太陽光熱複合発電システム模型 ソーラーツインザラス 概要 ソーラーツインザラスとは、JAXA(独立行政法人宇宙航空開 発機構)が開発した太陽光熱複合発電システムについて、 JAXAからライセンスを受けて簡易な模型にしたエコ教材です。 これまで太陽光を利用した発電システムとしては、太陽電池に よる太陽光発電や、太陽の熱エネルギを利用する太陽熱発電な どが利用されていました。しかし、これらの発電では太陽のも つエネルギの一部しか利用できません。太陽光熱複合発電シス テムは一つのシステムの中で太陽光の波長を選択して利用する ことで、エネルギを有効に利用して発電することができます。 この太陽光熱複合発電システムは現在、JAXAの日中共同プロ ジェクトとして内モンゴル自治区にて実証試験が行われており ます。 ソーラーツインザラスは太陽光熱複合発電システムの原理を学 ぶことができる教材です。目に見える光と太陽の熱エネルギを 利用した複合発電システムのメカニズムを学びながら、普段な にげなく感じている太陽エネルギのパワーを実感することがで きます。 本製品は、日本の宇宙開発から生まれた最先端のアイディアを より多くの人の日常に届けるためのプロジェクトであるJAXA COSMODE PROJECTに認定されています。ソーラーツインザ JAXAの日中共同プロジェクト 太陽光熱発電システム 太陽受光面積:3平方メートル 総発電量:4kWh/日以上 (内モンゴル自冶区設置時の値) 総回収熱量:10kWh/日以上 (給湯の熱量、内モンゴル自冶区設置の値) ラスを通じて、太陽光を利用した発電を始めとして、さまざま な分野の科学技術やエネルギ問題などを学んで頂ければと思い ます。 システムの概略 太陽光熱複合発電システムの模型であるソーラーツインザラス の概略は右の図のようなモデルで表されます。最大の特徴は、 波長選択フィルタと呼ばれる太陽光を波長成分によって反射・ 透過するフィルタを用いていることです。この波長選択フィル タを使うことによって、さまざまな波長の光を含んだ太陽光を 可視光線と赤外線に分離しているのです。可視光領域の光はフィ ルタにあたって反射することで太陽電池に照射され、電気を発 生させます。一方、可視光領域より長い赤外領域の光は、フィ ルタを透過するため熱電変換素子へと照射されます。熱電変換 素子とは熱エネルギを電気エネルギに変換する素子です。太陽 光の赤外領域における熱エネルギを電気エネルギに変換するこ とで、電気を発生させます。太陽電池・熱電変換素子にはそれ ぞれモーターがついていますので、電気が発生した様子がモー ターの回転によって一目でわかります。また、プラスチック製 ではハーフミラーと呼ばれる光を分岐させるフィルタを使って いますが、その場合でも太陽電池・熱電変換素子は発電を行い、 モーターを回します。 ソーラーツインザラス本体 (左:プラスチック製、右:アクリル製) ソーラーツインザラスのモデル図 ■光 光は電気と磁気が振動しながら進む波で、その一回に進む 距離を波長といいます。太陽光には様々な波長を持つ光成 分が含まれており、波長の短い方から、紫外線・可視光線 ・赤外線と呼ばれています。 紫外線は人間の目には見えない短い波長の光で、英語の略 称からUV(Ultra Violet)とも呼ばれています。サングラ スや日焼け止めなどで「UVカット」という言葉を耳にした ことがあると思いますが、このUVとは紫外線のことです。 紫外線は人間の目などに当たると視力に悪影響を及ぼした りしますが、食品の殺菌や半導体製造などで有効に利用さ れています。 可視光線は、私たち人間が目に見える波長の光です。つま り、可視光線の波長以外の光は人間の目には見えないので す。例えば赤外線を利用したリモコンなどでは、送受信す る際に目には見えなくても信号は伝わっています。 さて、人間の目に見える光というのは、波長がおよそ380 nm~800nmくらいの範囲の領域です。