属管轄化、調査官権限の拡大、知的財産高等裁判所の発足、裁判官の増員等、特許
訴訟手続の遅延改善のための施策を行っている点、民事訴訟法及び不正競争防止法の
改正により、営業秘密の保護を図っている点、パリ条約同盟国が職権により周知性判
断を行う事はパリ条約に整合している点、周知商標は十分に保護されている点、TRIPS
協定が定める地理的表示に関する義務を完全履行するとともに不正使用防止について
は不正競争防止法に、商標との衝突については商標法に必要規定を設けている点、商
標審査時に用いる地理的表示のリストに不開示のものはない点を米側に反論した。
(b)2005 年 USTR スペシャル 301 条レビュー結果
監視国等への対抗措置発動の前段階であるスペシャル 301 条レビューに関して USTR
は、1997 年 4 月に日本をそれまでの「優先監視国」から「監視国」に引き下げた後、
2000 年には「監視国」からも除外した。その後日本は 2001 年から 2005 年まで監視国
等には指定されていない。
(1−3)米国の新たな戦略と我が国との関係
19
2002 年 6 月 3 日、USPTO は、 The 21st Century Strategic Plan (21 世紀戦略プラン)
を同庁ウェブサイトにおいて発表した。同プランは、2001 年 8 月にブッシュ大統領が発表
した the President s Management Agenda における顧客志向、結果重視、市場に基礎
を置く連邦政府という原則を踏まえ、今後 USPTO が採るべき戦略を大きく①迅速性、②審
査の質の向上、③生産性の 3 つに分け、それぞれ具体的な施策を列挙している。さらに、
2003 年 2 月 3 日、米国内の意見等を踏まえた同プランの修正版が公表された。
上記施策の一つには、他国特許庁とのワークシェアリングにより重複業務を排除するこ
とも含まれており、我が国特許庁とのサーチ及び審査結果の相互利用に関するプロジェク
トが進行中である。これを受けて、日米欧の三極特許庁はサーチ・審査結果の相互利用の
本格的な運用に向けて、各庁が保有する電子化されたサーチ・審査結果に関する情報(電
子包袋情報)をネットワークを通じて交換する仕組み(ドシエアクセスシステム)を開発
した。
(2) 欧州(参考資料8)
欧州は①EU(欧州連合)レベル、②欧州特許条約(EPC)レベル、③各国レベルの三層
構造からなっている。(参考資料8−1)
(2−1)EU レベル
(a)EU 法規
EU 法規には、規則(Regulation)、指令(Directive)などがある。
規則(Regulation)
:すべての加盟国及び国民などに対して直接的に適用される(国内
法より優先)。また、これと抵触する加盟国の法律は無効となる。
指令(Directive) :結果の達成について各加盟国を拘束するが結果達成の実施形式・
方式(法改正等)は各加盟国に委ねられる。
EU 法規に基づき設立された機関としては、欧州共同体商標意匠庁(OHIM)などがあ
る。
(b)EU 組織
① 欧州委員会(EC)
EU の行政執行機関であり、EU の法規案を提出する権限を独占する機関でもある。
狭義には各 EU 加盟国から選出される 25 名の委員によって構成される合議体を意味
し、広義には、事務局全体を指す。
② 欧州議会
EU の諸活動に対し、民主的なコントロールを行う機関。当初は諮問機関的な位置
付けであったが、欧州統合の深化及び EU の民主的裏付けの要請と EU の政策決定に
おいてその役割を拡充してきている。議員は加盟国選出の 732 名からなる。
③ 欧州裁判所
25 人の判事で構成され、判事は 8 人の法務官の補佐を受けている。EU の基本条約
が法に従って解釈され、適用されるように図る。
④ 欧州連合理事会(閣僚理事会)
最高意思決定機関。欧州委員会から提案された政策の決定、EU 法規(規則、命令
(指令)、決定)等を制定する。加盟国の閣僚により組織され、各会議には各国 1
20
名が参加する(参加者は議題によって代わる)。
(c)特許制度の調和と EU 統一特許制度創設に向けた動き
1999 年 2 月に欧州委員会より発表されたコミュニケーション「特許を通じた技術革
新の促進」において、欧州共同体特許制度(CPC:Community Patent Convention)の
創設が提案された。これは、欧州共同体域内で単一の効力を有し、一体的に権利が生
成・消滅する特許権を設けることを特徴とする制度で、現行の各国特許制度、欧州特
許条約(EPC)の特許制度と共存するものである。これを受けて、2000 年 8 月には、
共同体特許に関する司法制度、翻訳要件の緩和等について規定した「EU 共同体特許規
則案」3が欧州委員会から欧州議会に提出されたが、翻訳要件、国内特許庁の役割等に
ついて意見の一致が見られず、採択されなかった。2003 年 3 月、ブリュッセルにて行
われた閣僚理事会では共同体特許制度創設に向けた共通政治アプローチの合意がなさ
れ、またその後も規則案の採択に向けて議論が重ねられているが、2005 年 7 月現在、
採択には至っていない。
(d)商標制度の調和と EU 統一商標制度の創設
(d−1)欧州共同体商標意匠庁(OHIM)の動向
1988 年 2 月、EU 域内における各国の商標制度の調和を目的とした EU 商標接近指令
