Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol +1-202-326-6440 [email protected] Science 2013 年 7 月 26 日号ハイライト マウスに植え付けた偽の記憶 人的ネットワークにおける情報伝播 糖尿病治療のためにバイパスをバイパスする方法 中性子星によって解明される高密度の核物理現象 マウスに植え付けた偽の記憶 False Memories Implanted Into Mice 記憶は頼りにならないことがある ―― これは世界中の裁判制度で目撃証言の重要性が限定 されていることから実証されている事実である。実際のところ、単に記憶を思い出すという 行動さえも、記憶を不安定にして変化を受けやすくしてしまう。しかし現在まで、どのよう にして、ある状況で、正しいように思われる(しかし完全に偽の)新しい記憶を作る外部刺 激を受けると、このような心的表象が不鮮明になるのかはわかっていない。Steve Ramirez ら は、光学的および遺伝的操作を組み合わせて、マウスの心に偽の記憶を植え付け、このマウ スが、全く異なる状況で心的表象(1 つの状況で捏造した)を思い出すようにした。Ramirez らは、マウス脳の歯状回(DG)という領域にある顆粒細胞の集団を検討し、光でニューロ ンを刺激すると、事象と環境の間に偽の関連性を作り出せることを明らかにした。詳細を述 べると、Ramirez らは、特定の環境における足へのショックによって、マウスのどの DG 顆 粒細胞が活性化されたかを調べた。次に、このマウスを、ショックのない別の環境に移し、 同じニューロンを光遺伝学的手法で刺激した。すると、ショックを受けたときに発火したニ ューロンを再活性化することで、ショックを与えなくてもマウスがフリーズ(恐怖記憶に対 する自然な反応)することが明らかになった。事実、植え付けられた偽の記憶は非常に頑健 であり、マウスは最終的に条件付けされ、これらの DG 顆粒細胞を再活性化しなくても不適 切な時にフリーズするようになった。この知見は、恐怖記憶を人工的な方法で誘発できるこ とを示しており、人における偽の記憶の形成メカニズムを研究するためのモデルを提供して いる。 Article #16: "Creating a False Memory in the Hippocampus," by S. Ramirez; X. Liu; P.-A. Lin; J. Suh; M. Pignatelli; R.L. Redondo; T.J. Ryan; S. Tonegawa at RIKEN–Massachusetts Institute of Technology (MIT) Center for Neural Circuit Genetics at the Picower Institute for Learning and Memory in Cambridge, MA; S. Ramirez; X. Liu; P.-A. Lin; J. Suh; M. Pignatelli; R.L. Redondo; T.J. Ryan; S. Tonegawa at Massachusetts Institute of Technology in Cambridge, MA; X. Liu; R.L. Redondo; T.J. Ryan; S. Tonegawa at Howard Hughes Medical Institute in Cambridge, MA. 人的ネットワークにおける情報伝播 How Information Travels Through Human Networks インドの村で提供されるマイクロファイナンスサービスについての新しい研究により、情報 が人間集団の中をどう伝わるかが示され、サービス普及の速度と範囲に影響を及ぼすのはそ のサービスを最初に知った人であることが明らかになった。今日の政策立案者らは自分たち のメッセージを確実に広く伝えようと懸命に努力している。しかし、可能な限り大勢の人の 利益になるように社会的ネットワークにメッセージを流入する方法はまだ研究途中である。 Abhijit Banerjee らは今回、伝播の中心性と定義した基準 ―― 社会的ネットワークの中でそ のサービスを最初に知った人の位置 ―― によって情報がどの程度広く伝わり、他の人々が どの程度迅速にそのサービスを利用するかを予測できると述べている。2006 年にマイクロ ファイナンス機関である Bharatha Swamukti Samsthe(BSS)がインド南西部のカルナータカ 州の村でこのサービスを展開すると発表した際、Banerjee らはこの機会を活用して情報伝播 についての研究を実施した。