酸化チタンを用いた 超撥水・超親水膜の作製

東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2013 年度春輪講書
酸化チタンを用いた
超撥水・超親水膜の作製
月曜班
Uematsu.M (2K),Ogikubo.Y (2K),Kajimura.A (2C),Sakai.Y (2C),Suzuki.S (2OK),
Fujishiro.T (2K),Honda.K (2K),Mukasa.T (2K),Iwata.J (2C),Haga.Y (2K),Kawada.T (2K)
1.
1.1.
背景
動機
私の古いビニール傘があまり水を弾かなくなった.なので,半永久的に水を弾くビ
ニール傘が欲しいと思っていた.そして撥水のことについて調べていると,“超撥水”
というワードがあり,興味がわいたので調べてみた.調べてみると“超撥水”と対にな
る“超親水”というものがあり,その“超親水”性を示す代表的な物質に酸化チタンがあ
った.酸化チタンは我が東京理科大学の学長である藤島昭がその第一人者であったこ
ともあり酸化チタンを用いた撥水系の実験をしたいと思った.
また,酸化チタンを用いた実験では親水性だけに焦点を当てたものが多い.酸化チ
タンは光を当てることで親水性になる.では光を当てる前の酸化チタンは水に対して
どのような振舞いをするのかと疑問に思い,この実験を始めた.
1.2.
目的及び意義
一般に膜の損傷や油などの汚れが撥水性の低下を招いているのだが,酸化チタンを
用いて撥水膜を作製することで撥水性の低下を軽減することができる.なぜなら,酸
化チタン自体に光触媒の機能が備わっているので,汚れを分解し,さらに酸化チタン
には超親水性も備わっているので紫外線を当てるだけで撥水性を回復させることが
できるからである.
また,酸化チタンを用いた実験では光触媒や親水性だけに焦点を当てたものが多く,
撥水性にはあまり焦点を向けられていないので面白い実験であると思われる.
このような可逆的な撥水・親水スイッチングは表面処理を施した酸化チタン,酸化
亜鉛などの表面上で,紫外光照射と暗所保存を繰り返すことで達成されている.*1
しかしそのどれもが親水性から撥水性へ代わる際に 2 週間近い時間がかかり,何か
に応用するにあたってそれが大きな欠点となっている.しかし酸化チタン膜に他の金
属を付加することで疎水化速度が変化することも報告されている.*2 なので,今回の
実験では金属を付加することで疎水化速度にどれほどの影響があるのかも調べ,疎水
化時間の短縮も目指す.
2.
2.1.
原理
界面張力
同一種同士の分子間相互作用が異種間での分子間相互作用よりも安定する時,界面
が発生する.Fig. 1 に示したように,界面付近の分子は,周囲を取り囲む同一種分子
の総数が内部より少なくなるために,同一種分子の相互作用で安定化されている内部
の分子より不安定な状態になる.つまり,内部と比べて過剰の自由エネルギーをもつ
ことになり,これを界面自由エネルギーという.この界面自由エネルギーを低下させ
るために,界面はできる限り小さくなろうとする.これが界面張力であり,単位面積
当たりの界面自由エネルギーとなる.気体との界面の場合は表面張力という.*3*4
Fig. 1 界面張力
2.2.
超撥水・超親水
トマス・ヤングは濡れ現象の式を
以下のように定義した.
ここで
= 固体と気体間にはたらく張力
= 固体と液体間にはたらく張力
= 液体と気体間にはたらく張力
= 接触角
である.
Fig. 2 に示したように,3 つの張力
が求まれば接触角を算出することが
できる.逆に接触角を利用して張力
を算出することもできる.Fig. 3 に
示したように が 90 °よりも大き
かったら撥水性,小さかったら親水
性である.一般的に接触角 150 °以
上の撥水を“超”撥水,10 °以下の親水
を“超”親水という.
Fig. 2 張力の横方向の釣り合い
Fig. 3 撥水と親水
ここで平らな表面上での濡れを決定しているのは化学的因子,つまり固体と液体と
固体-液体の張力に起因するものである.しかし化学的因子だけだと現在知られている
中では CF3- 基が最も大きな接触角を示すが,それでも接触角は約 120 °であり,“超”
撥水の基準となる 150 °には及ばない.なので,150 °以上の接触角を目指すのなら化学
的因子以外の因子が必要である.それが表面の構造因子である.この構造因子は表面
の凹凸構造に起因するものである.液体と固体が接する面積が増加すると,以下のよ
うな撥水と接触角の理論が適用できるようになる.これが,凹凸のある面で撥水性が
高まる理由である.
面の粗さの比較的少ない面,つまり凹面にくまなく液面が接するような面における
接触角
は Wenzel が以下の式で近似できるとした.