が公布され、各加盟国は本 EU 指令に基づく国内法の整備を既に終了している。
また、EU 全域で効力を有する単一商標である共同体商標制度を設立する欧州共同体
商標規則が 1993 年に制定された。該規則に基づき欧州共同体商標意匠庁(OHIM)が設
立され、1996 年 1 月 1 日から共同体商標の出願の受理を開始し、2005 年 6 月までの登
録件数は計約 26.8 万件となっている。なお、2003 年 11 月に EC のマドリッド協定議
定書加盟のための規則改正(2004 年 10 月発効)、2004 年 2 月にサーチ制度に関する規
則改正(2008 年 3 月発効予定)が行われた。
(d−2)JPO−OHIM 協力
両庁の共通の関心に関する情報の相互提供を目的として、1999 年から首脳級会合及
び審査官会合を開催し、商標分野に関する様々な情報交換を行っている。また、2001
年 12 月に共同体意匠規則が採択されたのを受け、商標分野とともに意匠分野における
協力も新たに加わることとなり、両庁の協力関係はさらに深いものとなっている。
(d−3)日欧商標意匠会合
1999 年 3 月スペイン・アリカンテにて商標に関する首脳級の第 1 回会合を開催して
以来、JPO-OHIM 間で交互に開催している。また、「共同体意匠規則」の採択を受け、
第 3 回会合(2002 年 4 月)からは意匠分野にも討議対象を拡大し開催している。
第 4 回会合(2003 年 5 月)では、商標分野では OHIM における先行商標サーチレポ
ート作成の廃止案について、意匠分野では共同体意匠規則及び OHIM の近況、ヘーグ協
定ジュネーブアクトについて、また、両分野に共通の関心事項として、EU 拡大に伴う
今後の見通しについて情報・意見交換等を行った。
(d−4)日欧商標審査官会合
3
COM(2000)412
21
1999 年から審査官会合が開催されている。2003 年 11 月 27 日∼28 日に東京におい
て第 5 回審査官会合が開催され、結合商標の要部と混同のおそれ、類似性と混同のお
それ、図形要素、公序良俗、地理的表示を含む商標等の商標審査実務について意見・
情報交換を行った。
(e)意匠制度の調和と EU 統一意匠制度創設の動き
(e−1)EU 統一意匠制度の動向
1998 年 10 月、EU 域内各国の意匠法の調和を目的とした EU 意匠指令が採択され、EU
各国は公布より 3 年以内に国内の意匠法を当該指令に合致するように整備する義務を
負い、2001 年 10 月 28 日にその期限を迎えた。
EU 意匠指令は、法案提出から公布までに 5 年を要した。最大の争点は修理部品の保
護問題であった。自動車等の修理部品に関する意匠に関して保護を要請する大手自動
車メーカーと保護除外を求める独立系部品メーカー、保険会社等が対立し法案審議に
おいて紛糾し続けたが、この問題を棚上げする形で決着した。
また 2001 年 12 月 12 日付けで、EU 域内全域に権利が及ぶ単一意匠制度(共同体デ
ザイン)を構築する EU 意匠規則が EU 閣僚理事会により採択され成立した。これによ
り、登録によらない非登録共同体デザインの保護が 2002 年 3 月 6 日から開始された。
登録に基づく共同体デザインの保護に関しても、2003 年 1 月から OHIM において出願
の受付が開始され、2003 年 4 月 1 日には共同体登録意匠の登録が開始され、最初の公
報が発行4された。
(e−2)日欧意匠審査官会合
第 4 回日欧商標意匠会合において、審査官会合の議題を意匠にも広げて行うことが
合意されたことを受け、第 5 回日欧商標審査官会合の開催に併せて、2003 年 11 月 28
日に東京で第 1 回日欧意匠審査官会合が開催され、事務処理フロー及び審査資料、両庁
の審査基準等について意見・情報交換を行った。
(2−2)EPC レベル
(a)EPC(欧州特許条約)の位置づけ
EPC(欧州特許条約:European Patent Convention)は欧州における EPC 加盟国の特
許付与手続の単一化を規定する条約で、1977 年 10 月に発効した。EPC により設立され
た 国 際 機 関 で あ る EPOr ( European Patent Organization ) は 、 管 理 理 事 会
(Administrative Council)と欧州特許庁(EPO:参考資料8−2)とから構成される。
前者は後者を指揮・監督する機関である。後者は、欧州最大の審査機関であり、JPO
とは三極特許庁協力で長年協力関係にある。
(b)EPC 加盟国と加盟国の拡大(参考資料8−1)
2005 年 7 月現在、EPC 加盟国は 31 か国である。今後さらにノルウェー、マルタなど
が加盟予定である。
(c)拡張協定(参考資料8−3)
「拡張協定」とは、EPC の加盟国でないにもかかわらず、EPC 出願の指定国制度のよ
うに EPO の審査結果を承認して、EPC 特許の保護を自国で認める制度。2005 年 7 月現
4
http://oami.eu.int/en/design/bull.htm
22
在、EPOr との間でこの協定を結んでいる国(拡張国、Extension States)は、アルバ
ニア、クロアチア、セルビア・モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、旧ユーゴス