BSS の情報伝播モデルでは、重要事項として、すべての村民に 情報を伝えるためになじみ深い情報注入ポイント、つまり BSS が村民から選んだ広い人脈 を持つリーダー的な人物が指定された。Banerjee らは BSS より 6 ヵ月前に村に入ることで、 各村における人的ネットワーク地図を作成し、BBS が村に参入した時点からマイクロファイ ナンスに関する情報の伝播 ―― および村の人々によるサービスの利用 ―― を記録できる ようにした。この種の研究は伝統的に疫学と疾病伝播力学に基づくが、今回の研究では、 人々は情報を得るだけで実際には利用しない(疫学的に言うと、「感染」しない)ことが可 能なため、研究結果の解析は極めて複雑であった。Banerjee らは 4 年以上にわたって 43 の インドの村で村に関するアンケート調査や全世帯調査を実施した結果、注目すべきパターン を複数確認することができた。まず、マイクロファイナンスサービスを利用している人は利 用していない人に比べてその情報を伝える傾向は 7 倍大きかった。次に、最初にこのサービ スについて知った人の中心性、言い換えると、社会的ネットワーク内での位置が村レベルで のサービスの利用状況についての極めて正確な予測因子だと考えられることも確認した。ま た、村民から別の村民への情報伝播において、サービスを利用していない友人からこのサー ビスについて聞いた場合は、このローンサービスの利用を決定するという意味で影響力が小 さかった。Banerjee らが定義した中心性という特性は、政策を社会に導入する際にそのメッ セージが最大限伝わるように導入する方法を決定するのに役立つと考えられる。 Article #9: "The Diffusion of Microfinance," by A. Banerjee; E. Duflo at Massachusetts Institute of Technology in Cambridge, MA; A.G. Chandrasekhar at Microsoft Research New England in Cambridge, MA; A.G. Chandrasekhar; M.O. Jackson at Stanford University in Stanford, CA; M.O. Jackson at Santa Fe Institute in Santa Fe, NM; M.O. Jackson at CIFAR in Toronto, ON, Canada. 糖尿病治療のためにバイパスをバイパスする方法 For Diabetics, an Avenue to Bypass the Bypass ある種の胃バイパス術を受けた肥満の糖尿病患者は、糖尿病に関連した因子の軽減を経験す るが、ラットを用いた新たな研究により、その理由が説明される可能性があり、また進行中 の糖尿病を軽減する侵襲性の低い方法が示唆された。最近の研究から、ルーワイ(Roux-enY)胃バイパス術(RYGB)によって 2 型糖尿病に関連する高血糖が速やかに是正されるこ とが示されている。実際、RYGB を受ける肥満の糖尿病患者は多くの場合、体重減少が認め られる前でも治療薬の服用をやめることができる。しかし、肥満の患者で糖尿病が是正され るメカニズムは不明である。RYGB は、食物の摂取後に脳に対して胃が一杯であると伝える、 循環血中ホルモンに変化を引き起こす、という説も一部で示されている。しかし、今回の報 告で研究者らは、RGBY が糖尿病患者にもたらす有益な効果についてまったく新たらしいメ カニズムを提案している。RYGB では、胃は、食物を集める小さな上側の胃嚢と、それより はるかに大きな、もはや食物を集められない下側の胃嚢に分割される。小さな胃嚢だけが下 の消化管につなげられ、とくに小腸につなげられる。ただしその前に、小腸は Y 字形をし た「ルー肢(Roux limb)」と呼ばれるものに外科的に再形成される。げっ歯類やヒトを対 象とした最近のいくつかの研究では、RYGB 実施後にルー肢は変化し、大きさが増大するこ とが示されている。この大きさの増加の意味は不明である。Nima Saeidi らは、ルー肢の作 成は、その形態の変化とともに、RYGB を受けた糖尿病患者における血中グルコースの減少 において直接的な役割を担うという仮説を立て、未消化の食物がルー肢内に流入してその増 大を引き起こすこと、またルー肢がその増大を促進するためにグルコースを吸収してエネル ギーを集め、血中のグルコースが減少すると示唆している。このプロセスは、グルコース代 謝がルー肢の構造に特有なものに再プログラミングされることを示している。 