係数 は,実面積係数.すなわち,接触表面積が平坦な場合と比較した場合, 倍にな
っている.
凹凸が多く粗い面,つまり面-液面がみかけ上広い面積で接しており,液面入り込め
ない多数の空隙の存在によって点接触をしている場合の接触角は Cassie-Baxter の理
論の式で近似できるとした.
(
)
ここで は接触面積中の点接触面積の割合を示す.当然ながら <1 である.
以上のように,表面が平坦でない場合,面-液面は,平面に比べて実際の接触表面積
が拡大し,実質の自由表面エネルギーが平面の場合より大きくなる.そのため,濡れ
やすい表面はより濡れやすく,弾きやすい表面はより弾きやすくなる.
限りなく面-液面が多い点で接触する条件とは,すなわち,面の凹凸が限りなく多い
ということである.この条件を満たす理想的な面とはフラクタル面である.厳密な意
味でのフラクタル面を現実の物質で創製することは不可能である.しかし,結晶成長
に伴う自己組織化を利用する,プラズマや腐食性流体などを利用したエッチングを行
うことなどでフラクタル面に類似した面を得ることができる .結晶成長においては,
液相が固相に変化する過程で,準安定な結晶相を経て安定な結晶相となる際に自己組
織化を伴うことが知られており,これを利用することが多い.
また,柱状構造や剣山構造があると,その凹凸が液面の進行を阻止する障壁となる
ことがある.このため,凹凸を乗り越えられない液面は通常の表面より大きい接触角
を持つこととなる.微細な柱状構造をもった表面はこのような性質を示し,この作用
はピン止め効果とよばれる.*5*6
2.3.
酸化チタンの親水性
酸化チタンは紫外線を当てることにより表面が超親水化する.紫外線照射により生
成した正孔は表面に拡散して格子酸素にトラップされ OH ラジカルを生成するか,直
接吸着物を酸化すると考えられている.正孔が格子酸素にトラップされたとき Ti-O 間
の結合距離は長くなり結合は弱まる.そこに空気中の水分子が Ti に解離吸着して新た
な表面水酸基が形成され,その結果,酸化チタン表面の水酸基密度は増加すると考え
られる.光照射前の酸化チタン表面(水酸基が配位した状態)は安定化しており,そ
の表面自由エネルギーは比較的低いと考えられる.一方,光照射により形成された表
面水酸基は不安定で,光照射後の酸化チタン表面は準安定化しており,その表面自由
エネルギーは光照射前のそれに比べて高いと考えられる.つまり,紫外線照射により
酸化チタン表面の表面自由エネルギーが増大したことにより超親水性状態が発現する
と考えられている.この様子をFig. 4 に示した.*7
Fig. 4 光誘起親水化反応を引き起こす表面構造変化モデル
2.4.
ゾル-ゲル法
金属の有機及び無機化合物の溶液から出発し,溶液中での化合物の加水分解・重合
によって溶液を金属酸化物または水酸化物の微粒子が溶解したゾルにし,さらに反応
を進ませてゲル化し,加熱によって金属酸化物を作製する方法である.
この方法は酸化チタンとその他の無機成分の複合体を比較的容易に作製できると
いう点で優れている.*8
2.5.
ディップコーティング
被装工物を装工液に漬けてから,それを一定の速度でゆっくりと引き上げると装工
液が被装工物に付着した状態で持ち上げられるが,時間の経過とともに装工液は下方
に流れ落ち,平衡状態になった残存装工液が最終的にコーティングとして固着させ膜
を生成するというコーティング法である.
このコーティング方式は被装工物が固く,平面状である場合に被装工物表面に均質
な薄膜を比較的容易に形成できるという点で優れている.*9
3.
3.1.
実験
試薬
・純水
・チタンテトライソプロキシド・・・
・チタンイソプロポキシ溶液(NDH-510C 日本曹達社)
・硝酸
・酸化チタンゾル(TKS-202 テイカ株式会社)
・トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム・・・
・トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄・・・
・ビス(2,4-ペンタンジオナト)銅・・・
・イソプロパノール
・エタノール
3.2.
器具及び装置
ガラス基板(パイレックスガラス)
,電気炉,化学実験道具一式,紫外線照射装置,
恒温槽,ディップコーティング装置(自作)
3.3.
作製
◎酸化チタンゾルの作製(恒温槽で温度を一定に保つ)*10
① 混合溶液 A
チタンテトライソプロポキシドにイソプロパノールを添加して混合溶液 A を作
る.
② 混合溶液 B
加水分解に必要な水,硝酸をイソプロパノールに添加して混合溶液 B を作る.
③ ゾル作製
混合溶液 A と混合溶液 B をゆっくりと滴下し,40 ℃で撹拌する.