ラビア・マケドニア共和国の 5 か国である。
(d)欧州特許条約(EPC)改正を巡る動き
1997 年に始まった EU の動きに煽られた格好で、1999 年 6 月にフランスの提唱によ
り開催された「EPC 改正のための政府間会合」
(閣僚級)の決議を受けて EPC 改正の検
討が開始され、2000 年に、EPC の改正アクト(EPC2000)が採択された。主な改正点は
①業務負担対策、②域内ハーモの進展、③共通特許裁判所や翻訳要件緩和プロトコル
の EPC 上の受け皿の整備、④EPC の意思決定過程の強化と改正の容易化、⑤TRIPS、PLT、
PCT リフォーム等への整合性の確保と更なる対応の容易化。
なお、EPC2000 は、2005 年 7 月現在で未発効。
(d−1)欧州共通特許訴訟システムの導入
各国毎に異なる欧州特許の解釈を単一にし、保護の効率性と法的安定性を高めるよ
う、ワーキングパーティーを設置し、検討が行われていたところ、2002 年 7 月、「特
許訴訟システムを設立する協定(案)及び欧州特許裁判所規則(案)5」が公表され、
2003 年 11 月、作業部会による検討が行われたが、EU の共同体特許制度に関する検討
における裁判制度の検討行方を見ることとなり、一時的に活動を休止している。
(2−3)欧州各国情勢
(a)英国
英国特許庁(UKPO)はサーチ請求から 6 か月以内に 90%サーチレポートを発行する
等様々な目標を掲げ、サービスの向上に努めており、顧客満足度は高い。また、2003
年 2 月には品質に関する ISO9001:2000 を取得しており、また、デンマーク特許商標庁
へのサーチ業務委託を行っている。
(b)ドイツ
ドイツ特許商標庁(DPMA)は、司法省に属する組織であり、審査に対する外部の評
価は高い。
日独両特許庁間では 1995 年より日独双方に出願された出願を対象としてサーチ結
果の交換を行っている。
(c)フランス
フランス産業財産権庁(INPI)は経済財政産業省の下に置かれた独立行政法人であ
る。EPO に全件サーチを委託しており、特許情報サービス(データベース)による収
入が大きい。模倣品、地理的表示等に非常に関心が高い。
(2−4)各技術分野別の情勢
(a)バイオ
5
"Draft Agreement on the establishment of a European Patent Litigation System and draft Statute of the
European Patent Court"
23
1998 年 6 月、
「EU バイオ発明保護指令6」が、10 年にわたる議論の末に採択された。
この EU 指令は、バイオ発明の保護に関して、EU 加盟国の特許法を調和させるもので、
EU 加盟国は 2000 年 7 月 30 日までに本指令に沿った国内法の整備を義務付けられた。
しかしながら、2005 年 7 月現在、イタリア、ルクセンブルグ、ラトビア、リトアニア
の4カ国はまだ履行していない。
(b)コンピュータプログラム関連発明
(b−1)EU における動き
2002 年、欧州委員会より、EU コンピュータプログラム実施発明指令案(ソフトウェ
ア指令案)が発表され7、修正(2003 年)を経て、2004 年 5 月、コンピュータプログ
ラム自体は許可されないが、コンピュータプログラム実施発明は、物、即ちプログラ
ムされた装置として、または、ソフトウェアの実行を通じて当該コンピュータネット
ワーク、その他のプログラムされた装置によって実行される方法としてクレーム可能
とする政治的合意が形成された。しかし、2005 年7月、欧州議会において、該指令案
は、反対 648、賛成 18、棄権 14 という圧倒的多数によって否決され、廃案となった。
(b−2)EPO における動き
EPC では、コンピュータプログラム自体は特許の対象から外れている。しかしなが
ら、EPO の審決においては、コンピュータプログラム実施発明であっても、それらが
技術的特徴を有していれば特許対象となり得、また、プログラムがそれ自体としてク
レームされたか、媒体上の記録としてクレームされたかは、無関係と判示された。
(3) アジア
(3−1)中国
(a)日中特許庁会合
1994 年 3 月に中国専利局(CPO; 現・中国国家知識産権局(SIPO))の高(Gao)局長
が来日し、日中特許庁会合を開催し、特許庁会合を年 1 回開催することで意見が一致
した。
2004 年 11 月には東京にて第 11 回会合を開催し、以下の事項について情報・意見交
換及び改善に向けた要請を行った。
① 日中特許庁協力(日中審判(意匠)会合開催の合意など)
②知的財産戦略(「推進計画 2004」と JPO の施策を紹介)③知的財産保護強化対策
(模倣品対策について情報交換)
(b)日中商標長官会合
1996 年 12 月北京で開催された中国商標局と長官レベルの第 1 回日中商標長官会合
以来、日中両国において交互に開催している。
2003 年 11 月には、北京において第 5 回日中商標長官会合が開催され、周知商標の
保護、人材育成、商標「青森」等について意見交換・情報交換が行われた。
なお、第5回日中商標長官会合に先立ち、初めて、商標課長が商標評審委員会を訪問
6
7
