月経周期に伴う 自覚的睡眠感の変動についての研究

1主1雪廷医大誌 4 (3), !4!∼148, 1989
原
著
.月経周期に伴う自覚的睡眠感の変動についての研究
一一
注N女性を対象とし,OSA睡眠調査票を用いての研究一
石束嘉和・碓氷 章・白石
福澤 等・白川修一郎*・阿武
孝 一
一 雄*
山梨医科大学精神神経医学教室
東京都神経科学総合研究所心理学研究室
抄録:月経周期に伴う自覚的睡眠感を質問紙法を用いて研究した。対象は健康な若年成人女性40
名。月経開始と同時にOSA睡眠調査票を記入し始め,次の月経の最終日まで毎日記入し続けた。
OSA睡眠調査票の起床時調査により拙出される5つの睡眠感構成因子が,月経周期に伴いどの様
な変動を示すかを観察した。各因子ごとに2回目の月経第1日闘にてデータを揃え,40人分のデー
タを加算平均して各因子の変動を観察した。第1因子(ねむ気)は自己相関法によりほぼ7日周期
で変動する傾向が認められた。第2因子(睡眠維持)と第5因子(寝つき)は,月経周期の前半に
比較して後半では得点が低い傾向が認められた。第3因子(気がかり)と第4因子(統合的睡眠)
は2回目の月経の16日前と7日前に一過性に得点が低下するのが認められた。このように月経周期
に伴って自覚的睡眠感が法則性を持って変動することが確認された。今回の心理学的側面からの月
経周期と睡眠に関する研究を基礎として,月経周期に伴う各種生理学的要因の変動を解析すること
が,月経周期と睡眠との関係を総合的に解明するうえで今後の重要な課題であると思われる。
キーワード 生体リズム,月経周期,月周期リズム、7日周期リズム,臼覚的睡眠感
反し,Infradian Rhythmについての研究は,
はじめに
月経周期に関連したものを含め,非常に少ない
ヒトを含めた生物界にあって,生体リズムは
のが現状である2)。
極めて普遍的現象である。よく知られているも
一方,睡眠および睡眠障害については,ポリ
のとしては24時間周期のCircadian Rhythm(概
グラフィによるREM睡眠の発見以来多くの研
日リズム)やそれよりも周期の短いUltradia簸
究がなされてきている。最近では,精神科のみ
Rhythm (超日リズム)がある。 CircadiaH
ならず各方面にて,各種睡眠障害についての研
Rhythmよりも周期の長い生体リズムは, In−
究が睡眠ポリグラフィを用いて精力的に進めら
fradiaH Rhythmとして一括されているが,そ
れている。これらの生理学的睡眠研究の隆盛に
の中には約7口周期のCircaseptan Rhythmや
対し,自覚的な睡眠感について心理学的側面か
月周期の Circatrigintan Rhythm,年周期の
ら研究した報告は少ない。
Circa漁ual Rhythmなどが含まれている1)。
ところで,健康な女性が月経周期に伴い気分
Circadian Rhythm・Ultradian Rhythmについ
などの変化とともに睡眠感の変動を自覚するこ
ては多くの知見が蓄積されてきている。それに
とは一般によく知られた現象である。中でも月
〒409−38山梨県中巨摩玉穂町下河東!110
受付:1989年4月28臼
受理:1989年5月31日
経周期に伴う情動の変化については,月経前期
症候群との関連から以前から研究されてきてい
る3)。 これに対し 月経周期に伴った健康女性
142
石 束 嘉 和,他
の自覚的な睡眠感の変動を詳細に観察した報告
を対象として弁別力と整合性および信頼性の統
は見られない。
計的検定を行ない,標準化したものである。
われわれは,月経周期中に自覚的睡眠感が変
OSAはA)睡眠前調査, B)起床時調査,の2
動するとの仮説を立て,多数の健康女性を対象
部から構成されており,起床時調査は更にB級
として,OSA睡眠調査票を用いて調査した。
とB−2の2部に分けられる。B−!は31項目の
質問から構成され,第1一第29項目の29個の質
方
法
問から因子分析により5つの睡眠感が抽出され
1)OSA睡眠調査票について
る。この5因子は,因子の性格を説明するため
睡眠という現象は非常に多岐にわたる要因の
に以下のように小栗らによって命名され特微づ
影響を受けており,特にヒトの睡眠は環境や経
けられている。(1)第1因子:ねむ気(起床時
