1 31 3.2 選定上の注意 フィルム材の選定においては、次に示す注意が必要である。 ① 電気的特性 絶縁破壊電圧、体積抵抗率、誘電率、誘電損 ② 耐熱性、耐寒性 低温(-40℃)~高温(180℃、200℃) ③ 耐湿性、耐水性 吸湿、吸水環境下での電気・機械的特性 ④ 耐食性、耐老化性 ワニスとの相性、耐 ATF 性 ⑤ 加工性、作業性 曲げ加工、巻き付け加工、柔軟性 ⑥ 機械強度 引張強さ ⑦ ピンホール 3.3 フィルム複合・貼り合せによる欠点補完材 近年、フィルム単体のもつ欠点を、異種材の貼り合せにより補完する材料が用い られることが多い。例えばポリアミドペーパは耐熱性には優れているが機械的に弱 表2-6 フィルム複合材の特性 試験項目 単位 バラツキ 厚さ 平均 縦 引張強さ 横 縦 伸び 横 縦 断裂抵抗 mm バラツキ NTN-222 PET T-7 NOMEX N-7 0.168-0.177 0.185-0.196 0.185-0.200 0.173 0.190 0.192 23.0-24.5 43.3-47.2 31.0-32.5 23.5 44.3 31.8 19.5-20.8 - 16.0-21.0 平均 20.3 50.0 以上 18.2 バラツキ 20.0-25.0 70.5-81 16.0-21.0 平均 バラツキ 平均 バラツキ kg/15mm % 平均 21.8 75.5 18.2 23.0-26.0 - 15.0-18.0 24.5 - 17.0 バラツキ - - 38.0-43.5 平均 50.0 以上 50.0 以上 40.5 - - 30.5-33.0 平均 50.0 以上 50.0 以上 31.3 バラツキ 9.9-10.5 19.8-21.7 5.4-6.3 10.1 21 6.0 9.6-10.5 19.0-21.8 3.9-5.7 10.2 21.2 5.0 1.1×1016 8.4×1016 4.1×1016 バラツキ kg/20mm 横 縦 絶縁破壊電圧 横 体積抵抗率 平均 バラツキ kV 平均 Ω-cm NTN:NOMEX/PET/NOMEX の貼り合せ 240 表3-2 ステータの保証寿命相当の劣化後の絶縁特性 特 性 項 目 一般値 直流絶縁抵抗 1 分値、10 分値(室 温、高温、吸湿) >1MΩ tanδ (室温、高温、吸湿) <10% 部分放電特性 (室温、高温、吸湿) PDIV>運転時課電電圧 AC 絶縁破壊電圧 インパルス絶縁破壊電圧 BDV≫運転時課電電圧 参照値 実績製品通常値、基準値、材料カタログ 値 安全率、マージンは実績製品、絶縁更新 基準を参照 3.絶縁劣化の各種要因と劣化機構 2) 絶縁劣化の考えられる要因とその劣化機構について、表 3-3、表 3-4、表 3-5 に示 す。 表3-3 絶縁劣化の要因と劣化機構(1) 劣化要因 1.銅損 熱 劣化機構 熱分解、ガス発生、はがれ、ガス放出、亀裂 外観検査のチェ ックポイント 1.変色 2.鉄損 2.硬化、脆化 3.誘電体損 3.ふくれ、微細ク ラック発生 4.冷却不良 5.外気温度 部 分 放 電 サ ー ジ 1.運転電圧 放電生成物(活性酸素、酸化窒素)の生成 1.表面浸食 2.過電圧 荷電粒子の衝突→化学結合の切断、分解 2.コ ロナ 放電 端 のワニス揮散 1.外雷 対地電圧との重畳による電気的劣化の促進 不可 2.内雷 入力側コイルの分担電圧が高い→繰り返し 3.重畳波(イ ンバータ) インパルス劣化 1.吸湿 水分吸着→絶縁層内部へ拡散 2.散水 →高温により加水分解(湿熱劣化) 3.冠水 表面抵抗低下→表面漏れ電流により局部乾燥 →表面抵抗不均一高抵抗部電界集中→発熱→トラッキング 表面状態 3 54 低いが、超絶縁計による絶縁抵抗測定を絶縁破壊電圧に対してデータ分析すること によって余寿命を推定することが可能であると考えている。 