Directive 98/44/EC on the legal protection of biotechnological inventions
2002/0047/COD
24
し、双方の組織体系、統計、手続き、機械化等について情報交換した。
(c)日中商標実務者会合
日中商標長官会合における議論の進展に伴い、実務レベルでの検討が不可欠な論点
が増加したため、2003 年 1 月 16 日、北京において第 1 回会合を開催した。第 3 回会
合(2004 年 12 月於北京)では、両庁の近況報告、周知商標の保護、審査・異議・審
判の処理等に関する情報交換を行った。
(3−2)韓国
共にペーパレス化を実現したアジアにおけるイコールパートナーとして韓国特許庁
(KIPO)との間で長官会合、機械化専門家会合を開催、2001 年よりこれに加えて日韓商標
審査官会合、日韓意匠審査官会合も開催され、協力・協調関係を推進している。
(a)日韓特許庁会合
1983 年 6 月の東京での第 1 回会合以来、日韓両国において交互に開催している(な
お 1986 年 12 月の第 4 回会合以降、1993 年 12 月の第 5 回会合まで一時開催中断)。2005
年 1 月には韓国テジョンで第 16 回会合を開催し、以下の事項について情報・意見交換
を行った。
① 両庁間協力
② PCT 料金問題に関する情報交換
③ WIPO ファンドの運用状況に関する意見交換
④ 模倣品対策に関する意見交換特許審査官交流
⑤ 日中韓特許庁間での連携強化に関する意見交換
(b)日韓機械化専門家会合
2000 年 2 月に、韓国テジョンにおいて第 1 回会合が開催され、以後年毎に両国で交
互に開催している。2005 年 7 月 13,14 日には東京で第 8 回会合が開催され、以下の事
項について議論が行われた。
① 電子出願とペーパーレスシステム
② ネットワーク
③ データ交換
④ 検索データベース
⑤ 特許情報普及
⑥ IPC リフォーム
(c)日韓商標審査官会合
2001 年 6 月に、東京において第 1 回会合が開催され、日韓の間で交互に開催されて
いる。第 3 回会合は、2004 年 3 月に東京で開催され、両庁における近況報告、外国語
商標の審査上の取扱い、地理的表示又は地名からなる商標の審査上の取扱い等につい
て意見・情報交換を行った。
(d)日韓意匠審査官会合
2001 年 10 月 9 日∼11 日に東京において第 1 回会合を開催し、2002 年 10 月韓国テ
25
ジョンにおいて第 2 回会合を、2003 年 10 月には東京において第 3 回会合を、2004 年
11 月には韓国テジョンにおいて第 4 回会合を開催した。第 4 回会合においては以下の
事項について意見・情報交換を行った。
① 両国意匠登録制度の近況
② 意匠法及び下位法令の改正動向及び審査実例を用いた類否判断等の審査運用
③ 両国の意匠審査資料(公知資料等)サーチ検索ツールの相互利用
(3−3)日中韓特許庁会合
2001 年 9 月に東京で第 1 回日中韓特許庁会合を開催し、2002 年 11 月には韓国ソウル
で第 2 回会合を、2003 年 11 月には中国北京にて第 3 回会合を、2004 年 11 月には東京
で第 4 開会合を開催した。第 4 回会合においては、以下の事項について意見・情報交
換を行った。
① 三庁間の協力(機械化に関する協力の進捗報告等)
② 各庁の動向の紹介(JPO からは推進計画 2004、地域・中小企業支援、AIPN の機能充実等
について紹介)
③ ASEAN との協力(JPO からはアセアン地域に対する人材育成協力や情報化支援について
紹介)
④ 国際的な知的財産権問題(日米欧三極特許庁会合の概要報告)
⑤ 今後の日中韓協力
(3−4)ASEAN+3 知的財産権庁会合
2001 年 9 月に東京で ASEAN9 か国並びに日中韓 3 か国の知的財産権庁長官等が集まり第 1
回会合を開催した。第 2 回会合は 2004 年 3 月に開催され、日中韓からは課長クラスが参加
し、日中韓を含む各国の現状の報告及び我が国特許庁から「日本特許庁の電子化の展望」
と題した、審査結果の電子的な利用に関するプレゼンテーション等を実施した。
(3−5)ASEAN 知的財産作業部会
ASEAN 知的財産作業部会は、ASEAN 諸国の知的財産権庁の代表による会合であり、毎年
2回程開催されている。我が国特許庁は本会合の一部であるコンサルテーションセッショ
ンに参加している。各会合において我が国における知的財産権保護制度等に関する状況を
紹介し、意見を交換するとともに、ASEAN 諸国から協力に対する要望事項等を聴取してい
る。
(3−6)経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)交渉
2002 年 11 月、我が国初の FTA となる日シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)が発効
した。この協定の中には、知的財産に関する章が設けられ、(i)日本とシンガポールに同一
の発明に関する特許出願を行った出願人が、日本における特許審査の結果に係る情報を英
語訳とともにシンガポール知的財産権庁に提出すれば、簡易な手続かつ安価な料金でシン