験,性格,疲労といった社会的・心理的な影響
のねむ気),(2)第2因子:睡眠維持(途中覚醒
を強く受けている。このような理由から,睡眠
の有無など),(3)第3因子::気がかり(起床時
研究を行う場合,脳波を含めた生理学的諸機能
の漠然とした不安感など),(4)第4因子:統
を解析することで必要十分とするのではなく,
合的睡眠(起床時の直感的熟眠感),(5)第5因
同時に情動や判断を含む高次の精神機能と関連
子:寝つき(寝つきの善し悪し)。いずれの因子
する統合性の高い社会的な生体現象として解析
もその睡眠感が良くなると得点が上昇し,悪く
する必要がある。この要請からOSA睡眠調査
票(以下OSAと略す)が東京都神経科学総合
なると得点が減少するように設定されている。
B−2では,起床時の身体的愁訴を記入するよう
研究所にて作成された4)。OSAは睡眠現象を統
になっている。
合的に把握するために,生理学的指標と対比し
うる睡眠感変量:の標準的尺度構成が行われてい
OSAを構成する質問群の中でも今回の研究
の中心となるのはB畦の29項目の質問群であ
る。すなわち,睡眠感という反応を態度尺度と
る。薦被検老から毎日抽出される5つの睡眠語
考えリッカートスケールを用い,600人の男女
構成因子の標準得点を算出し,各因子の得点の
iiiiiiiiliiliiili…i liiiiiil譲iiliiiliiiiii………iii…ii…≒賦
鐘1…嚢iiii…………iiiiiiiiiiiii彗i…:…:…ξ=…:li
羅灘iiiii
iiiiii羅
灘霧ii霧ili譲iilii i…i=…iii織・
’・…灘…=…:…=…:== 撃撃奄奄奄奄奄奄奄奄峨」ii
…購難襯灘liii
liil灘’
…ii;iiiiliii蘂iliilliiiii養iii藝ii
liiiii嚢灘iiiiiii
壽
ilii灘蕪=:=轍……
.,羅
譲平削鎌iii
¥
`veraging
翻M。,st,、ati。n
i40sublects)
@ ¥
M
一2雫
一14
一7
Fig・1・ Prof玉王e oぞthis experimcnt.
一1
1
4
143
月経周期に伴う自覚的睡眠感の変動についての研究
丁隷ble I.
_21
Changcs of each slecp factor duri辞g a nユenstrual cycle
_16
一20 一一19 −18 −17
_董5 _14 _43
一12
F−1 46.63
45.59 46.32 50.31 48.23
46.44
46.60 46.10 47.05
F−2 48.29
47.70 47.85 51.22 49.81
60.59
49.24 48.48 4,8.74
50.58
F_3 44.95
42.89 44.38 46.95 45.41
43.78
44.36 44.84 45.59
47.42
50.38
48.39 48.08 48.11 50.79
47.27
48.176 49.92 50.45
50。43
F_5 50」9
48.49 49.44 51。4玉 52。62
49.82
5】.03 49.20 50.77
52.1玉
_11
_10 _9 __8 _.7
_6
一5 _4 _3
F_4 48.69
_一
Q
璽_1 48.93
48.98 47.31 46。25 46.92
46.46 47.12 47.71 48.13
46.71
玉掌一2 49.40
4,7.82 48.00 4,6.81 45.77
47.33 46.09 4,7。41 417.51
50.27
F−3 46.99
47.09 46.56 44.19 43.02
44.i5 44.82 46.91 44。82
44。48
麹_4= 60.15
49.8三 50。82 48.49 46.65
48,76 48.18 49.13 48.62
4,9.51
F_5 51.33
50.21 51.67 48.37 48.96
49.05 49.05 49,21 49.50
48.70
︸ ︸ 一 ︸
19桝341げD
F
FFFF
一1 十1(M) 十2
十3 十4
46.31 47.23 417。03
46。93 4,6.76
F一玉;Fξミctor 1、
47.79 47.52 47.72
46.76 49。18
F−2;Factor三∼.