この仮説を検証するため、Saeidi らは肥満ラットに RYGB を実施し、RYGB を受けたラット のルー肢にみられる代謝プロファイルを、対照ラット(一般手術を受け、小腸のルー肢への 再形成は行われていない)の小腸の対応部位の代謝活動と比較した。その結果、RYGP を受 けたラットの小腸内グルコースは、糖尿病でないラットと同様に代謝されており、組織の増 大に必要な基質を形成する下位経路に流入することが明らかになった。対照ラットの再形成 されていない小腸における代謝はこれとは異なっており、グルコースは血中にとどまってい た。これらの所見は、糖尿病患者に対する RYGB の有益な効果が、ルー肢内のグルコース 代謝の変化に起因するという、Saeidi らの仮説を確証するものである。このプロセスがヒト の場合にも該当するかどうかについては、今後の研究が待たれる。しかし、もし該当するの であれば、今回の所見は、RYGB 後に生じる小腸の代謝プロファイルの変化を利用すること で、侵襲的な胃バイパス術に代わりうる、新しい糖尿病治療への道を拓く可能性がある。 Hans-Rudolf Berthoud らによる Perspective では、さらなる洞察が提示されている。 Article #19: "Reprogramming of Intestinal Glucose Metabolism and Glycemic Control in Rats after Gastric Bypass," by N. Saeidi; L. Meoli; E. Nestoridi; N.K. Gupta; S. Kvas; J. Kucharczyk; N. Stylopoulos at Boston Children’s Hospital in Boston, MA; N. Saeidi; L. Meoli; E. Nestoridi; N.K. Gupta; S. Kvas; J. Kucharczyk; N. Stylopoulos; M.L. Yarmush at Harvard Medical School in Boston, MA; N. Saeidi; A.A. Bonab; A.J. Fischman; M.L. Yarmush at Shriners Hospital for Children in Boston, MA; N. Saeidi; M.L. Yarmush at Massachusetts General Hospital in Boston, MA. Article #7: "Why Does Gastric Bypass Surgery Work?," by H.-R. Berthoud at Pennington Biomedical Research Center in Baton Rouge, LA; H.-R. Berthoud at Louisiana State University System in Baton Rouge, LA. 中性子星によって解明される高密度の核物理現象 Neutron Stars Probe High-Density Nuclear Physics 大質量の恒星が重力崩壊したことによって形成される中性子星は、既知の宇宙の中で最も密 度が高い物体の一つである。そして、中性子星の物理的な大きさや非常に反応性が高い原子 核内部といった多くの要因から、正確にその特性は決まる。今回、中性子星の重要な 3 つの 特性の中でいくつかの普遍的な関係が明らかになり、この星の中心で起こっている謎めいた 高密度の核物理現象の解明につながる可能性が示唆されている。Kent Yagi と Nicolás Yunes は、潮汐力下における星の変形しやすさに影響するラブ数と四極子モーメントと共に、この 星がどの程度高速で回転するかを決定する中性子星の慣性モーメントが、もともと絡み合っ ているということを発見した。このことから、天文学者らが上記の特性の一つでも特定する ことができれば、恒星内部の構造を知らなくても他の 2 つの特性も計算することができると 彼らは言う。さらに、新たに明らかになったこれらのスケーリング関係をもってすれば、非 常に不安定かつエネルギーが高い状況での一般相対性理論を中性子星を使って探ることがで きるうえ、中性子星とクォーク星の区別をより簡単にできるはずであるという。 Article #11: "I-Love-Q," by K. Yagi; N. Yunes at Montana State University in Bozeman, MT.
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