ガポールの特許を取得できるようにすること(2002 年 8 月に実現)、(ii)シンガポール知的
財産権庁が所有する知的財産権情報検索ポータルである SurfIP と日本国特許庁の特許電子
図書館(IPDL)データベースとを連携させること等が盛り込まれている。
2002 年 11 月に交渉が開始された日・メキシコ経済連携協定は、2004 年 9 月に署名され、
26
2005 年 4 月に発効した。知財関連では、「物品の貿易」章において TRIPS 協定に規定する蒸
留酒の地理的表示の保護についてお互いに保護を行うことが規定されている。また、同協
定の署名時の首脳共同声明において、同協定の締結に伴い、両国政府が知的財産権を侵害
する模倣品及び海賊版を撲滅するために必要な行動をとること、並びに「表彰の国際登録
に関するマドリッド協定に関する議定書」が商標の効果的及び世界的な保護に貢献するこ
とが確認され、メキシコ政府が同議定書を批准するためにあらゆる努力を払う意図が再確
認された。
2004 年 2 月から正式交渉を開始したフィリピンとの経済連携協定(JPEPA)交渉は同年 11
月に、2004 年 1 月から正式交渉を開始したマレーシアとの経済連携協定(JMEPA)交渉は 2005
年 5 月にそれぞれ大筋合意に、2004 年 2 月から正式交渉を開始したタイとの経済連携協定
(JTEPA)交渉は 2005 年 8 月に大枠で合意に達し、各協定条文の調整作業中である。
我が国は現在、韓国との間で協定締結交渉を行っている。知的財産分野に関しても、TRI
PS協定の水準を超えるルールの導入等を相手側に対して要望している。また、ASEANとは20
05年4月、インドネシアとは2005年7月にそれぞれ協定締結交渉を開始しており、知的財産
分野に関しても交渉を行っていく予定である。
27
6.途上国に対する施策
2000 年 1 月 1 日に WTO/TRIPS 協定の履行義務が発生したことにより(後発開発途上国の
場合は 2006 年 1 月 1 日)
、途上国における知的財産権法制度は最低限整備されたと考えら
れるが、審査官の経験不足や審査用資料の未整備等の審査体制の不備のため、審査遅延、
審査基準の不統一等の問題が生じている。また、民間の知的財産権に対する意識は依然低
く、権利行使を行うための体制も十分に整備されていない。
こうした中、我が国は、主にアジア太平洋地域の途上国の知的財産権に係る保護水準を高
めるために、JICA、WIPO ジャパン・トラスト・ファンド(日本国政府任意拠出金)*をはじ
め様々なスキームを用いて「審査協力」、「知的財産権関係の人材育成協力」、「各国特許庁
の情報化協力」等の協力を行っている。
<参考> WIPOジャパン・トラスト・ファンドのための任意拠出金
日本政府は、WIPO (世界知的所有権機関)に対して1987年から任意拠出金を支出。こ
の拠出金を基に、信託基金「WIPOジャパン・トラスト・ファンド」が組まれ、国連アジ
ア太平洋経済社会委員会(ESCAP)地域のWIPOメンバー途上国を対象として、シンポジ
ウム等の開催、研修生及び知的財産権長期研究生の受入れ、専門家派遣、知的財産権庁
の情報化、近代化支援などの各種事業が実施されている。
(1) アジア諸国等への協力
1993 年 10 月にシンガポールで開催された第 2 回日 ASEAN 貿易産業大臣会合(AEM-MITI)
において、わが国は知的財産協力プログラムを提示した。現在、ASEAN を中心としたアジア
太平洋地域の途上国に対し①人材育成協力、②情報化協力、③審査協力を柱に、JICA、WIPO
ジャパン・トラスト・ファンド等様々なツールを活用した協力を実施中である。また、2001
年 9 月には ASEAN に日中韓三国を加えた初の ASEAN+3 知的財産権庁会合を東京において開
催。さらに ASEAN 知的財産作業部会の場において、知的財産保護制度等に関する意見交換
を行うとともに、協力に対する ASEAN 側の意見・要望を聴取するなど、域内各国のより緊
密な連携のもと協力を推進している。
(1−1)人材育成協力
(a)研修事業
我が国は、従来から途上国の知的財産権保護の体制づくり、人材育成に貢献するた
め、各種事業を実施してきた。特に研修生の受け入れに関しては、1996 年(社)発明
協会内に「アジア太平洋工業所有権センター」を設立し、途上国から官民合わせて年
間約 200 名の知的財産権分野の研修生を受け入れている。
(2004 年度は短期研修(2∼
3 週間)を 13 コースと、長期研修(約 6 ヶ月)を 2 スキームにて実施。
)1996 年度か
ら 2005 年 3 月までに主としてアジア太平洋地域の 42 か国 1 地域から 2074 名の研修生
を受け入れた。
28
【途上国協力(研修生受入・専門家派遣)】
2004年度までの研修生受入実績
合計
2,074人
研修生受入
>政府職員
・知財庁職員, 税関職員, 警察官, 裁判官
>民間職員
・法律家, 知財教育者, 企業管理者等
研修生受入
民間部門
政府職員
AOTS
JICA
WIPOファンド
海外技術者研修協会
(独)国際協力機構
世界知的所有権機関
開発途上国
特許庁
(主にアジア太平洋地域)
JIII
発明協会
専門家派遣
シンポジウム、
セミナーの開催
専門家派遣
>長期専門家
・知財庁の情報化
>短期専門家
・審査手続, 審判制度等.