44.49 45.15 44.29
43.16 4=3.88
F−3; ]Factor 3.
47.42 51.25 49.84
47.27 48.58
F−4;F縦ctor 4.
50.16 47.20 49,85
48.2王 50.88
F−5;Factor 5.
(n二40,mea1}〉
月経周期に伴う変化を観察した。
日”として表示し“M”のマークをつけた)と
2)対象の種類とOSAの記入:方法
対象は18歳から27歳の健i康女性120人。研究
し,その日に全員のデータを揃え,月経開始
の主旨を説明し同意を得た。月経開始第!玉目
した25日間の各因子毎の標準得点を加算平均す
「第2!日前」から開始「第4日目」までの連続
より毎晩就床直前および毎朝起床直後に調査票
るという方法である。40人の被検者がいること
を記入するよう指示した。記入は次の月経の終
から各因子につき40回加算平均することにな
了日まで継続して記入した。月経周期が各人に
る。この操作により,被検者ごとの個体差を相
より異なるために,調査票の記入期間も被検者
殺し40人の被検者に共通する睡眠感の変動を抽
ごとに異なっていた。回収し得た52人分のデー
出した。図表にて,日にちの前に付けられてい
タのうち月経周期の極端に長いものと極端に短
るマイナスの符号はその日が2回目の月経開始
いものは無排卵性月経の可能性があるために対
日から何日前であるかを示している。
象から除外し,月経周期21日以上40日以下の40
人のデータを解析した。
結 果
3)データの処理方法
2回目の月経開始日から見て21日前から,月
各被検者にて月経周期は一定ではなく月経開
経開始4日目までの連続した25日間の第!因子
始臼も異なっていた。その上睡眠感は様々な社
から第5因子までの各因子毎の40人の標準得点
会生活上の影響を敏感に反映する可能性があ
の平均を表1に示した。この変化をグラフ化し
り,被検:者個々のデータのみからは単純に睡眠
たものが図2aから図2eである。 Y軸の範囲は
感の変動を云々できない。このことから,デー
それぞれの因子得点の最大値・最小値にあわせ
タ処理の方法を図1に示したように工夫した。
て設定されており,図2a−2eそれぞれでY軸の
2回目の月経開始日を基準臼(図表では“第1
スケールが異なることに注意されたい。
144
石 束 嘉 和,他
25
15
04
94
84
74
6
5
:1
舞49
翼
あ 46
4臥21
一14 −7 −114
Day of Menstrual Cycle
一21 −7 −11 4
Day of Menstrual Cyc[e
Fig・2a・Fact・r 1(Slcepiness),
52
Fig・2(L Factor 4(lntegrated sleep).
§
53
51
52
ぎ51
お
お50
鷺49
竃48
罵5。
あ
器49
あ 48
47
46
一7 一1 1 4
DaY。f Menstrual Cycle
47
46
−21
Fig・2b・ Factor 2(Sleep n}aintenance)・
一14 −7 −114
Day of Menstrua}Cycle
Fig・ 2c・ Factor 5 (S】eep i装itiation)・
48
署
47
落ち込み,この時期は,起床時に何となく不安
お 46
を感じる。
需45
器44
あ
起床時の直観的熟眠感を表す第4因子の変動
43
42
を示す(図2d)。この因子は第3因子に類似し
た変動パタンを示す。月経開始16日前と7日
一7 −1 1 4
Day o牽 凝enstruai Cycb
Fig.2c Faαor 3(Anxicty>.