可視光領域の波 長の違いによって目に見える光の色は異なり、波長の短い 方から「紫・赤紫・青・緑・黄・橙・赤」となります。こ の色の並び方は、光の屈折と分散を利用したプリズムで確 認できますが、雨上がりの空にかかる虹でも見られます。 ちなみに光の波長と色の関係はおよそ青色450nm、緑色 540nm、赤色630nmとなっています。この青・緑・赤 は光の3原色と呼ばれ、同一輝度で同時に照射光を照らすと 人間の眼には白色(蛍光灯の色)に見えます。 赤外線はおよそ1000nm以上の長い波長の光で、人間の 目には見えません。しかし、屋外で炭などを熱したとき、 風上にいても暖かさを感じられることからわかるように、 赤外線のエネルギーは目に見えなくても皮膚で感じ取るこ とが出来ます。また、家電製品のリモコンや携帯電話など のデータ送受信にも赤外線が用いられています。 このように、太陽光はさまざまな波長を含んでいます。そ れらの波長に対するエネルギーの分布を大まかにみると、 可視光領域と赤外領域の波長がそれぞれ全体の40%前後を 占めています。太陽光熱複合発電システムでは、これまで の太陽光発電で利用していなかった赤外線の領域の波長の 光も有効に利用することができるのです.このように光の 波長を分離・選別して、これまでは有効利用されていなか った波長の光を利用した太陽エネルギー活用は今後ますま す盛んになると思います。 光の波長とエネルギーの関係 ■波長選択フィルタ 太陽光にはさまざまな波長が含まれていますが、それらを分 けて利用するために用いられるのが波長選択フィルタです。 一般的にはガラスや樹脂に金属の薄膜を蒸着したものが用い られます。 身近にある波長選択フィルタを使っている製品として、窓ガ ラス用の断熱フィルムや照明用ミラーなどがあります。これ らはそれぞれ可視光より短い波長の光は透過して、赤外領域 の長い波長の光を反射するようになっています。そのため フィルタを通過した光を浴びたときに、熱さをあまり感じな くて済みます。 断熱フィルムや照明用ミラーなどの可視光を透過して赤外線 を反射する膜をホットミラー(赤外線=暖かい光を反射)と 呼びます。逆に、赤外線を透過して可視光を反射する膜を コールドミラー(赤外線より短い波長の光=冷たい光を反 射)と呼びます。 JAXAの太陽光熱発電システム実証試験で使われているフィ ルタは、誘電体多層膜フィルタと呼ばれるフィルムの表面に 特殊な金属をコートしたコールドミラーです。 ソーラーツインザラスでは、プラスチック製の製品ではハー フミラーと呼ばれる紫外線をカットして、太陽光を2分岐す るための特殊金属をコートしたフィルタを使っていますが、 アクリル製の製品では誘電多層膜フィルタを使っています。 ハーフミラーと波長選択フィルタの分光特性の一例を図に示 します。ハーフミラーの分光特性としては、可視光を約60% を透過して、約20%を反射していることがわかります。一 方、誘電多層膜の波長選択フィルタの分光特性は波長の短い 可視光の領域では光の約80%を反射して、約10%しか透過し ません。一方、0.8μm以上の赤色~赤外領域にかけては光 の約10%程度しか反射しませんが、約80%を透過します。こ の誘電体多層膜の特性が、太陽光を光と熱エネルギで別々に 利用することができる理由です。 しかし、誘電体多層膜を蒸着した薄いフィルムはコストが非 常に高くなってしまい、教材用として量産するのは難しいの が現状です。そのため、ソーラーツインザラスでは「太陽光 の光と熱のエネルギを使って発電する」という観点から、模 式的にハーフミラーを使っています。 フィルタ 左:ハーフミラーフィルタ 右:誘電体多層膜フィルタ ■太陽電池 太陽電池は、光が当たると電気を発生する半導体です。身近 なところでは、卓上電卓や腕時計などに使われており、近年 ではさまざまな施設や一般家庭にも発電用の太陽電池が盛ん に導入されています。 太陽電池を利用した太陽光発電には、次のような特徴があり ます。 (1) 発電に必要な光は化石燃料と異なり枯渇する心 配がな く、発電時にCO2などの排出がない (2) 火力・水力発電所のように、大規模なシステムが不要 である (3) 光があればよいため、宇宙空間などでも発電が可能で ある これらの特徴をもつため、クリーンなエネルギーと呼ばれ、 現在でも盛んに開発が行われており、日本ではここ10年間で 太陽電池の出荷量は大きく増加しています。また、現在では 国内市場のみならず海外への輸出が大きなウェイトを占めて います。 太陽電池の基本的な構造は、p型とn型の半導体を組み合わせ たものに反射防止膜をつけて、電極で挟んでいます。この半 導体に照射された光のエネルギーが電気エネルギーへと変換 されることで発電を行っています。 一口に太陽電池といっても様々な種類があります。たとえ ば、現在最も普及しているシリコンを用いた太陽電池だけ でも単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリ コンなどがあります。また、光吸収層に無機化合物や有機 化合物を用いたものもあります。形状については、薄膜型 や光吸収層を積層したタンデム型などがあります。 ソーラーツインザラスに使われている太陽電池はアモル ファスシリコン(a-Si)の太陽電池です。これは可視光を 使って効率よく発電するためにa-Si太陽電池を使っている のです。a-Si太陽電池と単結晶シリコン太陽電池(c-Si太 陽電池)の波長に対する分光感度の一例を図に示します。 A-Si太陽電池が可視光領域である波長0.6μm付近に感度 のピークがあるのに対して、c-Si太陽電池は赤外線領域の 波長0.9~1μm付近に感度のピークがあるのがわかりま す。太陽光熱複合発電では、可視光と赤外線を分離するた めに太陽電池に照射される光のほとんどは可視光になりま す。そのため、可視光で感度がよいa-Si太陽電池を使うこ とで有効に発電を行っています。 そもそも太陽光熱複合発電システムでは、可視光と赤外線 を分離して利用していますが、なぜ分離する必要があるの でしょうか? これは、太陽電池が温度の上昇に伴って性 能が低下するという欠点を補うためです。太陽光に含まれ る赤外線は太陽電池に照射されると太陽電池の温度を上昇 させ、太陽電池の性能を低下させてしまいます。そのた め、可視光線に感度がよい太陽電池に対して、可視光線を なるべく多く照射させつつ、赤外線をカットするようにし ているのです。また、a-Si太陽電池は、c-Si太陽電池に比 べて温度上昇による性能低下が小さいことも利点となりま す。 ■熱電変換素子 熱電変換素子は、金属または半導体を挟み込んだ二枚の板に温度 差ができると電気を発生する発電素子です。あまり馴染みのない 言葉ですがホテルの小型冷蔵庫や、パソコンなどの電子機器の冷 却装置などでは、ペルチェ素子と呼ばれる熱電変換素子を利用し ています。ペルチェ素子というのは物体の冷却に用いられてお り、電気エネルギーを与えて温度差を作すために利用しているた め、発電とは逆のエネルギー変換になります。 熱電変換素子の基本的な原理としては、異なる種類の金属または 半導体を接合して、その両端に温度差を与えることで起電力が発 生するゼーベック効果を利用しています。ゼーベック効果のモデ ルを図に示しますが、これを利用したものには、熱電対と呼ばれ る温度計があります。ゼーベック効果で発生する電圧の大きさ は、金属の種類と温度差で決まります。そのため、あらかじめ金 属の種類と温度差に対する電圧の関係さえわかっていれば、発生 した電圧から温度がわかるのです。 さて、このモデル図のように3つの金属で接点が2つだけでは、 非常に微弱な電圧しか発生せず、発電には使えません。そこで、 図のようにp型とn型の半導体を金属で挟み込んでつなげていっ たものが熱電素子になります。この絶縁体に挟み込まれている素 子の数はカップル数と呼ばれ、数10個~数100個まで接続された ものが使われます。この挟んでいる両面の金属に温度差ができる ことで、ゼーベック効果による熱エネルギーが電気エネルギーへ と変換されて発電を行っています。 