◎酸化チタン薄膜の作製(ゾル-ゲル法を用いる)*11*12
① 下地層の作製
チタンテトライソプロポキシ溶液(NDH-510C)
をガラス基板に塗布し,約 100 ℃
の熱風で 10 分程度で短時間乾燥させる.その後 500 ℃で 1 時間焼成する.
② 上層の作製
条件
i.
昇華剤
トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム,トリス(2,4-ペンタンジオナト)
鉄,ビス(2,4-ペンタンジオナト)銅,なしなどのイソプロパノール溶液
※この昇華剤が昇華する事で,その抜け跡が酸化チタン膜表面に凹凸構造を
付加する.
ii.
重量比(昇華剤 / 酸化チタンゾル)
1/25,1/20,1/10,1/5 の比で各種昇華剤を混合する.
以上の条件で昇華剤と酸化チタンゾルを混合し,下地層の上に塗布し,約 100 ℃
の熱風で 10 分程度短時間乾燥する.その後 400 ℃焼成 30 分を 5 回繰り返し,
最後に 500 ℃で 1 時間焼成する.
3.4.
評価
主に酸化チタン膜に紫外光(波長 380 nm 以下のもの)を照射し表面の接触角の時間
変化を追跡し,また照射を止めた後の表面の撥水化を接触角の時間変化によって追跡
する.ここで最初の接触角を測る.この角度を超撥水限界接触角として評価する.さ
らに超親水性とは接触角 10 °以下の状態を指すことから,光照射開始してからの接触
角 10 °未満になるまでの時間を超親水化時間として評価する.次に表面の濡れ性は次
第に一定の値で安定になる.この時の接触角を超親水限界接触角として評価する.ま
た照射を止め暗所に静置すると接触角は次第に大きくなり 10 °以上になる.暗所に静
置してから接触角が 10 °を超えるまでの時間を暗所維持時間として評価する.そして
接触角 150 °以上に戻るまでの時間を超撥水回復時間として評価する.それから接触角
が一定の値を示すようになるのでその接触角を同じように超撥水限界接触角として評
価する.その後,この過程を 3 回程度繰り返す.以上,超撥水限界接触角,超親水化
時間,超親水限界接触角,暗所維持時間,超撥水回復時間の 5 つを主に記録する.*13
※液滴は重力による歪みも考慮して一滴とする.
※接触角の測定には,接触角測定装置を使わせてもらうか,レンズで拡大して写真を
撮りそれを分度器で測るなどの方法を考えている.
※超撥水性を示さない可能性もあるが,その場合は撥水性と名称を変える.
できれば,SEM や XRD を借りて表面の構造も調べたいと考えている.
3.5.
今後の予定
4,5,6 月・・・1 年生指導,原理説明,装置の作製,下地層&上層の作製及び評価.
7,8 月・・・上層の作製及び評価.
9,10 月・・・再実験(あれば)
,追加実験(あれば)
,まとめ,輪講書の作成.
4.
参考文献
*1 辻井薫,
『超撥水と超親水-その仕組みと応用-』,米田出版,2009 年,p130-134
*2 東京大学橋本和仁研究室 HP,
『新規光触媒材料の設計』
,濡れ性のコントロール,
http://www.light.t.u-tokyo.ac.jp/jhome/gaiyo/gaiyo2.html,2013.04.21 取得
*3 Wikipedia,
『界面』
,界面の性質,
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%95%8C%E9%9D%A2,2013.04.21 取得
*4 『超撥水と超親水-その仕組みと応用-』
,p6-15
*5 Wikipedia,『超撥水』
,原理,
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E6%92%A5%E6%B0%B4,2013.04.21
取得
*6『超撥水と超親水-その仕組みと応用-』
,p24-27,p36-54
*7 坂井伸行「超親水性光触媒の基礎」
,橋本和仁,『光触媒応用技術』
,東京図書株式
会社,2007 年,p48-50
*8『光触媒応用技術』
,p121
*9『光触媒応用技術』
,p124-125
*10『光触媒応用技術』
,p121
*11 橋本和仁「酸化チタン表面の超親水-撥水可逆制御」,
『エレクトロニクス・エネル
ギー分野における超撥水・超親水化技術』,技術情報協会,2012 年,p88-89
*12『ゾルゲル法による酸化チタン膜の生成』,
http://www2.ashitech.ac.jp/mech/graduation_thesis/2002/ando/3.pdf,
2013.04.21 取得
*13『光触媒応用技術』
,p36-40
5. 謝辞
NDH-510C 日本曹達社様サンプル提供ありがとうございます.
TKS-202 テイカ株式会社様サンプル提供ありがとうございます.