前,そして直前に得点が落ち込み,この時期は
起床時に全般的に熟眠感が少ない。
前夜の寝つきを表す第5因子(図2e)は,月
起床時のねむ気を反映する第1因子(図2a)
経開始20日前,14日前,8日前に小さく得点の
は,2回目の月経開始およそ3週間前,2週間
前,1週間前,直前,に得点が減少し,この時
落ち込みが見られるが,全体としてみると月経
期起床時にねむ気をより強く感じる。
ており,第2因子とよく似たパタンを示してい
唾眠維持を示す第2因子(図2b)は,月経開始
る。月経前の2週間は全般的に寝つきが悪いこ
20日前,14日前に小さく得点の落ち込みが見ら
とがわかる○
れるが,全体としてみると月経開始約2週間前
を境として得点が減少傾向にあり,全般に月経
以上の5つの睡眠感の変動を見てみると,睡
眠感がある周期をもって変動している可能性が
前の2週間はそれ以前に比較して得点が低く,
考えられた。そこで,各睡眠感の変動に周期性
起床時に安定した睡眠が得られない。
起床時の気がかりを表す第3因子(図2c)は,
があるかどうかを自己相関法を用いて検討し
た。25日間の時系列データであるために,12日
月経開始16日前と7日前,そして直前に得点が
周期までの自己相関係数を求めた。それによる
開始約2週間前を境として全般に得点が減少し
月経周期に伴う自覚的睡眠感の変動についての研究
145
と,第2一第5因子は十分に高い相関係数を示
した報告は見あたらない。
す周期が得られず明らかな周期性が認められな:
月経周期に伴い自覚的な睡眠感が変動すると
かったが,第1因子は7日周期にて相関係数が
いう現象は,経験的によく知られている現象で
0.56であり,このことから,第!因子は7日周
あるにも関わらず,その実態が明らかでないた
期で変動していることがわかった。
めに,睡眠研究においては女性を被検者から除
外することが勧められている11)。
考
察
このような日常的にはありふれた生体現象が
睡眠ポリグラフィを用いての,月経周期ある
今まで検討されて来なかった理由としては幾つ
いは性ホルモンと睡眠との関係についての研究
か考えられる。
では,今までに以下のような知見が得られてき
まず,自覚的睡眠感を測定する方法論上の困
ている○
難があったと思われる。自覚的睡眠感を単純に
まず,動物での性ホルモンと睡眠との関係を
「ねむ気」に限ってみても,その「ねむ気」を
調べた研究としては,エストロゲン投与により
1日のどの時点で測定するかという点がまず間
REM睡i眠量が減少するというColvinらの報
題となる。日中であると様・々な肉体的行動や食
告がある菖)。次に,ヒトでの研究を見てみると,
事の程度などの社会的要因,また様々な心理的
Hoは月経前では徐波唾眠声が減少するがそれ
要因が加味されてきて,単純にねむ気の多寡を
以外の睡眠変数には目立った変化はないと報告
論じることはできない。
している6)。またHartmanは,月経直前は
ところで、女性の体温はCircadian Rhythm
REM睡眠量が多くなると報告している7}8)。
とCircatrigint韻Rhythmをもって変動してい
:Leeは,卵胞期と黄体期を比較して,卵胞期で
るが12),日中覚醒中の体温は運動や食事などの
は黄体期に比較して有意にREM睡眠潜時が長
さまざまな要因により影響を受けている。その
いが他の唾眠変数には変化がないと報告してい
外的要因の影響を極力小さくするために行なわ
る9)。一方,睡眠変数は月経周期中ではほとん
れている体温測定の方法が起床時の舌下温測定
ど変化しなかったとするKapenらの報告もあ
であり,これが「基礎体温」として用いられて
る1G)。今のところ,月経周期に伴っての睡眠構
いるのは周知のことである。