3.6 絶縁劣化診断の判定基準 絶縁劣化診断の判定基準については、以下の通りである。 (1) 絶縁抵抗 低圧モータの絶縁抵抗の基準は、JIS C 4004「回転電気機械通則」解説 8.2(この 規格は既に JIS C3403―1 に変更)に次の通り示されている。 絶縁抵抗は、回転機の温度や湿度によって広く変動するものであるから、いく ら以上であればよいかを確定することは難しい。しかし、従来使われていた次 の式 定格電圧(V) 定格出力( または V ) 000 =(MΩ) は、参考資料の一つである。また、回転速度を考慮に入れた次式は、出力、電 圧及び回転速度の広い範囲にわたって通用できるものの一つとしてここに掲 げておく。 定格電圧(V) 定格出力( 1 (毎分回転数) 3 または V ) 000 0 =(MΩ) また社団法人 日本電気工業会(JEMA)「一般低圧三相かご形誘導電動機の取扱 い及び保守点検指針」(日本電気工業会技術資料第160 号)では 1MΩ 以上を管理基 準として推奨している。 (2) 絶縁抵抗と湿度の関係 各種規格では絶縁抵抗値を規定しているが、湿度、湿度条件は明確にしていない。 一般にモータの環境条件は、周囲温度 40℃、相対湿度 90%RH 以下としている。(1) 絶縁抵抗 1MΩ との関係は次の条件を判定基準とする場合が多い。 ・絶縁抵抗 1MΩ ・周囲温度 40℃ ・相対湿度 90%RH (3) 絶縁破壊電圧(BDV) 絶縁耐力は、JIS C 4004 の 8 項及び 8.2 に「回転機の充電部分と対地間または充電 部分相互間に施された絶縁の強度------」と示されており、この試験電圧は、次の通 4 81 t σ(t)= ∫Er( t -τ)・dε(τ) 0 t =∫ Er( t -τ)・ 0 (7.9) ‥(1.9) d ε(τ)・dτ dτ ここに、 dε(τ)/dτ:時刻tに至るまでの各時刻τに於ける入力歪みの 時間変化率 (ただし0<τ<t) 歪み負荷に対する応力の発生状況と同様に、応力負荷に対する歪み発生において も同様の手法が可能であり、クリープコンプライアンス Dc(t)をもつ粘弾性材料に 一軸の応力負荷が時間の経過に伴い変わりながら加わった場合における歪みの値 は次式で表せる。 t ε(t)=∫Dc( t -τ)・dσ(τ) 0 t =∫ Dc( t -τ)・ 0 (7.10) ‥(1.10) d σ(τ)・dτ dτ ここに、 dσ(τ) / dτ:時刻tに至るまでの各時刻τに於ける入力応力の 時間変化率(ただし0<τ<t) 4.温度が変わる場合における重ね合わせの原理 3 項で、粘弾性特性を持つ材料に歪みまたは応力が時間の経過に伴い変化しなが ら加わる場合について説明した。しかし、絶縁材料を実際に使う際は、通電に伴う 環境温度の変化する環境で負荷が加わる場合が多い。そこで、ここでは緩和弾性率 Er(t)をもつ粘弾性材料に図7-6(a)のように温度変化しながら図7-6(b)のように一軸 の歪み負荷が加わった場合における応力の算出方法について説明する。 Δσ0(t) T0(t) Δεi 温 度 T1(t) 歪 み Ti(t) 0 t1 t2 ti Δε1 ε(t) Δε0 T(t) ti+1 tm 時刻 t Δσ1(t) Δσi(t) 応 力 σ(t) 0 t1 t2 ti ti+1 tm σ (tm) 0 t1 (a) 時間の経過により 変化する温度 (b) 時間の経過とともに 加わる歪み t2 ti ti+1 tm 時刻 t 時刻 t (c) 発生する応力の時間変化 図7-6 温度変化がある場合の重ね合わせの原理 5 92 60 温度T=25℃ 4 50℃ 破断時間 log(t)(min) 応力(MPa) 50 75℃ 40 100℃ 30 125℃ 20 2 PC 応力: 39.2 29.4MPa 34.3 44.1 49.0 0 -2 -4 -3 -2 -1 0 1 2 破壊時間(h) 3 4 2.4 図2-6 種々の温度におけるPCのクリープ破壊時間と温度の関係4) 図2-7 図8-6 種々の温度におけるPCのクリープ破壊 4) 時間と温度の関係 2.6 2.8 3.0 1/絶対温度(1000/K) 3.2 3.4 PCのクリープ破壊時間と温度の関係4) 図8-7 PCのクリープ破壊時間と 4) 温度の関係 破壊に至る時間は顕著に変わることを示している。