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ハヤマ信仰とは東国、なかでも奥羽に多くみられる信仰です。このハヤマは、麓山・
葉山・端山、羽山などの字が当てられ、本山(奥山)に対する端山という意味のほか
に、この世とあの世の「はじ・端」という意味でもあったと言われ、またの名を「仏山」と
呼ばれて、祖霊信仰の対象となっています。
福島県は富岡町にも麓山と呼ばれる山があり、その山の麓、双葉郡川内村へ向かう
県道沿いに麓山神社があります。
この物語の舞台は富岡町の麗山(はやま)神社が、まだ麗山の山頂にあった時代の
話です。
1
「ミヨ!お前、なにしてんだあ」
「なにって・・何か悪いことした」
「お前、麗山(はやま)さまに穴っこむけあるいとろうが、何ちゅう罰当たりな事を
2
麗山(はやま)さまの前を通る時は横向きで、体の前や後ろを神様にむけることはあ
いならんと言ってあろうが、最近の若いもんはどうなっとるんじゃ。」
「そっだら事言っても、山に向けて穴も前も向けちゃあいけんなんて無理よう」
「そがあなことはない。ばあちゃんも母さんもみな、そうやってきた」
「でも、あのお姉ちゃん山に向かって、まっすぐ歩いていきよるよ」
3
「そっだら罰当たりなおなごはこの村にはおらん」
「でも見てみて、あの人・・・」
「そんなばっ・・・わあああ、ありゃヨネじゃなかんべ。お~い、こらヨネ、ヨネ!どこさ行
くだ」
4
「どこさって、あっち。」
「あっちて」
「だから、あっちだってば」
「あっちは麗山(はやま)さまだあ」
「うんだ。父ちゃん具合悪いからオラが代わりにワラビさとりにいくだあ」
5
「ミヨにしろヨネにしろ、最近のおなごは何にかんがえてるだあ。」
「麗山(はやま)さまは女人禁制、おなごが立ち入れんことぐらいお前もしっとろうが」
6
「ジっ様、まだそっだらこといってのかあ。そりゃ迷信だっぺ。男が登っていいのに女
が登って悪いなんてなかっぺよ。そんな了見のせまい神様なんてオラ信じねえだ。こ
の籠いっぺえのワラビとってきてやっから、まってろ」
大きな籠をタスキに背負い「まってろよ」と言い残し、人々が止めるのも聞かず、山へ
わらびを採りに行ったのでございます。
7
ぎらぎらドッカーン、ゴゴゴゴゴ
すると突然、地も割れるほどの地鳴りが起こって、山が大きく揺れ動き、女は山から跳
ね飛ばされて転がり落ちてしまったのでございます。
ぎゃー
8
「う~んいでえ。いでえ」
「ほんだから言わんこちゃねえ」
「麗山(はやま)さまがお怒りになっておられる。えれえこっちゃ」
村人が女の落ちたところへ行ってみると、可哀想に女はタスキをかけたまま、石に
なっていたそうでございます。
今も富岡町のハヤマ神社の近くにはタスキをかけたような石が残っており、その石、
タスキ石と呼ばれ、タスキ石伝説として今もなお語り継がれています。
9
霊山信仰まっ盛りの頃、全国各地に女人禁制の山は多かったのでございます。
山ガールブームの昨今、何とも気分を悪くされる女子もおられるとは思いますが、そ
こは民話、なにとぞ大目にみてやてください。
この霊験新たな麗山には、奇祭と呼ばれる祭、麗山の火祭りがとり行われており、そ
こでは今だ持って女人禁制のならわしがのこっております。
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8月の15日、富岡町の麓山神社(はやまじんじゃ)で行われる『麓山の火祭り』(はや
まのひまつり)
福島県重要無形民俗文化財に指定されています。
その歴史は350年以上におよびます。白足袋に鉢巻、上半身裸で鉢巻き姿の若者
約50人が、御神火(ごしんび)を受けた30~40kgの松明を担いで本殿の前に勢揃
い。燃え盛る松明からの火の粉を降り落としながら、「千燈(せんどう)、万燈(まんど
う)」の掛け声とともに一斉に真っ暗な山道をかけ登り、麓山山頂(標高230m)にある
奥之院をめざし五穀豊穣・家内安全を祈願するのでございます。
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豊作祈願のための万歳三唱後、休む暇もなく一気に駆け下り神社の廻りを33回廻る
という勇壮な祭りで、祭に参加するだけでなく、山に登頂できるのも男のみとなってお
ります。
松明の明かりが町内や大熊町から見えるとその年は「豊作」とされるおります。
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