造の変動は,仮にあったとしても極く小さいも
今回,唾予感の測定を朝起床時に限って行っ
のでしかないというのが定説であろう。
たが,これは様々な社会的心理的アーチファク
ところで,月経周期に伴っで晴動や睡眠感に
トを極力除外した,いわば「基礎睡眠感」とで
変動があることは一般の女性にとっては周知の
も言い得るものと考える。
事実である。月経周期中の情動の変動について
次に,自覚的睡眠感を云々するとき,その睡
は,月経前期症候群やうつ病との関連から以前
眠感をどの様に測定して数値化するかが闘題と
から注目され研究されてきている。月経関連症
なる。今まで,自覚的ねむ気を数値化する試み
状の質問紙としては,Moosの開発した, Men−
がいくつかなされてきているが13磁),どれも一
strual DistressΩuest量onnaire(MDΩ)があり,
長一短である。OSAは起床時の睡眠感に限っ
これを用いて健康成人女性を対象として月経前
て数値化する配慮がなされており,また多くの
期と月経中の様々な自覚症状の変動が研究され
健康被検老に対する試用を元に標準化がなされ
ている3)。このMDΩは8つの因子により構成
されているがこの中にはOSAにて抽出されて
れており15),今回の研究には適当な方法である
くるような睡眠感に関する因子は含まれていな
と考えられた。
い。このように,自覚的野剛胆に焦点をあてて
今回の,われわれの研究をみると,OSAに
それと月経周期との関連を質問紙を用いて研究
よって抽出された自覚的睡眠感は月経周期に伴
ている。すでに,OSAを用いての研究も行わ
石束嘉和,他
146
経2週間前の得点の減少は黄体化ホルモン
Factor 2&5
(:LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の急激な上昇
時期に一致することから,LH・FSHの影響が
考えられる。月経前の比較的持続して睡眠感が
Factor 3&4
悪化している時期は,エストロゲン(E2)・プ
ロゲステロン(PROG)が共に高値を示す時期
であり,両ホルモンが影響している可能性があ
Factor 歪
るが,高体温そのものの影響も考えられる。
羅
Mbns窒ruatiOR
LH
気がかりの因子(第3因子)と統舎的睡眠の
因子(第4因子)は第2・第5因子とは若干異
なった変動パタンを示し,月経周期の前半と後
FS卜1
ε2
PROG
半での差があまり認められず,月経開始16臼
前,7日前,直前に得点が一過性に低下するの
がこの2つの因子に共通した特徴である。この
2因子の変動についても,図に示すように性ホ
一21 −14 −7 −1
Fig.3・(ToP)Schematic challgcs o£5sleep
faαors.(:Bottom)Changes of sex hoレ
ルモンとの関連を考慮する必要があるが,正確
な機序については明らかではない。
1Y[OnS during a menstrual cycle・ Re−
ねむ気の因子(第!因子)の変動パタンは,
drawn and modi且e(1 from Speroff and
第2因子・第5因子の変動パタンと第3因子・
第4因子の変動パタンの両方の変動様式を合わ
V盆11de㌔Viele(1971). Faαor I==SleePi輔
ness;Faαor 2=S蓋eep mailltenance;
Factoギ 3=Anxiαy; Factor 4=lnte−
gr飢ed sleep; Factor 5=Sleep initia−
tion;FSH=Fo三1icle stimulating hor−
monc;LH=Luteinizing Hormone;E2
=琶styadio玉;PROG篇pyogesterone.