第 7 章 2 項で、粘弾性材料の 応力の緩和特性に対して、時間・温度換算則が成り立つことを説明したが、ポリカ ーボネート樹脂のように破断に至るまでに大きく伸びる材料に対して時間・温度換 算則は、負荷の大きさを考慮する必要があると言える。図 8-4 に示したシリカ充填 エポキシ樹脂は、破断歪が数%であるため、負荷の大きさの影響は少ない。 3.多軸応力状態におけるクリープ破壊条件 プラスチック材料が使用される際、そのときに生じる応力は必ずしも一方向だけ ではなく、複数の方向に生じる、多軸応力状態となる場合も多い。たとえば、マグ ネットワイヤの間に挟まれたワニスなどがこの状態になりやすい。そこで、多軸応 力状態におけるクリープ破壊の基準をどのように考えるべきか、一事例を紹介する。 硬質 PVC 製の管に下記 5 種類に変え、それぞれの負荷条件で 3℃の下でクリー プ破壊試験を実施。 A) フープ応力(周方向応力)のみを加えた条件 B) フープ応力と同時に軸方向にフープ応力の 1/2 を加えた条件 C) 軸方向応力とフープ応力を等しく加えた条件 D) 軸方向にフープ応力の 2 倍を加えた条件 E) 軸方向のみに応力を加えた条件 クリープ破壊特性データを纏める際に、ここでは軸方向と周方向に加えた応力を 纏めた表示に等価応力 σe〔“ミーゼス応力”に相当〕を用いている。材料内の剪断歪 エネルギーが材料の固有値 Ud に達すると破壊する、という考え方がミーゼスの破 壊基準である。この Ud を表す次式の σe がミーゼス応力である。 6 105 ける応力~歪曲線を図 10-21 に示す。応力~歪曲線はほぼ右方向に平行移動してい ることから、剛性変化は小さく、クリープ変形における非線形成が主要因と考えら れる。 応力 (MPa) 100 負荷条件: R=0.1 σa= 31.9MPa、σm=38.9MPa 80 繰り返し回数n=10 60 40 n = 5×105 20 温度:23℃ 0 0.0 0.5 1.0 歪み(%) 図 10-21 負荷の繰り返しに伴う応力-歪曲線の変化 16) 6.繰り返しの負荷に伴う発熱 樹脂部品に繰り返しの負荷を加え続けると部品が発熱し、場合によっては熱疲労 破壊を生じる場合がある。この発熱は樹脂の粘弾性挙動により生じる。 どの程度昇温するか、実測した例を図10-22、10-23 に示す。負荷を加えた材料は ポリアミド樹脂 PA6 で、図10-22 に示す四角の板材について、図中に示す各点につ いて温度を計測した。この PA6 樹脂の動的粘弾性特性を同じく図10-22 の右側に示 す。損失正接のピークが 60℃付近にある。この板材の上辺中央部に繰り返しの集中 荷重を加えた。 10 温度計測位置 60 材料:PA66 板厚:10mm 60 2 1 負荷速度:10Hz 0 1 -1 0 -2 -1 -3 -2 -4 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 温度(℃) PA6の動的粘弾性特性の温度依存性 図 10-22 繰り返しの負荷による樹脂の発熱の測定法 17) -3 損失正接 log(tanδ) R10 貯蔵弾性率 10 log (E’) (GPa) 繰り返しの集中荷重
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