2004年度までの専門家派遣実績
合計
449人
(b)専門家派遣、セミナー等の開催(2004 年度実績)
① JICA スキーム
・短期専門家をインドネシア(計 4 名:商標審査基準にかかる指導のため(1 名)、
巡回セミナースピーカーのため(3 名))、ベトナム(2 名: 知的財産権情報活用プロ
ジェクト実施のため)、フィリピン(1 名:工業所有権近代化プロジェクトフォローア
ップのため)に計 7 名派遣した。
・ベトナムで実施中の「知的財産権情報活用プロジェクト」に長期専門家を 2 名派遣中
である。
・インドネシアで実施中の「工業所有権行政改善プロジェクト」に長期専門家を 1
名派遣中である。
② WIPO ジャパン・トラスト・ファンドスキーム
・短期専門家を中国に 4 名 (特許審査手法指導のため)派遣した。
・WIPO アジア太平洋地域ワークショップ(2004 年 12 月中国で開催)
29
テーマ:「中小企業への知的財産の普及啓発」
・WIPO アジア太平洋地域ワークショップ(2004 年 12 月パキスタンで開催)
テーマ:「商標及びマドリッドシステムの経済的重要性」
・WIPO ナショナルセミナー(2005 年 2 月インドで開催)
テーマ:「知的財産権のエンフォースメント」
③その他
・インドネシア巡回セミナー
(2004 年 7 月に大学等支援セミナー、
2004 年 8 月にエンフォースメントセミナーを開催)
・フォローアップセミナー
日本が提供する知的財産権研修コースに参加した人々やその関係者が、引き続き
自国の知的財産分野において重要な役割を果たすためのフォローアップと、関係者
間の連携を強化することを目的として開催されている。 2004年度は、タイ(2004
年9月) 、インドネシア(2004年9月) 、ベトナム(2004年11月) 、中国(2005年2月)
で開催された。
(1−2)情報化
(a)フィリピン工業所有権近代化プロジェクト
フィリピン知的財産権庁(IPO)に対し、1999 年 5 月から 2003 年 5 月まで長 期 専
門 家 を 派 遣 し て JICA を通じた協力を行い 、4 年間で特許、実用新案、意匠の事務処
理システム構築を通じ、人材育成を行った。2004 年 11 月 か ら は 上記プロジェクト
のフォローアップを 実 施 し て い る 。
また、上記協力以前にも、1995年3月から1997年3月まで商標検索システムについて、
1996年5月から1998年5月まで商標事務処理システムについて、1997年4月から2000年4
月まで商標管理システムについて、それぞれのシステム構築を通じて人材育成を行っ
た。
(b)ベトナム工業所有権業務近代化プロジェクト、知的財産権情報活用プロジェクト
ベトナム国家知的財産権庁(NOIP)に対し、2000 年 4 月から 2004 年 6 月まで JICA
を通じ「 工 業 所 有 権 業 務 近 代 化 プ ロ ジ ェ ク ト 」 に よ る 協力を行い、当庁職員 4
名(通算)を長期専門家として派遣した。この協力に お い て は 、 産業財産権にかか
わる事務処理システムの構築を通じて人材育成を行っ た 。
こ の 成 果 を 基 に 、さ ら に 産 業 財 産 権 業 務 の 近 代 化 を 実 現 す る た め 、2005 年
1 月 か ら JICA を 通 じ 「 知 的 財 産 権 情 報 活 用 プ ロ ジ ェ ク ト 」 を 実 施 し て い る 。
この協力においては、検索システム及び情報提供システムの構築、およびこ
れら構築を通じた人材育成を目指しており、現在当庁から 2 名の長期専門家
を派遣している。
(c)タイ知的財産権庁出願事務処理システム(ソフトウェア開発)事業
1995 年から 2000 年まで、タイ知的財産権庁(Department of Intellectual Property
= DIP)に対して情報化協力を実施した(JICA プロジェクト方式技術協力)。2002 年
8 月からは WIPO ジャパン・トラスト・ファンドスキームで、出願受付から最終処分に
至るまでの出願事務処理ソフトウェアの基礎部分を構築、同ソフトの DIP への設置の
30
ため、現地事務処理運用に合わせたカスタマイズを実施し、2005 年 4 月から運用を開
始した。
(d)外国工業所有権制度情報整備協力事業
1999 年から 2003 年までの間、主要各国の産業財産権法令 CD-ROM を作成。検索機能
を付加し APEC 諸国を中心に無償配布した。2004 年からは、主要各国の産業財産権法
令を特許庁ホームページに掲載し、利用者の利便性向上を図っている。
(e)JICA 開発調査を通じた情報技術活用支援(マレーシア、インドネシア)
JICA の開発調査により、マレーシア知的財産権公社(IPCM)に対して、工業意匠に
係る事務処理システム構築など、不足機能を追加するための支援を行った。また、イ
ンドネシア知的財産権総局(DGIPR)に対して、インターネットを通じた権利情報等の発
信を行う IPDL 構築、知的財産権行政サービスシステム(地方とのネットワーク)構築、
人材育成などの支援を行っている。
(1−3)審査協力
(a)公開特許公報英文抄録(PAJ)の作成・送付
日本に出願された技術について、海外で第三者により特許取得される問題等を未然
に防ぎ、途上国における審査の質の向上に資するため、公開特許公報の書誌事項及び
要約部分の英文翻訳(英文抄録)と代表図面からなる公開特許公報英文抄録(PAJ)
CD-ROM を作成し、1995 年 4 月から海外知的財産権庁及び国際機関等約 95 か所に無償
で送付している。
(b)WIPO 技術水準サーチ協力
WIPO 事務局を通じ送付される、途上国知的財産権庁・研究機関等からの先行技術サ
ーチ依頼に対し、先行技術情報を調査・提供している。
(2) 我が国審査結果の利用促進
(2−1)日本国特許庁の修正実体審査(MSE)所定特許庁化【マレーシア、シンガポール】
MSE 制度8を有するマレーシア及びシンガポールに対し、日本国特許庁を MSE 所定特許庁
とし、出願人が我が国の対応特許出願に係る審査結果を提出することによって原則無審査
で特許権を獲得し得るようにするための取り組みを実施。