せ持っているようなパタンである。そして,注
目すべきはその変動に7日の周期性があるとい
うことである。今回の研究では各被検者のデー
タを2回目の月経の第1日目に合わせてデータ
を解析したが,この月経第1日目の曜日は各被
って変動していることがわかるQ今回の結果に
検者により異なり,ある特定の曜日に集中する
おける睡眠感の変動を模式的にまとめたものが
ことはなかった。このために,この7日周期を
図3の上段である。下段には文献から得られた
性ホルモンの変動様式を多少改変して上段と時
持つねむ気の因子の変動が実際の曜日によるア
期を一致させて示してある16)。
のねむ気の因子の変動が7日(1週間)を単位
抽出された5つの睡眠感の変動をみると,全
体に月経周期前半(低体温期・卵胞期)に比較
可能性は捨てされないが,月経開始曜日,月経
して月経周期後半(高体温期・黄体期)では睡
周期が各被検者で異なることからねむ気の変動
ーチファクトの影響ではないことがわかる。こ
とする社会生活のリズムを同調因子としている
眠感が悪いという共通した変動パタンを示すこ
が内因性の7日周期を持っていると考えるのが
とがわかる。しかし,詳細に観察すると各睡眠
妥当であろう。ヒトでは尿中の17−Hydroxy−
感の間で多少変動パタンが異なっている。睡眠
corticosteroid量に8.5日のCircaseptan Rhythm
維持の因子(第2因子)と寝つきの因子(第5因
があることが知られているが17),7日周期の生
子)は月経開始2週間前に一過性に悪化しその
体現象についてはCircatrigintan Rhythm以上
後やや持ち直すが,月経までの2週間はそれ以
に研究が少ない。7日周期は1朔望月(29.5日)
前に比較して全体に得点が低い(睡眠感が悪い)
のほぼ1/4である新月→上弦→満月→下弦の月
傾向を示す。この機序は明らかではないが,月
相にほぼ相当する。自然・社会現象がこのねむ
月経周期に伴う自覚的睡眠感の変動についての研究
!47
気の7日周期とどの様な関連を有しているかが
興味の持たれるところであるが,今後の課題と
4)小栗 貢, 白川修一郎,阿住一雄. OSA睡眠
調査票の開発精神医学,1985;27,791−799・
して残されている。
Circadia1腹Sleep−Wakefulness P磁erns ill Rats
その生理学的機序は今の段階では明らかでな
いが,月経周期に伴って自覚的睡眠感が法則性
をもって変動することが確認されたのが今回の
研究の大きな意義である。睡眠感を構成する要
因は種々様々なものがあると予測されるが,睡
眠ポリグラフィから得られる睡眠構造指標の変
動だけでなく,ホルモンレベルの変動や自律神
経系の変動も睡眠感に影響を及ぼしていると考
えられる。今回の心理学的側面からの月経周期
と睡眠に関する研究を基礎として,月経周期に
伴う各種生理学的要因の変動を解析すること
5)Colv{n GB, Whitmoyer DI and Sawyer CH・
After Ovariectomy ancl Treatment with£stro−
gen, Exp・Neuro1・1969;25:616−625・
6) Ho A, Sex Hormones and Sleep of“70!nα儀・
Sleep Rese∼買ch,董972;1:184.
7)Hartman E. The:Biology of Dreamin9, Sprh19一
負eld:Charles C Thomas,1967.
8)HartmaH E. Dre段ming Sleep(The D−State>
and The Menstrual cyc玉e・The J・urna1・£
Nervous and Mental Desease,1966;M3:405−
415.
9)Lec KA, sh段vαJF綾nd Giblin Ec・sleep,
Temperature, and Mood St綾te h}Healthy
Womell at Two Phases of Tlle MenstruaI
Cycle. Sleep Research,198’7; 16:624.
10)Kapen S,お・yar:R, Hellman L et aL Changes
が,月経周期と唾眠との関係を総合的に解明す
in the Sleep Stage Pat£ern during The M:α}一
るうえで今後の重要な課題であると思われる。
st「ual Cycle of Normal Females. Sleep Re−
また,女性を被検者とした睡眠研究を施行す
search. 1972; 1: 186.
る場合は,月経周期を考慮して得られた結果を
11)大熊輝雄.睡眠の臨床.東京:医学書院,1977
12)Simpson HW and Halberg朋. Menstrual
検討する必要があると考える。
Challges o£ the CircadiaR Temperaturc
稿を終えるに当たり,研究に御協力頂いた国
立甲府病院付属看護学校教諭若松順子氏に感謝
します。御校閲頂いた山梨医科大学精神神経医
学教室魚屋哲彦教授に深謝します。
Rhythm iR Women. Inl Feri罰M, Halberg F,
Richart RH et技l eds・Riorhy£h㎜an(1 Human
Reproduction・New York:wilcy, John&sons
Inc。 1959: 549−556.