ソーラーツインザラスでは、フィルタを通過した太陽光を、熱 電変換素子の上部に貼りつけられた受光板に集めることで、受 光板を加熱します。一方、熱電変換素子の下につけた熱伝導性 のよいアルミ製放熱器(ヒートシンク)で放熱することで、比 較的低い温度差でもモーターを回せるように設計されていま す。 温度差があれば発電を出来るということは、太陽に向けた場合 の ・受光板の温度が高い ・放熱器の温度が低い という条件とは逆に、 ・受光板の温度が低い ・放熱器の温度が高い という条件でも発電が出来るということです。 それでは、上のように温度の高低が逆になった場合にはモー ターの回転はどうなるでしょうか? 受光板に冷凍した保冷剤 や氷を入れた袋などを乗せてみると確認ができます。 ■フレネルレンズ フレネルレンズはプラスチック製のシートに溝を切った レンズであり、このレンズで太陽光を集光していま す。元々は灯台に使うために設計されたといわれてお り、フレネルレンズの特徴は薄型化・軽量化が可能な ことです。 フレネルレンズの原理を図に示します。まず凸レンズ の曲率部分を分割して、分割した部分の曲率に対応す るような溝(断面はノコギリのような形状になりま す)を作ることで、凸レンズと同様に一点に光を集め ています。図では溝を大きく描いていますが、ソー ラーツインザラスに用いられているフレネルレンズで は、同心円の溝のピッチは数100μmのオーダーで す。 ソーラーツインザラスでは ・厚さ 0.6mm ・縦と横の寸法 160mm ・焦点距離 270mm前後 のフレネルレンズを使っています。レンズと受光板と 太陽電池の関係は図のようになっています。太陽電池 と受光板に無駄なく太陽光が照射されるように設計さ れています。 実験方法の紹介 太陽光実験 太陽光のもとにソーラーツインザラスを置いて、レンズを太 陽へ向けて筐体を配置します。 図のようにレンズを太陽光の方向に向けます。レンズが太 陽の方向へ向いていると、筐体底面に置いてある受光板 のところに近くに四角形の光の像ができます。 この光の像が受光板と重なるように筐体の角度を変えると、 まず太陽電池のモーターが動き始めます。太陽電池は光 が当たると発電するため、光の像が太陽電池に当たると即 座に発電を行います。 光の像が受光板と重なった状態で数10秒間くらい待つと、 熱電素子のモーターが動き始めます。熱電素子側のモーター の起動に時間がかかるのは、受光板で受けたエネルギが 熱電変換素子と放熱器に熱伝導で伝わり、熱電変換素子 の上下面に温度差ができるまでに時間がかかるからです。 ※太陽光での発電実験を行う場合には、晴天の空のもとで 行ってください。薄曇りの空や黄砂が舞っているような場合 には、太陽光が妨げられてモーターが動作しない場合があ ります。 また、ハロゲンランプなどの光源を用いた実験は絶対に行 わないで下さい。筐体を始めとする部品の耐熱温度を超え、 非常に危険です。 熱電変換実験 太陽光のもとで実験できない場合などには、熱電変換素子 による発電実験を行ってみましょう。 熱電変換素子の発電実験で使う容器には、ステンレスマグ カップのような底面が平らで熱伝導率の良い金属製のもの を使ってください。また、カップ側面に断熱材を巻くなどして 火傷などには十分に注意して下さい。 まず、容器に温度の高いお湯を入れます。 ソーラーツインザラスの筐体を立てた状態(レンズが上、受 光板が下になりこれらが水平な状態)にして、容器を受光 板の上に乗せます。 乗せてから数10秒間くらい待つと、熱電変換素子のモーター が回り始めます。充分に高い温度のお湯を乗せれば、太陽 光で発電する場合よりも早く回り始めるはずです。 温度が違うお湯を乗せて、回り方の違いを見るのもおもし ろいと思います。 また、保冷剤を乗せても発電を行えます。この場合、モーター の回転の様子がどうなるかといった実験も行えます。
© Copyright 2024 Paperzz