年次報告 (2006-2008 年度) 石渡 聡 研究の概要 2006−2008年度は科学研究費補助金(若手研究(B))研究課題名「熱核の gradient の Gauss 型評価に伴う空間の幾何学的性質の研究」(2006−2008年度)に基づき、 次のような研究を行った。 1. グラフの変形における熱核の gradient のガウス型評価の安定性 非コンパクトリーマン多様体および無限グラフにおいて、熱核の gradient の Gauss 型評価 (GHE): C 2 √ e−bd (x,y)/t ∇h(t, x, y) ≤ √ tV (x, t) は調和解析、確率論において近年注目されている評価である。いくつかの良い条件のもと では (GHE) が成立することが知られているが、空間のどのような性質が本質的に関わって いるのかはわかっていない。そこで本研究ではグラフを変形するとき、どのような変形では (GHE) が保たれるかを調べ、安定であるための十分条件を得た(論文 [2])。この結果に より、(GHE) を持つ空間の例を多く構成できることができるようになった。 2. ベキ零被覆グラフの変形における中心極限定理の安定性 ベキ零離散群が cofinite に作用しているグラフ(ベキ零被覆グラフ)上のランダム・ウォー クは、対応するベキ零 Lie 群にグラフをうまく実現し、スケーリングをとることにより時刻 無限大での挙動が Lie 群上の Brown 運動で近似できるという中心極限定理が2000年、 報告者により示された。ここではグラフの周期的構造が重要な役割を演じているが、上記 (GHE) の安定性を用いることにより、ベキ零被覆グラフのある変形の下ではそのグラフを 同じベキ零 Lie 群に実現することにより関数解析的中心極限定理が成り立つことを示した (論文 [3])。 3. Poincaré の不等式は満たすが熱核の geadient はガウス型評価を持たない空間の構成 Coulhon-Duong は1999年、空間の連結和上では (GHE) が成り立たないことを示した。 その証明では連結和上では Poincaré の不等式が成り立たないことが重要な役割を持つ。一 方、1998年、Heinonen-Koskela により連結和の連結部分の太さにより Poincaré 不等式 の特徴付けが得られている。 このような背景から、本研究では Poincaré 不等式は成り立つが、(GHE) は持たないような 空間が存在するか?について研究を行い、ZD 格子の連結和で連結部分の増大度が D − 1 未 満ならば (GHE) を満たさないことを示した(論文 [4])。これにより Poincaré 不等式は成 り立つが (GHE) は持たない空間を多く構成できるようになった。 学術論文および著書 1.著者: 石渡 聡 題名: Discrete version of the Dungey’s proof for the gradient estimate on coverings 雑誌名: Ann. Math. Blaise Pascal, 14 (2007) no. 1, 93–102. 2.著者: 石渡 聡 題名: Gradient estimate of the heat kernel on modified graphs 雑誌名: Potential Anal. 27 (2007), no. 4, 335–351. 3.著者: 石渡 聡 題名: A central limit theorem on modified graphs of nilpotent covering graphs. 雑誌名: Spectral analysis in geometry and number theory, 59–72, Contemp. Math., 484, Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2009. 4.著者: 石渡 聡 題名: Gradient heat kernel estimate on gluings of two ZD lattice graphs. 投稿中 5.著者: 石渡 聡 題名: Connectivity on discrete nilpotent groups 投稿準備中 口頭発表・講演 1 「熱核の gradient のガウス型評価」東京確率論セミナー, 東京工業大学, 2006年 6月. 2 「A stability of a gradient estimate for the heat kernel on graphs」Asymptotics in Geometry, 東北大学, 2006年7月. 3 「熱核の gradient がガウス型評価を持つ空間と持たない空間」第53回幾何学シンポ ジウム、金沢大学、2006年8月. 4 「ベキ零離散群の連結性」筑波大学微分幾何学火曜セミナー、筑波大学、2006年 9月. 5 「A connectivity of discrete nilpotent groups」Department Lecture, University of Cyprus, キプロス、2006年10月. 6 「Connectivity of discrete nilpotent groups」Sendai Max Dehn seminar、東北大学、2 006年10月. 7 「ベキ零離散群の連結性」多様体上の微分方程式、金沢大学、2006年12月. 8 「グラフ上のランダム・ウォークに関する関数解析的中心極限定理」神奈川大学数学教 室談話会, 2007年1月. 9 「ベキ零離散群の連結性」2007年度年会、埼玉大学、2007年3月 10 「Connectivity on discrete nilpotent groups」Analysis on Graphs and Fractals, Cardiff University, UK, 2007年5月31日. 11 「Gradient heat kernel estimate on gluings」談話会,岡山大学理学部,2007年7 月 4 日. 12 「Random walks on nilpotent covering graphs」International Conference ”Spectral Analysis in Geometry and Number Theory” on the occasion of Toshikazu Sunada’s 60th birthday, 名古屋大学,2007年8月9日. 13 「Gradient heat kernel estimate on gluings」幾何学阿蘇研究集会,休暇村阿蘇,20 07年9月3日. 14 「Gradient heat kernel estimate on gluings」確率論と幾何学,熊本大学,2007年 10月19日. 15 「Gradient heat kernel estimate on gluings」微分幾何学火曜セミナー,筑波大学,2 007年10月23日. 16 「Behavior of the Heat kernel on gluings」談話会,東京理科大学理工学部,2007 年11月8日. 17 「ベキ零離散群上のランダム・ウォークの漸近挙動について」仙台放物型・楕円型方程 式研究集会,東北大学,2007年11月17日. 18 「熱核の gradient 評価と Riesz 変換の Lp 有界性」バナッハ環セミナー,筑波大学,2 007年11月21日. 19 「Heat kernel on gluings」福岡大学微分幾何学研究会,福岡大学セミナーハウス,20 08年1月12日. 20 「Heat kernel on gluings」リーマン幾何と幾何解析,筑波大学,2008年2月18日. 21 「Gradient heat kernel estimate on gluings」Stochastic Analysis and Applications, 2008, 九州大学西新プラザ,2008年9月12日. 22 「Heat kernel on gluings」松江セミナー,島根大学総合理工学部,2008年11月 5日. 23 「Heat kernel on gluings」微分トポロジーセミナー,京都大学理学部,2008年12 月9日. 24 「Heat kernel on gluings」数理情報科学セミナー,広島大学総合科学部,2009年1 月26日. 海外渡航 • 2006年9月30日∼ 2006年10月10日 キプロス 大学(キプロス) • 2007年5月28日∼6月4日, カーディフ大学(イギリス) • 2007年10月4日∼10月17日, セルジーポントワーズ大学(フランス)・ハウ スドルフ研究所、ビーレフェルト大学(ドイツ) 学会その他学内・外における活動 2006年度 • 微分幾何学火曜セミナー世話人 • 談話会委員 • ホームページ委員 2007年度 • 微分幾何学火曜セミナー世話人 • 数学クラブ会計係 • ホームページ委員 2008年度 • ホームページ委員
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