その結果、シンガポールについては、日シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)に日
本国特許庁の所定特許庁化が盛り込まれた。これに基づいて、シンガポール特許法施行規
則が改正され、2002 年 8 月 15 日付けで日本国特許庁の所定特許庁化が実現した。また、
マレーシアについては、個別交渉の結果、マレーシア特許法施行規則が改正され、2002 年
7 月 1 日付けで我が国の所定国化が実現した。なお、欧州のクロアチアについては、2001
8
修正実体審査(MSE)制度
当該国特許庁と当該国が指定する所定特許庁に、互いに対応する特許出願がなされている場合において、
出願人が所定の手続に従って所定特許庁における対応出願の審査結果に係る情報を当該国特許庁に提出す
ることにより、当該国において原則無審査で特許権を付与する仕組み。
31
年 6 月に日本国特許庁の所定特許庁化が既に実現している。
<参考> マレーシア及びシンガポール特許制度における所定特許庁(MSE 対象庁)
マレーシア特許制度における所定特許庁はオーストラリア、英国、米国の各特許庁及
び欧州特許庁。また、シンガポール特許制度における所定特許庁は、マレーシアのそれ
にカナダ及びニュージーランドの各特許庁を加えたもの(ただし、欧州特許庁の場合、
英語による出願のみが対象)。これまでマレーシア知的財産権公社(IPCM)及びシンガ
ポール知的財産権庁(IPOS)は、対応特許出願が英語の出願であることを、MSE 適用の
前提と考えていた。
(2−2)出願人の対応外国特許出願審査結果提出義務の明確化【タイ】
MSE 制度を有しない国においても、出願人が我が国審査結果を提出した場合、それが最大
限当該国の審査に生かされる環境を作ることに注力している。具体的には、第 5 回日タイ
特許庁会合(2001 年 6 月)にて、タイ特許法における出願人の対応外国特許出願審査結果
提出義務の運用を明確化するとともに、タイ知的財産権局(DIP)は、提出された日本国特
許庁の審査結果を活用して適切な処分を行う旨、両庁間で確認を行った。
(2−3)高度産業財産ネットワーク(AIPN)の構築
我が国特許庁は、我が国と海外特許庁とに共通する特許出願について、我が国のサーチ
及び審査結果が有効に利用されることにより、我が国出願人の海外における権利取得を迅
速化すること、及び、海外特許庁におけるサーチ・審査負担を軽減することを目的として、
特許出願の経過情報、引用文献情報、特許付与後クレームやパテント・ファミリー情報等
を英語に機械翻訳して海外特許庁に提供するシステムであるアジア産業財産ネットワーク
(AIPN: Asian Industrial Property Network)を構築し、主としてアジア地域の知的財産
権庁に対して我が国の審査関連情報を提供してきた。
2004年10月には、このシステムに我が国の審査書類(ドシエ)を提供する機能を追加する
とともに、名称を高度産業財産ネットワーク(AIPN: Advanced Industrial Property Netw
ork)に変更した。
我が国特許庁は、途上国における特許審査協力のため AIPN の普及に努めており、2005 年
7 月末現在、20 の国・機関において AIPN の利用が可能となっている。
(2−4)特許協力条約(PCT)国際出願に対する国際調査報告書(ISR)及び国際予備審
査報告書(IPER)の作成【フィリピン】
フィリピンの PCT 加盟(2001 年 8 月)に伴い、日本国特許庁が、2002 年 1 月より同国か
らの PCT 英語国際出願に対する管轄国際調査機関(ISA)、国際予備審査機関(IPEA)とし
て行動することになった。
(2−5)意匠審査結果の提供
途上国における意匠実体審査の処理促進を支援するために、日本及び協力対象国の両国
に共通して出願された意匠登録出願について、日本における当該出願の審査結果(登録が
なされた出願についてのみ)を相手国知的財産権庁に対して提供する協力を行っている。
(タイ知的財産権局(DIP):2002 年 1 月開始、ベトナム国家知的財産権庁(NOIP):2002
年 9 月開始)
32
7.模倣品問題への対応
(1) 模倣被害と産業界における取組の現状
近年、海外における模倣品による被害が深刻化している。中国・台湾・韓国を始めとす
る東アジア地域においては、産業技術が発達するとともに知的財産権が十分に保護されて
いないこと等により、商標権や意匠権の侵害にとどまらず特許権を侵害される事例も増え
ている。また、経済のグローバル化に伴い、東アジア地域で製造された模倣品が輸出され
てアジア全域や欧米等にまで流通し、中には我が国に逆流する場合もある等、模倣品によ
る被害は大きな拡がりを見せている。
模倣品の氾濫は我が国企業にとり、海外における市場の喪失、消費者に対するブランド・
イメージの低下、製造物責任を巡るトラブルの増加等の悪影響をもたらすものであるため、
海外で事業を展開する場合には積極的に模倣品対策を講じる必要がある。
最近では、精力的な調査活動により模倣品の製造業者や流通ルートを特定した上で、現
地取締機関に取締りを要請する等、模倣品対策に熱心に取り組む企業・業界が増えてきて
いる。しかしながら、これらの取組には粘り強い努力が必要であり、人的・資金的制約の
中で十分な対応ができていない場合も多い。また、個々の企業・団体単位による対応では
現地政府・取締機関に対する交渉力に限界があることも否めない。
このような状況を踏まえ、業種横断的な産業界の連携を推進し、我が国政府と一体とな
って模倣品対策を強化するため、2002 年 4 月に「国際知的財産保護フォーラム9」が設立さ
れ、「産業界からの提言策定」、「侵害国政府への模倣品対策強化要請」、「情報交換・
調査研究」、「侵害国政府に対する人材育成協力」といったプロジェクトを実施している。
【表1. アジアにおける模倣品の製造国】(複数回答)
0%
20%
韓国
タイ
マレーシア
シンガポール
ベトナム
フィリピン
その他アジア
60%
80%
【 N=模 倣 被 害 社
3.6
4.1
4.5
4.8
4.7
4.1
3.0
3.6
3.0
1.6
2.7
2.2
3.1
3.3
全 体 】
70%
6 6 .8