13>小粟 貢.睡眠感評価法鳥居鎮夫編睡眠の
科学.磯回:朝倉書店,1984:256−279.
14>大川匡子:睡眠障害の補助診断法。菱川泰夫
本論文の要旨は第13回日本睡眠学会学術大会
(1988)にて報告した。本研究の一部は文部省科
学研究費(奨励研究A)第637708!2号によっ
編.睡眠の病態.東京:金原二階,玉988:127−
141。
15)Azumi K alxl Shirakawa S・The Types of
Spindic ApPear哉nce Pattem and Sublectivc
£va.luation of Sleep. Sleep Research, 1987;
た。
16:197.
文
献
1)佐々木 隆,千葉喜彦編.時間生物学.東京:
朝倉書店,1987・
2)川村 浩:生体リズムとは何か.新生理学体系
16)Speroff L and Van(…c Wicle RL・Rcguiation
of the human mens£rual cyclc・An}erican
Journal of obstetrics& Gyneco玉ogy,1971;
108:234−237.
17)Curtis GC an(I MC Evoy D, Low Amplitude
Infr隷diau Cycles・f Urinary 17−Hydr・xyc・rti−
13巻,1987,東京:医学書院,ig87, HL
3)Moos:RH and:Leiderman DB. Toward A
costeroid£xcretioR i}}AHealthy Ma王e Sub−
Menstru段1 cycle symptonl Typology・Joumal
J£.c(ls. chronol)ioligy, Tokyo:Igaku−shoill,
of Psyc}】oso韮na{=ic ReseaLrc}}辱 19「78; 黛2: 31一一4,0.
lecも 1n:Schevin9工」E, Halbarg罫技lxl Pauly
1974:523−526.
148
Jl!Ii IE;IZn gl#ll ilE", ftll
The Menstrual Cycle and the Subjective Evalua£ion of Sleep
Yoshikazu Ishizuka, Akira Usui, Kouichi Skiraishi, Hitoshi Fukuzawa,
Shuichiro Shirakawass, Kazuo Azumi*
DePartment of AleztroPsychiatTy, Yan?anashi Medical College
*I)ePartment of Ps>,cl?olog>,, Tok,:)o MetroPolitan h?stitu,te for ATeuroscie2?ce
An OSA SIeep Inventory Scale (OSA) was devisecl to evaluate subjective feelii3gs towards
sleep. Five sleep state clusters are calculated £rom the scores iR each category. These cluste)'s are
Sleepiness (Factor 1), SIeep Maintenance (Factor 2), Anxiety (Factor 3), Integratecl Sleep <Factor 4)
and Sleep Initiation (Factor 5). Forty healthy >roung women ranging in age from l8-27 had
an, OSA scored every morning erom the first day of Lheir menstrual cycle to the last day of the
ltext menstruation in order to estimate the relationship between cyclic monthly changes in sleep
states and the irnenstrual cycle. Fl was cyciical over a 7 day period. F2 ancl F5 showed a slight
clip l4 days be£ore menstruation. These factors recovered temporarily after the dip and then
dlecreased again about a week before menstruation. F2 aRd F5 maintained a Iow level until the
Rext menstruation. Fg and F4 sho"Ted a sharp dip at 16・ and 7 days before menstruation. It is
clear that precise changes in sleep state occurs during the menstrual cyc}e. We think that the
sharp dips in the sleep factors at 2 weeks before menstruation, as shown by our results, may
coincicle with an increased release of sex hormones such as FSH, LH and Estracliol. And the
decrease in these at a week before menstruation may be the result of an increase of Estradiol
ancl Progesterone. Moreover, Fl showe(l a change which suggests to us a natural 7-day cycle
marke(l by sleepiness.
Key words: biologica] rhythn], iinenstrual cycle, circatrigintan rhythn), circaseptan rhythni,
subjective evaluation of sleep