22.9
25.5
19.7
22.6
台湾
インドネシア
40%
52.3
54.1
中国
【表2. 模倣被害の態様の推移】(複数回答)
60%
50%
5 9 .2
4 8 .3
4 2 .0
4 0 .9
3 3 .0
4 0 .4
3 1 .2
4 4 .9
4 1 .4
40%
30%
5 2 .7
5 0 .6
2 9 .6
4 4 .3
4 3 .2
4 7 .6
5 3 .3
5 9 .0
5 6 .9
5 1 .3
4 6 .2
2 9 .2
2 9 .2
2 0 .7
20%
2003年 全体
【N=641】
10%
2002年 全体
【N=580】
0%
1 7 .9
9 .4
9 .9
4 .5
1997年
【N =247】
1998年
【N =336】
8 .6
1999年
【N =385】
2000年
【N =722】
A 商 標
C 特 許 ・実 用 新 案
E そ の 他
1 0 .4
2 0 .3
8 .7
2001年
【N =733】
2002年
【N =580】
2003年
【N =641】
B 意 匠
D 著 作 物
(資料)表 1、2 ともに「2004 年度模倣被害調査報告書」より
○模倣被害を受けた企業社数641社中、52.3%の企業が中国で模倣品が製造されたと回答(複数回答有り)。台湾
(22.9%)、韓国(19.7%)がこれに続く。(表1)
○2003年度、模倣被害を受けた企業のうち、過半数の企業が特許権・実用新案権(59.0%)、商標権(56.9%)、意匠
権(51.3%)の被害をあげた。推移をみると、2001年度以降、いずれの態様も被害率が上昇している。
9
2002 年 4 月に発足(座長:宗国旨英本田技研工業㈱会長)2005 年 7 月現在 170 の企業・団体が参加
33
(2) 模倣品問題に対する特許庁の取組
海外での模倣品問題の深刻化を踏まえ、特許庁においても様々な対策を講じている。
(2−1)我が国企業への情報収集・提供、相談対応
海外における我が国企業の被害状況を把握するため、毎年、アンケートにより「模倣被害
実態調査10」を実施している。また、模倣被害の多発する国・地域における対策方法に関す
る情報をとりまとめた「模倣対策マニュアル11」や知的財産権侵害事例・判例を収集して解
説を加えた「知的財産権侵害事例・判例集12」を作成するとともに、国内外で日系企業を対
象としたセミナーを開催し、模倣品対策に必要な情報を提供している。
その他、模倣品(産業財産権侵害)に関する権利者等からの個別の相談に対応し、模倣
品対策に必要なノウハウの提供に努めている。
(2−2)産業界との連携
国際知的財産保護フォーラム((1)参照)との連携を強化することにより、産業界の
取組に対する支援を行っている。
(2−3)相手国政府への働きかけ
中国、韓国、台湾等模倣被害の深刻な国・地域に対しては、特許庁長官会合、ハイレベ
ル経済協議等の二国間協議の場を通じて、相手国政府へ模倣品取締の強化を要請している。
また、WTO の TRIPS 理事会、WIPO エンフォースメント諮問委員会、APEC 等の多国間協議の
場においても、模倣品対策強化の重要性を訴えかけている。
特に、中国の中央政府及び地方政府に対しては、国際知的財産保護フォーラムと政府が
連携して官民合同ミッションをこれまで3回派遣し、模倣品対策強化等の要請を行ってい
る。第3回目の官民合同訪中ミッションでは、法整備・運用の改善といった要請に加え、
取締りをより実効的・効率的にするために真贋鑑定セミナーや技術研修の実施等、協力の
申し入れを行った。
(2−4)相手国政府に対する人材育成支援
模倣被害の深刻な国・地域における取締りの実効性向上を図り、現地の税関、警察、裁
判所職員等の関係機関の人材育成を支援している。毎年、アジア各国の取締機関職員を研
修生として日本に招聘するとともに、現地においてセミナーを開催している。
(2−5)国内取締機関との連携・水際対策の強化
国内での模倣品製造・流通を防ぐため、我が国の税関や警察からの侵害事件に関する照
会に対応する等、取締りに協力している。
水際対策の強化としては、2003 年 4 月に関税定率法の改正を行い、商標権侵害物品に加え
特許権、実用新案権及び意匠権を侵害する物品を輸入差止申立制度の対象とするほか、権
利者の求めによる税関長から特許庁長官への意見照会制度を設けるなど所要の措置を講じ
10
11
12
模倣被害の実態 http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/jittai/jittai.htm
模倣対策マニュアル http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/manual/manual.htm
知的財産権侵害事例・判例集 http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/jirei/jirei.htm
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ている。
(2−6)消費者等に対する啓発活動
小冊子やインターネット・コンテンツを製作・頒布することにより、善意の消費者の被
害を防ぐために模倣品流通の実態について周知するとともに、故意による模倣品購入を防
ぐために知的財産権保護の重要性を訴えている。また、『模倣品撲滅キャンペーン』を実
施し、ポスターやテレビ CM などを使い積極的に啓発活動を行っている。
「模倣品・海賊版撲滅キャンペーン」
ポスター&テレビ・スポットCM
模倣品に関する一般消費者向け冊子
模倣品流通防止啓発用インターネット・コンテンツ
「FAKE TOWN」
→ http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/kanren/1403-069.htm
「ネットオークションにおけるニセモノ撃退マニュアル」
→ http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/kanren/gekitai_top.ht
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